今回は前後編に分けて統夜と魔導人機の直接対決になります。
この直接対決を制することのは統夜か?それともアスハか?
それでは、第65話をどうぞ!
全ての魔戒騎士を滅ぼすために、アスハは動き始めた。
最初に統夜を始末するために、アスハは唯、澪、律、紬の4人を誘拐した。
統夜は唯たちを救うためにアキト、戒人、大輝だけではなく梓ちゃんとさわ子の協力も得て、アスハが指定した研究施設へと向かった。
研究施設到着までもう少しのところで辿り着くところで、ヘラクスが現れて統夜たちの行く手を阻んだ。
ヘラクスは、さらに号竜人の軍団を従えており、統夜たちを通さないつもりでいた。
しかし、統夜は鎧と白皇を召還し、強行突破で研究施設へと向かい、梓、さわ子、アキトの3人も統夜に続いた。
この4人が研究施設へ向かう中、戒人と大輝は、ヘラクスや号竜人の軍団と戦いを挑んだ。
統夜が強行突破によって多くの号竜人とリグルを蹴散らしてくれたおかげで、2人の負担は大幅に減っていた。
号竜人は戒人と大輝ほどの実力があれば、鎧を召還しなくても倒せる相手だった。
そのため、2人は次々と号竜人を倒していった。
「くっ……。本当に数が多いな……」
「あぁ、これじゃキリがないぞ……」
戒人と大輝は次々と号竜人を倒していったのだが、その数が思うように減らなかった。
「ふふん、どうしたどうした!?その程度か?」
ヘラクスは、大量の号竜人を相手にしている戒人と大輝を見て、ドヤ顔をしていた。
『戒人、このままではジリ貧じゃぞ!どうするつもりじゃ?』
トルバは、悪化する一方の戦況を憂いていた。
「そうだな……。こうなったら鎧を召還して一気に蹴ちらすしかないか……」
「俺もそれは考えた。少しでも数を減らさないとな……」
戒人だけではなく、大輝も鎧を召還して、号竜人の数を一気に減らそうと考えていた。
その時、2体の鉄騎が2人の前に立ちはだかった。
「くっ、ここにきてこいつか!」
「お前たち!その2人を一気に殺せ!」
ヘラクスは、鉄騎に戒人と大輝を始末するよう指示を出した。
様々な死地を乗り越えて来た戒人と大輝であったが、この状況に腹を括っていた。
2体の鉄騎が戒人と大輝目掛けて襲いかかったその時だった。
どこからか法術が飛んでくると、その法術は2体の鉄騎に直撃し、鉄騎を吹き飛ばした。
「!?な、何だ!?」
「今の法術、どこから……?」
戒人と大輝は、突然飛んできた法術に驚いていた。
すると……。
「……大丈夫ですか!?」
「!お前は、レオか!どうしてここに?」
戒人と大輝を救ったのは、アキトの師匠であり、元老院付きの魔戒騎士であり魔戒法師である布道レオだった。
「イレス様から事情は聞きました。そして、ホラーの気配を察知してここまで来たんです」
「そ、そうだったんですか……」
戒人は番犬所からここまで急行するレオの行動力に驚いていた。
そんな中、レオは戒人のことをジッと見ていた。
「……?あ、あの……」
「君が新しくこの番犬所所属になった魔戒騎士の黒崎戒人君……ですよね?」
「は、はい。でも、どうして俺の名前を?」
「イレス様から聞きました。君が、統夜君の良きライバルだったということも」
レオはここに来る前にイレスから紅の番犬所の近況を聞いており、戒人がかつて修練場に通っていた時、統夜とは良きライバルだったことや、ホラーの襲撃から生き延びたことも聞いていた。
「そうだったんですか……。あなたが布道レオさんですよね?」
「えぇ、そうです。ですが、話は後にしましょう。まずは、あれを止めないと……」
レオは魔戒剣を取り出すと、号竜人たちや鉄騎を睨みつけた。
「魔戒騎士が増えたか……。だが、たった1人増えただけでは結果は変わらん!」
「それはどうでしょうね?」
