秒速8キロメートル   作:テノト

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オリジナル設定を少し挟みます。
いつものことですね……。
ここからは記憶がガバガバになってくるので、原作を読み直しながら書いて行きます。

感想、評価、ご意見などありましたら、どしどし送ってください。


学園への帰還

 二週間の公欠を申請してその間に様々な実験、作業をする予定が、あの事件をきっかけに頓挫してしまった。

 僕は病院に搬送されてから目を覚ますまでに一週間かかり、その三日後には退院してロサンゼルスからIS学園に戻った。

 明菜や友人のアレックスも僕の見舞いに来たらしいけど、その時は昏睡状態だったから全く身に覚えがない。

 みんなが僕を心配していてくれたらしい。それだけで僕の心は大分楽になった。僕みたいな人を危険に巻き込んでしまう存在でも、そうやって思われるんだと安心できた。

 あのテロリスト、ガストたちの襲撃はISDAと三橋重工による実験の失敗として報道され、IS登場以来最も大きな事故とされた。連日ニュースではロウズ長官がワイドショーに顔を出し、三橋重工社長の三橋氏は謝罪する光景が報道された。

 テロと報道されない理由は分かる。

 ISは数に限りがあり、それらはIS委員会が管理し分配されているはずなのだ。それなにのテロが起きたとなると、国家、大企業、それらに準ずるISに関わる組織全てがテロに関与した疑いを持たれるどころか、ISの在処を委員会が完全に把握できていないことに繋がる。そうなってしまうと世界中は大混乱だ。

 繁華街に戦車が突然出現するよりも危険なのだ。いつ隣の人間がISを展開させて銃口を向けてくるか分からない、そんな恐慌状態に陥ることは必至だ。

 現在公安やCIAなどを筆頭に、各国暗部組織は躍起になってテロリストの所在をさがしているだろう。必要ならば軍が動く。ただ、いつまで民衆に隠していられるだろうかと心配になってしまった。いつか民間に被害が出てしまうと暗い感情が僕を包んだ。

 僕の帰国はメディアに囲まれてしまわないように、着陸してからそのまま救急車で病院へ。病院から学園へ運ばれた。

 

 

 

 久しぶりの登校だが、周りがなんだかよそよそしく感じる。遠巻きにして避けているような、そんな感じ。

 それも仕方がないか。

 今僕は車椅子を使って登校をしている。

 なんでも全身の骨がイカれてしまい、上手く立つことも儘ならないらしい。実際に、今日だけで何度か転んだ。

 医者も僕の体の状況を理解できていない。ただ、肉体へのストレスはとんでもなく高かったものの、折れている、砕けている、断裂している、破裂しているという目に見える損害はどこにもなかったらしい。

 

「「「渡良瀬君大丈夫!?」」」

 

 教室に入ると何名かのクラスメイトが僕に寄って声をかけた。ニュースに出てるんだからまあこうなるのは仕方がないよね。

 それに、今まで休んでたクラスメイトが車椅子で来たら、そりゃビックリするよ。

 

「大丈夫だよ。一,二週間もすればみんなと変わらない生活に戻れるから」

 

 そうやって話して自分の席に向かおうとすると、後ろから声をかけられた。

 

「久しぶりだな翔」

「ああ、織斑か。おはよう」

「事故で大変だったらしいな。何か困ったことがあったら俺を存分に頼ってくれよ。男にしか頼めないこともあるだろうし、何より友達だからな!」

「うん、ありがとな織斑」

 

 気持ちのいい爽やかな態度で接してくれる織斑はやっぱりいいやつなんだろうな。そう思う。

 でも何か自分の心にある引っ掛かりを感じていた。

 なんだろう、この違和感は。

 

 

 

 今日は野外での実習が行われた。

 全員がISスーツに着替えて校庭に出て、ISを操縦するのを見学するというものだ。

 ISを操縦するのは専用機持ちだけで、見学するのはそれ以外。そんな授業。

 僕は見学側だ。こんな体じゃ操縦なんて出来ないし、あの一件以来桜花の防衛能力強化とリミッター作成で、今は父さんの手元にある。

 

「いいか、ISは既存の兵器を凌駕するコストと機動性、火力を有するものだ。今でこそ競技として普及したが、本質が兵器であることを、諸君らの頭の中に叩き込んでおけ」

 

