牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

97 / 137
お待たせしました!第89話になります!

今回は久しぶりに牙狼要素の多い回となっています。

今回は統夜の弱点が明かされますが、統夜の弱点とは一体なんなのか?

それでは、第89話をどうぞ!




第89話 「弱点」

……ここは桜ヶ丘某所にあるとあるマンションに続く道路。

 

この道を、仕事帰りと思われる女性が歩いていた。

 

「まったく……。今日も残業だなんて……。本当、あの会社人使い荒すぎよね……」

 

女性は会社で毎日のように残業しており、げんなりとしていた。

 

今日も残業終わりで、外はすでに真っ暗だった。

 

この日も女性は残業で疲れ果てており、酒でも飲んでゆっくり休もうと思い、家へと急いでいた。

 

すると……。

 

「……クゥゥゥン……」

 

子犬の鳴き声が聞こえてきたのか、女性は足を止めた。

 

足を止めて鳴き声の聞こえてきた方を見ると、ダンボール箱の中に子犬がいた。

 

それを見ただけで捨て犬だということは察することが出来て、子犬は寒さで震えていた。

 

「……どうしたの?かわいそう……」

 

女性は残業疲れではあるものの、寒さで震えてる子犬を放っておけなかった。

 

女性は子犬に駆け寄り、その場にしゃがみ込みながら子犬に語りかけた。

 

「……だけど困ったなぁ……。うちのマンション、ペット禁止だしなぁ……」

 

出来ることなら家で面倒を見たいと思っていたのだが、女性のマンションはペット禁止のため、家で飼うことが出来ないのである。

 

そのため、女性はこの子犬を救うにはどうすれば良いのかを考えていた。

 

「……まぁ、明日は休みだし、1日くらいなら家で置いても大丈夫だよね?」

 

幸いにも女性は翌日が休みのため、今日は家で子犬を保護し、翌日に飼い主探しをすることにした。

 

そうと決めた女性は子犬を優しく抱き抱えていた。

 

「さぁ、私のお家に行きましょう。お腹空いたでしょ?ご飯にしましょうね」

 

子犬が答える訳がないのだが、女性は子犬にこう語りかけた。

 

すると……。

 

「……ウ、ウン……」

 

「え?」

 

聞こえるはずのない声が聞こえて来たので、女性は周囲を見回したのだが、異常はなかった。

 

そして、女性は子犬のことをジッと見るのだが……。

 

「オナカ……スイタ……」

 

「!!?」

 

何と喋っていたのは本来喋るはずのない子犬だった。

 

その事実から、女性は驚きを隠せなかった。

 

「イタダキ……マス……」

 

子犬は大きく口を開くと、そこから素体ホラーが顔を出した。

 

「!!?」

 

女性は子犬を放そうとするが、既に手遅れであり、子犬の口から飛び出した素体ホラーが女性の顔をガシッと掴んでいた。

 

素体ホラーが大きく口を開くと、女性の体は黒い粒子になり、そのまま素体ホラーに吸い込まれていった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

女性は子犬を保護しようとしたのだが、その子犬がホラーであり、そのこととは知らなかった女性はそのままホラーに捕食されてしまい、その生涯を終えることになってしまった。

 

女性の姿が完全に消滅すると、無残にもその場には女性が手にしていたバッグだけが残されてしまった。

 

女性を捕食した素体ホラーはそのまま子犬の体に戻り、子犬はその場で着地をした。

 

「……モット……タベタイ……」

 

ホラーである子犬の瞳から怪しい輝きを放っていた。

 

そして、ホラーである子犬は次なる餌を求めて夜の街へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その数日後、桜ヶ丘警察署に、とある会社の社長から連絡があった。

 

それは、自分の会社で勤務している1人の女性が姿を消したというものだった。

 

その通報を受けた警察はまた行方不明事件かとげんなりしながらも捜査を開始した。

 

そんな中、警察は行方不明になった女性の帰宅ルートを辿り、何か手がかりがないか探ってみるが、まったく手がかりがなかった。

 

「……まったく手がかりがないな……」

 

ベテラン刑事として事件の捜査を行っていた真山修吾は、がっくりと肩を落としていた。

 

「……それにしても妙ですよね。ガイシャの家の近くにガイシャの鞄が落ちてましたけど、他に手がかりがないなんて……」

 

修吾のバディであり、若年ながらも刑事としては一流である日代幸太は、被害者のものと思える鞄以外の手がかりがないということに疑問を感じていた。

 

しばらく考え込んでいると……。

 

(……!まさか……この事件もホラーの仕業……なのか?)

 

幸太は以前、ホラーと呼ばれる怪物を狩る魔戒騎士である統夜と出会い、仲良くなった。

 

幸太は統夜からこの街で起きてる不審な行方不明事件はホラーの仕業であることを知らされた。

 

真実を知った幸太であるが、これを話しても上司は信じないと予想し、さらに、一般人がホラーのことを知れば混乱が起きることも理解していた。

 

そのため、幸太は真実を警察の人間には話さないと決めたのであった。

 

「……?幸太、何かわかったのか?」

 

「あ、いや。色々考えたんですけど、全然わからなくて……」

 

「そうだよなぁ。この事件も不審な行方不明事件として迷宮入りになるんだろうな」

 

ホラーが原因で起きた行方不明はどれも未解決の行方不明事件として、迷宮入りになっていた。

 

修吾は、解決の糸口がつかめないことから、この事件も他の行方不明事件のように迷宮入りになると予想していた。

 

「……そうかもしれないですね……」

 

幸太は、自分の力では解決出来ない事件に再びぶつかり、悔しさから唇を噛んでいた。

 

(……後で、統夜君に連絡をしておくか)

 

ホラーが絡んでいることは間違いないと踏んだ幸太は、事件の捜査が終わった後に統夜に連絡することにした。

 

その後、手がかりらしい手がかりはなく、事件の捜査は終了した。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

学園祭か近付いてきており、徐々にではあるが、学園祭で何を行うかという話し合いが頻繁に行われていた。

 

そして、文化系の部活は学園祭での発表に備え、練習に勤しんでいた。

 

統夜たち軽音部もライブを控えているため、練習には一層の気合が入っていた。

 

「……よし、統夜。みんなで部室に行こうぜ!」

 

