牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第83話になります。

今回も夏休みの日常編となっております。

統夜は魔戒騎士としての使命を果たしながらどのような夏休みを過ごしているのか?

それでは、第83話をどうぞ!




第83話 「夏期講習」

夏休みも徐々に終わりに近付いてきたのだが、統夜はこの日も魔戒騎士としての使命を果たしていた。

 

「……はぁっ!」

 

統夜はとあるオブジェから飛び出してきた邪気を魔戒剣で斬り裂いた。

 

「さて……。イルバ、あとどれくらいだ?」

 

『まぁ、今日はハイペースでかなり頑張ってたからな。やっても後1つか2つぐらいだな』

 

「そっか。したらさっさと片付けるか」

 

統夜は魔戒剣を鞘に納めて魔法衣にしまうと、次のオブジェへと移動した。

 

早急に今日のノルマを達成した統夜は、ぶらぶらと街を歩いていたのだが……。

 

「……あれ?」

 

何かを見つけた統夜はその場で足を止めた。

 

『……どうした、統夜?』

 

「あれって……律とムギだよな?」

 

統夜は律と紬が何かを話しているのを見つけた。

 

『そうだな。それにしてもあの2人の組み合わせは珍しい気がするな』

 

統夜だけではなく、イルバも律と紬という珍しい組み合わせに驚いていた。

 

『……おっ、あいつらこっちに気付いたようだぞ』

 

イルバの指摘通り、律と紬は統夜の姿を見つけてブンブンと手を振っていた。

 

それに気付いた統夜は2人に駆け寄った。

 

「よう、律、ムギ。こんなところで会うなんて珍しいな」

 

「そうね♪統夜君はお仕事?」

 

「あぁ。そうなんだけど、今はエレメントの浄化も落ち着いて街をぶらぶらしてたんだよ」

 

統夜が今は暇していることがわかると、律は目をキラリと輝かせていた。

 

「なぁ、統夜。それだったら今からあたしらと遊ばないか?」

 

「賛成♪私も統夜君と遊びたいわ♪」

 

律と紬は統夜に一緒に遊ぼうと提案していた。

 

それを聞いた統夜はうーんと考えていた。

 

「ま、たまにはこういうのも良いよな」

 

『そうだな。暇なうちに遊んでおくのは良いんじゃないか?』

 

統夜は2人と遊ぶ意思を伝え、イルバも了承すると、2人の表情はぱぁっと明るくなった。

 

「よっしゃあ!それじゃあ決まりだな!」

 

「えぇ♪統夜君、行きましょう♪」

 

律と紬は満面の笑みを浮かべると、そのまま統夜と腕を組んでいた。

 

「ちょ!?お前ら、離れろって!」

 

いきなり腕を組まれて恥ずかしかったのか、統夜の顔は真っ赤になっていた。

 

「やーだよ♪たまにはいいだろ?」

 

「そうよ?たまにはいいじゃない♪」

 

「統夜、光栄に思えよ。こんな美少女2人に腕を組んでもらえてさ♪」

 

律は何故かドヤ顔でこう言い放ち、紬も「ふんす!」と胸を張ってドヤ顔をしていた。

 

「おいおい……。それ、自分で言うのかよ……」

 

統夜は律の自信満々な発言に呆れて苦笑いをしていた。

 

(それよりも……)

 

統夜はキョロキョロと周囲を見回すのだが、2人の美少女に腕を組まれる統夜を街ゆく人たちは訝しげな目で見ていた。

 

中には統夜が羨ましいのか、殺気を出して睨みつける者もいた。

 

統夜はそんな人々の視線を感じて、ため息をついた。

 

こうして統夜たちは移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

3人が最初に向かった場所は、桜ヶ丘某所にあるゲームセンターだった。

 

律は紬が普段行かなさそうな場所に連れていこうと考えており、それでゲームセンターに来たという訳である。

 

「……こ、これがゲームセンター!?」

 

律の考えが功を奏し、紬はキラキラと目を輝かせていた。

 

「……ね、ねぇ!このシャンデリアみたいにキラキラしてるのは!?」

 

紬は大型のメダルゲームの台を指差していた。

 

「あぁ、それはメダルゲームだよ」

 