 織斑先生がそう言って聞かせると、専用機持ちである織斑とオルコットさんにISの展開を求めた。

 二人はすぐさま展開させて宙に浮いた。

 

「遅い。展開に1秒以上かかっていてどうするんだ織斑。せめてコンマ8秒を切れ」

 

 酷いスパルタ具合な織斑先生に苦い顔を向ける織斑。オルコットさんはそんな様子を見て笑顔を見せている。

 次に武装の展開を求めた。

 織斑は手に雪片弐型を、オルコットさんはスターライトを展開した。

 オルコットさんはいいとして、織斑は経験に比べて呼び出すのが速い。やっぱりセンスというか才能というか、そういったものが備わっているんだろう。

 

「オルコット、展開速度に関しては流石だ。だがお前は銃口を何処に向けている?何処を撃つつもりだ。そのポーズはなんだ?無駄なことをするな」

「これは私のイメージをまとめるのに必要なーーーーーー」

「不要なものにしろ。次は近接武器を出してみろ」

「はっ、はい!……っと、~っ!もう!インターセプター!」

 

 仮にも代表候補生であるオルコットさんを織斑先生はなんの躊躇もなく指摘する。

 

「ISはこのように、基本操作や展開など全てがイメージだ。慣れない内は、イメージしやすい格好をとったり名前を呼んだりすれば簡単だ。まあ、そんなのが許されるのは半年までだな」

「うっ……」

 

 近接戦闘を苦手とし射撃戦一辺倒のオルコットさんは、今まで近接武器を呼び出したりしなくても勝ち上がってきたんだろう。

 代表候補生である自分が名前を呼んで武器を呼び出すのは、きっと屈辱だったのだろう。顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「次だ。上空200メートルまで上昇し、指示があるまで待機せよ」

 

 合図がされ、二機が一気に飛び立つ。

 先に上空で停止したのは青い方、つまりオルコットさんだ。後を追うように織斑が停止する。

 二人の様子を見るに、何か談笑しているようだ。

 あの二人ってあんなに仲良かったっけ?僕が最後に見た時は罵倒し合ってたような気がするんだけど……。

 ちくりと胸の奥が傷んだ。

 朝も感じたこの違和感は何なんだろう?

 

「おい織斑、カタログでは貴様の白式の方が機動性は高いはずだ。なぜ貴様の方が遅い?」

 

 織斑に先生から檄が飛ぶ。

 織斑先生の言っていることは最もだけど、初めからこうではドロップアウトする人も出るのではないか?

 いや、それは関係ないな。

 織斑先生の言葉で言えば、「世界各国から集まる人間より勝ち残った者しかこの学園にはいない。それを自覚し責任を果たせ。さもなくば去れ」だろうか?

 そのまま織斑先生は二人に急降下からの急制動を命じた。

 先にオルコットさんが降りてきて、見事に急制動もクリアした。流石は代表候補生だ。

 

「ふむ、よしいいだろう。このように知識と鍛練を備えればIS操縦は出来るようになる。今オルコットがやって見せた操縦は、代表候補生らしいレベルの高いものだ。私が目標に定めてある10センチ丁度の高さに停まっている。諸君らもこれを目指し日々精進するように」

「「「はい!!」」」

「では織斑、お前も降りてこい。さっき話した通り目標は地表から10センチだ」

「はい!」

 

 白式が加速をつけて降りてくる……、というよりは落ちてくる。あ、これは。

 

 ーーーーーーズガァァァァンッ!!!

 

 轟音を響かせて白式は地面にめり込んだ。

 そりゃああれだけ加速をつけていれば、滅多なことでは停まれないだろう……。

 

「誰に校庭へ穴を開けろと指示された?言ってみろ織斑」

「…………俺のミスです」

「そうか、よく分かってるな。では今日はここで授業を終わる。織斑、穴は埋めておけよ」

「はい……」

 

 クラスメイトは織斑の失敗を無邪気にクスクスと笑いながら、続々と教室へ帰っていった。彼女たちに悪気はないのだろうが、男の織斑からすると恥ずかしいことこの上ないんだろう。

