さらに今回はさりげなく原作キャラを出しているのでそこも楽しみにして下さい!
それでは第7話をお楽しみ下さい!
銀牙騎士絶狼の称号を持つ零が統夜のもとを訪れ、共にホラーネロを討伐した翌日、統夜はいつも通りエレメントの浄化を行ってから登校した。
そして放課後になると、1時間ほど部活に顔を出してから番犬所に向かった。
統夜はイレスに挨拶をすると、魔戒剣を浄化する狼の像の前に立った。
そして魔戒剣を抜き、狼の像の口の中に入れたのだが……。
「うぉっ!?な、何だ?」
不思議な光に包まれると、統夜は狼の像の中に吸い込まれていった。
「……統夜。いよいよ試練の時が来たのですね……」
統夜の様子を見ていたイレスはボソッと呟いていた。
※※※
統夜が目を覚ますとそこは番犬所の中ではなく、正体不明の真っ白な空間であった。
だが、あちらこちらに魔戒語で書かれた文章が存在している。
「……イルバ、ここがどこだかわかるか?」
『あぁ。どうやら、統夜。お前さんは昨日のホラーでちょうど数を満たしたようだ』
「数を満たす?ということはもしかして……」
統夜はイルバの言葉を聞いて今自分が置かれている状況に気付いた。
『月影統夜。よく来た……』
突如声が聞こえてきたのだが、統夜には聞き覚えのない声であった。
「誰だ!それにここは?」
『真魔界に続く内なる魔界だ。お前は今、父親が歩んだ道を辿ろうとしている』
「……いい加減姿を現せ!」
統夜は謎の声に苛立って声を荒げると、ガシン!ガシン!と足音が聞こえてきた。
そして統夜の目の前に現れたのは……。
「……!奏狼……」
白銀の鎧を纏った騎士であり、統夜が継承した鎧である奏狼であった。
「お前は一体何者だ!」
『私は……。お前の内なる影。そして……お前のもっとも恐れる存在だ!』
奏狼がいきなり皇輝剣を抜いて襲って来たので、統夜は魔戒剣を抜いて奏狼の攻撃を防いだ。
「くっ……!」
今の一撃は小手調べだったのか、奏狼はすぐさま皇輝剣を鞘に納めた。
『お前が封印したホラーは100体を超えた』
(!そうか、昨日封印したネロでちょうど100体だったのか!)
統夜は昨日封印したネロが自ら封印した100体目のホラーであった。
『その証として、白皇(びゃくおう)を召還する許しを与える』
「白皇?それってもしかして……」
『魔界より生まれし力。その力が欲しくば、私を倒すことだ。それが、お前に課せられた試練だ』
(魔界より生まれし力?……それってやっぱり魔導馬のこと……だよな?)
魔戒騎士は自らが封印したホラーが100体を超えると、魔導馬を与えられる。
そのためには試練を受けなければいけない。
統夜はその話を聞いたことがあった。
「……そうか。だったらあんたを倒す!大切な人を守る力を得るためにも!」
統夜は手に持っていた魔戒剣を強く握りしめると、奏狼めがけて魔戒剣を一閃した。
しかし、あっさり防がれただけではなく、魔戒剣を奪われてしまい、統夜は奏狼の放つ回し蹴りを受けて吹き飛んでしまった。
「がぁっ!……くっ……!」
奏狼はそのまま追撃をすることはなく、統夜の魔戒剣を統夜の目の前に投げた。
『どうした、その程度か?それでは何も守れないぞ。軽音部と言ったか?貴様のそのちっぽけでくだらない時間さえもな』
奏狼の言葉を聞いて、統夜の中で何かが切れてしまった。
「貴様ぁ!!」
統夜は怒りを露わにすると、すぐさま魔戒剣を拾って奏狼に斬りかかった。
しかし、それよりも奏狼の剣の方が早く、奏狼の斬撃を受けた統夜は吹き飛ばされてしまった。
「このぉ……!」
統夜が怯まず奏狼に向かおうとしたその時だった。
『統夜!ホラーがゲートより出現しました。直ちに向かうのです』
イレスからホラー討伐の指令が来た。
『行ってこい。まずは魔戒騎士としての使命を果たすのだ。……私はいつでもここでお前を待っている』
ホラー出現により内なる影との試練は一時中断となってしまい、統夜はホラー討伐へと向かっていった。
※※※
ホラー討伐に向かった統夜は、イルバのナビゲーションを頼りに廃工場に来ていた。
そこには明らかに不審な巨岩があった。
「なぁ、イルバ。まさかとは思うけど、ホラーってあれか?」
統夜は目の前にある不審な巨岩を指差していた。