「あぁ、そうだな。もうすぐ学園祭だし、気合いれないとな」

 

統夜も学園祭のライブに向けて、気合は十分であった。

 

梓は軽音部はだらけているからライブは大丈夫だろうか?と心配していたが、今の統夜たち3年生はライブに向けてやる気に充ち満ちていた。

 

この日も気合十分に部室に向かおうとしたのだが……。

 

「その部室だけどね……」

 

「?さわちゃん?」

 

やる気満々な統夜たちにさわ子が声をかけた。

 

「使えないのよ」

 

「使えないって何が?」

 

「部室がよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

部室が使えないという事実が呑み込めず、統夜たちは言葉を失っていた。

 

そして……。

 

「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 

時間差で、統夜たちは驚きの声をあげていた。

 

部室が使えないことを理解した統夜たちは、さわ子と共に音楽準備室に行くのだが……。

 

「……マジかよ……」

 

音楽準備室の入り口には、立ち入り禁止の張り紙が貼ってあった。

 

「音楽室も使えないなんて……」

 

「嘘なんかつかないわよ」

 

「いったい何が!?」

 

事情が呑み込めない律は、何故音楽準備室と音楽室が使えないのか、理由をさわ子に聞いていた。

 

「……夜中誰もいない教室からポタリポタリと音がして……」

 

「ひっ!?」

 

澪はさわ子の話が怖い話と感じ取り、ビクンと肩をすくめていた。

 

「……あっ、大丈夫です……。続けてください……」

 

「……何だろうと思って調べてみたら……」

 

(……何で怖い話っぽく言ってるんだよ……)

 

《あぁ、俺様もそう思ったぜ》

 

さわ子は何故か怖い話風に語っており、そのことに対して統夜とイルバは呆れていた。

 

さわ子は一息つくと、目をクワッと見開いて結論を語り始めた。

 

「……天井から水漏れてたんだって!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

さわ子は怖い話のオチのように大声を出すと、澪は怯えてしまい、思わず統夜に抱きついていた。

 

「ちょ、澪!?」

 

澪がギュッと抱きついてくるのが恥ずかしかったのか、統夜は顔を真っ赤にしていた。

 

『やれやれ……。何だと思って聞いてみれば、変哲のない普通の話じゃないか』

 

イルバはさわ子の話を最後まで聞いていたのだが、内容があまりに普通だったので、呆れていた。

 

「それが部室の下の階でね。配水管を取り替えるそうなんだけど、それって部室も通ってるから立ち入り禁止になっちゃうんですって」

 

「あぅぅ……」

 

「……このタイミングでか……」

 

「学園祭まで後1ヶ月もないのに……」

 

ここに来て大きな問題に直面してしまい、唯、律、紬の3人は不安げな表情をしていた。

 

「そうだよなぁ……。何とかしなきゃいけないが……」

 

統夜はこの問題をどうするか考えていたのだが、澪がまだ統夜に抱き付いてることに気付くと……。

 

「……み、澪!いつまで抱きついてるんだよ!」

 

「……!ご、ごめん!」

 

澪も咄嗟に統夜に抱きついたことに気付くと、顔を真っ赤にしながら統夜から離れた。

 

澪は統夜に抱きついたのが恥ずかしかったのか、もじもじとしながら恥ずかしがっていた。

 

「「「……」」」

 

唯、律、紬の3人は澪がどさくさに紛れて抱きついたのが羨ましかったのか、ジト目で統夜を睨みつけていた。

 

「あ、アハハ……」

 

その視線に気付いた統夜は思わず苦笑いをしていた。

 

「とりあえず楽器は全部外に出しておいたから。……あと亀も」

 

さわ子が指差す方向に、ドラムセットやキーボードなどの楽器類と、バケツの中に入っているトンちゃんと、その水槽が置いてあった

 

「スッポンもどきだよ、さわちゃん!」

 

『いやいや、そこは今どうでもいいだろ……』

 

今はトンちゃんの種類について話している訳ではないため、妙なこだわりをしている唯にイルバは呆れていた。

 

「……?何かあったんですか?……あっ、トンちゃん!」

 

遅れて梓がやってくるのだが、すぐにバケツに入ったトンちゃんを発見し、トンちゃんに駆け寄っていた。

 

「……部室がね、水道の工事で使えないの……」

 

「え?」

 

紬がこんなことになっている事情を話すと、梓は戸惑いの表情を見せていた。

 

「お茶が飲めないんだよ!」

 

「「そっちじゃないだろ!!」」

 

唯のあまりにずれた発言に、統夜と澪は同時にツッコミをいれていた。

 

「予定だと工事は10日間だそうよ」

 

「!?ということはその間は部室での練習は無理ってことか……」

 

『こうなったら他の場所で練習するしかないんじゃないのか?』

 

「そうね……。吹奏楽部と合唱部が使ってる第2音楽室、使わせてもらえないか交渉してみるわ。……忘れてるかもしれないけど、私は吹奏楽部の顧問だし」

 

「あっ……そういえばそうでしたね……」

 

『お前さんも一緒にダラダラしてるからついつい忘れがちだがな』

 

さわ子は元々吹奏楽部の顧問であったのだが、高校時代は元軽音部だということが統夜たちにバレ、そのことがバラされたくなければと、半ば強引に軽音部の顧問を兼任することになった。

 

軽音部の顧問になったさわ子は、部室で統夜たちと共にダラダラすることが多くなっていた。

 

そのため、さわ子が吹奏楽部の顧問であることはつい忘れがちになってしまうのである。

 

「お、お願いします!」

 

とりあえずさわ子に頼るしがないため、統夜たちはさわ子が音楽室を使わせてもらえないか交渉しに行っている間はその場で待つことにした。

 

統夜たちは階段に座り、大人しく待っていたのだが……。

 

「……立ち入り禁止ってどうなってるんだろ……」

 

「見てみる?見てみる!?」

 

唯が立ち入り禁止の部屋が気になると切り出すと、紬まで興味を示していた。

 

「……おいおい、やめとけよ」

 

統夜は立ち入り禁止の部屋の扉を開けようとする唯と紬を制止しながら呆れていた。

 

すると……。

 

「……あっ、先生が戻ってきた!」

 

このようなやり取りをしていると、さわ子が戻ってきた。

 

「……どうだった、さわちゃん?」

 

