牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第81話になります。

今回は3年生編から登場したヒカリがメインの回になっています。

さらには、ホラーが起こした行方不明事件を警察がどう扱っているかも明らかになります。

それでは、第81話をどうぞ!




第81話 「捜査」

……ここは、桜ヶ丘某所にある桜ヶ丘警察署。

 

ここのとある部屋で、1人の若い刑事が、とある事件の捜査資料に目を通していた。

 

この刑事は、日代幸太。年齢は25歳と、刑事としては若年ではあるが、その熱い性格で、多くの凶悪犯を検挙するなど、実績もあげている刑事である。

 

この日幸太が調べているのは、今年の梅雨あたりに起きたとある画廊のオーナーが行方不明になった事件であった。

 

「……うーん……。特におかしな点はないんだよなぁ……」

 

画廊のオーナーが行方不明になったことに事件性はないと警察は判断し、オーナーはいまだに発見されていない。

 

幸太は、当初からこの事件について調べていたのだが、全く手がかりをつかめなかった。

 

幸太が調べているのはこの事件だけではなかった。

 

桜ヶ丘で人々が不可解な失踪をする事件が多く発生していた。

 

しかし、どれもまともな証拠1つ掴むことが出来ず、事件は迷宮入りになっていた。

 

その中には、人気急上昇のアイドルの失踪事件や、近未来的なゲームを作った「シグルド」という会社の社長が行方不明になるという事件が含まれていた。

 

どの事件にも幸太は関わっているのだが、手がかりを掴むことは出来なかった。

 

今調べているオーナー行方不明の事件も同じく手がかりを掴めなかった。

 

しかし、この事件について調べている人がいるらしく、幸太は明日その人物と会う約束を交わしている。

 

「……何でここまで人がいなくなるのかはわからないけど、絶対に手がかりを見つけてみせる!」

 

他の警官がこの事件に手を引く中、幸太だけは諦めようとしなかった。

 

自分が関わった事件は解決させるという幸太の信念があるからである。

 

幸太がオーナー行方不明事件の資料に目を通していたその時だった。

 

「……おいおい、幸太。まだその事件を調べてるのか」

 

呆れながら幸太に声をかけたのは、幸太の先輩刑事である、真山修吾だった。

 

修吾は刑事歴20年のベテラン刑事で、その経験を活かして幸太とコンビを組み、様々な難事件を解決している。

 

「あっ、修吾さん」

 

「お前、上からもその事件からは手を引けって言われてるだろ?俺たちには解決すべき他の事件が山ほどあるからってな」

 

警察は、解決の糸口すら掴めない事件を延々と調べるよりも、今目の前で行われている事件を優先すべきという考え方だった。

 

そのため、幸太以外の警官は、この事件には手を引いていた。

 

当然、修吾もその1人であった。

 

「……もしかしたら例の事件の手がかりを掴めるかもしれないんですよ。やっぱり俺はどうしても諦めきれなくて」

 

幸太の意思は固く、やめろと言っても聞いてくれないと判断した修吾はため息をついていた。

 

「まったく……。ほどほどにしておけよ。上にだって突かれるし、例の行方不明事件に関わりすぎたやつはどうなるかお前も知ってるだろ?」

 

「そんなの、ただの噂じゃないですか?行方不明事件の核心を突こうとしたものは消されるだなんて」

 

幸太がこう言って呆れているが、幸太の他にも行方不明を解決させようと動いていた刑事はいたのだが、その全員も謎の失踪を遂げているのである。

 

「……何か変な怪物を銀の狼が倒すなんて都市伝説だって広がってるらしいじゃないか」

 

「あぁ、その都市伝説なら俺も聞いたことありますけど、それもただのデマでしょう?怪物やら銀の狼なんて目撃情報はありませんし」

 

今、桜ヶ丘では、夜な夜な不気味な怪物が現れ、それを銀の狼が退治するという都市伝説が広がっていた。

 

その都市伝説こそ、ホラーと、統夜の身に纏う奏狼の鎧のことなのだが、目撃情報もなく、その存在を信じるもの はほとんどいなかった。

 

幸太もこの都市伝説は知っているものの、信じてはいなかった。

 

「……まぁ、とりあえずほどほどにしとけよ。それじゃあ、お先」

 

「あっ、お疲れ様です」

 

修吾は一応幸太に釘を刺してから、警察署を後にした。

 

「さてと……」

 

幸太は行方不明事件の資料に一通り目を通してから、業務を終えて警察署を後にした。

 

 

 

 

 

 

「……ただいま〜」

 

幸太は現在実家暮らしであり、仕事が終わるとどこにも寄らずにまっすぐ家に帰宅した。

 

すると、ドタドタと足音を立てながら1人の少女が玄関まで駆け出してきた。

 

「お兄ちゃん、おかえり〜」

 

「おう、ただいま、玲奈」

 

少女が満面の笑みで微笑んで幸太を出迎えると、幸太は少女の頭をクシャッと撫でていた。

 

「玲奈、ちゃんと宿題はやってるのか?」

 

「うん、ちゃんとやってるよ!」

 

「それなら良いんだ。友達と遊ぶのは良いけど、宿題は疎かにするなよ。後が大変だからな」

 

「もぉ〜!お兄ちゃんってばお母さんみたいだよ!」

 

幸太の言葉がこうるさかったのか、少女はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「……ハハ、そりゃすまんかったな、玲奈」

 

幸太は再び少女の頭を撫でていた。

 

この少女、日代玲奈は幸太の妹であり、桜ヶ丘高校に通う高校2年生であるのだが、現在は夏休みであった。

 

幸太は玲奈の頭を撫で終えると、そのままリビングへと移動した。

 

すると、テーブルにはラップに包まれた料理が置かれていた。

 