『あぁ。そのようだぜ』
すると、怪しげな巨岩が姿を変え、巨大なホラーへと姿を変えた。
『統夜。やつはゴレム。こいつの体は相当硬いぜ。気を付けろ』
「わかった!」
統夜は魔戒剣を抜くと、大きくジャンプをしてゴレムに斬りかかるが、ゴレムの体は頑丈で傷をつけることは出来なかった。
「くそっ!やっぱりダメか……」
統夜は一度距離を取るが、ゴレムは少しずつ近付いてきた。
統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれ、奏狼の鎧を身に纏った。
統夜はゴレムの上に乗り、一撃、二撃と皇輝剣でゴレムを斬りつけた。
しかし、皇輝剣であってもゴレムに傷をつけることは出来なかった。
統夜は一度ゴレムから離れて距離を取った。
「くそっ!まだだ!!」
統夜は再びゴレム目掛けて斬りかかるが、ゴレムが統夜にパンチを繰り出した。
岩のような硬い体から繰り出されるパンチはかなり強力であり、統夜は壁に叩きつけられた。
そしてその衝撃で、身に纏っていた鎧が解除されてしまった。
「ぐぁっ!!……くっ、くそっ……!」
統夜は再び立ち上がろうとするが、ゴレムは岩の姿に戻ると、どこかへ去ってしまった。
「……皇輝剣の一撃でも駄目だなんて……」
統夜は魔戒剣を眺めながらこう呟いた。
『統夜。剣だけの問題じゃないぜ。……内なる白銀騎士に心を乱されたんじゃないのか?』
「…!そ、そんな事……」
そんな事はない。統夜はそう言い切ることは出来なかった。
『統夜。今のままじゃ内なる影との試練なんて到底乗り越えられないぜ』
「!何だと……!」
『試練を乗り越えるにはどうするべきか、じっくり考えるんだな』
「………」
ホラーゴレムはどこかへ行ってしまったので、とりあえずこの日は家に帰ることにした。
※※※
そして翌日、統夜は魔戒騎士としての務めであるエレメントの浄化を行ってから登校した。
そして学校に到着したのだが、統夜はかなり怖い顔で考え事をしており、誰も声をかけられずにいた。
そんな中、授業が始まったのだが……。
(どうすればいい……?どうすれば奴に勝てるんだ……?)
統夜は授業そっちのけで、険しい顔をしながら考え事をしていた。
その様は相当殺気立ったものだったのか、授業をしている先生は集中出来ずにいた。
「………」
「……月影君」
「………」
先生はそんな統夜を注意するために声をかけるが、統夜から反応はなかった。
クラスメイトたちも統夜の様子が気になっていたのか視線が統夜に集中していた。
しかし、統夜は気付く素振りを見せなかった。
「……月影君!」
「………」
今度は少しだけ声を大きくするが、統夜の反応はなかった。
「月影君!!」
「……何ですか?」
統夜はようやく気付いて先生を見るが、はたから見たらギロリと鋭い視線で先生を睨みつけるように見えた。
「うっ……。い、いや……。今授業中だから……。ちゃんと授業を聞いてほしいなぁ、なんて」
統夜の鋭い眼に怯えた先生は恐る恐る統夜のことを注意していた。
統夜はそこでようやく気付いたのかハッとすると、元の統夜の顔に戻っていた。
「あ、すいません……」
統夜がいつもの表情に戻ったので先生もクラスメイトたちもホッとしていた。
こうして授業は再開された。
(……統夜のやつ、相当思いつめてやがるな……)
イルバは思いつめている統夜に対していたたまれない気持ちになっていた。
その後も統夜は考え事を繰り返し、そんな事をしてるうちに授業は終わってしまった。
そしてそのまま昼休みになったのだが……。
「………」
相変わらず考え事を続けていた。
その時だった……。
「やーくん、いる?」
唯がひょこっと2年3組の教室を覗いていた。
「あっ!平沢さん!ちょうど良かった!」
統夜のクラスメイトの少女が唯に声をかけた。
「はい?」
「あなた、月影君と一緒にご飯を食べるんでしょう?だったら息抜きにどこか連れてってあげてよ。月影君、朝からずっとあの調子なの」
「うん、そのつもりだったよ」
唯はそう言うと統夜に駆け寄った。
《統夜。唯が来たようだぞ》
イルバがテレパシーで伝えたため、統夜はすぐ唯の存在に気付いた。
「あぁ、唯か。どうしたんだ?」