律が説明をすると、統夜はウンウンと頷いていた。

 

「あれ?統夜はゲーセン知ってるんだな」

 

「あぁ。たまに暇つぶしに行くことがあるからな。知ってるぞ」

 

統夜はたまにゲーセンで遊ぶことがあるため、ゲーセンの存在は知っていた。

 

しかし、魔戒騎士の使命があるため、数ヶ月に一度行けるか行けないかのペースでしか行くことは出来なかった。

 

今回は久々のゲーセンなので、統夜は何気にワクワクしていた。

 

「ねぇねぇ!このハンドルがついたゲームはなぁに?」

 

紬は続いてレースゲームの台を指差していた。

 

「これはレースゲームだな。俺もゲーセン来たら遊ぶんだよな」

 

今度は統夜がハンドルのついたゲームがレースゲームであることを説明した。

 

「わぁ♪こんなところに釣竿があるわ♪」

 

「釣りゲームだな」

 

紬はゲーセンに置いてある様々なゲームに興味を示していた。

 

「ど、どうしよう!どれも面白そうで、どれから遊んで良いのかわからないわ♪」

 

「ムギ、落ち着けって」

 

ゲーセンにはしゃぐ紬を見て、律は苦笑いをしていた。

 

「せっかくだからムギのやりたいゲームは全部やろうぜ!」

 

「そうだなぁ。まずは何から……」

 

律は周囲を見回して、何のゲームから始めるか吟味していた。

 

すると……。

 

「ねぇねぇ、りっちゃん!統夜君!私、これやってみたい!」

 

紬がやってみたいと指定したゲームは、腕相撲のゲームだった。

 

手始めに律が挑戦するのだが、奮闘むなしくコンピューターに敗れてしまった。

 

今度は紬が挑戦するのだが、紬はコンピューターに圧勝し、統夜と律はその勇姿を見て苦笑いをしていた。

 

「……あれ?統夜君はやらないの?」

 

「俺がこれをやったらこのゲームを壊しそうだからな……」

 

魔戒騎士である統夜は腕っぷしにも自信があるため、下手をすればゲームの筐体を破壊する恐れがあった。

 

なので、統夜は腕相撲のゲームは辞退したのである。

 

そのことに納得した2人は、次のゲームに移動した。

 

次に行ったのはクレーンゲームであり、紬は初めてのチャレンジで上手くいかなかった。

 

しかし、律が紬に代わって挑戦すると、1発で景品を取ることが出来た。

 

紬と統夜は律が1発で景品を取ったことに賞賛の声をあげるが、律は1発で取れたことに安堵していた。

 

そして、次に紬が目をつけたのはビデオゲームなのだが、紬は世界的に有名な某格闘ゲームに興味を持っていた。

 

紬はコンピューターと対戦してみるのだが、初めてだからか、上手くいかずに敗れてしまった。

 

「あぁ、負けちゃった……」

 

紬はコンピューターに敗れてしょんぼりとしていた。

 

「なぁ、統夜。このゲームはやったことあるか?」

 

「まぁな。それなりに上手いと思うぜ」

 

統夜はゲーセンに来た時はこのゲームはプレイしており、プレイングには自信があった。

 

「それじゃあ、あたしと勝負しようぜ!」

 

「ふっ、受けてたつぜ!」

 

こうして統夜と律は格闘ゲームで対戦することになった。

 

統夜は自信があると自負していただけあってか、律と互角に戦っていた。

 

統夜も律もプレイングはなかなかのものであり、それを見ていた客も歓声をあげていた。

 

こうして、対戦は終わり、激しい激闘を制したのは……。

 

「へへっ、統夜もまだまだだな!」

 

律が統夜を破り、誇らしげな表情をしていた。

 

「くっそー!もうちょっとだったんだけどな!」

 

統夜は律に惜しくも敗れて悔しそうにしていた。

 

「ねぇねぇ、りっちゃん。私、りっちゃんと統夜君の3人で同じゲームをしたいわ!」

 

「んー、このゲームは2人用だからな……」

 

律は今やったゲームで3人で遊べないと思っていたのだが……。

 

「……だったらこれをやろうぜ!」

 

律が指定したのは、ロボットが2対2で戦うゲームだった。

 

