牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第88話になります。

今回は前回の続きで、今回も梓メインの回になっております。

軽音部のだらけた雰囲気に馴染んでしまい、それを何とかしたいと悩む梓ですが、統夜はその悩みを解決させられるのか?

それでは、第88話をどうぞ!




第88話 「先輩 後編」

マラソン大会も終わり、学園祭も少しずつ迫っていたある日の放課後、統夜たちは律の宿題を手伝うために律の家に訪れていた。

 

本来なら律1人の力でなんとかしてもらいたいところだったが、課題を放っておいて部活をするのはどうかという澪の考えから、律の宿題を手伝うことにしたのである。

 

律の家に移動中、統夜は訝しげな表情で梓のことをチラチラと見ていた。

 

今日の梓の様子が少しだけおかしいと感じていたからである。

 

イルバもそれは感じ取っていたのだが、あえてその話題には触れなかった。

 

律の家に到着した統夜たちは、そのまま律の家に入った。

 

「「「「「お邪魔しまーす!」」」」」

 

こう言って玄関で靴を脱ごうとすると、トイレから水が流れる音が聞こえ、トイレから中学生くらいの少年が出てきた。

 

「姉ちゃん?帰ってきたなら洗濯もん入れとけって……」

 

その少年は律のことを姉ちゃんと言ったことからも、律の弟であることが思われ、律の弟は統夜たちの姿を見ると動きが固まっていた。

 

「よっ、聡(さとし)!」

 

そんな中、澪は律の弟とも親しいのか、親しげに律の弟の名前を呼んでいた。

 

「あっ、みんな軽音部の友達」

 

律は自分の弟……聡に統夜たちのことを紹介した。

 

「「「「お邪魔します!!」」」」

 

律と澪以外の4人が聡に挨拶をしていた。

 

「……あ、あぁ……どうも……ん?」

 

聡はただ1人の男子である統夜の存在が気になったのか、統夜のことをジッと見ていた。

 

「なぁ、姉ちゃん。この人、姉ちゃんの彼氏……じゃないよな?」

 

「なっ!?ち、違うって!!」

 

聡の唐突な質問に律の顔は真っ赤になっていた。

 

「だよなぁ。そこのお兄さん、すごくイケメンだし、姉ちゃんじゃ釣り合いそうにないもんなぁ」

 

統夜が律の彼氏ではないということに、聡は納得していた。

 

「聡!!」

 

「ひゃあ!!そ、それじゃあごゆっくり!!」

 

律は恥ずかしさから聡を怒鳴りつけるが、聡は逃げるようにリビングへ逃げていった。

 

「……聡のやつ、後で覚えてろよ……」

 

律はこう呟きながらぷぅっと頬を膨らませていた。

 

統夜たちはそのまま家にあがると、律の部屋に入り、律の宿題を手伝うことにした。

 

ちなみに統夜は家庭科の課題の時はスカートではなく、ズボンを作っていた。

 

統夜自身手先がそこまで器用ではないが、どうにか完成させていた。

 

今手伝うのは律の課題であるのだが、紬が中心となりスカート製作を行っていた。

 

「……へぇ、ムギって手際いいな」

 

統夜は手際良くミシンを操る紬をジッと見ながら感心していた。

 

「エヘヘ……。統夜君に褒められちゃった♪」

 

紬は統夜に褒められて嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべていた。

 

紬がスカートを縫っている間、統夜は特にやることがないので、紬の作業をジッと見ていた。

 

そして、いつの間にか律が姿を消しており、そんなことは気にすることなく、紬はスカートを縫っていた。

 

「……あれ?りっちゃんは?」

 

唯たちも律がいないことに気付いたのか、周囲を見回していた。

 

「そう言えば、下に行ったっきりかも……」

 

律はスカート製作を始めてすぐ、下に行き、そのまま戻って来なかった。

 

『やれやれ……。自分の課題を放っぽり出して何やってるんだか……』

 