「ねぇ、やーくん。お昼なんだけど、みんなと一緒に部室で食べようよ♪」
「いや……。俺はいいよ」
「ダメだよぉ〜!みんな待ってるもん!ほらっ、行こっ!」
「おい、引っ張るなって!」
唯は統夜を無理やり立たせると観念したのか唯と一緒に部室に向かうことになった。
※※※
音楽準備室に到着すると、律、澪、紬、梓の4人が弁当を広げてまっていた。
「おっ、統夜やっと来たか」
「遅いぞ統夜!あたしたちはお腹ペコペコなんだからな!」
「……あぁ、悪い悪い」
「?統夜先輩?」
梓は統夜が浮かない表情をしていることにすぐ気付いた。
「ささっ、唯ちゃんも統夜君も座って。今お茶淹れるから♪」
ムギが紅茶の準備をしている間に唯と統夜は自分の席に座ると、それぞれ弁当を広げた。
そして統夜は制服のポケットに入れていたイルバ専用のスタンドを置くと、イルバを外してそこにセットした。
ムギが人数分の紅茶を淹れると、ティータイムではなくランチタイムが始まった。
「……統夜先輩。昨日は何かあったんですか?」
みんなの食事がほぼ終わるタイミングで梓が話を切り出した。
「……何のことだ?」
「とぼけないでください!統夜先輩、さっきからずっと上の空じゃないですか!?」
「そう言えばさっきやーくんを呼びに教室に行ったらクラスの子達がみんな怯えてたよ」
「統夜……ひょっとして何か考え事をしてるのか?」
「……もしかして騎士に関することなの?」
「お前らには関係ないだろ」
「統夜!この前も言ったろ?あたしたちの前では無理をしないでくれって。あたしたちだって話くらいなら聞けるからさ」
「……いや、俺は……」
唯たちはどうにか統夜に何があったか聞き出そうとするが、強情な統夜は口を割らなかった。
『やれやれ。それじゃあ俺様から話すぜ』
「おい、イルバ!」
『そうウジウジ考えてるくらいなら話を聞いてもらった方がマシだぜ。そうしてても答えなんて見つからないとは思わないのか?』
イルバの正論に統夜は何も言い返すことが出来なかった。
『統夜は今魔戒騎士として大事な試練を受けているんだよ』
「「「「「試練?」」」」」
『この前涼邑零と共にホラー討伐に行っただろう?そこで統夜は100体目のホラーを封印したんだ』
「えっ?ということは統夜君は全部で100体のホラーをやっつけたって事?」
「100体かぁ……。凄いな!」
『いや、ホラーを100体討伐なんてそこそこの魔戒騎士なら誰でもやり遂げるのさ。問題はここからなんだ』
「イルバ、その問題って一体何なんだ?」
『詳しいことはさすがに話せないが、統夜は今己の内なる影との試練を受けているんだ』
「内なる影との試練……ですか?」
『あぁ、その試練を乗り越えないと一人前の魔戒騎士とは言えないからな』
「それで統夜君はそれを乗り越えるためにはどうするべきか悩んでるのね?」
『あぁ。統夜は目の前に現れた白銀騎士に相当心を乱されたみたいだ。昨日現れたホラーも取り逃がしたしな』
「ってことはその試験官はその白銀騎士ってことなのか?」
『あぁ、そういう事になる。今の心乱れた状態では試練を乗り越えるだけじゃない。魔戒騎士としてもやっていけないと断言するぜ』
「「「「「………」」」」」
統夜の事情を知った唯たちは言葉を失っていた。
「……これでわかっただろ?試練を乗り越えるためにはもっと強くなるしかないんだよ……。弱いままじゃ……」
統夜は拳を握りしめて唇を噛んでいた。
「……弱いって認める事ってそんなに悪い事なのかなぁ?」
唯が口を開くと、全員の視線が唯に集中していた。
「私思うんだ。強くなろうとすることより弱いってことを認める事の方がよっぽど難しいことだと思うんだよね。特にやーくんみたいな魔戒騎士だったら尚更」
「「「「………」」」」
『ほぉ……』
唯のあまりにもまともな言葉に統夜以外の4人は言葉を失い、イルバは感心していた。
「自分の弱さを認める……?」
「うん、それってすっごく勇気がいることだと思うんだよね」
「!勇気……か……」
「?やーくん、どしたの?」
「いや、何でもない」
そう答える統夜の表情は先程よりも晴れやかだった。
『統夜。旧魔戒語で「勇気」を何というか知っているな?』
