牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第87話になります!

今回は前後編となっており、梓メインの回となっております。

梓好きの皆さん、お待たせしました(笑)

梓が今抱えている悩みとは何なのか?

それでは、第87話をどうぞ!




第87話 「先輩 前編」

マラソン大会が終わってから数日が経ち、この日の放課後も、統夜たちはティータイムを楽しんでいた。

 

そんな中……。

 

「見て見て、可愛いでしょお♪」

 

唯は最近シール集めにハマっているらしく、お気に入りのシールを紬に見せつけ、紬はそれを見てニコニコしていた。

 

現在、モンブランが1個だけ余っており、梓はそれを物欲しそうに眺めていた。

 

「……梓、食べたいならもう1個食べてもいいんだぞ」

 

そんな梓の様子を見て笑みを浮かべていた統夜は、こう梓に問いかけたのだが……。

 

「え!?いいですよ、そんな……」

 

遠慮した梓は、統夜の申し出を断ろうとしていた。

 

「でも、今日は先生遅くなるからいらないって……」

 

「残しておくのも、勿体無いしな」

 

「そうだよ、あずにゃん。食べたそうな顔してるよ♪」

 

「……いいんですか?」

 

「遠慮する必要はないぞ、梓」

 

統夜が優しい表情でこう語りかけると、澪と紬がウンウンと頷いていた。

 

「……あ、ありがとうございます……。ところで唯先輩、髪に何かついてますよ?」

 

「へ?」

 

梓の指摘通り、唯の髪に何かついていたのだが、それはシールのようなものだった。

 

「唯先輩、これってシールですか?」

 

「うん!最近ハマってて。……って、痛てて!」

 

梓は出来る限り優しくシールを剥がそうとするが、どうしても髪が引っかかってしまい、唯は痛がっていた。

 

梓がシールを剥がそうとしたその時だった。

 

「梓、これ忘れ物……」

 

音楽準備室の扉が開き、純が中に入ってきた。

 

「……あっ、休憩中でした?」

 

梓は純に軽音部のだらけた一面を見られてしまい、顔を真っ青にしていた。

 

「ち、違うの!これは!」

 

梓はどうにか弁解しようとするが、弁解の言葉が見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

〜梓 side〜

 

 

……おはようございます、中野梓です。

 

昨日はいきなり純が来て焦ったな……。

 

普段から軽音部があんな感じだと思われたくないんだよな。

 

「それじゃあさ、軽音部の1日の活動内容を書いてみてよ」

 

昼休みになると、純がこう話を切り出してきた。

 

……活動内容かぁ……。参ったなぁ……。

 

「いいよ」

 

私はとりあえず平静を装って、軽音部の活動内容を書いてみた。

 

えっと……。さすがにティータイムとは正直に書けないよね……。

 

うん、こうしよう。

 

16:30〜17:30 ミーティング

 

17:30〜18:00 練習

 

18:00〜18:30 ミーティング

 

 

 

……うん、こんな感じでいいかな?

 

「……ミーティングばっかじゃん」

 

うぐっ……!痛いところを……。

 

「で、このミーティングってどんなことをするの?」

 

「へ?あー……えっと……」

 

ど、どうしよう!他愛もない話しかしてないなんて言えないよねぇ……。

 

「音楽のこととかも話すんでしょ?」

 

「あ、うん!今度のライブのタイトルはどうしようとか、曲順とか。あと、MCの時にウケるネタ作りとか」

 

「ふーん……」

 

憂、ありがとう!憂がフォローしてくれたおかげで、苦し紛れではあるけど、説明出来たよ!

 

憂が出来た子で本当に助かった……!

 

「……梓、変わったよね」

 

うっ……!1番言われたくなくて気にしてることを……!

 

「あっ、ジャズ研は学園祭に向けて練習始めてるよ?」

 

ぐぬぬ……!しかもそういうこと言うかなぁ……。

 

とりあえずここでこの話は終わって、放課後になったんだけど……。

 

やばいやばい!!すっかりあの空気に馴染んじゃってる!!

 

学園祭も近いんだもん!このままじゃいけないよね!

