牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第68話です!

今回から新章に突入します。

新章は「サバック激闘編」となっております。

そうです。統夜がサバックに挑むのです。

今回は統夜がとある依頼を受けることになります。

それは一体?

それでは、第68話をどうぞ!




サバック激闘編
第68話 「後輩」


統夜たちの活躍によりアスハの野望が阻止されてから2週間が経った。

 

もうすぐ夏休みであり、学生たちはこれから来たる夏休みに胸を躍らせていた。

 

そんな中、統夜たちは朝イチでイレスに呼び出されて、番犬所を訪れていた。

 

「……みんな、揃いましたね」

 

「イレス様、どうしたんですか?こんな朝早くに」

 

「えぇ……」

 

イレスは、何故か深刻そうな表情をしていた。

 

「ま、まさか……。また事件か?」

 

「いえ、そうではないのです。元老院から各番犬所に人事の異動を命じられましてね……」

 

「なるほど、アスハの起こした魔戒騎士狩りのせいで、人手不足になってる管轄があるからか」

 

大輝の推測に、イレスは無言で頷いていた。

 

アスハは全ての魔戒騎士を滅ぼすため、ホラー喰いのホラー、ヘラクスを利用して、魔戒騎士狩りを行った。

 

それは、魔戒騎士にしか聞こえない超音波を使い、それを聞いた魔戒騎士は魔戒剣が使えなくなってしまった。

 

その隙をつかれ、多くの魔戒騎士がホラーに捕食されたか命を落とした。

 

そのため、魔戒騎士が1人もいない管轄もあったため、元老院は各番犬所に人事の異動を命じたのであった。

 

「この紅の番犬所には魔戒騎士が3人もいますからね。この中で1人、翡翠の番犬所へ派遣しなくてはいけなくなったのです」

 

統夜たちのいる紅の番犬所には統夜、戒人、大輝と3人の魔戒騎士がいる。

 

各番犬所には、魔戒騎士が1人か2人はいないといけなく、3人も魔戒騎士がいるのは、人手が足りている方であった、

 

「えぇ!?ということはこの中の誰かは翡翠の番犬所へ行かなきゃいけないってことですか……」

 

このようにイレスから言われ、統夜は焦りを見せていた。

 

もし自分が異動を命じられれば、有無を言わさず桜高を辞めなければいけないからである。

 

統夜が焦りを見せているその時だった。

 

「……俺が翡翠の番犬所に行こう」

 

大輝が異動を申し出たのである。

 

「え!?いいんですか!?」

 

「統夜は今いる桜ヶ丘高校を離れたくないだろう?それに、戒人はこの番犬所に来たばかりですぐ異動はかわいそうだからな。だから俺が行くんだよ」

 

「で、でも。大輝さんがいなかったら戦力的にも……」

 

大輝は称号を持たない魔戒騎士ながらも、その実力は統夜や戒人に引けをとらず、2人は大輝のことをかなり頼りにしていた。

 

そんな大輝がいなくなることが、2人は不安だったのである。

 

「大丈夫だ。今のお前たちは十分に強い。悔しいが、俺よりもな」

 

大輝は、統夜と戒人の成長を嬉しく思っていたが、2人が自分より強くなったことに少しだけ悔しがっていたのである。

 

「大輝、本当にいいのですね?」

 

「あぁ。初めて行く管轄だからしばらくは慣れないだろうが、すぐに慣れるだろうさ」

 

大輝は、翡翠の番犬所に異動する覚悟を決めた。

 

「戒人、統夜のことは任せたぞ。俺は統夜には高校生として当たり前の青春を送ってほしいと思っているからな」

 

「もちろんです!その気持ちは俺も同じですから!」

 

「戒人……」

 

統夜は、大輝や戒人が自分のために色々考えてくれたことがとても嬉しかった。

 

「統夜、何かあれば遠慮なく俺に言ってくれよ。力になるからさ」

 

「戒人……。ありがとう!その時はよろしく頼むよ!」

 

統夜は、何かあった時は、戒人の申し出をありがたく受けることにした。

 

「話はまとまりましたね。大輝、急な話で申し訳ありませんが、あなたは明日付けで翡翠の番犬所に異動となりますので、大至急、異動の準備をして下さい」

 

「承知した」

 

大輝はイレスに一礼すると、番犬所を後にした。

 

「統夜、戒人。あなたたちは引き続きこの番犬所で使命を果たして下さい!」

 

「「はい!わかりました!!」」

 

統夜と戒人はこう返事をすると、イレスに一礼した。

 

「……あ、統夜はちょっとだけ残って下さい。1つ話があります」

 

「?わかりました」

 

「それでは俺は、エレメントの浄化に行ってきます」

 

戒人はイレスに再び一礼すると、番犬所を後にした。

 

「……統夜、すいませんね。あなただけ残ってもらって」

 

「いえ。それで、俺に話とは?」

 

「……統夜、今度の日曜日ですが、何か予定はありますか?」

 

「いえ、何もありませんが」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

今度の日曜日がフリーと聞いたイレスは、何故か安堵していた。

 

「……?それで、今度の日曜日に何かあるのですか?」

 

「……統夜、今度の日曜日ですが、あなたにはお願いしたいことがあるのです」

 

「お願いしたいこと?指令ですか?」

 

「いえ、これは指令とは少し違うのです」

 

イレスの言葉に、統夜は首を傾げていた。

 

イレスは一呼吸おいた後に、本題を切り出した。

 

「……統夜、あなたには翡翠の番犬所にいる魔戒騎士になったばかりの少年に稽古をつけてあげてほしいのです。あ、歳はあなたより下ですよ」

 

「!?お、俺が稽古を……ですか?」

 

イレスからの思ってもいない申し出に、統夜は困惑していた。

 

「翡翠の番犬所には大輝が行きますが、大輝は街に慣れるのに手一杯ですからね……。それに、歳の近い統夜からであれば、その少年も学ぶことが多いはずなのです」

 

翡翠の番犬所にいる魔戒騎士になったばかりの少年は統夜と歳が近いため、その統夜に教わることが少年にとってプラスになるとイレスは考えていた。

 