「ごめん、ダメだった」

 

「えぇ!?さっきの自信はなんだよぉ……」

 

「ごめんごめん」

 

『まぁ、学園祭が間近で練習しなきゃいけないのはどこも同じなのだろう』

 

イルバは、さわ子が交渉に失敗した原因をこのように分析していた。

 

「えぇ!?それじゃあどこで練習すればいいのかなぁ……」

 

「そうねぇ……教室とか?」

 

「教室か……」

 

「……他にアテもないし、とりあえず行ってみるか」

 

他に良い場所もないことから、統夜たちは3年2組の教室で練習することになった。

 

「……おぉ!ここで練習するんだ!」

 

一通り楽器のスタンバイが終わった頃、クラスメイトである中島信代が歓喜の声をあげていた。

 

教室には他にもクラスメイトが何人かおり、これから始まるであろう軽音部の演奏を心待ちにしていた。

 

「どうもどうも♪」

 

「すいません……。お邪魔します……」

 

梓だけはクラスも学年も違うため、少しだけ気まずそうにしていた。

 

「あんまり大きい音を出すと迷惑だから、軽くやってね」

 

「「「「「「はーい!」」」」」」

 

「じゃあ、そういうことだから」

 

楽器運搬の手伝いをし、共に3年2組の教室に来ていたさわ子は、仕事に戻るために職員室へと向かって行った。

 

「あずにゃん。私たちの教室だから遠慮せずにくつろいで♪」

 

「そう言われても……」

 

「まぁ、先輩の教室だから居づらいよな……」

 

統夜は、居づらそうにしている梓の心中を察していた。

 

「よいこらせ〜」

 

ドラムの椅子に座った律は、何を思ったのか上履きを脱いでいた。

 

「それは靴脱いだ」

 

「サンキュー!!」

 

「……」

 

澪は律のボケに素直にツッコミをいれており、統夜はジト目で律を見ていた。

 

「おい、統夜!そんな目であたしを見るな!」

 

「はいはい……」

 

律はジト目で自分を見ていた統夜にこう追求すると、統夜はギターを奏でる準備を始めていた。

 

「……オホン!それじゃあ、やるかぁ!」

 

演奏準備も整い、クラスメイトたちが拍手を送っていた。

 

そんな中、何かに気付いた統夜は首を傾げていた。

 

《……?どうした、統夜?》

 

(なぁ、イルバ。俺たちさ、アンプのボリュームって抑えたっけ?)

 

《あぁ、そう言えばそうだな。抑えてなかったら大変なことになるな……》

 

「よーし、まずはカレーから行くぞ!」

 

嫌な予感がしている統夜とイルバはともかくとして、律は放課後ティータイムの中でも1番激しい曲である「カレーのちライス」の練習をすることにした。

 

「……ちょ……!?」

 

律が1番激しい曲をチョイスしたため、気が動転した統夜は心の準備が出来ていなかった。

 

「1・2・1・2・3・4!」

 

律の合図により、「カレーのちライス」の演奏が始まったのだが……。

 

__ドォォォォォォン!!

 

統夜の嫌な予感は的中していたのか、アンプのボリュームはいつも通りだった。

 

そのため、物凄い爆音が鳴り響いていた。

 

(おいおいおいおい!?いきなり爆音じゃねぇか!?)

 

《……嫌な予感は的中したな……》

 

統夜とイルバの嫌な予感が当たってしまい、統夜は苦笑いをしながら演奏していた。

 

統夜たちはいつも通り演奏をしていた。

 

そのため、最後まで勢いは収まることなく、爆音のまま最後まで演奏してしまった。

 

「うわぁ、凄い迫力♪」

 

「格好いい♪」

 

「いやぁ、それほどでも♪」

 

クラスメイトたちの評価は上々であったのだが……。

 

「あのー、すいません!」

 

音がうるさいと苦情を言いに来たと思われる女生徒2人が中に入ってきた。

 

「私たち、今文化祭の話し合いをしてて……」

 

「その……音が……」

 

(……やっぱりそうなるよな……)

 

音がうるさいと苦情を言いに来た2人を見た統夜は、そう来るだろうと予想しており、頭を抱えていた。

 

「あぁ!ごめんなさい!」

 

「うるさかった?」

 

「ごめんなさい……」

 

唯たちもこれが苦情と察したのか、すぐに謝っていた。

 

「いえ、こちらこそすいません……」

 

苦情を言いに来た2人は、ハッキリうるさいとは言わず、むしろ申し訳なさそうにしていた。

 

とりあえず要件は伝えたため、2人は出て行った。

 

《……ま、演奏中にうるさいと怒鳴り込まれなかっただけでも運が良かったんじゃないのか?》

 

(あぁ、そうかもしれないな……)

 

「……仕方ない、場所変えるか」

 

統夜たちは楽器の撤収を始め、それが終わると、練習に使えそうな場所を探すことになった。

 

まず最初に訪れたのは体育館だった。

 

現在体育館は運動部が使用しているが、空いているスペースがどうにか使えそうだったので、統夜たちは体育館で練習することになった。

 

しかし、とても集中出来る環境ではなかったため、統夜たちは体育館の使用を断念した。

 

他にも練習に使えそうな場所がないか探してみたのだが、講堂は演劇部が使用しており、屋上には詩吟部がいたため、練習に使えそうな場所は見つからなかった。

 

気が付けば夕方になっており、この日はこれ以上練習に使えそうな場所を探しても見つからないという結論になり、統夜たちは帰ることにした。

 

「……明日はどこかで落ち着けるといいわよねぇ……」

 

「そうだよな……」

 

「今日は全く……」

 

「お菓子が食べられなかったもんね!」

 

「やっぱりそっちですか!!」

 

「アハハ……。ごめん、冗談だよ、あずにゃん」

 

「やれやれ……」

 

唯は冗談だと言ったものの、実はそれが本音だろうと推察した統夜はため息をついていた。

 

「……あ、そうだ、澪。歌詞は出来たのか?」

 

「お菓子が!?」

 

「そっちじゃなくて曲の歌詞だろ……」

 

歌詞という言葉に唯は思わず反応しており、統夜は唯の勘違いに呆れていた。

 

「新曲出来たんですか?」

 