 

こうなったら……。

 

「カムバック私!!」

 

私は部室に続く階段の前で私はこう宣言したんだけど……。

 

これじゃあまるで唯先輩みたいだな……。

 

こうなったら……。

 

「よっしゃあ!行くぜ!」

 

音楽準備室の入り口に来た私はドアを開ける時も気合を入れてたんだけど、違和感があったからすぐに扉をしめちゃった。

 

……これじゃあ、律先輩みたいだし……。

 

……えっと……。じゃあ……。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

……ダメだ、これじゃ澪先輩だし……。

 

「それじゃあ、行きましょう♪」

 

……これじゃあムギ先輩……。

 

「……行くぞ、イルバ」

 

……って!!これじゃ統夜先輩だし!今イルバもいないし!

 

私は何度もドアを開けては閉めてこんなことを繰り返してたけど、なんだか訳がわからなくなっちゃった……。

 

いや、ここで諦めたら負ける!

 

「ふんす!!」

 

私は気合を入れて中に入るんだけど、中には誰もいなかった。

 

……あれ?まだみんなは来てなかったんだ……。

 

私はとりあえず鞄を置こうと長椅子の方へ向かったんだけど……。

 

「……何かが出てる……」

 

窓の方から明るい色の何かがあった。

 

気になるから覗いてみようかな。

 

そう思って覗き込んでみると……。

 

「……あっ、ムギ先輩!?」

 

そこにいたのは、何故かうたた寝をしているムギ先輩だった。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

ムギ先輩、何でこんなところにいるんだろう……。

 

とりあえず、私がこう訪ねたら、ムギ先輩は目を覚ました。

 

「……あれ?知らない間に寝ちゃってたぁ……。梓ちゃん、おはよぉ♪」

 

目を覚ましたムギ先輩はいつものおっとりとした笑顔を向けてたんだけど……。

 

「びっくりしましたよ、もぉ……」

 

「ここ、西陽が射し込んでて、暖かくて気持ちいいの♪梓ちゃんもどう?」

 

「いえ、いいです」

 

「そっかぁ……」

 

ムギ先輩は少しだけ残念そうな声をあげていた。

 

確かにそこは暖かそうだけど……。

 

……って、そうじゃなくて!

 

「でも、そんなところで何してたんですか?」

 

私がこう訪ねると、ムギ先輩はゆっくりと起き上がっていた。

 

「あっ……。うん!誰か来たら驚かせようと思って隠れてたの!こう……わぁ!って♪」

 

……可愛いこと考える人だな……。

 

しかもムギ先輩、「ふんす!」って言いながら気合を入れてるし……。

 

「あぁ、早く誰か来ないかなぁ♪」

 

ムギ先輩はワクワクしながら周囲を見回すと、私と目が合った。

 

あ……。まさかと思うけど……。

 

「……あっ。……わぁ!!わぁ!!」

 

やっぱり……。ムギ先輩は私を驚かそうとするんだけど……。

 

「いやいや、驚かせるって聞いた後じゃさすがに驚けませんよ」

 

私としても驚いてあげたいんだけどね……。

 

だけど、私が驚かないとわかると、ムギ先輩は涙目でしょんぼりしてしまった。

 

うっ……!これはまずい……!

 

「わ、わぁ!びっくりしたなぁ!もぉ!」

 

私は白々しいと思いながらも驚くフリをしてムギ先輩をフォローしていた。

 

ムギ先輩は私のわざと驚くリアクションを見てぱぁっと表情が明るくなっていた。

 

本当に可愛い人だな、ムギ先輩……。

 

「あの、ムギ先輩。唯先輩たちはまだですか?」

 

私は「わぁっ!!」と驚かす練習をしているムギ先輩にこう声をかけた。

 

「うん。今日はみんな掃除当番で遅くなるって。あ、統夜君は今日は日直だからみんなよりは少し遅くなるんじゃないかな?」

 

「あ、そうですか……」

 

今日はみんな遅くなるんだな……。

 

あれ?そう言えば、部室でムギ先輩と2人きりって珍しいかも……。

 

私はじっとムギ先輩のことを見つめていると、ムギ先輩は視線を感じるのか、こちらに振り向いて首を傾げていた。

 

「あっ、そうだ!私、ギターの練習をしようかな!」

 

「あっ、そしたら私はお茶の準備するわね♪」

 

ムギ先輩はお茶の準備のため、ティーカップなどの準備を始めた。

 

……改めて意識しだすと、変に緊張するな……。

 

ムギ先輩って目がすごく大きくて素敵だし、色白さんだし……。

 

って、あれ……?