このゲームであれば、3人で遊ぶことは可能だった。

 

「なぁ、統夜。あたしとムギペア対統夜で大丈夫だよな?」

 

「あぁ、構わないぜ」

 

統夜は律の提示した条件を了承し、3人でロボットが2対2で戦うゲームをプレイすることになった。

 

統夜たちは100円を投入すると、チーム分けを行い、その後使用機体の選択画面になった。

 

「んー、どれにしようか……」

 

統夜は悩んだ末、剣を装備した青い機体を選択した。

 

律が選んだのは火力重視の機体で、紬が選んだのは金色の機体だった。

 

こうして統夜たちは対決するのだが、結果は律と紬の勝利だった。

 

ビデオゲームを終えた後も、紬がやってみたいと言ったゲームはひと通りプレイした。

 

そして、最後に3人でプリクラを撮ることになった。

 

統夜は誰かとプリクラを撮るのが初めてだったのか、困惑していた。

 

そんな中、どうにか写真は撮れて、その後のラクガキは律や紬に任せることにした。

 

こうしてプリクラを撮り終えたのだが、統夜は完成品を見て笑みを浮かべていた。

 

プリクラを撮り終えると、統夜たちはゲーセンを後にした。

 

「はぁ……♪ゲームセンター楽しかったわ♪」

 

紬はゲーセンが本当に楽しかったのか、満面の笑みを浮かべていた。

 

「そこまで喜んでくれたら連れてきた甲斐があるよ」

 

「私、楽しすぎて明日死んじゃう♪」

 

「アハハ……大袈裟だな……」

 

紬のあまりにオーバーな発言に統夜は苦笑いをしていた。

 

「……統夜、悪いな。ちょいちょいゲーム代奢ってもらってさ」

 

統夜はゲーセンで遊んでる時に対戦ゲームやプリクラなどみんなでやるゲームのお金を支払い、律や紬の負担を軽くしていた。

 

「気にするな。俺だって楽しませてもらったし、それはお礼だよ」

 

統夜はゲーム代を奢ることは全く気にしていなかった。

 

「なぁ、2人とも。俺、行ってみたいところがあるんだけど」

 

「「行ってみたいところ?」」

 

律と紬は統夜の言葉をおうむ返しのように返すのだが、少しだけ警戒していた。

 

「……別に変な所ではないんだけど……」

 

普段は鈍感な統夜であるが、何故か2人が警戒している理由を敏感に感じ取り、ジト目で2人を見ていた。

 

「アハハ、ごめんごめん。統夜も男だからつい……」

 

「私は統夜君が一緒ならどこでも良いけど♪」

 

「いや、そんなんじゃなくて。確かこの近くに駄菓子屋があっただろ?俺、行ったことないから行ってみたくてな」

 

統夜が行きたいと言っていた場所はこの近くにある駄菓子屋だった。

 

「駄菓子屋か……。確かにそこなら節約には良いかもな」

 

律は駄菓子屋に行くというのには乗り気であった。

 

しかし、紬は……。

 

「駄菓子屋……」

 

何か思う所があったのか、その場で立ち止まっていた。

 

「……?ムギ、もしかして、駄菓子屋は嫌だったか?」

 

紬は桜ヶ丘随一の富豪の娘であるため、駄菓子屋みたいなところは嫌なのかなと統夜は考えてしまった。

 

しかし……。

 

「……と、統夜君!」

 

紬は統夜に詰め寄り、両手を掴んでいた。

 

そした……。

 

「抱きしめてもよかですか!!」

 

「……なんで九州の言葉遣いなんだよ……」

 

『やれやれ……』

 

紬は嬉しかったのか何故か言葉遣いが九州のものになっていた。

 

統夜はそのことに困惑し、イルバは呆れていた。

 

こうして統夜たちは近くにある駄菓子屋に向かうことになった。

 

「……こ、ここが駄菓子屋さん?」

 

駄菓子屋に到着するなり、紬は目をキラキラと輝かせながら周囲を見回していた。

 

「そうだよ。この一角にあるのはだいたい20円か30円くらいだから、気にしないで買っても問題ないと思うぞ」

 

「え、そうなの!?これも?」

 

