牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第91話になります!

今回は統夜たちのクラスで何をやるかが明らかになります。

アニメ本編では律と澪が主役で「ロミオとジュリエット」でしたが、今回はそこを変えるため、内容に大きな変更があります。

そこはいったい何なのか?

それでは、第91話をどうぞ!




第91話 「主役」

学園祭まで1ヶ月を切り、学園祭に向けての準備が着々と進んでいた。

 

そんなある日のHRで、統夜たち3年2組がクラス発表で何をするかを話し合っていた。

 

話し合いの中で、桜ヶ丘高校の卒業生に画家であり絵本作家であるカオルの名前が出てきていた。

 

そして、そのカオルの父親が描いた絵本をクラスのほとんどが読んでおり、その内容が面白いと思っていた。

 

そのため、統夜たち3年2組は、カオルの父親である御月由児が作った「黒い炎と黄金の風」を演劇でやることになった。

 

(……へぇ、まさかあの絵本を演劇でやるとはな……)

 

統夜はそのことに驚きを隠せずにいた。

 

《そうだな。一体どうなることやら……》

 

イルバはこの劇がどんな出来になるのか心配していた。

 

演目が決まると、今度はこの劇の主役である黄金の騎士役を決めることになった。

 

しかし、誰も立候補する者はおらず、投票で決めることになったのだが……。

 

「……月影君……月影君……秋山さん……月影君……」

 

ほとんどの人が統夜に投票したようであり、統夜はその様子をジト目で見ていた。

 

(おいおい……。ほとんど俺じゃねぇか……。まぁ、澪に投票したのは俺だが、これじゃあほぼ俺に決まりじゃねぇか……)

 

ここまで自分に票が集まっては、統夜が黄金の騎士役になるのはほぼ間違いなかった。

 

そして……。

 

「……投票の結果、3年2組の学園祭の出し物「黒い炎と黄金の風」の黄金の騎士役は、月影統夜君に決定しました」

 

統夜たちのクラスで行われる劇の主役が統夜に決まってしまった。

 

主役が決まり、クラスメイトたちは大きな拍手を送っていた。

 

「おぉ!やーくんが主役!」

 

「これは面白いことになりそうだな」

 

主役が統夜に決まったことに、唯と律が感嘆の声をあげていた。

 

一方、主役に決まってしまった統夜は……。

 

(アハハ……。マジで俺が主役かよ……。それに、黄金騎士の役……)

 

統夜はこの絵本が黄金騎士牙狼である冴島鋼牙の父親である冴島大河の活躍をもとに描かれたものだということを知っていた。

 

そのため、自分が黄金騎士を演じるということに複雑な心境だった。

 

《……統夜、黄金騎士をやると言っても所詮はお芝居だ。あまり気負うこともないんじゃないのか?》

 

(まぁ、そうだな。決まった以上はどうにかやってみるさ)

 

統夜は自分が主役だということに納得はしていないものの、決まった以上はどうにかやってみると腹をくくっていた。

 

「続いて、黄金の騎士に救われる少女の役を決めたいと思います」

 

続いて決めるのは、絵本には登場しないが、オリジナルキャラクターであり、この作品の準主役である少女の役を決めることになった。

 

これも立候補がなかったため、投票で決めることになった。

 

「……秋山さん……立花さん……秋山さん……秋山さん……」

 

先ほどのように投票の結果が黒板に書かれていくのだが、統夜の隣の席である立花姫子と、澪の一騎打ちになっていた。

 

しかし、若干ではあるが澪の方が票が多かった。

 

そして……。

 

「……それでは、投票の結果、黄金の騎士に救われる少女の役は、秋山澪さんに決まりました」

 

主役と準主役が決まり、クラスメイトたちは拍手を送っていた。

 

「おぉ!やーくんが主役で、やーくんに助けられる役がみおちゃんかぁ!」

 

「良かったな、澪。準主役だぞ。……って、あれ?」

 

律は澪に声をかけるが、反応がなかったため、澪の顔を見て様子を伺った。

 

すると……。

 

「……!気絶してるぞ、澪のやつ!」

 

澪は何故か笑顔のまま微動だにしなかった。

 

自分が準主役に選ばれたのがショックだったのか、気絶していたのである。

 

「……い、異議あーり!」

 

気絶から立ち直った澪は、弱々しく手を上げて異議を申し立てていた。

 

「何?秋山さん」

 

「あぅ……。えっと……。やっぱり、こういう役決めを投票で決めるのは良くないんじゃ……」

 

「でも、立候補もいなかったし、推薦もなかったでしょ?」

 

「り、律を推薦します!律ってガサツで男っぽいけど、女の子らしい一面もあるので」

 

「……お前なぁ……」

 

褒めているのかけなしているのかわからない澪の言葉を律はジト目になって聞いていた。

 

「ファンクラブもある程人気抜群の澪さんが何をおっしゃる♪準主役はまさに適役でしょ♪」

 

「あぅぅ……」

 

律の言う通り、澪はファンクラブがある程の人気者のため、準主役という目立つ役は適任だと律は判断していた。

 

「それに……」

 

こう前置きを置いてから、律は澪にこのような言葉を耳打ちした。

 

「……劇とはいえ、統夜に守られるなんて……。おいしいとは思わないか?」

 

「はっ!」

 

律の一言で、澪の表情が一変した。

 

劇とはいえ、自分の好きな人に守ってもらうというのは満更でもなかったからである。

 

そして……。

 

「は、恥ずかしいけど、私、頑張ります!」

 

澪は腹をくくってこの役をやる決意を固めると、クラスメイトたちから拍手が送られた。

 

(?澪のやつ、何で急にやる気になったんだ?)