「あと、これは、翡翠の番犬所の神官であるロデルからのお願いでもあるのです」

 

「!ロデル様が……ですか?」

 

「えぇ。統夜、お願いできますか?」

 

「……わかりました!俺じゃ役不足かもしれませんが、その仕事、引き受けます」

 

統夜は少し考えてから、イレスやロデルからの頼みを引き受けた。

 

「ありがとうございます!助かりましたよ!ロデルには話しておきますから、今度の日曜日はよろしくお願いしますね」

 

「はい、わかりました!」

 

統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にした。

 

番犬所を出た時には、授業開始まであと僅かだったため、エレメントの浄化は戒人に任せて、統夜はそのまま学校へと向かった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

この日の放課後、統夜はこの日もいつものように部活に参加すると、今度の日曜日に東京へ行くことを唯たちに告げた。

 

「え!?やーくん、今度の日曜日に東京に行くの!?」

 

「あぁ。とある魔戒騎士に稽古をつけてくれと頼まれてな」

 

「とある魔戒騎士……ですか?」

 

「あぁ。つい最近魔戒騎士になったばかりらしいんだ。歳は俺よりも下だと言っていたな」

 

「へぇ、統夜だって十分若いけど、10代で魔戒騎士になれるって凄いことじゃないのか?」

 

統夜は中学3年生の時に魔戒騎士になったのだが、その歳で魔戒騎士になれる者はほとんどいないため、その少年も統夜と同じくらい努力をしてきたということになる。

 

そう律は気付いており、魔戒騎士になったばかりの少年の話を聞いて驚いていた。

 

「そうだな。恐らくは中3か高1だろうが、そんな若さで魔戒騎士になれる奴はほとんどいないからな」

 

「それで、統夜君はその子の稽古をつけるという訳ね?」

 

「あぁ。指令ではないとは言っても番犬所の神官の頼みとあれば断れなくてな」

 

統夜は今回東京へ行くのは、イレスやロデルの頼みであるということを伝えた。

 

「ねぇねぇ、やーくん。私たちもついていったらダメかなぁ?」

 

『おいおい、さっきの統夜の話を聞いてなかったのか?東京へは遊びに行くんじゃないんだぞ』

 

「むぅぅ……。そりゃそうだけどさぁ、やーくんばかり東京に行くなんてずるいよ!!」

 

唯は、イルバの言葉は理解していたが、それでも納得がいかなくて膨れっ面になっていた。

 

「まぁ、唯の言うことも一理あるかな」

 

「そうだよなぁ。あたしたちが行ったって邪魔になるかもしれないけどさ、統夜がそいつに稽古をつけてる間に、あたしらは東京を楽しむことも出来るからさ♪」

 

「おい!それが本音かよ!」

 

律が思わず本音を言ってしまい、それを聞いた統夜は呆れていた。

 

「まぁまぁ♪東京まで行くなら私が送るから、私たちもついていっちゃダメかな?」

 

「統夜先輩!お願いします!!」

 

「うーん……!」

 

統夜は唯たちを連れていっても良いのかじっくりと考えていた。

 

『統夜、いいんじゃないのか?連れていっても』

 

イルバが唯たちの肩を持つような発言をすると、唯たちの表情が明るくなっていた。

 

「ちょ!?イルバ、本気か?」

 

『まぁ、統夜がその小僧の稽古をつける時に邪魔をしなければ……だがな』

 

「もちろんだよ!」

 

「あぁ、そこは私たちもわかってるからさ!」

 

イルバの提示した条件を、唯と澪は当然守ると答えていた。

 

『統夜。お前さんはこの前あれだけの激闘をしてこいつらを散々心配させたんだ。多少はこいつらのワガママを聞いてもいいんじゃないか?』

 

「イルイル、大丈夫だよね?何かいつもに増して優しいけど……」

 

イルバが珍しく優しい言葉を使っており、唯たちはそれに驚いていたのだが、唯が代表してこうイルバに聞いてみた。

 

『俺様は正常だ!それに、俺様を変なあだ名で呼ぶな!!』

 

「あ、いつものイルバですね」

梓は、唯とイルバのいつものやり取りを見て、いつものイルバであることを確認した。

 

「それじゃあ、当日は私が迎えに行くから、一緒に東京へ行きましょ?」

 

「よろしく頼むよ、ムギ」

 

「ところで統夜、東京って言ってもどこら辺に行くつもりなんだ?」

 

「今回行くのは秋葉原あたりになると思うが、大丈夫か?」

 

「秋葉原ですか!?」

 

「うぉ!?」

 

秋葉原と聞いた梓が食いついてきて、統夜は驚いていた。

 

「私、1回行ってみたいと思ってたんですよ!」

 

「私もぉ♪なんか面白そうな街だものねぇ♪」

 

どうやら梓だけではなく、紬も秋葉原という言葉を聞いて胸を躍らせていた。

 

「楽しみだねぇ♪」

 

「あぁ、そうだな♪」

 

「よぉし、日曜日は思い切り楽しもうぜぇ!!」

 

「「「「おぉ!!」」」」

 

唯たちは、完全に遊ぶ気満々であった。

 

「やれやれ……。遊ぶ気満々じゃねぇか……。まぁ、確かにイルバの言う通り、ちょっとくらいはワガママに付き合わないとな……」

 

統夜も、イルバの言った言葉を理解し、唯たちには楽しんでもらおうと考えていた。

 

こうして、統夜と共に唯たちも東京に行くことになり、その話が終わったところで統夜たちはティータイムを再開していた。

 

統夜は最後まで部活に参加し、部活終了後は、ホラー討伐の指令がなかったため、統夜は街の見回りを行っていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

そして、日曜日となった。

 

この日の朝、統夜たちは学校の入り口で待ち合わせをし、紬の秘書である斎藤の運転で東京へと向かった。

 

「……ふぉぉ……!ここが、秋葉原!」

 

唯は初めて訪れた秋葉原に目を輝かせていた。

 

「やっぱり凄い活気だな」

 