レオは、不敵な笑みを浮かべていた。
「……これ以上、兄さんが作った魔導具をお前たちの好きにはさせない!」
レオがここに来た1番の目的は、魔戒騎士を滅ぼそうとするアスハの野望を阻止し、兄である布道シグマが作った魔導具を悪用されることを阻止するためだった。
レオは魔戒剣を抜くと、それを構えた。
「……鎧を召還して一気に行きましょう!大輝さん、戒人君!」
「承知!」
「は、はい!」
レオの号令により、3人は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれると、3人はそれぞれの鎧を身に纏った。
大輝は、銅の輝きを放つ、「鋼」の鎧を身に纏った。
戒人は、紫の輝きを放つガイアの鎧を身に纏った。
レオは、ガイアとは異なる紫の輝きを放つ狼怒の鎧を身に纏った。
レオは魔導筆を取り出すと、そこから炎を放ち、炎は上空に飛んでいった。
炎は上空で3つに分かれると、レオ、戒人、大輝の鎧に直撃した。
「ハッハッハ!!これは傑作だ!いきなり同士討ちとはな!」
「……それはどうですかね?」
レオは笑み浮かべていたのだが、レオたちの体は炎に包まれた。
しかし、レオたちの体はただ炎に包まれた訳ではなかった。
レオたちの体は炎に包まれたことで、簡易的に烈火炎装の状態となった。
「な……3人揃って烈火炎装だと!?」
ヘラクスはこのような展開を予想していなかったので、驚きを隠せなかった。
「……大輝さん!戒人君!一気に号竜人を蹴散らしましょう!!」
「承知!」
「はい!!」
レオ、大輝、戒人の3人はレオの法術で烈火炎装の状態となり、3人はそれぞれの剣を振るって号竜人を次々と薙ぎはらっていった。
レオの力によって烈火炎装の攻撃を放った3人は、号竜人の数を大幅に減らした。
この攻撃で号竜人の数も少なくなり、2体の鉄騎が3人に立ちはだかった。
「……っ!こいつは……」
「こいつは僕と大輝さんで倒します!戒人君はあのホラーを!」
「わかりました!」
レオと大輝が2体の鉄騎を抑えている間に、戒人はヘラクス目掛けて突撃した。
戒人は堅陣剣を一閃するが、それはヘラクスに軽々と受け止められてしまった。
「……貴様如きがこの私を倒せるかな?」
「倒すさ!統夜だって頑張ってるんだ。お前如きを軽々と倒せなきゃ、あいつのライバルとは名乗れない!!」
このように言い放つ戒人は鬼気迫るものがあり、ヘラクスもたじろいでいた。
その時出来た隙を見逃さず、戒人は蹴りを放ってヘラクスを吹き飛ばした。
「くぅ……!俺だって、こんな所でやられてたまるかよ!」
ヘラクスは、手にした剣を構えて、戒人を睨みつけた。
そして、戒人は魔導ライターを用いて堅陣剣の切っ先に黄緑の魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態となった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
戒人は獣のような雄叫びをあげながらヘラクスに接近し、堅陣剣を振るった。
ヘラクスも戒人目掛けて駆け出し、剣を一閃した。
ヘラクスの一閃は戒人の一閃によって弾かれてしまった。
「な、なんだと!?」
戒人はすかさず堅陣剣をもう一閃すると、ヘラクスの体を真っ二つに斬り裂いた。
「ば……馬鹿な……!!この俺が、こんな小僧にやられるのか……!?」
ヘラクスは、戒人相手に敗北するということが未だに信じられなかった。
「どんな相手だろうと、ホラーは斬る!それが、魔戒騎士としての俺の使命だ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヘラクスは断末魔をあげると、その体が爆散し、消滅した。
