牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第84話になります。

今回も夏休みの話になるのですが、今回は霊獣が登場する回になっております。

ですが、「makaisenki」や「魔戒ノ花」の霊獣回とは異なる部分が多いですが、どちらかというと、「魔戒ノ花」の霊獣回寄りになっています。

少し「え?」となるような展開があるかもですが、そういったツッコミはなしの方向でお願いします(笑)

それでは、第84話をどうぞ!





第84話 「幻想」

長い夏休みも徐々に終わりに近付き、後10日程で夏休みは終わろうとしていた。

 

そんなある日の夜、統夜は番犬所からの指令を受けて桜ヶ丘某所にある廃工場に来ていた。

 

「イルバ……ここか?」

 

『あぁ、この先から邪気を感じるぜ。統夜、油断するなよ』

 

統夜は魔戒剣を取り出すと、いつでも抜刀出来るよう準備をしていた。

 

すると……。

 

『……統夜!あそこだ!!』

 

どうやらホラーは近くにいたようで、統夜もホラーの姿を捕捉した。

 

そのホラーは素体ホラーなのだが、素体ホラーは何故か大きな卵を大事そうに抱えていた。

 

「貴様……魔戒騎士か!?貴様もこいつを狙ってるのか!?絶対に渡さんぞ!!」

 

素体ホラーは何故か大きな卵を統夜から守ろうとしていた。

 

『……!統夜、あれは霊獣の卵だ!』

 

「へぇ、霊獣って卵から生まれるのか……」

 

統夜は霊獣の卵を初めて見たので、霊獣の子供が生まれる仕組みを知り、感嘆していた。

 

『何故ホラーがそれを狙ってるかは知らんが、統夜、そいつをホラーの好きにさせるな!』

 

「わ、わかったよ!」

 

統夜はとりあえず魔戒剣を抜くと、素体ホラーを睨みつけた。

 

「おのれ……!こいつは渡さんぞ!!」

 

素体ホラーは霊獣の卵を安全な場所に置くと、そのまま統夜に襲いかかった。

 

「くっ……!」

 

統夜は素体ホラーの一撃を魔戒剣で受け止めたのだが、予想以上のパワーに驚いていた。

 

「こいつ……。素体ホラーのくせにやる……!」

 

素体ホラーといっても個体値の差はあり、低級ホラー並の力を持つ素体ホラーも少なからず存在する。

 

今回統夜が相手にしている素体ホラーは強個体のようであり、その力は統夜を驚かせていた。

 

しかし……。

 

「これ以上、貴様の好きにはさせない!」

 

統夜は蹴りを放って素体ホラーを吹き飛ばすと、すかさず魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

鎧を身に纏った統夜は素体ホラーに接近すると、皇輝剣を一閃した。

 

その一閃で素体ホラーの体は真っ二つに斬り裂かれた。

 

「……お、おのれ……!俺が、そいつの……親に……」

 

こう最期の言葉を残すと、素体ホラーの体は爆散し、消滅した。

 

素体ホラーが消滅したことを確認した統夜は鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

そして統夜は素体ホラーが守ろうとしていた霊獣の卵を回収した。

 

「……これが霊獣の卵……」

 

『俺様も実際に見るのは初めてだぜ』

 

そもそも霊獣というのは簡単に会える存在ではなく、その卵を見る確率はゼロに近いと言っても言い過ぎではないのである。

 

「とりあえず番犬所にこいつを持っていくか」

 

『そうだな。こいつは番犬所が何とかしてくれるだろう』

 

統夜は家に帰る前に霊獣の卵を番犬所に届けることになり、番犬所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……これが霊獣の卵ですか……」

 

番犬所に到着するなり、統夜はイレスに霊獣の卵を預けた。

 

「私も本物を見るのは初めてなんですよ」

 

「霊獣自体、見ることは珍しいですからねぇ」

 

統夜も実際に霊獣を見たことはなく、そんな霊獣の卵を見つけたことに驚いていた。

 