秋葉原の街は今日も賑わっており、律は街を行き交う人々をジッと見つめていた。

 

澪、紬、梓も、初めて訪れた秋葉原の街に目をキラキラと輝かせていた。

 

「ムギ、このビルの屋上、使わせてもらっていいんだよな?」

 

統夜は、目の前にある大きなビルを指差していた。

 

「えぇ。このビルは父の会社のビルだから♪許可はもらったから、大丈夫よ♪」

 

「悪いな、ムギ。送ってもらうだけじゃなくて鍛錬場所も用意してくれて」

 

「うぅん。気にしないで。私も統夜君の力になりたいもの。これくらい、何てことないわ」

 

「それにしても、東京にもムギんちの会社のビルがあるんだなぁ」

 

「そうだよね!凄いよ、ムギちゃん!」

 

「エヘヘ……そうかな……」

 

東京にも紬の家の会社が進出していることに澪と唯は驚きの声をあげ、紬は照れ隠しに笑っていた。

 

「それじゃあ俺は今から翡翠の番犬所に行ってからここに戻ってくるけど、お前たちはどうするんだ?」

 

「うーん、そうだなぁ」

 

唯たちがこれからのことを考えていたその時だった。

 

「……!あれ。統夜さん……ですよね?」

 

「へ?」

 

統夜は急に誰かに声をかけられたことに驚き、その声の方を向くと、3人の少女が立っていた。

 

サイドポニーの少女と、青の入った黒髪の少女と、グレーの髪の少女だった。

 

「やっぱり統夜さんだ!!」

 

「お久しぶりです!統夜さん!」

 

グレーの髪の少女と、黒髪の少女が統夜を見て歓喜の声をあげていた。

 

「え、えっと……。君たちは?」

 

「えぇ!?忘れちゃったんですか?今年の始めに私たちが怖い人に絡まれてるところを助けてくれたじゃないですか!」

 

「今年の始め……。!!もしかして、あの時の!!」

 

今年の始めというキーワードを聞いた瞬間、統夜はこの少女たちのことを思い出した。

 

「確か、穂乃果、ことり、海未……。だったか?」

 

統夜は名前も思い出したようで、それを聞いた穂乃果たちの表情は明るくなった。

 

「やっと思い出してくれた!!」

 

「本当に久しぶりだな。元気だったか?」

 

「はい!元気ですよ!」

 

「統夜さんは今日は遊びに来たのですか?」

 

「いや、俺は用事があって来たんだけど……」

 

統夜は穂乃果たちに秋葉原に来た目的を話したその時だった。

 

「「「「「……」」」」」

 

《……!お、おい、統夜!!》

 

(イルバ、皆まで言うな。唯たちが俺を睨んでるのはわかってるから)

 

統夜が穂乃果たちと親しげに話しているのが気に入らなかったのか、唯たちはドス黒いオーラを放って統夜を睨みつけていた。

 

「ねぇ、やーくん。その子たちは誰なのかなぁ?」

 

「あ……いや……その……」

 

「そっかぁ、統夜はあの時仕事と言いながらあの子たちと遊んでいたという訳か……」

 

律は統夜が秋葉原に行った時に統夜に電話したのだが、律が電話をかけた時はタイミングが悪く穂乃果たちとお茶をしていた。

 

「いや、仕事は本当だぞ!だからそういうんじゃなくてな!」

 

統夜は番犬所から指令がを受けて仕事をしていたのは本当のことなのだが、統夜は何故か必死に弁解していた。

 

「とりあえず、そこのビルで詳しい話を聞きましょうか♪」

 

紬は、自分の親が所有しているビルを指差していた。

 

「さ、統夜先輩、行きましょう♪」

 

「ごめんな、ちょっとこいつと話があるからちょっと待っててくれるか?」

 

「「「は、はい……」」」

 

澪は優しめに言うのだが、そのオーラに穂乃果たちはたじろいでしまっていた。

 

「さぁ、統夜君。お話しましょうね?」

 

「ちょ……引っ張らないで!……だ、ダレカタスケテー!!」

 

統夜は紬に引きずられながらビルへと連行され、唯たちに問い詰められていた。

 

 

 

 

そして10分後……。

 

「……」

 

統夜はボロボロになりながらビルから出てきた。

 

「ちょ、統夜さん!?大丈夫ですか!?」

 

「アハハ……。大丈夫だ、問題ない……」

 

「……って、全然大丈夫そうじゃない!」

 

穂乃果たちは、ボロボロな統夜を見て思わずツッコミを入れてしまった。

 

「待たせてごめんな」

 

「あっ、いえ……」

 

「もしかして、皆さんが軽音部の?」

 

「うん、そうだよ〜」

 

穂乃果たちはこの5人の少女が、以前統夜が話していた軽音部のメンバーではないかと推測していたが、その予想は当たっていたようだった。

 

「は、初めまして!私は高坂穂乃果。中学3年生です」

 

「私は南ことりです。私も穂乃果ちゃんと同じく中学3年生です!」

 

「園田海未と申します。私も中学3年生です」

 

穂乃果、ことり、海未の3人は、唯たちに自己紹介をした。

 

「よろしく〜!私は平沢唯だよ!」

 

「あたしは田井中律。よろしく!」

 

「私は秋山澪。よろしくな」

 

「琴吹紬よ♪よろしくね♪」

 

「中野梓だよ!よろしくね」

 

唯たちも、穂乃果たちに自己紹介をした。

 

「あの……。皆さんも桜ヶ丘高校の生徒さんなんですか?」

 

「そだよぉ。そこのあずにゃんだけが2年生で、私たちは3年生なんだ」

 

「「「あずにゃん?」」」

 

梓のあだ名を聞いた穂乃果たちは首を傾げていた。

 

「ちょっと唯先輩!初対面の人にいきなりあだ名を言わないで下さい!」

 

「えぇ?あずにゃんはあずにゃんだからいいじゃん!」

 

梓の抗議が気に入らなかったのか、唯はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「あ、アハハ……」

 

唯と梓のやり取りを見て、ことりは苦笑いをしていた。

 

