牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第80話になります。

気付けばこの小説を投稿して半年くらい経って、この作品も80話までいきました。

この作品を応援していただき、本当にありがとうございます。今後も皆さんが楽しめるような作品を目指すのでよろしくお願いします!

さて、今回は統夜が桜ヶ丘に帰ってきます。

そして、サバックの試合を振り返ります。

それでは、第80話をどうぞ!




第80話 「帰郷」

7日間に渡る激闘が続いたサバックが幕を閉じ、統夜は桜ヶ丘に帰ってきた。

 

統夜は魔界道を通って桜ヶ丘に帰ってきたのだが、宿舎を出た時間が早かったからか、到着したのは夜の10時だった。

 

統夜は桜ヶ丘に到着するなり、携帯を取り出すと、唯たちに電話をかけた。

 

桜ヶ丘に帰ってきたことを報告するためである。

 

唯たちは統夜の電話に出るなり、統夜が帰ってきたことに喜びの気持ちを現していた。

 

そして、翌日の昼に唯の家に集まることになり、統夜はその申し出を二つ返事で受けたのであった。

 

唯たち5人全員に電話をかけ終えた頃には自宅に到着しており、統夜は電話を終えると、これまでの戦いの疲れを癒すためにゆっくりと体を休めることにした。

 

そして、翌日の朝一で、統夜はイレスにサバックの報告を行った。

 

「統夜、久しぶりですね」

 

「はい、お久しぶりです、イレス様」

 

この7日間、桜ヶ丘にはホラーは出現しなかったため、統夜がイレスに会うのはおよそ1週間ぶりだった。

 

「統夜、サバックの結果は聞きましたよ。惜しくも準優勝だったみたいですね」

 

「えぇ。ですが、零さんは本当に強かったです。完敗でした」

 

「それでも、この番犬所からサバック準優勝者が出るとは私としても鼻が高いですよ♪」

 

「……イレス様、ありがとうございます。そのようなお言葉をいただけるのは非常に光栄です」

 

イレスの言葉を素直に受け止めた統夜は、深々とイレスに一礼していた。

 

「サバックの結果はわかりました。今日からはまた改めて騎士の務めを果たしてください」

 

「はい、わかりました!」

 

「統夜は、これからエレメントの浄化に行くんですよね?」

 

「えぇ。それが終わり次第、唯たちにサバックの報告をするつもりです」

 

「そうですか。あなたの激闘ぶりをぜひあの子達に伝えてきて下さい」

 

「ありがとうございます!それでは、失礼します!」

 

統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にして、エレメントの浄化を行った。

 

番犬所を出て数分後、最初のオブジェに到着した。

 

統夜は魔戒剣を取り出し、魔戒剣を抜くと、邪気の溜まっている魔戒剣を突き刺した。

 

すると……。

 

「……!?くっ、7日間放ったらかしにしたらこれかよ!?」

 

オブジェから飛び出して来た邪気は統夜の想像以上に大きく、邪気は素体ホラーの形になっていた。

 

『やれやれ。7日も放ったらかしだとこれだけ邪気が溜まるんだな。よくホラーが現れなかったもんだぜ』

 

「関心してる場合じゃないだろ!?っとと……」

 

素体ホラーの形をした邪気は、統夜に牙を向き、その攻撃を統夜は危なげなくかわした。

 

「……サバック準優勝の俺があっさりやられる訳にはいかない!!」

 

統夜は魔戒剣の柄を力強く握り締めると、魔戒剣を十の字に振るった。

 

素体ホラーの形をした邪気は、十文字に斬り裂かれると、そのまま消滅した。

 

「……よし、まずは1つ」

 

統夜はオブジェから飛び出してきた邪気を切り裂くと、魔戒剣を青い鞘に納め、魔戒剣をしまった。

 

『統夜、次行くぞ。今日は浄化しなきゃいけないオブジェだらけなんだからな』

 

「はぁ……。午前中に終わることが出来るかな……」

 

統夜はため息をついてこのようにぼやくと、そのままイルバのナビゲーションで次のオブジェへと向かった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