 

私はギターの準備をしていたんだけど、視線を感じたので、横を向いた。

 

すると、ムギ先輩がいつの間にか私の側でギターをジッと眺めていた。

 

「って、近っ!!」

 

アハハ……。思わず声をあげちゃった……。

 

「へ?私、何か変なことをした?」

 

「えっ?あぁ、いえ……」

 

「そう?良かった♪」

 

ムギ先輩はおっとりとした笑顔を私に向けていた。

 

「……ねぇ、梓ちゃん。ギター弾くのって難しい?」

 

「へ?そうですね……。弾いてみます?」

 

「え?いいの?」

 

私がこう提案すると、ムギ先輩の表情がぱぁっと明るくなった。

 

私はムギ先輩にギターを手渡したんだけど、ムギ先輩はギターの持ち方がおかしかった。

 

「……あの、普通に持っても大丈夫ですよ?」

 

「へ?」

 

「すいません。ちょっと髪いいですか?」

 

ムギ先輩は髪を少し上げてくれた。

 

「こうやってストラップを肩にかけて……」

 

私はムギ先輩の肩にストラップをかけると、なんだかそれらしくなってきた。

 

「……ありがとぉ♪何か前にりっちゃんもこんなことをしてたよね♪」

 

ムギ先輩は鏡の前に立ち、ギターを持つその様子を眺めていた。

 

「ど……どうかな?」

 

「ムギ先輩もギター似合いますね♪」

 

「ウフフ♪」

 

ムギ先輩はギターが似合うと言われて満更でもない様子だった。

 

……あれ?鏡にシールが貼ってある。

 

唯先輩だな……。

 

「梓ちゃん、はい♪」

 

ムギ先輩はギターを弾かずにそのままギターを返してきた。

 

「どうもありがとぉ♪」

 

「弾かないんですか?」

 

「へ?」

 

もぉ……。持つだけで弾かないんじゃ意味ないじゃん……。

 

私はムギ先輩にコードの弾き方を教えたんだけど、ムギ先輩は思った以上に筋が良かった。

 

「……それじゃあ次はちょっと難しいですよ。みんな最初につまずくこのFコードなんですけど……」

 

「……これでいいかしら……」

 

「はい!いけると思いますよ!……では、どうぞ!」

 

「うん!……せーの!」

 

ムギ先輩はFコードを弾いてみたんだけど、最初にしてはいい感じだった。

 

「せーの!」

 

だけど、どんどん音が出なくなってくるのと比例してどんどんムキになってギターを弾いていた。

 

必死になってるムギ先輩、本当に可愛いな……。

 

 

 

 

 

 

「……どうぞ♪」

 

ギターのレッスンは終了し、ムギ先輩はお茶を淹れてくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「……やっぱりギターって難しいわねぇ」

 

「根気はいるかもです」

 

「そっかぁ……。私も小さい頃からピアノ習ってたけど、やっぱり毎日練習したもの。続けないと指が動かなくなるからって」

 

「あぁ、そこはギターもピアノも同じですね」

 

「本当ねぇ♪」

 

あれ……?そういえばムギ先輩ってどうして軽音部に入ったんだっけ?

 

どちらかというとクラシックとか似合いそうなのに……。

 

あんまりそういう話をしたことなかったっけ……。

 

「……へ?なぁに?私の顔に何かついてる?」

 

「え?いえ……あの……」

 

あぁ、ついムギ先輩の顔をジッと見ちゃってたな……。……って、あれ?

 

「ムギ先輩、ほっぺにクリームついてますよ?」

 

「え!?どこ!?」

 

「ジッとしてて下さい」

 

「あっ、ありがとう……」

 

私はハンカチでムギ先輩のクリームを拭き取ってあげた。

 

「……つまみ食いしてたのバレちゃった……」

 

「え?もしかして、今までも?」

 

「たまーに……」

 

ムギ先輩は恥ずかしかったのか頰を赤らめてたんだけど……。

 

 

「……プッ……!」

 

そんなムギ先輩を見てるとおかしくなって笑いが堪えられなくなった。

 

何か色々考えてるのが馬鹿馬鹿しくなってきちゃった……。

 

ムギ先輩もつられて笑い出し、私たちは笑い合っていた。

 

そしてしばらく笑い合ってると……。

 

『……お前ら、何やってるんだ?』

 

『『『うわぁ!!』』』

 

統夜先輩の声が聞こえてきたと思ったらドアが開き、唯先輩と律先輩、澪先輩がそのままなだれ込むように倒れ込んでいた。

 

