牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第69話になります!

今回はサバックの開催が近づくなか、統夜がサバックの会場へ向かいます。

そして、唯たちは……?

それでは、第69話をどうぞ!




第69話 「旅立」

統夜が東京へ行き、後輩騎士である奏夜の指導を行ってから何日かが経過した。

 

この日は終業式であり、明日からは長い夏休みが始まるのである。

 

終業式が終わると、統夜たち3年生組は一緒に下校していた。

 

すると……。

 

「……合宿をしよう!」

 

唯がいきなりこのように話を切り出してきた。

 

「「「「え?」」」」

 

唯の唐突な申し出に、統夜たちは思わず足を止めた。

 

「合宿ですよ!合宿!」

 

「したいしたい♪」

 

「おぉ、いいなぁ♪」

 

唯の提案に、紬と律は乗り気であった。

 

「ちょっと待て!受験勉強だってあるだろ?」

 

澪は3年生だからこそのもっともな理由で反対したのだが……。

 

「合宿に賛成の人!」

 

唯がこう言うと、律と紬が手をあげた。

 

「おい!そういうことは梓に聞いてみないと」

 

梓を抜きにして多数決を取ることに澪は異議をとなえるのだが、唯は梓から来たメールを澪に見せた。

 

そのメールには写メが添付されており、梓も合宿に賛成と言うように手をあげていた。

 

「えぇ!?」

 

「メールして、あずにゃんにも聞いておいたんだよ!」

 

唯は予め梓にメールして、合宿のことを話しておいたのである。

 

「ところで、統夜君は大丈夫なの?」

 

紬は先ほども手をあげなかった統夜に合宿について聞いてみたのだが……。

 

「すまん。どちらにせよ俺は合宿には参加出来ないんだ。だからやるなら俺抜きで頼むよ」

 

「えっ……!?な、何で!?」

 

統夜が参加出来ないと知り、唯たちは落胆を隠せなかった。

 

「それはみんなで集まった時に話すよ」

 

こうして、今年の合宿は、統夜抜きで行なわれる感じとなった。

 

 

 

 

 

そして翌日、統夜たちは合宿の話し合いをするため唯の家を訪れていた。

 

「あっ、皆さん。いらっしゃい!」

 

統夜たちが唯の家に入ると、憂が出迎えてくれた。

 

「「「「「お邪魔しまーす!」」」」」

 

「お姉ちゃん!皆さん来たよ!」

 

憂は階段の方に向かって唯を呼ぶのだが……。

 

「あぁ、みんなぁ。いらっしゃ〜い」

 

唯はひょっこりと階段から顔を出していた。

 

「アハハ……。唯のやつだらけてるな……」

 

統夜はさっそくだらけている唯を見て呆れていた。

 

そんな唯はゆっくりと階段を降りて、統夜たちを出迎えた。

 

そして、統夜たちをリビングに案内するのだが……。

 

「ゲームしよぉ♪」

 

いきなり唯はゲームをし始めていた。

 

「おぉ!」

 

「やるやる♪」

 

律と紬はノリノリでゲームに参加しようとしていた。

 

唯が今やっているのは格闘ゲームであり、クラスメイトから借りたものであった。

 

「あの……私たち、何しに来たんでしたっけ?」

 

「合宿の話し合いと何で統夜が合宿に行けないかを聞くため……だよな」

 

梓と澪は、今日唯の家に集まった目的を確認していた。

 

「おい、始めるぞ」

 

今ゲームを始められるとグダグダになりそうだと判断した澪は、唯たちをなだめて先に話し合いを始めさせることにした。

 

「えぇ?ちょっとくらいいいじゃん!」

 

「そーだそーだ!」

 

唯と律は異議を唱えるのだが、渋々澪の話を聞いて、先に話し合いをすることになった。

 

「あの……本当に良いんですか、合宿?」

 

「へ?何で?」

 

「皆さん、3年生ですし、統夜先輩は今回合宿に参加出来ないみたいですし……」

 

「まぁ、ちょっと息抜きだよ、息抜き♪」

 

『おいおい、お前さんたちは息抜きをし過ぎなんじゃないのか?』

 