 手伝わなくて薄情者だと織斑は思っているかも知れないけど、穴埋め作業の指示を出したのは織斑先生だ。手伝いを申し出たらなんて言われるかも察しているのだろう。

 コレが終わればもう放課だし、なんだか可哀想だから織斑が作業を終えるのを待つことにした。

 話し相手でもいた方が、本人も気が紛れるだろうと思って。

 

 

 

「なあ翔……」

「どうした織斑?」

「なんで猫車とスコップしか使えなかったの俺……?」

「……筋トレだと思って」

「思えねぇよ!なんでクレーターを人力でやるの!?せめて白式展開してやってもよかったよね!?」

「大型機械を扱う免許持ってるのか?ないだろ。ISを授業学校行事外で使用する許可証は?ないだろ。そういうことだ」

「理不尽だ……」

「まあまあ。もう作業も終わるだろ?今晩は食堂で織斑のクラス代表就任式をやるらしいし、お腹を空かせてた方がご飯は旨いよきっと」

「それは労働してないから言える言葉なんだよ」

 

 織斑はブチブチと小言を言いながら作業を進め、もうすぐそれも終わりに差し掛かっていた。

 埋める作業はやけくそになった織斑の手で予想よりも遥かに速く終わりそうだ。

 

「こんな体でなきゃ手伝ったんだけどな。悪いね」

「いやいいよ。自分の尻は自分で拭いたいからな」

 

 よし、と声をあげて織斑が屈めていた腰を上げる。

 校庭に空いていた穴はしっかりと塞がっていた。あとは業者の人とかが整備してくれるだろう。

 スコップを猫車に積んで用具室へ向かう。僕もそれについて車輪を回した。

 

「その体じゃ動きづらいだろ?俺のことなんて気にしないでいいんだぞ」

「リハビリなんだから少しは動かないと」

「気にしないでいいのにな」

 

 本心で心配しているのだろう、織斑は申し訳なさそうな顔色を浮かべていた。

 

「そういえばさ、ISって元々は宇宙空間での運用を想定して作られてるんだろ?実際のところ、宇宙に行った翔から色々聞きたくてさ」

 

 この微妙な雰囲気を紛らわそうと質問をしてきた。

 

「今日さ、白式で200メートルくらい上まで上がったろ。あの時ハイパーセンサーの倍率を上げたら、箒のまつ毛までくっきり見えたんだよ。でもリミッターがかけられてるんだろ?だから宇宙だとどうなのかなって思ってさ」

「なるほどね。確かにISは宇宙作業用のパワードスーツとして開発されたのが始まりだよ。ただね、開発思想と実質効用ではかなりギャップがあったよ」

「それって宇宙じゃ使えないってことか?」

「いや、そういう訳じゃないよ」

 

 すごくいい食い付きっぷりだ。興味本意なんだとは思うけれど、宇宙や自分のしていることに関心を持ってくれるのは嬉しい。

 

「絶対防御は既存の宇宙服やパワードスーツを凌駕する安全性を確立したし、PICのおかげで命綱も不要になった。酸素を通すチューブも要らないから、命綱やチューブでごちゃごちゃになることもない」

「じゃあ、宇宙で活動できる場所やできる作業が増えたってことか?」

「その通り!やっぱり織斑は優秀だな」

「誉めてもなにもでないぞー」

 

 問答は用具を返しても続いた。

 織斑は全てを片付けると僕の車椅子を押そうかと尋ねて来た。丁度腕が疲れてきていたので頼むことにした。

 

「まあメリットの話ししかしてないんだけど、実はこれISにデメリットがあるわけじゃないんだよ」

「どういうことだ?」

「人間がISの性能に着いていけないんだ」

「え?」

「スペースデブリやメテオロイドって知ってる?」

「宇宙のゴミとかそういうのだろ。関係あるのか?」

「スペースデブリは宇宙のゴミであってるよ。大小含めて何十億、何百億って数のゴミが地球軌道上にあるんだ。メテオロイドっていうのは、地球に落ちずに軌道上を回ってる隕石だね」

「へー。で、どういう関係があるのか?」

「単純に言えば、これらが無秩序に秒速2キロメートルから10キロメートルの早さで飛んでいる。アサルトライフルの弾速が秒速2.5キロメートルくらいだから、どれだけ過酷な状況かわかるでしょ?」

「げ、それヤバイな」

 

