とある木原の確率操作 作:々々
位置づけとしては本編が始まる前の話。本編に関わるが、うまく組み込めないので記念話にしました。三本立てとなります。
後書きにてヒロインアンケートの結果をお知らせします!
それでは本編をどうぞ
数十台のモニターには、幾万もの数値が映り、それを立った2つの瞳で少年が見つめている。少年と言うには幼すぎるほどだが、不思議なことに白衣を着ている姿が様になっている。
「全員がねむりについたな。まぁ、おれさまの予想どおりになって少しつまらんが」
舌っ足らずで、高い声出一人声を出す。装置をいじり全てのモニターの電源を消し、椅子から立ち上がりドアへと向かう。少年の背に合わせて低めに設置されているセンサーに触れ、ドアを開けようとすると通信が入ってきた。
「なんかようか?」
「木原さんに会いたいという方が来ておりまして」
「そいつの名前は?」
「木原数多と名乗っています。たしか、精密緻密が得意だとか」
「とくいと言ってもおれさまとくらべたら『
「分かりました!!」
数分後、部屋の扉が開いた。一人は先ほど話ををした白衣の研究員。もう一人は、同じく白衣だが中に着ている服のセンスが少し怪しい男だった。学生ならば怖がり、大人であっても少し怖さを感じるような顔つきの彼。まだ未来のように刺青をしていない木原数多だ。
彼を連れてきた研究員は足早に部屋を去っていった。
「テメェが木原の最高傑作か。ただの言葉を覚えたての餓鬼みてぇだな」
「そういうあんたこそ、一目見ておれさまのすごさが分からないとか、にんげんとして終わってんじゃねぇの?あー、なんていったけ?まぁいいや」
そんな少年を数多は観察する。
木原
しかし、目立てば当然目を付けられる。彼は上層部の命令によって、ほぼ毎日一つの研究所に閉じ込められていた。
数多も同様に上に不足の元で研鑽を磨くよう命令された。本人としては不服だった。木原で最も優れているといっても二周りも年下の彼に教わることは、プライドに障るものがある。さらに、殆どの分野を網羅している不足は『破壊』を司っており、
「あんたがアレか。昨日上から来たヤツか。
椅子から勢い良く、バンッという音共に立ち上がった。ドアを開け、ある場所へと歩いて行く。数多も乗り気では無いが付いて行く。不足から何かを盗む、事が上から命令されたことのため仕方がないと諦めた。
共同の研究所とされているため膨大な敷地なのだ。さらに、共同利用されてはいるが殆どが不足の専用の部屋となっており、同時に複数の実験がされていた。
十数分ほど移動した頃だろう、不足の目的の部屋に辿り着いた。それまでに会話はなく、リノリウムの廊下を歩く二人の足音しか響かなかった。部屋に入り、モニターを点ける。先ほどの部屋とは違いモニターは一つしかない。
「なんだこりゃ?」
モニターにはベットに載せられた、多くの子供が映っていた。疑問はそこではない。そんな光景は数多にもとっても縁があるものだ。
おかしいのは誰一人として、生きているのに死んでいるように見えている点だった。寝顔に感情が見て取れず、魂という中身が無い人形がそこにはいた。これを破壊というにはあまりにも精密過ぎるほどの調整だ。
「こいつらはおれさまが上からおし付けられたやつらだ。どっかのバカが金をムダにつかったせいでけんきゅうしゃは皆逃げた。コイツラはただ生かされ、死ぬこともできなかった」
白衣のポケットから錠剤を取り出す。
「これをしってるか?」
数多は目を見開いて驚く。
先ほど不足が取り出したのは、最近とある木原が開発した幻覚を見せるのに特化させた催眠薬だった。開発されてから間も無いため、もっているのは数少ない暗部で、それも人に対する影響も考えない者達にである。
「そのはんのうはしってるらしいな。このさいみんやくは、どちらかと言えば『悪い』方のげんかくをかけやすくする物なんだが。これをそのままこいつらに使ってころすのは面白みに欠けるし、おれさまの思想に合わねぇ。どちらにしろ死んでいくやつらだ、じっけんたいとして使うにはちょうどよかったから、くすりを少しいじって『理想』というげんかくをみせてやったのさ。そして今日、ぜんいんがげんかくの中で幸せな『現実との別れ』をぶじおえた。中々壊しがいがあった」