イルバは、律の楽観的な言葉に呆れていた。

 

「去年とその前は海だったけど、今年は山がいいかな」

 

「えぇ?今年も海がいい!」

 

山がいいという律の提案に、唯が異議を唱えていた。

 

「川で魚取って、バーベキュー出来るぞ!」

 

「……」

 

唯はバーベキューという単語を聞いて少し考えていた。

 

そして……。

 

「美味しそうだねぇ♪」

 

「だろぉ♪」

 

バーベキューをしている様子を想像した唯はニヤニヤしていた。

 

「やっぱり、遊ぶ気満々ですね」

 

「まぁ、そんなことだろうと思ってたけどな」

 

合宿=遊びという構図が1年生の時から出来上がっており、今年の合宿もこのようになるのだろうと予想していた。

 

「ところで、梓はどこがいい?」

 

「え?」

 

澪が合宿の場所をどこにするか梓に聞くと、梓はうーんと考え込んでいた。

 

そして……。

 

「あ、あの!山は山でも夏フェスとか!」

 

「あぁ!いいかもな!」

 

梓の提案に澪は賛同していた。

 

しかし……。

 

「夏ヘス?」

 

「夏ヘソ?」

 

唯と紬は夏フェスというものが何なのかがわからず、このように変なことを言っていた。

 

「ち、違います!夏フェスです!」

 

「色んなバンドが大きな野外の会場で演奏するんだよ。何万人が集まるんだぜえ」

 

「夏フェス!1度行ってみたいと思ってたんだよ!」

 

どうやら澪も夏フェスという案にはノリノリであった。

 

「私もです!プロの演奏を聴くのも勉強になると思うんです」

 

「んじゃ、決定だな!」

 

(ぐぬぬ……!夏フェスかぁ。いいなぁ……。サバックがなければ俺も行きたかったんだが……)

 

統夜も夏フェスという言葉はテレビで聞いたことがあり、行ってみたいと思っていたが、行けない事情があったのである。

 

(……ん?待てよ?夏フェスってことは……)

 

統夜は夏フェスという言葉を聞いて、何かを思い出した。

 

「なぁ、お前ら。夏フェスは良いとは思うけど、チケットはどうするんだ?」

 

「……あっ!」

 

律は1番大事なことを思い出し、顔を真っ青にしていた。

 

いくら夏フェスに行きたいと思っていても、チケットがなければ中に入れないからである。

 

すると……。

 

「仕方ないわねぇ。今回は特別よ」

 

いつの間にか現れたさわ子が夏フェスのチケットらしきものを見せびらかしていた。

 

「凄いです!」

 

「さすがさわちゃん!」

 

「エッヘン!」

 

さわ子はドヤ顔をしていたのだが……。

 

『おい、さわ子。お前さん、いつの間に現れたんだよ』

 

まるで最初からいたようにいつの間にか現れたさわ子に、イルバは呆れていた。

 

そして……。

 

「あっ!!本当だよ!!」

 

律はここでようやく気付いたのか、驚いていた。

 

「あぁ、私にも麦茶をちょうだい」

 

「あ、はい」

 

憂は立ち上がり、さわ子の分の麦茶を用意した。

 

「……夏フェスデビューかぁ……」

 

「私、野外ライブ初めてです!」

 

「気持ちいいだろうなぁ……」

 

澪は、初めて夏フェスに行けることになり、ワクワクしていたからか、浮かれていた。

 

「そんな呑気に構えてたら負けるわよ」

 

「な、何にですか!?」

 

「夏によ!いい?ギラギラ燃える太陽、ムンムンした熱気!そして、今か今かと獲物を待ち構える夏の虫たち!夏フェスに参戦する者は、その全てと戦うの!覚悟なさい!」

 

「は……はい!!」

 

唯たちはあまりも熱くなっているさわ子に圧倒されていた。

 

『やれやれ……さわ子のやつ、随分と暑苦しいな……』

 

イルバは夏フェスに向けて熱くなっているさわ子に呆れていた。

 

「ねぇ、さわちゃん。夏フェスのチケットって何枚あるの?」

 