「と、とにかく、この5人が俺と同じ軽音部なんだよ。みんな、よろしくな」

 

統夜が改めて唯たちを紹介すると、唯たちは「よろしく〜」と言いながら笑みを浮かべていた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

穂乃果が唯たちに満面の笑みを見せると、ことりと海未も笑みを浮かべていた。

 

「ところで、皆さんは何か用事でここへ?」

 

「いえ、違うのよ。統夜君はここに用事があるのだけれど、私たちはそんな統夜君にくっついて来て東京に遊びに来たのよ♪」

 

海未の問いかけに、紬が丁寧に説明していた。

 

「そうだったんですか……」

 

「俺はこの後行かなきゃいけないところがあるんだけど、みんなは穂乃果たちにこの街を案内してもらったらどうだ?」

 

「おぉ!それは良いアイディアだな!」

 

「え?私たちが……ですか?」

 

統夜の申し出に、律は賛同したが、穂乃果たちは困惑していた。

 

「もちろん、穂乃果たちが嫌じゃなければ……だけどな」

 

そこは強要すべきではないので、統夜はこのように確認を取っていた。

 

「私はいいですよ♪」

 

統夜の申し出を真っ先に了承したのは、ことりだった。

 

「こ、ことりちゃん?」

 

「だって、せっかく知り合えたんだもの♪」

 

「そうですね。私も皆さんのお話を聞きたいと思っていましたし」

 

ことりだけではなく、海未も唯たちを案内するのは嫌ではなかった。

 

「うん!そうだよね!私たちなんかで良かったら、ぜひ♪」

 

「やったぁ♪それじゃあさっそく行こうよ♪」

 

「はい♪」

 

唯たちと穂乃果たちは、共に秋葉原を見て回ることになり、統夜は安心したからか笑みを浮かべていた。

 

《……?どうしたんだ、統夜》

 

(いや、唯たちだけでこの街を見て回るのは大丈夫かなと心配してたからな、安心しただけさ)

 

《なるほどな。あのお嬢ちゃんたちは地元の人間だろうし、そういう奴が一緒なら安心かもしれないな》

 

イルバは、何故統夜が笑みを浮かべていたのか納得していた。

 

「それじゃあ、俺は行くよ。……3人とも、唯たちをよろしくな!」

 

「「「は、はい!!」」」

 

統夜はこう言い残し、そのまま翡翠の番犬所へと向かった。

 

唯たちは、穂乃果たちの案内で、秋葉原の街を見て回ることになった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

翡翠の番犬所に到着した統夜は番犬所の中に入ると、茶色の魔法衣を羽織った少年が既にいた。

 

「……おぉ、来ましたね、統夜よ」

 

「ロデル様、お久しぶりです」

 

「いつぞやの時は世話になりました。あっ、そうそう。最近ここに配属になった桐島大輝は、とても良く働いてくれていますよ」

 

「そうでしたか……」

 

統夜は、この翡翠の番犬所に異動になった大輝の近況を聞いてホッとしていた。

 

「……ロデル様、そこにいる彼が例の?」

 

「そうです。名は如月奏夜。魔戒騎士になったばかりなのです」

 

「……如月奏夜です。今日は、よろしくお願いします」

 

奏夜は、今日稽古をつけてくれる統夜にペコリと一礼をしていた。

 

「こちらこそよろしくな」

 

「統夜、奏夜のこと、よろしく頼みますね」

 

「ロデル様、お任せ下さい。俺が魔戒騎士として得たものを、少しでも彼に与えてあげられればと思っていますので」

 

統夜は、この仕事を受ける以上は、しっかりと奏夜を鍛えようと考えていた。

 

「もしも今夜ホラーが現れた場合は奏夜と共に戦ってほしいので、頼みましたよ」

 

「わかりました。……奏夜、だったか?行こうか」

 

「はっ、はい!」

 

統夜はロデルに一礼してから番犬所を後にすると、奏夜もその後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

統夜は奏夜を連れて紬の父親の会社が保有するビルまで戻ってくると、エレベーターを使って屋上までやってきた。

 

「あ、あの……。統夜さん、でしたよね?何故、このビルに来たんですか?」

 

「ここは、俺の友達の親の会社のビルでな。許可はもらったんでここなら思いきりやれると思ってな」

 

「思い切り……ですか?」

 

「奏夜。まずはお前の力が見たい」

 

統夜はこう言い放つと、魔戒剣を取り出した。

 

『!おい、統夜。何をする気だよ!』

 

「イレス様やロデル様からは許可をもらってる。鍛えるにはこれが1番手っ取り早いと思ってな」

 

統夜は予め許可をもらい、奏夜と決闘形式で戦いながら奏夜を鍛えるという方法を選んだ。

 

『なるほどな、確かに許可をもらってるなら思い切りやっても大丈夫か』

 

事情を理解したイルバは、納得したのかホッとしていた。

 

「……っ!」

 

奏夜も魔戒剣を取り出した。

 

『奏夜!こんな機会は滅多にないんだ。お前の力、存分に見せてやれ!』

 

奏夜の相棒である魔導輪のキルバが、奏夜を奮起させるような発言をしていた。

 

「そうだな……。俺だって魔戒騎士になったんだ!俺の力!見せてやるよ!」

 

奏夜は魔戒剣を抜くと、統夜を睨みつけていた。

 

そんな奏夜を見て、統夜は笑みを浮かべていた。

 

(……俺にもこんな時期があったな。俺も今の奏夜のように先輩騎士に稽古をつけてもらったけど、その時は大輝さんだったっけ……)

 

統夜は、かつて自分が大輝に稽古をつけてもらった時のことを思い出していた。

 

(大輝さんや色んな騎士に鍛えてもらったけどおかげで今の俺があるからな……。奏夜だって……きっと……)

 

目の前にいる奏夜もかつての自分のように一人前な魔戒騎士になるだろうと確信していた。

 

物思いにふけって笑みを浮かべていた統夜は魔戒剣を抜くと、まるでホラーと対峙しているかのように奏夜を睨みつけた。

 

「……!?」

 

奏夜は統夜の放つ威圧感にたじろいでいた。

 

(こ、これが……。18歳ながら様々な死地を乗り越えた魔戒騎士……なのか?)