統夜は次々とオブジェから飛び出す邪気の浄化を行っていたのだが、どれも長い間放置されていたせいか、邪気が大きく、1つ1つの処理にかなりの労力を使っていた。

 

統夜が普段休みの日で、午前中に浄化するオブジェの数は7つから10くらいなのであるが、今日はおおよそ倍である20のオブジェの浄化を行っていた。

 

そのため……。

 

「……うっ……くっ……」

 

統夜は午前中のエレメントの浄化でかなり体力を消耗したのか、近くにあった手すりにもたれかかっていた。

 

『……統夜、ずいぶんと消耗してるな』

 

「そ、そりゃそうだろ……。いつもの倍以上の仕事をしてんだから……」

 

いつも以上にオブジェに邪気が溜まってるせいか、統夜はいつも以上の仕事を強いられてしまい、そのせいで体力を消耗してしまった。

 

『統夜。じきに戒人も仕事を始めるだろうし、今日はここまでにしたらどうだ?』

 

「そうだな……。どっかで昼飯でも食ってエネルギー充填と行きますか」

 

統夜はある程度体力を回復させてから唯の家に行くことにして、どこか飲食店に移動して食事を摂ることにした。

 

 

 

 

 

歩くこと10分後、統夜が立ち寄ったのは、外にテーブルが置いてあるオープンカフェのような店だった。

 

統夜が適当な場所に座ると、メイド服っぽい格好をした女性がお冷とメニュー表を手にやってきた。

 

「……いらっしゃいま……。!!あ、あんた!!」

 

「?」

 

店員の女性が統夜のことを知っている様子だったので、統夜は首を傾げながらその女性を見るのだが……。

 

「……!!あんたは、ここでもバイトしてたのか」

 

統夜はその女性を見ると、目を丸くして驚いていた。

 

その女性は、以前ホラーとの戦いに巻き込まれ、ホラーに関する記憶を失った東ヒカリだった。

 

ホラーに関する記憶のみ失ってるため、会うたびに統夜に突っかかってきており、統夜はヒカリに苦手意識を持っていた。

 

「そ、そうよ!あんたは何しにここに来たのよ!?」

 

「何しにって俺は客として来たんだけど……」

 

統夜は呆れながらこう答えると、ヒカリはハッとした。

 

「……ご注文は?」

 

「……うーん……そうだなぁ……」

 

統夜はメニュー表をチェックすると、何を頼むか考えていた。

 

「……それじゃあ、このトンカツサンドとアイスコーヒー。あと、食後にチーズケーキとチョコレートケーキ」

 

「……ずいぶんと食べるわね……」

 

「まぁ、食べ盛りだし」

 

「……しょ、少々お待ちください」

 

ヒカリは統夜の注文を聞くと、厨房へと向かっていった。

 

(……やれやれ、あの人、色々なところでバイトしてるんだな)

 

《まぁ、あの女も画家を目指してるらしいから色々大変なんだろ》

 

(そうかもしれないな。カオルさんもバイトを転々としてたって聞いてたし)

 

統夜は今は画家として成功している冴島カオルも、成功する前はバイトを転々として、その度にホラーとの戦いに巻き込まれたという話をしていたことを思い出していた。

 

ヒカリもかつてのカオルのように苦労をしているということは理解出来た。

 

しかし……。

 

(……あまり俺たちのことを探って欲しくはないんだけどな……)

 

ヒカリはホラーに関する記憶を失ったせいで、統夜が画廊のオーナー行方不明に関わっていると思い、探りをいれていた。

 

統夜にはそれが鬱陶しいと思っていた。

 

(……あのオーナーのことを探ったら絶対にホラーに関することにたどり着くだろうからな。その前にそんなことはやめさせたいけどな……)

 

ヒカリが再びホラーに襲われる前に統夜はヒカリにオーナーが行方不明になったことの探りをやめさせようと考えていた。

 

統夜がこのようなことを考えていると……。

 

「……お待たせしました。アイスコーヒーとトンカツサンドになります」

ヒカリが統夜の注文したものを持ってきて、それをテーブルに置いた。

 

「……おっ、美味そうだな♪」

 

トンカツサンドを目の前にはしゃぐ統夜の姿は、年相応の高校生そのものだった。

 

