牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第72話になります!

今回は戒人と奏夜の試合になります。

魔戒騎士になったばかりの奏夜ですが、戒人を相手にどこまで戦うことができるのか?

それでは、第72話をどうぞ!




第72話 「勇情」

魔戒騎士による武闘大会であるサバックが開幕した。

 

統夜の初戦の相手は、なんと元老院付きの魔戒騎士である毒島エイジだった。

 

誰もがエイジの勝ちを確信する中、統夜は予想以上の奮闘を見せていた。

 

そんな中、統夜はエイジを破り、サバックの初戦を白星で飾った。

 

エイジの勝ちを確信していた魔戒騎士たちは驚きながらも、まさかの金星を讃えていた。

 

そして統夜は客席に移動し、この日行われる試合を見学することにした。

 

「……統夜、よく勝てたな!」

 

統夜が姿を現わすと、大輝は統夜に労いの言葉を送っていた。

 

「大輝さん、ありがとうございます。どうにか勝つことが出来ました」

 

「そうだよな。みんなお前の勝ちに驚いていたぞ」

 

「ですよねぇ。誰もがエイジさんが勝つと思ってたでしょうし」

 

統夜自身も本気で勝てるとは思っていなかったのか、苦笑いをしていた。

 

「……まぁ、いい。とりあえず、休息を兼ねて試合を見学すると良いぞ」

 

「そうします。戒人と奏夜の試合もありますからね」

 

統夜は戒人と奏夜の試合を見学したいので、サバックの試合を見学することにした。

 

「……ところで、2人は控え室ですか?」

 

「あぁ、お前の試合が終わった後に控え室に行ったよ。2人ともお前の戦いぶりに刺激を受けたみたいだぞ。当然、俺もな」

 

戒人と奏夜は統夜の試合を見て刺激を受けたのだが、それは大輝も同じだった。

 

後輩である統夜がここまでの戦いぶりを見せたのだから自分はそれに負けないくらいの戦いをしなければ。そう思っていたからである。

 

「まぁ、だから俺も頑張らなきゃな」

 

このように思っていた大輝は今行われている試合を見ながらしみじみと呟いていた。

 

「大輝さん……」

 

大輝もこのサバックに気合を入れていることがわかり、統夜は何も言うことはできなかった。

 

なので、統夜も今行われている試合をジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

こうして、サバックの試合はどんどん進んでいき、現在は第12試合が行われていた。

 

両者互角のまま試合が進んでいき、15分にも及ぶ激しい剣の打ち合いの末、勝敗が決まった。

 

「……次は戒人と奏夜の試合か……」

 

「2人がどんな戦いを見せてくれるのか……凄く楽しみですよ!」

 

統夜は戒人と奏夜の試合を心待ちにしていた。

 

すると……。

 

「……それでは、第13試合を行う!!紅の番犬所付き、黒崎戒人!」

 

審判役に戒人が呼ばれると、戒人は戦いの舞台である円陣に足を踏み入れた。

 

「……対するは、翡翠の番犬所付き、如月奏夜!!」

 

奏夜も審判役に呼ばれ、円陣に足を踏み入れたのだが……。

 

「……あの馬鹿、緊張してやがるな……!」

 

「……奏夜……」

 

大輝の指摘通り、奏夜は初めての舞台に緊張しているのか、ガクガクと足を震わせていた。

 

そんな奏夜を、統夜は心配そうに見つめていたのだが……。

 

『……統夜、問題ないだろう。あの生真面目な戒人が、緊張しっぱなしの奴を蹂躙するとは思えんからな』

 

「確かにそうだな。戒人なら、何かしらアクションを起こして、奏夜の緊張を解いてくれるか……」

 

戒人は誰よりも騎士道精神を重んじており、卑怯な振る舞いや自分だけ有利な状況というのを嫌っている。

 

そのため、正々堂々と戦うために何かしらのアクションを仕掛けるつもりだと統夜とイルバは予想していた。

 

