今回は夏休みの日常編となっております。
サバックが終わり、統夜は魔戒騎士としてどのような夏休みを過ごすのか?
今回は統夜の意外な顔が明らかになるかも?
それでは、第82話をどうぞ!
魔戒騎士にとって神聖なるイベントであるサバックがあり、梅雨あたりから事あるたびに統夜に突っかかっていた東ヒカリが魔戒騎士やホラーの秘密を知るなど、この夏休みは様々な出来事があった。
しかし、そんな夏休みもあっという間に半分が過ぎようとしていた。
そんな中、統夜は魔戒騎士として使命を果たしていた。
午前中はエレメントの浄化を行い、午後は特に予定がなければ街の見回りを行いながらエレメントの浄化の続き。
そして、夜はホラー退治と、このように統夜の毎日は過ぎていった。
というものの、ヒカリと日代幸太にホラーや魔戒騎士について話してからホラーは現れず、夜は街の見回りを行っていた。
統夜は何回かヒカリや幸太と喫茶店で話をしていた。
話と言ってもホラーや魔戒騎士に関することではなく、他愛もない世間話が多かった。
このような機会が何度かあることで、統夜、ヒカリ、幸太の3人は友人と呼べるような関係になっていた。
統夜を敵対視していたヒカリも、今や普通に統夜と話をする仲となっていた。
それ以上に、ヒカリは幸太と良い雰囲気になっており、統夜はそんな2人の仲が進展するよう密かに応援していた。
この日も、統夜は午前中にエレメントの浄化を行い、商店街で昼食を済ませた。
昼食後はエレメントの浄化を行いながら街を歩いていたのだが、偶然にも桜ヶ丘高校の付近を歩いていた。
(……夏休みも半分が過ぎたけど、まだやってる部活もあるんだな)
もうすぐお盆ということもあってか部活をやっているところは少なくてもゼロではなかった。
(……軽音部もしばらく休みが続いてるしな。まぁ、騎士の勤めを果たす手前、都合は良いけど、やっぱりムギの紅茶は恋しいかもな……)
紬がフィンランドに行ってから会っていないため、統夜は再び紬の紅茶を飲みたいと思っていた。
(まぁ、とりあえずは騎士の勤めに集中するとしよう)
統夜が学校から離れようとしたその時だった。
「……あれ?統夜先輩?」
いきなり声をかけられたのでその方を振り向くと、制服姿の梓と憂が立っていた。
「梓と憂ちゃんか。どうしたんだ?2人とも制服姿で」
「私たちジャズ研にいる純に差し入れをと思ってきたんですけど、お休みみたいで」
「まぁ、お盆も近いしな」
「統夜さんはお仕事ですか?」
「まぁな。それでたまたま学校の近くを通ったって訳さ」
統夜が何故学校の近くにいたのかを知った2人はウンウンと頷いて納得していた。
「統夜先輩、この後って時間ありますか?」
「まぁ、エレメントの浄化はだいぶ落ち着いたし、時間はあるけど」
「それだったら、一緒に映画を見に行きませんか?私たち、これから映画を見に行くんですけど」
「映画か……。たまには良いかもな。別にいいだろ?イルバ」
統夜はイルバに確認を取っていた。
『まぁ、エレメントの浄化もだいぶやったしな。別にいいんじゃないか?』
「……という訳でOKだ。俺もたまには映画を見たいと思ってたしな」
統夜と映画を見に行けるのが嬉しかったのか、憂と梓の表情がぱぁっと明るくなっていた。
「やったぁ♪それじゃあ統夜先輩、さっそく行きましょう♪」
「あぁ、そうだな」
こうして統夜は憂と梓の2人と共に映画を見に行くことになり、映画館へと移動を開始した。
※※※
桜ヶ丘の商店街にある映画館へ移動した統夜たちは、この日上映されている映画をチェックしていた。
「……統夜先輩。どの映画を見たいですか?」
「これ!」
統夜は迷うことなくとある映画のポスターを指差した。
