ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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3連休で投稿するつもりが、すっかり忘れてしまっていた…申し訳ない

新サクラ大戦、なんかいろいろ言われてるみたいですが、衝撃の出だしで始まった作品なので、ここで止まってほしくないです。


4-2 マリアのロケット

夕方、大神とジンの二人は、カンナに連れられ、帝劇の中庭に誘われた。カンナが、二人の力量に興味を示し、ぜひ組手をしてみたいと申し出たからだ。いきなり空手に誘われたこともあって二人は当惑するものの、大神はこれから部下にもなるカンナとの距離を縮めるため、ジンも変身の必要がある戦いに備えて己を鍛えるためにも彼女の誘いを受け入れた。

「はぁ!!」「ぬぅ!」

今は、胴着姿の大神がカンナとの組手の最中だった。待っている間、ジンは二人の組み手の様子を、見逃さないように観察していた。カンナは沖縄桐島流空手二十八代目継承者の称号を持つだけあり、繰り出す技の全てが切れのあるものだ。だが大神も海軍士官学校を首席で卒業した身だ。簡単に攻撃を通すまいと、カンナの繰り出す上、下段…そして正拳突きの乱打に、一瞬の気の緩みも見せずに防いでいく。

しかし最後、上段回し蹴りが繰り出されると、さすがにそこまでは防ぎきれなかったのか、大神はまともに食らってダウンしてしまう。

「やっば!やりすぎたか!悪い隊長さん!」

「大神さん、大丈夫ですか!?」

カンナとジンがすぐに駆け寄る。大神の顔には、見事にカンナの靴の裏の模様がくっきりと浮かび上がっていた。

それがおかしくて、つい二人は噴き出してしまう。

「二人とも、なんでそんなに笑うんだい?」

いくらなんでもひどくないか?と思うが、たまたま傍にあった噴水で軽く、顔についた砂を取ろうとすると、顔についた靴の裏の跡を見てその意味を理解して、軽く凹んだ。

 

 

 

その後、一息つくために三人はその場で休憩に入った。

「まったく、あんなに笑うなんてひどいじゃないか二人とも」

「はは、悪い悪い。あんまりにもおかしかったからつい、な」

「さっきの顔、さくらたちにも見せたかったね」

「やめてくれよ…」

大神は、さくらたちにも笑われてるもしもの未来を予想し、いっそうテンションが下がる。

「でも、カンナさんは本当に強いですね。けど、どうして帝劇に?」

ジンは彼女に対する疑問を口にした。継承者と名乗るほどの空手の達人が、なぜ舞台女優になったのか。考えるとあまりにも接点が見当たらないし、イメージがわいてこない。

「やっぱ気になるよな?あたいみたいな女が舞台に立ってるなんてさ」

「あ、いや…」

失礼な言い方になってしまっただろうか。不快を促してしまっただろうかと不安を抱くと、察したカンナが何一つ不快に思ってるそぶりなど見せることなく、軽く笑って見せてきた。

「まぁ、あたいも我ながら似合わないとか、何度か思ったことはあるからな」

カンナは空を見上げ、遠い昔を懐かしむように語り始めた。

「あたいの親父は琉球空手の師範でさ、物心ついたときからあたいも空手一筋で、修行に明け暮れてたんだ」

「なるほど…」

いくら海軍で訓練を受けてきたとはいえ、一日の全てを空手に注ぐような相手では、通りで敵わないわけだと大神は納得した。

「けど、そんな時なんだ。あやめさんがあたいをスカウトしたんだ」

「あやめさんに?」

「あやめ?」

大神がきょとんとしている。そういえば、今あやめは次の花組メンバーの確保のために花やしき支部の方へ出張していた。だから大神とはまだ面識がない。てっきりすでに顔合わせくらいは済ませているのかと思っていた。

「藤枝あやめさん。帝国華撃団の副指令さんですよ」

「へぇ、名前からすると、副指令も女性なのか」

戦場での戦いは男がするもの。軍人というものは本来そういう考えが染み付いている。米田は知ってのとおり男性だが、それでも軍属に女性がいるというのは大神からすると意外に捉えられることだ。そして降魔や怪蒸気との戦い以外では、その役目を担う女性たちが普段は女優だなんて、今思い返しても意外過ぎることだろう。