「統夜、霊獣の卵をホラーから守ってくれてありがとうございます。この卵は番犬所が責任を持って親元に返そうと思っています。統夜はゆっくり体を休めてください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

統夜はイレスに一礼し、番犬所を後にしようとしたのだが……。

 

ピキピキピキ……。

 

イレスの手にしていた霊獣の卵にヒビが入り始めた。

 

「なっ!?これは……?」

 

「霊獣の雛が……孵る?」

 

統夜とイレスは、今この瞬間に霊獣の雛が孵ることに驚きながらもその様子に見入っていた。

 

そして……。

 

霊獣の卵が砕け散ると、真っ白な毛玉のようなものが飛び出してきた。

 

その毛玉のようなものこそ霊獣の雛なのだが、霊獣の雛は統夜の前に飛び出し、統夜と目があった。

 

「……」

 

統夜は霊獣の雛と目が合ったものの、どうして良いのかわからず、戸惑っていたのだが、霊獣の雛はそのままどこかへと飛び出していってしまった。

 

「!?あ、あいつ!一体どこに?」

 

「と、統夜。改めて指令を出しますが、霊獣の雛を連れ戻すのです!」

 

「わかりました。霊獣の雛は俺が連れもどします!」

 

ホラー討伐を終えたばかりなのだが、霊獣の雛を探すという指令を受けて、統夜は番犬所を後にした。

 

街を見回りながら霊獣の雛を探すが、手がかりすら見つけることは出来なかった。

 

統夜は霊獣の雛の捜索を明日に持ち越すことにして、家に帰ることにした。

 

その頃、どこかへと姿を消した霊獣の雛は桜ヶ丘某所にあるビルの屋上にいた。

 

「……」

 

霊獣の雛は屋上から見える街並みを見つめていた。

 

しばらく街並みを見つめていると、突如霊獣の雛の体から光が放たれた。

 

そして、霊獣の雛はとある姿へと変わったのであった。

 

 

 

 

 

翌日、統夜はエレメントの浄化を行いながら霊獣の雛を探していた。

 

「なぁ、イルバ。霊獣の雛の気配は感じるか?」

 

『いや、それらしい気配は感じないぜ』

 

霊獣というのは特別な存在であり、魔導輪であるイルバでさえその気配を追うことは出来なかった。

 

「そうか……。エレメントの浄化は落ち着いたし、地道に探すしかないか……」

 

統夜は霊獣の雛を見つけるのに時間がかかると予想しており、そのことに辟易してため息をついていた。

 

とりあえず霊獣の雛を捜索するために移動を開始しようとしたその時だった。

 

「あっ、やーくん!」

 

偶然近くを通りがかった唯が統夜を発見し、声をかけた。

 

「おぉ、唯。それにみんなも」

 

唯だけではなく、律たち軽音部のみんなも一緒だった。

 

「統夜先輩、もしかしてお仕事ですか?」

 

「まぁ、そんな所かな?まぁ、仕事と言っても探し物なんだけど」

 

「それって何なんだ?あたしたちで良ければ手伝うけど」

 

「うーん……。それは助かるが、俺が探してるのは見つけるのが困難だからなぁ……」

 

「?統夜、どういうことだ?」

 

澪が首を傾げながら訪ねてきたので、統夜は唯たちに事情を説明した。

 

「……ふーん……。霊獣の雛ねぇ……」

 

「それが逃げちゃったから保護するのね?」

 

「そういうこと。霊獣っていうのは魔戒騎士や魔戒法師でも見る機会はほとんどない生き物だからな、捜索が難航してたんだよ」

 

「それは大変だね!早く見つけてあげないとね!」

 

こうして唯たちも霊獣の雛の捜索を手伝うことになった。

 

全員で捜索を始めようとしたその時だった。

 

「……パパ?」

 

「?」

 