「はぁ……はぁ……はぁ……。ど、どうにか倒したか……」
ヘラクスを討滅するのに持てる全ての力を使い果たした戒人は、鎧を解除し、膝をついていた。
「……!戒人君!」
戒人がヘラクスを討滅したのと同時に2体の鉄騎を葬ったレオと大輝は鎧を解除し、戒人のもとに駆け出そうとした。
しかし、まだ生き残っている号竜人が、消耗した戒人を始末するために戒人に接近した。
「!しまった!まだ生き残りがいたか!?」
鉄騎との戦った時に、号竜人も全滅させたと思っていたが、まだ生き残りがいた。
大輝とレオは急ぎ救援に向かおうとするが、このままでは間に合わなかった。
「こうなったら……!」
レオは魔導筆を取り出し、法術を放とうとしたその時だった。
__ヒュン!!
どこからか手裏剣のようなものが飛んでくると、それは号竜人の体を斬り裂いた。
「!?な、何だ!?」
「今のは一体……」
突然飛んできた手裏剣のようなものに命を救われた戒人だけではなく、レオもその正体がわからず、驚いていた。
手裏剣のようなものは先ほど飛んできた方向へと戻っていった。
戒人たちは手裏剣のようなものが飛んでいった方向をジッと見つめていた。
その手裏剣のようなものは、戒人たちがいる辺りから離れた場所にいた壮年の男がキャッチした。
「……」
その男は漆黒のコートを羽織った男であり、どうやら魔戒騎士のようだった。
その男は手裏剣のようなものをキャッチすると、何処かへと姿を消した。
「……助かったけど、今のは一体……」
「戒人、それを考えるのは後だ!」
「えぇ!統夜君を助けに行きましょう!」
こうしてどうにかヘラクスと号竜人の軍団を全滅させた戒人、大輝、レオの3人は、そのまま統夜たちが向かった研究施設へと向かった。
※※※
戒人たちがヘラクスと号竜人の軍団を全滅させる少し前、統夜とアキトは突如現れたアスハの最高傑作である魔導人機と対峙していた。
「……」
統夜は、魔導人機の圧倒的存在感に畏怖の感情を抱いていた。
(こいつが……。多くの人間を犠牲にして作った魔導具か……。必ず壊してやる!これ以上、犠牲者を出さないためにも!)
しかし、統夜はどうにか恐怖を振り切り、魔導人機を破壊することを決意していた。
「ククク……。どうした、月影統夜。かかって来い。そこの小娘どもを救いたいのだろう?」
「あぁ、お前を倒して唯たちを助けるさ!!」
統夜は魔戒剣を構えると、魔導人機を睨みつけた。
そして……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
魔導人機目掛けて駆け出していった。
「ククク……。計画通りだ!」
アスハは不敵な笑みを浮かべると、魔導人機の中から何かを起動させた。
すると……。
「……!?この超音波、まさか……」
統夜は今しがた聞こえてきた耳障りな音に聞き覚えがあった。
そして……。
「……!?そ、そんな馬鹿な……!!これは……」
統夜は何故か魔戒剣を持ち上げることが出来なくなってしまった。
この現象を統夜は知っていたのだが、知っていても驚きは隠せなかった。
「ククク……。驚いたか?それも無理はないよな。この兵器は貴様らが破壊したハズだもんな……」
統夜たちが困惑する中、アスハだけは不敵な笑みを浮かべていた。
「!?な、何よあれ!?統夜君は何で魔戒剣が持てなくなってるの!?」
「まさか……!魔戒騎士狩りに使われた兵器がここに?」
統夜から魔戒騎士狩りに使われた兵器のことを聞いていた梓は、統夜が魔戒剣を扱えないこの状況を見て、その兵器が再び使われているのではないかと推測していた。
「まさか、あの兵器はあれだけじゃなかったのか!?」
「ここに乗り込む前にもっと警戒しておくんだったな。まぁ、貴様らはあの兵器が複数あるとは思っていなかったようだからそれも無意味だったがな!」
統夜の魔戒剣を封じたアスハは、勝ち誇ったかのように笑っていた。
「月影統夜、貴様がどれほどの魔戒騎士だろうと、丸腰でこの魔導人機を倒せると思うな!」
「くっ……」
統夜は唇を噛み締め、焦りを見せていた。
アスハの言う通り、丸腰の状態では魔導人機は荷が重すぎる相手だからである。
