とある木原の確率操作 作:々々
気づいたらかけてたんだよなぁ、昨日投稿する意味なかったですね…。
「まず予備知識として、木原がどうやって生まれるから知っているわね」
食蜂は首を縦に振り肯定する。
学園都市の裏に少しでも触れた者なら皆が知っている、『木原』という危険物。
生まれた時からその優劣が定まっており、後天的要因は無い。
「私自身も闇に落ちてから小耳に挟んだ情報をまとめた物しか知らないんだけど。アイツは『木原』という枠を超えるために色々されたらしい」
自然発生する『木原』のあいだに意図的に出来た彼は、母親の中にいる時から既に様々な事をされていた。目指すは異彩を放つ『木原』。
生まれながらにして既に木原に目覚め、目的のためにすぐ動けるような体と精神を。
そうして生まれたのが、名前を持たない『木原』だった。
母親は出産と共に亡くなり、父親は家族としてではなく研究者と被験者という関係を持ち、彼は成長していった。
たった一年で研究者を超えた。そうして彼はその男をこの世から消した。その際言った言葉が、『あのおとこの言うようなあまいかんがえでは、なにもみえない。俺様がみずからのてで【壊して】、全てをきゅうしゅうしてやる』だった。
そうした知ることに貪欲な彼に付けられた忌名が、木原不足。
足りないものを補うためだけに壊し、壊すことで全てを極めた『木原』を示すためだけの言葉。
そして、本人以外が知らないあることがきっかけで彼は『木原』から『人間』になった。
全てを知った彼だったが所詮は知識だけであり、知識だけではどうしようもならないものがあった。
それが感情。その中でも特に分からなかったのが愛情。愛情を最も注いでくれるはずであった親もおらず、幼かった彼に向けられたのは畏怖の感情のみ。
それ故に後輩や女性に異常なまでに優しく接する。これによって、知識で知る愛情を理解しようとしている。
しかし無駄なことである。それはただの真似事であり、本物でしかない。十数年間向けられていない愛情を受けているとだと彼は気づいているが、理解していない。
だからこそ、食蜂が彼に好意を向けていることに気が付いているが、理解できていない。
―――みたいな感じよ。知ってる情報もあったかもしれないけど、役に立ったかしら」
飲み物を飲み終えた麦野が尋ねる。食蜂は麦野ではなく、何もない空間をただ見つめている。
食蜂から木原への感情を教えられて呆然としているのではない。それに関してはむしろ、どこか心の中で納得している節がある。
自分はそんな彼に愛を教えてあげられるのか、ただそれだけが頭の中にあった。
「ふふふ。これじゃ私より分数さんの方がヒロイン力高いじゃない」
自分のやるべき事は決まった。後は行動に移すだけ。
「でも気を付けなさいよ。最近また、
麦野は目を伏せる。
すると、ガラスのコップを指で弾く澄んだ音が聞こえた。
「大丈夫よぉ。私の乙女力はそんなのに負けないんだゾ☆」
学区の外れ、ある建物に木原は入っていった。その建物は地図や書類にはただの研究所だと記されているが、実際には研究所とある部隊の本拠地の2つの役割を持っている。
しかし、ここ最近の任務はそこまで難易度が高くない。その理由は単純で、敵が強大になる前にアレイスターが指示し容易に殲滅できることにあるだろう。
故にクズ達は慢心し、この仕事を甘く見ている節がある。例えばこんな風に、本来ならば部隊側のエリアに入れないはずの研究員の姿をしている分数が、すんなり入れてしまっている。
「数多はやっぱり自分以外の事となると甘いなぁ。こんなんだからアレもあそこまで狂っちまったと思うんだけど、そこんとこを君はどう思う?」
人の少ない廊下で、偶然会った隊員を倒し椅子代わりにしている分数が尋ねる。椅子にされている男は何も言わない。
「どうした早く答えろよ。てめぇが通信機を出すのを渋ってるから、時間潰しぐらいはさせろよな」
「………」
「それでも無言を貫くか。まぁいいや、通信機ぐらいは簡単に盗めるんだし」
服の内側に隠し、絶対他人に葉取られないところにあるはずの通信機が取られ、椅子にされている男は驚く。数多が使っているであろう周波数を予想し、端末の周波数を変え通信する。
「よぅ、数多くん。お前に用事があって来てみたんだが、こんなにザル警備でいいのかな?」
『なんだ分数か、エリオットの端末からなのにあいつの息遣いじゃねぇから不思議だったんだ』
「そうやってお前は部下の事をよく知ってても、それを伝えなきゃ部下たちは何もしないよ?甘やかすところもあるんだから、気を付けないと俺みたいに潜入してくる奴に皆殺しにされちまうぞ」
いつも通りの会話をし、本題に入る。相変わらず男は椅子にされている。
『んで、今日はどうしたんだ?』
「なぁに、お前の可愛い可愛い馬鹿息子の事で話があってな。おい、あからさまにため息をつくな。大事にしていたアイツから逃げられたからっていつまでもいじけるなよ」
実の息子のように接してきた一方通行が、自分から離れた事を数年経っても忘れられないでいた。
「お前の教育方法も悪かったんだぜ。お前、今のアイツが何をしてるか知ってるか?
カタカタと端末をいじる音が聞こえたあと、バキッと何かが壊れた音がした。
『あの愚息、こんな事をしやがってたのか。おい!次の実験はいつだ!』
「そう焦んなよ。こっちもそれなりに手は打ってるさ。二日後の21日、そん時が接触するのに最も適している。場所は操車場だ、詳しい場所は自分で調べとけよ」
くくく、笑いながら通信機の電源を切り持ち主に返す。
『何か昔に戻ってねぇか?』
そんな弟子の言葉は届かなかった。
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6/12 誤字報告ありがとうございました