唐突に声が聞こえてきたので、統夜たちは声の方を向いた。

 

すると、小学生くらいの女の子が目をウルウルとさせながら立ち尽くしていた。

 

「……?君は?」

 

「可愛い♪」

 

統夜は目の前にいる少女の存在に困惑し、唯は可愛い女の子を見て目をキラキラと輝かせていた。

 

少女は白く長い綺麗な髪を風で揺らしながら統夜のことをジッと見つめていた。

 

そして……。

 

「パパ!会いたかった!!」

 

少女は統夜をパパと呼び、統夜に抱きついて甘えていた。

 

「え!?ちょ!?俺はパパじゃないぞ!!」

 

「えぇ?あなたは私のパパだもん!」

 

少女は統夜が自分の父親だと言って疑わなかった。

 

『おいおい、統夜。いつの間に仕込んだんだ?俺様も知らなかったぜ』

 

「ばっ、馬鹿野郎!それはあり得ないだろうが!!」

 

イルバも違うとわかっていて統夜をからかっており、統夜はムキになって返していた。

 

すると……。

 

「「「「「……」」」」」

 

唯たちがドス黒いオーラを放って統夜を睨みつけていた。

 

「……やーくんがそんな人だったなんて……」

 

「あぁ、見損なったぞ、統夜」

 

「統夜。あたしらの知らないところで子供を作ってたんだな……」

 

「統夜先輩、不潔です!!」

 

「統夜君、説明してもらえるかしら?」

 

ドス黒いオーラを放った唯たちから次々と非難の言葉が飛び出してきた。

 

「おいおい、そんな訳ないだろ!?この子がもし本当に俺の子供なら何歳の時の子供だよ!」

 

「「「「「あっ……」」」」」

 

統夜の弁解を聞いて冷静に考えた唯たちは統夜の言葉が嘘ではないことを理解していた。

 

「……それじゃあ、この子はいったい?」

 

「……それは……」

 

統夜も自分をパパと呼ぶこの少女が何者なのかわかっていなかった。

 

統夜たちが途方に暮れていたその時だった。

 

「統夜!」

 

再び統夜を呼ぶ声が聞こえてきたので、統夜たちはその声の方を見ると、その声の主は白のワンピースを着たイレスだった。

 

「い、イレス様!?どうしてここに?」

 

「統夜、今あなたに抱きついているその子が霊獣の雛なのです」

 

「へぇ、この子がねぇ……。って、えぇ!?」

 

統夜は今抱きつかれているのが霊獣の雛だと知り、時間差で驚いていた。

 

驚いているのは唯たちも同様であり、口をポカーンとさせていた。

 

「こ、この子が、霊獣の雛……」

 

「そ、そんな不思議なこともあるんだな……」

 

「そうだよねぇ。こんなに可愛いのに」

 

「そうですね……。驚きです……」

 

「うん、びっくりしちゃった……」

「?」

 

唯たちは人の姿をした霊獣の雛に驚きの言葉をあげると、霊獣の雛は首を傾げていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

統夜たちは霊獣の雛を親元に返す方法を話し合うため、近くのカフェに立ち寄った。

 

「……♪」

 

霊獣の雛は、初めて食べるケーキを嬉しそうに食べていた。

 

しかし、霊獣の雛は食べる作法など知るわけもなく、口にベタベタとクリームをつけていた。

 

「あーあ……。ほら、口にクリームがついてるぞ」

 

統夜はティッシュを取り出すと、霊獣の雛の口の周りについたクリームを取ってあげた。

 

「エヘヘ……♪」

 

クリームを取ってもらったのがくすぐったいのか嬉しかったのか霊獣の雛は年相応の女の子のような笑みを浮かべていた。

 

イレスは世話を焼く統夜の姿を見て笑みを浮かべていた。

 

「?イレス様?」

 

「いえ、統夜のお世話する姿が随分と板についてると思いましてね♪」

 

「そ、そうですかね……」

 