「まぁ、統夜が作ってくれた曲もあるし、あとはムギの曲も出来てるんだけどさ……」

 

「歌詞も書いただろ?でも、律がダメだって……」

 

澪は新曲用の歌詞は書いていたのだが、何故か律は澪の歌詞を没にしていたのだった。

 

「え?それってどうしてですか?」

 

梓が律に歌詞を没にした理由を聞こうとしたその時だった。

 

「……あれ?あの人……」

 

紬は、学校の入り口に立っている1人の男を発見した。

 

「……あの人、誰だろうね?」

 

「……!」

 

統夜も男の存在を確認するのだが、その男は、統夜の知っている男だった。

 

「?やーくん、あの人のこと、知ってるの?」

 

「あぁ、あの人は……」

 

統夜は唯たちに男のことを紹介しようとするのだが、男は統夜の存在に気付き、統夜に駆け寄った。

 

「……統夜君、待ってたよ」

 

「こ、幸太さん!?何でここに?」

 

桜高の入り口で統夜を待っていたのは、統夜の友人の1人で、刑事の日代幸太だった。

 

「あぁ、統夜君に伝えることがあってね」

 

「……伝えたいこと……」

 

統夜は幸太の伝えたいことという言葉に心当たりがあった。

 

「な、なぁ、統夜。この人って統夜の知り合いか?」

 

「あぁ、この人は……」

 

統夜は唯たちに幸太のことを紹介しようとするのだが……。

 

「あぁ、俺は日代幸太。桜ヶ丘警察署の刑事で、統夜君の協力者……みたいなものかな」

 

「「「「「刑事さん!?」」」」」

 

統夜に刑事の知り合いがいるとは思わなかったので、唯たちは驚きを隠せなかった。

 

「な、なぁ、統夜。協力者ってことは、この人も魔戒騎士の秘密を知ってるってことだろ?刑事さんに秘密を話して大丈夫なのか?」

 

律は刑事である幸太が魔戒騎士の秘密を知ってることも驚きだったが、刑事である幸太がこのことを知って大丈夫なのか心配になっていた。

 

「あぁ、そこは問題ないよ。ホラーなんて化け物がいるなんて、警察じゃ誰も信じないだろうしね。それに、俺だってホラーの話を警察上層部やマスコミに話して世間に広まるとどうなるか……。理解してるから」

 

唯たちもホラーの存在が広まったらどうなるか。そのことは理解していた。

 

そして、刑事である幸太もそのことを理解しており、唯たちは安堵していた。

 

「ところで、統夜君、この子達もホラーのことを知っているか?」

 

「えぇ、彼女たちもホラーとの戦いに巻き込まれたことがありまして」

 

「そうだったのか……」

 

「……ところで、伝えたいこととは?」

 

統夜はここで本題を切り出した。

 

「あぁ。実は、数日前にある女性が不可解な失踪をしてな。警察は一連の行方不明事件として処理するつもりだが、俺はホラーの仕業と踏んでいるんだ」

 

「不可解な失踪……か」

 

『まぁ、確かにホラーの仕業の可能性が高いな』

 

幸太の話を聞き、統夜とイルバが口を開くのだが、幸太はイルバが喋るのを見て目を丸くしていた。

 

「ゆ……指輪が喋った!?」

 

幸太はイルバが喋るのを初めて見るので、驚きを隠せなかった。

 

『おっと、お前さんは俺様が喋るのを見るのは初めてだったな。……俺様はイルバ、魔導輪だ』

 

「まさか、お前の力でホラーの捜索をするのか?」

 

『ほぉ、さすがは刑事だな。お前さんの言う通り、俺様はホラーを探知することが出来る』

 

「それで、俺はホラーを見つけて倒す訳だ」

 

「なるほどな……」

 

幸太はイルバについての説明を受けるのだが、1回の説明で納得していた。

 

「……とりあえずその魔導輪のことはわかったが、今回行方不明事件の捜査をしてて気になることがあるんだ」

 

「気になること?」

 

「……女性が行方不明になった時にその女性のものと思われる鞄が見つかったんだが、その女性は行方不明になる前に捨て犬を見ていたと思われるんだ」

 

「捨て犬……?」

 

動物が好きな統夜は捨て犬という言葉に反応していた。

 

「……お前、イルバ……だったか?人間だけじゃなくて動物に憑依するホラーって存在するのか?」

 

『ほぉ……』

 

イルバは、幸太が刑事であるが故の目の付け所に関心していた。

 

『お前さん、刑事にしておくにはもったいないくらいだぜ。……あぁ、ホラーの中には人間ではなく、動物に憑依するホラーも存在するぜ』

 

「やっぱり……」

 

『おい、幸太とか言ったな?今回のホラーは犬に憑依した可能性があると言いたいのだな?』

 

「あぁ。もし女性が捨て犬を保護しようとして、その捨て犬がホラーだとしたら、何故女性が不可解な失踪をしたか説明がつくんだよ」

 

「あの……。もしかして、その犬に憑依したホラーが既にその女性を捕食してしまった可能性が高いという訳ですか?」

 

「あぁ、俺はその可能性が高いと思っている」

 

幸太の推理があまりに的確であり、その推理を聞いていた統夜たちは思わず拍手をしていた。

 

『どうやら幸太の推理は正解かもしれないぜ。統夜、指令が来たみたいだ』

 

「それじゃあ一度番犬所へ行ってそのホラー退治へと向かうよ」

 

『……統夜。相手は犬に憑依したホラーだぜ?お前、大丈夫なのか?』

 

イルバは、統夜が重度の動物好きと知り、いざ戦いとなると統夜の剣が鈍らないか心配していた。

 

「だ、大丈夫だよ!……多分……」

 

統夜はいくら犬が好きだろうとホラーであれば斬れるだろうと思っていた。

 

「……なぁ、統夜君。今回だけでいいから俺もホラー討伐に参加させてもらえないだろうか?もちろん、俺が足手まといなのはわかっているが、何かしら力になれるはずだ」

 

幸太が今回のホラー討伐の同行を申し込み、統夜はうーんと考え込んでいた。

 

すると……。

 

『統夜、今回ばかりはこいつの力がいるかもしれんぞ。お前がまともにホラーと戦えない可能性があるからな』

 

「そっ、そんなことは!」

 

統夜は全力で否定しようとするが、完全に否定することは出来なかった。

 

「……まぁ、確かに今回は幸太さんの力が必要になるかもしれないしな……」

 

統夜は渋々と幸太の同行を許可した。

 

「なぁ、統夜。私たちもついていっちゃダメかな?」

 

幸太だけではなく、律は自分たちも同行して良いか統夜に確認を取っていた。

 

「ダメに決まってるだろ。幸太さんは自分の身を守る術を持ってるけど、お前らは……」

 

幸太は刑事であるため、ある程度身を守る術を持っているが、唯たちはそれを持っていないため、統夜は唯たちの同行は容認出来なかった。

 

しかし……。

 

「彼女たちも連れていってはどうだ?いざとなれば俺がこの子たちを守る」

 

幸太は統夜にこのような提案をしていた。

 

幸太が唯たちを守ってくれれば自分はホラーとの戦いに専念出来るのでは?