「……ふーん。あんたって結構可愛い顔で笑うんだね」

 

「?何か言った?」

 

「な、何でもない!ご、ごゆっくり!」

 

ヒカリは照れ隠しに少しツンが入った口調でこう言うと、その場を離れていった。

 

統夜はヒカリの様子に首を傾げながらも、トンカツサンドを幸せそうに頬張っていた。

 

ヒカリは、少し離れたところでその様子を眺めていた。

 

(……本当にあいつがオーナーが行方不明になったことに関係してるのかしら……。変わった格好をしてるただの高校生にしか見えないんだけど……)

 

ヒカリは、ずっと統夜がオーナーが行方不明になったことに関わっていると思っていたのだが、その考えが揺らぎ始めていた。

 

統夜の年相応な振る舞いを垣間見たからである。

 

(……だけど、何でオーナーが行方不明になったのかは気になるし、また調べないと……)

 

統夜がオーナーが行方不明になったことに関わっていてもいなくても、その真実を知りたいヒカリは、引き続き調べることを決めたのだった。

 

そんな中、統夜は満足そうな表情を浮かべながらトンカツサンドを完食し、デザートとして注文したチーズケーキとチョコレートケーキにも舌鼓を打っていた。

 

「……うーん、やっぱりうめぇなぁ♪」

 

統夜は毎日のように軽音部でお茶をした結果、甘党になってしまったのである。

 

とは言っても、統夜の先輩騎士である零はそれ以上の甘党であった。

 

統夜がデザートのケーキを完食し、追加注文したジュースを飲んでいたその時だった。

 

「……あれ?統夜先輩?」

 

唯の家に向かう途中だった梓は、偶然にもオープンカフェで休憩している統夜を発見した。

 

「……統夜先輩!」

 

梓はこう呼びかけながら、統夜のいる席まで移動した。

 

「……おう、梓。久しぶりだな」

 

「はい!私、久しぶりに先輩に会えて嬉しいです♪」

 

梓は統夜との1週間ぶりの再会を心から喜んでいた。

 

「統夜先輩はお昼食べてたんですか?」

 

「あぁ。仕事は終わらせたからエネルギー充填を兼ねてな」

 

「そうだったんですか……」

 

「梓、とりあえず座りなよ」

 

「あっ、そうですね」

 

梓が空いた席に腰をおろしたその時だった。

 

「……いらっしゃいませ」

 

ヒカリがお冷を手に現れると、お冷を梓の前に置いた。

 

「……あんたも隅に置けないわね。もしかして、この子は彼女?」

 

ヒカリはニヤニヤしながら統夜をからかっていた。

 

「にゃ!?そ、そんなんじゃないです!!」

 

彼女と問われたことが恥ずかしかったのか、梓は顔を真っ赤にして反論していた。

 

「あぁ、違うぞ。梓は俺の後輩で、大事な友達だよ」

 

「……むー……!」

 

統夜がハッキリとこう言ったことが気に入らなかったのか、梓はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「……?梓、どうしたんだ?不機嫌そうにして」

 

「な、なんでもないもん!!」

 

梓はぷいっとそっぽを向き、統夜は首を傾げていた。

 

「……まったく、あんたには呆れたわ……」

 

ヒカリは今のやり取りを見ただけで梓が統夜に惚れてることを見抜き、鈍感な統夜に呆れていた。

 

「……ところで梓、何か飲むか?奢るけど……」

 

「それじゃあアイスココアをください!!」

 

奢るという統夜の言葉を聞いた梓は、一切躊躇せずに飲み物を注文した。

 

「しょ……少々お待ちください」

 

注文を聞いたヒカリはそのまま厨房へと向かっていった。

 

注文したものが来るまで、統夜と梓の話は絶えることがなかった。

 

そして、注文したアイスココアが来ると、梓は幸せそうな表情をしながらストローでチューっとすすりながらアイスココアを飲んでいた。

 

統夜はそんな梓の幸せそうな表情を見て笑みを浮かべていた。

 

ヒカリもその様子を見ながら笑みを浮かべていた。

 

(……なんかあの2人は見てると初々しいわね……。あれで付き合ってないとか、不思議だわ……)