「おっ、美味そうだな。俺、腹ペコペコだよ」

 

幸太はそう言いながらスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外した。

 

それを玲奈が受け取ると、スーツの上着をハンガーにかけて、ハンガーをとある場所にかけていた。

 

玲奈がそうしているうちに、幸太は夕食のおかずをレンジで温め、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

 

おかずが温まると、今度は炊飯器をあけて、ご飯を茶碗によそった。

 

「……いただきます」

 

幸太は缶ビールを片手に少し遅い夕食を取り始めた。

 

玲奈はそんな幸太の様子を少し見た後に冷蔵庫に移動すると、ペットボトルのジュースを取り出すと、幸太の向かいの席に腰を下ろした。

 

「……玲奈、もう遅いから寝た方がいいんじゃないのか?」

 

「いいんだもん!今夏休みだし」

 

「……まぁ、そういうことなら良しとするか」

 

幸太は妹を寝かせようとするが、玲奈は夏休みを理由にそれを拒否していた。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが調べてる事件はどうなの?」

 

玲奈は、幸太の仕事の近況を聞いていた。

 

「うーん。相変わらず手がかりなしかな。この事件はあまりに不可解な事件だからな」

 

幸太の近況を聞いた玲奈は「ふーん」と軽い返事をすると、ペットボトルの飲み物を一口飲んだ。

 

「ところで玲奈ってさ、銀の狼の都市伝説って知ってるか?」

 

幸太は先輩刑事である修吾の言っていた都市伝説の話を玲奈に振ってみた。

 

「銀の狼?あぁ、知ってるよ!クラスでも持ちきりになったことがあるもん!だけど、みんな化け物も銀の狼も信じてないけどねぇ」

 

「ま、やっぱりそうだよな」

 

予想通りの答えを聞いた答えを聞いた幸太は苦笑いをしながら缶ビールをちびちびと飲んでいた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。その都市伝説がどうしたの?」

 

「別に?その都市伝説の怪物やら銀の狼やらが事件に関わってたら面白いなと思ってな」

 

「もぉ、お兄ちゃんってば!そんなのあり得ないじゃん!もう酔っ払っちゃったの?」

 

「アハハ、俺は酔ってないけど、確かにあり得ない話だよな」

 

幸太はあり得ない話に笑いながら夕食や缶ビールに舌鼓を打っていた。

 

その間、幸太は玲奈と他愛のない話で盛り上がっていた。

 

幸太と玲奈の両親は幸太が警察官になる少し前に事故で他界しており、それ以来、幸太はまだ幼い玲奈の親代わりになっていた。

 

そのため、幸太は玲奈のことは良く知っており、玲奈が統夜にフラれたという話も知っていた。

 

そのため、統夜の存在は玲奈の携帯に入っている写メを見て認識していた。

 

しかし、統夜が都市伝説になっている奏狼こと銀の狼とは知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日、桜ヶ丘某所にあるカフェのとある席に1人の女性が座っていた。

 

その女性は画家を志している東ヒカリであり、ヒカリはこの日1人の男と会う約束をしていた。

 

ヒカリは自分の個展を行う予定だったが、その直前に画廊のオーナーが行方不明になってしまった。

 

しかしヒカリはその前後の記憶が曖昧になっていた。

 

画廊のオーナーはホラーに憑依され、ヒカリを喰らおうとしていたのだが、その前に統夜とアキトに救われた。

 

統夜はホラーと化したオーナーを討滅し、さらにヒカリのホラーに関する記憶を消した。

 

その結果、ヒカリは統夜とアキトの存在を認識しており、統夜とアキトがオーナーの行方不明に関わっていると考えていた。

 

ヒカリは事件の後も何度か統夜と会うのだが、その度に探りをいれていた。

 

しかし、統夜が事件に関わっているという証拠は掴めなかった。

 

なのでヒカリは探偵を使って統夜に探りを入れるのだが、プロの探偵でも魔戒騎士である統夜の足跡を追うことは出来なかった。

 

しかし探偵は統夜が桜ヶ丘高校の軽音部に入っていることを突き止め、軽音部にも探りを入れるのだが、それでも統夜の秘密を掴むことは出来なかった。

 

オーナーが行方不明になった事件の手がかりは一切掴めず、諦めようとしていた時、ヒカリは1人の刑事がこの事件について調べてることを突き止め、連絡を取った。

 

そして今日、ここで会い、情報交換をすることになっている。

 

ヒカリは、もしここで有力な手がかりが得られなければオーナーが行方不明になった事件を調べてるのは諦めようと考えていた。

 

それは、統夜が本当にあの事件に関係しているのか疑問を持っていたからである。

 

(……さて、今日はあの事件の手がかりは得られるかしら……)

 

探偵を使って統夜の身辺調査をしても手がかりなしだったので、本当に手がかりを得られるかは首を傾げるほどだった。

 

しかし、些細な会話から何か手がかりが掴めるかもしれない。

 

ヒカリはそんな気持ちでその刑事と会うことにした。

 

すると……。

 

「……あ、すいません。お待たせしました」

 

自分より少し年上の青年が店内に入ると、まっすぐこちらに移動してきた。

 

「いえ、気にしないでください」

 

「あなたがお電話をくれた東ヒカリさん……ですよね?」

 

男の問いかけに、ヒカリは無言で頷いていた。

 

「申し遅れました。私は電話で話した通り、あの事件を独自に捜査している日代幸太です。よろしくお願いします」

 

ヒカリと会う約束をしている男こそ、行方不明事件を追っている幸太であった。

 

幸太が席に座るのと同時に店員がお冷を持ってきたので、幸太はコーヒーを注文した。

 

「……あの、日代さんは独自に例の事件を調べてるんですよね?」

 

「えぇ。上はこの事件の解決は困難と判断し、手を引いたんです」

 

