ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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さっそく付いた評点が1…そんなにできた作品じゃないとは自分でも思うとはいえ、へこむ…


1-4 変身

…。

ジンは街に繰り出していた。とはいっても、右も左もわからない身だから、誰かに付き添う形での外出となった。

現在地は浅草・問屋街。

今彼が着いているのは、風組のメンバーの一人、由里。この日の公園はないこともあり、街のことは特に詳しいとのことで、付いてきてくれた。

「助かったよ。僕だけじゃこの帝都のことわからなかったし、帝都とのことを知るちょうどいい機会だったから」

ジンがそばを歩く由里に感謝を述べた。外出は今回が初めてではない。前回も話したが、一度はすみれに荷物もちとして銀座の町に繰り出したこともある。

…めちゃくちゃ重くてたくさんの荷物を持たされて筋肉痛にされたが。

「いいのいいの。私も今日久しぶりの休みで買い物に行きたかったし。

で、どう?帝劇のみんな?美人がよりどりみどりだし、好みの女の子とかいたでしょ?」

「からかわないでくれよ…これでも結構気まずいんだよ」

確かに美人ぞろいだが、綺麗だからってそうすぐに惚れては軽い男と見られてしまうに違いない。ジンはなるべく色目を使わないように注意を払っていた。

「いいじゃない、今だってこんな美人と一緒なんだし?」

(自分で言っちゃいますか…)

確かに由里も美人の類でスタイルもいいし性格もいい方だ。でも自分で言っちゃうと妙な残念感が出てしまうのがジンの見解だ。

「そうそう、ところで何か思い出した?」

街に出向いてから数十分は経っていた。それなりに街の景色を見て回ってきた。そろそろ見覚えがある、の一言くらい出てもいいかもしれないのだが…。

「…ぜんぜん」

自動車、バイク、街灯、列車、商店、街を歩く親子連れをはじめとした人々。

ジンは帝都に点在するものをくまなく見て回ったものの、いまいちどれを見ても、何かを思い出す、といったことはなかった。すみれと銀座を歩いたときもそうだったが、残念な結果だった。…荷物持ちの件も含めて。

「まあ、きっとそのうち元に戻れるわよ。思い出せないからってくらい顔してたら幸せが逃げちゃうぞ?」

元気を出すように背中を軽く叩いてくる由里。

「そっか、そうだよな」

由里の言うとおり、深く考えても仕方がない。いつか記憶が戻ると信じて前向きに考えていこう。その方が気楽で楽しい。

「そうだ、何か文芸雑誌買おうか?思い出せなくても、帝都のことを知っておいたほうがお得よ。言うでしょ?敵を知り、己を知れば百戦危うからずって」

「それ、何か違う気がする…もしかしてわざとかい?」

気が付けば、他愛のない会話をしていた。記憶をなくしているなんて、嘘のように思えるくらいに。

何事もない平和な世。

記憶を失った状態で目を覚ましてから、不安が募っていた。しかし、米田が自分が帝劇に居座る事を許してくれたおかげで、そんな不安はなくなっていた。

 

しかし、そんなときだった。

 

街から突然、爆音が鳴り響いた。

 

「!?」

なんだろう、爆発音の聞こえた方角から、煙が立ち上っている。

驚くジンの耳に、まるで火災でも知らせるかのようにサイレンと、街に設置されたスピーカーから放送が鳴った。

『蔵前橋方面にて緊急事態発生!付近の市民の方は直ちに避難してください!繰り返します!蔵橋前方面にて…』

その放送に伴い、人々は倉橋前の方角からジンたちのいる方角へなだれ込むように逃げ出した。

その際、彼の耳に会話

「で、出た!!『降魔』が…『降魔』がくるぞ!!」

「早く逃げろ!食われちまうぞ!」

(コウマ…!?)

なんだ、この人たちは何を言っている?