 

統夜はそんなことを考えていた。

 

『……まぁ、たまにはいいんじゃないか?今回の相手は少々面倒だからな』

 

イルバは意外にも唯たちの同行を容認していた。

 

「イルバ……本当にいいのかよ?」

 

『お前はホラーを倒して唯たちを守るんだろ?』

 

「……当たり前だ。……とりあえず今回だけだからな」

 

統夜は渋々ではあるが、唯たちの同行も許可した。

 

「とりあえず、番犬所に行くか」

 

指令書を受け取るために、統夜の先導で番犬所へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

統夜は唯たちや幸太を番犬所の入り口まで案内したのだが、その場所は普通の行き止まりだった。

 

「……そういえば、ここって……」

 

唯たちはこの場所に見覚えがあった。

 

まだ唯たちが統夜が魔戒騎士であると知らなかった頃、統夜の秘密を探ろうと統夜を尾行した時にここにたどり着いたのである。

 

「……おいおい、ここは行き止まりじゃないのか?」

 

そこら辺の事情を知らない幸太は、ここがただの行き止まりだと思い込んでいた。

 

「いや、ここはただの行き止まりじゃないぞ。ここが番犬所の入り口なんだ」

 

「だけど、入り口らしいところはありませんよね?」

 

梓は行き止まりをキョロキョロと見ているが、入り口らしいものは見つからなかった。

 

以前、この場所で統夜を見失った時も調べたのだが、その時もそれらしきものを発見することは出来なかった。

 

「まぁ、見てなって」

 

統夜は何もない壁にイルバをかざすと、番犬所の扉が開かれた。

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

何もないところから扉が現れ、そのことに唯たちは驚いていた。

 

「……ここから先は一般人は入れないからな。行ってくる」

 

統夜はその扉から番犬所の中に入ると、番犬所の入り口も消えた。

 

「!?き、消えた!?」

 

「やーくんはこの中に入ってったってことだよねぇ?」

 

「まぁ、とりあえず統夜君が戻って来るまでここで待つとしようか」

 

「そうですね」

 

唯たちは統夜が戻ってくるまで、その場で待機し、統夜を待つことにした。

 

 

 

 

 

番犬所の中に入った統夜は、イレスに挨拶をすると、狼の像に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

「……統夜、指令です」

 

魔戒剣の浄化が終わるなり、イレスがこう宣言し、統夜はイレスの付き人の秘書官から赤の指令書を受け取り、浄化の時に出てきたホラーを封印した短剣を秘書官に渡した。

 

指令書を受け取った統夜は魔導ライターを取り出すと、魔導火で指令書を燃やした。

 

そして、統夜は指令書から飛び出してきた指令の内容を読み上げると、魔戒語で書かれた文字は消滅した。

 

「……やっぱりこいつなのか……」

 

「……?統夜、ホラーの正体がわかっていたのですか?」

 

「えぇ。この前話した例の刑事の協力者がこのように推理してくれたんです」

 

統夜は刑事である幸太が統夜の秘密を知り、協力してくれるということを既にイレスには話していた。

 

イレスも刑事の協力者がいれば、ホラー狩りの時に有利に働くこともあると判断し、特に統夜を咎めることもなかった。

 

「なるほど、彼も刑事として行方不明事件の捜査をしてたらホラーにたどり着いたのですね」

 

「えぇ。幸太さんはホラーの秘密を言いふらすことはしないですし、俺も頼りにしてるんですよ」

 

面と向かってこのようなことは言わないのだが、統夜は幸太を頼れる存在だと思っていた。

 

「それで、今回は幸太さんをホラー討伐に同行させようかと思いまして」

 

「?どうしてですか?」

 

『統夜のやつ動物好きだからな。今回のホラー相手だと手が鈍る可能性があるんだよ』

 

「お、俺は相手が誰だろうと斬るだけだけどな!」

 

イルバが代わりに幸太を同行させる訳を話したのだが、統夜は強がってこのようなことを言っていた。

 

「……まぁ、いいでしょう。統夜、彼だけではなく、他に同行者がもしいるとしたら、その人たちに被害がないよう努めてくださいね」

 

(うぐっ……!もしかしてイレス様、今回のホラー討伐に唯たちを連れてくことをわかってるのか?)

 

《まぁ、あの女ならあり得そうだな》

 

イレスは今回のホラー討伐に唯たちを同行させようとしていることを察しているような発言をしており、そのことに対して統夜は苦笑いをしていた。

 

「わかりました。相手が誰だろうと斬り、守るべきものは守る。それが魔戒騎士の使命ですから」

 

統夜は今度は強がりではなく、本心だったのか、統夜の言葉には穏やかな中でも芯の強さを感じ取れた。

 

「わかりました。統夜、頼みましたよ」

 

「はい!」

 

統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にした。

 

番犬所の入り口まで戻ってくると、統夜はイルバをかざした、

 

すると、再び番犬所と地上を繋ぐ扉が現れたので、統夜はそこから番犬所を出ると、先ほどの場所に戻ってきて、唯たちは待っていた。

 

唯たちは統夜が戻ってくるのを待っていたのだが、突如扉が出現し、そこから統夜が現れたので、驚いていた。

 

「……みんな、お待たせ」

 

「お、お帰りなさい、統夜君」

 

紬は驚きながらも統夜を出迎えていた。

 

「それで、正式に指令は受けたのか?」

 

「えぇ。みんなを同行させるのも許可をもらいましたよ」

 

