牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第67話になります。

今回はアスハとの戦いの後日談で、この章のエピローグ的な話となっております。

激闘を制した統夜たちはどのような日常を送っているのか?

それでは、第67話をどうぞ!




第67話 「再来」

統夜たちは、アスハの開発した魔導具である魔導人機を破壊し、アスハの全ての魔戒騎士を滅ぼすという野望を阻止した。

 

戒人と大輝は、番犬所の近くまでさわ子に送ってもらうと、そのまま番犬所へと向かった。

 

「……戒人、大輝。無事戻ってきたようですね」

 

「「はい、イレス様」」

 

戒人と大輝はイレスに一礼をしていた。

 

番犬所には既にアキトとレオの姿があり、2人は統夜の家にバイクを置いてからこの番犬所を訪れたのである。

 

「……ところで、統夜はどうしたのですか?」

 

「統夜は、アスハとの戦いでだいぶやられましてね、今頃は病院にでも連行されてるかもしれないですね」

 

戒人は、統夜がアスハとの戦いで負傷したことを伝えた。

 

「そうですか……。統夜はそれだけ酷くやられてしまったのですね……」

 

「ですが、統夜君の活躍があったからこそ、アスハの魔導具である魔導人機を破壊し、アスハを討伐することが出来たのです」

 

統夜がやられたと聞いてイレスは心配していたが、レオが統夜の活躍ぶりをイレスに報告していた。

 

「そうですか。アスハ法師を討伐したのですね」

 

「あぁ。あの状況で捕らえるのは厳しかったからな……」

 

アキトは、アスハとの激闘を思い出しでこのように呟いていた。

 

「そうでしたか。とりあえず、アスハ法師の魔戒騎士を滅ぼすという野望は阻止出来たのですね?」

 

「えぇ。あの男が悪用していた魔導具も全て殲滅しました。これで、一連の事件は解決したと言えます」

 

レオは、一連の事件の黒幕であるアスハが倒れたことにより、アスハの起こした事件の全てが解決したことをイレスに告げた。

 

「事件が解決したということは、アキトは元老院に戻るのか?」

 

「まぁ、そういうことになるかな?桜ヶ丘は良い街だから去るのは名残惜しいがな」

 

アキトは元老院付きの魔戒法師であるため、元老院から与えられた仕事が解決したら、元老院に帰らなくてはならないのである。

 

「そっか、お前みたいにやかましい奴がいなくなると寂しくなるな」

 

「やかましいは余計だぜ、大輝のおっさん!」

 

「だからおっさんはやめろ!」

 

アキトと大輝のこのようなやり取りも、定番化し始めていた。

 

「確かに、寂しくなるな……」

 

「か、戒人までよせよ!恥ずかしい!」

 

アキトは照れ隠しに笑いながら戒人の肩をバシバシと叩いていた。

 

「……アキトは、みんなに慕われているのですね……」

 

レオは、アキトがその持ち前の明るさで、統夜だけではなく戒人や大輝にも慕われていることを垣間見て、笑みを浮かべていた。

 

「まぁ、俺はこの街が気に入ったしな、ちょこちょこ遊びに来るさ」

 

アキトが桜ヶ丘にいた期間は短かったものの、桜ヶ丘の雰囲気がとても気に入っていた。

 

元老院に戻ることを決めたアキトだが、指令とは関係なしに桜ヶ丘に遊びに行くつもりでいた。

 

「とりあえずアスハ法師の件はわかりました。みんな、良くやってくれましたね」

 

イレスはこの場にいる全員に労いの言葉をかけた。

 

「とりあえず今日はゆっくり体を休めて下さい」

 

「はい、そうさせてもらいます」

 

「そうだな、しばらく統夜は休まなきゃいけないだろうし、その間は俺と戒人で頑張らないとな」

 

「はい!」

 

戒人と大輝は、アスハとの戦いでだいぶ消耗した統夜の分まで騎士としての使命を果たそうとしていた。

 

「まぁ、統夜が回復するまでは俺も手伝うから、元老院に帰るのはそれからかな」

 