「そんな……!だって、オーナー以外にも同じように行方不明になった人だっているんですよね?」

 

「えぇ。その事件に関しても警察は手を引いています。解決の糸口も掴めない事件を追うより目の前の事件を追えとうるさく言われておりまして……」

 

幸太は警察の現状をヒカリに語ると、ヒカリの顔は真っ青になっていた。

 

まさか、警察がこの事件の捜査を諦めているとは思わなかったからである。

 

「日代さんみたいに行方不明を捜査している人はいないんですか?」

 

「前はいたらしいですが、今は私だけみたいです。妙な噂が流れていまして……」

 

「妙な噂……ですか?」

 

「えぇ。独自に行方不明事件を追っていた刑事が事件の真相にたどり着きそうになったらしいのですが、その直後に行方不明になったらしいのです。ですので、この事件の真相を探ろうとしている者は消されるという噂が流れていましてね」

 

幸太は、先輩刑事である修吾の話していた噂話をヒカリに話した。

 

「そんな……。そのいなくなった人は手がかりを残さなかったのですか?」

 

ヒカリの問いに幸太は無言で頷いていた。

 

幸太や修吾の話していた噂は実は本当であり、事件を追っていた刑事はホラーの存在を知り、そのホラーに捕食されたため、行方不明となっているのである。

 

そのため、刑事内部でこのような噂が流れ、捜査打ち切りのきっかけとなってしまったのである。

 

ヒカリが手がかりがないことに絶望していると、幸太の注文したコーヒーが来て、幸太の前に置かれた。

 

幸太はコーヒーを一口ゆっくりとすすっていた。

 

「……そういえば、東さんも独自に調べていたんですよね?何か手がかりはないんですか?」

 

「手がかり……ですか」

 

ヒカリは表情が暗くなりながらも自分の知っていることを語った。

 

「オーナーが行方不明になった時に1人の少年がいたような気がするんです」

 

ヒカリの話した情報に幸太はピクッと反応していた。

 

「少年……ですか?」

 

「えぇ。私もオーナーがいなくなる前は画廊で個展の準備をしていたんです。ですけど、準備を終えた後の記憶が曖昧で……」

 

「まさか、その少年が行方不明事件に関わっているとか?」

 

「私もそう思いました。それで探偵を使ってまで探りを入れたんですけど、全く手がかりは得られませんでした。その少年が月影統夜って名前で、桜ヶ丘高校に通ってるってことしか」

 

「……月影?どこかで聞いたような……」

 

幸太は統夜の名前に心当たりがあった。

 

「あの、もしかして、その少年は赤いコートを羽織ってたりしてませんか?」

 

「あ、そういえば、赤いコートを羽織ってた気が……」

 

統夜は魔戒騎士の勤めを果たしている時は赤いコート……魔法衣を着ているが、ヒカリはそのことを覚えていた。

 

「!もしかして、その月影統夜って……」

 

「!何か知ってるんですか?」

 

「えぇ。実は私には妹がいるんですが、妹が彼に惚れており、彼にフラれてしまったみたいなんですよ」

 

「!何よ、あいつ。ただの女たらしなのかしら……」

 

ヒカリは昨日、統夜が梓と一緒にいるところを見ており、その話を聞くと、統夜が女たらしなのではないかという疑惑を持っていた。

 

「……その彼に話を聞ければ何か手がかりが得られるのだろうか……」

 

「恐らく無駄ですね。私も色々探りを入れつつ、直接聞きましたけど、あいつはシラを切り通してまして」

 

ヒカリは統夜と会う度に話を聞いていたのだが、有力な話は全く聞けなかった。

 

「……彼は事件とは関係なさそうだけど、1度彼に話を聞いてみたいですね」

 

幸太は、統夜から話を聞けば何か手がかりを得られるかもしれないと考えていた。

 

幸太は刑事として手がかりを得られる可能性があれば、徹底的に追求する人物であるため、是が非でも統夜から話を聞こうと思っていた。

 

「……あっ、そういえば、東さんは銀の狼の都市伝説って知ってます?」

 

「……銀の狼?」

 

ヒカリはこの都市伝説は知らなかったのか、首を傾げていた。

 

「それによると夜な夜な怪物が現れて、それを銀の狼が退治するとか」

 

「……銀の……狼……」

 

初めて聞く言葉であるのだが、ヒカリはその言葉に引っかかりを感じていた。

 

「……?東さん?」

 

「あっ、いえ。何でもないです!怪物とかいるわけないのに可笑しい話ですよねぇ」

 

ヒカリは苦笑いをして話を誤魔化そうとしていた。

 

(……何でだろう……。私……もしかして、その銀の狼とやらを見たことがあるの……?)

 

銀の狼という言葉に引っかかりを感じていたヒカリは、その銀の狼の存在を知っているのではないかという疑惑を持っていた。

 

ヒカリはその疑惑を必死に払拭しようとしていた。

 

しかし、ヒカリは銀の狼という言葉を聞き、ホラーや魔戒騎士について思い出しそうになっていた。

 

ホラーに関する記憶を消された者が再びホラーに出くわすようなことがあれば、その時の記憶を思い出してしまう。

 

そのような前例は滅多にないのだが、全くないという訳ではなかった。

 

お互いに行方不明事件について情報交換を終えた2人は、喫茶店を後にすると、世間話をしながら街を歩いていた。

 

しばらく歩いていると、銀行の前でヒカリが足を止めた。

 

「……?東さん?どうしました?」

 

「あっ、すいません。ちょっと銀行に寄っても良いですか?今日がバイトの給料日だってことを忘れてまして」

 

「もちろん、良いですよ」

 

ヒカリはバイト代を降ろすために、銀行へと立ち寄った。

 

ヒカリと幸太がATMコーナーに移動すると……。

 