何か、恐ろしいものが出てきたとでも言うのだろうか。

「ちょっとジン君、何ぼさっとしてるの!早く逃げるわよ!」

「え、あ…!」

パシッと頭を叩いてきた由里のおかげで、我に返るジン。

彼女に引っ張られながらも、ジンは避難民たちと共に、流れされかける。

しかし…ジンはなぜかここで立ち止まった。

「ジン君!」

早く一緒に逃げるように促す由里だが、このときのジンには聞こえていなかった。

代わりに、あるものが見えていた。

 

数件もの建物を越えたその先…

 

悪魔のような翼が生え、体は黒くて硬いうろこに覆われ、目といえるものが見当たらず、鋭く地に植えたよだれまみれの牙をむき出しにする、おぞましい生物だった

(あれが降魔なのか…!?)

それだけじゃない。

橋の上、そこで5人ほどの若い男性たちが組んで、何かと戦っている。

そいつと戦っている人たちの、血だらけの姿が見える!

 

無我夢中だった。ジンは直ちに現場の方角へ駈け出して行った。

「ち、ちょっとジン君!」

一人置いて行かれてしまった由里だが、結局彼女の引き止める声はジンの耳に届かなかった。

 

 

 

ブー!!ブー!!

 

『緊急事態発生、緊急事態発生!帝国華撃団・花組と風組の隊員は直ちに作戦司令室へ集合してください!』

その頃、大帝国劇場でも、街のサイレンと同時にブザーが鳴り響いた。

ちょうどお芝居の稽古に当たっていたマリア・すみれ・アイリスの三人は、目つきを変える。

「出動みたいね。二人とも、行くわよ!」

「うん!」

「せっかくのお稽古中だというのに…野暮なものですわね」

約一名、軽く愚痴をこぼしていたが、三人は直ちに帝劇の二階フロアに駆け上る。2階にある自室前の廊下を突き進むと、その先の行き止まりの壁が上に向かってスライドし、壁に埋め込まれた10個ほどのダストシュートの蓋が設置された部屋が顔を出す。彼女たち3人がそのうちの3つに近づくと、一人一つずつ蓋が開かれ、彼女たちはその先に開かれたダストシュートへダイブする。

下に落ちていくうちに、彼女たちの衣服は解け、替わりに彼女たちのカラーに合わせた特殊な服装が纏われる。

そしてその先にある一室。そこには花組メンバーたちの肖像画が描かれていた。その肖像画が上にスライドし、ダストシュートの出口が開かれる。その中の3つから、着替えたマリア・すみれ・アイリスの3人が姿を現した。敬礼した3人の視線の先には…。

「帝国華撃団・花組、集合しました」

「うし、3人ともそろっているな」

新緑色の軍服と軍帽を着た、あの米田が待っていた。普段のどこか酔っ払い親父のような姿などどこにもない。

まさに、上の中の上の階級に位置する軍人としての威厳を放っていた。同じく、彼の傍らには水色の特殊服を着た椿とかすみの二人も控えていた。

そこは、まるで特殊チームの…いや、事実ここは本物の作戦司令室だった。奥域まで延びる中央の大デスクの向こう側に設置されたモニターに、街の景色が表示され、かすみと椿が口を開いた。

「降魔の出現位置は浅草、問屋街です。現場には、すでに奏組の隊員が小型の降魔を発見し、駆除に当たっていましたが」

「降魔が戦闘中に突如進化したとのことです…幸い死者はまだ出ていないとのことです」

「…というわけだ、準備はいいな」

「私はいつでも出撃できます」

「私もですわ」

米田に状態を問われたマリアとすみれは迷わず頷いた。

しかし、ここで一つアイリスがあることに気が付いた。

「あれ?由里はどうしたの?」

「そういえば、今日はジンさんに仕事を手伝わせるついでに街を案内してくるって出かけて…あ!」

椿はそこまで言ったところで、表情を青く染めた。

「大変です!二人が向かった先も、確か浅草問屋街です!」

「何!?」

ジンたちが街に、それもよりによって事件現場にいることを知り、米田もまた表情に激しい焦りを露にした。

「マズッたな…マリア、すみれ。すぐに出撃し、現場の連中を救出、敵を殲滅しろ!」

「了解。これより『帝国華撃団・花組』、出撃します」

マリアの敬礼に続き、すみれも敬礼した。

「アイリス、お前さんの『光武』はまだできちゃいねえ。ここでマリアたちの戦いを見学だ」

「えー。アイリスお留守番~?」

不満そうに声を漏らすアイリスだが、おとなしくデスクの傍に設置された椅子に座って待機する事にした。

一方でマリアとすみれは、作戦司令室から廊下に出ると、さらに階段を下りて、地下1階の作戦司令室から地下2階に向かう。

そこは、数階分もの広大な空間の広がった格納庫だった。

 