統夜が選んだ映画は『テト』と呼ばれる映画で、ヨーロッパ某所を舞台に少年とその愛犬デトの友情を描いた物語である。
統夜は動物が好きなため、迷うことなくこの映画を選んでいた、
「……あ、これですか?私は最初はホラー映画が良いかなって思ってましたけど、私もこれが良いです!」
梓は当初はホラー映画が良いと考えていたのだが、何故か考えを改めてデトを見たいと意見を出していた。
「これだと次の上映まで少し時間があるねぇ」
「だったら近くのカフェでも行くか?」
「「はいっ!ぜひ!!」」
こうして統夜たちは映画の上映時間まで近くのカフェで時間を潰すことにした。
統夜たちが喫茶店の中に入ると……。
「……いらっしゃいま……って、統夜、いらっしゃい!」
喫茶店の店員はヒカリであり、ヒカリは嫌な顔は1つせず統夜を歓迎した。
「あぁ、ヒカリさん。ここでもバイトしてたのか」
統夜はヒカリや幸太のことを「さん」付けで呼んではいるが、口調はタメ口だった。
「そっちの子はこの前見たけど、こっちの子もあんたの友達?」
「ま、そんなところかな」
ヒカリは梓は以前バイト中に見たのだが、憂は初めて見るため、このように確認をとっていた。
「ふーん」
ヒカリは友達という言葉を疑ってるのか、ジト目で統夜を見ていた。
「何だよ、その目は」
「別に?統夜は女たらしなんだなぁって思ってさ」
「おいおい、そんなことはないからな……」
《いや、ある意味でお前さんはたらしかもしれないな》
(あのなぁ……)
イルバまでヒカリの言葉に賛同していたので、統夜は苦笑いをしていた。
「あ、あの!とりあえず座りましょうよ」
憂は話の空気を変えるため、このように提案していた。
(ふーん、あの子、ずいぶんとしっかりしてるわね)
ヒカリは憂と知り合って何分も経っていないが、憂がよく出来た子であることを何となく理解していた。
「と、とりあえずお席へどうぞ」
ヒカリの案内で統夜たちはボックス席に移動し、席についた。
「……ご注文は?」
「2人とも、好きなの頼んで良いぞ。奢るからさ」
統夜はここでのお金は出すことを2人に告げた。
「で、でも統夜さん。悪いですよ」
「いいっていいって。遠慮はなしだぜ」
「「じゃ、じゃあ……」」
憂と梓はすぐ来ると思われるジュースを注文し、統夜はアイスコーヒーを頼んでいた。
注文を聞いたヒカリは厨房の方へと移動した。
「統夜さん、すいません。奢ってもらっちゃって」
「統夜先輩、ありがとうございます♪」
「いいってことよ。とりあえずあと30分くらいはゆっくりしようぜ」
統夜たちが飲み物を注文してから間もなく飲み物が来たので、統夜たちは30分ほど飲み物を飲みながら雑談をしていた。
ヒカリは、そんな3人の様子を笑みを浮かべながら見守っていた。
30分ほど雑談を交わした後、統夜は会計を済ませてカフェを後にした。
カフェを出るとき、ヒカリは「また来てよね。“友達”と一緒にね」と皮肉を込めて言っていた。
統夜はヒカリの話を「はいはい」と受け流すと、そのままカフェを後にし、憂や梓と共に映画館へ向かった。
映画館の中に入るとチケットを購入し、ポップコーンや飲み物を購入して劇場へ向かうと、映画開始10分前になっていた。
統夜たちは席を確保すると、映画が始まるまで大人しく待っていた。
そして、映画の上映時間となると、劇場が真っ暗となり、スクリーンに映像が映し出されていた。
まず最初に近々上映される映画の予告から始まり、映画の注意事項を放送すると、ようやく本編が始まった。
映画が始まるなりこの作品の主役とも言えるテトと少年が登場し、2人は仲睦まじい姿を見せていた。
(……!これがテトか……。可愛いじゃねぇか……!)