「さっすがイレスちゃん!」

 

「い、イレスちゃん……?」

 

幸太はイレスが何者かわかっていないため、唯が親しげに話していることに驚いていた。

 

「イレス様はこの先にある番犬所という魔戒騎士を総括する機関の神官なんだよ」

 

『ま、お前さんにわかりやすく説明するならイレスは警察署の署長みたいなものたぜ』

 

「なるほど、それはわかりやすいな……」

 

幸太は統夜とイルバの説明で、イレスが何者なのかを何となくではあるが理解していた。

 

「それで、ホラーはやっぱり犬に憑依したホラーだったのか?」

 

『あぁ。それで間違いなさそうだぜ。ホラー、ヘルビースト。人間ではなく動物に憑依して人間を喰らう。変わったホラーだぜ』

 

「動物に憑依するホラーもいるんだねぇ……」

 

「唯、お前はただでさえ可愛いものが好きなんだから動物見ても迂闊に近づくんじゃないぞ」

 

「むぅぅ……。やーくんには言われたくないよ!」

 

「うっ……!そう言われると……」

 

唯はぷぅっと頬を膨らませながら統夜を睨みつけ、統夜は自分の同じことをしそうだなと心の中で思っており、苦笑いをしていた。

 

「と、とりあえず行こうぜ!さっさとホラーを倒して学園祭のことを考えたいからな」

 

「そうだな。学園祭の曲だって統夜がいないと決められないし」

 

「?学園祭?あぁ、そういえば学園祭が近いから忙しいって妹が言ってたな」

 

「幸太さん、妹さんがいらっしゃるんですか?」

 

紬は幸太の発した妹というキーワードに反応し、こう訪ねていた。

 

「あぁ。俺の妹はみんなと同じ桜ヶ丘高校に通ってるんだよ。今は高校2年生だな」

 

「2年生……同じ学年だ……。あっ!日代ってもしかして……」

 

梓は幸太の妹が自分と同じ2年生であることと、幸太の名字が日代ということで、何かを思い出していた。

 

「そう、俺の妹は玲奈って言うんだ。君は玲奈のクラスメイトなんだな」

「はい!日代さんは引っ込み思案なところはあるけど、可愛くてクラスの人気者ですよ!」

 

梓は玲奈のクラスでの印象を話し、それを聞いて安堵したのか、幸太は笑みを浮かべていた。

 

「……」

 

統夜は幸太の妹である玲奈をフったとは唯たちに話していないため、ウンウンと頷いていた。

 

「……もう夜になるし、そろそろ行くぞ」

 

統夜は唯たちに何か追求される前にホラー捜索のために移動を開始した。

 

「あっ、やーくん!待ってよ!」

 

唯たちは慌てて統夜を追いかけ、ホラー捜索を開始した統夜に付いて行った。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして夜になり、外は真っ暗になっていた。

 

統夜がイルバのナビゲーションを頼りに移動したのは、桜ヶ丘某所にあるマンションが近くにある道路だった。

 

この時間、人通りは少ないのだが、ホラーはその人通りの少なさを狙い、人間が自分に近づくようアプローチをかけるのである。

 

「イルバ……。ホラーはこの辺りか?」

 

『あぁ。この辺りからホラーの気配を感じるぜ。統夜、油断するなよ!』

 

「あぁ、わかってるよ!……っ!」

 

統夜はホラー捜索のために周囲を見回していたのだが、何かを発見した。

 

「?やーくん、どうしたの?」

 

「見つけた。多分あれがホラーだと思う」

 

統夜が指差す方向にダンボールが置いてあり、そこに1匹の犬がプルプルと震えていた。

 

「……あれ、ホラーじゃなかったらかわいそうなんだけどね……」

 

可愛いものが好き故、動物も好きな唯ではあるが、あの捨て犬がホラーの可能性があるとわかると、可愛いという感情はわかなかった。

 

「統夜、どうするつもりなんだ?ホラーだってお前が魔戒騎士だってわかってるだろうから警戒されないか?」

 

律は、正攻法でホラーに近付くのはホラーに警戒されるのではないかと心配していた。

 

「問題ない。俺に考えがあるからな」

 

「大丈夫かなぁ……」

 

心配な律はジト目で統夜のことを見ていたが、ここはホラー狩りのプロである統夜に任せることにした。

 

「クゥーン……」

 

ダンボールの中にいる捨て犬は、小刻みに震えながら、誰かが来るのを待っていた。

 

一般人がこの光景を見れば、かわいそうな捨て犬だと判断するだろう。

 

そんな中、統夜は……。

 

「……あら、お前、どうしたんだ?」

 

統夜はまるで一般人のように捨て犬に語りかけた。

 

その様子を見ていた唯たちは統夜のあまりに普通な対応にコケそうになっていた。

 

「って、普通すぎだろ!」

 

統夜のあまりに普通な対応に澪は思わずツッコミをいれていた。

 

唯たちが普通な対応に呆れながらも統夜は捨て犬への対応を続けていた。

 

「こんな寒いのに捨てられたんだなぁ、かわいそうに……」

 

統夜は優しい表情で微笑むと、捨て犬の頭を優しく撫でていた。

 

しばらくの間、統夜は微笑みながら捨て犬を撫でていたのだが……。

 

「……」

 

統夜は笑顔のままなのだが、表情が鋭くなり、逆に笑顔なのが怖いくらいに険しい表情になっていた。

 

すると、統夜は魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って捨て犬の瞳に魔導火を照らした。

 

すると、捨て犬の瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

これこそ、この捨て犬がホラーであるという証である。

 

「グルル……!魔戒騎士……!」

 

統夜が魔戒騎士であるとわかると、捨て犬ことホラーは統夜に敵対心を向けていた。

 

統夜がホラーから離れて魔戒剣を取り出そうとするが、ホラーはその脚で統夜を蹴り飛ばした。

 

「くっ……!」

 

蹴り飛ばされた統夜は、そのまま体勢を立て直し、魔戒剣を取り出そうとするが、素早い動きで統夜に迫っていた。

 

「くっ……!!」

 

このままでは魔戒剣を取り出す前にホラーに噛みつかれるのは必死であり、統夜は焦りから表情を歪めていた。

 

すると……。

 

「……統夜君!!」

 