 

帝都の人々を楽しませ、幸せにする演劇を生業とする帝国歌劇団、それは世を忍ぶための仮の姿。

しかしその実態は…

 

 

陸海軍のいずれにも属さない、『魔』の存在から人々を守るためだけに編成された、秘密特殊部隊『帝国華撃団』なのである。

 

 

 

 

浅草、問屋街の橋の上。

現場では、5人ほどの若い青年たちが傷つき倒れていた。

先ほど話にもあった、『帝国華撃団・奏組』の隊員たちである。

 

ある店の屋根の上から、怪しげな雰囲気を纏う銀髪の男が、荒れていく街と、降魔にまったく歯が立たない奏組の5人を見下ろしていた。

「ふふふ…無駄だ。貴様ら程度の『霊力』では、その降魔には敵うはずもない」

奏組の隊員たちをまるで虫けらのごとく見下すその目はあまりにも冷たく非情だった。

 

「くそ…」

銀髪のクールな雰囲気を纏う青年が、忌々しげに目の前にいる降魔を睨みつけた。

「グルルルル…」

「んの野郎!ヒューゴから離れろ!!」

すると、少しやんちゃさを残したような少年が、手に持っていた武器…いや、楽器を手に取った。それも、楽団を干渉する際は必ず見かけるといえるトランペット。彼は吹き口に口を添え音を鳴らす。

そこから放たれたのは、ただの音ではなかった。

強烈な、不思議な力を纏った音だった。その音が、降魔にぶつかった途端、降魔の体に火花が走った。しかし、それだけだった。降魔は体表に傷こそ負っていた様子だが、致命傷にはまるで至っていない。それと同時に少年はその場で膝を突いた。

「ちくしょう…俺の霊力じゃ、無理だってのか…」

「兄さん!」「源二!」

少年の名を呼びかける他の3人のうち、源二と呼ばれた少年に似た風貌の少年と、眼鏡をかけた青年の二人が助け出そうと飛び出す。

「いけません!無理に飛び出せば!」

最後の、赤い髪の青年が警告を入れたときには遅かった。

降魔の口には、怪しい光がともっていた。二人の接近に気が付く、降魔の口から怪光線が放たれ、奏組たちを吹き飛ばす。

「うわあああああ!!!」

吹き飛ばされた5人だが、激しいダメージこそ負っていたが、無事だった。だがもう、すでに限界に達していた。

しかし、降魔は情けを見せない。倒れた隊員の一人、赤い髪の青年の前に降り立つ。

「ルイス!」

赤い髪の青年を呼ぶ声が聞こえる。対して、ルイスと呼ばれたその青年は、自分の眼前に現れた降魔に、反撃する気力さえ起こせなかった。

「く…」

 

もう終わりか、と思ったときだった。

 

ルイスは、自分の体が浮いたような感覚を覚えた。いや、誰かが自分をとっさに抱きかかえたのだ。

目を開けると、自分と同じか少し年下に見える、日本人顔の若い青年だった。

その男は、ジンだった。

「大丈夫ですか!?」

ルイスに声をかけるジン。

「え、あ…はい。助かりました…」

「い、一般人がなんで…!?」

「まだ避難が完了していなかったのか?俺としたことが、見落としていたか…」

思わぬ乱入者に、ルイスも含め、奏組の全員が唖然とした。

キッと、ジンはルイスを喰らおうとした降魔を睨みつけた。

来たのはいい。そして一人、殺されかけた人を助け出せたのはいいが、ジンにはわからなかった。

戦場で楽器を扱うその戦闘スタイルには目を疑ったが、それでもこの怪物に痛手を味あわせることはできるだけの力を持っている。

(どうする…どうすればいい…?)