統夜は目をキラキラと輝かせながらスクリーンを見つめていた。
可愛い犬を無邪気に見る統夜の姿は、ホラーを狩る魔戒騎士の姿とは思えないものだった。
(……おいおい。これがサバック準優勝の魔戒騎士の姿とはとても思えないな……)
魔戒騎士の時の統夜とはあまりにギャップがあったため、イルバは呆れ果てていた。
梓と憂は統夜の顔をチラッと見ると、テトを見てキラキラと目を輝かせており、あまりのギャップに驚きを隠せなかった。
(……統夜先輩、すっごく楽しそう……。そういえば統夜先輩って動物が好きなんだっけ?)
梓は統夜が動物好きの一面があることを思い出し、その様子を見てクスクスと笑みを浮かべていた。
(……そういえば統夜さんって動物好きだったよね?普段とのギャップがすごく可愛い♪)
憂も統夜が動物好きの一面があることを知っており、梓同様に笑みを浮かべていた。
そんな感じで映画を見ていた統夜たちだったが、映画も中盤のシーンとなった。
主人公の少年とテトはひょんなことから別れなければいけなくなり、少年はテトとの別れを惜しんでいた。
『……テト!嫌だよ!僕はテトと離れたくない!!』
少年はテトを抱きしめてこのように懇願していた。
このシーンを真剣な眼差しで見ていた統夜は……。
「……」
ボロボロと涙を流して号泣していた。
(……うぅ、何だよ。かわいそうじゃねぇか!)
魔戒騎士である統夜は涙を人前で見せることはほぼないのだが、動物が絡む映画を見ると感情移入をし過ぎて号泣してしまう。
この映画も動物が絡む映画であるため、統夜はあり得ないくらい号泣していた。
上映中なので声は出していないものの、涙の量が多かったので、ハンカチとティッシュを使用していた。
統夜の席付近の客は、統夜のあまりの号泣ぶりにドン引きしていた。
(……と、統夜さん!?)
(と、統夜先輩がここまで泣くの初めて見たかも……)
憂と梓はここまで泣く統夜を初めて見たので、引くというよりは困惑していた。
(やれやれ……。統夜のやつこの手の映画には弱いんだよな……。さすがに泣き過ぎだけどな……)
イルバは統夜が動物が絡む映画を見ると感情移入し過ぎて号泣することは知っていたが、この映画では今まで以上に号泣しており、それを見てドン引きしていた。
(本当にこれがサバック準優勝の騎士なのか?本当に疑いたくなるぜ)
イルバはさらに統夜の魔戒騎士としての姿とのギャップに改めて呆れていた。
そして映画はクライマックスを迎えていた。
紆余曲折を経て主人公の少年は無事にテトと再会し、テトを抱きしめた。
そんな2人の友情を祝福するかのように鐘の音が鳴り響いていた。
『テト!!テト!!もう離さないからな!』
こうして映画はエンディングを迎えるのだが、統夜は中盤から最後までずっと泣きっぱなしだった。
統夜の席付近の客は統夜のあまりの号泣ぶりにドン引きし、もらい泣きするということはなかった。
憂と梓も統夜のあまりの号泣ぶりに困惑してしまい、映画に感動することは出来なかった。
とりあえず映画は無事に終わり、真っ暗だった劇場内に明かりがつくと、客たちは次々と劇場から出て行った。
「……いやぁ、良い映画だったな♪感動したよ」
泣くだけ泣いてスッキリしたのか、統夜の表情はとてもイキイキとしていた。
「「あ、アハハ……そうですね……」」
憂と梓はそんな統夜を見て苦笑いをしていた。
「……おっと、そろそろ番犬所に行かないと。梓、憂ちゃん。今日はありがとな」
「「は、はい……」」
「それじゃあ、またな!」
統夜は劇場を後にして、そのまま番犬所へと向かったのだが、憂と梓は呆然としながらその様子を見守っていた。
番犬所に到着した統夜はイレスに挨拶をすると、狼の石像に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。
今日もホラー討伐の指令はなかったため、統夜はイレスと少しだけ話をした後に番犬所を後にした。