イルバは課題を紬に任せっきりにしている律に呆れていた。

 

すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえると、律の弟である聡が中に入ってきた。

 

「どうした、聡?」

 

「姉ちゃんが呼んでこいって」

 

「?何だろう?」

 

「とにかく、行ってみるか」

 

統夜たちは聡の案内で下に降り、リビングに向かうと、律が食事の準備をしていた。

 

「おぉ!これ、全部りっちゃんが作ったの?」

 

「そうだぞぉ」

 

「うわぁ♪いい匂い♪」

 

「りっちゃん、わざわざありがとぉ♪」

 

「ありがとうございます!」

 

唯、律、梓の3人が夕食の用意をしてくれた律にお礼を言っていた。

 

「いいっていいって。宿題手伝ってもらっただけじゃ悪いじゃん?」

 

(へぇ、律のやつ、ちゃんと考えてたんだな……)

 

《ま、そういうことならまだ許せるよな》

 

統夜とイルバは、律がみんなのために料理をしていたということに感心していた。

 

「さぁ、みんなで食べようぜ!」

 

「それじゃあ、遠慮なく頂こうぜ!」

 

一人暮らしである統夜は、ここで夕食をご馳走になるとは思っていなかったので、嬉しいという気持ちを大々的に出していた。

 

統夜たちはそれぞれ座って食卓を囲んでいた。

 

「えっと……。これで全部揃ってるかなっと……」

 

律はテーブルを見回して、作ったものが全部揃ってるかをチェックしていた。

 

「澪、そっちにお茶ある?」

 

「あぁ。大丈夫」

 

食卓に足りないものはないようであり、食事の準備は万全だと思われたのだが……。

 

「……律先輩」

 

「ん?何か足んなかった?」

 

梓が何かに気付いたのだが、何故か頬を赤らめていた。

 

「そういう訳ではないんですけど……。やや食卓にそぐわないものが……」

 

統夜たちは梓が視線を向けた方向を見ると、綺麗に洗濯物が畳んであったのだが、一番上に男物のパンツが乗っていた。

 

「……すまん。父のだ……」

 

「アハハ……ま、そうだろうな……」

 

『ま、パンツを見ながら飯は食いたくないよな』

 

聡は現在二階にいるため、イルバはこのように口を開いていた。

 

「……あっ、こちらこそ、何かすいません……」

 

梓の反応はもっともなのだが、何故か申し訳なさそうにしていた。

 

「ピンクだね」

 

「皆まで言うな!」

 

(……律の親父さん、随分と洒落たパンツを履いてるんだな……)

 

《……よく言うぜ。お前もそんなパンツを何枚か持ってるくせに!》

 

(おまっ!?絶対それみんなの前で言うなよ!!)

 

イルバが統夜の履いてるパンツの話をすると、統夜は顔を真っ赤にして、ムキになっていた。

 

「……?統夜先輩?どうしました?」

 

「な、何でもない!」

 

急に顔を赤らめる統夜を見ていた梓は首を傾げていた。

 

その間に律は父のパンツを始め、他の洗濯物を見えない場所まで移動させると、ふぅっとため息をついていた。

 

「それじゃあ、気を取り直して……」

 

この言葉と共に律は両手を合わせていたので、統夜たちも同じく両手を合わせた。

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

「はい、召し上がれ♪」

 

(……何か、こういうのっていいよな……)

 

幼い頃に両親を亡くし、その後も魔戒騎士になるために厳しい修行を積んできた統夜にとって、このような暖かい食卓は憧れそのものだった。

 

しかも、大切な存在である唯たちと同じ食卓でご飯を食べてるというのが嬉しかったのか、統夜はご飯に手をつけずに笑みを浮かべていた。

 

「……?どうした、統夜?冷めるから早く食べろよな」

 

「あ、あぁ。悪い悪い。いただきます!」

 

統夜は気を取り直してこの日の主食であるハンバーグを一口食べた。

 