紬は駄菓子屋のお菓子が破格の安さであることに驚いており、近くにあったヨーグルト菓子を取り出して値段を聞いていた。

 

「それもだよ」

 

「この、串に刺さってるものも?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「じゃあじゃあ、この揚げ物みたいのもそうなの?」

 

「うん、そうだよ」

 

紬は次々とお菓子を手に取り、その値段を聞いていた。

 

高そうなお菓子も数十円で買えると知り、紬は驚きと共に目をキラキラと輝かせていた。

 

「凄いわ!価格破壊ってこういうこと?」

 

「いや、違うと思うけど……」

 

統夜はキラキラと目を輝かせている紬わ見て苦笑いをしていた。

 

こうして統夜たちは気になる駄菓子を購入して、店の入り口のベンチに座ってそのお菓子を食べていた。

 

(……それにしても噂には聞いていたが、こんだけ買っても500円しないとは……。駄菓子屋……恐るべし……)

 

統夜は籠3つがいっぱいになるくらいお菓子を購入したのだが、500円でお釣りが来たことに驚いていた。

 

《……おい、統夜。いくらなんでも買い過ぎだろ……》

 

(別にいいだろ?とっとけば明日以降も食べられるんだから。ちょっと小腹がすいた時の非常食になるしな)

 

統夜は買った駄菓子を一気に食べることはせず、食べる分以外は魔法衣の裏地の中にしまった。

 

魔法衣の裏地は内なる魔界に通じているため、チョコレートを入れても溶けることはないのである。

 

統夜は魔法衣の特性を利用して駄菓子を騎士の仕事の合間の非常食にしようと考えていた。

 

《やれやれ……。非常食は駄菓子でなくても良いと思うけどな》

 

イルバは統夜が駄菓子を大量購入したことに呆れ果てていた。

 

統夜とイルバがこのようなやり取りをしている間、律と紬は仲睦まじく駄菓子を頬張っていた。

 

駄菓子を食べてのんびりした統夜たちは駄菓子屋を後にすると、商店街へ向かい、行きつけのファストフード店へ向かった。

 

ファストフード店ではハンバーガーなどは頼まず、ドリンクと小さいスイーツを頼んで3人で談笑をしていた。

 

「……りっちゃん、統夜君。今日はありがとね♪すっごく楽しかったわ♪」

 

「気にするなって。俺も楽しかったよ」

 

統夜は久しぶりに普通の遊びを堪能出来たので、それが心の底から楽しいと思っていた。

 

「特にりっちゃんは私の知らない所をいっぱい知ってるよね♪凄いね!」

 

「エッヘン!もっと褒めるがよい!」

 

律は紬に褒められたのが嬉しかったのか、ドヤ顔をしていた。

 

「おいおい、ドヤ顔すんなよな……」

 

統夜はドヤ顔をする律を見て苦笑いをしていた。

 

「このぬいぐるみは500円で取れたし、100円でけっこうお腹いっぱいになったし♪りっちゃんって、お金を使わず遊ぶ達人ね♪」

 

「そうだろうそうだろう♪でも、今日は統夜がちょいちょい奢ってくれたから少しは安上がりだったよ。だけど、一般庶民には今日の出費はけっこう痛いんですがねぇ」

 

「そうなの?」

 

律のような普通の高校生はバイトをしてなければ親からの小遣いで遊ばなければいけないので、1度の遊びの出費でもけっこう痛いのである。

 

「まぁね。正直先月もさ……」

 

こう前置きを置いて律が語り始めたのは、律と澪の2人で楽器屋に行った時の話だった。

 

律は楽器屋であるものを購入しようとしたのだが、少しだけ持ち合わせが足りなかった。

 

そこで律は澪に少しだけお金を貸して欲しいと頼むと、澪は渋々律にお金を貸すことにした。

 

それに気を良くした律はスティックやスコアやCDなど買うものを追加しようとした。

 

それに怒った澪は、いつものノリで律に思い切り拳骨を食らわせたのである。

 

その日は結局買う予定だったらものだけを購入し、足りない分だけ澪からお金を借りることになった。

 

「……ってなことがあってさぁ。澪のやつひどくないか?思い切りスパーン!といくんだぜ?」

 