 

《……さぁな。だが、ある程度予想は出来るがな》

 

イルバは何故澪が急にやる気になったのかを何となく察していた。

 

「統夜君が主役で、澪ちゃんが準主役……。これは気合が入るわぁ♪」

 

今回の劇は特に紬がやりたいと思っていたからか、脚本は紬が担当していた。

 

主役と準主役が決まったことで、紬はより一層気合をいれていた。

 

「……それでは、他に異論もないみたいなので、他の役を決めていきたいと思います」

 

澪も納得してくれたところで、和は話し合いを進めることにした。

 

「まずは衣装ですが……」

 

「はい!立候補します!」

 

衣装という言葉が出た瞬間、担任であるさわ子が衣装係に立候補したのである。

 

《おいおい、教師が立候補するなよな……》

 

(でもまぁ、さわ子先生は素体ホラーの着ぐるみを作っちゃう程だし、任せても大丈夫なんじゃないか?)

 

さわ子は衣装作りが得意だということは、統夜もよく理解していた。

 

さらに、素体ホラーを可愛くデフォルメした着ぐるみや魔戒法師の服を再現してしまうほどの腕前のため、統夜はさわ子なら自分の着る黄金騎士の鎧も再現してくれるだろうと思っていた。

 

「で?でも先生にそんなこと……」

 

「大丈夫よ♪悪いようにはしないから♪」

 

さわ子はノリノリのようであり、満面の笑みを浮かべていた。

 

統夜はそんなさわ子を見て苦笑いをしていたが、澪はどんな衣装にされるか不安だったのか顔を真っ青にして震えていた。

 

こうして衣装係が決まり、他の役や裏方の仕事など、必要なことを決めていった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

そして放課後、統夜たちは音楽準備室にいた。

 

「へぇ、じゃあクラスで劇をやるんですね」

 

「そうなのぉ♪」

 

統夜たちは梓に劇をやるということを話していた。

 

「しかも、あのカオルさんのお父さんの作品をやるんですね!」

 

「えぇ。面白そうでしょ?」

 

「はい!」

 

「……ま、一体どうなるかはまだわからないけどな」

 

元々絵本の作品を劇として再現するため、この作品がどのような劇になるのか、統夜は少し不安だった。

 

「だけど、私はこれが成功したら面白いかなって思ったのよ。この学校の図書館にカオルさんの絵本もあるし、劇にするのも何かの縁かなって思ったのよ」

 

「なるほどな……」

 

『ま、確かに面白いかもしれないな』

 

「そういえば、あの絵本を劇にするってことはホラーも登場するってことですよね?」

 

梓はふと気になったことを口に出していた。

 

「そうだけど、先生は素体ホラーの着ぐるみを作ってるしな」

 

「あぁ、そういえばそうでしたね……」

 

梓はさわ子が素体ホラーの着ぐるみを作っていたことを思い出していた。

 

「それにしても、統夜先輩が騎士の役なんて適役じゃないですか!」

 

「そうか?俺が黄金騎士を演じるなんて畏れ多いけどな」

 

『まぁ、魔戒騎士の存在をバラさないように気を遣わなければいけないけどな』

 

「わかってるって」

 

統夜たちがやろうとしている劇は魔戒騎士とホラーの戦いを描いているため、その秘密がバレないよう、細心の注意を払う必要があった。

 

「なるほど……。そういえば律先輩は何をやるんですか?」

 

「あたし?あたしは小道具の担当になったんだよ。ほら、剣とか必要なものがあるだろ?」

 

律は小道具の担当となり、これから劇に必要なものを作っていくことになっていた。

 

「へぇ、律先輩は小道具ですか……。ムギ先輩は脚本なんですよね?」

 

「えぇ、そうよ♪」

 

「それで、唯先輩は何をやるんですか?」

 

「フッフッフッ……。木、Gだよ!」

 

役的にたいした役ではないのだが、唯は何故か誇らしげだった。

 

「A、B、C、D……。木ってそんなに必要ですか?」

 

『それは俺様も思ってたんだ。木は全部背景にしてその分小道具や大道具に回した方が良いって思ったぜ』

 

「そうだよなぁ。俺もそれは思ったよ」

 

「あぅぅ……。ジッとしてなきゃいけないなんて……。なんて難しい役……」

 

唯は木のポーズを練習していたのだが、プルプルと体を震わせていた。

 

『いやいや、ジッとしてるだけでいいから楽だろう……』

 

木の真似が難しいと言っている唯に、イルバは呆れていた。

 

「じゃあ、私、セリフや動きのチェックがあるから先に行くね♪」

 

「あ、ムギ!俺たちも今行くよ!」

 

紬が先に音楽準備室を後にして教室へ向かったのだが、統夜もその後を追いかけて教室へと戻っていった。

 

その後、律と澪も教室に戻っていき、部室には唯と梓だけが残された。

 

唯は木のポーズを続けていた。

 

「……唯先輩は行かなくてもいいんですか?」

 

「和ちゃんにジッとしてる練習をしてなさいって言われたから」

 

「は、はぁ……」

 

梓は木のポーズを続けている唯をジト目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

統夜たちは教室に戻ると、台本のチェックが行われた。

 

統夜たちが劇で行う「黒い炎と黄金の風」は、元々絵本だったので、セリフなどはない。

 

そのため、紬が絵本を参考にストーリーを製作し、絵本を元にしたオリジナルの劇になっていた。

 

セリフと言っても、会話をするのがほとんど統夜と澪のため、実質的に統夜と澪のセリフ合わせだった。

 

「……ねぇねぇ、統夜、怪物役ってさ、セリフはあるの?」

 

セリフ合わせをしていた統夜に声をかけてきたのは、素体ホラーこと怪物役の1人である中島信代だった。

 

怪物役は体を使うため、運動部に所属している人がその役を行うことになっていた。

 

「んー……。別に台詞はいらないと思うけどな」

 

統夜はこう答えたのは、素体ホラーの鳴き声は人のものとは思えないものであり、セリフとして鳴き声をつけるとリアリティに欠けると思っていた。

 

「私もそう思ったのよね。だからセリフは入れてないのよ」

 

紬は怪物役にセリフを入れるとリアリティに欠けると思っていたので、怪物役のセリフは入れなかった。

 

「あとさ、怪物役って言ってもどんな動きをすればいいのかな?」

 