この日は夜遅くまで街の見回りを行ってから家路についた。
※※※
それから何日かが経過して、お盆も過ぎていった。
統夜のような魔戒騎士にお盆は無縁なイベントであり、お盆の日も普段通り魔戒騎士としての務めを果たしていた。
そしてこの日も、統夜はエレメントの浄化を行いながら街を歩いていた。
「……はぁっ!!」
統夜はとあるオブジェから飛び出してきた邪気を魔戒剣で斬り裂いた。
「……よし!」
邪気が消滅したことを確認すると、統夜は魔戒剣を青い鞘に納め、魔戒剣をしまった。
「……イルバ、あとどれくらいだ?」
『戒人もだいぶ浄化してくれてるからな。やってもあと1つくらいだな』
「あと1つか……。イルバ、それはここから近いか?」
『あぁ。ここからそんなに離れてないぜ』
「したらさっさと片付けに行こう。その後寄りたいところがあるからな」
『寄りたいところ?』
「まぁ、すぐにわかるさ」
統夜はイルバのナビゲーションを頼りにこの日最後となるオブジェへと移動を開始した。
イルバの言う通り、先ほどの場所からそれほど離れておらず、10分もかからないうちに到着し、統夜は早々にオブジェから飛び出してきた邪気を魔戒剣で斬り裂いた。
これで、この日行うノルマは達成され、それを確認した統夜はとある場所へと移動を開始した。
その場所とは……。
「……みんな、待たせたな!」
桜ヶ丘某所にある図書館であり、その入り口には唯、律、澪、紬の4人が待っていた。
「やーくん遅いよぉ!!」
統夜の到着が遅かったからか、唯はぷぅっと頬を膨らませていた。
「悪い悪い。これでもエレメントの浄化を急いで終えてきたんだぞ」
統夜は遅くなったことを詫びながらもこのような言い訳をしていた。
統夜がこの図書館を訪れたのは律から前日に連絡があり、紬が今日帰ってくるのでみんなで勉強会をしようというものだった。
統夜は待ち合わせの時間の前にエレメントの浄化を終わらそうと努めるが、少しだけ遅れてしまった。
「まぁまぁ♪統夜君もちゃんと来てくれたんだし、さっそく中に入りましょう♪」
「そうだな。中に入ろうぜ!」
「あぁ。さっさとやることやっちまおうぜ!」
統夜たちは図書館の中へと入っていった。
今日統夜たちが図書館に集まったのは、全員で勉強会をするためである。
澪と紬は進学を決めており、唯と律は変わらず進路は未定であるが、進学に向けての勉強を行っていた。
統夜は進学も就職もしないためこのような勉強は意味がないのだが、統夜は受験勉強ではない勉強をしようと考えていた。
唯たちは席につくなり教科書や参考書を取り出して勉強を開始した。
そんな中、統夜は本棚のとあるコーナーで立ち止まり、真剣な表情で本を吟味していた。
《……おい、統夜。お前の勉強しようとしてるのはもしかして……》
(あぁ、動物についての本だよ。暇つぶしに勉強するには良いだろ?)
統夜は唯たちが受験勉強をしている間に動物についての勉強を行うことにした。
《やれやれ……。お前さんは本当に動物が好きなんだな……》
(もちろんだ!もし俺が魔戒騎士じゃなかったら多分獣医を志していたと思うぜ)
統夜はもし自分が魔戒騎士でなかったら獣医になりたいとさえ考えていた。
《お前さんが動物好きなのは知っていたが、そこまでだったとは初めて知ったぜ……》
統夜の意外な一面を垣間見たイルバは驚きを隠せなかった。
統夜は数冊の本を選ぶと、それを手に取り、唯たちが勉強しているテーブルに戻ってきた。
すると……。
「おっ、やーくん。それ、何の本なの?」
「あぁ、これは動物に関する本なんだよ」
「へぇ、統夜君って動物が好きなのねぇ」
「それは意外だなぁ」
「あぁ。私もそう思う」
唯たちは統夜の意外な一面を知り、驚いていた。
「あぁ、そういえば憂がやーくんとあずにゃんと映画を見に行ったって言ってたけど、動物の映画だったの?」
唯は妹である憂から話を聞いたのか、統夜が憂と梓の2人と映画を見に行ったことをあっさりバラしていた。
すると……。
ガタッ!!