『……おい、律。それはお前さんの自業自得だろうが』

 

「あぁ、俺もそう思う」

 

「スパーンと……」

 

律の話を聞いていた統夜とイルバは、澪に叩かれたのは自業自得だと思っていた。

 

しかし、紬はうーんと何か考え事を初めていた。

 

「……?ムギ、どうした?」

 

急に紬の様子がおかしくなったので、統夜は心配そうに訪ね、律は首を傾げながら紬を見ていた。

 

「……あ、あのね……。りっちゃん、統夜君……。実は2人にお願いしたいことがあるんだけど……」

 

「お願い?」

 

「俺たちに出来ることなら何だってやるぜ。遠慮なく言ってみな」

 

「う、うん……」

 

統夜の言葉に後押しされたのか、紬の表情は少しだけ明るくなっていた。

 

そして、一呼吸を置いて紬は語り始めた。

 

「……わ、私のこと……。た、叩いて欲しいの!!」

 

「「……」」

 

紬のお願いというのがあまりに予想外過ぎて、統夜と律は言葉を失っていた。

 

「……な、なぁ、ムギ。もう1回行ってもらっても良いか?叩いて欲しいだなんて、いくらなんでも俺の聞き間違いだよな?」

 

統夜は紬の言ったことが冗談であって欲しいと思いおどけながら苦笑いをしていた。

 

「うぅん。聞き間違いじゃないわ。私のこと、叩いて欲しいの……」

 

そんな統夜の思いは紬の一言で簡単に崩れ去ってしまった。

 

改めて紬のお願いを聞いた統夜と律は呆然としていた。

 

「……痛いだけだぞ」

 

「それでも叩いて欲しいの!」

 

どうやら紬は本気で叩いて欲しいと言っているようだった。

 

「……軽くでいいんだろ?」

 

「お願いします!」

 

紬は頭を出すと叩かれやすい体勢になっていた。

 

そして律は右手を上げて拳骨の体勢に入るのだが、そこから拳を振り上げることを躊躇していた。

 

「……周りにSPがいたりしないよな?」

 

「そんなのいないから!」

 

「じゃ、じゃあ行くぞ!」

 

「はい!」

 

こうして律はそのまま拳を振り下ろそうとするのだが、思うように出来ず、冷や汗をかいていた。

 

そして……。

 

「……あ、あたし無理!!統夜、パス!」

 

「ちょ!?ここで俺かよ!?」

 

律は紬を叩くことは出来ず、統夜に丸投げした。

 

丸投げされた統夜は驚きを隠せなかったが、「やれやれ」とため息をついていた。

 

「……それじゃあ行くぞ」

 

「う、うん!」

 

統夜は出来る限り軽い力で紬の頭を軽く小突いていた。

 

これでも一般人は痛いと感じるレベルだが、紬は平然としており、意外と威力の低い小突きにキョトンとしていた。

 

「……と、統夜君。出来れば遠慮なくやって欲しいんだけど……」

 

「うっ……」

 

統夜は本気でやることには抵抗があったのだが、紬の澄んだ目を見るとそれを断ることが出来なかった。

 

統夜も律のように右手を上げてそれを振り下ろそうとするが、何故かプレッシャーを感じており、統夜は律のように冷や汗をかいていた。

 

そして……。

 

「ダメだ!俺も無理!無理だ!!」

 

統夜もいきなり紬を叩くなんてことは出来ず、ギブアップしてしまった。

 

「そうだよ。こういうのはタイミングが大事なんだから」

 

「タイミング?」

 

「そう。何もしてないのにムギのこと叩くとか無理。なんか派手にボケてくれればドカーンと突っ込めるんだけどなぁ」

 

「ド派手なボケ……」

 

紬は律からのアドバイスを聞くと、真剣な表情で考え事をしていた。

 

(……アハハ……。何でだろう。嫌な予感しかしないんだけど……)

 

《統夜、奇遇だな。俺様も同じことを考えていたぜ》

 

統夜とイルバは、紬が変なことをしでかさないか心配で、苦笑いをしていた。

 

結局紬は明日の夏期講習で実践することを決め、この日は解散となった。

 