「……!美味いな!」

 

律手作りのハンバーグが絶品だったのか、統夜は満面の笑みを浮かべていた。

 

「はい!本当に美味しいです!」

 

梓も予想以上に美味しかったからか、思わず声をあげていた。

 

「そうかぁ?良かった……」

 

「うん!ご飯もすっごく美味しい!」

 

「そりゃあ、我が家自慢の炊飯器ですから♪」

 

唯はハンバーグだけではなく、ご飯も美味しいと思っており、律は炊飯器が優秀なおかげだと説明していた。

 

「律、ご飯好きだもんな」

 

「えぇ!日本人ですからね!」

 

律は根っからのご飯派であり、昼食も弁当やおにぎりである率が高かった。

 

律とは長い付き合いである澪は、律がご飯派だということをよく理解していた。

 

「ご飯は凄いもんね!あっ、でも朝はパンの時もあるよ。イチゴジャム美味しいしね♪」

 

「私はどっちだろう……」

 

唯は強いて言えばご飯派であり、梓はどっち派か決めかねていた。

 

「……俺はどっちも好きだが、強いて言えばパン派だな。昼飯はほとんどパンだし」

 

「そう言えば、統夜君っていつも購買でパンを買っていたわよね?」

 

紬は、統夜が購買でよくパンを買っていることをよく理解していた。

 

それは紬だけではなく、唯たちもよく理解していたのだが……。

 

「馬鹿者!日本人なら米食え米!!」

 

『おいおい……。昭和の頑固親父みたいなこと言ってるぞ……』

 

ご飯派である律が昭和のお父さんのような台詞を言っていたので、イルバは呆れていた。

 

こうして、統夜たちは楽しく話をしながら夕食を楽しみ、夕食の時間は穏やかなものになった。

 

夕食をご馳走になった後、統夜は番犬所へ向かうのだが、指令はなかったため、街の見回りを行ってから帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

〜梓 side〜

 

 

 

 

翌日の昼休み、私は昨日の出来事を憂や純に話すと、2人は思い切り笑っていた。

 

「アハハ!なんだぁ、結局律先輩の家に遊びに行っただけじゃん!」

 

「うぅ……。違うよ!課題しに行ったんだもん!」

 

私は素直に認めるのが悔しかったから、こう言って反発していた。

 

「でもいいなぁ、律さんの手料理!」

 

「うん!それは本当に美味しかったよ!」

 

「おっと、自慢ですかぁ?妬けますなぁ」

 

あぅぅ……。純め、ニヤニヤしながらからかって来て……。

 

「そ、そんなんじゃないし!」

 

「まぁまぁ。こういうのもたまにはいいんじゃない?寄り道も必要だって」

 

「そうかなぁ……」

 

「そうだよ」

 

まぁ……。確かに純の言うことも一理あるけど……。

 

……って!!

 

寄り道ばっかりだから困ってるんじゃない!!

 

 

 

 

 

そして、この日の放課後、私は音楽準備室に通じる階段の前に来ていた。

 

本当にこのままじゃダメだよね……。

 

だから今日こそは絶対絶対ぜーったい!!

 

「カムバックわ__」

 

カムバック私!!って言おうとしたんだけど、上からギターの音が聞こえてきた。

 

……あれ?この曲……キーは違うけど、ワルキューレの曲……だよね?

 

ということは……統夜先輩だ!

 

私は階段を駆け上がって音楽準備室のドアの窓を覗くと、統夜先輩がギターを奏でていた。

 

……あっ、今から歌うのかな?

 

この曲って、確かワルキューレの「GIRAFFE BLUES」だったっけ?

 

ドラマの主題歌になってたよね?