「あぁ。それは「ソロ」。俺が継承した名前だ」
「へぇ、統夜先輩の受け継いだソロの鎧ってそんな意味があったんですね……」
「あぁ……。どうやら俺は大事なことを忘れていたみたいだ」
『やれやれ……。まさか唯に励まされるとはな……』
「あぁ、ありがとな、唯」
「エヘヘ……。やーくんに褒められた♪」
唯は統夜の感謝の言葉にまんざらでもないようだった。
「……みんな、悪いけど、今日の部活は休ませてくれ。今の俺だったら……」
「わかりました。頑張ってくださいね♪」
「あぁ」
こうして唯たちのおかげで迷いを振り切った統夜は放課後に再び試練を受けることにした。
※※※
放課後、まっすぐ番犬所に向かった統夜は、そのまま試練の間へと向かった。
『……来たな。月影統夜』
「あぁ」
統夜は魔戒剣を抜くと、それを構えて奏狼を睨みつけた。
『……昨日と違って良い顔をしているな。何か掴んだようだな』
「へへっ、それはこれからのお楽しみだぜっ!」
統夜は奏狼めがけて斬りかかるが、奏狼は統夜の一撃を弾き、統夜に皇輝剣による斬撃を与えた。
「ぐっ……!」
統夜は奏狼の一撃を受けて後ろに下がるが、統夜にはまだ心の余裕があった。
再び奏狼に攻撃を仕掛けるが、奏狼に二撃三撃と皇輝剣の攻撃を受けていた。
「くっ……」
統夜は痛みで顔が歪んでいた。
(正面突破は厳しいか…?俺は今でも怖れているのか?)
唯に励まされたものの、統夜はまだ自分には恐れがあるのではないかと予想していた。
(そうだとしても進むしかない!!)
覚悟を決めた統夜は奏狼に突撃した。
奏狼は剣による衝撃波を放つが、恐れず突き進んだ統夜はそのまま奏狼を魔戒剣で貫き刺した。
奏狼に刺した魔戒剣を抜くと、統夜はその場にしゃがみ込むが、すぐ立ち上がった。
『会得したようだな、月影統夜』
「俺1人の力じゃない。俺の大切な仲間が弱さを受け入れる勇気っていうのを教えてくれたから」
『そう、最初にも言ったが、私はお前の内なる影だ。影を恐れれば影に飲み込まれる。しかし、お前は踏み込んできた。内なる影へと。お前は心の弱さや恐れを認めたくなかったのだ』
「今ならそれがハッキリとわかる。俺は、今まで心の弱さや恐れを認めたくなかったってことを」
『それを知ったお前ならこの先の試練も斬り裂くことができるだろう』
『統夜、昨日のホラーがまた現れたようだぜ』
イルバがゴレムの出現を察知した。
『急げ!お前の助けを待つ者がいる!』
内なる影との試練を乗り越えた統夜はホラー討伐に向かっていった。
※※※
統夜が内なる試練のため部活を休んでいた頃、唯たちはいつも通り練習を行い、練習後は行きつけのファストフード店で談笑をしていた。
そして談笑が終わり、帰る時には既に夜になっていた。
「うわぁ……。ずいぶんと暗くなっちゃったねぇ……」
帰り道を歩きながら唯がこう呟いていた。
「もぉ、帰ろうって時に唯先輩がいきなりソフトクリームなんて頼むからですよ」
「だって、アイス食べたかったんだもん……」
本来唯たちは真っ暗になる前に帰る予定だったが、帰る直前に唯がアイスを食べたいとのことでソフトクリームを注文してしまい、遅くなってしまったのだ。
「とりあえず今日は早く帰らないとな」
「そうですね、夜は危ないですから……」
唯たちは過去にホラーに襲われたことがあるので、あまり夜に出歩かないようにしていた。
しかし、今日は偶然遅くなってしまった。
みんなが解散する大きな道に入ったその時であった。
「……あれ?」
「律先輩、どうしたんですか?」
「あんな岩、いつも置いてあったっけ?」
律は少し先にある大きな岩を訝しげに見ていた。
「確かに、明らかに怪しい岩だよな」
「こういう怪しいのは触らない方がいいですから帰りましょ」
「うん、そうね」
唯たちは怪しい岩を無視し先に進もうとしたその時だった。
その岩が形を変え、ホラーゴレムへと姿を変えた。
「ほ、ホラー!?」
「と、とりあえず逃げよう!」
唯たちはとりあえず逃げ出すが、ゴレムはゆっくりと追いかけてくる。
そしてゴレムは体の一部である小さな岩を唯たちめがけて放った。
「ちょ、岩!?」
「あんなの避けられないよ!?」
小さな岩たちが唯たちに迫ってきたその時だった。
ヒュン!!