それはカンナもまた同様だった。

「考えもしなかったよ。空手一筋のあたいが、舞台女優に名手大勢の人たちを笑顔にして幸せにする…あやめさんがいなかったら、この喜びを知ることもなかったんだろうな。はは、人生ってわかんないもんだぜ」

カンナは空を見上げながらそう言った。空手以外の道も進んだことについては何も不満はない。むしろこの道もいったことで、彼女の見ている世界がさらに広がったことに、カンナは満足していることが伺える。

「久しぶりの帝劇はどうだい?」

今度は大神が質問してくる。

「あんたらを含め新人が一気に増えたからな。ちょっと景色が変わって見えたよ。

そうそう、あたいだけじゃないんだ。マリアやアイリスも、あやめさんが世界中から探し回って探し出してきたんだ」

「世界中を回ってまで!?そこまでやってたんだ…」

「すげえもんだよな。言ってみりゃ、あやめさんは花組の生みの親、お袋みたいなもんってわけだ」

あやめは世界を股に駆ける旅をしてまで、現在の花組メンバーをそろえてきたのか。ジンはあやめの世界さえもものともしない行動力に感服した。すると、カンナは汗をぬぐって立ち上がった。

「っと、そろそろ休憩終わりにしないとな。隊長は休んでなよ。今度はジンとやってみたいからさ」

「待ちくたびれました。そろそろ僕も体を動かしたかったよ」

ジンもカンナに誘われ、重くなった腰を上げて背伸びをする。

「へへ、やる気にあふれてるじゃねぇか。気に入ったぜ、ジン」

組み手に乗り気なジンを心地よく感じ、カンナもやる気のある笑みを浮かべ、軽めの体操をした後、大神から少し離れた場所まで距離を置き、ジンも彼女の正面に立って対峙した。

「いっとくけど、あたいが女だからって手加減はナシだからな?」

「手を抜いて勝てる相手じゃないのは、さっきの大神さんとの組み手を見てましたから」

「わかってるじゃねぇか」

笑みが不敵なものになり、じっと構えながらジンを見据えるカンナ。ジンもカンナに合わせて構えを取る。空手の経験はあるかどうかもわからないが、とりあえず巨人に変身しているときと同じ、自分なりの構えの姿勢をとった。

「んじゃ…いくぜ!!」

カンナの掛け声をゴングに、ジンと彼女の組み手が始まった。

 

 

 

「ふぅ…疲れた」

ジンは二階サロンのソファに寝転がって深呼吸をした。カンナとも組手だが、自分でも予想以上に熱が入りすぎた。カンナを一体の降魔…魔獣のように捉えながら臨戦態勢で挑んだが、さすがは空手の達人。大神との組手を傍らで見ていたとはいえ、やはり実際に拳を交えることでどれほどの相手なのかを本当の意味で知ることができた。

疲れた後のソファは心地よい。このまままどろんでしまいそうだ。

「ジンさん、シャワーを浴びてから休んでくださらない?あなたの汗がソファに染み付きますわ」

ちょうどやってきたすみれが、ジンを見下ろしながら言う。

「あぁ、すみれさんにアイリスか…大丈夫、この後風呂に入るから」

ジンはゆっくりと体を起こす。その時アイリスもすみれにくっついて来ていたことに気づく。

「その様子だと、カンナさんと組手をなさっていたのかしら?」

「まぁね。いやはや、我ながら熱が入りすぎたよ」

「すごかったね、お兄ちゃんとジンって!カンナ、すごく強いのに!」

笑いながら言うジンに、アイリスは目をキラキラさせている。遠目で、中庭でのジンたちの組手を見ていたようだ。カンナの空手の腕前については自分よりも知っているからこそ、強く関心を寄せている。

すみれは呆れたようにため息を漏らした。

「全く、久しぶりに戻ってきたと持ったら本当に相変わらずでしたね。新人とはいえ、あなたと少尉の二人を連続で組手に誘うなんて。脳みそが筋肉なのか…」

すみれは呆れたようにため息を漏らした。すげぇ言いようだな、とジンは苦笑いを浮かべた。全く棘を隠していない。しばらく会っていなかった者同士だが、そこまで言えるほどに気を許しあっているのだろう。