そんな統夜を見て、いてもたってもいられなくなったのか、拳銃を取り出すと、ホラーの足元目掛けて発砲した。

 

ホラーにダメージを与えられなくても、威嚇して一瞬の隙は作れると判断したからである。

 

そんな幸太の読みは当たり、ホラーは足元に銃を撃ち込まれて足を止め、統夜はその隙に魔戒剣を取り出し、抜いた。

 

「グルル……!貴様……!!」

 

ホラーは自分に威嚇射撃をした幸太を睨み付けると、幸太を喰らうべく飛びかかった。

 

「……っ!」

 

幸太は拳銃を発砲するが、当然ダメージはなく、ホラーの牙が幸太に迫ろうとしていた。

 

「させるかぁぁぁぁ!!」

 

ホラーの牙が幸太に迫る前に統夜は幸太の前に現れ、ホラーを蹴り飛ばした。

 

統夜に蹴り飛ばされたホラーは壁に叩きつけられ、「キャイン!!」とまるで犬のような悲鳴をあげていた。

 

その悲鳴を聞いた統夜はハッとしてしまい、動きを止めてしまった。

 

相手がホラーだということは重々承知しているのだが、ホラーが本物の犬のような仕草をするため、統夜はまるで本物の犬を傷つけている錯覚に陥っていた。

 

『統夜、集中しろ!相手はホラーだ!油断すると命取りだぜ!』

 

「!そうだった!」

 

統夜はすぐに我に返ると、魔戒剣を構え、ホラーを迎撃する準備を整えていた。

 

「幸太さん、さっきの援護射撃、助かりました。ありがとうございます」

 

「気にしないでくれ。少しでも統夜君の手助けになれたら幸いだよ」

 

「後は大丈夫ですから、幸太さんは唯たちと一緒に安全な場所まで隠れて下さい」

 

これ以上、犬の姿をしたホラーに惑わされないと決めた統夜は、幸太たちを安全な場所に移動させるよう誘導していた。

 

「わかった!さぁ、みんな。こっちへ!」

 

幸太は唯たちを先導し、少し離れた場所まで避難すると、統夜の戦いを見守っていた。

 

そして、それと同時に壁に叩きつけられたホラーは体勢を立て直すと、まるで本物の犬のように「グルルルル……!」と統夜を威嚇していた。

 

ホラーの威嚇は平気なのか、統夜は平然としたまま、ホラーを睨みつけていた。

 

そして、ホラーは素早い動きで統夜に近付き、統夜に噛みつこうとした。

 

しかし、統夜はホラーの牙を魔戒剣で受け止めると、そのまま蹴りを放ち、再びホラーを吹き飛ばした。

 

ホラーは吹き飛ばされる時に「キャイン!」と悲鳴をあげるが、統夜は平然としていた。

 

「同じ手が2度も通用すると思うな!」

 

統夜は吹き飛ばされて体勢を立て直すホラーを睨みつけていた。

 

そんな統夜を見ていたイルバは、ウンウンと頷いていた。

 

(一時は心配したが、統夜も魔戒騎士って訳だな。この様子なら心配なさそうだ)

 

イルバは統夜が動物好きであっても、ホラーであれば迷うことなく斬れそうだと感じていた。

 

(俺もあのホラーが犬の姿をして惑わされそうになったが、もう惑わされないぞ!ホラーは斬る!それが俺の使命だからな!)

 

一時は犬の姿をしたホラーに惑わされそうになった統夜だったが、使命感からか、そんな気持ちを消し去り、目の前に対峙しているホラーを狩ることに集中することにした。

 

体勢を立て直したホラーは、再び素早い動きで動き回り、今度は統夜を翻弄していた。

 

しかし、統夜は慌てる様子はなく、冷静にホラーの動きを見極めていた。

 

そして、ホラーの牙が統夜に迫ろうとしたのだが……。

 

「……甘い!!」

 

ホラーの動きを見極めていた統夜は、ホラーの攻撃をかわすと、魔戒剣を一閃し、ホラーを斬り裂いた。

 

「キャイン!!」

 

魔戒剣の一撃を受けたホラーはそのまま地面に叩きつけられた。

 

「ホラーの姿になる前に決着をつける!!」

 

統夜はホラーが本来の姿を現わす前にトドメを刺そうと魔戒剣を振るった。

 

すると……。

 

「……クゥーン……」

 

ホラーはダメ元で目をウルウルとさせ、統夜の良心に訴えかけようとした。

 

ホラー自身もこんなやり方が通用する訳がないと思っていたのだが……。

 

「……くっ!」

 

どうやら統夜には効果てきめんのようであり、統夜はホラーにトドメを刺すことは出来なかった。

 

「えぇ!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「そこは通用するんですか!?」

 

唯たちはホラーにトドメを刺せない統夜に驚きを隠せずにいた。

 

『おい、統夜!何を迷ってる!相手はホラーだぞ!』

 

「わかってるよ!だが、ホラーでもこんな可愛い容姿をした奴、俺には斬れないよ!」

 

『あのなぁ……』

 

魔戒騎士である前に重度の動物好きと改めて統夜のことを認識したイルバは、ジト目になりながら統夜に呆れていた。

 

「……今だ!」

 

ホラーはこの隙を見逃さず、後ろ脚で統夜を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ……」

 

統夜はホラーにトドメを刺すことが出来ず、手痛い反撃を受けてしまった。

 

『おい、統夜。どうするつもりだ?あいつ、今のに味をしめてまたあんなことをしてくるぞ!』

 

「そんなこと言われても……」

 

イルバの言う通り、可愛い仕草で同情を誘う作戦が有効であるとわかったホラーは自分が危なくなるとこのような攻撃を仕掛けてくるのは必至だった。

 

しかし、統夜はその対抗策を全く考えられずにいた。

 

すると……。

 

「やーくん!いっそのこと、あのホラーを見ないで戦えばいいんだよ!」

 

唯は統夜にこのようなアドバイスを送っていた。

 

「唯先輩!いくらなんでもそれは無茶ですよ!」

 

梓は唯のアドバイスが無謀なものだと思っていた。

 

同じことを思っていた律、澪、紬もウンウンと頷いていた。

 

しかし……。

 

『!それだ!統夜、奴を目で見ようとするな!目を閉じて、心の目で見るんだ!』

 

