牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第78話になります。

今回は決勝前夜の話なので、戦闘シーンはありません。

決勝前夜にとあることが行われるのですが、一体どのようなことが行われるのか?

それでは、第78話をどうぞ!




第78話 「鎮魂」

サバックも終盤の6日目に突入し、準決勝が行われた。

 

第1試合は、統夜と翼の対決だった。

 

牙狼と互角の力を持っていると言われている翼相手に、統夜は苦戦を強いられ、最初は防戦一方であった。

 

どうにか反撃の糸口を掴み、反撃をしようとした統夜だったが、本気になった翼に再び追い詰められてしまった。

 

統夜はその危機を脱し、翼の本気を受け止め、ギリギリのところで翼に勝つことが出来た。

 

この統夜の大金星に試合を見学していた魔戒騎士たちは、驚きを隠せなかった。

 

統夜自身も翼に勝てたことに驚いていた。

 

そして、第2試合は、零が難なく勝ち進み、決勝戦の組み合わせは統夜と零になった。

 

統夜は試合が終わると医務室で体を休めていたのだが、しばらく体を休めていると、朱雀に呼び出されたため、統夜は朱雀の部屋へと向かった。

 

朱雀の部屋に到着した統夜は、コンコンと扉をノックした。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

統夜は扉を開けて、朱雀の部屋に入った。

 

「月影統夜、すまなかったな。急に呼び立てて」

 

「いえ……」

 

「まずは、決勝進出おめでとうと言っておこう。お主の勝ちは誰も予想していなかったからな」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

朱雀からのお祝いの言葉に、統夜はペコリと一礼をしていた。

 

「それで、お主を呼び立てたのは、頼みたいことがあってな」

 

「頼みたいこと……ですか?」

 

「お主は人界の学校に通い、人界の楽器が出来ると聞いておるが、それは本当か?」

 

「はい。私はギターという弦の楽器を奏でることが出来ます」

 

統夜はギターが弾けるということを朱雀に説明すると、朱雀はウンウンと頷いていた。

 

「今宵は鎮魂の儀式を行うことはお主も知っているだろう?そこで、騎士の魂を弔うために、そなたに曲を奏でて欲しいのだ」

 

「曲……ですか?」

 

朱雀からの頼み事が予想外のものだったので、統夜は驚きを隠せなかった。

 

「うむ。出来ぬというのであれば無理強いはせぬが、やってくれるな?」

 

「は……はい!私の音楽なんかで良ければ!!」

 

統夜は朱雀からの申し出を二つ返事で了承した。

 

「おぉ、それはありがたい!急な申し出で悪いが、よろしく頼むぞ!」

 

「わかりました」

 

統夜は朱雀に改めて一礼をすると、部屋を後にし、そのまま宿舎へと向かった。

 

宿舎に到着した統夜はそのまま自分が寝ている部屋に向かい、部屋の中で何の曲を演奏すべきか考えていた。

 

「……騎士たちの鎮魂の曲……ねぇ……」

 

統夜はどんな曲が良いのかをじっくり考えていた。

 

『おい、統夜。何でお前は朱雀の申し出を受けたんだ?断っても良かったものを』

 

「まぁ、そりゃそうなんだけどさ、朱雀様が直々に頼んでくれたのが嬉しかったし、断れなくてな」

 

統夜は元老院の議長としてグレス以上の権力を持っている朱雀の頼みを無下にすることは出来なかったので、朱雀の申し出を受けたのであった。

 

『それはわかったが、何の曲をやるんだ?放課後ティータイムの曲では鎮魂にならんぞ』

 

統夜が軽音部で組んでいるバンド、放課後ティータイムの曲はふわふわとした曲が多く、歌詞も甘々なものがほとんどのため、鎮魂には相応しくなかった。

 

「……だから考えてるんだよ……」

 

統夜は難しい顔をして考え事をしていたのだが……。

 

「……!?待てよ……今作っているあの曲はどうだ」

 

『あの曲って、お前さんが新曲と言って作ってたあの曲のことか?』

 

統夜は、アスハの事件を解決させた後あたりから、次のライブで使えそうな曲を作ろうと、騎士の使命の合間に新曲作りに勤しんでいた。

 

その曲はほぼ完成しているものの、時間がないため、楽譜にする作業はまだ終わっていなかった。

 

しかし、曲の歌詞やイメージは頭に叩き込まれてるため、急ごしらえでもいけると判断していた。

 

『確かに、あの曲なら、騎士の鎮魂にはおあつらえ向きな曲かもしれんな』

 