しかし、他の魔戒騎士たちは……。

 

「……何だよ、2人ともさっきの統夜って奴くらい若いじゃねぇかよ!」

 

「特にあの茶色の魔法衣のガキは特に若いな。何か緊張してるみたいだし」

 

「ギャハハ!!よくそんなんでサバックに選ばれたよなぁ?」

 

「こりゃ、あの黒の魔法衣のガキの圧勝なんじゃねぇの?」

 

魔戒騎士たちは、緊張している奏夜を馬鹿にしており、戒人の勝ちを確信していた。

 

「……」

 

統夜は魔戒騎士たちの心無い野次が気に入らなかった。

 

それに抗議しようと席を立とうとするのだが……。

 

『……統夜、言いたい奴には好き勝手言わせとけ』

 

「……っ!でも!」

 

「イルバの言う通りだ。あんな奴らをまともに相手して、失格になんてなったら毒島エイジもガッカリするぞ」

 

このサバック中は、特に騎士らしい振る舞いをするよう心がける必要があり、騎士同士のケンカは当然の如くご法度である。

 

初戦を制した統夜がケンカをふっかけるような真似をすれば、失格になることは免れない。

 

そうならないために、大輝とイルバは統夜をなだめていたのである。

 

「……そうだったな……。わかったよ」

 

統夜も自分の立場というものを理解したのか、大人しく座っていた。

 

客席からの心無い声は円陣からも聞こえていたのだが、奏夜は緊張のあまりそれが聞こえていなかった。

 

しかし、戒人は……。

 

「……」

 

これから戦う相手を馬鹿にされたことに怒り、肩を震わせていた。

 

そして、それと同時にこのようなことを思っていた。

 

勝ち負けはともかくとして、奏夜を本気にさせて、その実力をこの試合を見ている連中に見せつける。

 

そうすることで、心無い野次を黙らせるつもりだった。

 

「……両者!武器を構え!」

 

戒人と奏夜は、審判役の指示に従い、それぞれの剣を抜いて、構えた。

 

戒人と奏夜の剣も、魔戒剣と同じ形をした鉄製の剣である。

 

剣を構えた状態でも、奏夜は緊張で足を震わせていた。

 

「……」

 

戒人は、そんな奏夜を鋭い目付きで睨みつけていた。

 

そして……。

 

「……それでは、試合、開始!!」

 

審判役が試合開始を告げた瞬間、いきなり動きがあった。

 

戒人が凄いスピードで奏夜に接近すると、剣を振るわずに奏夜を殴り飛ばしたのである。

 

「!!?あいつ、何やって……」

 

「アハハ……。戒人のやつ、わかりやすい方法を……」

 

大輝や魔戒騎士たちは戒人の行動に驚き、統夜は戒人の行動を予想していたのか苦笑いをしていた。

 

戦場で緊張を解すのはこれが一番手っ取り早いと統夜も思っていたからである。

 

「……さっさと立て!!ここは神聖な戦いの場だ。無様な負けは許されないんだ!!」

 

戒人は凄い剣幕で奏夜を怒鳴りつけていた。

 

奏夜は殴られた挙句怒鳴られたことに唖然としていたがらしばらくすると、何故か笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「……そうですよね。緊張したまま負けるなんて、戒人さんにも失礼ですもんね。ありがとうございます、戒人さん!俺、目が覚めました!」

 

戒人の叱咤激励のおかげで奏夜の緊張は完全に消え失せて、奏夜は改めて剣を構えた。

 

「……それで良い!お前の全力を見せてみろ!それを踏まえて俺は、お前に勝つ!!」

 

「えぇ!見せてやりますよ!俺の力を!!」

 

戒人の叱咤激励は奏夜の緊張を解くだけではなく、奏夜の闘志にも火をつけていた。

 

奏夜は気合十分な状態で戒人に接近すると、剣を一閃した。

 

戒人は、そんな奏夜の一撃を軽々と受け止めていた。

 