「えっと……6枚ね」

 

さわ子は現在夏フェスのチケットを6枚持っていた。

 

チケットの枚数を知り、律はあることに気付いた。

 

「……って!!1枚足りないじゃん!」

 

チケットが1枚だけ足りないことに気付き、唯たちの顔も真っ青になっていた。

 

しかし……。

 

「いや、6枚なら問題ないよ。俺はどちらにせよ夏フェスには行けないからさ」

 

統夜は今回の夏フェスには参加出来ないため、チケットの数は問題なかった。

 

「え、そうなの!?それなら良かったけど……」

 

チケットの枚数が足りるとわかり、さわ子は安堵していた。

 

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、やーくんは何で夏フェスに参加出来ないの?」

 

唯は今まで気になっていた疑問を統夜にぶつけた。

 

「それはあたしも気になってたんだ。もしかして、魔戒騎士の仕事とか?」

 

「当たらずも遠からずってところかな?だけど、仕事って訳ではないんだよ」

 

「?仕事じゃなければなんなんですか?」

 

「あぁ、これだよ」

 

統夜は魔法衣の懐から、1枚の招待状のようなものを取り出し、それを唯たちに見せた。

 

「……?統夜君、これは一体何なの?」

 

この招待状は魔戒語で書かれていたため、紬は読むことが出来ず、統夜にこれが何なのかを聞いていた。

 

「これは、「サバック」の招待状なんだよ」

 

「「「「「「「サバック?」」」」」」」

 

初めて聞く言葉に、唯たちは一斉に反応していた。

 

その光景を見た統夜は苦笑いをしていた。

 

「サバックっていうのは各番犬所の魔戒騎士が集まって、7日間かけて最強の魔戒騎士を決める武闘大会のことだよ」

 

統夜はサバックというものを簡潔に説明した。

 

「え?でも最強の魔戒騎士って鋼牙さんなんだろ?それじゃ大会自体意味がないんじゃ……」

 

「サバックは牙狼の称号を持つ魔戒騎士に敬意を込めた大会だから、牙狼の称号を持つ魔戒騎士の参加は認められてないんだよ」

 

「ということは、ナンバー2を決める大会ってこと?」

 

「まぁ、そうなるかな。ちなみに、前回大会は零さんが優勝したんだよ」

 

「へぇ、零さんって凄い魔戒騎士なんだねぇ」

 

唯は零が凄い魔戒騎士であることを改めて確認していた。

 

「サバックってさ、つまりはドラ○ンボールの天○一武闘会みたいなもんなのか?」

 

「……その例えはあれかもしれないけど、まぁその発想でいいと思う」

 

統夜は律の出した例えに呆れていた。

 

統夜はさらにサバックについて詳しく説明を始めた。

 

「サバックはな、1対1のトーナメント形式なんだけど、ソウルメタルの剣じゃなくて支給される鉄の剣で戦うんだよ」

 

「ということは、魔戒剣は使っちゃダメってこと?」

 

「そうだな。それだけじゃなくて、鎧や魔戒獣の召還は禁止されてるし、魔導具の力を借りるのも禁止なんだよ」

 

『まぁ、俺様も戦いの時は口出しをしてはいけないんだよ』

 

「それじゃあイルイルは黙ってなきゃいけないんだね』

 

『そうなんだが、俺様を変なあだ名で呼ぶな!』

 

唯とイルバはいつものやり取りをしていた。

 

「あと、魔導筆を使った術は禁止されてるんだ」

 

「ということは、魔導筆を使わない術はありってことですか?」

 

「まぁ、そういうことになるな。魔導筆を使わない術を使う魔戒騎士はけっこういるからな。だから厄介なんだよな」

 

梓の推測通り、魔導筆を使わない術であれば、使用を許可されている。

 

そのため、術を使える魔戒騎士は、術を用いて攻撃をすることが出来る。

 

「そういえば、やーくんってそういう術は使えるの?」

 

「いや、俺は騎士としての鍛錬しか受けてないからそういうのは使えないんだよ」

 

統夜は魔戒騎士としての鍛錬しか受けていないため、術の使用は出来ないのである。

 