「あっ!先輩たち!いつの間に!」

 

「……やれやれ……。入り口でこそこそしてると思ったら覗き見とはな……」

 

『お前ら、趣味が悪すぎるぜ』

 

「だって……面白い組み合わせだったからつい……」

 

「まぁ、気持ちはわからんでもないけどさ」

 

統夜先輩は私たちのことを覗き見していた先輩たちに呆れながら苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

とりあえず全員揃ったので、私たちは練習の前にティータイムを行なっていた。

 

「ムギちゃん♪今日のケーキも美味しいねぇ♪」

 

唯先輩は幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

「そう?良かった♪……あっ!ちょっと待っててね。渡すものがあったの!」

 

ムギ先輩は鞄の中から何かを探していた。

 

「……何だこれ……」

 

律先輩が訝しげにカップを眺めると、律先輩のカップにシールがついていた。

 

「あっ!唯先輩でしょ!あちこちシール貼って!」

 

「可愛いでしょお♪」

 

「ダメですよ!」

 

『まったく……。あちこちシール貼るとかガキじゃないんだから……』

 

「むぅぅ……。イルイルの意地悪……」

 

『だから俺様を変なあだ名で呼ぶな!』

 

アハハ……イルバってばまだ言ってるよ……。

 

こんだけ言われてるんだからいい加減諦めればいいのに……。

 

私だって唯先輩に散々「あずにゃん」って言われてるんだから……。

 

「お待たせぇ♪今度の学園祭用に新曲書いてみたのぉ♪」

 

おぉ!ムギ先輩、新曲作ったんだ。

 

そういえば統夜先輩も新曲作ってたから、学園祭でやる曲が2曲決まったのかな?

 

「さすがムギだな!」

 

「エヘヘ……♪」

 

統夜先輩に褒められて、ムギ先輩満更でもなさそうだな……。

 

「そんなムギちゃんに!はい!」

 

唯先輩は懲りずにシールを見せていた。

 

しかも「たいへんよくできました」って……。

 

「やれやれ……小学生じゃないんだから……」

 

『統夜、奇遇だな。俺様も同じことを思っていた』

 

統夜先輩とイルバが私の思ってたことを代弁して苦笑いをしていた。

 

こんな感じでこの日も練習はほとんどなくて、ティータイムばかりだった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み、私は昨日のことを憂や純に話したんだけど、2人は思いきり笑っていた。

 

「お姉ちゃん、ハマると一直線だから……」

 

「それにしても、ムギ先輩も可愛いところがあるね」

 

「ちょっと不思議なところもある人だけどね」

 

「気付いたら近くにいるってさ、きっと瞬間移動だよね!?」

 

「……いや、ないし……」

 

それはさすがにあり得ないでしょ……。

 

やれやれ、純は相変わらずだなぁ……。

 

「でも、確かにお嬢様なのに世話好きっていうのは素敵だよね♪」

 

「そうなんだよ!お茶とか用意してくれる時はいつも生き生きしてて……」

 

「で、梓はそのお茶が毎日楽しみだと」

「そ、そんなことないもん!」

 

いけないいけない。純がニヤニヤしながらからかってくるからついムキになっちゃった……。

 

「まぁまぁ♪それにしても、そのムギ先輩がちゃっかり味見してたなんてね♪」

 

「そうなんだよ!」

 

こう言って私たちは笑い合っていた。

 

……!!ちょ、ちょっと待ってよ!!

 

ムギ先輩を可愛いと思うために部室に行ったんじゃなかった!!

 

そして、放課後になり、私は音楽準備室の前に来ていた。

 

「よし……今度こそ……。カムバック私!!」

 

私は昨日のように拳を突き上げてこう宣言したんだけど……。

 

「なんか違うよね……」

 

私がこう呟いて、中に入ろうとしたその時だった。

 

「……何が違うんだ?」

 

「ギャー!!!」

 

後ろから統夜先輩の声が聞こえたもんだから、思わず声をあげちゃったよ……。

 

……びっくりしたなぁ、もう……。

 

「うぉ!?な、何だよ!」

 

びっくりしたのは統夜先輩も同じみたいだった。

 

「す、すいません!後ろから急に声をかけられたから、びっくりしてつい……」

 

「そ、それは悪かったな……」

 

統夜先輩は素直に謝りながら音楽準備室のドアを開けると、私は統夜先輩と一緒に中に入った。

 