唯たちの前に誰かが現れたと思ったらその誰かが岩を弾き飛ばした。
「……!やーくん?」
「いや、違うぞ」
唯たちは助けてくれたのが統夜かと思ったが、よく見たら女性だった。
「お前たち……大丈夫か?」
女性は黒いコートを身につけており、その手には筆のような物が握られている。
「あ、あなたは……?」
「もしかして、統夜君と同じ……?」
「お前たち、統夜を知っているのか?」
「はい。私たちの友達で、以前もホラーから助けてくれたんです」
「なるほど……。またホラーに襲われるとはお前たちもついてないな」
「あの……あなたは?」
「俺は烈花。魔戒法師だ」
「「「「「魔戒法師?」」」」」
「安心しろ。お前たちは俺が守る」
烈花は自身の武器である魔導筆を握りしめると、ゴレムに向かっていった。
「………」
「……?ムギちゃん?」
「……格好いい……。あんなに格好いい女性って本当にいるのね……」
紬は烈花の凛々しい姿に見惚れていた。
「あのなぁ……」
律はそんな紬をジト目で見ていた。
「はぁっ!!」
烈花は魔導筆から術を放つが、ゴレムに傷をつけることは出来なかった。
「ちっ……硬いやつだな。これは厄介だ」
ゴレムは反撃と言わんばかりに小さな岩を烈花めがけて放った。
烈花が術を用いて岩を撃ち落そうとしたその時だった。
ガキン!ガキン!
赤いコートの少年……統夜が岩をゴレムに打ち返し、その岩をゴレムにぶつけた。
「統夜!やっと来たか」
「烈花さん、お久しぶりです。そして、唯たちを守ってくれてありがとうございます」
「気にするな。俺たち魔戒法師だって守りし者なんだ」
「烈花さん。奴は俺が斬ります。だから、唯たちを頼みます」
「あぁ、わかった」
烈花は唯たちのもとまで下がると、唯たちの護衛に入った。
「……今度こそ、貴様の陰我、俺が断ち切る!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そして円を描いたところから光が放たれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。