 

ヒカリは統夜と梓の出す雰囲気を感じ取り、それでも付き合っていないのかと驚いていた。

 

梓がアイスココアを飲み終えると、統夜は会計を済ませ、この店を後にした。

 

ヒカリは、2人が出て行く様子をジッと見ていた。

 

(……とにかく、調べてみないとね。あいつが関係あるなしは置いといて)

 

ヒカリは、統夜がオーナーが行方不明になった事件に関係ないにしても、この事件について調べるつもりだった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

オープンカフェを後にした統夜と梓は、そのまま唯の家に直行した。

 

唯の家に到着すると、統夜は唯の家のチャイムを鳴らした。

 

家の扉が開くと、平沢姉妹が統夜と梓を出迎えてくれた。

 

「梓ちゃん、統夜さん、いらっしゃい♪」

 

「やーくん、お帰りっ♪」

 

唯は久しぶりに統夜の顔を見たのが嬉しかったのか、顔を見るなり統夜に飛びついて抱きついた。

 

「ちょ……!唯、離れろって!!」

 

いきなり抱きつかれたのが恥ずかしかったのか、統夜は顔を赤らめていた。

 

「やだよぉ!やーくん分が足りてないんだもん!」

 

「抱きつくのは梓だけにしてくれよ」

 

「ちょっと!そこで私に振らないでくださいよ!それに唯先輩!いつまで統夜先輩に抱きついてるんですか?」

 

梓は唯が統夜に抱きついているのが気に入らなかったのか、このように異議を唱えていた。

 

「えぇ?いいじゃん別にぃ」

 

「私も統夜先輩に抱きつきたいのに!」

 

「わ、私も!!」

 

「へ!?お、お前ら何を言ってんだよ!!」

 

梓と憂がとんでもないことを言い出しており、統夜は驚いていた。

 

「と、とりあえず唯、離れろって!」

 

統夜は唯から離れると、抱きつき足りないことに不満だったのか、ぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「と、とりあえず上がらせてもらうな」

 

統夜は靴を脱いでリビングの方へ向かうと、唯たちもその後を追いかけた。

 

統夜がリビングの中に入ると……。

 

「……あっ、統夜君。待ってましたよ」

 

「よう、統夜。昨日はお疲れさん」

 

律、澪、紬だけではなく、レオとアキトも何故かリビングでくつろいでいた。

 

「……れ、レオさん!?それに、アキトも!?どうしてここに?」

 

統夜はレオとアキトが来てるとは思っていなかったので、驚きを隠せなかった。

 

「いやぁ、アキトが統夜はここに来るだろうと言ってましてね。ちょっと前にお邪魔したんですよ」

 

「そういうことだ。お前らは何かあるとここに集まってんだろ?その話を思い出してな。ここに来たってわけだ」

 

「なるほど……」

 

レオとアキトがここにいる理由に納得した統夜はウンウンと頷いていた。

 

「それで、統夜君が来るのを待ってたんですよ。あれを見せるために」

 

「あれって……もしかして……」

 

「あぁ。お前の試合の記録だよ。昨日の夜に出来上がったんだよ」

 

レオは昨日の夜に統夜の試合をまとめたものを編集し、それを専用の魔導具に記録したので、統夜たちに見せるために唯の家を訪れた訳である。

 

「え!?やーくんの試合の記録!?」

 

「見たい見たい♪」

 

「私も見たい!」

 

「私もぉ♪」

 

「はい!私も見たいです!」

 

「私もです!」

 

唯たちは統夜の試合の記録という言葉に反応し、それを見たがっていた。

 

「もちろんですよ。僕たちはそれを見せるために来たんですから。ですが……」

 

「ですが?」

 

「魔導具を使って映像を出すんだが、ここじゃちょっと狭いかもしれないんだよな」

 

統夜の試合は魔導具に記録しているため、一般家庭のリビングでは狭くて記録を再生することが難しいのである。

 

「それじゃあ、広い所に移動しなきゃいけないってことですか?」

 

「えぇ。そういうことです。統夜君が来たら移動しようと考えてました」

 

「とは言ってもどこがいいかは考え中だけどな」

 