「なるほど!それなら!」

 

打開策が見つからない統夜は、唯のアドバイス通り戦うことにした。

 

目を閉じた統夜は、精神を研ぎ澄ませ、ホラーの気配を追っていた。

 

ホラーはあちこち動き回り統夜を翻弄しようとするが、統夜はホラーの気配を的確に読み取り、その居場所を追っていた。

 

そして……。

 

『……!統夜、来るぞ!!』

 

「あぁ!……そこだぁ!!」

 

ホラーが統夜に迫り、攻撃を仕掛けようとするが、統夜は読み取った気配の方を向き、魔戒剣を一閃した。

 

その一撃は見事にホラーを捉え、ホラーは地面に叩きつけられた。

 

「グルル……!魔戒騎士め……!こうなったら、本気で貴様を喰らってやる!」

 

これ以上はこの姿で戦えないと判断したホラーは、本来の姿を現わすことにした。

 

ホラーは可愛らしい犬の姿から、厳つい犬の怪物に姿を現した。

 

「……うん、この姿は可愛くないな……」

 

目を開けて、ホラーの本来の姿を見た統夜だったが、その姿は可愛いとは思えず、統夜はジト目でホラーを見ていた。

 

『統夜。奴がヘルビーストだが、ホラーがこんな姿なら斬るのに躊躇うことはないよな?』

 

「あぁ。問題ない。だから一気に決着をつけてやる!」

 

統夜は魔戒剣を力強く握り締め、ヘルビーストを睨みつけていた。

 

「……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜はヘルビーストに向かってこのような宣言をすると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。

 

『統夜!ヘルビーストは見た目は厳ついが、そのスピードはかなりのものだ!油断するなよ!』

 

「わかった!」

 

統夜は皇輝剣を構えると、ヘルビーストを睨みつけた。

 

ヘルビーストは、先ほど以上のスピードで統夜を翻弄していた。

 

「くっ……」

 

先ほどはホラーを捉えられた統夜であったが、ヘルビーストのスピードはかなりのものであり、統夜はヘルビーストのスピードに苦しんでいた。

 

ヘルビーストは爪による攻撃を何度も繰り出し、奏狼の鎧に攻撃を仕掛けた。

 

「ぐぅ……」

 

爪による攻撃では奏狼の鎧に傷をつけることは出来なかったが、ダメージは与えられるため、統夜は痛みで表情を歪ませていた。

 

『……おい、統夜!このままだとまずいぞ!』

 

「大丈夫だ、奴の動きは見切った!」

 

統夜は攻撃を受けながらヘルビーストの動きを見極め、ついにはヘルビーストの動きを見切ることが出来た。

 

そんなこととは知らず、唯たちはヘルビースト相手に苦戦している統夜を心配そうに見つめていた。

 

そして、素早い動きで統夜を翻弄したヘルビーストは統夜にトドメを刺すために統夜に迫った。

 

「……そこだぁ!」

 

統夜はギリギリまでヘルビーストを引きつけると、爪による攻撃が迫る直前に皇輝剣を一閃した。

 

その一撃により、ヘルビーストの体は真っ二つに斬り裂かれた。

 

体を真っ二つに斬り裂かれたヘルビーストは断末魔をあげながら消滅した。

 

ヘルビーストを討滅したことを確認した統夜は、鎧を解除した。

 

「ふぅ……」

 

ヘルビーストとの戦いは予想以上に壮絶だったからか、統夜は一息ついてから元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

魔戒剣を鞘に納めたことを確認した唯たちは、そのまま唯たちに駆け寄った。

 

「統夜先輩、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、なんとかな」

 

「本当に大丈夫か?あのホラー、ずいぶんと手強そうだったけど」

 

「俺1人だったら危なかったかもな。だから、幸太さんや唯たちには感謝してるよ。ありがとな」

 

今回ヘルビーストを倒せたのは、1人の力だけではなく幸太や唯たちの手助けのおかげでもあったので、統夜は素直に幸太や唯たちにお礼を言っていた。

 

「うぅん。私たちは何もしてないわ。だけど、そう言ってもらえるのは嬉しいわ♪」

 

紬は、統夜の感謝の言葉が嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべていた。

 

それは唯たちも同じ気持ちだったのか、唯たちも笑みを浮かべていた。

 

「幸太さんもありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「お礼を言われるほどじゃない。だけど、少しでも統夜君の力になれたのなら良かったよ」

 

幸太は、少しでも統夜の手助けが出来たなら本望と思っており、笑みを浮かべていた。

 

「ホラーも倒したから、仕事は終わりだろう?だったら、どこかでご飯を食べに行かないか?奢るぞ」

 

「え、本当ですか?やったぜ!」

 

幸太が夕食を奢ってくれるということに、律は喜びを表していた。

 

「え?でも、いいんですか?」

 

「俺は社会人だしな。高校生に金を払わせる訳にはいかないさ」

 

「おぉ……!」

 

「さすが、大人ですね……」

 

唯と梓は、幸太の大人な対応に関心していた。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「はい。幸太さん、ご馳走になります」

 

こうして、ヘルビーストを討滅した統夜は、幸太の奢りで夕食を食べに行くことになり、移動を開始した。

 

その後、桜ヶ丘某所にある飲食店で統夜たちは食事をしながら幸太と話をしたり、学園祭で行うライブの曲について話をしていた。

 

食事タイムが終わると、統夜たちは幸太と別れ、統夜は唯たちを家に送ってから家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『やれやれ、歌詞を考えるのは意外と難しいんだな。どいつもこいつもまともな歌詞が出てこないぜ。次回、「歌詞」。心に込もる歌詞は完成するのか?』

 

 




幸太が有能すぎる(笑)

イルバが関心して認めるというのは相当だと思います。

だからか幸太がマジで一条さんのようなポジションになりそうだ(笑)

統夜の弱点というのは、動物好きのため、動物に憑依したホラーが相手だと、つい手が鈍ってしまうというものでした。

魔戒騎士として一人前に成長した統夜ですが、統夜のまだまだ未熟な部分が垣間見えたと思います。

さて、次回は統夜たちが新曲の歌詞を一生懸命考えます。

そのため、とある作品の歌詞が登場するかも……?

そこも踏まえて、次回を楽しみに!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。