「どうした、その程度じゃないよな?俺をがっかりさせるなよ!」

 

「えぇ、わかって……ますよ!!」

 

奏夜は両手にありったけの力を込めて剣を一閃すると、戒人を弾き飛ばした。

 

戒人は大勢を立て直しながら、笑みを浮かべていた。

 

「そうだ、それでいい!!」

 

戒人はすぐさま奏夜に接近し、剣を一閃した。

 

奏夜は戒人の攻撃を剣で防ぎ、すかさず反撃として剣を振るった。

 

こうして、このような激しい剣の打ち合いをしばらく行っていたのであった。

 

「あの2人……」

 

「あぁ、マジで強え……」

 

「ただのガキだと侮ってたが……」

 

先ほどまで奏夜を馬鹿にしていた魔戒騎士たちは、2人の激しい剣の打ち合いを見て、その実力を認めざるを得なかった。

 

「……うん、奏夜のやつ、戒人相手に頑張ってるな」

 

統夜は、2人の激しい剣の打ち合いを見ながら、奏夜が予想以上に善戦していることに関心していた。

 

「だが、経験の差からも戒人の有利は変わらないがな」

 

大輝の指摘通り、魔戒騎士としての経験は戒人の方が圧倒的に上であるため、戒人が有利であることは変わりなかった。

 

そのことは実際戦っている奏夜が誰よりも痛感していた。

 

(……流石は統夜さんのライバルなだけはある……。まるで統夜さんと戦ってるみたいだ……)

 

奏夜は戒人と激しく剣を打ち合っているうちに戒人の実力を見極めて行ったのだが、戒人が統夜と互角の力を持っていると推測していた。

 

そのため、このままだとジリ貧だということを、奏夜は理解していた。

 

(……どうすればいい?僅かでもいい。隙をつければ……)

 

奏夜はこの状況を切り抜けるためにどうするべきか考えていたが……。

 

「……戦闘中に過度な考え事は、命取りだぞ!!」

 

戒人は何度目かの剣の一閃を行った。

 

しかし、奏夜はそれを剣で防ぐのだが、その直後に戒人は奏夜に蹴りを放ち、奏夜は吹き飛ばされてしまった。

 

「うっ……くっ……」

 

先ほどの蹴りがかなりのダメージだったのか、奏夜はゆっくりと立ち上がった。

 

この状態で追い打ちをかければ戒人の勝ちは確実だったのだが、戒人はあえてそれをしなかった。

 

「……どうした、奏夜。もう終わりか?」

 

「へへ……。何の……まだまだですよ!」

 

奏夜はこう言っておどけてみせたのだが、もうすでに体力は限界に近かった。

 

しかし、戒人は息一つあげてはおらず、このままだと確実に負けるということはわかっていた。

 

「……どうやら、ここまでか……」

 

「そうかもしれないですね。奏夜も戒人に一矢報いることが出来ればいいんですけど……」

 

統夜も奏夜の体力が限界に近いと推測していたが、大きな反撃を1つしてほしいと思っていた。

 

(……どうすればいい?このままだと間違いなく負けるぞ……)

 

奏夜は息を切らしながらも戒人に付け入る隙がないか探りを入れたが、それを見つけることは出来なかった。

 

(……こうなったらヤケクソだ!どうせ負けるなら思い切りぶつかってやる!)

 

奏夜は剣を構えると、戒人目掛けて突撃した。

 

「……はぁっ!!」

 

奏夜は剣を一閃するが、それは戒人に軽々と防がれてしまった。

 

「……そこだ!」

 

奏夜は一瞬の隙を突いて、戒人の右足を狙って足払いを繰り出した。

 

「……何!?」

 

戒人は奏夜のまさかの攻撃に驚き、足払いによって仰向けに倒されてしまった。

 

奏夜はそのまま戒人を殺す勢いで剣を突き刺した。

 

戒人であればかわすだろうと予想していたからだ。

 