 

奏夜は事前に統夜がどのような魔戒騎士であるかは聞いていたのだが、統夜の放つオーラに圧倒されていた。

 

『奏夜!気をしっかり持て!ここで負けてたら話にならないぞ!』

 

「!そ、そうだよな……」

 

相棒であるキルバからの叱咤激励があったおかげで、奏夜はなんとか気を持ち直すことが出来た。

 

「そう来なくちゃな!来い、俺を倒してみろ!!」

 

「行きますよ、統夜さん!!」

 

奏夜は魔戒剣を構えると、そのまま統夜に向かって突撃し、魔戒剣を一閃した。

 

統夜はその攻撃を軽々と受け止めた。

 

「……っ!?」

 

「どうした?お前の力はその程度じゃないよなぁ?」

 

「まだまだぁ!!」

 

統夜はあえて奏夜を挑発するのだが、奏夜は臆することなく向かってきた。

 

「そう来なくちゃな!!」

 

統夜もそんな奏夜に応戦していた。

 

こうして、統夜と奏夜の鍛錬を兼ねた戦いが幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、唯たちは、穂乃果たちの案内で秋葉原某所にある店でショッピングをしていたのだが……。

 

「……あれ?みんなどこ?」

 

唯だけがみんなとはぐれてしまい、迷子になってしまった。

 

「困ったなぁ……。みんなはどこにいるんだろう……」

 

唯は周囲を見渡すのだが、この辺にはいないのか、それっぽい人物はいなかった。

 

「……とりあえずあずにゃんに電話を……って、あれ?」

 

唯は梓と連絡を取るために携帯を取り出そうとするのだが、その前に、小柄でツインテールと、梓に似た容姿の少女を見つけた。

 

「……あ!あずにゃんだ!!」

 

その少女を梓だと確信した唯はその少女の方へ向かっていった。

 

そして……。

 

「あ〜ず〜にゃん♪」

 

「ひぃ!?」

 

唯はいつもと同じ感覚でその少女に抱きついた。

 

「もぉ、あずにゃん、心配したよぉ!みんなはどこにいるの?」

 

その少女を梓だと思っていた唯はこのように話を進めていたのだが……。

 

「……ちょっと、離してくんない?私、そのあずにゃんとかじゃないんだけど」

 

「へ?」

 

唯はまじまじとその少女を見ると、すぐに梓ではないとわかった。

 

「す……すすす……すいません!!」

 

唯は慌ててその少女から離れた。

 

「まったく……。にこにーは可愛いから気持ちはわかるけど、いきなり抱きつかれるのは困るのよねぇ」

 

少女は自分のことをにこにーと名乗っていた。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

唯はとりあえずにこにーと名乗る少女に謝った。

 

すると……。

 

「あ……。いたいた……唯先輩!!」

 

今度は本物の梓が唯を見つけて、唯のいる方へと駆け寄った。

 

「もぉ、勝手にいなくならないで下さいよ!みんな心配してましたよ!」

 

「エヘヘ……ごめんね、あずにゃん……」

 

唯は笑いながらも梓に謝っていた。

 

すると……。

 

「……」

 

にこにーと名乗る少女が梓のことをジッと見ていた。

 

「?」

 

梓もその視線に気付き、にこにーと名乗る少女のことを見ていた。

 

(……なんだろう……)

 

(この子……)

 

((他人とは思えないんだけど……))

 

梓とにこにーと名乗る少女は容姿が似ているからか、お互いに親近感を覚えていた。

 

「……!ふ、ふん!とりあえず、今度からは気をつけなさいよね!」

 

にこにーと名乗る少女はこう言い放つと、その場を後にしたのである。

 

「……唯先輩、あの人、知り合いですか?」

 

「うぅん。知らない子だよ」

 

「えぇ……」

 

梓は唯が赤の他人と知ってドン引きしていた。

 

赤の他人相手に何をしたのかと思っていたからである。

 

「ほら、みんな待ってますから、行きますよ」

 

「あ、あずにゃん!待ってよぉ〜!」

 

梓は近くで待っている律たちのところに戻ると、唯は慌ててその後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

統夜は実践形式で奏夜に稽古をつけていたのだが、稽古を始めてから1時間が経過した。

 

奏夜は全力で統夜に向かっていったのだが、その力の差は歴然であり、奏夜はその場に倒れ込んでいた。

 

《……統夜、この光景は随分と懐かしいんじゃないのか?》

 

(そうだな。もっとも、その時あんな感じで倒れてたのは俺だけどな)

 

統夜はその場に倒れ込んでいる奏夜を見て、かつて自分もこんな感じで大輝や他の先輩騎士に鍛えてもらったことを思い出していた。

 

「……おい、奏夜!いつまで寝てるんだ?まだ鍛錬は終わっちゃいないぞ!」

 

統夜はその場に倒れ込んでいる奏夜に声をかけた。

 

すると……。

 

「……すいません……。ちょっと休憩してただけですよ……」

 

奏夜はゆっくりと立ち上がり、再び魔戒剣を構えた。

 

「……その調子だ!まだまだ行くぞ!」

 

統夜も魔戒剣を構えると、今度は統夜から攻撃を仕掛けた。

 

奏夜は、統夜の攻撃をなんとかかわしていたが、反撃の糸口をつかめずにいた。

 

「どうした、どうした?反撃して来い!!」

 

このように奏夜を煽る統夜であったが、攻撃の手を緩めることはしなかった。

 

(くそっ!せっかく統夜さんが鍛えてくれたんだ!このまま無様なまま、終われるかよ!)