「……だが、やるしかない!唯たちを助けるために!」
統夜は格闘戦の構えをして、魔導人機を睨みつけた。
「統夜、援護するぜ!生身じゃあいつは倒せないからな」
「すまんな、アキト。俺が奴を引きつける。その隙に攻撃を頼む」
「あぁ、任せとけ!」
統夜は魔導人機に向かって突撃した。
「!?統夜先輩!無茶です!」
「フン、魔戒剣が使えぬからといって狂ったか!いいだろう。速やかに貴様を始末してやるよ!!」
アスハは魔導人機を操作すると、魔導人機は右手を突きつけ、その右手を統夜目掛けて飛ばした。
「くっ!」
統夜は飛んでくる魔導人機の右手をどうにかかわした。
それを見ていたアキトは……。
「ロケットパンチ……。男のロマンじゃねぇか!!」
魔導人機の繰り出したロケットパンチのような攻撃にアキトはキラキラと目を輝かせていた。
「アキトさん!戦いに集中して下さい!!」
「……っと、そうだった!!」
梓の叱責で我に返ったアキトは、魔戒銃を魔導人機に向けて発砲した。
しかし、その攻撃は魔導人機に傷1つつけることは出来なかった。
「魔戒法師!貴様は何故俺の邪魔をする!!貴様だって魔戒騎士は疎んじているのだろう?」
「……まぁ、確かに、魔戒騎士って嫌な奴もいるよな」
「っ!アキト……」
統夜はアキトの本音とも言える言葉を聞いて、息を飲んでいた。
「だけどな、俺が魔導具を作るのは魔戒騎士と魔戒法師の負担を減らして多くの人を守るためなんだ!お前みたいに恨みだけで魔戒騎士を滅ぼすような奴と一緒にするな!!」
「……」
統夜は改めてアキトの本音を知ることが出来た。
アキトもまた守りし者としての強い思いを持っており、統夜はそのことがとても嬉しかった。
「フン、所詮は貴様も愚かな魔戒騎士に毒された愚か者か……。良いだろう!貴様も一緒に始末してやるよ!!」
「させるかよ!!俺はお前みたいな奴は認めない!絶対にここで倒す!!」
アキトは魔導筆を取り出すと、魔戒銃の銃身に法術を放った。
その後、アキトはその状態で魔戒銃を発砲した。
魔戒銃の弾が魔導人機に着弾した瞬間、爆発が起こった。
「よし、直撃だ!」
その一撃は魔導人機に直撃し、アキトは攻撃に手応えを感じていた。
しかし……。
「……!?き、効いてないのかよ!?」
「愚かな……。そんなおもちゃでこの魔導人機を倒せると思うな!!」
アスハは魔導人機を操作して、反撃の体制を取った。
魔導人機はアキトに攻撃を仕掛けるためにアキトに接近した。
「くっ!こいつ!!」
アキトは魔戒銃を発砲したり、法術を放ったりとどうにか魔導人機を近付けさせないよう努力したが、全ての攻撃は魔導人機には効いていなかった。
「フン!攻撃は……こうやるんだ!!」
アキトに接近した魔導人機は、右手でアキトを薙ぎ払うと、アキトは凄い勢いで施設の壁に叩きつけられた。
その衝撃はかなりのものだったのか、アキトが叩きつけられた壁は崩壊し、アキトはさらに吹き飛ばされた。
魔導人機から受けたダメージはかなりのものだったのか、アキトは起き上がることが出来ず、その場で気を失ってしまった。
「……!!アキト!!」
統夜は心配のあまりアキトの方を見ていたのだが……。
「余所見をしてる暇があるのか!?」
魔導人機は尻尾による攻撃で、統夜を吹き飛ばした。
「ぐぁっ……!」
吹き飛ばされた衝撃がかなりのものだったのか、統夜の指に嵌められたイルバが飛び出してしまった。
「!?イルバが!!」
イルバが吹き飛ばされて地面に叩きつけられたのを見ていた梓は急いでイルバのもとへ駈け出すと、イルバを拾った。
《……梓、急いで俺を指に嵌めろ!》
(ひゃあ!?今の声、どこから!?)
梓がイルバを手にした瞬間、イルバの声が脳内に響いて来たので、梓は驚いていた。
しかし、梓は声を出していないため、梓がイルバを拾ったことはアスハには気付かれなかった。
《急げ!時間がないぞ!!》
再びイルバの声が聞こえて来た瞬間、梓はイルバがテレパシーを送っていることに気付き、イルバを自分の指に嵌めた。
《いいか、梓。一刻の猶予もない。統夜が奴に反撃するためにはこの超音波の発生源を破壊しなければいけない》
(……そうは言っても、場所はわかるの?)