「……広い所か……」

 

広い所と言われて、良い所がないか統夜は考えていた。

 

「学校の部室か屋上あたりなら良さそうだけど、制服着なきゃいけないしな……」

 

学校が一番無難だったのだが、今は夏休みでも、学校へは制服でなければダメなので、着替えという手間がかかってしまう。

 

なので統夜はその手間をかけないために他の方法を考えていたのだが……。

 

「……みんな、私に任せて♪」

 

紬に妙案があるようで、紬が手を挙げていた。

 

「ムギ、どこか良い所を知っているのか?」

 

「えぇ、だけどちょっと待っててね」

 

そういうと紬は携帯を取り出し、どこかへと電話をかけ始めた。

 

そして1分後……。

 

「……さぁ、みんな。行きましょう♪」

 

紬は誰かと交渉をしていたようで、紬は携帯をしまうと立ち上がった。

 

『……とりあえず、紬について行った方が良さそうだな』

 

「あぁ、そうだな」

 

こうして統夜たちは唯の家を後にすると、紬の先導でどこかへと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

紬の案内で到着した場所は……。

 

「……なぁ、ムギ。ここって、ビルの会議室だよな?」

 

統夜たちは桜ヶ丘某所にあるビルの中にある会議室に来ていた。

 

ここの広さはかなりのものなのだが……。

 

「えぇ、そうよ。ここは父の会社のオフィスビルの1つなの。お願いして使わせてもらえることになったわ」

 

このビルは紬の父の会社のビルであり、紬は父の会社の人間に交渉して使わせてもらえることになったのである。

 

「まぁ、ここなら秘密は守られるから良いのか……」

 

紬の父の会社であれば、魔戒騎士の秘密は守られるだろうと判断した統夜は、この場所で試合の記録を見るのは問題ないと判断した。

 

「そうですね。これくらい広ければ、問題ないと思います」

 

そう言いながら、レオは会議室の中央にサバックの試合を記録した魔導具を設置した。

 

「……どんな感じになるんだろうね♪」

 

「そうだな、あたしも凄く楽しみだよ」

 

「私も楽しみだよ!」

 

「私も私も♪」

 

「私もです!」

 

「はいっ!私も楽しみです!」

 

唯たちはこれから再生される統夜の試合がどんな感じなのか楽しみにしていた。

 

「……それじゃあ、行きますよ!」

 

レオは魔導筆を取り出すと、会議室中央に設置された魔導具目掛けてとある法術を放った。

 

すると、その法術に反応した魔導具は、まるで立体映像のような映像を映し出した。

 

そこに映し出されたのは、サバックの舞台である円陣であった。

 

まだ統夜の試合前のため、円陣には誰もいない状態だった。

 

「おぉ!凄い!」

 

「凄い立体的です!!」

 

唯たちは魔導具から映し出される映像が予想以上に立体的だったため、驚きと同時に感動していた。

 

すると、統夜の試合がこれから始まるようであり、統夜と初戦の相手である毒島エイジが姿を見せた。

 

「……あっ!統夜君出てきた!」

 

「この人……誰なんだ?」

 

「そこら辺の説明は後でするよ」

 

対戦相手の説明をしてるとキリがないと判断した統夜は、戦った相手の解説を後回しにすることにした。

 

こうしている内に統夜とエイジの試合が始まり、統夜とエイジは激しく剣をぶつけ合っていた。

 

「おぉ、凄いぞ!」

 

「あぁ。まるで近くで見てるみたいだぜ!」

 

魔導具から映し出される映像がかなり臨場感があったため、唯たちは驚きを隠せなかった。

 

唯たちは統夜の激闘を食い入るように見ていた。

 

そして、統夜は……。

 

(……こうやってみると本当にエイジさんは強いな……。よくあの人に勝てたもんだぜ)

 

当時のことを振り返り、改めてエイジに勝ったことに驚いていた。

 

そして、試合は終盤を迎え、統夜はエイジの法術を次々と潜り抜け、勝利を収めることが出来た。

 

「おぉ!やーくんが勝った!」

 

「あぁ。初戦からかなり強敵だったけど、なんとか勝てたよ」

 