 

奏夜は、持ち前の負けん気の強さを発揮すると、統夜の魔戒剣を受け止めて、その状態で剣を一閃し、統夜の魔戒剣を弾き飛ばした。

 

「なっ……!?」

 

統夜は奏夜の予想外の攻撃に驚きを隠せなかった。

 

「よし……!このまま……!」

 

統夜相手に一矢報いることが出来て、奏夜はしたり顔をしていた。

 

しかし、その一瞬の心の余裕が一瞬の隙を作ってしまった。

 

「……ふっ、甘いぜ!!」

 

統夜は一瞬の隙を突くと、奏夜に蹴りを放ち、それを受けた奏夜は吹き飛ばされた。

 

統夜はその隙に魔戒剣を回収した。

 

「く、くそ……!」

 

奏夜は体勢を立て直し、反撃をしようとするが……。

 

「……!」

 

その前に統夜が奏夜の喉元に魔戒剣を突き付けた。

 

「……勝負あり、だな」

 

統夜は魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「……参りました。流石です、統夜さん」

 

奏夜も魔戒剣を緑の鞘に納めた。

 

「さっきのお前の攻撃には驚かされたが、油断したな。そんな一瞬の油断がホラーとの戦いでは命取りになる。そのことを忘れるな!」

 

統夜は奏夜の改善すべき点を指摘し、先輩騎士として毅然な態度をとっていた。

 

「……はい、わかりました……」

 

奏夜もそのことは反省すべき点だということは理解していたので、統夜の指摘を真摯に受け止めていた。

 

『流石だな、白銀騎士。その若さで様々な死地を乗り越えただけのことはある』

 

奏夜の相棒であるキルバは、統夜の実力を素直に認めていた。

 

「へぇ、これがお前の相棒って訳か」

 

『俺は魔導輪のキルバだ。よろしく頼む』

 

『ほぉ、お前さんも指輪型の魔導輪なんだな』

 

指輪型の魔導輪の数はとても少ないため、イルバはキルバの存在に驚いていた。

 

『お前は白銀騎士の魔導輪か』

 

『あぁ、俺様はイルバだ。これからも頼むぜ、小僧』

 

「こ、小僧って……」

 

「まぁ、気にするな。こいつは実力を認めた奴しか名前で呼ばないからさ。いずれは名前で呼ばれるようになるさ」

 

統夜も奏狼の称号を受け継ぐまでは、イルバに小僧と呼ばれていた。

 

なので、奏夜もいつかはイルバに名前で呼ばれる日が来ると確信していた。

 

「さて、とりあえず鍛錬の方はこの辺で……」

 

統夜はここで奏夜の鍛錬を終わらせる予定だったのだが、その時、一羽の鳩が、統夜たち目掛けて飛んできた。

 

『……統夜、どうやら指令のようだぞ』

 

「え、指令?」

 

「えぇ。あの鳩はロデル様の使い魔で、あんな感じで指令書を運んでくれることがあるんです」

 

奏夜の説明通り、統夜たち目掛けて飛んできた鳩は、ロデルの使い魔である。

 

魔戒騎士に指令を告げる時に伝書鳩のように指令書を渡すことがあるのである。

 

「へぇ、この番犬所はこういうシステムなのか。面白いな……」

 

統夜は、紅の番犬所とは違う指令書を渡すシステムを見て、目を輝かせていた。

 

そして、その鳩から指令書を受け取ると、鳩は番犬所に向かって飛んでいった。

 

統夜は魔導ライターを取り出すと、魔導火で指令書を燃やした。

 

すると、魔戒語で書かれた文章が浮かんできたので、統夜と奏夜はその指令内容を音読した。

 

2人が読み終わると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

「……奏夜、行くぞ。ホラー討伐で改めてお前の力を計らせてもらう」

 

「あっ、はい!」

 

「その前に……」

 

統夜は携帯を取り出すと、律に電話をかけた。

 

「……もしもし」

 

『あっ、統夜。ちょうどこっちも電話をかけようと思ったんだよ!』

 

「そうか。ところであいつらはまだ一緒なのか?」

 

『いや、穂乃果たちとはちょっと前に解散したんだよ。それで、仕事は終わったのか?』

 

「いや、それが、今ちょうど指令が入ってな。今日は遅くなりそうだからみんなは先に桜ヶ丘に帰っててくれ」

 

『えっ?でも……』

 

「それじゃあ、頼んだぜ」

 

『ちょっと、統夜?』

 

統夜は有無を言わさずにこう言うと、そのまま電話を切って、携帯をポケットにしまった。

 

「……待たせたな。それじゃあ、行こうか」

 

「は、はい。あ、あの……」

 

奏夜は、統夜が誰と電話をしていたのかが気になっていた。

 

「あぁ、今のは俺の友達だよ。一緒に東京までくっついてきてさ」

 

「その人は魔戒騎士やホラーのことを知ってるんですか?」

 

「あぁ。ホラーに度々襲われたことがあり、その都度守ってきたんだ。俺にとっては守りたい大切な存在なんだよ」

 

「守りたい……存在……」

 

「奏夜ってまだ中学生だろ?俺みたいに高校へ行けばきっと見つかるさ。守りたい存在ってのがな」

 

「……そんなものですかね?」

 

今の奏夜には統夜の言葉が理解できず、首を傾げていた。

 

「その時によくわかるはずだぜ。守りし者とは何なのかってことがさ」

 

統夜は桜ヶ丘高校に入学し、唯たちに出会ったからこそ守りし者とは何なのかを理解することが出来た。

 

奏夜もそんな統夜のように守りし者が何なのかを理解する日が来ると確信していた。

 

「とりあえず、行くぞ」

 

「わ、わかりました」

 

統夜と奏夜は、それぞれの魔導輪のナビゲーションを頼りに、ホラーの捜索を始めた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

統夜と奏夜がホラーを捜索しながら街を歩いていると、既に夜になっていた。

 

「……イルバ、ここか?」

 

イルバのナビゲーションで到着した場所は、とあるビルの屋上であった。

 

『あぁ。ここから邪気を感じるぜ』

 

『俺も感じている。奏夜、油断するなよ!』

 

「あぁ!」

 

統夜と奏夜は魔戒剣を取り出し、いつでも抜刀出来る状態にしておいた。

 

『『……!!来るぞ!』』

 

2つの魔導輪がこのように警告すると、虎のような姿をしたホラーが2人目掛けて飛びかかってきた。

 

「「……!!」」

 