「……統夜先輩……頑張って……!」
梓がこう統夜の応援をしていると、烈花が梓の肩に手を置いた。
「安心しろ。統夜は必ずあのホラーを倒すさ」
烈花は優しく笑みを浮かべながら梓を安心させていた。
「あいつがあのホラーを斬るって言った時、自信にあふれていた顔をしていたからな。俺はあんな顔が出来るやつは信じている」
「……そうですよね……」
梓たちは少し離れた所で統夜の戦いを見守っていた。
そして統夜は、鎧を召還するなりゴレムに飛び掛ると何度も蹴りを放ってゴレムを吹き飛ばした。
「さっそくだけど、お前の力……貸してもらうぜ!」
統夜はゆっくりと立ち上がるゴレムを睨みながらこう呟いた。
ゴレムは反撃と言わんばかりに複数の岩を統夜めがけて放った。
「行くぞ……白皇!!」
複数の岩が統夜に迫ろうとしたその時、統夜の体から光が放たれた。
その光は岩を砕き。そして……。
__ヒヒーン!!
白銀の輝きを放つ馬が現れると、統夜はその馬に跨っていた。
統夜の乗るこの馬こそ魔導馬白皇(びゃくおう)。内なる影との試練を乗り越えて統夜が手に入れた力である。
「ほわぁ……」
「すげぇ……」
「格好いいな……」
「それにすごく綺麗……」
「馬に乗る騎士って絵になりますよね……」
唯たちは魔導馬に乗る雄々しき騎士の姿に見惚れていた。
(統夜……。お前も無事に試練を乗り越えてたんだな……)
烈花はまるで弟子の成長を目の当たりにしているような優しい笑みを浮かべていた。
「行くぞ、白皇!」
白皇に乗った統夜は大きくジャンプをすると、白皇の脚で何度も蹴りを放ち、ゴレムを吹き飛ばした。
ゴレムは大きく吹き飛ばされたものの、ダメージは浅いようであった。
『やっぱりこいつの装甲は硬いな……』
「そうだな……だけどっ!!」
__ヒヒーン!!
白皇の嘶きと共に前足を強く叩きつけると、周囲に衝撃波が放たれた。
「「「「「きゃあっ!!」」」」」
「くっ……!」
その衝撃の強さに唯たちだけではなく、烈花まで怯んでいた。
その時、統夜の皇輝剣に変化が起こった。
剣の形が大きくなり、巨大な剣へと姿を変えた。
この剣は皇輝斬魔剣(こうきざんまけん)。魔導馬白皇の力により、皇輝剣が変化した剣である。
白皇はゴレムめがけて走り出した。
そしてゴレムに迫ると統夜は皇輝斬魔剣を大きく振るった。
すると……。
その一撃によってゴレムの体は真っ二つに切り裂かれた。
切り裂かれたゴレムの体は爆発を起こし、その体は陰我と共に消滅した。
ゴレムを撃破したことを確認した統夜は、鎧を解除した。
それと同時に白皇も魔界へと帰り、皇輝斬魔剣も元の魔戒剣に戻っていた。
「……っと」
騎乗ということもありいつもより高いところからの鎧解除だった。
そのため、華麗に着地をすると、魔戒剣を青い鞘に納めた。
「ふぅ……どうにか倒したな……」
統夜が一息ついて落ち着いていると、唯たちと烈花がこちらに駆け寄ってきた。
「みんな……大丈夫だったか?」
「うん!それにしてもやーくん、さっきのお馬さん、凄かったね!」
「もしかして、あれが?」
「あぁ。内なる影との試練を乗り越えて得た力だよ」
「剣もすごくでっかくなってたよな」
「うん♪凄かったね♪」
「統夜先輩なら試練なんて乗り越えるって思ってました!」
「みんな……」
唯たちからの労いが、統夜には何より嬉しかった。
「統夜、よくやったな」
「烈花さん……」
「お前も魔導馬を得るまで成長したってことだからな。お前の修行を見た俺も嬉しいよ」
統夜は涼邑零だけではなく、烈花にも稽古をつけてもらっていたのだ。
「統夜。近いうちにまた稽古をつけてやるよ。今のお前ならさらに鍛えがいがありそうだからな」
「アハハ……お手柔らかにお願いします……」
烈花の指導が相当厳しかったのか統夜は苦笑いをしていた。
「……さて、俺はもう行くぞ」
「もう行っちゃうんですか?」
紬は寂しそうな表情を浮かべながら烈花を引きとめようとしていた。
「あぁ。俺はこれから行かなきゃいけないところがあるからな」
烈花は烈花で魔戒法師としての使命があるのだろう。
そう統夜は察しがついていた。
「それじゃあ、もしまたこの街に来ることがあったらぜひ私たちの学校に遊びに来て下さい!美味しい紅茶を出しますから♪」
「……わかった。その時は息抜きを兼ねて寄らせてもらおう」
こう烈花が告げると、紬はぱぁっと明るい表情になっていた。
「それじゃあ統夜、またな」
「烈花さんも、お気を付けて」
「あぁ」
こうして烈花はその場から立ち去っていった。
「さて、俺たちも帰ろうか。送るからさ」
「はい!」
こうして内なる影との試練を乗り越えた統夜は、唯たちと共に家路についたのであった。
……続く。
__次回予告__
『やれやれ。高校生というのは面倒くさいんだな。数ヶ月に一度学力を測るテストなるものがあるとはな。次回、「試験」。試練を乗り越えたのに大変だな、統夜』
統夜が無事に魔導馬を手に入れました!
統夜の魔導馬白皇は銀色の轟天というイメージで考えています。
そしてさりげなく烈花を登場させてみました!魔戒烈伝登場記念ではなく、ここら辺で烈花は出そうと考えていました。
次回はけいおんメインの回になるのでかなりほのぼのとした話になると思います。
それでは次回をお楽しみに!