「そういや、なんでカンナさんは帝劇を離れてたんだ?」

ふと疑問に思ったことを口にすると、少し沈んだ顔でアイリスがその理由を話した。

「…実はね、カンナのパパがね、悪い人に殺されたって…」

「なんだって!?」

「ええ、空手の師範代だったお父様の仇を討つために一時的に花組を抜けたのですわ」

思わぬシリアスなカミングアウトにジンは驚いた。

「お父さんの仇、か…」

初めて顔を合わせたとき、カンナはまるで太陽のように常に明るくいるような人だと思ったが、存外影が差すこともあったようだ。いや、そういう人間だからか…一度大事なものを奪われ、怒りと絶望を強く持つのだろう。

「でも無事に戻ってきてよかった。やっぱりカンナは強い人だよ!」

「…まぁ、私は最初から心配などしてませんわ。あの人は殺しても死なない人ですから」

腕を組んでどうも思わないぞアピールをするすみれだったが、ふふーん、とアイリスがすみれの顔をニヤニヤしながら見上げた。

「そんなこと言って、すみれが一番心配してたもんね?」

「ぶ!?な、なにを言うのかしらこのガキャ…」

口が悪くなってる…いいとこのお嬢さんらしさが一瞬だけだが台無しになった。

「だって、カンナが帝劇を出る時、最後にお見送りしてたのすみれだよね?」

「へぇ…」

さらに生意気に追い詰めてくるアイリスの話を聞いて、ジンも彼女の態度に影響されるように、ニヤニヤと笑みを浮かべながらちらっと、すみれを見る。

「ち、違いますのよジンさん!!私はあくまで、カンナさんが暴れまわって周りの方に迷惑が掛からないのか様子を見に行こうとしていただけで…それだけですからね!他意はないのですのよ!?」

慌てて全否定するすみれだが、赤くなった顔のせいで全く動揺を隠しきれていない。なんだかんだで、仲間思いなすみれだったようだ。

「…あら?」

すると、すみれの目にある人影が飛び込む。

すらっとした長身と金髪に、赤い春物のシャツを着た女性。マリアだ。

「……確か、ここに」

マリアは、さっきからサロン近くの2階廊下を歩き回っていた。何かを探し回っていたようで、床をキョロキョロと見渡している。

「マリアさん、何かお探し物かしら?」

声を掛けられ、マリアはすみれ、ジン、アイリスの方を振り返る。

「あなたたち…」

「良ければ手伝おうか?」

困っているなら手を差し伸べないと。そう思ってジンは気づかいの言葉をかけるが、マリアは首を横に振った。

「あぁ、いえ。大丈夫よ。なんでもないから」

「…マリア、嘘ついてる」

だがアイリスから、それが嘘だと見抜かれた。マリアは彼女が心を読めることを思い出し、薄い作り笑いを浮かべてきた。

「…ごめんなさい。アイリス。あまり話したくないことなの。許してね」

マリアはそう言ってサロンを後にした。

「なんだったのでしょう?」

「さあ…」

「マリア…」

すみれとジンは顔を見合わせて首をかしげている間、アイリスはマリアが立ち去った方のサロンの入り口を心配そうに見つめていた。

 

 

 

なんでもない、とは口にしたが、やはりアイリスの読み通り、マリアはその後も床をキョロキョロと見渡していた。何かを落として探し回っているのは想像にたやすい。すると、階段の方から大神が上がってきた。

「ん?マリアか。どうしたんだい?そんなにウロウロして」

「し、少尉…いえ、なんでもありません」

名前を呼ばれて振り返り、探し物を探すのに集中するあまり大神の顔を見て少し驚いたような反応を見せたが、すぐにいつものクールな表情を保った。

ポーカーフェイスが得意そうに見える彼女だが、大神はアイリスがそうだったように、さすがにこれには何か抱え込んでいると読んだ。

「なぁ、マリア。何か気になることがあるなら、なんでも相談してほしい。これでも俺は君たち花組の隊長なんだ…」

そう言いかけたところで、大神は何かを蹴った感覚を覚え、足元を見下ろした。

(これは?)