 ISのリミッターが外れた状態なら、それらのデブリなんて避けるのは雑作でもない。速さを捉えることもできるから。でも人間の脳みそが送られてくる情報に反応できない。それ以前に、ハイパーセンサーを通じてそんな情報が制限なく流れ込んできたら、常人なら脳みそが処理落ちして廃人になってしまう。

 そう付け加えて説明すると織斑は顔を真っ青にしてブルブルと震えた。

 

「あっ。でも翔はなんでそんなところで作業が出来てたんだ?」

「人体改造してるからね」

「は?」

「ナノマシンを投与して動体視力や反射神経を鋭敏化して、投薬して肉体も耐えられるようにして、桜花自体にも補助OSを入れて……。そうして漸く宇宙で活動できるんだよ」

「お前それって!」

 

 押している車椅子を停めて僕の目の前に乗り出す織斑。

 目と目を合わせて両肩をがっしりと掴んだ。目には怒りを浮かべ、僕のために憤慨してくれている。

 

「同情してくれなくていいんだ。気持ちはありがたいけど、僕には桜花を操縦する責務があるんだ。唯一桜花を操縦できる人間としての」

「翔……」

 

 まただ。

 また僕の心にチクチクとした感覚が現れた。僕は本心を言っているだけなのに。

 

「それに、僕の夢は宇宙飛行士だったんだ。夢が叶ってよかったって思ってるよ」

 

 織斑に笑って見せた。

 それからこのことについて織斑は聞き返すこともなく、他愛ない世間話に花を咲かせた。

 それから別れて、僕は一足先に食堂に向かった。織斑は篠ノ之さんと稽古をしてから参加するらしい。

 一人で食堂にいる時間は緩やかに過ぎて、気が付いたら眠っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アメリカから帰国すると大変なことになっていた。

 帰りの機内で見た日本のニュースでは、『ISDAの桜花、三橋重工の秋桜、大事故であわや死者が』と大々的に操作された情報が報じられていた。

 原因不明の爆発事故で私は腕を大火傷、世界に二人だけのISを操縦できる男である翔くんは意識不明の重体。

 それが報道内容だった。

 ワイドショーでは専門家が好き放題語っているらしい。

 例えば桜花に積んであるジェネレーターの欠陥だとか、私の操作ミスによって秋桜のスラスターが暴走したとか。揚げ句の果てには某国の陰謀だとも言い始める始末。

 ISにおいて、操縦者が死亡する話は一度も上がらず安全神話が出来上がっていた昨今で今回の事故が起きた。その上、日本を出発した時はメディアを撒くために窓から飛び出したりもした。だから私たちのメディアからの注目度は非常に高かった。

 日本に着いてからは専用車が駐機場まで乗り付けてそこから直ぐにIS学園に送られた。

 車の外から何回も何回もシャッターを切られて光に照らされる度に、私は何か得体の知れない怖さを感じた。

 学園に戻ればメディアに囲まれるとかそんなことはなく、解放された気持ちになった。

 

「んん~っ!」

「大きな伸びだね。あんだけ写真を撮られればうんざりもするね。その気持ちは分かるよ」

「今回は本当にすみませんでした」

「あんなこと誰も想像してなかったよ。まあ、色々潰えちゃったけどね……」

 

 車を出て大きく伸びをした私に、三島さんが同情を示した。あれだけ大勢の人に好奇の目で見られるのを、気持ちがいいって感じる人はいるのかな?少なくとも私は嫌だなぁ……。

 

「今回の件はこちらこそごめんなさいだね。しばらく牧瀬さんはIS学園からの外出は制限されるけど、我慢してね」

「いえ、それは大丈夫です」

「親御さんには私と社長から直々に頭を下げに行くから、そこのところも」

「あ、はい……」

 

 つい声が暗くなってしまった。

 私の両親は共働きで、小さい頃から私は家では独りでいることがほとんどだった。

 朝起きる頃にはお父さんもお母さんも家を出ていて、帰ってくるのは私が寝てからだった。お父さんは単身赴任ばかりで家にいない。

 翔くんと出会ったあの町を離れた理由はお母さんが本社へ移動することになったからだ。お父さんは月に一度しか家に帰って来ないから、住む場所はお母さんが決めることになっていたらしい。