アキトは今すぐ元老院に戻る訳ではなく、統夜が回復するまでは桜ヶ丘に残るつもりでいた。

 

「僕は一足先に元老院に戻らせてもらいます。グレス様に一連の事件の報告もしなければいけないので」

 

レオはグレスに報告するために先に元老院に戻ることにした。

 

「そうか。レオ、元気でな!」

 

「はい!今度はサバックの時に会うと思いますので、その時を楽しみにしています!」

 

レオはそう言い残すと、番犬所を後にした。

 

レオが帰った直後に戒人たちも解散し、それぞれの家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

激しい死闘の末、魔導人機とアスハを討伐した統夜は、唯たちに支えられながら紬の秘書である斎藤の運転で琴吹総合病院に向かった。

 

そこで治療を受けた統夜は、入院することになった。

 

そして翌日、統夜は学校を休んで病院で休んでいたのだが……。

 

「……暇だ……」

 

普段は魔戒騎士として毎日忙しく歩き回っている統夜だったが、ベッドで大人しくしているというのは性に合わなかった。

 

とりあえず統夜は暇つぶしを兼ねて昨日紬から預かったCDを紬が用意してくれたウォークマンで聴いていた。

 

統夜のいる病室は、普段は有名人や政治家などが入院する時に使われるVIPルームであり、病室であるにも関わらず、テレビや冷蔵庫など、様々な機材が充実していた。

 

統夜が聴いているCDは、さわ子が軽音部時代に組んでいたバンド「DEATH DEVIL」の曲だった。

 

「……うわ、難しいな……。短い練習時間でこれをやれと言うのか……」

 

今聴いている曲はとても難しい曲で、短時間で覚えるのは困難だった。

 

統夜は昨日、唯たちから紀美と協力して結婚式の二次会でDEATH DEVILの曲を演奏するということは聞いていた。

 

そのため、統夜は退屈な病室でDEATH DEVILの曲を聴いて勉強していた。

 

しかし……。

 

「……やっぱり退屈だ……!」

 

統夜はベッドでジッとしているのがあまりに苦痛だったから、ベッドから飛び出し、魔法衣を羽織った。

 

『おいおい、統夜。どこへ行く気だ?』

 

「決まってるだろ?体を動かしに行くんだよ」

 

『統夜、体はもういいのか?』

 

「まだ少し痛いが、体を動かすのには支障はない」

 

統夜は一晩ぐっすり眠っただけで、ダメージは多少は回復していた。

 

完全に完治していないため、まだ痛みは残っていたが、歩き回るには充実だった。

 

『まったく……。お前さんの回復力の早さは知っているが、もうちょっと安静にしてた方がいいんじゃないのか?』

 

「それはそうかもしれないけど、このままじゃ体がなまっちまうよ」

 

『あまり無理はするな。サバックも近いんだからそれに支障をきたすぞ』

 

「うっ……。わかったよ」

 

イルバの指摘を聞いた統夜は外に出るのを諦めることにした。

 

そのため、魔法衣を脱ぐと、再びベッドに戻った。

 

「……どうせ退屈なら今のうちに寝ておくか……」

 

『その方がいいんじゃないか?』

 

統夜はベッドに寝転がると、今までの戦いの疲れを癒すために、眠りについた。

 

統夜はどうせ退屈ならと眠り続けたのが効いていたのか、2日間で傷はほとんど完治し、退院した。

 

退院した統夜は真っ先に番犬所に立ち寄り、一連の事件の報告と、自分が元気だということを伝えた。

 

イレスは統夜の回復を喜び、改めて一連の事件を解決したことへの労いの言葉を送った。

 

そして、明日から魔戒騎士の使命を行うように通達を受け、統夜は番犬所を後にした。

 

そして翌日、統夜はいつものようにエレメントの浄化を行ってから学校へ登校した。

 

統夜はいつものように教室に入ると、クラスメイトたちが一斉に統夜に押し寄せてきた。

 

「うぉ!?な、何だ!?」

 

「ねぇねぇ、月影君!怪我は大丈夫なの!?」

 