「そうだなぁ……。とりあえずは受け身の練習からかな?倒れたり転んでも怪我しないようにな」

 

「そうね。怪物役は統夜君の黄金の騎士役と戦うシーンがあるからそこは練習した方が良いかもしれないわね」

 

脚本であり監督も兼任することになった紬は、統夜の意見に賛同していた。

 

「そっかぁ!したら柔道部の練習場を借りて練習するよ!」

 

「その方がいいかもしれないな。俺もセリフ合わせが終わったらすぐにいくよ」

 

「了解!先に行ってるから待ってるよ!」

 

信代を始め、素体ホラーこと怪物役に選ばれた数名は柔道部の練習場へ向かい、練習場を借りることになった。

 

統夜は引き続き澪と共にセリフ合わせを行っているのだが……。

 

「……あ、あなた……様は……光の……騎士様……」

 

澪はやはり恥ずかしかったのか、声がとても小さく、とても聞き取れるものではなかった。

 

「……おいおい、澪。いくらなんでも恥ずかしがり過ぎだろう。セリフ合わせとはいえもうちょっと大きい声を出さないと」

 

「あぅぅ……。だ、だって……恥ずかしいんだもん……」

 

「……あのなぁ……」

 

澪のあからさますぎる理由を聞いた統夜は呆れていたのかため息をついていた。

 

(やれやれ……。こいつは苦労しそうだな……)

 

《まったくだぜ。そう簡単には行きそうにないしな》

 

統夜とイルバは澪が恥ずかしがらないようにするためには相当の苦労が必要だと感じており、ため息をついていた。

 

ある程度セリフ合わせを行うと、澪に1人セリフの練習をするよう言い渡した統夜は、そのまま柔道部の練習場へ向かい、この日は受け身の練習を30分ほど行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

この日の練習が終わると、統夜は音楽準備室に戻ってきた。

 

その時には既に全員集合しており、ティータイムを行っていたのだが、澪は力のない感じで机に突っ伏していた。

 

「……あぅぅ……」

 

澪は未だに恥ずかしいのを克服できず、この練習だけでかなり体力を消耗していた。

 

「アハハ……。澪ちゃん、ずっと頑張ってたものね……」

 

「みんなも心配してたぞ」

 

律は劇で使う小道具を作りながらも澪の様子を伺っていた。

 

他のクラスメイトも澪が恥ずかしがってセリフを思うように言えないことを心配していた。

 

「まぁ、こればかりは練習を重ねて慣れてもらうしかないな」

 

統夜も恥ずかしがる澪をどうにかしたいと思っていたのだが、こればかりは澪自身が克服すべき問題のため、どうすることも出来なかった。

 

「……そ、そういえば、カオルさんのお父さんの作品をやるんですよね?カオルさんには話をしたんですか?」

 

「いや、まだだけど!今度の日曜日にカオルさんに会いに行くんだよ。鋼牙さんとカオルさんの子供も見てみたいしな」

 

「え!?そうなの!?私も行きたい!」

 

唯は子供を見てみたいという統夜の言葉に反応し、一緒に行きたいと申し出た。

 

「あぁ、構わないぞ。カオルさんもみんなも良かったら連れてきてねって言ってたし」

 

「だったらみんなで行こうぜ!」

 

「そうね。いい息抜きにもなると思うし♪」

 

「はい!私も行きたいです!」

 

「わ、私も行きたい!」

 

唯以外の全員も行きたいという気持ちを伝えていた。

 

「後な、もう1人一緒に連れていきたい奴がいるんだが、いいか?」

 

「連れていきたい奴?」

 

「統夜君、それはどなた?」

 

統夜が連れていきたい奴が誰なのかわからず、唯たちは首を傾げていた。

 

「この前喫茶店で会った東ヒカリっていただろ?」

 

「あぁ!私たちに親しく話しかけてくれたお姉さんね!」

 

名前を聞いた途端に唯たちはヒカリがどんな人だったかを思い出していた。

 

「あぁ。ヒカリさんはカオルさんに憧れて画家を目指していてな。俺がカオルさんの知り合いだと知ると、合わせろって前から言われてたんだよ」

 

「そうだったんですね……」

 

「まだ連絡は取ってないけど、カオルさんに会えると言ったらバイトを休んででも来るだろうさ」

 

「アハハ……」

 

「まぁ、今日の帰りにでも連絡を入れてみるつもりさ」

 

統夜は、今日の部活の帰りにヒカリに連絡を取るつもりだった。

 

「それにしても楽しみだねぇ♪」

 

「はい!久しぶりにカオルさんに会えるので私も楽しみです!」

 

唯たちは久しぶりにカオルに会えるのを楽しみにしており、統夜はそれだけではなく、鋼牙に会えるのを楽しみにしていた。

 

この日は練習を行わず、ティータイムで学園祭の準備の疲れを癒して解散となった。

 

統夜は番犬所に向かう途中、ヒカリに電話をしてカオルに会いに行く旨を伝えたのだが、ヒカリは間髪入れずに行きたいと息巻いており、ヒカリも統夜たちに同行することになった。

 

統夜はヒカリに待ち合わせの時間と場所を告げて電話を切った。

 

ヒカリに連絡を取った統夜はそのまま番犬所へと向かった。

 

この日は指令もなかったため、統夜は街の見回りを行ってから家路についた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして鋼牙やカオルのいる雷瞑館を訪れることになっている日曜日となった。

 

統夜たちは待ち合わせの場所である桜ヶ丘高校の入り口に来ていた。

しかし、紬だけは車を用意しているため、まだ来ていなかった。

 

そして、同行することになっているヒカリも桜ヶ丘高校の前にやって来ていた。

 

「……お、ヒカリさん。来たな」

 

「……みんな、お待たせ」

 

「あっ、ヒカリさん!こんにちは!」

 

ヒカリが来るのを確認した梓は、ペコリとヒカリに一礼した。

 

「はい、こんにちは。……あれ?あの明るい髪の女の子はまだ来てないの?」

 

ヒカリはキョロキョロと周囲を見回すが、紬が来てないことに気付いていた。

 