その奏夜の予想通り、戒人はゴロンと横回転しながら奏夜の攻撃をかわした。

 

奏夜が剣を引き抜くのと、戒人が起き上がって体勢を立て直すのは同時だった。

 

「はぁっ!!」

 

「このぉ!!」

 

そして、奏夜と戒人は同時に剣を振るった。

 

すると……。

 

「……っ!」

 

先ほどの剣の打ち合いは戒人に軍配が上がり、奏夜の手にしていた剣は弾き飛ばされ、その後、地面に突き刺さった。

 

先ほどの一閃で奏夜にも少しダメージがあったようであり、奏夜の手には微量ではあるが、血が出てきていた。

 

「……そこまで!勝者、黒崎戒人!」

 

戒人と奏夜の試合は戒人の勝利で幕を閉じた。

 

2人は予想以上の激闘に魔戒騎士たちは歓声を上げていた。

 

「おぉ!黒コートが勝ったぞ!」

 

「茶色のコートのガキも思ったよりやるじゃないか!!」

 

「あぁ!良い試合だったぜ!」

 

魔戒騎士たちは先ほどまでは奏夜のことを馬鹿にしていたのだが、今は手のひらを返すかのように奏夜への評価を変えていた。

 

「……奏夜。頑張ったな」

 

「そうだな。戒人相手にあそこまで戦えれば良くやった方だと思うぞ」

 

統夜は惜しくも負けてしまった奏夜の健闘を讃え、大輝も、奏夜の健闘を讃えていた。

 

「……さすがですね、戒人さん。俺の負けです……」

 

奏夜は素直に自分の負けを認めていた。

 

「奏夜、よく頑張ったな。良い試合をさせてもらったよ」

 

戒人は、奏夜と全力をかけて戦ったため、奏夜の健闘を讃えていた。

 

「やっぱり、俺はまだまだですね……」

 

「そうかもな。だが、お前の最後まで諦めない姿勢には関心させられたよ」

 

「戒人さん……」

 

「とりあえず、これからは先輩騎士の戦いをしっかり見ておけ。お前もそこから得るものがあるハズだ」

 

「……はいっ!」

 

こうして、戒人と奏夜の試合は戒人の勝利で幕を閉じた。

 

試合を終えた2人は揃って円陣から離れ、1度闘技場を後にすると、別の階段から客席へと向かった。

 

「……おっ、2人とも、お疲れさん!」

 

統夜は客席に戻ってきた戒人と奏夜を見つけると、2人に労いの言葉を送った。

 

「あっ、統夜さん。ありがとうございます」

 

「奏夜、惜しかったな。だけど、戒人相手にあそこまで戦えたんだ。たいしたもんだよ」

 

「俺がここまで戦えたのは、統夜さんが俺を鍛えてくれたおかげです」

 

「そういえばロデル様がそんなこと言ってたな。統夜が奏夜を鍛えるためにここに来てくれたとな」

 

翡翠の番犬所所属になった大輝は、ロデルからその話を聞かされていた。

 

「へぇ、統夜も先輩騎士らしいことをしてたんだな」

 

「ま、まぁな。俺はあまり先輩という実感はないけどな」

 

奏夜と出会うまでは、自分が最年少の魔戒騎士だったので、どこへ行っても後輩感覚を持っていた。

 

なので、統夜は自分に後輩がいるという実感をいまだに持てないでいたのであった。

 

「何言ってるんですか!統夜さんは立派な先輩ですよ!俺が断言します!」

 

『おいおい、統夜。お前さんは随分と奏夜に懐かれたみたいだな』

 

「アハハ……」

 

奏夜がそこまで自分のことを慕ってくれているとは思っていなかったので、統夜は苦笑いをしていた。

 

「とりあえず、他の試合も見学するぞ。奏夜にとっても良い経験になるだろうしな」

 

「はい!」

 

こうして統夜たちは、他の魔戒騎士の試合を見学していた。

 

サバックの初日が終了し、この日は1回戦の半分が終了した。

 