「あ、あぁ……。なんとかな……」

 

「心配したんだよ!?統夜君が交通事故に遭って入院したって聞いた時は」

 

「こ、交通事故?」

 

統夜は予想外の言葉を聞いて面食らっていた。

 

統夜は唯たちの方を見ると、「申し訳ない」と言いたげな仕草をしていた。

 

その時、統夜は、唯たちが入院したことを怪しまれないよう嘘をついてくれたことを察したのであった。

 

「そ、そうなんだよ。急に車が飛び出して来てな。咄嗟にかわそうとしたから直撃はしてないけど、怪我をしたから入院になったんだよ」

 

統夜は肋骨が折れたと話すと、回復が早過ぎないかと怪しまれると思い、具体的な怪我の程度は話さないで、交通事故に遭ったと話していた。

 

「もぉ!本当に心配したんだからね!」

 

「アハハ……。心配かけてごめんな。もう大丈夫だから」

 

統夜はもう怪我は治ったと伝えてクラスメイトたちを安心させた。

 

ちょうどクラスメイトたちを安心させたタイミングでチャイムが鳴り、HRが始まった。

 

HRが終わると、統夜は唯たちのもとへ向かい、改めて自分が回復したことを伝えた。

 

唯たちは統夜が回復したことに安堵し、和は「心配したのよ」と統夜を叱責していた。

 

こうして統夜は回復し、そのまま放課後になった。

 

統夜が部室に入ると、梓が統夜の身を案じていた。

 

もう回復したことを伝えると、梓はホッとしていた。

 

こうして部活は始まったのだが、ティータイムを行いながら今度DEATH DEVILのメンバーと演奏する曲を聴いて勉強したり、その曲を練習したりしていた。

 

しかし、それもさわ子に悟られないようにアンプは使わずに練習を行った。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして、結婚式当日を迎えた。

 

さわ子は、一次会から結婚式に参加し、かつての仲間の結婚を祝福していた。

 

そして二次会となり、さわ子は今回結婚したかつての仲間であるミホコのもとへと向かった。

 

「おめでとう!」

 

「あ、さわ子」

 

「久しぶり!」

 

先ほどまでミホコに話しかけていた女性は、かつて統夜たちがライブしたライブハウスを経営している川上だった。

 

「ごめんね、演奏出来なくて。先生になっちゃうと色々あってね」

 

「大丈夫♪ライブ、楽しみにしてるから」

 

「?」

 

ミホコの言葉の意味が理解出来ず、さわ子は首を傾げていた。

 

ミホコへ挨拶を済ませたさわ子は、周囲を見回した。

 

すると……。

 

「あっ、さわ子!!こっちこっち!!」

 

さわ子の同級生で、部活こそ違えど交流のあった御月……ではなく、冴島カオルがさわ子を見つけてブンブンと手を振っていた。

 

「あ!カオル!久しぶりじゃない!」

 

「うん!この前の学園祭以来だよねぇ♪」

 

カオルとさわ子が再開したのは、去年の学園祭以来であった。

 

カオルだけではなく、カオルの夫である鋼牙も出席しており、カオルの隣に座っていた。

 

「あっ、鋼牙さんも久しぶりね!」

 

「……あぁ。お前も元気そうだな」

 

「それにしてもどうして鋼牙さんも?こういうところは苦手そうなのに……」

 

さわ子は鋼牙との交流は少ないが、鋼牙が人の多いところはあまり得意ではないということは予想出来た。

 

「まぁ、そうなんだが、今回はカオルが心配でな」

 

「カオルが?……あっ!!」

 

さわ子は改めてカオルを見て、その変化に驚いていた。

 

その変化とは……。

 

「カオル!お腹大きくなってるじゃない!もうすぐ産まれるの?」

 

「うん、来月には産まれる予定なんだよね」

 

カオルは鋼牙との子供を身篭っており、間もなく産まれる予定だった。

 

「カオルがこの結婚式に行くと言ったらゴンザがえらく心配していてな。俺もついてきたという訳だ」

 