統夜は世話をする姿が板についてると言われ、照れ隠しに笑っていた。

 

「エヘヘ……パパぁ♪」

 

霊獣の雛は統夜のことを父親だと思っており、抱きついて甘えていた。

 

唯たちはその様子を悔しそうに見ていた。

 

(あの子……あんなに統夜にベタベタと……)

 

(私だってあんなにやーくんにベタベタしたことないのに……)

 

(ぐぬぬ……羨ましいです……)

 

唯たちはごく自然に統夜に甘える霊獣の雛を羨ましそうに見ていた。

 

霊獣の雛はその自然に気付き、ビクンと怯えていた。

 

「ぱ、パパ……。あのお姉ちゃんたち怖いよ……」

 

「大丈夫だ、怖くないからな」

 

統夜は霊獣の雛の頭を撫でると、満足そうに笑みを浮かべながらさらに統夜にギュッと抱きついていた。

 

「……それよりも、イレス様。今からこの子を霊獣に返すんですよね?」

 

「えぇ。子供と離れ離れになって親の霊獣も心配してるでしょうからね。一刻も早く親元に返さなくては……」

 

「そうですよね……」

 

統夜も霊獣の雛を一刻も早く親元に返したいという思いだった。

 

「ねぇねぇ、イレスちゃん!私たちもついていっちゃダメかな?」

 

唯は霊獣の雛を親元に返すところを見たいと提案し、4人もウンウンと頷いていた。

 

「あのなぁ。これは遊びじゃないんだからダメに決まって……」

 

「いいではないですか。私は許可しますよ」

 

統夜が反対する中、イレスがあっさりと許可を出したので、唯たちの表情がぱぁっと明るくなった。

 

「で、ですが、イレス様」

 

「一般人が霊獣を見てはいけないという掟はないですし、私は唯たちにも貴重な体験をさせてあげたいと思っているのです」

 

「イレスちゃん……」

 

「……まぁ、イレス様がこうおっしゃるなら……」

 

統夜はイレスが許可を出したため、これ以上は何も言わなかった。

 

「統夜、私は1度番犬所に戻って薬を取ってきます。統夜はその間にその子を説得してください」

 

「はい、わかりました」

 

イレスは席を立ち、そのままカフェを後にすると、番犬所に向かった。

 

「……なぁ、お前に話があるんだけど、良いか?」

 

「ん?なーに?パパ?」

 

「俺はな、お前のパパじゃないんだよ」

 

「えぇ?だってパパはパパじゃん!」

 

「お前の本当の親がな、お前を心配してお前を探してるんだ。だから、俺はお前を本当の親のところへ返さなくてはいけないんだよ」

 

「……」

 

統夜からの唐突な話に霊獣の雛はうーんと考え事をしていた。

 

すると……。

 

「……うん。わかった!」

 

霊獣の雛は素直に話を聞いてくれて、統夜は安堵していた。

 

「だけど、1つだけお願い聞いて欲しいな」

 

「お願い?」

 

「うん!あのね、私の本当の親に会うまででいいから、私のパパでいてくれる?」

 

「……あぁ。お安い御用だよ」

 

統夜は霊獣の雛の頭を撫でると、それが嬉しかったのか、霊獣の雛は再びギュッと統夜に抱きついていた。

 

統夜は優しい表情で霊獣の雛の頭を撫でていた。

 

唯たちはそれが羨ましいと思っていたが、笑みを浮かべながらその様子を眺めていた。

 

イレスが薬を手に戻ってきたところで、統夜は会計を済ませ、カフェを後にした。

 

「皆さん、この薬を飲んで下さい」

 

カフェを出るなり、イレスは透明な液体が入った小さな瓶を唯たちに手渡した。

 

「イレスちゃん、これは?」

 

「普段見えないものが見えるようになる薬です」

 

「見えないものが見える……」

 

イレスの説明を聞いた澪は怖くなって顔を真っ青にしていた。

 