「あぁ、ムギですか?ムギなら……」

 

もうすぐ来るはずだと統夜が言おうとしたその時だった。

 

一台のリムジンが統夜たちの前に泊まると、そのリムジンから50代くらいの壮年の男と紬が出て来た。

 

「……みんな、お待たせぇ♪ヒカリさんも来てたんですね♪」

 

紬はいつもと同じおっとりとした笑顔を向けていた。

 

そんな中……。

 

「り……リムジン!?」

 

ヒカリはリムジンなどテレビでしか見たことがなかったので、驚きを隠せなかった。

 

「ちょ、ちょっと!あんたは何でリムジンなんかに乗って来てるの!?それに、その人は……」

 

紬がリムジンに乗ってるだけでも驚きなのだが、ヒカリは一緒にいる壮年の男のことも聞いていた。

 

「私、琴吹家の執事をしております、斎藤と申します。以後、お見知り置きを」

 

「し……執事!?何でそんな人が……」

 

「……まぁ、その話は車の中でしてやるから……」

 

ヒカリはいくつも疑問があったのだが、それをこの場で解決していては時間の無駄なため、雷瞑館に向かう道中で話をすることになった。

 

「……さぁ、皆様、お乗りくださいませ」

 

執事である斎藤は、統夜たちをリムジンの中に乗せるようエスコートしていた。

 

「さぁ、みんな、乗ってちょうだい♪」

 

紬も同じように促すと、唯たちは当たり前のようにリムジンに乗り込んでいた。

 

ヒカリは当たり前のようにリムジンに乗り込む唯たちにも乗り込んでいた。

 

「……ほら、ヒカリさんも早く乗った乗った!」

 

「え!?ちょっと……」

 

統夜はヒカリにリムジンに乗るよう促すと、ヒカリは困惑しながらもリムジンに乗り込んだ。

 

全員が乗ったことを確認した斎藤は運転席に乗り込み、雷瞑館へと向かっていった。

 

「……おぉ!凄く快適じゃない♪」

 

リムジンの車内が予想以上に快適だったため、ヒカリは目をキラキラと輝かせていた。

 

「……そういえば、この前みんなの自己紹介をしてなかったよな」

 

統夜は、ヒカリに唯たちの自己紹介をしてないことを思い出していた。

 

「あ、そういえばそうだったわね」

 

この前統夜たちがヒカリのバイトしてる喫茶店に来た時も自己紹介はしてなかったことをヒカリは思い出していた。

 

「私は平沢唯です!」

 

「田井中律です!よろしくです!」

 

「あ、秋山澪です!」

 

「琴吹紬です♪ムギと呼んでください♪」

 

「な、中野梓です!」

 

唯たちはそれぞれ簡単ではあるか自己紹介をしていた。

 

「えっと……。唯ちゃんにりっちゃん。澪ちゃんにムギちゃん。それに梓ちゃんね。覚えたわ」

 

ヒカリは唯たちの名前を1回でどうにか覚えていた。

 

「それに、ムギちゃん……だよね?執事がいたりリムジン持ってたり、あなたってお金持ちなの?」

 

「まぁ、そんな感じかな」

 

「軽音部で合宿に行ったんですけど、ムギちゃんの別荘で合宿したんです!」

 

「べ、別荘……?合宿!?」

 

ヒカリは唯たちの話していることが壮大過ぎて驚きを隠せなかった。

 

「……あ、あとヒカリさんにもう1つ言っておくけど、唯たちもホラーとの戦いに巻き込まれたことがあるから、俺の秘密も知ってるからな」

 

「なるほどね。まぁ、そんなことだろうとは思っていたけど」

 

『だが、俺様のことはまだ話してなかったな』

 

イルバが突如口を開いたのだが、その声の正体がわからず、ヒカリはキョトンとしていた。

 

「あれ?今の声……どこから?」

 

『ここだ』

 

ヒカリは統夜の指にはめられているイルバの存在を確認していた。

 

『まだ自己紹介してなかったからな。俺様はイルバ。魔導輪だ』

 

「!?ゆ、指輪が喋ってる!?」

 

ヒカリは初めてイルバが喋るのを見たため、目を大きく見開いて驚いていた。

 

『俺様はホラーの居場所を探知することが出来る』

 

「ホラーの話は前にしたと思うけど、そしてホラーを見つけて俺みたいな魔戒騎士が討伐するって訳さ」

 

「なるほどね……。それにしても喋る指輪なんて珍しいわねぇ」

 

ヒカリは統夜の手を取り、イルバを凝視していた。

 

まじまじとイルバを眺めていたヒカリは、コツンとイルバにデコピンをしていた。

 

『イタっ!何しやがる!』

 

イルバはいきなりデコピンされたことに驚きながら怒っていた。

 

「へぇ、痛みは感じるのか……。面白いわねぇ……」

 

『……お前なぁ……』

 

ヒカリが興味本位でデコピンをしたことにイルバは呆れ果てていた。

 

ヒカリはまた1つ統夜の秘密を知ることになった。

 

「……あっ、そうそう。実はカオルさんもホラーや魔戒騎士の秘密を知ってるんだよ」

 

「え!?そうなの!?」

 

「それに、カオルさんの旦那さんは魔戒騎士なんだよ」

 

「……」

 

自分の憧れている画家もホラーや魔戒騎士の秘密を知っており、さらに旦那が魔戒騎士であると知ると、ヒカリは言葉を失って驚いていた。

 

「まぁ、そこら辺はカオルさんから直接話を聞くといいよ」

 

統夜は、ヒカリがカオルの話を聞くことは、ヒカリにとってプラスになると信じていた。

 

ヒカリは、統夜に魔戒騎士についての話を聞いていたのだが、そんな話をしているとあっという間に鋼牙の家である雷瞑館へたどり着いた。

 

「……へぇ、ここがカオルさんの……。凄く広いわねぇ……」

 

雷瞑館を訪れるのが初めてなヒカリは、キョロキョロと周囲を見回していた。

 