澪、律、紬の3人は即座に反応していた。
「へぇ……映画に……ねぇ……」
「それは知らなかったなぁ……」
「詳しく話を聞きたいわねぇ……」
澪、律、紬の3人はどす黒いオーラを放って統夜を睨みつけていた。
「うっ……」
そのオーラにたじろいだ統夜は冷や汗をかいていた。
「お、お前ら勉強するんだろ?」
統夜は慌てて話題を変えていた。
澪、律、紬の3人は納得していないものの、渋々勉強を再会した。
統夜はその様子を見て安堵すると、本棚から持ってきた本を読み始めた。
唯はその様子を見て笑みを浮かべると、唯も勉強を開始した。
統夜たちはそれぞれ勉強を行っており、それを3時間ほど続けた。
※※※
勉強を終えた統夜たちは図書館の入り口にいた。
現在、夕方になっており、統夜たちはこの後息抜きで夏祭りに行くことを計画していた。
このまま夏祭りの会場へ向かおうとしたその時だった。
「……あれ?憂?あずにゃん!!」
唯が偶然にも近くを通りがかっていた憂、梓、純を発見して声をかけた。
それでこの3人もこちらに気付いたようである。
「あずにゃん!」
唯は梓に会えたのが嬉しかったのか、梓に駆け寄り、抱きついていた。
「あれ……?皆さん、どうして?」
梓は統夜たちが全員集合しているとは思っていなかったのか、驚いていた。
「あぁ。さっきまでみんなで勉強しててこれから息抜きにお祭りに行こうかって話をしてたんだよ」
「ま、俺はずっと読書をしてたけどな」
澪が全員揃っている理由を説明し、統夜は1人読書していることを明かした。
「すん……すんすん……。あずにゃんからプールの匂いがするぅ♪」
「嗅がないでくださいよ……。まぁ、プールには行ってきましたけど……」
梓は憂や純と共に桜ヶ丘某所にある市民プールまで遊びに行っていた。
その帰りに偶然唯に声をかけられ、唯たちを見つけたという訳である。
「それじゃあ一緒にお祭りに行こうよ♪」
唯の提案に梓、憂、純の3人は無言で頷き、唯たちと共に夏祭りの会場に行くことになった。
夏祭りの会場に着いた頃にはすでに外は真っ暗になっており、会場は様々な屋台が置かれており、既に賑わっていた。
統夜たちはバラバラにならない範囲でそれぞれ屋台を覗いていた。
統夜は律と共に射的を楽しんでいたのだが……。
「……あぁ!くそ!外した!」
「ハハ、統夜って射的は下手なんだな」
「仕方ないだろ?俺、こういうの苦手だし……」
剣なら得意だけどな。と心の中では思っていたが、あえてそれは口に出さなかった。
「……仕方ない。あたしが見本を見せてやるよ!」
今度は律が射程に挑戦するようだった。
律はコルクを銃に詰めると、欲しい景品に狙いを定めていた。
そして……。
「よっしゃあ!命中だ!」
律は見事景品を撃ち落とし、その景品をゲットした。
「へぇ、上手いもんだな」
「ふふん♪まぁね♪」
律は、「ふんす!」と胸を張ってドヤ顔をしていた。
「へへ、彼氏の兄ちゃんみっともないぞ。1発おまけしてやるから格好いいとこ見せてやんな」
統夜のふがいない成績を見かねた店主のおじさんが、弾を1発サービスしてくれた。
「か、彼氏!?」
おじさんの思わぬ発言に律の顔は真っ赤になっていた。
統夜はそれを気にすることなく、適当な景品に狙いを定めようとしたのだが……。
「あぁ、統夜。それじゃあダメだって!」
律はすぐに我に返ると、統夜にダメ出しをしていた。
「もっとしっかり狙わないと。ほら」
律は手取り足取り統夜に銃の狙い方を教えていた。
律の体の感触が伝わってきており、恥ずかしかったのか統夜は頬を赤らめていた。
店主のおじさんはそれを見てニヤニヤしていた。