統夜は紬のことを心配しながらも指令がなかったため、街の見回りを行ってこの日は家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日、この日は夏期講習があるのだが、統夜は夏期講習には参加しないため、いつものようにエレメントの浄化を行っていた。

 

統夜はエレメントの浄化を行いながら、紬がおかしなことをしないか心配していた。

 

『……なぁ、統夜』

 

エレメントの浄化が落ち着いたところで、イルバが声をかけてきた。

 

「ん?どうした、イルバ」

 

『紬の奴だが、大丈夫か?昨日は様子がおかしかったが……』

 

「そうだよな……。叩いて欲しいだなんて、ムギのやつもおかしなことを頼むよな……」

 

昨日の紬の話を思い出し、統夜は苦笑いをしていた。

 

「まぁ、明日は登校日だし、その時にも変なことをしなきゃいいけどな」

 

夏休みはまだ続いているのだが、明日は夏休みの中で数少ない登校日であった。

 

統夜は久しぶりに学校へ行くのを楽しみにしていたのだが、叩かれたいと言い出す紬のことを心配していた。

 

こうして統夜はエレメントの浄化を終えると、夜遅くまで街の見回りを行ってから家路についた。

 

 

 

 

 

 

そして翌日、この日は登校日で、統夜は久しぶりに通う学校を楽しみにしており、久しぶりに会うクラスメイトとの会話も楽しんでいた。

 

放課後、統夜たちは部室である音楽準備室に集まっていた。

 

「……それにしても、こうやって部室でティータイムをするのも久しぶりだよな」

 

「うん♪そうだよねぇ♪」

 

統夜たちは音楽準備室で行われる久しぶりのティータイムを満喫していた。

 

「……やっぱり部室は落ち着くわ……」

 

特に統夜は久しぶりの部室でまったりとしていた。

 

「今日のおやつはショートケーキだけど、人数が6人だから綺麗に6等分出来て良かったわぁ♪」

 

今日紬が用意したのは1ホールのショートケーキだった。

 

統夜たち軽音部は6人のため、ケーキは綺麗に6等分することが出来て、そのことに紬は満面の笑みを浮かべていた。

 

「とりあえず早く食べて練習するぞ」

 

「そうだねぇ♪今日はちゃんとイチゴを食べられるしねぇ♪」

 

唯はショートケーキのイチゴを見ると何故か安心していた。

 

唯は2日前に和と唯の家で勉強会をしたのだが、ケーキを一口食べさせあいっこする時に和がケーキのイチゴを食べてしまい、そのことを根に持っていた。

 

統夜は唯からその話を聞いており、ケーキのイチゴについて熱弁する唯に苦笑いをしていた。

 

唯がイチゴという言葉を放つと、紬は何故かハッとしていた。

 

「……?ムギ?」

 

統夜は紬の微妙な変化を見逃さなかった。

 

そして紬は何を思ったのか澪のケーキをガン見していた。

 

(……おいおい、ムギ。まさかとは思うけど……)

 

統夜はこの後紬がやるであろう行動を予想して苦笑いをしていた。

 

紬は何故か澪のケーキを捉えていた。

 

「……ちょ、ムギ?」

 

統夜が慌てて止めようとするが、既に手遅れだった。

 

澪がケーキのイチゴを食べようとした瞬間、紬が澪のケーキのイチゴを奪い取り、それを頬張った。

 

「「「「え!?」」」」

 

紬のまさかの行動に目をパチクリとさせていた。

 

(あっちゃあ……間に合わなかったか……)

 

統夜は紬がこうすることを予想しながら止めることが出来ず、頭を抱えていた。

 

そんな澪はまるで凍りついたかのように静止していたのだが、澪は一切声をあげずに静かに涙を流していた。

 

それを見た唯はガバッと立ち上がり、音楽準備室を出ると、どこかへ移動を開始した。

 

そして数分後……。

 

「……ほら!見てよ、和ちゃん!」

 

唯は生徒会室にいる和をここまで連れてきたのである。

 

「ほら!イチゴを取られちゃったら悲しいんだよ!泣いちゃうんだよ!?それくらい大切なものなんだよ、和ちゃん!」

 

唯は和にケーキのイチゴの大切さを改めて力説していた。

 