「あ、あと、サバックの勝敗の付け方なんだけどな、どちらかが先に一滴でも血を流したら負けなんだよ」

 

「……ひっ!?」

 

血を流したらというキーワードを聞いた澪は怯えていた。

 

その様子を見た律はニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「……戦いが終わったら血だらけ……」

 

「ひぃぃ!?やめろ!やめろって!」

 

澪は律の言葉に怯えきっていた。

 

「……いい加減にしろ!!」

 

「うぎゃっ!?」

 

統夜は律に拳骨をお見舞いすると、律を黙らせた。

 

律の頭にタンコブが出来ると、律はしゅんとしながら黙り込んでいた。

 

「……ま、サバックについてはこんなもんかな?」

 

統夜はサバックについての説明を終えた。

 

「ところで、そのサバックって7日間かけて行うって言ってましたけど、その間はどこに泊まるんですか?」

 

「あぁ、会場近くに宿泊スペースがあるからな。サバックに出る魔戒騎士はそこに宿泊する予定になってるんだよ」

 

「へぇ、そうなのね」

 

「そもそも、そのサバックってどこでやるんだ?」

 

「魔界道っていう魔戒騎士や魔戒法師にしか使えない道じゃないと行けない場所にあるんだよ。だから、一般人が迷い込むこともないしな」

 

サバックの会場は、人界でも真魔界でもない場所にあり、そこへは魔界道を使わないと行くことが出来ない。

 

そのため、一般人がサバックの会場に迷い込む心配がないのである。

 

「それで、そのサバックはいつ行われるんですか?」

 

「サバックの開催は3日後だから、明後日には会場入りしようと思ってる」

 

「3日後……。夏フェスは4日後だから、お見送りは行けそうね♪」

 

「アハハ……。お見送りって大袈裟だな……」

 

「そんなことないよ!だってやーくんにとって大一番なんだよ?」

 

サバックという競技が統夜にとって重要なものであると理解していた唯たちは、統夜がサバックの会場に向かう前に統夜のお見送りをしたいと考えていた。

 

「……まぁ、好きにしてくれ」

 

唯たちがそうしたいというなら、その通りにさせてあげようと思った統夜はこれ以上否定的なことは言わなかった。

 

こうしてサバックの説明も終わり、話し合うべき話を終えた唯たちは、麦茶を飲みながらまったりしたり、ゲームをしたりしていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして、サバックの会場へ向かう日となった。

 

午前中はエレメントの浄化を行い、午後に出発する予定になっている。

 

「……はぁっ!!」

 

統夜は魔戒剣を一閃すると、オブジェから飛び出してきた邪気を斬り裂いた。

 

「……よしっ、次だ」

 

統夜はイルバのナビゲーションを頼りに次のオブジェへ向かおうとしたのだが……。

 

「統夜君、精が出ますね」

 

レオが突如現れると、統夜に声をかけた。

 

「れ、レオさん!?どうしてここに?」

 

統夜はレオが来ていることに驚いていた。

 

「僕は桜ヶ丘高校に立ち寄ってきたんですよ。あそこに置いてきた魔導具を回収するために」

 

「やっぱりあれはレオさんの魔導具だったんですね」

 

統夜たちは音楽準備室の中にある物置を整頓したことがあるのだが、その時に統夜はレオが置いたと思われる魔導具を見つけていた。

 

いつかレオが取りに来るだろうと思い、物置に置いておいたのである。

 

「ところで、あの魔導具ってどんな魔導具なんですか?」

 

統夜はあの魔導具がどんなものなのか知らなかったので、レオに聞いてみた。

 

「あぁ、この魔導具は戦いの記録とかを記録する魔導具ですよ。もうすぐサバックがありますから、サバックの戦いを記録したいと思いましてね」

 

「ということは、これはカメラみたいな魔導具ってことですか?」

 

「まぁ、そういうことですかね。統夜君だってサバックでの戦いを唯さんたちに見てもらいたいでしょう?」

 

「!そ、そりゃあ……まぁ……」

 

統夜は素直に答えると、レオは笑みを浮かべていた。

 