金色の丸い何かが、ひものようなもので繋がれている。ロケットペンダントだった。

「それは!」

大神がそれを拾い上げたのを見て、思わずマリアの口から強めの声が漏れ出る。

「もしかしてこれを探していたのかい?」

「え、ええ…」

「済まないな。蹴ってしまって。はい」

マリアは、大神が拾い上げたそのロケットペンダントを受け取る。

「いえ…ありがとうございます」

「それは、お守り?」

大神にそう問いかけられたマリアは、少しの間をおいてから頷いた。

「お守り…そうかもしれません」

「そうか…」

「では、私はこれで」

マリアは結局この時も笑みの一つも見せず、暗い顔のままだった。あのロケットペンダントが、何か関係しているのだろうか。気になった大神だが、その時は場の雰囲気もあって何も聞き出せなかった。

 

 

 

なんとか見つけることができた。ほっとしたマリアは、部屋の前にてタオルで頭を拭いているカンナを見かける。

「おう、マリアじゃねぇか」

「カンナ、もしかして風呂上り?」

カンナの体から湯気が出ているのが見えた。さっき大神たちと組手をしていたと言っていたから、それが終わって汗を流していたのだろう。

「まぁな。なかなかいい汗かかせてもらったからな。隊長とジンには感謝だな」

カンナは大神たちとの組手に満足しているのが見て取れた。しばらく会っていなかったが、変わらず体を動かすのが大好きな彼女のままで、やはり安心させられる。

「そうだ、久しぶりに会ったんだしよ、お前の部屋で話そうぜ」

マリアはその誘いを受け入れ、自室にカンナを迎え入れた。

「相変わらず殺風景だねー…」

「ふふ、そういうあなたは昔通り口が悪いわね」

彼女の部屋は、数冊ほどの本が乗っている木製の机一式と寝具…必要なものしか用意されていなかった。ぬいぐるみがたくさんのアイリスや、実家が大企業故にゴージャスな飾りつけであふれているすみれと異なり、彼女のストイックさを物語っている。

「でもよ、驚いたもんだぜ。花組に男の隊長だもんな。……マリア、あの隊長のこと、どう考えてるんだい?今は副隊長って立場なんだろ?」

「…私は元々人に命令を下すタイプじゃなかった。だから隊長交代について不満はない。ただ、まだ彼を隊長として認めるべきか、まだ判断しかねるわ」

「マリアは理想が高いもんな」

「そうね…そうかもしれない」

窓の外を見つめながら、マリアはおもむろに、大神から返してもらった金のロケットペンダントを、カンナに見られないように開く。開かれたそのペンダントには、サングラスをかけた男性の顔が映されていた。

理想が高い…否定はできなかった。マリアの中では、『隊長』という呼び方は『特別』な意味も含まれていたのだ。

「…あなたはどう思うの?」

ペンダントをしまうと、マリアはカンナに質問を返してみる。

「あたいは気に入ったぜ。一生懸命って感じでさ。あのジンってやつのこともな」

「ジン?」

「聞くところ、米田支配人の養子だろ?女が好きそうな割に、嫁さんとかの話とか全くなかった支配人にだぜ?一番驚いたよ」

「ええ、私もよ。それは驚いてる」

ジンの存在については同感だ。驚かないわけがない。出会い方もかなり特殊だ。帝劇の地下の立ち入り禁止エリアの医療ポットの中に眠っていたところをアイリスとすみれが見つけた。まるで、恐れ我古代遺跡に封じられた、人の姿をした謎の存在との邂逅だ。

「あのジンってやつ。不思議な奴だよ。組手してわかった」

「不思議?」

目を丸くするマリア。

「あいつ格闘技の心得があるみたいなんだよ。隊長さんよりも慣れてるみたいだったなあ。隊長さんに続いてあいつとも組手をしたんだけどさ…実を言うと、一瞬ビビったんだ」

「あなたが?」

「あぁ、対峙して構えを取ったあいつを見た途端にブルっちまった。あたいは熊とかが相手でものしていけるって自信はあるけどよ、あいつは違う」

熊を相手に素手で立ち向かうというカンナも、沖縄から帝都まで海を泳いで渡ったことも含めたいがい常識外れだとは思うが…とは突っ込まない。マリアはそのままカンナの話に耳を傾けた。