 

と、そのときだった。

 

「そこまでよ!!」

 

凛とした掛け声と共に、突如どこからか、二機の人型機械兵器が姿を現した。

この機体こそ、魔と戦うために開発された帝国華撃団の秘密兵器『光武』である。

 

「「帝国華撃団・花組、参上!!」」

 

(え…今の声、まさか…)

現れた人型兵器を見て、ジンは目を見開いた。今の声には聞き覚えがある。

 

銃を持つ黒の機体と長刀を持つ紫の機械兵器。

その搭乗者は、前者がマリア、後者がすみれだったのだ。

 

「ど、どうして彼がここにおりますの!?」

一方で、この場にどうして、ジンまでいるのか理解できず、すみれも思わず声を荒げた。てっきり避難していたと考えていたのだろう。それに彼と付き添いになっていたはずの由里も見当たらない。

「…すみれ、今は目の前の敵に集中しましょう。

奏組の皆さん、ここは私たちに任せて、避難を」

「…すみません、後を頼みます」

赤い髪の青年が、マリアの言葉を聞きいれ、仲間たちを連れてこの場を離れてようとするが、足に激痛を覚え、膝を付いた。

「肩を貸します」

「すみません…」

ジンの肩を借りる事で、ルイスも避難した。

 

奏組たちの避難を見届けたところで、すみれが己の機体の腕に握らせた長刀を振り回しながら、目の前にいる降魔を睨みつけた。

「この街で好き勝手してくれましたわね。この長刀の錆にして差し上げますわ!」

「すみれ、私が援護するわ。あなたは前を」

「承知しましてよ!」

早速マリア機の銃から、強力な弾丸が発射される。その一発は、先ほどの奏組の比ではなかった。今の一発だけで、降魔はダウンした。

しかし対する降魔も、せっかくの獲物を取り逃がした怒りによってか、マリア機を睨みつけた。血に飢えた咆哮を上げ、襲い来るが、マリア機がとっさに下がる。其れと同時に、彼女と入れ替わるように、すみれ機が長刀を振りかざして出現、頭上からの一太刀の元、降魔の腕を切り落とした。

腕を失った降魔はもだえ苦しみだした。

 

 

「ほう……」

二人の戦いを、あの銀髪の怪しげな男も先ほどと同様に屋根の上から見届けていた。

「何かと思えば…となると、こいつを作らせたのは…『奴』か」

くく、と男は笑みを浮かべた。

「思ったよりはやるようだが、たかが一匹倒したところで流れは止まらん。それは貴様とてわかっているはずだよな?よ…」

と、何かを言いかけたとき、ちらと男はある場所に視線を向けた。

すると、突然彼の余裕をこいた表情が一変した。

「な、何…!!?」

その視線の先にいたのは、ただ一人の…青年。

奏組の傍らでマリアたちの戦いを見てた…。

 

 

ジンだった。

 

 

「なぜだ…なぜ奴までここにいる!?まさか、生きていたのか!?」

彼の姿を見て、なぜか男は酷く恐れおののいた。そんなはずがない、こんなはずがない。そう呟きながら、どういうわけかジンがこの場にいるどころか、この世にいる事さえもありえないと断じていた。

「く…ともかく、今すぐ殺さねば…!いずれ俺の計画に支障が出る…!」

少しでも落ち着こうと、男は忍術の印を結ぶかのように構え、念じた。

 

「オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…オンキリキリバサラウンバッタ…」

 

すると、男の足元に奇怪な光の円陣が展開され、怪しげな光を解き放ち始めた。

 

「いでよ…魔の力を授かりし怪獣…『魔獣』よ!!」

 

 

 

 

「すごい…」

奏組の隊員に肩を貸しながら避難を完了したジンは、すみれとマリアの戦いを見届けていた。あの恐ろしい怪物に、まったく引けをとっていないそれは。感心すべきだろう。だが一方で、銀髪の青年はというと、悔しげに手を握っていた。

「ヒューゴ…」

それを、源二と呼ばれていた少年が辛そうに見ていた。ルイスもそれは同様だった。

「もう大丈夫です。立てます」

ジンに一言言うと、ルイスは自力で立ってヒューゴに話しかけた。

「ヒューゴ、我々の霊力ではとても無理です。ここは彼女たちに任せましょう」

自分たちのほうが頭数がそろっている。だが、自分たちの力では敵う相手ではなくなっている。それが、ヒューゴに猛烈なもどかしさを与えた。

だが、それはジンも同じだった。奏組の隊員たちの顔を見れば一目瞭然で、その気持ちが自分にもよくわかる。

(この人達、みんな辛そうにしている。あの降魔に何もできないことが悔しくて仕方がないんだ)