 思えば私は寂しかったんだと思う。だから、翔くんと一緒に居たんだ。一緒に居れば寂しくなかったから。

 きっと私が今こうしてISを操縦していることにも関心はなくて、火傷をしていることにも心配こそすれど、私のために憤慨することはないのだろう。今までがそうであったように。

 

「それから、ISの私たちの部門は他の部門と統合することになるよ。まあ、テロ対策のために兵器運用も視野に入れて開発することになったんだ。チームはそのままだから安心してね」

 

 やっぱりそうなるよね……。

 今回のテロで部門として兵器運用の度外視は見直され、私は競技、兵器の運用もしなくてはならなくなった。

 これは、ISを所持しているだけでテロの標的になるということなんだろう。

 でも私は覚悟を既に決めていた。

 お荷物にはならない。翔くんの隣を歩ける力を手に入れる。そのためだったらなんだってする。

 そう心に決めたんだ。

 

「はい。これからも一生懸命頑張ります!」

「気合が入ってるね。じゃあ、私は秋桜のことについて会社と協議があるからこれで行くね。一週間後には届けに来るから」

「よろしくお願いします!」

 

 そう返事をすると、三島さんは一礼して車を出させた。

 

 

 

 次の日久しぶりに教室に入ると、私にとって意外なことが起きた。

 

「牧瀬さん大丈夫だった!?」

「有史以来の大事故だったんでしょ?」

「その左腕、やっぱり怪我してたんだ……」

「えと、あのその……」

 

 クラスメイトが何人も駆け寄って私のことを心配していたと話した。

 私にとってこんなことは初めてで、今までこうやって心配してくれた人は片手で数えられるくらいしかいなかったから。

 

「ま、待ってみんな。どうして私のことを心配してくれるの?」

「へ?」

「心配しないほうがおかしいよ!クラスメイトなんだよ」

 

 私はクラスの人と話したことなんてなかった。寮も転校生が来たときはいれるようにしてある二人部屋を一人で使っているから、本当に話したことなんてなかった。

 

「え、イヤ……。だってねぇ……」

「入学してすぐに唯一二人の男子の一人に抱き着いちゃう子だからね」

「しかもその後教室じゃず~~~~~ッと暗い顔してるし……」

「やるなぁ!なんて思ってたけど、なんだか振られた感じしてたし話しかけられなかったの」

「でもね!牧瀬さん一年じゃ有名人だよ?あの光景見ちゃった子が結構いてね。もう上の学年にも広がっているんじゃない?」

 

 え?

 え!?

 私聞いてないよそんなこと!

 顔がみるみる真っ赤になっていくのが自分でも分かる。

 

「しかも!ニュースで二人が一緒にアメリカまで飛んでいくって出ちゃってさ!」

「仲良く東に向かって飛んでいくのが夕方のニュースに映像で上がった時には!」

「「「ロマンチックだなぁ~~!」」」

「なんて、全国の女子が羨んだんだから!」

「す、ストップ!やめて!やめてよぉ!」

 

 一緒に何時間も話して、会えなかった時間を埋めるように話したハワイまでの幸せな時間を思い出す。

 きっと今の私は耳まで郵便ポストみたいに真っ赤なんだろう。

 クラスのみんなにやめてと懇願してみるが、みんなお構いなしだ。

 

「全然しゃべれないしあんな顔してたから分かんなかったけど」

「牧瀬さんかわいいなぁ!」

「うりっ!くすぐってやれ!」

「あ、あはは!ちょっと本当に……ヒャンっ!」

「う~ん……。C!」

 

 みんなにくすぐられて息が苦しい……!

 ってどこ触ってるの!?

 

「みんな牧瀬さんのこと気にしてたし、事故のことも渡良瀬くんのことも心配してるんだよ」

「え……」

 

 みんなはくすぐる手を止めて私に向き直った。

 

「せっかく同じクラスなんだから。もっと私たちと仲良くしてね」

「いっぱい頼ってね!」

「私たち応援してあげるんだから!」

 

 みんなが笑いながらそう言ってくれた。

 抱き着いてくれる人もいる。

 熱いものが込み上げてきた。

 今までのと違う。嬉しくて込み上げて来ているんだ。こんなのいつ以来だろう?

 

「「「牧瀬さん!一年二組にようこそ!」」」

「…………みんなっ。よろしくね!」

 

 私の本当の学園生活は、今日始まったんだ。

 

 

 


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