出産を来月に控えたカオルが結婚式に行くと言った時は、夫である鋼牙より、冴島家の執事であるゴンザの方が心配していた。

 

鋼牙がついていくと言ったことで、ひとまず安心したゴンザは、続いて妊娠しているカオルが着やすいドレスを探すのに奔走していた。

 

そしてそのドレスがどうにか間に合い、この日を迎えたのである。

 

「それにしても知らなかったな。カオルがこんな素敵な旦那さんがいるなんて」

 

「亜佐美も久しぶりね」

 

鋼牙やカオルと同じテーブルに座っている女性が口を開いた。

 

その女性……篠原亜佐美は、カオルの親友であり、カオルと同じく桜ヶ丘高校に通っていた。

 

現在は出版社に勤めており、カオルが画家として売れる前は、カオルに仕事を回したり、金を貸したりと手助けをしていた。

 

酒といい男には目がなく、未だに良い縁とは巡り合えていない。

 

高校時代はカオルとも親交があった。

 

「さわ子!久しぶりね!今先生やってるんだって?」

 

「えぇ、桜ヶ丘高校で先生をしてるのよ」

 

「えぇ!?桜高の先生なんだ。あのキャサリンがねぇ……」

 

亜佐美も高校時代のさわ子を知っているため、桜ヶ丘高校で先生をしているというに驚いていた。

 

「ということはこの後のライブに出るの?」

 

「うぅん。それは断ったの。先生になっちゃうと色々あってね」

 

「残念だなぁ。キャサリンのギター、久々に聴きたかったのに……」

 

さわ子が演奏しないことを知り、亜佐美は本気で残念がっていた。

 

「……なぁ、さっきから言ってるキャサリンって何なんだ?」

 

鋼牙はキャサリンと言われてもピンと来ていないのか首を傾げていた。

 

「あ、気になる?実はね……」

 

「もう!やめてってば!」

 

このような話をしながら、さわ子は昔話なども交えつつ盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、統夜たちは別室の控え室でこの後のライブの準備を行っていたのだが……。

 

「ギー太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

唯が愛用しているギターがデスメタルっぽく外見が改造されてしまい、唯は泣き出していた。

 

「泣くな!余計に顔が怖い!!」

 

唯はデスメタルっぽいメイクを施されたのだが、唯が泣き出した時にメイクがおかしくなってしまい、澪が怖がっていた。

 

「えぇ?私は割と好きなんだけど♪」

 

「ムギ先輩はやり過ぎです!!」

 

「あー、ちょっと部長さん!これ使って口から火を吹いてもらってもいい?」

 

紀美がいきなり無茶ぶりを言っていた。

 

「そ、それは……無理ですぅ!!」

 

律はそう言って控え室を飛び出していった。

 

「……何で俺まで……」

 

今回、統夜たちだけではなく、何故かアキトもこのライブの手伝いに駆り出され、統夜同様にデスメタルっぽい衣装を着せられていた。

 

「まぁ、お前も話を聞いたから共犯ってことなんだろうな」

 

「統夜の傷が治ったんだから元老院に戻る予定だったのに……」

 

アキトは今日元老院に帰る予定だったが、ライブの手伝いに駆り出されてしまったため、それを延長せざるを得なかった。

 

「まぁまぁ、そんなに急がずゆっくりとしてけよ」

 

統夜はブツブツと文句を言っているアキトをなだめていた。

 

「あー、そこの2人!どっちでもいいけど、これ使って口から火を吹いて欲しいんだけど」

 

「「……」」

 

紀美の無茶ぶりが2人に飛び火してしまい、2人は唖然としていた。

 

「……アキト、出来るか?」

 

「いや、無理。統夜は?」

 

「無理に決まってんだろ……」

 

普段からホラーと戦ってる統夜とアキトはそれだけで充分あり得ないことをしているのだが、口から火を吹くというのはさすがに無理があった。

 

「「ごめんなさい、無理です」」

 

統夜とアキトはハッキリと断ると、紀美は残念そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、どうにかライブの準備は整い、ライブ開始の時間となった。