「本当にそうですよね。凄く広いです」

 

唯たちも雷瞑館を訪れるのは2度目だったため、その広さに驚きながらキョロキョロと周囲を見回していた。

 

「ほら、行くぞ」

 

統夜は唯たちを先導して入り口に向かっていった。

 

そして、紬の執事である斎藤は、その場に待機し、統夜たちの帰りを待つことにした。

 

入り口に到着すると、統夜はコンコンとドアをノックすると、ガチャっと扉が開かれた。

 

そこから、1人の老紳士が出てくると、深々と頭を下げていた。

 

「これはこれは、統夜様。お久しぶりでございます」

 

「お久しぶりです、ゴンザさん」

 

統夜も久しぶりに老紳士こと、冴島家の執事であるゴンザに会うため、ペコリと一礼していた。

 

「皆様も、お久しぶりでございます」

 

ゴンザは唯たちの姿を見つけると、再びペコリと一礼していた。

 

「ゴンザさん、お久しぶりです!」

 

「ゴンザさん、お元気でしたか?」

 

唯と紬がゴンザに挨拶をしていた。

 

「えぇ。私は変わらずでございます」

 

ゴンザは元気であることを伝えると、満面の笑みを浮かべていた。

 

「……おや?」

 

ゴンザは初めて見るヒカリの顔を見ると、首を傾げていた。

 

「統夜様、そちらの方は?」

 

「あぁ、この人は」

 

「初めまして、私は東ヒカリといいます。私、カオルさんに憧れて画家を目指しているんです」

 

「左様でございますか……。カオル様に……」

 

カオルに憧れて画家を目指している人がいることがわかり、ゴンザは喜びの感情をあらわにしていた。

 

「ささ、立ち話もなんですので、お上がりください。鋼牙様もカオル様もお待ちになっておられますから」

 

統夜たちはゴンザの案内で屋敷の中へ通された。

 

「こちらでございます」

 

ゴンザは統夜たちを応接室に案内すると、応接室の扉を開き、統夜たちは応接室の中に入った。

 

応接室の中では、鋼牙とカオルが椅子に座って統夜たちのことを待っていた。

 

「……鋼牙様、カオル様。統夜様とそのお友達でございます」

 

「統夜、よく来たな。待ってたぞ」

 

「統夜君、いらっしゃい♪それに、みんなも♪」

 

鋼牙とカオルは統夜たちの姿を見ると、優しい表情で笑みを浮かべながら統夜たちを歓迎していた。

 

「鋼牙さん、お久しぶりです!」

 

「統夜、サバックの試合はレオに見せてもらったぞ。惜しかったが、準優勝とはやるじゃないか」

 

「決勝まで行けたのは運が良かったと思っています。零さんには歯が立ちませんでした」

 

「でも、零君といい勝負をしたんでしょう?凄いよねぇ!」

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

鋼牙とカオルが自分のサバックでの戦いを褒めてくれたのが嬉しかったのか、頰を赤らめていた。

 

「……あれ?統夜君、彼女は?初めて見る顔だけど……」

 

「は、初めまして!私、東ヒカリといいます!私、カオルさんに憧れて画家を目指していまして……」

 

ヒカリはペコリと一礼をしながら鋼牙とカオルに自己紹介をしていた。

 

「ほぉ、カオルに憧れて……か」

 

鋼牙もゴンザのようにカオルに憧れて画家になる人物がいることに喜びの気持ちをあらわにしていた。

 

「え、そうなの!?エヘヘ、ちょっと照れ臭いけど嬉しいなぁ♪」

 

カオルは少し恥ずかしそうにするが、満更でもないといった感じだった。

 

「それで、カオルさんに色々お話を聞けたらなぁと思いまして」

 

「うん!私で良かったら何でも聞いて!あ、そうそう。統夜君たちも私に用事があるんだよねぇ?」

 

カオルの問いかけに統夜は無言で頷いていた。

 

「実は、もうすぐ学園祭があるんですけど、そのクラス発表で、カオルさんのお父さんの絵本を劇にしようと思っているんです」

 

統夜が説明するより先に紬が事情の説明を行っていた。

 

「え!?私のお父さんのってことは、「黒い炎と黄金の風」を?」

 

「はい!やーくんが黄金の騎士の役をやるんです!」

 

「ちょ、唯!お前なぁ!!」

 

統夜は何も考えずあっさりとこのことをバラす唯に少し焦っていた。

 

「ほう、統夜が黄金騎士……か」

 

「い、いや、違うんですよ、鋼牙さん!俺みたいな奴が黄金騎士の役なんて畏れ多いなとは思ったんですけど、これは劇で、あの……その……」

 

統夜は必死になって言い訳をするのだが、その様子がおかしかったのか、鋼牙は笑みを浮かべていた。

 

「……?鋼牙さん?」

 

「いや、すまない。そんなに必死に言い訳をするお前が可笑しくてな。俺はお前が黄金騎士の役をやるのを嫌だとは思わないぞ。むしろ俺も見てみたいくらいだ」

 

このように語る鋼牙の表情はとても穏やかなものだった。

 

「うんうん。鋼牙の言う通り面白そう!私も見てみたいな!」

 

「えぇ。俺もお二人にはぜひ見てもらいたいです。招待しますので、ぜひ来てください!」

 

「うん!絶対に観に行くよ!私もそこは楽しみだから♪」

 

鋼牙とカオルは統夜たちの劇に興味を持っていたので、統夜はホッとしていた。

 

「あっ、そういえば、みんなにはまだ紹介してなかったよね?」

 

カオルが指差す方向に、ベビーベッドが置いてあり、カオルはそこへ統夜たちを案内した。

 

すると……。

 

「あう……あう……」

 

ベビーベッドに赤ちゃんが寝転がっていた。

 

「か……可愛い♪」

 

「あぁ、本当だな」

 

「赤ちゃんなんてなかなか見る機会がないからな」

 

「えぇ、そうね♪本当に可愛いわ♪」

 

「はい!凄く可愛いです!」

 

唯たちは普段あまり見ることのない赤ちゃんの可愛さに見とれていた。

 

「鋼牙さん、カオルさん。この子はもしかして……」

 

「……あぁ。そういうことだ」

 

「この子の名前は何なんですか?」

 

「雷牙。冴島雷牙よ。格好いい名前でしょ?」

 

「本当だぁ♪格好いいねぇ♪」

 

特に唯は雷牙にメロメロであった。

 

(雷牙か……。この子がいずれ黄金騎士を継ぐことになるのかな?)