「……!あ、あいつは!!」

 

ヒカリは今現在進行形でお金を降ろしている赤いコートの少年を指差した。

 

「!彼がさっき話をしていた?」

 

幸太も妹である玲奈の写メで統夜を見ているハズなのだが、赤いコートを着ているのが統夜とすぐにはわからなかった。

 

「日代さん、せっかくだから話を聞いてみたらどうですか?」

 

「そうですね。そうします」

 

幸太が統夜から話を聞こうと決めると、統夜がお金を降ろし終えてお金を財布に入れていた。

 

そして、一箇所しかない出入り口に向かうのだが、統夜はヒカリの存在を見つけ、表情が歪んでいた。

 

(……げ、何でこんなところであいつに会うんだよ……)

 

統夜は朝からエレメントの浄化を行っており、その仕事もひと段落したので、お金を降ろすために銀行へ立ち寄ったのである。

 

お金を降ろし終えると、偶然ヒカリの姿を見つけたという訳である。

 

《またあのお嬢ちゃんか。統夜、今日はついてないみたいだな》

 

(そうだな。また例のこと聞かれるんだろうな……)

 

統夜は何度もヒカリに同じようなことを聞かれているため、正直げんなりしていた。

 

それでも無視は感じ悪いと思い、ゆっくりとヒカリと幸太に近付いていった。

 

幸太が統夜に話しかけようとしたその時だった。

 

__バァン!!

 

突然乾いた爆発のような音が聞こえてきた。

 

それが銃声であることは銀行内にいた誰もが理解し、あちこちから悲鳴が聞こえてきた。

 

「ガタガタ騒ぐんじゃねぇ!騒ぐとぶち殺すぞ!」

 

銃を手にした男は、顔がバレないようにマスクを被っていた。

 

男は1人ではなく、同じような格好をしている男があと3人もいた。

 

この4人組が銀行強盗であることは誰の目にも明らかだった。

 

統夜はそんな銀行強盗たちを見てため息をついた。

 

(……あーあ、面倒くせぇ。銀行強盗かよ……)

 

銃で武装した銀行強盗でも統夜の敵ではなく、統夜はげんなりとしていた。

 

《やれやれ……。統夜、お前さんは今日厄日なんじゃないのか?》

 

(そうかもな)

 

《なぁ、どうするつもりだ?》

 

(とりあえずしばらくは様子を見る。誰かが危なくなったら実力行使で取り押えるさ)

 

《おいおい、人間の事件にあまり首を突っ込むなよな……》

 

魔戒騎士はホラーから人を守るのが使命であり、人間の起こした事件には介入してはならないという暗黙の掟があった。

 

しかし……。

 

(この場合は仕方ないだろ?現在進行形で巻き込まれてるんだからな)

 

《た、確かにそうだが……》

 

イルバが統夜がこの事件に介入しようと考えていることに異議を言おうとしたその時だった。

 

「おい、お前ら!こっちに集まれ!余計なことしやがったら撃ち殺すからな!」

 

強盗たちは、統夜、ヒカリ、幸太を含む一般客を一箇所に集めていた。

 

統夜はその気になれば即相手を黙らせることは出来るのだが、他の人に被害が及ぶ可能性を考え、今は強盗の指示通り動くことにした。

 

一般客たちは一箇所に集められ、突然の出来事に恐怖して震えていた。

 

強盗の1人が人質となった一般客に銃を突きつけ、動けないよう見張り、残りの3人が銀行員を脅して金を奪い取ろうとしていた。

 

(……さて、どうしたものか……)

 

一般客が恐怖で怯えるなか、統夜は冷静であり、どのように強盗たちを鎮圧するか考えていた。

 

《おい、統夜。本気でこいつらを鎮圧するつもりか?》

 

(この後番犬所に行きたいんだ。さっさと解決させたいんだよ)

 

統夜はお金を降ろした後は番犬所に顔を出す予定だった。

 

しかし、このような事件に巻き込まれて、それが長引けば番犬所に行くことが出来なくなってしまう。

 

統夜はそれを避けるためにこの状況をどうにかしようとしていた。

 

(……奴らは全部で4人か……。真正面から攻めるのは危険か……。奴らの弾なんてよけれるけど、流れ弾が誰かに当たったら大事だからな)

 

真正面から鎮圧するのは、他の人を巻き込む可能性があり、危険であると統夜は判断した。

 

(こうなったら、俺が囮になって一気に鎮圧するしかないか……)

 

統夜は魔法衣の中に隠し持ってる何かを取り出そうとしたその時だった。

 

「……おい、お前。何をするつもりだ?」

 

統夜の行動を見ていた幸太は統夜に小声で声をかけた。

 

「……何って……。奴らを鎮圧するんですよ……」

 

「馬鹿なことはやめろ。危険すぎる」

 

幸太は統夜の安全を考えて統夜を制止した。

 

「……止めても無駄ですよ。あんたは大人しくしてて下さい」

 

「……私は警察だ。君を危険に晒す訳にはいかない」

 

「!」

 

統夜は幸太が警察だと知り、驚きを隠せなかった。

 

警察の目がある以上、迂闊な行動は出来ないからである。

 

「……あんたは何か作戦はあるんですか?」

 

「とりあえず奴らに金を持たせて、隙が出来たところを取り押える」

 

「悠長過ぎますよ。それに、あんた1人じゃ無理だ」

 

「無理ではない。俺ならやれる」

 

幸太は刑事として、強盗相手に引けを取らないと自負していた。

 

統夜と幸太が小声で相談をしていたその時だった。

 

「……おいそこ!何こそこそしてやがる!!」

 

統夜と幸太の密談に気付いた強盗の1人が2人に銃を突きつけた。

 

カチャリと銃の音が聞こえるのと同時に統夜は舌打ちしていた。

 