 

『それでは、新婦と共に青春時代を歩まれた友人方のバンド、「DEATH DEVIL」によるライブを始めます』

 

司会がライブ開始の宣言をすると、会場から拍手が起こっていた。

 

『なお、本日は特別編成での登場です』

 

「特別編成?……って!ちょっと!」

 

さわ子は、DEATH DEVILのメンバー以外に統夜たちもステージに立っていることに驚いていた。

 

「あ、あの子たち……。やだ、唯ちゃんと統夜君、そのギター……」

 

紀美と共にギターを弾くことになった唯と統夜のギターはデスメタル仕様に改造されていた。

 

澪、律、紬、梓、アキトは、マラカスを持ってその場を盛り上げる担当だった。

 

「な、何やってるのよ!」

 

ステージに立っている紀美と目が合うと、紀美はドヤ顔をしていた。

 

「わぁ、統夜君、凄い格好だね!」

 

カオルはステージに立っているど派手な格好をしている統夜に反応していた。

 

「そうだな。それに、あの男は、確かレオの……」

 

「あぁ、あの子って確かレオ君の1番弟子だっけ?何でこんなところに?」

 

「さぁな。だが、何か訳ありなんだろう」

 

鋼牙とカオルは、レオの1番弟子であるアキトの存在は知っており、このライブのステージに立っていることに驚いていた。

 

「へぇ、あの子たちが今の軽音部なんだ……」

 

亜佐美も、唯たちの姿を見て、ウンウンと頷いていた。

 

『……てめぇら!今日はトバして行くぜ!!』

 

紀美の号令に、ステージの唯たちは「おぉ!!」と応じていた。

 

そして、激しいドラムから演奏が始まった。

 

今演奏している曲は冒頭から超絶技巧のため、唯は開始数秒で間違えてしまった。

 

『あぁ!間違った……』

 

これにはさわ子もガクッと肩を落としていた。

 

「何やってるんですか!もぉ!」

 

梓の叱責が飛ぶのだが、既に手遅れだった。

 

《……統夜。お前さんも間違えただろう?》

 

(あ、バレた?やっぱりこの曲難し過ぎなんだよ!)

 

統夜もさりげなく間違ったことをイルバに見透かされ、曲の難しさに逆ギレしていた。

 

『す、すいません!もう1度最初から!』

 

気をとり直して最初から演奏しようとしたのだが……。

 

「……DEATH DEVILっていうからどんなバンドかと思ったけど、結構可愛いね」

 

(!?か、可愛い!?)

 

近くにいた女性がこう話しているのに思わず反応してしまった。

 

「頑張れぇ!DEATH DEVIL!」

 

「応援してるよ!!」

 

(お、応援!?)

 

今度は応援するという言葉に反応していた。

 

「ふふ、唯ちゃんたち、可愛いね♪」

 

カオルもこのように言っていたのだが、さわ子はその話は聞いていなかった。

 

すると、会場から「DEATH DEVIL」コールが響き渡っていた。

 

さわ子はそのコールを聞くと、プルプルと肩を震わせていた。

 

(……ち、違う!DEATH DEVILはこんなんじゃない!もっとお互い魂をぶつけ合う激しさこそがDEATH DEVILの真骨頂!)

 

さわ子は眼鏡を外そうとするのだが……。

 

(だ、ダメ!今の私は教師!あの時の魂はあの時に置いてきたの!!それに、私のために頑張ってくれてるみんなに悪いわ……)

 

『いやぁ、ごめんなさい。失敗失敗』

 

唯の喋りのせいで、会場は完全にふわふわした雰囲気になってしまっていた。

 

(違う……。DEATH DEVILは……!私が追い続けたDEATH DEVILは……。私の……!)

 

この瞬間、さわ子の中で何かが切れてしまった。

 

《……!おい、鋼牙》

 

それを感じ取ったザルバが、鋼牙にテレパシーで声をかけた。

 

(どうした、ザルバ)

 

《これから面白いことが起きそうだぜ!ステージから目を離すんじゃないぞ!》

 

(面白いこと……?)