「ど……どうしたんだ?さっき凄い叫び声が聞こえてきたけど……」

 

私の叫び声が聞こえていたのか、長椅子に座っていた澪先輩がビクビクと怯えていた。

 

「あっ……いえ……大丈夫です……」

 

「本当にごめんな、梓。ドアの前で梓が何か言ってたのが気になって声をかけたんだけど……」

 

うぅ……。統夜先輩にあれ聞かれてたの!?恥ずかしい……。////

 

「と、ところで、他の先輩方は?」

 

私は恥ずかしいから、とりあえず別の話題を振ることにした。

 

「日直とかいろいろあってな……」

 

今日も他の先輩方は遅くなるのかな?

 

澪先輩と統夜先輩ならとりあえず……。

 

「3人で練習始めましょうか!」

 

この3人なら実りある練習が出来そうだしね♪

 

「そうだな……。だけど、ちょっと待ってて。そろそろ弦を張り替えたいんだ」

 

そう言いながら澪先輩は弦の交換を始めていた。

 

「それじゃあ、梓。2人でセッションでもするか?」

 

「はいっ!!」

 

良かった……。今日はちゃんと練習出来そうだよ……。

 

私と統夜先輩はギターケースからギターを取り出して、演奏の準備を始めた。

 

「……梓、まずはお前が何か弾いてみてくれ。俺はその梓の演奏に合わせるからさ」

 

統夜先輩は私に即興の演奏を要求してきた。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

私はとりあえず昔から練習していたジャズのメロディを弾いてみたんだけど、統夜先輩はそれに合わせて伴奏やハーモニーを奏でていた。

 

それにしても凄いな、統夜先輩は……。

 

即興でこんなことが出来るんだもん……。

 

澪先輩は私と統夜先輩の演奏に聞き入りながら弦の交換を行っていた。

 

そして、私と統夜先輩の即興演奏は終了した。

 

「……うん、さすがだな、梓。また腕が上がったんじゃないか?」

 

「そ、そうですかね……」

 

私は統夜先輩に褒められたのが素直に嬉しかった。

 

どうしよう……!嬉しいし、恥ずかしいから顔が赤くなってる!

 

「……それじゃあ、今度は逆でやってみるか」

 

「逆……ですか?」

 

「あぁ。俺が即興で演奏するから、梓はそれに合わせてアドリブで弾いてみてくれ」

 

「は、はい!」

 

アドリブかぁ……。

 

もしかしたら私ってアドリブは苦手かもしれないなぁ……。

 

私がそんな心配をしながらも統夜先輩はギターを奏で始め、私は出来る限りそれに合わせて演奏していた。

 

だけど……。

 

アドリブで弾くのって意外と難しいな……。

 

ジャズとかだったらアドリブで弾くことを求められることはあるけど、軽音部の曲は決まった譜面があるからね……。

 

最近全然ジャズの曲をやってないから、アドリブ力が弱くなってるのかなぁ?

 

そんなことを考えながら私はギターを奏で、どうにか即興の演奏は終了した。

 

「……」

 

演奏終了後、統夜先輩はさっきの演奏を吟味するかのようにじっくりと考え事をしていた。

 

うぅ……。何言われるんだろう。緊張するなぁ……。

 

「……梓の演奏はやっぱり上手いな。下手したら先輩である俺なんかよりずっと……」

 

「いえ、そんな……」

 

「だけど、アドリブ力はちょっと弱いかもな。俺たちの曲は楽譜があるからいいけど、アドリブ力が強くなれば、梓はもっともっとギターが上手くなると思うぞ」

 

統夜先輩が指摘してくれたのは、私自身も感じていたことだった。

 

最近はジャズの勉強もしてなかったし、たまにはジャズの勉強もしようかな……。

 

「……なんてな。ごめんな、梓。アドリブ力が弱いとかちょっと偉そうだったかな?」

 

厳しい指摘を終えた統夜先輩は優しい表情でおどけていた。

 

優しいところと厳しいところがある。それが統夜先輩の良いところだよね!