 

……それにしても、統夜先輩の歌は上手いな……。

 

それだけじゃなくて、力強さとか、優しさとか、色んな感情が伝わってくるんだよね……。

 

このまま……ずっと聞いていたいな……。

 

こんなことを考えていたけど、統夜先輩の演奏は終わっちゃった。

 

それは残念だったけど、私はパチパチと拍手を送りながら部室に入ると、統夜先輩は少しだけ驚いていた。

 

「……あ、梓か。曲が終わるなり拍手が聞こえたからびっくりしたよ」

 

「すいません。統夜先輩の演奏が良かったのでつい……」

 

私はギターを構えた状態の統夜先輩のことをジッと見つめていた。

 

……やっぱり統夜先輩は格好いいなぁ……。////

 

……って!そうじゃなくて!

 

「……?梓、どうした?首をブンブン振り回して」

 

「へ?い、いや、何でもないです!」

 

「そうか?」

 

「はい!」

 

危ない危ない……。統夜先輩に見惚れてて思わずおかしな行動をしちゃったよ……。

 

……?あれ?

 

「統夜先輩、トンちゃんの水槽、掃除してくれたんですか?」

 

トンちゃんの水槽がピカピカになってて、水槽の近くにはバケツとかの掃除道具が置いてあった。

 

「あぁ。昨日からトンちゃんの水槽が汚れてると思ってたからな。今日の昼休みに掃除したんだよ。バケツは時間なくて片付け忘れたんだけどな」

 

「そうだったんですか……。すいません、統夜先輩。1人で大変な仕事をさせてしまって……」

 

「いいっていいって。俺はいつも魔戒騎士の仕事で忙しいし、この手の掃除はいつも梓がやってくれたからな。たまには俺もやらないと」

 

統夜先輩……。ただでさえ忙しいのに、そこまで考えてくれたんだ……。

 

「……トンちゃん、水槽が綺麗になって気持ちいいだろ?良かったな」

 

統夜先輩はギターを長椅子に置いてトンちゃんの水槽に近付くと、このようにトンちゃんに呼びかけていた。

 

……本当、トンちゃん、気持ち良さそうだな。

 

トンちゃんは水槽をいつもより悠々と泳いでる。

 

それに、時々統夜先輩の方を見て何か言おうとしている。

 

「ありがとう」って言いたいのかな?

 

「……うん、トンちゃんは今日も可愛いな♪」

 

あれ?そう言えば統夜先輩がトンちゃんを可愛いって言ったの初めて聞いた気がする……。

 

統夜先輩が動物好きなのは一緒に映画見た時にわかったし、統夜先輩はトンちゃんも好きなんだね♪

 

「……ところで梓、最近どうかしたのか?」

 

「ふぇ!?な、何でですか?」

 

「最近、何か思いつめた顔してたし、ブツブツ何か呟いてたりもしてただろ?それが気になってな」

 

うぅ……。私としては隠してきたつもりだったけど、統夜先輩にはお見通しだったの!?

 

「何か悩んでることがあるなら話してくれよ。俺ってそんなに頼りないのか?」

 

「いえ……!違うんです!そうじゃなくて!」

 

あぅぅ……!そんな風に言われちゃ話さない訳にはいかないじゃないですか!

 

私は仕方なく、統夜先輩に今私が抱えている悩みを打ち明けた。

 

まぁ、統夜先輩ならちゃんと話を聞いてくれそうだしね……。

 

「……なるほど、そういうことなら今までの梓の行動も納得だわ」

 

私の話を最後まで聞いた統夜先輩はウンウンと頷いていた。

 

「梓、ひょっとして焦ってるのか?学園祭も近いのにいつも通りお茶ばっかでダラダラしてることにさ」

 

「!は、はい……」

 

私はここまでの話はしなかったけれど、統夜先輩は私の心情を察してこう聞いてくれた。

 

……普段は鈍感なのに、今日の統夜先輩は鋭いな……。

 

「……ま、梓の心配はわかるが、俺は心配しなくても良いと思ってるけどな」

 

「え?」

 

「梓、お前が軽音部に入ったばかりの時もこんな感じで悩んでただろ?その時に俺が言ったこと、覚えてるか?」

 