(……あーあ、バレちまったか……。こうなったら仕方ない……)

 

統夜はこのまま強盗たちの視線を統夜に向けさせ、隙が出来たところを鎮圧する作戦を決行することにした。

 

《おい、統夜。相手は普通の人間なんだ。手加減はしろよ》

 

(わかってるって)

 

統夜はこのまま強盗たちの視線をこちらに向けさせることにした。

 

「……おい、そこの赤いコートのガキ。立て」

 

統夜は相手の言うことを聞いてゆっくりと立ち上がった。

 

「……両手を上げろ」

 

統夜は再び言うことを聞いて、両手をゆっくりと上げた。

 

(……さて、そろそろかな……)

 

統夜はそろそろ相手を鎮圧させようと考えていた。

 

「おい、その暑苦しいコートを脱げ」

 

「……今、両手上げてるんすけど」

 

「いいからさっさと脱ぎやがれ!!」

 

統夜の反抗に苛立った強盗の1人は銃を統夜に突きつけた。

 

(……ばっ!?あいつ馬鹿なの!?何で相手を挑発するのよ!?)

 

ヒカリは統夜の行動をハラハラしながら見守っていた。

 

(……くそ、 こうなったら仕方ない……)

 

幸太は統夜に何か起こる前に強盗たちを取り押えようと考えていた。

 

統夜は指示通りに魔法衣を脱いだ。

 

「……これでいいっすか?」

 

「それを床に置け」

 

「えぇ?これ俺のお気になのに」

 

統夜は相手の視線を統夜に釘付けにするあめにあえて挑発的な態度をとっていた。

 

「うるせぇ!さっさと置かねぇと殺すぞ!」

 

強盗の1人は銃の撃鉄を上げて、統夜を脅した。

 

統夜はそれに怖がることはなく、ため息をついていた。

 

「わかりました……よ!!」

 

統夜は魔法衣を床に置くと見せかけて、強盗の1人目掛けて投げつけた。

 

魔法衣が顔面に覆われた強盗の1人は視界が見えなくなり、統夜はその隙に蹴りを放って相手を吹き飛ばした。

 

統夜の蹴りは強力で、吹き飛ばされた男はそのまま気絶してしまった。

 

「てめぇ!何してやがる!」

 

強盗の1人が統夜に銃を向けたその時だった。

 

「させない!」

 

幸太が強盗の1人目掛けて飛びかかり、蹴りを放って相手を行動不能にした。

 

「……やっぱりそう来たか」

 

統夜はこれを予想しており、笑みを浮かべていた。

 

しかし、この乱闘に一般客たちは悲鳴をあげていた。

 

「てめぇら、ぶっ殺して」

 

ぶっ殺してやると言い切る前に統夜はその男を蹴り飛ばし、相手を行動不能にした。

 

「てめぇ、死ね!」

 

最後に残った1人が、統夜に発砲した。

 

その瞬間、一般客たちは悲鳴をあげるのだが、統夜はニヤリと笑みを浮かべていた。

 

そして、完全に銃弾の軌道を読み、無駄のない動きでかわしていた。

 

「……!?嘘だろ!?こいつ、避けやがった!」

 

統夜が銃の発砲をかわしたことに驚いた男は呆然としていた。

 

そのため隙だらけになった男を、幸太が殴り飛ばし、相手を行動不能にした。

 

こうして、4人の強盗たちは統夜と幸太の活躍で鎮圧された。

 

安全が確保されたこの場にいる人たちは、大きな歓声と拍手を送っていた。

 

「……ふぅ、何とかなったか」

 

統夜は無事に強盗たちを鎮圧することが出来て安堵していた。

 

(……ま、後は警察の仕事だ。あいつらは人間の法で裁いてもらうさ)

 

統夜は直接人間に手を下すことは出来ないため、それを人間の法に託した。

 

「……おい、お前!」

 

統夜のあまりに無茶な行動に異議を唱えるべく幸太が詰め寄ってきた。

 

「今回はたまたま上手くいったから良いものの、失敗したらお前の命はなかったんだぞ!?わかってるのか!?」

 

幸太の声には怒気が含まれており、今にでも統夜に殴りかかりそうだった。

 

「失敗はしないさ。俺は1人でも何とかなったけど、あんたがフォローしてくれると思ってたしな」

 

統夜は自分の行動を正当化しているので、全く悪びれる様子はなかった。

 

「……っ!?お前な!!」

 

「それよりもあんたは刑事ですよね?俺に詰め寄る前にやることがあるんじゃないの?」

 

「……っ!お前には後で聞きたいことがある。逃げるなよ!!」

 

幸太は気絶した犯人に手錠をかけるために移動を開始し、持っていた手錠を犯人にかけていた。

 

「……あんた、逃げるんじゃないわよ」

 

統夜がその場から逃げないよう、ヒカリが見張りをしていた。

 

「……逃げないよ。逃げたら余計面倒なことになりそうだし」

 

本来なら素早くその場から離れようと考えていたが、刑事である幸太から逃げたら面倒なことになると判断し、その場に留まることにした。

 

《番犬所行きはかなり遅くなりそうだな》

 

(……あぁ。それが悔やまれるけど、仕方ないな)

 

統夜は事件が落ち着くまで、ヒカリとともに幸太を待っていた。

 

すぐに他の警官が駆けつけ、銀行強盗をしようとした犯人を次々とパトカーに連行していった。

 

(へぇ、まるで刑事ドラマを見ているみたいだな)

 

統夜は多くの警官がバタバタと動き回る様子を見て、刑事ドラマを連想させていた。

 

数分後、所轄の刑事に事件の引き継ぎを行った幸太は、統夜とヒカリのもとへ戻ってきた。

 

「……あぁ、待たせてすまなかったね」

 