今日試合を行っていない魔戒騎士は、翌日の2日目に試合を行うことになっている。

 

ちなみに大輝は1日目の最後が出番だったのだが、危なげなく勝利していた。

 

零と翼はまだ試合を行っておらず、2人の試合も2日目に行われる。

 

魔戒騎士たちは、前回優勝した零と準優勝した翼の試合を心待ちにしていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

サバックの初日が終了し、夕食を終えた魔戒騎士たちは、談笑したり、稽古をしたりとそれぞれ自由に時間を使っていた。

 

中には、ホラー討伐の指令を受けてホラー討伐に向かった魔戒騎士もいた。

 

サバックが行われていても、ホラーは現れるため、その場合は魔戒法師が中心となってホラー討伐に向かうのだが、人手不足な番犬所の場合は、そこの魔戒騎士がホラー討伐に向かわなければならないのである。

 

今でも人手不足な番犬所があるのは、アスハが起こした魔戒騎士狩りのせいでもある。

 

そのため人事異動は行われたのだか、それでも人手が足りてない番犬所があるのが現状である。

 

しかし、魔戒騎士たちはそれを嫌とは思っておらず、むしろ良い鍛錬になると嬉々としてホラー討伐に向かっていったのである。

 

そんな中、統夜や戒人のいる紅の番犬所からの指令はなかったため、2人は宿舎でのんびりとしていた。

 

「あぅぅ……サバックの試合を記録するのってかなり大変なんだなぁ……」

 

この日はレオと共にサバックの試合を記録していたアキトは、想像以上に労力を消費したようで、机に突っ伏していた。

 

「アハハ……お疲れさん!」

 

戒人は、苦笑いをしながらヘロヘロになっているアキトに労いの言葉を送っていた。

 

「……ところで、レオさんは?」

 

「さぁね。多分師匠はしっかり試合の記録が取れてるかチェックしてんじゃないの?」

 

アキトはレオが何をしているのか定かでなかったのだが、今日の試合の記録をチェックしていると予想していた。

 

「零さんと翼さんもいないみたいだけど、あの2人はレオさんの手伝いでもしてるのかな?」

 

「……それはあり得るかもな。あの2人は師匠の盟友だしな」

 

「へぇ……そうなんですね……」

 

奏夜も雑談に参加しており、先輩騎士の情報に耳を傾けていた。

 

そんな中……。

 

「…………」

 

統夜は戒人たちと少し離れたところで、何故か勉強をしていた。

 

アキトはそんな統夜の姿を発見し、起き上がって、統夜の様子を見ることにした。

 

「おい、統夜。お前は何やってんだ?」

 

「あぁ、俺か?俺は夏休みの宿題をやってたんだよ」

 

「しゅ……宿題?」

 

「あぁ。どうせ自由な時間が多いならこのサバックが行われてる間に夏休みの宿題を全部終わらせようと思ってな」

 

統夜はサバックに出場しながら、夏休みの宿題も一緒に片付けようとしていた。

 

「お前ってやつは……。真面目なのか馬鹿なのか……」

 

戒人は、サバックの空き時間で宿題を済ませようとしている統夜に呆れていた。

 

確かにこの時間は自由時間であるが、学校の勉強をする魔戒騎士など今までいなかったからである。

 

「……ま、まぁ。自由時間に終わらせるのは良いのか……うん」

 

アキトも、統夜が宿題を終わらせている様子を見て、リアクションに困っていた。

 

「?まぁ、いいや」

 

統夜は戒人やアキトの反応に首を傾げていたが、すぐさま宿題の続きに入っていた。

 

統夜は話の輪に入らず勉強に集中していたが、戒人たちは就寝時間になるまで談笑を行っていた。

 

 

 

 

 

 

そして翌日、サバックの2日目が行われた。

 

この日は、1回戦の続きが行われていた。

 

この日の注目は、なんと言っても零と翼の試合だった。

 

零も翼も危なげなく勝利し、2回戦に駒を進めたのである。

 