「……はい」

 

……忘れる訳ない、あの時なんだもん。統夜先輩が魔戒騎士だって知ったのは。

 

それに、統夜先輩が悩んだ私に力を貸してくれたんだよね……。

 

「あいつらは普段だらけてるけど、やる時はやるからな。それはお前もわかってるだろ?」

 

「ま、まぁ……そうですけど……」

 

「お前だって1年以上一緒にいて、そのことを実感しただろ?」

 

「はい。統夜先輩の言う通り、先輩たちはいつもだらけてるけど、演奏してる時は楽しそうだって思いました。だからかな?自然と良い音楽を奏でられてる気がするんです」

 

先輩たちとたくさん演奏してきて、私はそのことを心から実感した気がするんだよね。

 

「それに、昨日はアドリブが弱いとか言ったけど、梓はこの1年でかなりギターが上手くなったと思うぜ」

 

『それは俺様も思ったぜ。あんなだらだらしてる部活でもお前さんはずいぶんと上達したんじゃないのか?』

 

「そ、そうかな……」

 

イルバの言葉にはちょっと棘があるけど、一応褒めてくれてるの……かな?

 

イルバが褒めてくれることなんて滅多にないからなんか嬉しいな……。

 

「だからな、俺はそこまで心配しなくてもいいと思ってるんだよ。俺はみんなを信じてるしな」

 

「はい!」

 

……何だろう……。上手く言いくるめられた気はするけど、さっきまでの悩みが嘘みたいになくなってる……。

 

統夜先輩に話を聞いてもらって正解だな♪

 

……やっぱり……。私、統夜先輩が好きなんだな……。

 

この想いが報われるかはわからないけど、これからも統夜先輩の側にいたいと思ってる……。

 

いられるかなぁ……。

 

「……?梓、どうしたんだ?」

 

「……クスッ、秘密です♪」

 

「おいおい、何だよそれ……」

 

アハハ……。統夜先輩苦笑いしてる……。

 

統夜先輩は鈍感だから私の気持ちには気付いてないよね……。

 

私のこの気持ち、鈍感な統夜先輩には教えてあげないんだから!

 

私と統夜先輩がこのようなやり取りをした直後にガチャッとドアが開く音が聞こえ、唯先輩が中に入ってきた。

 

「おう、唯。やっと来たか」

 

「あっ、やーくん!あずにゃんも来てたんだぁ!」

 

唯先輩は私と統夜先輩を見るなり人懐っこそうな笑顔を見せていた。

 

「あっ、そうだ!私、あずにゃんに教えてもらいたいことがあったんだ」

「へ?」

 

「この前、ムギちゃんからもらった曲があるでしょ?何だか難しくて……」

 

珍しいな……。唯先輩が率先してそんなこと聞いてくるなんて……。

 

確かに、統夜先輩の言う通り、心配する必要はなかったのかもね。

 

「あぁ、ギターソロのところですよね?いいですよ」

 

「うぅん、そこじゃなくて……」

 

「え?」

 

ギターソロじゃなかったらどこのことだろう?

 

私が困惑していると、唯先輩は楽譜を取り出すと……。

 

「いやぁ、どう見たらいいのかわからなくて……」

 

そ、そこから!?

 

それって楽譜の読み方がわからないってことだよね。

 

それじゃあ、ギターソロ以前の問題じゃん!!

 

統夜先輩……。そんな哀れむような目で私を見ないでよ……。

 

こうして、他の先輩方が来るまで、私と統夜先輩の2人がかりで楽譜の読み方や流れを教えていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日のとある休み時間、私は統夜先輩とのやり取りを純や憂に話した。

 

「……へぇ、音楽を楽しむことが良い演奏をすることに繋がるねぇ……」

 

「統夜さん、いいこと言うね♪」

 

「確かに、軽音部ってそんなに練習してないのに、本番になると凄くいい演奏するよね」

 

……うん、私もそう思う。

 

練習は全然かもしれないけど、本番となると、私たちの気持ちは1つになって、最高の演奏になるんだと思う!