統夜は恥ずかしさを振り切るために狙った景品を狙い撃つと……。
「おぉ!やったぞ!律!」
「よっしゃあ!」
景品が取れたのが嬉しくて統夜と律はハイタッチをしていた。
「律、この景品やるよ。律のおかげで取れたんだからさ」
統夜は先ほど取った景品を律の有無を聞かずに手渡した。
「あっ……ありがと……////」
律は統夜のまさかの贈り物が嬉しかったのか、しおらしい表情でお礼を言っていた。
元気いっぱいの律の普段とは違う顔に統夜は思わずドキッとしてしまった。
これを見ていた店主のおじさんはリアクションに困って苦笑いをしていた。
すると……。
「「むー……!!」」
統夜が律に銃の構え方を教えてもらっていた頃から統夜と律の様子を見ていた唯と梓がぷぅっと頬を膨らませて統夜を睨みつけていた。
「うぉっ!?な、何だよ2人とも!!」
「りっちゃん……さりげなくやーくんとスキンシップしてる……」
「むー……!羨ましいです!」
唯はふくれっ面のまま統夜を睨んでおり、梓はふくれっ面のままだが、ブンブンと手を振っていた。
「……アハハ、参ったな……」
統夜は何故唯と梓がここまで焼きもちを焼いているのかわからず苦笑いをしていた。
律は律で統夜とスキンシップが出来たのが嬉しかったのか、ドヤ顔をしていた。
「……統夜先輩。かき氷奢って下さいね」
「お、それ良いね!」
梓は統夜が律と仲睦まじくしてるのを許すかわりに、かき氷を奢るよう提案し、唯もそれに賛同していた。
「……まぁ、別にいいけど」
統夜がかき氷を奢ることを了承したところで、澪、紬、純、憂も集まってきた。
紬は出店で購入した焼きそばを手にしており、満足そうにしていた。
「……みんな、どうしたんだ?」
「ねぇねぇ、みんな!やーくんがかき氷を奢ってくれるって!」
「ちょっ!?お前!!」
統夜は唯と梓だけに奢れば良いと思っていたので、驚きと抗議の声をあげていた。
「いいじゃん!やーくん!」
「そうですよ!私と唯先輩だけじゃなくてみんなにも奢って下さいよ!」
「……まぁ、別にいいけど……」
こうして統夜は唯たち全員にかき氷を奢ることになった。
統夜たちは全員でかき氷の出店へ向かい、唯たちはそれぞれかき氷を注文すると、そのお金は統夜が一括で支払った。
(ったく……。予想外の出費だな……。ま、みんなが楽しそうなら良いのか……)
《やれやれ、お前さんは唯たちには本当に甘いな》
(アハハ……。そうかもしれないな)
統夜とイルバはテレパシーでこのような会話をすると、統夜は苦笑いをしていた。
こうして統夜たちはかき氷を手にすると、近くの階段に腰掛けてかき氷を頬張っていた。
しばらくかき氷を食べていると……。
「ねぇ、見へ見へ〜」
唯は唐突に舌を出すと、舌の一部がかき氷のシロップの色になっていた。
「や、やめろよ!」
「そういうみおちゃんだって、色変わってるよ?」
「え?」
澪は手鏡を取り出して自分の舌をチェックすると、確かに自分の舌の一部がかき氷のシロップの色に変わっており、澪はギョッとしていた。
「お姉ちゃん!あっちで金魚すくいをやってるって!」
「あっ!やりたい!」
憂が近くで金魚すくいをやっているのを発見し、唯はやる気満々だった。
「金魚取ってトンちゃんの水槽に入れようよ!」
「同じ水槽に入れて食べられたりしないかしら?」
「あぁ。食べられるだろうな。バリ!バリ!ガシャ!グチャア!って!」
律は澪が怖がるようにわざとグロテスクな言葉を使っていた。
「や、やめろ!やめろって!」
「そうだな。トンちゃんは金魚は食わないが金魚がかわいそうだからやめておけ」
澪は純粋に怖がっていたのだが、統夜は金魚がかわいそうという理由でトンちゃんと同じ水槽に金魚を入れるのを阻止しようとしていた。