《あぁ。妙な気配を感じるぜ。そこを辿れば……》
梓は試しに心に思ったことを念じてみたらイルバに通じたので、この状況でイルバと話をする方法を理解した。
《とりあえずこの部屋を出て、近くの階段に向かうんだ。俺たちの動きを奴に悟られるなよ》
(う、うん……)
梓はこっそりと部屋を抜け出すと、近くにあった階段を上がっていった。
梓が小柄な体型だったのが幸いだったのか、アスハは梓がいなくなったことに全く気付いていなかった。
「くぅ……!」
統夜はゆっくりと立ち上がるのだが、梓がイルバを指に嵌めて部屋を出て行くところを偶然見かけた。
その瞬間、イルバに策があると確信し、どうにか時間稼ぎをしようと決意した。
「ほらほら!どうしたどうしたぁ!!」
魔導人機は連続でパンチを繰り出すのだが、統夜はどうにか攻撃をかわしていたのだが、先ほどのダメージが残っており、徐々に動きが鈍くなってしまった。
「フン……隙あり!」
魔導人機の何度目かのパンチが統夜の腹部に直撃すると、統夜はその場に倒れ込んだ。
「「統夜!!」」
「「統夜君!!」」
「やーくん!!」
その場にいる全員が、統夜が倒れるのを見て、思わず声をあげた。
「……フン、ようやく落ち着いたか……。これでこいつをなぶり殺すことが出来る……」
アスハは魔導人機の力で統夜を痛ぶろうとしており、不敵な笑みを浮かべていた。
その頃、統夜を救うために超音波の発生源を探していた梓は、イルバのナビゲーションを頼りに最上階である4階にたどり着いた。
「イルバ、この階で合ってるの?」
『あぁ。妙な気配が近付いてきたぜ!』
「それじゃあ急ごう!」
梓はイルバのナビゲーションで超音波の発生源に向かおうとしたその時だった。
突如、号竜人が梓の前に現れた。
「ひっ!?ほ、ホラー!?」
『梓、落ち着け。こいつは魔導具だ。ホラーじゃない』
ここに1体だけ号竜人がいるのは、アスハは統夜たちが超音波の発生源を見つけると想定し、その守護役として配置していた。
「ど、どうしよう!私、戦えないよ!?」
梓は魔戒騎士でも魔戒法師でもないため、目の前にいる号竜人と戦う術はなかった。
しかし……。
『心配ない!俺を奴に突きつけろ!』
「こ、こう?」
梓はイルバの言われた通りにイルバを号竜人に向けると、イルバは口から魔導火を吐き出し、その炎で号竜人は破壊された。
「す、凄い……」
『梓、先を急ぐぞ!!』
「う、うん!!」
梓はイルバのナビゲーションを頼りに超音波の発生源へと向かった。
イルバのナビゲーションでたどり着いた場所は、この研究施設全体に繋がっているコンピュータールームだった。
「イルバ。もしかして、ここが?」
『あぁ。どうやらここのシステムをダウンさせないと、超音波は消えないみたいだぜ』
「ど、どうすればいいの!?私、コンピューターなんてまともに触れないよ!!」
梓は学校で習うレベルしかパソコンを扱うことが出来ず、プログラミングなどは出来るはずもなかった。
『大丈夫だ!俺様の指示通りにキーボードを操作しろ!』
「わ、わかった!」
梓はキーボードのある場所まで移動すると、イルバの指示通りにキーボードを叩いていた。
その動きはぎこちないものの、着実にこの施設のメインコンピューターに接続しようとしていた。
梓がキーボードと格闘を始めて5分が経過した……。
『梓、最後にエンターキーを押すんだ』
「うん!」
梓は力強くエンターキーを押した。
すると、梓の前にある大型のモニターに、とあるものが映されていた。
それは……。
「統夜先輩!!」
魔導人機に追い詰められ、痛ぶられている統夜だった。
『!?妙な気配が消えない……。こうなったらこいつを破壊するしかないか……』
メインコンピューターを操作しても、超音波は消えなかったので、イルバはコンピューター自体を破壊するしかないと判断した。
イルバはすぐに魔導火でコンピューターを破壊しようとするのだが……。
『……俺は、特にお前みたいな奴が大嫌いなんだよ!!』