イルバからも太鼓判を押されたことで、統夜は騎士の鎮魂の曲は、新曲でいくことを決めていた。

 

『ところで、統夜。曲名は決めていたのか?』

 

「あぁ。曲名は、「哀愁の輪舞」だ」

 

統夜はイルバに新曲のタイトルを明かすと、部屋を後にし、夜に行われる鎮魂の儀式の手伝いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝の試合が全て終わった後、この大会に参加している魔戒騎士たちの手で、鎮魂の儀式の準備は行われていた。

 

主に若い騎士が率先して作業を行っていたのだが、魔戒騎士たちは協力して、準備を行っていた。

 

そして、戒人、大輝、奏夜の3人も鎮魂の儀式の準備を手伝っていた。

 

「……それにしても、ずいぶんと大々的にやるんですね」

 

「そうだな。俺もここまで大々的な鎮魂の儀式は初めてだぞ」

 

今回の鎮魂の儀式は、宿舎の前にある広場で行われるのだが、その儀式で使うものはかなりあるため、予想以上に大々的な儀式となることが予想された。

 

しかし、これは魔戒騎士にとって大事な儀式であるため、魔戒騎士たちは嫌がることはなく、準備に勤しんでいた。

 

「……あれ?そういえば統夜さんは?」

 

奏夜は作業をしながらキョロキョロと周りを見回すのだが、統夜の姿がないことに首を傾げていた。

 

「さぁな。朱雀様に呼び出されたみたいだから他の仕事を与えられたんじゃないのか?」

 

統夜が朱雀に呼び出されたということを戒人は知っており、別の仕事を与えられているのではと予想していた。

 

「そうなんですか……ってあれ?」

 

「?どうした、奏夜?……って!」

 

奏夜と戒人は、統夜の姿を見つけたのだが……。

 

「……何で統夜はギターを持ってるんだ?」

 

統夜は何故かギターを片手に鎮魂の儀式の会場に来ており、ギター演奏の準備を行っていた。

 

「統夜さん……ライブでもするのかな?」

 

「もしかして、朱雀様の依頼って、統夜のライブなのか?」

 

「いや、恐らくは鎮魂歌を歌うんだろ。統夜ならそういうのも歌えそうだしな」

 

大輝は、何故統夜が演奏の準備をしているのかを察していた。

 

「……統夜みたいに音楽の出来る魔戒騎士って少ないからな……」

 

「俺も、ダンスだったら得意なんですけどね……」

 

ここで、奏夜が意外な特技を暴露していた。

 

「へぇ、奏夜ってダンスが得意なのか」

 

奏夜の意外な特技に、戒人は驚いていた。

 

「ダンスが得意だったら、それを取り入れた戦い方なんかやってみたら面白いかもな」

 

「ふむふむ……。参考になります」

 

「いやいや、本気にするなよ。冗談で言ったんだから……」

 

大輝が冗談で言った言葉を奏夜は参考にしようとしていた。

 

しかし、この冗談で言った大輝の言葉が、後の奏夜の戦闘スタイルに大きな影響を与えることをまだ誰も知る由はなかった。

 

 

 

 

 

 

魔戒騎士たちのテキパキとした作業のおかげで、予想よりも早く鎮魂の儀式の準備は整った。

 

儀式が行われるのは夜であるため、それまで魔戒騎士たちは自由に過ごしていた。

 

そして夜になると、鎮魂の儀式開始の時間となった。

 

「……それでは、これより鎮魂の儀式を執り行う!!」

 

朱雀が儀式の会場に現れると、儀式の開始を宣言した。

 

「諸君らも知っての通り、アスハという魔戒法師が起こした魔戒騎士狩りにより、多くの有望な魔戒騎士が命を落とした!」

 

朱雀の語る真実に魔戒騎士たちは言葉を失っていた。

 

「だが、その暴挙はそこにいる月影統夜によって阻止された。だが、我々は多くの同胞を失った!」

 

統夜がアスハを討伐した事実が語られると、魔戒騎士たちの視線が統夜に集中していた。

 

(アハハ……。そう紹介されると何か恥ずかしいよな……)

 

統夜はジッと魔戒騎士たちに見られていることが恥ずかしかったのか、顔を赤らめていた。

 

「だからこそ、今宵はこの神聖なるサバックが行われているこの地で、魔戒騎士たちの魂を鎮めようと思っている」

 

朱雀は、鎮魂の儀式を行う趣旨を魔戒騎士たちに説明していた。

 