「澪ぉ、怖いのか?あ、そっか!お化けが見えるかもしれないからな!」

 

「ひぃ!?」

 

律はニヤニヤしながら澪をからかうと、澪は恐怖で怯えていた。

 

「はぁ……。律、その辺にしておけ。それに、これ飲んでも霊なんて見えないから」

 

統夜はため息をつきながらイレスから渡された薬を飲み干した。

 

その様子を見ていた唯たちもイレスから渡された薬を飲み干した。

 

すると、ごく普通の風景とは打って変わり、どこもかしこもキラキラと輝いていた。

 

「ふぉぉ……綺麗……」

 

「そうだな……」

 

「あぁ、綺麗だ……」

 

「うん、すごいわ!」

 

「はい!凄いです!」

 

唯たちはイレスから渡された薬の効果でキラキラになった景色を見てぱぁっと明るい表情になっていた。

 

「それでは皆さん、行きましょうか」

 

「パパ、こっちだよ!」

 

霊獣の雛が先導し、統夜たちはそれについていった。

 

統夜たちが歩いているのはいつもの桜ヶ丘であるのだが、見えないものが見えているせいかキラキラして見えていた。

 

そんな街を見回しながらも統夜たちは桜ヶ丘某所にあるダムに向かって歩いていた。

 

「……何かこうやってみんなとお散歩するのも楽しいわね♪」

 

紬はダムに続く道を歩きながらニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「うん!私も楽しい!!」

 

霊獣の雛はこの短い期間で紬にも懐いたらしく、今は紬にくっついて歩いていた。

 

「そう言ってくれると嬉しいわ♪」

 

紬は霊獣の雛の頭を撫でると、エヘヘと年相応の女の子のような笑みを浮かべて紬にさらにくっついていた。

 

紬はまるで年下の女の子に懐かれた気持ちになって、嬉しさを表していた。

 

「やれやれ……。これは遊びじゃないんだぞ」

 

「エヘヘ……わかってるわよ♪」

 

「わよ♪」

 

紬はペロッと舌を出しながらおどけて笑うと、霊獣の雛も紬のモノマネをしていた。

 

「……まぁ、いい。先を急ごう」

 

「……クスッ」

 

イレスは紬たちのやり取りを見て笑みを浮かべながら歩いていた。

 

それから1時間程歩くのだが、目的地にはまだ到着しなかった。

 

「ねぇねぇ、やーくん。まだ着かないのぉ?」

 

1時間程歩いて疲れたのか、唯は少しだるそうな口調で統夜に訪ねていた。

 

「……唯、もうちょっと頑張ってくれ。目的地も見えてきたからさ」

 

「おねーちゃん、頑張って!」

 

霊獣の雛は疲れた唯を元気付けようと唯に駆け寄り、唯の手をギュッと握っていた。

 

すると……。

 

「エヘヘ……。もうちょっと頑張ろうかなぁ……」

 

可愛い女の子に手を握られたのが嬉しかったのか、唯はニコニコしていた。

 

霊獣の雛が唯を元気付けてくれたのを見て、統夜は笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、皆さん。もうすぐ到着ですよ!」

 

イレスが先頭となって歩き出し、目的地は既に見えていた。

 

そして歩くこと数分、統夜たちは目的地であるダムに到着した。

 

「……もしかして、ここがそうなの?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「こんなところに霊獣が来るんですかね?」

 

梓はこのダムに本当に霊獣が現れるか疑い、周囲を見回していた。

 

すると、ポツーンと水滴の音が聞こえてきた。

 

「……!来た!!」

 

統夜は霊獣の存在を捉え、唯たちも統夜の見ている方へ視線を向けた。

 

すると、霊獣が統夜たち目掛けて飛んで来たのであった。

 

「……!あ、あれが霊獣……?」

 

「綺麗……」

 

「あぁ、凄いな……」

 

「うん、こんな美しい生き物は初めて見たかも♪」

 