 

そんな感じで話をしていたその時だった。

 

「梓ちゃん!いる?」

 

他のクラスの子が私を呼んでいたので、私はその子のもとに駆け寄った。

 

「はーい!何?」

 

「これ、梓ちゃんのでしょう?」

 

そう言って手渡してきたのは、「ぶ」と書かれたキーホルダーだった。

 

え……!?嘘でしょ?まさか……!

私は慌てて自分の学生鞄を見たら、いつ外れたのはわからないけど、キーホルダーがなくなっていた。

 

「合ってた?」

 

「うん!どうもありがとう!!」

 

「はーい!」

 

キーホルダーを届けてくれた子はそのまま自分のクラスへと戻っていった。

 

キーホルダーが見つかったのは良かったけど、どうして……。

 

私はキーホルダーの裏を見ると、見覚えのあるシールが貼ってあった。

 

……これは唯先輩だな……。まったく……。

 

だけど、これのおかげでこのキーホルダーが私のだってわかったんだし、後で先輩たちにお礼を言っておかないとね!

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称 side〜

 

 

 

梓のキーホルダーが知らぬ間になくなってるのが見つかり、その日のホームルームで、学園祭についての話がされていた。

 

梓たちのクラス話が喫茶店をやることになり、とりあえず来週までに希望する係りを決めておくよう先生に言われ、ホームルームは終わった。

 

「……梓ちゃん」

 

ホームルームが終わるなり、憂は梓の席まで移動をしていた。

 

「ん?」

 

「梓ちゃんは何やるの?」

 

「うーん……。どうしようかな……」

 

「私、ウェイトレスやろうかな。いらっしゃいませぇ♪って」

 

純も梓の席のところに来ていたのだが、純はウェイトレスを希望していた。

 

すると……。

 

「へぇ、それなら何猫にするの?」

 

「「えっ!?」」

 

梓の思いがけない言葉に憂と純は唖然としていた。

 

しかし、梓はおかしなことを言っているなどまったく気付いていなかった。

 

「え?だって、猫耳つけるんでしょ?」

 

「だから、なんで猫耳?」

 

純は梓の言葉に呆れているのか、ジト目になっていた。

 

「え?ウェイトレスって猫耳つけるものなんでしょ?」

 

梓は当たり前のことだと言いたげな感じでこのような発言をしていたのだが、梓のとんでもない発言にクラスメイト全員の視線が梓に集中していた。

 

「……はっ!」

 

全員からの視線を感じたことで、梓は自分の発言がおかしいということにようやく気付いていた。

 

「梓ちゃん……」

 

「やっぱり軽音部なんだね……」

 

憂や純だけではなく、クラスメイトたちは、軽音部のメンバーが他とは少しだけずれていることを再認識していた。

 

そのことに気付いた梓の顔はまるで茹で蛸のように真っ赤になり、顔面は汗でびっしょりになっていた。

 

「こんなの……こんなの、私じゃなぁぁぁぁぁい!!」

 

梓の悲痛な叫び声がクラス中に響き渡っていた。

 

統夜の励ましで今のままでいいと思っていた梓だったが、やはり昔の自分に戻った方がいいんじゃないか?と思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『魔戒騎士としてメキメキと力をつけている統夜だが、まさかこんな致命的な弱点があったとはな。次回、「弱点」。さらに、大変なことも起こってるみたいだぜ!』

 

 




前回と今回の話を照らし合わせると、梓は本当に統夜のことが好きなんだなぁというのがよくわかります。

ですが、ヒロインはまだ未定です。そろそろ決めたいなとは思っているのですが(笑)

次回は久しぶりに牙狼要素が多めの回になっています。

魔戒騎士として実力をつけてきた統夜の弱点とは一体なんなのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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