統夜はこのように初戦を振り返ると、客観的に試合を観戦して複雑な心境になっていた。

 

「それじゃあ、続けて2回戦に行きますよ!」

 

レオは引き続き魔導具を起動させ続け、サバック2回戦の映像を映し出した。

 

サバックの2回戦は、タクトという無駄にプライドの高いベテラン騎士が相手で、統夜は難なくタクトを追い詰めるのだが、タクトは魔導筆を用いた術を使うという反則行為を犯していた。

 

朱雀は試合を継続させるよう宣言し、試合は再開された。

 

タクトはこれ見よがしに魔導筆を用いた術を連発し、統夜を追い詰めようとしたが、逆に統夜に追い詰められてしまい、そのまま統夜に敗れたのであった。

 

唯たちは、その後統夜がタクトを殴り飛ばした姿に驚きを隠せなかった。

 

統夜が普段そのようなことをする人間ではないことを唯たちは知っているのだが、それだけ統夜はタクトのことを許せなかったんだろうということを理解していた。

 

続いて3回戦の様子が再生された。

 

3回戦の相手は、統夜が修練場時代に世話になった四十万ワタルだった。

 

「ねぇ、やーくん。この人はかなり強い人なんだよねぇ?」

 

「あぁ。あの人は俺が修練場時代に世話になった人なんだ。かなり手強い相手だったよ」

 

統夜はワタルのことを簡潔に説明していた。

 

「……ということは、統夜先輩の恩師ってことなんですね?」

 

「まぁ、そうなるかな」

 

統夜は自分とワタルの試合を見ながらしみじみと呟いていた。

 

統夜は元老院付きの魔戒騎士であるワタル相手に苦戦しながらも善戦していた。

 

そして、激しい戦いの末、統夜はワタル相手に辛くも勝利した。

 

「おぉ!またやーくんの勝ちだよ!!」

 

「凄いな、統夜!」

 

「今でも本当によく勝てたなって思ってるよ。だけど、これで準々決勝に行ったから、ベスト8は確定したって訳だ」

 

「ベスト8……凄いわね、統夜君♪」

 

唯たちが統夜の偉業を素直に褒めると、統夜は照れ隠しに笑っていた。

 

そして、次は準々決勝の様子が映し出された。

 

その準々決勝の対戦相手とは……。

 

「……あ!戒人さんが相手だよ!」

 

「戒人さんか……。統夜にとっては凄い試合になったんじゃないのか?」

 

「まぁな。この試合でハッキリしたよ。戒人は俺のライバルだってことがさ」

 

統夜は戒人との激闘で戒人が自分のライバルであるということを再認識していた。

 

そのことを物語るかのように2人の試合は熾烈を極めていた。

 

あまりにも激しい戦いに唯たちは言葉を失っていた。

 

最初から最後まで試合は熾烈を極め、ライバル対決を制したのは統夜であった。

 

「凄い!統夜さんの勝ちです!」

 

「これでベスト4は確定ってことよね?」

 

「凄いです!統夜先輩!」

 

再び唯たちに褒め言葉をもらった統夜は再び照れ隠しに笑っていた。

 

準々決勝が終わり、続いて準決勝の様子が映し出された。

次の統夜の対決相手は……。

 

「……あれ?この人って……」

 

「学校にホラーが出た時に助けてくれた……」

 

統夜が鋼牙や零と共に強大な力を持つグォルブを相手にしている頃、そのグォルブの力によって桜ヶ丘高校の近くにホラーの群れが出現した。

 

その危機を救った1人が、準決勝で統夜と戦った山刀翼だった。

 

唯たちはその時のことを覚えていたため、翼のことも見たことがあった。

 

「ねぇ、統夜君。この人って確か鋼牙さんの知り合いだったわよねぇ?」

 

「あぁ、そうだ。それだけじゃなくて翼さんは鋼牙さんと互角の力を持つ人なんだ。かなりの強敵だったよ」

 

統夜は自分と翼の対決を見ながらこのように解説をしていた。

 

序盤は終始翼のペースで統夜も徐々に追い詰められていったが、統夜はどうにか翼相手に反撃を行った。

 