統夜と奏夜は魔戒剣を抜くと、ホラーの攻撃を防いだ。

 

奇襲攻撃をかわされたホラーは後方にジャンプして、2人と距離をとった。

 

『……統夜、こいつはタイガード。かなりすばしっこいホラーだぜ!』

 

『奏夜!気を引き締めろよ!今のお前には荷が重すぎる相手だぞ!!』

 

2人が対峙しているホラー、タイガードは、俊敏な動きをするホラーであり、その動きで戦う相手を翻弄する。

 

統夜は俊敏な動きをするホラーは何度か交戦経験があるが、魔戒騎士になったばかりの奏夜にはこのホラーは倒せるかどうかの強敵であった。

 

「……どんな奴が相手だろうとやってやるさ!!」

 

奏夜は魔戒剣を力強く握りしめると、タイガードに向かっていった。

 

「……!奏夜!!むやみに飛び込むな!」

 

統夜はこう奏夜に警告するのだが、既に手遅れだった。

 

「はぁっ!!」

 

奏夜は魔戒剣を一閃するのだが、それはタイガードにあっさりとかわされてしまった。

 

「なんの!まだだ!!」

 

奏夜は連続で魔戒剣を振るうが、タイガードはその俊敏な動きで奏夜を翻弄していた。

 

「……っ!すばしっこい奴め……」

 

「……」

 

統夜は、奏夜の援護をすることなく、奏夜とタイガードの戦いを見守っていた。

 

『おい、統夜。どうするつもりだ?』

 

「あいつが本当に危なくなったら援護をするつもりだ」

 

『おいおい、そんなに悠長に構えていていいのか?』

 

「イルバの心配はわかるけど、これくらいの試練を乗り越えられないようじゃこれから先の戦いを生き抜くことは出来ないよ。これは、奏夜の成長のために必要なんだよ」

 

統夜は今からでも奏夜の援護は出来るのだが、それをするのは奏夜のためにならないと思っていた。

 

だからこそ、出来るのであれば奏夜 1人の力でタイガードを倒して欲しいと統夜は願っていた。

 

奏夜は、そんな統夜の思いを汲み取っていた。

 

(……何で統夜さんは手を出さないのかと思ったけど、統夜さんは俺を試してるんだな。これからも多くの人を守れる魔戒騎士になるため、こんな奴くらい1人で倒してみせろと)

 

このように分析していた奏夜であったが、タイガードに翻弄されており、防戦一方であった。

 

(……やってやるさ!俺だって魔戒騎士なんだ!どんな奴が相手だって倒してみせる!!)

 

奏夜はタイガードの攻撃を防ぎながら、反撃の機会をうかがっていた。

 

すると……。

 

(……!?待てよ?相手がすばしっこいなら、その機動性を奪えれば!!)

 

タイガードへの対抗策を思いついた奏夜は、魔戒剣を地面に叩きつけるように一閃した。

 

その攻撃は当然のようにかわされてしまった。

 

しかし、奏夜は方向を変えながら何度も魔戒剣を一閃していた。

 

『おいおい、なんだよあの動きは。そんなデタラメな攻撃は奴には当たらないぜ?』

 

行き当たりばったりに見える攻撃に、イルバは呆れていた。

 

しかし……。

 

「いや、あれでいいんだ」

 

奏夜の思惑を見抜いた統夜は、笑みを浮かべていた。

 

奏夜は何度も魔戒剣を一閃するが、ことごとくタイガードにかわされてしまった。

 

そして、隙だらけな奏夜に蹴りを放つと、奏夜は吹き飛ばされるが、すぐに体勢を整えた。

 

「……よし、こんなもんでいいかな?」

 

奏夜は笑みを浮かべながらタイガードを見ていた。

 

タイガードは奏夜を喰らうためにその俊敏な動きで奏夜に接近しようとしたのだが……。

 

「……!?」

 

地面にあちこちクレーターのような穴が出来ており、そのため、自慢の素早い動きが出来なくなってしまっていた。

 

『……!なるほど、さっきの攻撃は、奴の動きを封じるための布石だったという訳か』

 

「そういうことだ。後は飛びかかるくらいしか出来ないだろうが、それは隙が多いからな」

 

イルバは奏夜の作戦に気付き、統夜はその作戦の補足説明をしていた。

 

(……あの僅かな時間で突破口を見つけるとは、やるじゃないか、奏夜のやつ)

 

今この瞬間にも魔戒騎士として成長している奏夜を垣間見た統夜は、嬉しさのあまり笑みを浮かべた。

 

「……どうやら、俺の出番はなさそうだが、少しくらいは援護してやるか」

 

統夜は魔戒剣を構えてタイガードを睨みつけた。

 

「……奏夜!鎧を召還して一気にケリをつけるぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

奏夜に鎧を召還するように指示した統夜は、先に魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。

 

「……!あれが、統夜さんの鎧……」

 

統夜の鎧を見た奏夜は、その雄々しさに圧倒されていたが、すぐに我に返った。

 

「ホラー、タイガード!貴様の陰我、俺が断ち切る!!」

 

奏夜はタイガードにこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

そこから放たれた光に包まれた奏夜は、自身の鎧を身に纏ったのだが……。

 

「……へぇ……」

 

統夜は、初めて見る奏夜の鎧に驚いていた。

 

奏夜の身に纏った鎧は、まるで牙狼のように黄金の輝きを放っていた。

 

その頭部は3本の角がついており、狼のような顔になっている。

 

腰の部分にはこの鎧の紋章である丸のエンブレムが存在していた。

 

奏夜の指に嵌められたキルバも、鎧と一体化したかのようにくっついていた。

 

奏夜の手に持っている魔戒剣も、専用の剣である陽光剣(ようこうけん)に姿を変えていた。

 

奏夜の身に纏っているこの鎧は、陽光騎士輝狼(キロ)。

 

奏夜が継承したこの鎧は黄金騎士の系譜とは関係ないが、その名のようにまるで陽の光のような輝きを放っている。

 

「……奏夜!俺が奴の動きを止める!お前はその隙に奴を仕留めろ!」

 