「……それで、俺に何の用事なんです?これから行くとこがあるんで手短にしてもらえれば助かるんすけど」

 

統夜は面倒そうな態度を取っていた。

 

「ここでは目立つから移動しようか」

統夜たちは落ち着いて話をするため、人気のない裏口まで移動した。

 

「……それで、俺に聞きたいこととは?」

 

「君は、梅雨頃にとある画廊のオーナーが行方不明になった事件を知っているか?」

 

「知ってるも何も、この人に散々その話は聞かれましたよ。俺、美術部でもないのにあんなところに行く用事はないですよ。俺っぽい人がいたっていうのは気のせいなんじゃないですか?」

 

統夜はヒカリに事件のことを問い詰められた時もこのように返して誤魔化していた。

 

「……」

 

幸太は刑事としての勘で、これ以上統夜に何を聞いても無駄だということを悟った。

 

「……それじゃあ、質問を変えよう。君は、銀の狼の都市伝説は知っているか?」

 

「……まぁ、クラスでもその話題になったことはあったし。……俺を含めて誰も信じちゃいないけど」

 

統夜は冷静に都市伝説のことを答えていたのだが……。

 

(……まったく、俺とホラーの戦いが都市伝説になってやがるんだよなぁ。誰も信じてないのが幸いだけど)

 

《そうだな。一歩間違えれば一気に広まりそうな話だがな》

 

(そこは気を付けるつもりさ)

 

統夜は魔戒騎士やホラーの存在を何も知らない人に広めないように気を配っていた。

 

一般人にホラーの話を話せば、隣人がホラーではないかと疑心暗鬼に陥り、大混乱になることは火を見るよりも明らかだからである。

 

そのため、統夜を含む魔戒騎士たちは、一般人にホラーのことを知られないよう心がけ、一般人がホラーとの戦いに巻き込まれた時はホラーに関する記憶を消すという掟に従って行動していた。

 

「……他にも聞きたいことは?」

 

統夜は質問がなければさっさとその場を離れようと考えていた。

 

「君は強盗たちを軽々と蹴散らしていたね。君は何者なんだ?」

 

「俺は普通の高校生ですよ。護身用に格闘技は習ってましたけどね」

 

統夜は幸太に怪しまれないようにこのような嘘をついていた。

 

格闘技の心得があるとわかれば、幸太も渋々でも納得すると思ったからである。

 

「……」

 

幸太は疑いの目で統夜を見ていたが、統夜の嘘を暴くことは出来なかったので、何も言えなかった。

 

「話はもう終わりですか?だったら俺はもう行きますね」

 

幸太とヒカリはこれ以上統夜を引き止めることは出来ず、統夜はその場を離れ、番犬所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

番犬所に到着した統夜は、イレスに挨拶をすると、狼の像に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

「……統夜、指令です」

 

統夜が魔戒剣を鞘に納めてしまったタイミングで、イレスはこう告げた。

 

指令書を受け取った統夜は、魔導火を用いて指令書を燃やすと、そこから飛び出してきた指令の内容を確認した。

 

統夜が指令の内容を読み終えると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

「……わかりました。さっそく、ホラーの討伐に向かいます」

 

「頼みましたよ、統夜」

 

指令の内容を確認した統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にした。

 

その後、イルバのナビゲーションを頼りに、ホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

統夜と別れた幸太とヒカリは、その後も行方不明事件について意見交換や、現場の調査などを行っていたが、手がかりはまったく得られなかった。

 

気が付けば夜になり、2人は画廊付近の道を歩いていた。

 

「……すっかり遅くなりましたね……」

 

「すいません、東さん。遅くまで付き合わせてしまいまして」

 

「いえ。私も事件について調べたいって思ってましたから」

 

ヒカリは今日1日幸太と色々捜査をしていたのだが、それはヒカリのやりたいことでもあり、嫌という感情はなかった。

 

「とりあえず、早く帰りましょうか。今日はもう遅いので、送りますから」

 

幸太はヒカリを家に送り届けるためにヒカリの家に向かっていた。

 

すると……。

 

「……あれ?」

 

「?東さん?どうしました?」

 

何かを発見したヒカリは足を止め、幸太も足を止めたのだが、何故足を止めたのかがわからず首を傾げていた。

 

「……あれってもしかして……」

 

「!月影統夜!?何でこんなところに……」

 

ヒカリは統夜の姿を発見したので足を止めたのであり、幸太も統夜の姿を見つけた。

 

「とりあえず尾けてみましょう。日代さん」

 

「仕事柄気は進みませんが、行きましょう」

 

ヒカリと幸太は、統夜の後を追いかけ、統夜が何をしようとしているのか様子を見ることにした。

 

そんな中、統夜は早々にヒカリと幸太の尾行に気付いていた。

 

(……はぁっ、またあの2人かよ……)

 

尾行しているのがヒカリと幸太であるとわかった統夜はため息をついていた。

 

《あいつら、このままついて行くつもりか?》

 

(このまま尾けられるのもうざったいけど、逃げたらまた面倒なことになるんだろうな)

 

《?統夜、お前、まさかとは思うが……》

 

(あの2人にホラーを見せてホラーを倒した後に事情を説明する。それであの2人がホラーの秘密を話そうとするなら完全に記憶を消してやるさ)

 

統夜はこれ以上付きまとわれないようにあえてホラーを見せる決意をしていた。

 

その後どうするかは2人次第だということも考えていた。

 

《おいおい、お嬢ちゃんはともかくあの男は刑事だろ?大丈夫なのか?》

 

(大丈夫だよ。あの人は刑事だからこそ、ホラーの存在を公にしたらどうなるかはわかるだろ。それがわからん愚か者なら記憶を消してやるさ)

 

イルバは幸太が刑事であることを憂いていたが、統夜は何とかなると考えていた。

 

《……わかったよ。統夜、上手くやれよ》

 

(わかってるって!)