 

統夜も穏やかな表情で雷牙のことを見ていた。

 

雷牙は多くの人に見られているにも関わらず、泣こうとはせず、とても大人しかった。

 

「カオルさん、抱っこしてもいいですか?」

 

「うん、もちろん♪」

 

カオルに雷牙を抱っこする許可をもらうと、唯の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「おい、唯。気を付けろよ」

 

「わかってるって♪」

 

唯は雷牙を抱っこするのだが、抱っこされた雷牙は「あうあう」と言いながら手を伸ばそうとしていた。

 

そんな雷牙の様子が可愛かったのか、唯は終始ニヤニヤしていた。

 

「おい、唯ばっかりずりぃぞ!あたしもあたしも!」

 

「わっ……私も抱っこしたい!」

 

「ねぇ、唯ちゃん。早く早く!」

 

「私も抱っこしたいです!」

 

自分たちも雷牙を抱っこしてみたいのか、今抱っこをしている唯に早く代わるよう催促するが、唯は代わろうとはしなかった。

 

「おい、唯。みんな待ってるから代わってやれよ……」

 

統夜はみんなのことを考えて唯に代わるよう催促していた。

 

「……むぅぅ、わかったよぉ」

 

唯はふくれっ面になりながらも律に雷牙の抱っこをさせた。

 

唯たちは順番に雷牙を抱っこしており、統夜は穏やかな表情でその様子を見守っていた。

 

唯たちが抱っこを終えて満足すると、雷牙をベビーベッドへ寝かせた。

 

すると、見知らぬ大人と接して疲れたのかすやすやと眠りについていた。

 

「……それにしても、雷牙はずいぶんと物怖じしないんですね」

 

「そうねぇ。手がかからないのは助かるけど、赤ちゃんにしてはしっかりしてるから私は心配なのよねぇ」

 

カオルが言うには雷牙はそこまで手がかからないらしく、泣くといえばお腹がすいた時とオムツを交換してほしい時くらいであった。

 

雷牙は赤ちゃんにしてはしっかりしていたため、カオルはそこを心配していた。

 

「そこは気にしなくてもいいと思いますよ。子供なんて勝手に年相応な感じになりますから」

 

ヒカリは穏やかな表情を浮かべながらしみじみと答えていた。

 

「ヒカリちゃんだっけ?もしかして、子育ての経験があったりするの?」

 

「いえ。ただ、兄の子供の世話はしたことがあるのでそこで実感したんです」

 

ヒカリには4つ離れた兄がおり、ヒカリの兄は結婚していて今は3人の子供のお父さんであった。

 

ヒカリは度々兄の子供の面倒を見ていたため、子供は手がかかるということをよく理解していた。

 

「そっかぁ。それじゃあこれからわからないことがあったら教えてね!」

 

「はい!もちろんです!」

 

ヒカリは、カオルと友好な関係が築けてきたことに喜びの感情をあらわにしていた。

 

「……お待たせいたしました。お茶の準備が整いました」

 

いつの間にか姿を消していたゴンザが、ティータイムの用意をして戻ってきた。

 

こうして、統夜たちは鋼牙やカオルと共に、ベビーベッドで眠る雷牙を見ながらティータイムを行っていた。

 

「……そういえば、ヒカリちゃんは私に聞きたいことがあるんだっけ?」

 

「はい!さっきも言いましたが、私はカオルさんに憧れて画家を目指しました。どうすればカオルさんみたいな画家になれるのかなと思いまして」

 

「うーん……そうだなぁ……」

 

カオルは自分がここまで成功したのをどう説明すべきか迷っており、じっくりと考え込んでいた。

 

「私、バイトをしながらコツコツお金を貯めていつの日か個展が開けるようにって頑張ってるんです」

 

「私だってそうだったよ。それでどうにか初めての個展が出来そうになったんだけど、それが無くなっちゃって……」

 

「もしかして、ホラーとの戦いに巻き込まれたんですか?」

 

ヒカリがホラーのことを知っているとは思ってなかったのか、カオルは驚きを隠せなかった。

 

「ヒカリちゃんもホラーのこと知ってるんだね」

 

「はい。私もどうにか個展にこぎつけたんですが、その画廊のオーナーがホラーで、統夜君に救われたんです」

 

記憶は完全に戻っているヒカリは、その時の状況を簡潔に説明した。

 

「その時、返り血を浴びたりしなかった?大丈夫だった!?」

 

「えぇ。返り血は飛んできたんですけど、統夜君の仲間が術のようなもので守ってくれたので、大丈夫でした」

 

「そうなんだ……。良かったねぇ」

 

ヒカリがホラーの返り血を浴びていないことがわかり、カオルは安堵していた。

 

『……なるほど。お前さんは魔戒法師に守られたんだな』

 

鋼牙の指にはめられているザルバが口をカチカチと鳴らしながらこう話していた。

 

それを見ていたヒカリは……。

 

「い……イルバと同じ形の指輪!?」

 

ザルバの容姿がイルバと似ていることに、ヒカリは驚いていた。

 

『おいおい、あんなクソ指輪と一緒にさてちゃ困るぜ。俺様はザルバ。あいつよりも優秀な魔導輪だ』

 

『フン、自分で優秀とはよく言うぜ。この骨董品なクソ指輪が』

 

『何だと、貴様!やるのか!』

 

『あぁ、いつだって受けてたつぜ!』

 

ザルバとイルバは互いに挑発し合い、一触即発の状態になっていた。

 

「おい、イルバ!やめろ!!」

 