 

鋼牙はザルバの言葉に首を傾げていたが、ステージをジッと見ていた。

 

その時だった。

 

 

 

 

__プツン!!

 

 

 

 

 

急に会場の灯りが全て消えてしまった。

 

『え?な、何?どうしたの?』

 

唯は突然の出来事に動揺していた。

 

《……これはまずいことになったぞ、統夜》

 

(?まさか、ホラーか?)

 

《いや、ホラーではないのだが、下手したらホラーよりも恐ろしいかもな》

 

(ホラーより恐ろしいって……)

 

《とりあえず、これから起こることには決して目を離すなよ!》

 

(?)

 

イルバの言葉の意味が理解できず、統夜は首を傾げていた。

 

すると、コツンコツンとハイヒールの鳴る音が聞こえてきて、その音はステージに近付いてきた。

 

その音の正体はさわ子であり、さわ子はステージまで移動した。

 

そして、ステージに飛び移ると、その瞬間、会場の灯りが再びついた。

 

「さ、さわちゃん!?」

 

まさかのさわ子の乱入に、唯は驚いていた。

 

「さ、さわ子!?いつの間に!?」

 

「カオル、久しぶりに来るよ!キャサリンが!」

 

さわ子の乱入にカオルは驚き、亜佐美はワクワクしていた。

 

さわ子は唯のギターを奪うなり、超絶技巧のギターソロを難なく弾いてみせた。

 

そして……。

 

『てめぇら……!DEATH DEVILはこんなぬるっちい音楽じゃねぇ!今……本物ってやつを見せてやる!!』

 

さわ子は眼鏡を外し、しばっていた髪も解くと、かつてキャサリンと呼ばれていたさわ子に戻っていた。

 

それを見た瞬間、統夜は邪魔になると考え、唯と共にステージ端に避難した。

 

(ま、まさか、まずいことってこういうことなのか!?)

 

《あぁ、ここまで来たら俺たちでも止められないからな……》

 

(確かに……)

 

統夜は大人しくさわ子の演奏を聴くしかなかった。

 

さわ子が加わったことで、紀美はもちろんのこと、他のDEATH DEVILのメンバーの闘志にも火がついていた。

 

『……OK!行くぜぇ!!』

 

紀美の号令で、再び激しいドラムが打ち込まれ、演奏が始まった。

 

その圧倒的な技術と存在感に、統夜たちは圧倒されていた。

 

「キャサリン!!」

 

「イェーイ!!」

 

さわ子と同じ軽音部だったメンバーは、両手を振り上げてノッていた。

 

それは新婦であるミホコも同様であり、そんな花嫁の姿を見た旦那も、同じようにノッていた。

 

「キャサリン!!」

 

そして、亜佐美も、DEATH DEVILの激しい演奏にノリノリだった。

 

「……わ、私も……!」

 

「カオル!無理に激しい動きをしようとするな!体に障る」

 

カオルも亜佐美のようにノりたいと思っていたのだが、鋼牙に止められてしまった。

 

「……はぁい……」

 

妊婦であると理解しているカオルは、諦めて足踏みをしてノるということにとどめた。

 

このノリは徐々に伝染していき、気が付けば、その場にいるほとんどの客が、DEATH DEVILの演奏にノリノリだった。

 

それは、ステージ端に立っている唯たちも同様だった。

 

「うっひょお!ノリノリだぜぇ!!」

 

特にアキトはこの激しいノリに触発されてしまい、誰よりもノリノリだった。

 

「アハハ……。アキト、お前なぁ……」

 

統夜は、そんなアキトに呆れながらも、自分自身も演奏にノリノリだった。

 

唯たちも演奏に聞き惚れながらもノリノリだった。

 

こうして、会場は1つとなり、魂を極限まで震わせたさわ子たちDEATH DEVILの演奏は終了した。

 

演奏を終えたさわ子は、最高の演奏をした高揚感に浸っていたのだが、しばらくすると、大事なことを思い出した。

 

そして……。

 

「……!!や、やっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「「「「『やらせちゃった……』」」」」」」