翼は最初から本気だったのが、翼はイヤリングを用いた術を使用し、さらに統夜を追い詰めていった。

 

そんな中、翼の一撃が統夜の鳩尾に直撃し、統夜は意識を失いそうになった。

 

その様子を見ていた唯たちは、思わず「あぁっ!!」と声をあげた。

 

(……今思えばよくここから勝てたよな……。あの時点で誰もが翼さんの勝ちを確信しただろうしな……)

 

統夜は翼との試合を冷静に振り返るのだが、劣勢から勝てたことに改めて驚いていた。

 

翼は統夜にトドメの一撃を放とうとするが、統夜は間一髪でそれをかわし、体勢を整えた。

 

そして2人は最後の一撃を繰り出すのか、それを制したのは統夜だった。

 

「おぉ!統夜が勝ったぞ!!」

 

「あの状況で勝てるなんて凄いな!」

 

唯たちは、統夜の逆転勝利に驚きを隠せなかった。

 

「そうだよな。翼さんに勝てたのは驚きだったけど、翼さんに俺の成長を見てもらえて嬉しかったよ」

 

統夜はこのような一言で、翼との試合を振り返った。

 

そして統夜は決勝に勝ち進んだため、このまま決勝戦が映し出されると思われたのだが……。

 

「……え?何、これ?」

 

「統夜先輩の……弾き語り?」

 

何故か今映し出されてるのは、鎮魂の儀にて、統夜が鎮魂歌を弾いているところだった。

 

「……なっ!?何でこれが!?」

 

統夜は鎮魂の儀の様子まで記録しているとは思っていなかったので、驚きと共に顔を真っ青にしていた。

 

「……ハハ、驚きました?」

 

「師匠がせっかくだからこれも記録した方がいいんじゃないかと言ったもんでな。記録したって訳だよ」

 

鎮魂の儀の時、レオとアキトは隅っこの方にいたのだが、統夜の歌っている様を唯たちに見せるために、あえてその様子を記録したのであった。

 

「……なぁなぁ、この歌って統夜の新曲なのか?」

 

「まぁな。夏休み明けくらいにみんなに発表しようと思ってたんだよ」

 

「凄く良い曲ね♪」

 

「はい!私も統夜先輩の作った曲を演奏したいです!」

 

「私も私も♪」

 

統夜の作った新曲は、どうやら唯たちに好評価であった。

 

「統夜、という訳で今度楽譜をよろしくな」

 

「わかったよ。なるべく早くみんなに渡すよ」

 

統夜は観念したのか、予定より早く楽譜作りに取り掛かり、それを唯たちに渡すことにした。

 

「……さぁ、みなさん!次は決勝戦ですよ!」

 

レオがこのように宣言をすると、今度は決勝戦の様子が映し出された。

 

決勝戦の対戦相手とは……。

 

「えっ!?次は零さんが相手なの!?」

 

「統夜、大丈夫なのか?」

 

「まぁ、零さんもかなりの手練れだってことはみんなも知ってるよな?零さんは本当に強かったよ……」

 

統夜はこのようにつぶやき、決勝戦を振り返っていた。

 

そして、決勝戦は始まるのだが、試合は終始零のペースで進んでいた。

 

統夜は反撃の糸口をつかめないまま、あっという間に零に追い詰められてしまった。

 

途中、どうにか反撃しようとするものの、零の一撃が統夜の鳩尾に直撃し、統夜は意識を失いかけた。

 

フラフラになりながらも統夜は攻撃を仕掛けるが、零はそんな統夜を吹き飛ばし、統夜は再びピンチに陥った。

 

唯たちは固唾を飲んでそんな統夜の様子を見守っていた。

 

そんな中、統夜はどうにか零の最後の一撃をかわし、零に一矢報いるため、反撃を開始した。

 

しかし、実力は零の方が1枚も2枚も上手だったからか、零に全力の攻撃をしのがれ、そのまま統夜は敗れてしまった。

 

「……あぁ、やーくん負けちゃったか……」

 

「だけど、ここまで勝てたのは凄いことだよな?」

 

「あぁ!統夜、どの試合も格好良かったぞ!」

 

「うん♪格好良かったわ♪」

 