 

「い、いえ。気にしないで下さい!私だって統夜先輩にもっともっとギターを教わりたいって思ってるんですから!直すべきところはどんどん言って欲しいです!」

 

軽音部自体が緩すぎだからね。ちょっとくらい厳しい方が私としてはちょうどいいんだよね。

 

今の軽音部の空気も嫌いじゃないけどさ。

 

「まぁ、俺としては梓に教えられることはあんまないかもだけど、出来る限りのことはするよ」

 

「よろしくお願いします!」

 

こうして、私と統夜先輩のセッションは終了した。

 

すると……。

 

「統夜、梓、お待たせ。私も混ぜてくれよ!」

 

ベースの弦の張り替えを終えた澪先輩がこちらにやってくると、セッションのお誘いをしてくれた。

 

「……そうだな。3人で何か演奏するか」

 

「はいっ!」

 

そうそう。これ!これだよ!

 

これこそが軽音部にあるべき姿なんだよ!

 

「……カムバック私♪」

 

「?梓、今何か言ったか?」

 

「へ?い、いや!何でもないですよ!」

 

「本当か?」

 

「はい!」

 

「……だといいけど……」

 

ふぅ……。危ない危ない。

 

思わず本音が口に出ちゃったから、危うくバレるところだったよ。

 

それにしても……。

 

「……何かこうしてると、本当の軽音部っぽいですよね!」

 

『おいおい、ぽいじゃなくて軽音部だろ?そう思う気持ちもわからなくもないがな』

 

アハハ……。イルバがジト目でこっちを見てるけど気にしない気にしない!

 

「さぁ、始めましょうか!」

 

私たちが3人でセッションを始めようとするんだけど、バン!!と勢いよくドアが開く音が聞こえてきた。

 

律先輩が中に入ってきたんだけど、唯先輩とムギ先輩も一緒だった。

 

「なんだ律か……。どうしたんだ?びっくりしたじゃないか」

 

「うぅ……。澪ぉ!!」

 

律先輩が急に澪先輩に泣きついてきた。

 

「家庭科の宿題手伝って!」

 

「家庭科?って何かあったっけ?」

 

「りっちゃんはスカートが縫えないのです」

 

「あぁ、そういえばそんなのがあったっけ……」

 

何かを思い出した統夜先輩は苦笑いをしていた。

 

「お前も出来ないだろ!?」

 

「私は憂に手伝ってもらいます!」

 

『おいおい、それを偉そうに言うなよな……』

 

宿題を憂に手伝ってもらうとハッキリ言う唯先輩にイルバが呆れていた。

 

まぁ、私もそう思ったんだけどね……。

 

「律、ボタン付けは上手いのに……」

 

「ミシンじゃん!機械苦手なんだもん……」

 

へぇ、律先輩ってボタン付けは得意なんだ。

 

ちょっと意外だな……。

 

「……仕方ない……。課題放っておいて部活は出来ないしな……」

 

え!?澪先輩ちょっと待って!?ってことは……。

 

「りっちゃん、私も手伝うね♪」

 

ムギ先輩まで!?

 

「それじゃあ、みんなでりっちゃんの家に行こうよ!」

 

「えぇ!?」

 

何だろう……。このまま律先輩の家に行くビジョンしか見えないんだけど……。

 

「あ、あの……。練習は?」

 

私は嫌な予感がしながらも澪先輩に聞いてみたんだけど……。

 

「どうした、梓。行かないのか?」

 

「うっ……。と、統夜先輩……」

 

「梓の気持ちは察するけど、今日の練習は無理だろうな」

 

『ま、いつものことと言えばそうだが、今日は諦めろ、梓』

 

や、やっぱりそうなっちゃうのぉ!?

 

これじゃあカムバックなんて言ってられないよね……。

 

結局はこうなるんだもんね……。

 

私たちはとりあえず楽器の片付けを済ませると、そのまま律先輩の家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なるほどな。梓の悩んでることはわかったぜ。さて、統夜。梓の悩みをどう解決するんだ?次回、「先輩 後編」。先輩としての真価が試されるぜ!』

 




何故だろう。統夜の真似をする梓を想像すると凄く萌えるんだけど(笑)

この話は「けいおん!!」の中でも好きな話になっています。けいおんは全話好きなんですけどね(笑)

そしてこの回はムギが可愛い(笑)

ムギ好きの人が「むぎゅぅぅぅぅぅぅぅ」と言いたくなるのはわかる気がします(笑)

律や統夜と遊ぶ会もムギは可愛いかったですが(笑)

僕は唯推しですが、唯が好きだと自然と梓も好きになる不思議(笑)

それはともかくとして、次回は今回の続きとなります。

統夜は先輩として、梓の悩みを解決させられるのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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