 

「?」

 

さわ子の叫びがこだまし、統夜たちはさわ子にギターを弾かせてしまったことを反省していた。

 

そして、アキトは訳が分からずに首を傾げていた。

 

こうして、結婚式の二次会のライブは、さわ子の本性を露わにしてしまい、幕を閉じた。

 

ライブ終了後、統夜は会場に来ていたカオルと鋼牙と話をしてから会場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして翌日の放課後……。

 

「……終わった……。ずっとずっと頑張っておしとやかなキャラで来たのに……」

 

さわ子は机に突っ伏すと、完全に落ち込んでいた。

 

「「「「「『まことに面目ない……』」」」」」」

 

統夜たちは、とりあえずさわ子に謝罪の言葉を送っていた。

 

「……ふっ、いいのよ……。もとはと言えば……」

 

「そうだよ!さわちゃんが勝手にキレちゃうんだもん!」

 

『全くだ。俺たちにも責任があるとはいえ、自業自得だな』

 

「……悪かったって言ってるでしょ……!」

 

さわ子は、ドス黒いオーラで、さわ子とイルバを睨みつけていた。

 

「『ご、ごめんなさい……』」

 

さわ子の放つオーラに怯えたのか、律とイルバはすぐさま謝罪していた。

 

すると……。

 

コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「はーい!」

 

「あ、あの!さわ子先生……いますか?」

 

こう言いながら音楽準備室に入ってきたのは、1年生の子達だった。

 

「……え?」

 

さわ子は戸惑っていたが、1年生の子達はさわ子に写真を一緒に撮って欲しいと要求し、流れのまま写真を撮っていた。

 

何故このような状況になっているかがわからず、さわ子は唖然としていた。

 

「「ありがとうございます!」」

 

「昨日のライブすっごく格好良かったです!!」

 

「次も楽しみにしてます!!」

 

1年生の子達はさわ子に一礼し、音楽準備室を後にした。

 

「……何故?」

 

さわ子は訳がわからず、唖然としていた。

 

「なぁんだ。結局どのさわちゃんでも人気なんだ」

 

さわ子はおしとやかなキャラでも人気だったのだが、昨日のライブを見て、ファンになった子達も大勢いた。

 

昨日の結婚式には桜ヶ丘高校のOGや新聞部、現役生徒も何人か来ていたので、さわ子のもう1つの一面は、瞬く間に広がっていった。

 

「しっかし、バンドってあれくらいやらないと印象に残らないのかねぇ……」

 

「……そうねぇ……」

 

「いやいや、さすがにあれは俺たちのバンドの雰囲気には合わないだろう」

 

統夜は、昨日のライブを参考にしようとしている律と紬に待ったをかけたいた。

 

しかし、律は色々と考えており、この日は昨日のライブの話や、自分たちのバンドの印象を変える方法などを話して大いに盛り上がっていた。

 

こうして、統夜はアスハとの戦いの傷も癒え、当たり前の日常に戻ってきた。

 

しかし、アスハの事件を解決したと言っても、統夜の守りし者としての戦いは終わりを告げた訳ではなく、むしろ始まりであった。

 

 

 

 

 

 

……魔導人機襲来編・終




さわちゃん覚醒(笑)

そしてさわ子の本性がバレた回となりました(笑)

今回はゲストとして鋼牙とカオルがちょこっと登場しています。

カオルのお腹には赤ちゃんがいて、来月生まれると言っていましたが、そうです。雷牙がもうすぐ産まれるのです!

さらには牙狼一期に登場したカオルの親友である亜佐美も登場しました。

亜佐美もさわ子やカオルと同じく桜ヶ丘高校の卒業生という設定だったので、今回の登場は決して不自然ではなかったと思います(笑)

さて、今回で「魔導人機襲来編」は終わって次回から新章突入!と言いたいのですが……。

次回は、活動報告にも書いたUA20000記念の番外編を投稿します。

今回はアキト回で、アキトがどのようにしてレオの1番弟子になったのかが判明します。

それでは、次回をお楽しみに!


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