「……サバックを勝ち進んだ魔戒騎士、月影統夜と涼邑零よ。点火台の前へ移動するのだ!」

 

朱雀が統夜と零を指名すると、統夜と零はこれから鎮魂の炎を灯す点火台の前へ移動した。

 

「……月影統夜、涼邑零!鎧を召還せよ!」

 

「「はい!」」

 

統夜と零は魔法衣からそれぞれの魔戒剣を取り出すと、それを抜いた。

 

そして、2人は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、2人はそれぞれ白銀の輝きを放つ鎧を身に纏った。

 

統夜は、奏狼の鎧を身に纏い、零は、絶狼の鎧を身に纏った。

 

「両者!剣に魔導火を灯すのだ!それが、鎮魂の炎となる!!」

 

鎮魂の儀式をサバック決勝前夜に行うのは、決勝まで勝ち進めた2人の騎士に鎮魂の炎を灯してもらう役割を行ってもらうためであった。

 

さらに、勝ち進んだ2人の魔戒騎士を紹介し、その2人の魔導火によって、魔戒騎士たちの魂を鎮めることを目的にしている。

 

統夜と零は、それぞれの剣の切っ先に魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態になった。

 

「……これが、鎮魂の炎だ!!」

 

「勇敢なる魔戒騎士の魂よ、安らかに眠りたまえ!!」

 

零と統夜が烈火炎装の状態でこう宣言すると、それぞれの剣を点火台に近付け、点火台に赤と青の魔導火による鎮魂の炎を灯した。

 

炎が灯されたことを確認すると、2人は鎧を解除し、それぞれの魔戒剣を鞘に納めた。

 

「……全員、黙祷!!」

 

統夜と零が鎧を解除したことを確認すると、全ての魔戒騎士たちに黙祷するように告げた。

 

この場にいる全ての魔戒騎士たちは、目を閉じて、1分間の黙祷を行っていた。

 

(……俺がもっと早くアスハの野望を止めていれば、ここまでの犠牲は出ずに済んだのだろうか……?)

 

統夜は、アスハの野望を阻止したこと自体は誇らしげなことと理解しているが、ここまで犠牲を出さずに済む方法はなかったのかと心の中で問答をしていた。

 

(……俺が弱いから……。テツさんは犠牲になったんだ……!)

 

奏夜は、自分の弱さを呪い、拳をギュッと握りしめると、唇を噛んでいた。

 

奏夜の言っているテツというのは、魔戒騎士狩りが行われている時にホラー討伐に共についてくれたベテランの先輩騎士のことである。

 

奏夜とテツは、ホラーと戦っている時にソウルメタルの性質を変容させる超音波を浴びて魔戒剣が持てなくなったのだが、その時にそのシステムを理解した。

 

そのため、テツは奏夜にその事実を番犬所に伝えるよう依頼した。

 

奏夜はそれを拒否したのだが、このままでは2人まとめてやられてしまう。魔戒騎士になったばかりの奏夜を救うためにテツは自ら犠牲になることを選んだのである。

 

その思いを汲み取った奏夜は番犬所に向かい、テツは奏夜の無事を祈りながらホラーに捕食されてしまった。

 

テツの犠牲があったからこそ、魔戒騎士狩りがどのように行われたのかが早々に明らかになったのである。

 

そうだということは理解していたのだが、奏夜はその時何も出来なかった弱い自分を許せずにいた。

 

他の魔戒騎士たちも、黙祷しながら、それぞれ思うことがあり、そのことに思いを馳せていた。

 

「……そこまで!」

 

そして、あっと言う間に1分が経つと、全ての魔戒騎士は、朱雀の一声で目を見開いた。

 

「……本来であれば鎮魂の儀式はこれで終わりなのだが、本日は1つ余興を用意している」

 

朱雀からの意外な言葉に、魔戒騎士たちはざわついていた。

 

「……月影統夜、準備を」

 

「は、はい!」

 

朱雀に再び指名された統夜は、予め準備していた自分のギターが置いてある場所に移動した。

 

そして、小型のアンプのスイッチを入れると、演奏の準備を整えた。

 

「……魔戒騎士狩りによって命を落とした魔戒騎士たちの魂を鎮めるため、月影統夜には鎮魂歌を歌ってもらおうと考えている!」

 

朱雀が余興の詳細を説明すると、ざわつきは大きくなっていた。

 

「……へ?統夜さんが鎮魂歌!?」

 

「まさか、マジで歌うのかよ!?」

 

「……やっぱりそう来たか……」

 