「私もです!」

 

唯たちは美しく羽ばたく霊獣の姿に心を奪われていた。

 

そして、霊獣は統夜たちの前にやってきたのである。

 

「……さぁ、お迎えが来たぞ」

 

「う、うん……」

 

霊獣の雛も本当の親である霊獣を捉えるのだが、親の元に帰ろうとしなかった。

 

「……?どうした?」

 

「ねぇ、パパ。また、パパに会えるかな?」

 

霊獣の雛は今後2度と統夜に会えないのではないかという不安を抱いているため、素直に親元に帰ろうとしなかった。

 

「……きっとまた会えるさ。俺たちがまた会いたいと願えばな」

 

統夜は優しい表情で微笑むと、霊獣の雛の頭を優しく撫でた。

 

その手が暖かくて心地よいものだったのか、霊獣の雛は満面の笑みを浮かべていた。

 

「……それじゃあ、また絶対に会おうね!約束だよ!」

 

「……あぁ、また会おう。絶対にな」

 

統夜は穏やかな表情を浮かべて、霊獣の雛との再会を約束した。

 

統夜が頭を撫でるのをやめると、霊獣の雛は霊獣にゆっくりと歩み寄った。

 

そして、霊獣の雛は両手を組んで念じると、体から光を放ち、その光に包まれた。

 

光が収まると、霊獣の雛が着ていた衣服が地面に落ちると同時に消滅し、統夜たちの目の前に白い毛玉のようなものが姿を現した。

 

「……!も、もしかして、この子が……」

 

「あの子の……本当の姿?」

 

唯たちは霊獣の雛の本当の姿を見て目をパチクリとさせて驚いていた。

 

すると、霊獣の雛はまっすぐ、本来の親の元へと帰っていった。

 

その時だった。

 

『……ありがとう、魔戒騎士。私の子供を守ってくれて……』

 

「!?な、何だ?この声は?」

 

「恐らく、霊獣の声なんじゃないか?」

 

統夜たち全員の脳内に霊獣の声が聞こえてきたので、唯たちは驚きを隠せなかった。

 

『……そして、番犬所の神官よ。あなたもわざわざ来てくれて、感謝します』

 

霊獣は続けてイレスにお礼を言っていた。

 

「良いのです。私としても霊獣の雛をあなたに返せて安心していますから」

 

イレスも自分のやるべき使命を果たしたことに安堵していた。

 

『そして、人間の子らよ……。私の子に優しくしてくれて、本当にありがとう……』

 

霊獣は唯たちにもお礼を言っていた。

 

霊獣が人間にお礼を言うとは思っていなかったのか、統夜は驚きを隠せなかった。

 

「そ、そんな!気にしないでください!」

 

「そうですよ!困った時はお互い様ですから」

 

「おかげで私たちは貴重な体験をすることが出来ました」

 

「それに、私たちはあの子と一緒にいて、本当に楽しかったんです!」

 

「だから、私たちも感謝しています!本当にありがとうございました!」

 

唯、律、澪、紬、梓の順番で霊獣に話しかけると、霊獣は優しい表情で笑みを浮かべていた。

 

『こんなにも優しい心を持った子たちがいる……この人間の世界も捨てたものではありませんね』

 

霊獣は統夜たちのことを認めており、そのことに対して統夜たちは驚いていた。

 

特に統夜は霊獣に認められるということがどういうことかをよく理解していたので、特に驚いていた。

 

『……私たちはそろそろ行きますね。あなたたちに幸福が訪れんことを……』

 

『パパ!お姉ちゃんたち!また会おうね!約束だよ!』

 

統夜たちに別れの挨拶をすると、霊獣はバサバサ!っと大きな翼を広げ、飛び立っていった。

 

「バイバーイ!!」

 

「また会おうな!」

 

「元気でな!!」

 

「親子で仲良くね!」

 

「さようなら!」

 

「いつかまた、会おうぜ!」

 