アスハは統夜に対して恨み言を言いながら統夜に蹴りをいれていた。
『がぁっ!!ぐぅ!!』
そして、統夜が苦しみの声をあげるのも、生々しく聞こえてきた。
「……」
その言葉を聞いた梓は、怒りで肩を震わせていた。
梓がイルバのナビゲーションでこの施設の最上階に到着した頃、統夜は魔導人機に痛ぶられていた。
「がぁっ!」
1発蹴りをいれる度にアスハは高笑いをしていた。
「やめて……もうやめて!!やーくんが死んじゃう!!」
唯は目に涙をいっぱい溜めて訴えかけるが、その言葉はアスハに届くはずもなかった。
「フン!先ほど言っただろう?こいつが無残に殺される様を見せるってな」
アスハは魔導人機を操作し、再び統夜の腹部に蹴りをいれた。
「ぐぅ……!」
統夜はあまりの激痛に顔を歪めていた。
「もうやめなさい!!あなた!何でそこまで酷いことが平然と出来るの!?」
教え子が傷つくのを見て耐えられなくなったさわ子が、魔導人機を睨みつけながらこう言い放った。
「あぁん!?何でだぁ?そんなもん、俺が魔戒騎士のことを恨んでるからに決まってるだろうが!!」
「なっ……!?あなたねぇ……!!」
「俺は、特にお前みたいな奴が大嫌いなんだよ!」
アスハは怒りに満ちた表情になると、再び統夜に蹴りを食らわせた。
「がぁっ!……ぐぅ!!」
「魔戒騎士など魔戒剣がなけりゃ何も出来ない無能なのに、このクソガキは若いってだけでチヤホヤされていやがる!」
アスハが統夜のことを嫌う理由は、統夜への嫉妬だった。
アスハは魔戒法師として認められることはなかったが、統夜は魔戒騎士として番犬所だけではなく、元老院にも評価されている。
アスハはそのことに嫉妬していたため、統夜のことが許せなかった。
「グォルブとかいうザコを倒しただけでチヤホヤされて……。そういうところが気にいらねぇんだよ!!」
アスハは再び統夜に蹴りをいれた。
「いい加減にしなさい!!あなたはただ統夜君に嫉妬してるだけじゃない!?そんなくだらない理由で、私の教え子は殺させないわよ!!」
「黙れ!!黙らないと貴様から殺すぞ!!」
「やれるもんならやってみなさいよ!!あんたなんてちっとも怖くないわ!!」
さわ子は、アスハと魔導人機に臆することなく、声を荒げて魔導人機を睨みつけていた。
「いいだろう。まずは貴様から殺してやる!!」
アスハはさわ子を始末するために魔導人機を向けようとしたのだが……。
「ま……待て!!お前の狙いは俺なら……俺だけを狙え!!」
統夜は気力を振り絞り、こうアスハに向けて叫んだ。
「フン、どいつもこいつも死にたがりやがって……。いいだろう!」
アスハは魔導人機を操作すると、統夜の胸ぐらを掴み、統夜を持ち上げた。
「やーくん!!ダメだよ!!このままじゃやーくんが!!」
「……大丈夫だ、唯……。俺は……必ずお前らを……!」
統夜はここまで痛めつけられても、最後まで諦めてはいなかった。
「フン!目障りだ!2度と喋れないよう、その首、掻っ切ってやる!!」
アスハは魔導人機の力で、統夜の首を斬り落とし、殺そうとしていた。
それを実行しようとしたその時だった。
『……さっきから聞いていれば、いい加減にして下さい!!』
突如、スピーカーから梓の剣幕が聞こえてきた。
「あ、梓……?」
「あ、あずにゃん!?どうして……?」
唯は梓が別の場所にいることに驚き、統夜はイルバの策の成功を確信して笑みを浮かべていた。
「!?あのチビか!!いつの間に移動しやがった!?」
アスハはようやくここで、梓がイルバと共に超音波の発生源を破壊するべく動き出したことに気付いたのであった。
『あなたはただ気に入らない人を消そうとしてるだけでそこら辺の不良と何ら変わりはありません!』
「くそっ!見張りもやられたのか!役立たずのスクラップが!!」
念のために配置した号竜人が破壊されたことを知り、舌打ちを打っていた。
『……色々あなたに言いたいことはありますが、特に言いたいことが1つあります!』
梓はこのように話を切り出すと、深呼吸をしていた。