「……そ、それは悪いことをしたわ……」

 

和はケーキのイチゴを取られて静かに涙を流す澪の様子を見て、唯の言葉に説得力があると感じていた。

 

そう理解したうえで、和は唯に謝罪していた。

 

「やっとわかってくれたんだねぇ♪」

 

やっと和にケーキのイチゴの大切さを理解してもらい、唯は満足そうにしていた。

 

『やれやれ……たかがイチゴ如きで大袈裟過ぎだろう……』

 

イルバはイチゴをめぐるこの騒ぎをどうでも良いと思いながら見ていた。

 

しかし、声を大にしてこれを言うと再び唯の熱弁が始まると思い、誰にも聞こえないくらい小さな声で言っていた。

 

「……澪ちゃん……ごめんね……」

 

紬はまさか澪が泣き出すとは思っておらず、居た堪れなくなったのか、申し訳なさそうに謝っていた。

 

「……ったく……。ほら、澪。俺のケーキやるから泣き止めよ。な?」

 

統夜はまだ口をつけていない自分のケーキを澪に差し出して泣き止ませようとしていた。

 

 

 

 

澪がどうにか泣き止み、和も生徒会室に戻ったところで、紬が何故このようなことをしたのか語り始めた。

 

「……叩かれたい?」

 

「ごめんなさい、私のワガママなの……」

 

「いーや、あんだけボケてるのに何もしない澪が悪い」

 

「違うだろ!」

 

「アハハ……。やっぱりムギのやつ昨日はボケ倒してたんだな……」

 

昨日紬がやったであろうことを想像し、統夜は苦笑いをしていた。

 

「そんなことくらい……。最初から素直に言えばいいのに」

 

「え?」

 

「軽く叩くだけだろ?」

 

「いいの?」

 

「別に……それくらいなら……」

 

「!?抱きしめてもよかですかい?」

 

「アハハ……またかよ……」

 

紬は思わず九州の言葉を使っていたので、統夜は苦笑いをしていた。

 

「お、お願いします!」

 

紬は頭を少し下げると、叩きやすい体勢になっていた。

 

「へ、変なやつだな……」

 

紬が積極的に叩かれたいという気持ちを出しており、澪は困惑していた。

 

澪は腕をあげて紬を叩く体勢に入るが、何故かこの場の空気が異常なまでの緊張感に包まれていた。

 

「うっ……」

 

(アハハ……。これじゃ叩くのを躊躇しちゃうよな……)

 

統夜も紬を思い切り叩けなかったので、この空気感で簡単に叩けないことを理解していた。

 

「な、何か緊張しますよね!」

 

梓が緊張をほぐそうと声をあげるかま、この場の緊張感は消えることはなかった。

 

そして……。

 

ゴツン!!

 

澪はこの緊張感に耐え切れず、紬ではなく何故か隣にいる律の頭を思い切り叩いていた。

 

「な、何であたし!?」

 

律は何もしてないのに叩かれてしまい、驚きと理不尽さを感じていた。

 

(……アハハ、ドンマイ、律……)

 

統夜は理不尽に叩かれてしまった律を同情して苦笑いをしていた。

 

結局澪は紬を叩くことは出来ず、この日は紬を叩けるものは現れなかった。

 

こうして、この日の部活は終了し、解散となった。

 

この後、律と紬は2人になる機会があったのだが、紬の何気ない一言で律に叩かれてしまったのはまた別の話であった。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ほぉ、こいつ、霊獣か?こんなところに現れるのは珍しいじゃないか。次回、「幻想」。ま、面倒なことにはなりそうだけどな』

 




夏期講習(統夜が受けるとは言っていない)。こんな感じになってしまいました(笑)

今回のメインの話は、統夜、律、紬の3人で遊ぶというものでした。

統夜と言えども紬を思いきり叩くということは出来なかったんですね。

最終的には律に叩かれ、紬の叩かれたいという願いは果たされましたが(笑)

さて、次回は牙狼要素多目な話になる予定です。

予告で霊獣と言っていましたが、そうです。霊獣の話になります。

しかし、霊獣の話になると言っても、原作とはまたちょっと違う霊獣の話になると思いますので、ご了承ください。

それでは、次回をお楽しみに!


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