キーボードを使って画面を切り替える。現れたのは複雑な化学式や検査結果、服用状況などだった。それを見て、数多は戦慄を覚えた。
こんな餓鬼が、『破壊』という『精密緻密』から程遠い物を司っているヤツが、ここまで細かく、少し違っただけで全てがおじゃんになることを成し遂げたのかと。
いつの間にか数多は笑顔になっていた。それを見た不足も歪に笑った。
「これがわかるか。ただの『
「あぁ、逆にこっちから頼みたいくらいだ」
小さな部屋に二人の笑い声が響いた。
「チッ」
上層部から送られてきた指令書を見て不足は舌打ちをした。
パラメータによりレベル5になりうる少女を開発を遂行せよ。
という簡素な中身だが、『破壊』するな、手を貸すだけであって直接レベル5にしてはいけない、などと禁則事項が多く書かれていた。
本来ならば、弟子になった数多を向かわせて自分のやりたいことをするのだが、数多も数多で別のレベル5候補の
上層部のおかげで活動出来ているために、大きく出れない不足であったのだ。とりあえず渡された資料に目を通す。
今回の被験者の名前は麦野沈利。レベル3の
後日、指定された研究所に向かう。行くと決めたは良いが、やる気が出ず欠伸をかみ殺していた。
「木原さん、今日から娘の事をよろしくお願いします」
目の前で腰を低くしてお願いしてくる男が居るのも気に入らなかった。身内を自ら開発するなど、良心やその他諸々の性でうまく行くはずが無いのだ。適当に返事をする。
レベル5に直接出来ない不足は今回、能力開発をすること自体を止めにした。これからレベルが上がった際に、より強い
『破壊』を司るからと言って、何も知らずにただぶち壊すだけでは無い。破壊する対象物を観察し、分析し、全てを数式で表してから、徹底的に破壊する。それが不足の流儀だった。適切な破壊を超えた先にある物、それが不足が目指している物。
だからそこ、ただ壊して良い気になっている木原幻生を不足は嫌い。精密緻密の数多とは上手くやっているのである。
挨拶を終え、早速実験に入る。初めは代表者である麦野沈利の知識確認だ。ここに来て数年は経っており、尚かつレベル3であるため、同い年の子と比較すれば頭は良い方であるが、不足からすればまだまだとしか言いようが無かった。
「今日はよろしくおねがいします」
綺麗な茶髪の女の子がやって来た。不足は流石良いとこのお嬢様だな、そんな印象を受けた。
「そんなにきんちょうしなくてもいい。おれさまがちょくせつ、てめぇを開発するわけじゃないからな。今回のけいけんがてめぇの為になる物を中心とするから、今は理解して、使えるようにしようなんて考えなくていい。それじゃ始めようか……」
これが将来の第四位と木原の初めての出会い。
そして彼女は、この出来事をいつまでも覚え、彼に感謝し続ける。
食蜂操祈は少し苛ついていた。彼女が
「ねぇねぇ、みーちゃんみてー」
必要以上にスキンシップを取ってくる、ドリーだ。食蜂は詳しく教えてはもらっていないものの、何かしらの実験に関わりがあることは想像できた。
しかし、そんなドリーもそこまでのストレッサーとなっている訳ではない。最初の内はこの馴れ馴れしさを苦手としていたが、ここ最近になってこの馴れ馴れしさが癖になっていた。
では何故苛ついていたかというと。今日、ドリーの保護者が来るからだ。大抵、研究における保護者というものは嫌われるのだが、ドリーはむしろ来るのを楽しみにしていた。
「えへへ、きょうはおにいちゃんがクるんだよ!!」
自分のドリーが盗られた。そんな感情が食蜂の中にあった。
部屋の扉が開く。そうして現れた人に食蜂は目を奪われた。なぜなら彼は、食蜂の心理掌握対策として作られたヘッドギアをつけていなかったのだ。
「おにいちゃーん!!」
「久し振りだな」
ドリーを抱き上げた。そんな彼を目を細め観察する。
少し茶色が混じった短髪に、モデルなどよりは劣るが世間一般からすれば整ったと言われる様な顔。ただし、隈があったり、嘘つきくさい笑みを浮かべているのがマイナス点だが。
評価されていることを知らず、それでもじっと睨んでいることには気づきながら、ドリーをおろし座る。すると、ドリーはあぐらで座っている彼の上に座る。
「初めまして