そして……。
『私の大切な先輩を……。これ以上……いじめるなぁ!!』
梓がこう絶叫したその時、スピーカーから何かが壊れる音が聞こえた。
イルバがメインコンピューターを魔導火で破壊したのである。
その結果……。
「……!!今だ!」
統夜は一瞬の隙をついて魔導人機の拘束から脱出して、魔戒剣を回収しようとした。
「!!しまった!だが、やらせるかよぉ!!」
アスハは統夜を逃してしまったが、すかさず統夜目掛けてパンチを放った。
「……!?ダメだ!かわせねぇ!」
ダメージが大きかったからか、まともな回避行動が取れなかった。
魔導人機の拳が統夜に迫ろうとしていたその時だった。
__ヒュン!!
どこからか、手裏剣のようなものが飛んでくると、それは魔導人機の体を斬り裂いた。
「くっ……!」
そのダメージがあったからか、魔導人機は動きを止めた。
その隙を見逃すことなく、統夜は魔戒剣を回収した。
そして統夜は唯たちのもとへ駈け出すと、拘束しているものを魔戒剣で斬り裂いた。
「やーくん!!良かった!良かったよぉ!」
唯は統夜に抱きつこうとするが、統夜はそれをかわした。
「唯、それは後にしてくれ。……先生!みんなを頼みます!!」
「わかったわ!さぁ、みんな、早く!!」
さわ子は唯たちを安全な場所まで誘導すると、唯たちはその場所まで駆け出した。
統夜は魔戒剣を構え、唯たちの安全を確保していた。
「くそっ……!あれは……円参か……!影の魔戒騎士……!コソコソすることしか能のない臆病者が……!」
アスハは、統夜を救うかのように飛んできた手裏剣のようなものが影の魔戒騎士が所持している円参と呼ばれるものであることを理解していた。
それを知り、影の魔戒騎士と呼ばれる者に対して怒りを向けていた。
その隙に、唯たちはさわ子と共に安全な場所まで移動することが出来た。
「さて……!ここから反撃開始だぜ!」
統夜は不敵な笑みを浮かべると、魔導人機を睨みつけた。
統夜が反撃の体勢を整えた頃、先ほど戒人を救った漆黒のコートの男が、少し前に放った手裏剣のようなもの……円参を回収した。
「……」
そして男は、統夜の戦いをジッと見守っていた。
『……ねぇ、クロウ。あの子を助けに行かなくてもいいの?』
男が黙って統夜の戦いを見守っていると、突如若い女性のような声が聞こえてきた。
「……反撃のお膳立てをしたんだ。私がこれ以上手を下す必要はない」
『だけどクロウ、あのデカブツに乗ってる奴って元老院に討伐か捕獲を依頼されたターゲットでしょ?私たちも手助けした方がいいんじゃないの?』
「……あの小僧が奴を倒せなければ私が倒すだけだ。だが、あの小僧なら奴を倒すだろう。だから私は自ら手を下しはしない」
クロウと呼ばれる男は、統夜の実力を信じているのか、姿を現して応援することはせず、統夜の戦いを見守ることにした。
そして、統夜はここから魔導人機に向けて反撃を始めるのであった。
統夜と魔導人機……。果たして勝つのはどちらになるのか?
……続く。
__次回予告__
『やれやれ、一時はどうなるかと思ったが、どうにかなったな。統夜、ここから反撃だぜ!次回、「銀狼 後編」。ド派手な一撃、お見舞いするぜ!!』
アスハの策略によって最大のピンチを迎えた統夜でしたが、梓のファインプレーのおかげで、統夜は反撃を始めることが出来ました。
いざという時の梓の行動力は凄いですよね。今回の戦いでは、梓を連れてきたからこそ、統夜は危機を脱したと思います。
そして、今回現れたクロウと呼ばれた人物。
もちろん皆さんご存知のあのクロウではなく、今回出てきたのはあのクロウのお父さんということになります。
クロウの過去は原作では触れられていないので、ここでクロウのお父さんを出しても問題ないかなと思い、登場させました。
さて、次回はピンチを脱した統夜が魔導人機に反撃を仕掛けます。
果たして統夜は、強大な力を持つ魔導人機に打ち勝つことは出来るのか?
それでは、次回をお楽しみに!