「ま、そういう訳ですので、僕は先に会場に行ってますので、後で会いましょう!」

 

レオはこう言い残すと、その場を離れてどこかへと移動した。

 

『……統夜、仕事の続きをするぞ』

 

「あぁ、そうだな」

 

統夜も気を取り直して、次のオブジェへ移動を開始した。

 

その後統夜は、午前中はずっとエレメントの浄化を行い、それが終わると、1度家に戻った。

 

すると……。

 

「……あ、やーくん!やっと帰ってきたよぉ!」

 

「唯、それにみんな……」

 

統夜の家の前に、唯たち軽音部のメンバーと、憂と純と和。そしてさわ子がおり、統夜の帰りを待っていた。

 

『おいおい、本当に見送りに来たんだな』

 

イルバも本当に唯たちが統夜の見送りに来るとは思っていなかったので、驚いていた。

 

「だってやーくんの大一番なんだもん!!これくらいはしたいと思ってね!」

 

「そうだそうだ!それに、こういうのってオリンピックの壮行会みたいで面白そうだからな!」

 

律はサバックを今度はオリンピックのようなものと例えていた、

 

「私たちだって統夜には悔いのない戦いをしてもらいたいと思ったからな」

 

「うん♪こういう応援って楽しいものね♪」

 

「統夜先輩、頑張ってくださいね!」

 

澪、紬、梓の3人が統夜にエールを送っていた。

 

「私たちも梓や憂から話は聞きました。どんな大会からよくわからないけれど、統夜先輩、頑張ってくださいね!」

 

純は事情をイマイチ理解していなかったものの、それでも統夜のことを応援しようと思っていた。

「私も純ちゃんと同じよ。統夜君、無茶だけはするんじゃないわよ」

 

和も唯や憂から事情を聞いただけなので、詳しいことはイマイチわかっていなかったものの、統夜の無事を祈っていた。

 

「まぁ、私たちは今度夏フェス行ってくるけど、統夜君も頑張ってきなさいよ!それに、戒人君や桐島さんにもよろしく言っておいてね!」

 

さわ子は統夜にエールを送るだけではなく、戒人や大輝のことも気にかけていた。

 

「え、夏フェス!?いいなぁ……」

 

純は夏フェスという単語に食いついて羨ましそうにさわ子を見ていた。

 

「あの、統夜さん。これ……」

 

憂が統夜に渡したのはおにぎりの入った包と、弁当箱だった。

 

「!憂ちゃん、これって……」

 

「みんなでお弁当を作ったんです。統夜さんには頑張ってほしいって思ってるから……」

 

「……ありがとう……。凄く嬉しいよ!」

 

統夜は憂たちからの弁当の差し入れに心から感謝していた。

 

「統夜先輩、今から出発するんですか?」

 

「いや、昼飯食べてから行こうかなって思ってたけど」

 

「それだったら!是非そのお弁当を食べてから行って下さい!」

 

「……そうだな。ありがたくいただくよ。みんなも上がってくれ」

 

統夜は唯たちと共に家の中に入り、唯たちをリビングに案内した。

 

「さぁ、遠慮なく座ってくれよ。ちょっと狭いかもしれないけど」

 

統夜は唯たちに対してこう言っていたが、唯たちは初めて入る統夜の家をキョロキョロと見回っていた。

 

「統夜先輩ってここに1人で住んでるんですよね?」

 

「あぁ、両親が亡くなってからは1人で暮らしているぞ」

 

「へぇ、だけど1人で住むには広いんじゃないのか?」

 

統夜の住んでいる家は、一般人が住んでいる平均的な一軒家である。

 

そのため、澪の言う通り、1人で住むには広すぎるくらいなのである。

 

「まぁな。だけど、この家は俺にとっては大切な家だからな」

 

統夜は幼少の頃からこの家に住んでいるため、統夜にとっては思い出深い家である。

 

この家で統夜の母である明日菜がディオスに殺されたりもしたが、それでも統夜にとっては大事な家なのである。

 

「……あれ?この階段、地下に繋がってるのかな?」

 

純は地下に繋がってる階段を発見した。

 

すると……。

 

「あぁ、地下は危ないから入らない方がいいぞ」

 