「……初めまして。貴方の名前はなんて言うのかしらぁ」
二人の視線が火花を散らす。
「だめっ!!ケンカはだめだよ!!」
ドリーが二人を止める。
「分かってるわよぉ」
「俺は
その言葉を聞いて食蜂は座っているにもかかわらず、立ち眩みが襲ってきた気がした。
木原
「あぁ、苗字の方は聞いたことがあるだろうから言わないが、下の方の漢字は
ドリーの頭を撫でながら補足をした。食法の情報網に分数という名前はなかった。ドリーは撫でられるのが気持ちよかったのか、体制を変え木原の膝枕で眠っている。
「それで、『木原』が私に何かようかしらぁ?」
分数という名前を聞いたことが無くとも、木原という事だけで警戒するには十分過ぎる。口で聞いたものの能力を使って木原の頭を覗く。
「やだねぇ、そうやってすぐに能力を使っちゃうのはよ。自分の利益の為だけに使うとか。まぁ、今回はドリーも関わってるからそこまで強くは言えないか」
ニヤリと口を歪める。
「なっ」
能力から何一つとして情報を得られなかった。見えたのは膨大な数による数式だけ。無理やり支配下に収めようもしても、数式を操れるだけ。
「こちとら、
ニヤニヤとして顔が食蜂の精神を逆撫でする。
「そうイライラするなよ。今回の心理掌握に対する防衛は二次的なものだからさ。本来なら、全てを知らせたほうが良いんだが仕方ないんだ」
「貴方の目的は何かしらぁ?」
膝の上で寝息を立てるドリーの頭を撫で、ドリーを見つめて言う。
「この子の救出だよ。『壊す』事しか出来なかったら俺に出来ることをするだけだよ」
数日、または数週間、もしくは数ヶ月経った頃。ドリーが体調を崩した。食蜂はそんな彼女が研究員に連れ去られていくのをただ見つめる事しか出来なかった。
この前来た、あの木原が言っていたことを疑問に疑問を抱きつつ、彼女は研究所を全て
そんな彼女に一通のメールが届いた。内容はとても簡素で、ただ指定された場所に来い、というだけだった。
正直言って怪しかった。それだけならば行こうとは思わなかった。しかし、その本文の最後には『本物のみーちゃんより』と書かれていた。
罠かもしれない、そう彼女は思った。それでも行ってみる価値はある、短略な考えであったが、それだけ彼女の心をドリーが占めていた。
指定された廃墟のある一室の前に辿り着く。扉を開けた時、嘘の情報で騙されて呼び出され研究者に捕まろうとも、ドリーに会えるかもという希望を得れたためどうなってもいい。そんな覚悟で扉を開けた。
ドンッ、そんな衝撃がお腹を襲った。これで人間としての命は終わり、実験体として死んでいくのかと思った。しかし、下の方から啜り泣く声が聞こえた。
「み、みさきちゃん」
懐かしい声がした。あの日、名前を教えて別れ離れになってしまったあの子の、ドリーの声が。
「またあえたね、みさきちゃん」
「そうねぇ、ここまで運命力があると思ってなかったわぁ」
ドリーを抱きしめる。その瞬間、食蜂の涙が零れる。ドリーと離れてから凍りついた心が溶けていく。
互いに抱きしめあい、数分泣きあった。
「おにいちゃんとみーちゃんがたすけてくれたの。でも、そのあとカラダこわしちゃったから、ずーっとみさきちゃんとあえなくて…」
ドリーが倒れてからの事を食蜂に伝えた。伝え終わるとともに、隣の部屋へと続くドアが開き、二人の人影が現れた。
現れた二人の元へ食蜂の手を取って駆けていく。
こうして
少女は思う、これが彼を意識しだした最初の出来事ではないのかと。
少女は考えた、彼を思うと胸が熱くなるこの感情は何かと。
少女がその感情に気づくまで、もうすこしかかりそうである。
過去最長5000文字!!
どうでしたでしょうか?個人的にはうまく書けたと思います。これだけ長いと誤字とかもあるかもしれません、その時は申し訳ありません。
それでは、ヒロインアンケートの結果発表に移ります!!
多くのヒロイン候補から選ばれた、本作のヒロインは
食蜂操祈
です!!!
まぁ、この話を見終わった人なら分かったかもしれませんね。
という訳で、ヒロインアンケートに参加してくださった方、ご協力ありがとうございました!!
これからも、更新を続けていくのでよろしくお願いします。
感想や評価まってまーーーす!!!