特にヒューゴの顔が険しくなっている。握り締めた手からは血が滲むほどだ。其れを見ていると、ジンまで悔しさがこみ上げてきた。

(この街は、僕を拾ってくれた人たちが守ろうとしている街。それを、守る事さえもできずただ指をくわえてみていることしかできないだなんて…)

自分にも、力があれば、彼らのように傷つく人が現れる事などないはずなのに。

 

 

が、そのときだった。

 

 

ジンはそのとき、自らの体に激しい悪寒を覚えた。

 

 

 

ドクン…

 

 

 

「じ、地震!?どうなってんだ!?ジオ!」

 

 

 

-----なんだ…

 

 

 

「俺に聞かないでくれ!」

 

 

ドクン…

 

 

「こんなときに地震ですって…?」

 

 

-----心臓の鼓動が…うるさい…

 

 

「嫌な予感がするわね…すみれ、警戒は怠らないで」

 

 

-----何かが、何かが来る…

 

 

-----近づいている!?

 

 

「!下だ!!」

ジンが叫んだ。それと同時に、激しい地鳴りが起こり、付近にさらに大きな地響きを起こす。

「いけません、総員退避!さぁ、あなたも避難を!」

ルイスが奏組全隊員に撤退命令を下し、ジンにも避難を促した。

しかし、すでに遅かった。

降魔の真下の地面が突然突き破れた。同時に降魔は宙へ投げ出される。

「う…ぐぁ!」

その衝撃で、ジンは奏組と引き離されてしまった。瓦礫の山に思い切り叩きつけられ、その際に強く胸を打ってしまう。胸を押さえながら起き上がるジンは頭上を見上げる。

地面から現れたのは、巨大な顔。降魔よりも恐ろしくおぞましい顔をした、怪物だった。

その怪物は宙に打ち上げられた降魔に喰らい付き、ばらばらに食いちぎって飲み込んだ。

「な、なんですの…!?こいつは…」

突然現れた怪物に、すみれは青ざめた。

現れた怪物の体長は、体長が45mほどもある、巨体を誇っていた。

「やれ、『強力魔獣デビルアロン』!奴を光武の操縦者共もろとも討ち滅ぼせ!!」

怪物を呼び出した男は、自らそう呼んだ怪物に対して非情な命令を下すのだった。

 

 

 

「問屋街にて、さらに強力な妖力を持つ降魔の出現を出現!」

「強力すぎて妖力数値化できません!」

アロンの出現は、帝劇の作戦司令室にも映像やデータという形で伝わった。

「嘘ッ…!?」

「な、なんてこった…!!」

敵の巨大な姿にアイリスは戦慄と恐怖を覚え身をこわばらせる。あまりに予想外な事態、米田はデスクに拳を叩き付けた。

「マリア機、敵と交戦開始!」

かすみがそういったとき、映像の中では、すでにアロンに向けてマリア機が銃口を向けていた。

 

 

 

立ち上がったジンは、自分を見下ろしている怪物、デビルアロンを見上げた。

「はぁ…はぁ…!」

血が、ぽたぽたと流れ落ちる。流れ落ちていくたびに、目の前に立ちはだかる脅威に、猛烈な戦慄を感じる。

 

 

 

おかしい…。

どうして、僕は逃げようとしていないんだ?

ジンは自分の行いについて強い疑問を抱き始めた。由里の行っていた通り、おとなしく安全な場所へ逃げていればよかったはずだ。そうすればこんな危険な目にあうこともなかったはず。でも、なぜか…あの時、刑法による緊急事態発令に伴って避難を開始した際、あの場からここまで距離が開いていた。何十もの建物が壁のように立ち並んでいて、奏組の隊員たちが傷つく姿など絶対に確認できなかったはずだ。

でも…どうしてか、ジンには見えた。それもはっきりと、すぐ近くの景色でも見ているかのように見えていた。

 

 

 

もしかして…僕は前にもこうして、こんな怪物と対峙していたことでもあったのだろうか?