唯、律、澪、紬、梓、統夜の順番で飛び立つ霊獣に見送りの言葉を送っていた。

 

すると、上空から白くて綺麗な7枚の羽がひらひらと落ちてきていた。

 

それは統夜たちに向かって落ちてきたので、統夜たちはそれぞれその白い羽をキャッチして受け取った。

 

「……この羽は?」

 

「凄く綺麗ね♪」

 

唯たちは白い羽をまじまじと眺め、純粋な程真っ白な羽に見入っていた。

 

「これは霊獣の羽だよ。みんな、これは肌身離さず大切に持ってた方がいいぞ」

 

「?どういうことですか?統夜先輩」

 

統夜の言葉の意味がわかれず、梓は首を傾げていた。

 

『霊獣の羽を持ちし者は降りかかる不幸や災いから守ってくれる。そういう言い伝えがあるんだ。ま、俺様も実物を見るのは初めてだがな』

 

イルバの説明通り、霊獣の羽を持った者は、降りかかる不幸や災いから守ってくれるという伝説があった。

 

しかし、霊獣自体滅多に拝めるものでもなく、霊獣の羽を持つ者はごく僅かであるため、この話は伝説になっていたのである。

 

「私も、霊獣の羽は初めて見ました……。これは、我が番犬所の宝になるでしょう♪」

 

統夜たちよりも長い時を生きたイレスでさえ、霊獣の羽を見るのは初めてで、その羽を手に喜びを表していた。

 

「……とりあえず帰ろうか」

 

「そうだね!ねぇ、戻ったらそのまま遊びに行こうよ!」

 

「お、いいねぇ!あたしは賛成!」

 

「おい、律!今日はみんなで勉強するんじゃなかったのか?」

 

唯たちは本来図書館で勉強しに行く予定だったのだが、それを中止して霊獣へ会いに行ったのである。

 

「まぁまぁ♪いいじゃない、行きましょうよ♪」

 

「ムギ先輩もですか!?」

 

紬も遊ぶ気満々だったため、梓は驚いていた。

 

「やーくんとイレスちゃんはどうするの?」

 

「お、俺は……」

 

「統夜、あなたは行ってきてもいいですよ。私はこの後番犬所に戻らなければいけないので遊べませんが」

 

統夜はこのまま遊んでいいのか悩んでいると、イレスが背中を押してくれた。

 

「イレス様……」

 

「そっかぁ、久々にイレスちゃんと遊びたかったけど、残念だねぇ」

 

イレスは一緒に遊べないことを知り、唯は残念がっていた。

 

こうして霊獣の雛を無事親元へ返した統夜たちは、来た道を戻ると、そのまま遊びに出かけていった。

 

イレスだけは番犬所へと戻っていった。

 

夏休みもあと僅かであるが、この日の出来事は統夜たちにとってかけがえのないものになったということは言うまでもなかった……。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『統夜のことを慕っているあいつだが、いったいどのような生活をしているんだろうな?次回、「陽光」。そんな奏夜に意外な出会いが待ち受ける!』

 




まさかの霊獣の雛の擬人化。そして、統夜、パパになる?(笑)といった回になりました。

霊獣の力で雛が子供の姿になるという少々無茶苦茶な展開になってしまいましたが、そこらへんのツッコミはなしの方向でお願いします(笑)

霊獣回はやりたいなと前から考えていたので、このような形ではありますが、やれて良かったです。

ちなみに、擬人化した霊獣の雛のモデルは、「這い寄れ ニャル子さん W」に登場した幼女化シャンタッ君になっております。

未見の方はぜひ見てみて下さい(布教)。ネタが豊富で面白いので(笑)

さて、次回で「サバック激闘編」は最後なのですが、統夜の出番はほとんどありません(笑)

統夜の後輩騎士である如月奏夜の1日になります。

この話は次回作にも繋がる話となっていますので、次回をお楽しみに!


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