「は、はい!」

 

統夜は奏夜に指示を出すと、タイガード目掛けて突撃した。

 

タイガードは俊敏な動きを封じられながらも統夜に向かっていった。

 

そしてタイガードは統夜に攻撃を仕掛けるのだが、それを軽々とかわしていた。

 

統夜は皇輝剣を一閃し、その一撃で怯んだ隙に蹴りを放った。

 

その一撃を受けたタイガードは、奏夜のいる方向に吹き飛ばされていった。

 

「奏夜!そっちに行ったぞ!!」

 

「はい!!」

 

奏夜はギリギリまでタイガードを引き付けると、絶妙なタイミングで陽光剣を一閃した。

 

その一撃により、タイガードの体は真っ二つに斬り裂かれた。

 

奏夜に斬り裂かれたタイガードは、断末魔をあげながら消滅した。

 

「……や、やった……。倒した……」

 

タイガードが消滅したことを確認した奏夜は手強いホラーを倒したことに喜んでいた。

 

そして、統夜と奏夜は同時に鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を、それぞれの鞘に納めた。

 

「……奏夜、やったな!」

 

「統夜さん、ありがとうございます!」

 

「俺は何もしてないさ。あのホラーを倒したのはお前の力だ」

 

「統夜さん……」

 

この時、統夜は奏夜の実力を認めており、奏夜はそのことが嬉しかった。

 

「そういえば、お前の鎧は牙狼とは違う黄金の鎧なんだな」

 

「えぇ、そうなんですよ。黄金騎士牙狼とは全然関係ない系譜なんですけどね……」

 

奏夜の鎧は黄金の鎧のため、味方だけではなく、ホラーにも牙狼と間違われることがあるが、牙狼とは関係ない系譜なのである。

 

「なるほどね……」

 

先ほどの奏夜の説明で、統夜は納得していた。

 

「……それじゃあホラーも倒したことだし、俺は桜ヶ丘に帰るよ」

 

統夜は、明日も学校があるため、早々に帰ることにした。

 

「統夜さん!今日はありがとうございました!また、稽古をつけてくれたら嬉しいです!」

 

「そうだな。また機会があればお前を鍛えに行くよ。……奏夜、強くなれ!」

 

「……っ!は、はい!!」

 

統夜は後輩である奏夜に力強いメッセージを送ると、その場を後にして、桜ヶ丘に帰るために歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜と別れた統夜は、紬の親が所有しているビルの前を歩いていた。

 

「……みんなは帰ったよな。そしたら魔界道を使って帰るかな……」

 

唯たちが帰っただろうと確信していた統夜は、この場を後にし、魔界道を使って桜ヶ丘へ帰ろうとしていた。

 

……その時だった。

 

 

 

 

 

__プップー!!

 

 

 

 

 

突如クラクションの鳴る音が聞こえてきたので、統夜はその音の方向を向いた。

 

すると……。

 

「……みんな、待っててくれたのか……」

 

それは、帰ったと思われていた唯たちを乗せたリムジンだった。

 

「……やーくん!早く早く!」

 

リムジンの窓を開けて唯がこのように呼びかけて来たので、統夜は急いでリムジンに乗り込んだ。

 

統夜が乗ったことを確認した斎藤は、リムジンを発車させて、桜ヶ丘へと向かった。

 

「……みんな、帰ったんじゃなかったのか?」

 

「それがさぁ、統夜から電話きただろ?その後、少し前までゲーセンで遊んでたんだよ」

 

唯たちは、統夜に先に帰れと言われたものの、統夜を待ちながらもう少し遊びたいという話になり、少し前までゲーセンで遊んでいた。

 

遊び終わった後、紬の執事である斎藤が迎えに来てくれて、リムジンの中で少しだけ待っていたら指令を終えた統夜が現れたということである。

 

「それならそれで先に帰ってれば良かったのに」

 

「そうなんですけど、統夜先輩はあそこに戻ってから帰るだろうなと思ってたのであそこで待ってたんです」

 

「なるほどな。だけど、待っててくれて助かったよ。じゃなかったら間違いなく桜ヶ丘に着くのは深夜になるからな」

 

魔界道を使ったとしてもそれなりに時間がかかるため、唯たちが待っててくれたのはとてもありがたかった。

 

「そんな、気にしなくてもいいのよ♪」

 

「ムギの言う通りだよ。……あっ、そうそう。穂乃果たちから伝言を預かってるんだよ」

 

「穂乃果たちから?」

 

「今度東京に来た時は一緒に遊びましょう!……だってさ」

 

「連絡先も教えてほしいって言ってました!」

 

唯たちは穂乃果たちとメールアドレスを交換していたのだが、今度統夜のアドレスも教えてくれと穂乃果たちは唯たちに告げていたのである。

 

「ほら、アドレスを教えてあげるから穂乃果ちゃんたちに連絡しないと!」

 

「わ、わかったよ……」

 

帰りの車内で穂乃果たちのアドレスを聞いた統夜は穂乃果たちにメールを送ると、桜ヶ丘に着くまでメールで会話をしていた。

 

こうして、東京での長い1日は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『いよいよ来たな、夏休みが。そして、統夜にとっても大事な時期がやって来たぜ!次回、「旅立」。統夜の新たなる戦いが今始まる!』

 

 




今回は少し長くなってしまいました。前後編にすることも考えましたが、今回は1話でまとめさせてもらいました。

今回統夜は、後輩騎士である奏夜の指導を行いました。その様を見ると、統夜も成長したなぁと思います。

奏夜はこれからも登場するのですが、奏夜は次回作の主人公と考えているキャラです。

奏夜は牙狼とは違う黄金の騎士ですしね。

今回は次回作のフラグとして、ラブライブのキャラが登場しました。

これからも出ることがあると思うので、タグを追加しようかなと思っています。

唯がにこを梓と間違えて抱きつくシーンや梓とにこの対面はやりたいと思ってたシーンでした。

なので、後悔はない(笑)

さて、次回は統夜がサバックの会場へと向かいます。

それでは、次回をお楽しみに!


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