 

 

 

不思議なことに、ジンは今の感覚に懐かしさを覚えていた。

この強大な怪物と、正面から向かい合っている今の状況に。

 

 

 

 

アロンは男の命令に従い、付近の瓦礫の傍らに落下していたジンを睨みつけた。

「まずい!!」

マリアが、怪物がジンに狙いを定めたことを察知、銃を構え、アロンに向けて発射する。

連射される彼女の弾丸は敵が巨体という事もあってか、全てアロンに直撃した。

彼女に続いてすみれも長刀を構え、アロンに接近、高く飛び上がった。

「でえええええい!!」

すみれ機は10mを超えるほど飛び上がっていた。頭上から振りかざされた長刀は、まるで孫悟空の如意棒のように伸びているようにも錯覚して見えた。力いっぱい振り下ろすすみれ。長刀の刀身には強い光が灯っていた。

振り下ろされた刃は、ザシュ!と尾をと立てながらアロンの左腕を切りつけた。

「ふ、いかがだったかし…ら…」

深い手ごたえを感じ、先ほどの戦慄を忘れしてやったりと笑みを浮かべたすみれ。

確かにダメージは入っていた。

 

しかし…それだけだった。

 

「グルオオオオオオオ!!!」

 

「ッ!?」

すみれの一撃もらった痛みで、アロンは怒りの雄たけびを上げる。呆気にとられるすみれはその場で固まってしまった。

「すみれ、避けなさ…!!」

マリアが直ちにすみれに逃げるよう呼びかけたが、間に合わなかった。アロンの振りかざした腕が、すみれ機を殴り飛ばした。

「すみれ!!」

叫ぶマリア。一方ですみれは悲鳴さえ上げることも許されなかった。たった一発腕で払い飛ばされただけで、すみれ機は建物を突き破りながら何十メートルも離れた場所まで飛ばされ、ガシャンと音を立て、停止した。同時に煙が、停止したすみれ機から立ち上った。

「すみれ、応答して!すみれ!」

今の一撃は、あまりにやばすぎる。最悪の状況さえも考えてしまえるほどの一撃だった。マリアは直ちに通信を試みるも、応答はない。嫌な予感がマリアの脳裏を過ぎった。

一方のすみれは、光武の中で頭から血を流していた。機体内部にはショックを吸収する素材が組み込まれていたおかげか、致命傷には至らなかったようだ。だが、すみれの体にはアロンから受けた攻撃の衝撃はあまりに激痛だった。

「ぐ、う……」

私としたことが、たった一撃の攻撃で…。すみれは悔しげに顔を歪ませたが、そんな暇は与えられなかった。

モニターに、巨大な目がすみれの顔を覗き込むように見ていた。

「き、きゃあああああああ!!」

今までにないほどの恐怖と覚え、すみれは悲鳴を上げた。

すでにこのとき、アロンはすみれの光武の眼前にまで迫っていたのだ。いつでも、彼女を光武もろとも飲み込んでしまうことができた。

『すみれ!!逃げなさい!!』

『すみれさん、危険です!今すぐ脱出を!』

通信回線越しにマリア、帝劇の作戦司令室のかすみから必死に逃げるよう訴えられるが、アロンへの恐怖心で心を満たされてしまっていて、まるで聞こえなかった。

 

 

「すみれ、何してる!光武を捨てて早く逃げろ!」

作戦司令室からは、米田もまたすみれに脱出を呼びかけていたが、応答はなく、彼女の悲鳴がうるさく響くだけだった。

待機組のアイリスは、まるですみれの恐怖を感じ取っているのか、ぎゅっと自分自身の肩をつかんで震えた。

 

しかしそのとき、アイリスは感じ取った。

 

「米田のおじちゃん…」

名前を呼ばれ、米田はアイリスのほうを振り向く。

「どうした、アイリス?」

「何かが、来る…別の何かが」

「別の何か?まさか、敵か!?」

敵の出現を、アイリスが予知したのだろうかと考えた米田だが、アイリスは首を横に振った。

「うぅん。違うの…もっと違う…何かが来るの」

それが何なのか、まだ子供で選ぶべき言葉を覚えていなかったから、というわけではない。事実、自分が今感じ取ったものが何なのか、あまりに得体が知れなくて説明できないのだ。

 

 

アイリスが感じた『何か』の正体は、その直後に判明する。

 

 

ジンは、体を引きずりながらアロンを睨みつけていた。対するアロンは、ジンよりもすみれの方に注意が向けられている。

「すみれ!」

彼女を救おうとマリアが光武に搭載された銃で銃撃し、すみれが逃げられるだけの隙を作り出そうとする。弾丸はアロンの首筋に被弾し、隙そのものを作り出す事ができた。しかしすみれ機は動きを見せない。

(く、やはり…すみれの光武、故障していて動けないのか…!)