「あ、危ないって地下には何があるんですか?」

 

「地下は魔戒騎士として鍛錬するための部屋なんだけど、尖った木とか刃物とか飛んでくるからな」

 

「え!!?めっちゃ危ないじゃないですか!?」

 

純は地下の部屋の秘密を知ると、驚きを隠せなかった。

 

その地下の部屋があまりにも非現実過ぎるからである。

 

「だから命が惜しかったら絶対に地下には行くんじゃないぞ」

 

「は、はい……」

 

純はそんな話を聞いてしまったら地下に行きたいと言えるはずもなかった。

 

「あっ、統夜さん。お茶淹れるので座って下さい♪」

 

「いやいや、俺が淹れるから憂ちゃんもみんなも座っててくれよ」

 

「いや、でも……」

 

「いいんだって。みんなはお客さんなんだし」

 

統夜はキッチンへ向かうと、お茶の用意を始めた。

 

唯たちはリビングのテーブルを囲むように腰を下ろした。

 

数分後……。

 

「お待たせ。暑いし、麦茶でいいよな?」

 

統夜は人数分の麦茶を用意し、みんなの前に置いた。

 

「ごめんね、統夜君。これだけの人数のお茶の用意をしてくれて」

 

「気にするなよ。それよりもみんなが来てくれたことが嬉しかったしな」

 

紬はお茶の用意をしてもらったことに対して申し訳なさそうにしていたが、統夜は気にする素振りはなかった。

 

「それよりも統夜さん。お弁当食べて下さい」

 

「あぁ、いただくよ」

 

統夜はダイニングの方のテーブルに座ると、弁当箱を開けた。

 

その中身は……。

 

「……おぉ、これはこれは……」

 

『ゲン担ぎにしても凄いな、これは……』

 

弁当箱の中には、トンカツ、メンチカツ、ヒレカツとキャベツが入っており、「勝つ」ということを強調してるかのような弁当だった。

 

「そのサバックっていうのは勝ち負けを決める大会ですよね?だから統夜さんの健闘を祈ってカツ弁当にしたんですけど……」

 

「そっか」

 

統夜はカツ弁当をジッと見つめながら笑みを浮かべていた。

 

そして、一口サイズにカットされたトンカツを頬張った。

 

「……うん、美味い!これは元気出そうだよ」

 

統夜が美味しそうに頬張る姿を見た唯たちの表情がパァっと明るくなっていた。

 

「やーくん、もっと食べて食べて!そのおにぎりは私が握ったんだから!」

 

唯は統夜にもっと食べるように促し、自分で握ったおにぎりを強調していた。

 

そして、統夜はそのおにぎりを取り出し、包を開けたのだが……。

 

「……うん、形は、あれだな……」

 

唯の握ったおにぎりは、見た目はとても歪な形をしていた。

 

しかし、統夜は迷うことなくおにぎりを頬張っていた。

 

「……うん、美味い。美味いぞ、唯」

 

統夜は味オンチであるのだが、そんな統夜でも美味いと言ってくれるのは嬉しく、唯の表情は明るくなっていた。

 

統夜はみんなの気持ちが込もった弁当をじっくりと味わい、唯たちはそんな統夜を見て笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

弁当を食べ終わった統夜は旅支度を整えると、そのまま家を後にして、魔界道の入り口のある場所へと向かった。

 

ちなみに、唯たちも見送りがしたいがためにここまでついてきていた。

 

「……みんな、ありがとな。こんなところまでついて来てくれて」

 

「うぅん。私たちはやーくんのお見送りをしたいから♪」

 

「ところで、こんな何もないところに道なんてあるのか?」

 

律の指摘通り、統夜たちが訪れたこの場所は何もないところだった。

 

「まぁ、パッと見はそうなんだけどな。ここから行くんだよ」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

律が統夜の説明に納得していたその時だった。

 

「……あれ、統夜?まだいたんだな」

 

統夜と同じくサバックに参加予定である戒人がこの場所に現れた。

 

「あぁ、戒人。お前も今から向かうのか?」

 

「あぁ。エレメントの浄化も終わったからさっそく向かおうと思っててな」

 