「はい!統夜先輩、素敵でした!」

 

「私もそう思います!」

 

唯たちは統夜が決勝で敗れたことよりも、ここまで戦い抜いたことを賞賛し、統夜に労いの言葉を送っていた。

 

「……みんな、ありがとな」

 

労いの言葉に対して統夜が礼を言うと、サバックの試合を記録していた魔導具が停止した。

 

全ての試合の映像を流し終えたため、魔導具はその機能を停止したのである。

 

「レオさんもありがとうございます。唯たちに俺の試合を見せるきっかけを作ってくれて」

 

「気にしないで下さい。僕だって唯さんたちに統夜君の勇姿を見て欲しいと思ってましたから」

 

「俺も師匠と同じ気持ちだ。だから気にすんなよ」

 

「アキトもありがとな」

 

統夜がアキトにも礼を言っていると、レオは会議室の中央に置いた魔導具を回収した。

 

「さて、無事唯さんたちに統夜君の勇姿を見せたことですし、僕たちはもう行きますね」

 

「俺たちはまだまだやらなきゃいけない仕事があるしな」

 

「そうなのか……。2人とも、本当にありがとう!」

 

統夜は試合の記録を見せてくれたレオとアキトに一礼をして、感謝の気持ちを示していた。

 

「いえいえ、僕たちも無事に撮れたのがわかってホッとしてますし、楽しかったですよ!」

 

「そういうことだ。それじゃ、またな!」

 

こうして、レオとアキトは会議室を後にして、その場には統夜たちが残された。

 

「……さて、統夜の勇姿も見れたことだし、これからどうする?」

 

「そうだな……。せっかくだからこれからみんなで遊びに行くか?」

 

律が遊ぶことを提案した。

 

レオの魔導具による試合の再生は、1時間前後で終わったため、解散には中途半端な時間帯だった。

 

「賛成♪私、明日からフィンランドだからその前にみんなと遊びたいなぁって思ってたの♪」

 

紬は毎年夏休みには家族でフィンランドに向かい、そこで避暑旅行をしている。

 

今年もフィンランドに行くのだが、日本を発つのが明日なのである。

 

「そういうことならぜひ遊びましょうよ!明日からはムギ先輩とはしばらく会えないんですから!」

 

「うん!私もムギちゃんと遊びたい!」

 

「私も良かったらぜひご一緒したいです!」

 

梓、唯、憂も遊びたい旨を伝えた。

 

さらに澪もウンウンと無言で頷いていた。

 

「俺も賛成だな。今日の仕事は一通り終わらせてきたし、たまにはみんなと遊びたいしな」

 

統夜も遊びたいという意思を表すと、唯たちの表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

「……よっしゃあ!それじゃ決まりだな!」

 

「うん、それじゃみんなで遊びに行こう!」

 

唯がこう宣言すると、統夜たちは「おぉ!」と返した。

 

こうして、サバックの勇姿を唯たちに見せることが出来た統夜は、唯たちと共にどこかへ遊ぶためビルを後にしたのであった。

 

この日は指令がなかったため、統夜は解散するまで唯たちと遊び、解散後は少し街の見回りを行ってから帰宅した。

 

こうして、サバックが終わった翌日が終わりを告げた。

 

明日も夏休みは続くため、統夜は魔戒騎士としての使命に専念することが出来るのであった。

 

サバックは終了しても、統夜の夏休みはまだまだ終わらないのであった。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『こいつは参ったな。あのお嬢ちゃんが余計な調査をしていやがるぜ。次回、「捜査」。まぁ、面倒なことにならなきゃいいがな』

 

 




統夜は自分の試合を振り返るだけではなく、唯たちにも自分の勇姿を見せることが出来ました。

そして今回も登場したヒカリですが、牙狼一期のカオルのように画家を志してあちこちでバイトをしています。

今回のバイト先は、牙狼一期の7話でカオルがメイド服を着てバイトしてた店をイメージしました。

そしてヒカリは今でもオーナーが何故行方不明になっているのかを調べているようです。

次回は、そんなヒカリの調査が進展します。

果たしてヒカリは統夜やホラーのことを突き止めてしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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