 

統夜はイルバとテレパシーで会話しながらホラーのいる場所まで移動していた。

 

ヒカリと幸太はそんな統夜の思惑など知る由もなく、統夜についていった。

 

歩くこと数分。統夜が足を止めたのは桜ヶ丘の街はずれにある今は使われていない広場だった。

 

「……あいつ、何でこんなところに?」

 

「もしかして、誰かを待っているのだろうか……」

 

ヒカリと幸太は、統夜から少し離れたところに隠れて統夜の様子を見ていた。

 

統夜はヒカリと幸太が安全な場所に隠れているのを確認すると、いつでも魔戒剣を取り出せるようにしていた。

 

すると……。

 

『……統夜、来るぞ!!』

 

イルバがこのように宣言すると、統夜の目の前にこの世のものとは思えない怪物が姿を現した。

 

「……!?な、何だ!?あの怪物は!?」

 

「……!!」

 

幸太はこの世のものとは思えない怪物を見て愕然としていたのだが、ヒカリはその怪物……ホラーを見ると、目を大きく見開いて固まっていた。

 

この時、ヒカリの脳裏には、ホラーへと変貌したオーナーの姿や、統夜が召還した奏狼の鎧の姿が映し出されていた。

 

「……あ……あぁ……!」

 

ホラーに関する記憶を思い出したヒカリは、脳内に大量の情報が送られ、表情を歪めて頭を抱えていた。

 

幸太はすぐにヒカリの異変に気付いていた。

 

「……あ、東さん!?大丈夫ですか!?」

 

そしてすかさず声をかけるものの、ヒカリは何も答えなかった。

 

しばらくその状態が続くと……。

 

「……私、思い出した……」

 

ホラーに関する記憶を全て思い出し、情報も全て得たヒカリは、自分の状態が落ち着いてからこのように語り始めた。

 

「思い出したって……何をですか?」

 

「行方不明になったオーナーはあの怪物みたいな怪物で、私を喰おうとしたんです……」

 

「!?何ですって!?」

 

普通に考えたら信じられない話であったが、ホラーを実際目の当たりにした幸太は、ヒカリの話を信じざるを得なかった。

 

「それで、その怪物から私を助けてくれたのがあいつなんです」

 

「彼が……怪物を?」

 

幸太はその話を聞いた瞬間、統夜が銀行強盗を軽々と撃退したことを思い出し、怪物を倒せるならと納得していた。

 

ヒカリが全てを思い出し、幸太と共に統夜の戦いを見守っていたその時だった。

 

統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

「!!」

 

「……」

 

幸太は統夜の身に纏った銀の鎧を見て驚きを隠せなかった。

 

そしてヒカリは、ホラーのことを思い出したので、自分を救ってくれたのがこの銀の鎧の騎士だということを思い出したので、そこまで驚いてはいなかった。

 

「あの銀の鎧……まさか、都市伝説になってる銀の狼……なのか?」

 

幸太は、目の前に雄々しく佇む銀の狼の騎士が、都市伝説になっている銀の狼なのではないかと思っていた。

 

都市伝説の存在を目の当たりにした幸太は目を大きく見開いて驚いていた。

 

幸太とヒカリがジッと統夜を見守るなか、統夜は皇輝剣を一閃し、ホラーを真っ二つに斬り裂いた。

 

真っ二つに斬り裂かれたホラーは消滅し、そのことを確認した統夜は鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

ホラーがいなくなったことを確認した幸太とヒカリは統夜に駆け寄った。

 

「あんたら、怪我はないか?」

 

「もしかして、お前は俺たちが尾けてることを?」

 

「あぁ。気付いていたよ」

 

「それにしてもお前は何者なんだ?それに、あの怪物は……」

 

幸太は統夜の戦いを見届けた上で感じた疑問を投げかけた。

 

「……今日見たことは忘れた方がいい。平穏な日常を過ごしたいならな」

 

「ふざけるな!俺は刑事だ!あんな化け物がいるのに放っておけるか!」

 

幸太はどうしても怪物について知りたいと思っており、統夜はため息をついた。

 

「……ねぇ、あんた。画廊のオーナーってもしかして……」

 

「あぁ、記憶を取り戻したんだな。あの人はさっきの怪物と同じホラーになっちまったんだ。あんたも喰われそうだったんだからな」

 

統夜がオーナーについて説明を聞くと、やはりそうだったのかと思い、ヒカリは納得していた。

 

「……もしかして、君はオーナーが行方不明になった事件の真相を知っているというのか?」

 

「まぁ、そうなるのかな。オーナーは化け物になったなんて言ったところで信じてもらえないからな」

 

「……」

 

幸太は自分の知りたがっていた真実が意外なものであり、唖然としていた。

 

「……なぁ、教えてくれないか?君が一体何者なのか。そして、あの怪物はいったい何なのか」

 

幸太は新たに気になる疑問を統夜にぶつけ、それを教えるよう頼んでいた。

 

「……まぁ、教えても良いが、条件がある」

 

「条件?」

 

「今から言う話を例え身内だろうと公言しないこと。これから話す話はそれだけ広まったらやばい話なんだ。それを守れないなら俺は教えるつもりはない。例え警察が強行手段に出ようとな」

 

統夜は鋭い目付きで幸太を睨みつけた。

 

「……っ!」

 

統夜の放つ殺気が高校生のものとは思えず、幸太は思わずたじろいでしまった。

 

そして……。

 

「……わかった、約束しよう。どうせ上に話しても信じてもらえない話だ。これからの話は俺の胸の中に収めておくさ」

 

「……あんたが話のわかる人で安心したよ」

 