「やーくん大げさだよぉ!トンちゃん小っちゃいし大丈夫だって!」
「そうだよな!大丈夫だよな!」
唯と律はこのように語りながら笑っていた。
梓は楽しげに話をしている統夜たちに見入っていた。
統夜たちはかき氷を完食し、金魚すくいに行こうとしたその時、大きな花火が打ち上がる音が聞こえてきた。
「ねぇりっちゃん!あっちで花火やってるよ!」
「何ぃ!?何故それを早く言わない?そんなに遠くはなさそうだな。よし、みんなで行こうぜ!」
統夜たちは花火を見るために一斉に駆け出した。
統夜は走りながら花火の美しさに魅入られていた。
(……綺麗だな……。まるで夢でも見てるみたいだぜ……。ホラーの存在はこんな綺麗な景色も脅かすんだ。だから、俺は守らないとな。この綺麗な景色もさ)
《ほぉ、お前さんにしてはロマンチックなことを考えるじゃないか。だが、俺様は嫌いじゃないぜ》
統夜は改めて人を守る決意を固め、イルバもその考えに賛同していた。
統夜は人混みを抜けると、その直後に花火が終わってしまった。
「あ、やーくん!!」
唯が近くにいた統夜に声をかけたので、統夜は唯に駆け寄った。
唯の他に澪、律、紬の姿はあったのだが、梓、憂、純の姿はなかった。
「あれ?やーくん、あずにゃんたちは?」
「あの人混みではぐれたかもしれないな」
「梓ちゃんたち、大丈夫かしら……」
紬は梓たちとはぐれたことを知り、心配そうな表情をしていた。
『まぁ、あいつらのことだ。心配はないだろう』
「そうだな、俺もそう思う」
イルバと統夜は何故か梓たちは大丈夫だろうと確信していた。
『それに、ホラーも今の所は気配を感じないからな。大丈夫だと思うぜ』
さらにイルバはホラーの気配がないということを話し、それが問題ないという理由だった。
「……うん、そうかもね!」
統夜やイルバの安心させる言葉に唯が賛同し、澪、律、紬もウンウンと頷いていた。
「……とりあえず俺は街の見回りをしてから帰るよ。今日は楽しかったぜ。ありがとうな」
統夜は唯たちにこのように告げると祭りの会場を後にして、街の見回りを行った。
1時間ほど街の見回りを行った後に、統夜は家に帰った。
いつものように家の鍵を開けて中に入ろうとするのだが……。
「……ん?なんだこりゃ?」
郵便受けに1枚のハガキが入っていたので、統夜はそのハガキを手に家の中に入った。
家の明かりをつけてハガキを確認すると、それは梓からの暑中見舞いのハガキだった。
「へぇ、梓のやつわざわざ書いてくれたのか……」
『こんなのを書くとは、梓も随分とマメじゃないか』
「そうだな。梓にお礼の電話でもしておくか」
統夜は携帯を取り出すと、暑中見舞いのお礼をするため、梓に電話をかけた。
最初は通話中だったため、通じなかったが、数分後にはどうにか電話がつながった。
統夜は梓に暑中見舞いのお礼を言って、その後は他愛のない世間話で盛り上がっていた。
……続く。
__次回予告__
『まだまだ夏休みは続くんだな。それに、このメンツで遊ぶのは珍しいかもな。次回、「夏期講習」。やれやれ、やっかいなことを頼まれたな』
まさか統夜がここまで動物好きだったとは……(笑)
動物ものの映画を見て号泣する統夜の姿は魔戒騎士とは思えませんね(笑)
統夜が重度の動物好きだということが今回明らかになりました。
統夜は魔戒騎士として使命を果たしながらも夏休みも楽しんでますね。これは、統夜にとっても貴重な夏休みになると思います。
さて、次回も夏休み編になっております。
次回は夏期講習とありますが、統夜は夏期講習に参加するのか?
それでは、次回をお楽しみに!