自身の光武の中で、マリアはすみれ機をみて苦虫を噛んでいるように顔を歪ませた。こうなったら、自分が劣りになって注意を引き付けるしかない。無駄撃ちすることがないよう、残弾をなるべく把握しつつ引き続き銃撃を続ける。

さすがに何度も攻撃を受け、アロンはマリアに怒りを露にし、口から一発の光弾をマリア機に向けて放ってきた。

間一髪、攻撃を予測したマリアはすぐに回避に入るも、爆風によって彼女の光武は吹き飛ばされた。

「っぐ…」

今のでもかなりの損傷が光武に入った。しかもモニターには警告の文字が浮かび、光武にガタが付き始めたことを物語らせた。

アロンは、すみれのほうを放り出し、今度はマリアの方へ向かっていく。

ジンはその光景を見て、焦りを募らせた。

「やめろ…」

このままでは、すみれやマリアが殺されてしまう。

だめだ、そんな事をしたら…。彼女の芝居を楽しみにしている人たちが、帝劇のみんなが悲しむ事になる。

椿姫役までガチで死んでしまうなんて笑い話にもならないじゃないか。

アロンが、降魔よりもおぞましさを感じさせる鋭い口を開き、マリアに喰らい付こうとした。

 

 

「やめろおおおおおおおおおお!!」

 

 

マリアたちを救おうと、ジンは駆け出した。

無我夢中だった。自分でも訳がわからなくなるほどの叫び声をあげていた。

 

 

そのときだった。

 

 

彼の中に眠る、熱き衝動が…

 

 

彼をもう一つの姿へと変えていくのを。

 

 

 

ジンの目から渦を巻く金色の光がスパークし、頭上から銀のマスクが彼の顔を覆い始めた。

 

 

無我夢中で己の変化に気づかないまま、ジンは構うことなくアロンに拳を振りかざし、殴り飛ばした。

 

「グガアアアアアアアアア!!」

 

すみれ、マリア、奏組、大帝国劇場の作戦司令室の面々は驚きのまなざしで見た。

突如、町を包み込むほどの赤い光が立ち上り、それがアロンを突き飛ばしたのを。

 

 

赤い光の柱は、やがて…人の形を成した。

 

 

吊り上げられた金色の目、胸元を覆うプロテクター、そしてXともAとも見える白いライン、一部の黒い模様を持つ…。

 

 

熱く燃えるような、赤い血潮色の…巨人へ。

 

 

「な、なにあれ…!?」

「あれも、降魔なの…?」

椿やかすみは巨人を見て驚きの表情を浮かべたまま固まっていた。直接姿を変えた場面を映していたわけではなかったこともあり、ジンがあの巨人である事に気づいてはいなかった。

しかし、米田はモニターからその巨人を見て、表情を一変させた。

「んな…なんてこった…」

落胆しているように見える。一種の絶望ともとれる表情だった。

(また、その姿になっちまったのか……!)

米田は膝を突いて、崩れ落ちた。

「ジン…」

モニターに映された赤い巨人の正体を、米田は呟いた。

 

 

赤い巨人へ姿を変えたジンの姿を、見たものはさらにもう一人いた。アロンを呼び出した、あの銀髪の男である。

「おのれ…やはり生きていたのか…」

赤い巨人を見て、男は忌々しげにその名を呟いた。

 

 

「『           』…ッ!!」

 




○帝国華撃団・降魔資料


・『強力魔獣デビルアロン』
『ウルトラセブン』に登場した『強力怪獣アロン』に降魔の要素が加わった怪物。
顔の部分が降魔に近い目を持たないグロテスクな姿となっており、アロンと同様水面に隠れる能力と強力な力を備え持つ。

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