戒人も統夜のようにエレメントの浄化を終えて、今からサバックの会場に向かうところだった。

 

「もしかして、戒人さんもサバックに参加するんですか?」

 

「あぁ。俺もサバックに参加するんだよ」

 

「そうだったんですか……」

 

「お前たちは統夜の見送りか?」

 

「は、はい。そうです!」

 

『ホッホッホ!こんな可愛いお嬢ちゃんたちの見送りを受けるとは、羨ましい限りじゃのぉ』

 

トルバは唯たちが統夜の見送りに来たことを知り、羨ましがっていた。

 

「そ、そうかな……」

 

統夜は改めてトルバに言われたことで照れ臭くなり、照れ隠しに笑っていた。

 

「統夜の見送りに来てくれたお前らには悪いが、俺が統夜に勝ってみせる!俺はお前に勝つことを目標にしてるからな!」

 

戒人はサバックで優勝することよりも、統夜と試合をして勝ちたいと言うことが目標だった。

 

戒人にとって統夜は、良き親友であり、良きライバルである。

 

そんな良きライバルに勝ちたいと言う気持ちはホラーと戦う魔戒騎士であれば持っていて当然だった。

 

「俺だってそう簡単には負けないさ。俺だって勝ちたい人がいるんだ!」

 

統夜も戒人のことはライバルだと思っているが、それ以上に統夜には勝ちたい相手がいた。

 

「それってまさか……」

 

梓は、統夜が勝ちたい相手というのが誰なのかを理解していた。

 

「……まぁ、だけど、俺は誰が相手だって全力で勝ちに行くさ」

 

統夜は今回のサバックは全力で挑むつもりでいた。

 

「……統夜、俺と当たるまで負けるなよ!お前は俺が倒すんだからな!」

 

「ふっ……。それは俺のセリフだ!」

 

統夜と戒人は互いの手をコツンとぶつけ合っていた。

 

「……なんか青春ねぇ♪」

 

紬は統夜と戒人のやり取りを見て、何故かうっとりとしていた。

 

「いやいや……。会話の内容は穏やかじゃないじゃない……」

 

お前を倒すという青春というにはあまりに程遠い台詞を聞いていた和は、ジト目で紬を見ていた。

 

「……まぁ、とりあえず行ってくるよ」

 

「やーくん、頑張ってね!」

 

「まぁ、悔いのないよう頑張ってこいよな!」

 

「だけど、無茶だけは絶対にするなよ!」

 

「帰ってきたらみんなで遊びましょ♪」

 

「私は統夜先輩の健闘を祈ってます!」

 

「統夜さん、ファイトです!」

 

「私も応援してます!!」

 

「この前みたいに大怪我だけはしないでちょうだいね?みんな心配するから」

 

「悔いのないよう、思い切りやってきなさい!!」

 

唯たちはそれぞれ統夜にエールを送っていた。

 

「みんな……ありがとな!それじゃあ!」

 

統夜はエールを送ってくれた唯たちに感謝の言葉を送ると、イルバを前方にかざして、魔界道の入り口を解放した。

 

統夜と戒人は魔界道の入り口に入ると、その入り口は閉ざされた。

 

唯たちはしばらくの間、見えなくなった魔界道の入り口を見つめていた。

 

こうして統夜と戒人はサバックの会場へと向かった。

 

……最強の魔戒騎士を決めるサバックの開催が刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『いよいよサバックが始まるな。どうやら手練れの騎士が多く参加してるみたいじゃないか。次回、「開幕」。統夜、気を引き締めろよ!』

 




こうして、統夜と戒人が共にサバックの会場へと向かいました。

サバックは魔戒騎士である統夜にとっては大一番ですが、唯たちに応援してもらい、統夜はかなりの幸せものですよね。

僕個人は唯推しなので、唯のおにぎりが食べたい(キリッ!)

もちろん、憂ちゃんの手料理も食べてみたいですが(笑)

さて、次回は統夜と戒人がサバックの会場に到着します。

次回からは牙狼のキャラがけっこう出てくるかも?

それでは、次回をお楽しみに!


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