奏夜と戒人は、本当に統夜が鎮魂歌を歌うことに驚いており、大輝は予想通りだったのか、ウンウンと頷いていた。

 

「諸君、静粛に!!……月影統夜!演奏の前に一言語ってもらおうか」

 

「はっ、はい!!」

 

挨拶するよう求められた統夜は、1度深呼吸をしてから語り始めた。

 

「……皆さん、月影統夜です。今回は朱雀様の提案でこのような場を設けていただきました。今から歌う曲が本当に鎮魂歌になるのかはわかりません。ですが、先の魔戒騎士狩りで亡くなった先輩たちの魂を鎮めるため、心を込めて演奏します!」

 

統夜はこのように語ると、再び深呼吸をした。

 

そして、精神を集中させると、ギターを奏で始めた。

 

 

 

 

〜使用曲→哀愁の輪舞(統夜ソロver)〜

 

 

 

 

統夜が演奏した曲は、統夜がアスハの野望を阻止してすぐあたりから作り始めていた曲だった。

 

曲自体は100%完成した曲ではないが、統夜は今回の魔戒騎士狩りには思うところがあったので、曲自体はすんなりと出来上がった。

 

魔戒騎士狩りで犠牲になった魔戒騎士たちに捧げるかのような歌詞になっており、曲調もゆったりとしていた。

 

統夜は鎮魂の意味を込めて歌うのだが、その歌声は、軽音部で歌う声とは、明らかに違う歌声だった。

 

(……魔戒騎士狩りによって命を落とした先輩方。魔戒騎士狩りを行った魔戒法師アスハの野望は俺が阻止し、あなた方の敵も討つことが出来ました。ですので、安らかにお眠り下さい!!)

 

統夜は、歌いながら亡くなった魔戒騎士たちが安らかに眠れるように祈っていた。

 

魔戒騎士たちは、統夜の心を込めた演奏をじっくりと聴いていた。

 

魔戒騎士たちのほとんどは音楽の知識に乏しいのだが、統夜の奏でている曲が、鎮魂歌にふさわしいものであると感じていた。

 

そして、それは朱雀も同様であった。

 

(うむ。この曲であれば、騎士の魂を鎮めるにふさわしい曲であるな。学校とやらに行っている統夜に頼んで正解だったかもしれぬな)

 

そして朱雀は、統夜に鎮魂歌を頼んだことを良かったとさえ思っていた。

 

ここにいる全ての魔戒騎士が統夜の演奏に聴き入っており、統夜は鎮魂の気持ちを込めて最後まで演奏した。

 

「……改めて、魔戒騎士狩りによって命を落とした先輩方、安らかにお眠り下さい!」

 

統夜は鎮魂の言葉を送ると、その場で深々と一礼をしていた。

 

「……これにて鎮魂の儀式は終了とする。この場に宴の席を用意している。明日も宴を行うためささやかではあるが、皆、楽しんで欲しい。それこそが弔いになるのだから」

 

魔戒騎士たちは、宴という言葉を聞き、歓声をあげていた。

 

「……それでは、解散!!」

 

こうして鎮魂の儀式は終了し、魔戒騎士たちはこの場でささやかに行われる宴を楽しむことにした。

 

統夜はギターを撤収させた後に宴の席に現れ、奏夜、大輝、戒人と共に宴を楽しんでいた。

 

このようにして、サバック決勝戦前夜は更けていった。

 

そして、明日はいよいよサバックの最終日であり、決勝戦が行われる。

 

統夜は前回の優勝者である零に勝つことは出来るのか?

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『激しくぶつかり合う2人の銀狼。ここまで来たら小細工は通用しないぜ!剣と剣でぶつかるのみだぜ!次回、「牙戦」。うぉぉ!!熱い!熱いぜ!!』

 




決勝前夜に行われたのは魔戒騎士で亡くなった騎士の魂を鎮めるために行われる鎮魂の儀でした。

統夜は零と共に鎮魂の炎を灯す役だけではなく、演奏を行うという大役もこなしました。

久々の演奏シーンは統夜のソロとなりました。

今回統夜が演奏した曲は、「魔戒歌劇団」の「哀愁の輪舞」となっています。

この作品では統夜が作詞作曲した曲となっています。

この曲は急ごしらえの中発表した曲ですが、今後再登場するかは今の所未定です。

さて、次回はいよいよ決勝戦で、統夜は零とぶつかります。

準決勝でどうにか翼に勝った統夜ですが、零に勝ち、優勝を勝ち取ることは出来るのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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