幸太の言葉に嘘はなく、そのことを察した統夜は安堵していた。

 

「……私にも教えなさいよ。私だって周りに話すつもりはないから」

 

ヒカリも魔戒騎士やホラーの話が聞きたいのか他言はしないと宣言していた。

 

「……わかった。それじゃあ話すよ。あの怪物……ホラーと、それを狩る俺たち魔戒騎士のことを」

 

統夜はゆっくりとした口調で語り始めた。

 

ホラーが陰我のあるオブジェをゲートに現れて人に憑依し、人を喰らう怪物であるということ。

 

そして、それを狩るのが魔戒騎士であるということ。

 

イルバは何も語りはせず、説明は統夜に一任していた。

 

「「……」」

 

統夜の語るホラーや魔戒騎士の話があまりに非日常的な話だったため、幸太とヒカリは言葉を失っていた。

 

「これでわかっただろ?何でこの話が他言無用だって言ったのかを」

 

「そうだな……。こんな事が一般市民に広がれば隣人が人を喰らうホラーではないかと疑心暗鬼になり、大混乱になる。俺だってそうとわかって上に話す気は毛頭ないよ」

 

幸太はホラーの話が広がればどうなるかを理解していたため、この話を広めるつもりはなかった。

 

「私だって話すつもりはないわ。オーナーが何で行方不明になったのかわかった訳だし」

 

ヒカリは元々オーナーが行方不明になった事件の真相が知りたかっただけなので、真相を知った後もそれを誰かに話すつもりは最初からなかった。

 

「まぁ、こんな話を聞いた後なんだ。俺に出来ることがあれば言ってくれ。力になるから」

 

幸太は刑事という立場から統夜をサポート出来れば良いと考えていた。

 

統夜にとってはそれはありがたいと思っていた。

 

刑事である幸太を味方に出来れば、都合の良いことが多いからである。

 

「その時はよろしく頼むよ。……えっと……」

 

「そう言えば自己紹介をしてなかったな。俺は日代幸太。よろしくな」

 

「日代?どこかで聞いたような……」

 

統夜は幸太が名乗った苗字に聞き覚えがあり、うーんと考えていた。

 

すると……。

 

「俺には妹がいるんだ。桜ヶ丘高校に通ってるな」

 

「!!まさか、あんたはあの子の……!!」

 

「あぁ、兄だ」

 

「……」

 

幸太の妹である玲奈は、統夜に一目惚れをしており、バレンタインの時に勇気を出して告白したのだが、フラれてしまった。

 

幸太が自分のフった女の子の兄と知り、少しだけ気まずい雰囲気になっていた。

 

「……わ、私は東ヒカリよ!そう言えばまだ名乗ってなかったからね!」

 

ヒカリは気まずい雰囲気を払拭させるために自己紹介をした。

 

「私は画家になるため頑張ってるわ。御月カオルさんみたいな画家になるのが私の夢よ」

 

「へぇ、あんたはカオルさんに憧れてるんだな」

 

「!!あ、あんた!カオルさんを知ってるの!?」

 

「知ってるも何も知り合いなんだけど……」

 

「な、何ですって!?」

 

統夜がカオルの知り合いと知ったヒカリは驚きながら統夜に詰め寄っていた。

 

「今度、カオルさんに会わせなさい!!」

 

「わ、わかったけど……。カオルさんは今臨月だから、いつ会えるかは……」

 

「え!?そうなの!?」

 

ヒカリはカオルが既婚者であることを知らず驚いていた。

 

「今度……詳しい話を聞かせなさいよ!」

 

「わ、わかったよ……」

 

憧れであるカオルに会いたいと思っているヒカリの鬼気迫る表情に統夜はタジタジになっていた。

 

「そういえば、俺の自己紹介がまだだったな。俺は……」

 

「月影統夜……だろ?」

 

「アハハ……それは知ってたのか……」

 

幸太とヒカリが統夜の名前を知っていたため、統夜は苦笑いをしていた。

 

「とりあえず、今日は遅いから帰ろうか。また改めて色々話を聞かせてくれ」

 

幸太が統夜やヒカリとまた会う約束を交わし、この日は解散することにした。

 

解散の前に統夜たちはそれぞれ連絡先の交換を行った。

 

こうして、幸太とヒカリはホラーや魔戒騎士の秘密を知り、明日からはいつもとは日常になる訳だが、何かあった時は統夜に協力することを決めていた。

 

統夜も、ヒカリが真実を知り、これ以上付きまとわれることがなくなり安堵していた。

 

しかし、カオルに憧れてるヒカリとこれからも会う機会は増えるだろうなと統夜は感じていた。

 

だが、前みたいな気まずい感じではなく、これから良き友人になっていくだろうと統夜は予感していた。

 

幸太とヒカリの2人と別れた統夜はそのまま自宅へと直行した。

 

1つ大きな問題が解決されたことで、統夜は穏やかな表情で眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『夏休みも早くも半分が過ぎたか。まぁ、みんなそれぞれ過ごしているみたいじゃないか。次回、「暑中」。暑中見舞いを申し上げるぜ!!』

 

 




前半はなんだか刑事ドラマっぽくなってしまった(笑)

今回はヒカリの他に新キャラとして刑事である日代幸太も登場しました。

この2人にもホラーのことは知られてしまいましたが、2人はホラーのことを公表するつもりはなく、事は丸く収まったと思います。

それにしても警察は諦めるのが早いですね(笑)そのおかげで、統夜たち魔戒騎士にとっては都合のいい展開にはなっているのですが。

ヒカリや幸太は今後もちょこちょこと登場させていく予定です。

この2人もゆくゆくは統夜の盟友になっていくと思います。

さて次回は、夏休みの日常のお話になります。

サバックも無事終わり、統夜はどのような日々を過ごしているのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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