「ザルバ。お前もそこまでだ!」

 

統夜と鋼牙は互いの相棒をなだめていた。

 

『『フン!!』』

 

イルバとザルバは互いが気に入らないのかそっぽを向いていた。

 

「アハハ……。イルイルもザルザルも相変わらずだね……」

 

相変わらず仲の悪いイルバとザルバに唯は苦笑いをするのだが……。

 

『『俺様を変なあだ名で呼ぶな!!』』

 

イルバとザルバは同時に同じことを言っていた。

 

統夜と鋼牙はそんな相棒を見て苦笑いをしていた。

 

「……ねぇ。イルバもザルバも続けていい?」

 

『あ、あぁ……』

 

『話を進めてくれ』

 

イルバとザルバが落ち着いたところで、カオルは話を続けた。

 

「私もね。色んなバイトをしながらいつの日か個展を開くのを夢見て頑張ってたんだ。そして、ワンフラットだけだけど、ようやく個展を開くチャンスが来たの」

 

「……私と同じだ……」

 

状況が自分の時と酷似しており、ヒカリは驚いていた。

 

「それでね。そこの画廊のオーナーがホラーに取り憑かれていたの。そこに現れたのが鋼牙だった」

 

カオルは当時の事を思い出していると、穏やかな表情になっていた。

 

「あの時は本当にビックリしたわよ。いきなり現れたと思ったらライターの火をつけ出して……」

 

「……」

 

鋼牙ももちろをその時のことは覚えているが、何も弁解はせず、ただ黙っていた。

 

「それで、色々あってそのオーナーがホラーだってわかって、鋼牙はそのホラーを倒すために戦ったの。それで、私はホラーの返り血を浴びてしまったの」

 

「!そうだったんですか!?」

 

ホラーの返り血を浴びたというのは自分とは異なる状況であり、ヒカリは驚きを隠せなかった。

 

「ホラーの返り血を浴びた者は100日後に死に至るだけではなく、ホラーにとっては最高の餌となる。だから即座に斬り捨てなきゃいけないのが騎士の掟なんだよ」

 

「……なるほど、だからこそ統夜君たちは私に返り血を浴びせないよう必死だったのね……」

 

もしホラーの返り血を浴びていたら自分はここにいなかったかもしれない。

 

そう考えると、ヒカリは今まで以上に統夜に感謝していた。

 

「だから本来カオルは斬らなきゃいけなかった」

 

『だが、斬れなかった』

 

「ホラーの返り血を浴びた者はホラーにとっては最高の餌になるからな。俺はホラーをおびき寄せるためという名目でカオルを斬らなかったんだ」

 

「ひどいでしょ?私もそのことを知った時は本当にショックだったわ。だけど、今なら鋼牙の気持ちも理解出来るのよ。鋼牙はどうにかして私を救いたかったんだなって」

 

「……」

 

鋼牙は恥ずかしいからか、「あぁ、そうだ」とは言わず、黙っていた。

 

「それでね、私は色々バイトをしながら画家になるために頑張ってたの。鋼牙やゴンザさんには度々モデルになってもらったかな?」

 

「私もバイトを続けながら画家になるために頑張ってるんです」

 

「そっかぁ。私たち、境遇が似てるかもね♪」

 

「そうかもしれないですね。でも、私は1ヶ月くらい前までホラーに関する記憶を失っていたんです」

 

「え!?そうなの!?」

 

ヒカリがホラーに関する記憶を失っていることを知り、カオルは驚きを隠せなかった。

 

「本来なら魔戒騎士はそうしなければいけないんだ」

 

『魔戒騎士やホラーの秘密を一般人に知られる訳にはいかないからな。本来ならホラーに襲われた人間のホラーに関する記憶を消さなければならないんだよ』

 

ホラーに襲われた人間のホラーに関する記憶を消さなければならないということを、鋼牙とザルバが説明していた。

 

「カオルの場合はホラーの返り血を浴びていたからな。だからこそ記憶は消さなかったんだよ」

 

「そうだったんだ……」

 

カオルは鋼牙やザルバの説明で納得したようだった。

 

「それで、私は統夜君がオーナー行方不明事件に関わってると思ってしつこく追求してたんです」

 

「あぁ、本当に参ったよ」

 

『まったくだ。会うたびにこちらに突っかかってきてたからな』

 

「ちょ!?あんたねぇ!」

 

統夜とイルバは気を使うことなくこのようなことを言っていたので、そのことにヒカリは焦っていた。

 

「アハハ……。それで?」

 

「はい。最近またホラーに遭遇して、その時に全部思い出したんです」

 

「俺もこれ以上つきまとわれたくなかったから、全部話したんです。もしヒカリさんがこのことを公表しようとしたら全ての記憶を消すつもりでしたけど」

 

「ちょっと!さらっと怖いこと言わないでよ!」

 

統夜が穏やかではないことをさらっと言いのけていたため、ヒカリは顔を真っ青にしていた。

 

「それで、ヒカリちゃんは統夜君たちと仲良くなったわけね?」

 

「まぁ、そんな感じです。あの子達とは今日仲良くなりましたけど」

 

ヒカリは唯たちを指すと、それを見た唯たちは笑みを浮かべていた。

 

「それで、カオルさんは度々ホラーとの戦いに巻き込まれたんですか?」

 

「えぇ。どこへ行ってもホラーとの戦いに巻き込まれて、もう大変だったわ」

 

カオルは当時の事を思い出しながら、顔を真っ青にしていた。

 

「それで、カオルは度々ホラーとの戦いに巻き込まれたんだが、その度に俺はカオルを救いたいと心から思うようになったんだ」

 

鋼牙は改めてこんなことを言うのは恥ずかしかったのだが、頰を赤らめながらこのようなことを言っていた。

 

「鋼牙……」

 

カオルはそんな鋼牙の言葉が嬉しかった。

 

「それで、ヴァランカスの実という血に染まりし者を浄化する物を手に入れるため俺は奔走した」

 

「それで、その実は手に入ったんですね?」

 