「そんなのが生易しく思えるような、とんでもねぇ怪物を相手にしたような……」

組手の時に、ジンと向かい合ったときのことを思い出したのか、既に風呂上がりの髪は乾ききっていたのに、カンナのこめかみからタラリと一筋の汗が流れ落ちた。

「あいつ養子ってことは、米田支配人の本当の子供じゃないんだろ?支配人に引き取られる前は、どんな奴だったんだろうな」

「…今も昔も、わからないわね。彼には、過去の記憶がないそうだから」

「記憶がない?記憶喪失ってやつか!?マジでそんなのがあるんだな…」

カンナにとっても、記憶喪失というものはさすがに予想外だったようだ。

「けど、記憶がないってのに、あそこまであたいと渡り合えるなんて、何者だろうな」

カンナの話を聞いて、マリアもジンに対する謎をより一層感じ取るようになった。カンナさえも唸らせる格闘術。幼い頃から空手の修行を続けていた、空手の達人であるカンナにそこまで言わしめる。マリアは、カンナがジンに対してそこまでの評価を下したことに、表情に強く出さなかったが驚いていた。

「……」

だがそれ以上に、それ以外についてジンに対して気にしていることがあった。

 

記憶喪失。

 

家族と健やかで平和な日々を過ごし、幸せに満ちている人間からすれば、それは今まで生きてきた証が消え去ってしまうという残酷なこと。自分が何者なのか、どこで何をしていたのかが分からなくなる。

でも…同時にこうも思えていた。

 

身を裂くような、悲劇の記憶も覚えていない。それは、ある意味幸せなのではないだろうか。

 

 

 

 

その頃…

「刹那よ、お前がわしに言っていた作戦とやらの準備は万全か?」

黒之巣会のアジトにて、黒之巣会のリーダーである天海が刹那に状況の説明を求めてきた。

「いえ…次にもう一段階踏む必要があります。再び帝都付近で騒ぎを起こし、そこに帝国華撃団をおびき寄せます」

鋭く長い爪を鳴らし、刹那はニヤッと気味の悪い笑みを浮かべながら天海に報告を続けた。

「前回の戦いで奴らの心を読み取ったところ、帝国華撃団とやらは創設されてまだ日の浅い集団、しかも隊員たちの個性がそれぞれ強すぎるがゆえに、意見がまとまりにくい烏合の衆。かろうじて隊長と副隊長という鎖で繋がりあっているだけの関係です。

隊長の大神一郎と、副隊長のマリア・タチバナの間の不和を促せば、一瞬で瓦解できるでしょう」

「さすがは兄者。敵の心を読み、その弱点を的確に突く。兄者の右に出る策士はいない!」

花組の弱点を把握しきってみせたことに、その場に居合わせていた羅刹が兄への尊敬を改めて感じた。

「よし、首尾は整っているというわけだな。

刹那よ、その作戦を持って帝国華撃団を一掃するのだ。我々の大願を阻む愚か者は、たとえ女子供であろうと容赦はするな。全員殺せ。あの赤い巨人も現れ次第、その首を取るのだ」

「ありがたき幸せ」

お任せくださいではなく、ありがたき幸せ。その言葉の言い回しは、まさに次の作戦が刹那にとって実に好みの内容の任務であるという意味を含んでいた。敵の身も心もいたぶり蹂躙する…残虐な刹那らしい喜びだった。

「羅刹、お前はミロクとは別に『天封石』の地点を特定し、見つけ次第破壊するのだ」

「は!」

「天海様、私はいかがいたしましょう」

すると、闇の奥より、葵叉丹が天海たちのもとへ歩み寄ってきた。

「叉丹、おぬしには刹那の魔装機兵の最終調整を行え。だが貴様は先日の失態もある。ミロクか羅刹のどちらかが『天封石』の地点を特定するまでの間に完了するのだ」

「お任せください。それだけの時間さえあれば問題ありません」

叉丹は天海の前で跪き、主の命令を迷わず受託、すぐに作業にかかるために天海の部屋を後にした。

(さて、刹那程度に後れは取るまいよな………『ジン』)

去り際に、赤い巨人のことを頭に浮かべながら。

 


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