そして、統夜、戒人、大輝はこの日は試合がないため、試合を見学していた。

 

初日と2日目でサバックの1回戦は終了し、全ての魔戒騎士たちが一戦を交えたため、その数は半分となった。

 

敗れ去った騎士たちはそのまま帰って良い訳ではなく、最後までサバックの戦いを見届ける義務があった。

 

そのため、試合に敗れた魔戒騎士は、決勝戦が終わるまで帰ることは許されていなかった。

 

サバックの2日目が終了し、明日から2回戦に突入する。

 

これは当然のことであるが、2回戦の対戦相手は1回戦を勝ち抜いた猛者であるため、1回戦以上に激闘になることは簡単に予想出来た。

 

夜も更け、魔戒騎士たちは明日の試合に備え、眠りについていた。

 

そんな中、統夜は宿舎の外で風を浴びていた。

 

「……」

 

統夜は緊張で眠れなかった訳ではなく、携帯をチェックしていた。

 

統夜が携帯をチェックすると、唯たちからたくさんメールが届いていた。

 

その内容はどれもサバックの健闘を祈るという内容のものだった。

 

統夜はそのメールを1つ1つチェックしていると、統夜は笑みを浮かべていた。

 

『おいおい、統夜。メール見てニヤニヤしてるぞ』

 

「へ?そ、そうか?」

 

イルバにニヤニヤしていると見透かされ、統夜は頬を赤らめていた。

 

『……それよりも、ここは人界でも魔界でもないのに、携帯の電波はあるんだな』

 

イルバは人界でも魔界でもないこの場所でもメールが届くことに驚いていた。

 

「あぁ、それは俺も思ったよ」

 

統夜もメールが届くとは思っていなかったので、驚いていた。

 

すると、再び統夜の携帯に反応があった。

 

今回は唯からのメールであり、今度のメールには写メが添付されていた。

 

統夜はすぐさまその写メを確認した。

 

その写メを見た統夜は……。

 

「……ったく、何やってんだか……」

 

統夜は優しい表情で笑みを浮かべていた。

 

唯が統夜に送った写メは、夏フェスの会場と思われる場所で、唯たちが仲良く寝転がっている写メだった。

 

「それに、梓のやつ、今年も日焼けしたんだな」

 

写メでハッキリとした映像ではなかったが、日焼けした梓を見て、今年も日焼けしたんだなと思っていた。

 

『梓のやつ、本当に日焼けしやすい体質なんだな』

 

イルバも携帯の写メを見たのだが、梓の日焼けしやすい体質に驚いていた。

 

統夜とイルバが写メをチェックしていると……。

 

「……おっと、今度は電話か?」

 

再び統夜の携帯に反応があったのだが、今度はメールではなく、唯からの電話だった。

 

統夜はすぐさま電話に出た。

 

「……もしもし」

 

『お、繋がった!ねぇ、やーくん。やーくんは今どこにいるの?』

 

唯も本当に電話が繋がると思っていなかったのか、驚いていた。

 

「あぁ、俺はサバックの会場の近くにある宿舎にいるぞ。サバックはまだ続くからな」

 

『ふーん……。それで、やーくんは勝ってるの?』

 

「それは帰ってきたらじっくり話してやるよ。それまでは内緒な」

 

『……むぅぅ……教えてくれてもいいのに……』

 

電話越しであるため、顔は見えないのだが、統夜は唯が膨れっ面をしているだろうと簡単に予想出来た。

 

「ところで、音楽が微かに聞こえるが、お前らは夏フェスの会場なのか?」

 

『うん!そだよぉ!』

 

サバック開催の翌日が夏フェスだと言うことは統夜も聞いていたが、改めて唯たちが夏フェスの会場にいることを確認していた。

 

『統夜、羨ましいんじゃないのか?』

 

先ほどまでは唯の声だったのが、律の声に変わっていた。

 

近くにいた律が唯に電話を代わってもらったのだと簡単に予想することが出来た。

 