ヒカリの問いかけに鋼牙は無言で頷いた。

 

「それでね、私は画家として力をつけるためにイタリアに留学したのよ。画家として売れ始めたのは留学から帰ってきてからかな?」

 

「そうだったんですね……。私は高校生の時にカオルさんの個展でカオルさんの作品を見て、画家になりたいと思ったんです」

 

「私の個展に来てくれたんだ!それに、それを見て画家になりたいだなんて、画家冥利につきるよ!」

 

カオルはヒカリが本気で自分に憧れていることを感じ取り、心の底から喜んでいた。

 

「カオルさん、時々遊びにきてもいいですか?私、一人前の画家になれるようカオルさんから学びたいんです!」

 

「もちろん!私で良かったらいくらでも力になるわ!時々、雷牙の子育てを手伝ってくれたら助かるかな」

 

カオルは少しだけ申し訳なさそうに子育ての手伝いを申し出ていた。

 

「もちろんです!こう見えて、私は甥や姪が赤ちゃんの時から面倒見てたので慣れてますから」

 

「おぉ!それは頼もしいね!ねぇ、鋼牙」

 

「あぁ、そうだな」

 

『おいおい、お前らはあいつの親だろ?そんなんでいいのかよ?』

 

ヒカリに時々子育てを手伝ってもらうという言葉に、ザルバは呆れていた。

 

「いいのよ。カオルさんに色々教わるんだもの。これくらいは当然よ」

 

『まぁ、お前さんが良いならいいのだが……』

 

「カオルさん、これからもよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ!私なんかで良ければよろしくね!」

 

こうして、カオルとヒカリは、師弟の契りを交わしたのであった。

 

「ささ、お茶のお代わりもお菓子もまだまだございますから、ゆっくりしていって下さい!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

その後、統夜たちは1時間ほどティータイムを楽しんでいた。

 

ティータイムが終わると、統夜たちは雷瞑館を後にし、桜ヶ丘に帰っていった。

 

桜ヶ丘に戻ってくるとそのまま解散になった。

 

ヒカリにとっては貴重な1日となり、統夜たちにとっても貴重であり、リラックス出来た1日となったのであった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日、この日は学校であり、この日も学園祭の準備が行われていた。

 

恥ずかしがり屋である澪は、今日も上手くセリフを言えないのではないかとクラスの誰もが心配していた。

 

しかし……。

 

「……待って下さい!光の騎士様!私も行きます!」

 

先週までのオドオドした澪はどこへ行ったのか、澪は恥ずかしがることなく、ハッキリとセリフを言っていた。

 

澪の成長ぶりに、クラスメイトたちは歓声をあげていた。

 

「おぉ!いい感じじゃん!」

 

「何?何かあったの?秋山さん!」

 

「あぁ……いやぁ……べ、別に……」

 

澪は恥ずかしかったのか、ハッキリとは答えなかった。

 

澪は昨日、統夜たちと共に鋼牙やカオルから絵本の話を聞いていた。

 

その時、2人にとって「黒い炎と黄金の風」という絵本の存在が大きいことを理解し、澪は2人のためにも覚悟を決めて最後まで自分の演技をしようと決めたのであった。

 

(……澪のやつ、あれなら大丈夫そうだな)

 

先週から大きく成長した澪を見て、統夜は安堵したのか笑みを浮かべていた。

 

《そうだな。これなら、殺陣の稽古にだいぶ時間を使えるんじゃないか?》

 

(あぁ。殺陣のシーンはこの劇で1番重要なシーンだからな……。みっちり稽古しておかないとな……)

 

学園祭までまもなくであり、統夜はこれからの稽古に向けて気合を入れていた。

 

《統夜。気合十分なのはいいが、騎士の務めも忘れるんじゃないぞ》

 

(わかってるって。イレス様にもきちんと報告するさ。戒人だって協力してくれるだろうし)

 

統夜はこれから稽古が多くなるため、騎士の務めに費やせる時間が減ることをイレスに伝えるつもりだった。

 

イレスだけではなく、統夜と共に魔戒騎士の務めを果たす黒崎戒人も統夜に協力してくれるだろうと判断していた。

 

《とりあえず、今日にでも番犬所に行かないとな》

 

(わかってるって)

 

統夜は番犬所への報告はしっかりと行うつもりだった。

 

統夜とイルバがテレパシーで会話をしていたその時だった。

 

「統夜!ほら、稽古に行くよ!!」

 

劇で素体ホラーこと怪物の役である信代が、統夜のことを呼んでいた。

 

「おう!今行く!だから先に行っててくれ!」

 

「わかった!」

 

信代を始め、素体ホラーこと怪物役を務める4名は、練習場所として借りている武道場へと向かった。

 

「さて……。最高の劇にするために俺も気合をいれますかね」

 

統夜は自らを奮い立たせると、その後、殺陣の稽古を行うために借りた武道場へと向かった。

 

こうして、学園祭の準備は着々と進んでいったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ようやく学園祭が始まったか。さて、統夜たちの劇はどのような出来になっているのやら。次回、「伝説」。黄金騎士の伝説がここに蘇る!』

 

 




統夜たちが学園祭でやるのは、カオルの父親である御月由児の作品である「黒い炎と黄金の風」となりました。

元々は絵本の作品なので、内容が一部変わり、ストーリー仕立ての劇になっていく予定です。

それをやることをカオルや鋼牙にも伝えることが出来ました。

そして、今回は赤ちゃんである雷牙が登場しました。

赤ちゃんなのに物怖じしないのは両親の遺伝ですかね?(笑)

ヒカリもカオルの秘密を知ることが出来て、師弟の関係となりました。

さて、次回はいよいよ劇の内容が明らかになります。

しかし、最近忙しいせいか、サバック激闘編あたりから貯めていた小説のストックがすべてなくなってしまいました(笑)

そのため、今までのように2日置きに投稿というのは難しくなるかもしれません。

その分投稿が遅れるかもしれませんが、そこはご了承ください。

それでは、次回を楽しみにしつつ、お待ちいただけると嬉しいです!


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