「……まぁな。サバックがなければチケットを買ってでも行きたかったさ」

 

統夜は心から思っていることを律に伝えた。

 

『だろう?夏フェスのライブはどれも最高だったぞ!!』

 

今度は律ではなく澪に代わったのか、澪の声が聞こえてきた。

 

「そう言えば、澪の好きなバンドが出てるって話をしてたもんな」

 

統夜がサバックの会場に向かう前に、澪は統夜に夏フェスに自分の好きなバンドが出てるから楽しみという話を熱くしていた。

 

統夜はその話を思い出しており、澪が夏フェスに興奮していることを察していた。

 

『私は、統夜君と一緒が良かったわ。だけど、仕方ないものね……』

 

今度は紬の声が聞こえてきたのだが、紬の声は少しだけ寂しそうだった。

 

「まぁな……。俺もみんなと夏フェスに行きたかったさ。だけど、その寂しさを試合でぶつけるつもりだよ」

 

統夜は唯たちと一緒でないため、どこか寂しさを感じていた。

 

そんな気持ちをエイジにぶつけており、そのおかげで勝てたのかもしれない。

 

統夜はそんなことを考えていた。

 

『私も統夜先輩と一緒じゃないから寂しいですけど、私は統夜先輩を応援してます!』

 

続いて梓の声が聞こえてきたのだが、梓は寂しいという気持ちを出しながらも統夜の応援をしていた。

 

「ありがとな、梓。俺、サバックでは悔いのない結果を残すから!」

 

統夜は梓の応援をこれからの戦いの力に変えるつもりだった。

 

『ねぇ、やーくん。これからもずっと、みんなでバンドをやっていきたいよね?』

 

今度は唯の声が聞こえてきたのだが、唯はしみじみと呟くように言葉を紡いでいた。

 

恐らくそのような話をみんなでしていたのであろう。

 

統夜はそのことを予想出来た。

 

「……そうだな。俺だってそう望んでるよ」

 

統夜は魔戒騎士であるため、いつ命を落としてもおかしくはない。

 

願わくば、高校を卒業しても時々はみんなと演奏したいとは統夜は常々思っていたのである。

 

『そうだよねぇ!ごめんね、変なことを聞いて』

 

「気にすんな。それじゃあ、俺はそろそろ寝るよ」

 

『うん、わかった!』

 

唯がこう言うと、今度は「おやすみなさい!!」と全員の声が聞こえてきた。

 

「あぁ、おやすみ」

 

統夜はそう言って電話を切ると、携帯をポケットにしまった。

 

「……さて、明日に備えてそろそろ寝るとするか……」

 

統夜はそのまま自分の部屋で寝ることにしたのだが、その道中ずっと笑みを浮かべていた。

 

唯たちと話が出来て、統夜はそれだけで力をもらったからである。

 

その力を明日思い切りぶつけよう。

 

そう考えながら統夜は眠りについた。

 

こうして、サバック2日目の夜はふけていった。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『サバックもいよいよ2回戦か。戦いはもっと激しくなっていくと思うぜ!次回、「妙技」。騎士の剣技が冴え渡る!』

 




奏夜は戒人相手にかなり善戦はしましたが、後一歩及ばず、負けてしまいました。

だけど、経験の浅い奏夜がここまで戦えたのはかなり凄いことだと思います。だから、奏夜が成長したら統夜や戒人並に強くなるかも?

そして、その日のサバックの試合が終わると、魔戒騎士たちは自由な時間を過ごしたり、指令があればホラー討伐に向かいます。

本編でも触れましたが、魔戒騎士狩りのせいで人手不足になり、魔戒法師だけではどうにもならない管轄もあるからです。

こうして、サバックの7日間はこのように過ぎていくという訳です。

そして、次回はサバック3日目に突入し、2回戦に突入します。

統夜の対戦相手は誰になるのか?

今回はヒントはありません(笑)

それでは、次回をお楽しみに!


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