この小説も早いもので60話まで来ました!なのでこの小説もだいぶ長編になってきました。
今回はオリジナル回で、話が進んでいきます。
イルバが予告で面倒なことと言っていましたが、一体何が起こるのか?
それでは、第60話をどうぞ!
……ここはとある街の町外れにある廃工場。
ここで、1人の魔戒騎士が素体ホラーを追い詰めていた。
「はぁっ!」
魔戒騎士は、魔戒剣を一閃し、素体ホラーを斬り裂くと、続いて蹴りを放ち、素体ホラーを吹き飛ばした。
この魔戒騎士は、大輝のように称号を持たない騎士であったが、様々な死地を乗り越えてきたベテランの魔戒騎士であった。
「よし……!一気に決めてやる!」
素体ホラーを物ともしていない魔戒騎士は、このまま素体ホラーにトドメを刺そうとしていた。
「く、くそ……!魔戒騎士め……!こんな所でやられてたまるか!」
そして素体ホラーは、魔戒騎士に追い詰められ、どうにかこの場を乗り切ろうとしていた。
魔戒騎士が素体ホラー目掛けて突撃しようとしたその時だった。
「……?何だ?これは?」
魔戒騎士は何か違和感を感じ、足を止めた。
どこからか超音波のような音が聞こえてきたからである。
しばらくその超音波のような音を聞いていたその時だった。
「……!?ば、馬鹿な!?」
先ほどまで難なく魔戒剣を持てた魔戒騎士だったが、何故か今は魔戒剣を持ち上げることが出来なくなっていたのである。
「な……何故だ!?何故魔戒剣が持てない!?」
急に魔戒剣が持てなくなってしまったことで、魔戒騎士は焦っていた。
「ど、どうなってるんだ?」
突然の出来事に素体ホラーも困惑していた。
しかし……。
「と、とにかく!これはチャンスだ!魔戒騎士を叩き潰してやる!」
魔戒騎士が魔戒剣を扱えないことを知ると、これを好機と考え、魔戒騎士に襲いかかった。
普段であれば冷静に格闘攻撃で素体ホラーをあしらうところだが、魔戒剣が扱えないことに焦ってしまい、冷静さを失っていた。
素体ホラーは魔戒騎士に飛びかかるのだが、魔戒騎士は何故か抵抗することが出来なかった。
そして……。
「貴様をいただくぞ!魔戒騎士!」
魔戒騎士の動きが鈍い隙に、素体ホラーは魔戒騎士を喰らい始めた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔戒騎士の体は粒子となり、素体ホラーの体に吸い込まれていった。
何故か魔戒剣を扱えなくなった魔戒騎士はそのまま素体ホラーに喰われてしまい、その生涯を終えた。
魔戒騎士の体は消滅し、地面に無造作に置かれた魔戒剣だけがその場に残されていた。
「ククク……。これが魔戒騎士の味って奴か……。格別な味じゃないか!」
この素体ホラーは初めて魔戒騎士を喰らったのだが、その味は今まで喰らった人間以上に美味だった。
「……そこそこ実力のある魔戒騎士の味……。堪能したか?」
その時、素体ホラーの前に現れたのは、ホラーだった。
そのホラーは素体ホラーではなく、まるでカブトムシを騎士の鎧にしたかのような姿で、その色は真っ赤だった。
「貴様……同志か?悪いが魔戒騎士は俺が喰ったんだ。貴様には譲れないぞ」
「そんなことはわかっているさ……。俺が喰らいたいのは……貴様だからな!」
カブトムシのような姿をしたホラーは、同志であるはずの素体ホラーを喰らうと宣言していた。
「な!?き、貴様!何を!?」
唐突な言葉に素体ホラーは困惑するが、カブトムシのようなホラーは、どこからか剣を取り出すと、素体ホラーの体を貫いた。
「ぐぁ……!何故……!同志である俺を……!」
「何故……だと?わからないか?」
「き、貴様!まさか、ホラーを……」
素体ホラーが最後まで言い切る前に素体ホラーの体は粒子となり、カブトムシのようなホラーは粒子となった素体ホラーを喰らった。
「……ふぅ。やっぱり魔戒騎士を喰ったホラーの味は格別だな……」
カブトムシのようなホラーは、人間よりもホラーを好んで喰らう、ホラー喰いのホラーだった。
「あの男から受け取った“あれ”は問題なく稼動しているな……。まぁ、奴の実験に協力すればご馳走を食べ放題なんだ。協力はするさ……」
このカブトムシのようなホラーは、何者かの行う実験の協力をしていた。
その後も魔戒騎士を喰らったホラーを喰らいたいと願うこのホラーは、その場から姿を消した。
※※※
期末テストと演芸大会が終了し、この日、テストが全教科返ってきた。
この日の放課後、統夜たちはいつものように音楽準備室に集まり、久しぶりのティータイムを楽しんでいた。
「……ほわぁ……幸せ……♪」
このティータイムを1番心待ちにしていたさわ子は、紅茶を飲みながら幸せそうにしていた。
『おいおい、教師であるお前さんが1番だらだらしてるな……』
紅茶を幸せそうに飲むさわ子を見たイルバは、あまりに教師らしくないさわ子の行動に呆れていた。
「ま、いいんじゃないのか?先生、1番このティータイムを楽しみにしてたし」
さわ子をフォローする統夜も、紅茶を飲みながらだらけていた。
『おいおい、統夜。お前さんも随分とだらけてるな』
「まぁまぁ、いいじゃない♪テストもやっと終わったんだし♪」
期末テストが終わり、最初のティータイムだったので、さわ子や統夜だけではなく、梓もだらけていた。
『やれやれ……。お前ら、揃いに揃って……。まぁ、たまにはこんな日があっても良いか……』
イルバもこのだらけた空気を黙認し、統夜たちはまったりとティータイムを楽しんでいた。
今日1日はこのようにまったりとした空気のまま部活が終わると思われたのだが……。
「と、統夜!!大変だ!」
桜ヶ丘高校を訪れたアキトが血相を変えて音楽準備室に乗り込んできた。
「アキトか……?何だよ、そんなに慌てて」
いつもはそこまで慌てることのないアキトの慌てぶりを見て、統夜は首を傾げていた。
「……こ、これを見ろ!そんなに呑気ではいられないぞ!」
アキトは統夜に指令書を渡すのだが、それを受け取った瞬間、統夜の表情が変わった。
「……!!」
何故統夜の表情が変わったかと言うと……。
『……黒の指令書か……』
統夜にとっては2度目となる黒の指令書だったからである。
「!その黒いのって……」
唯たちもこの黒の指令書には見覚えがあった。
「確か、この指令書が来たってことは、とんでもないことが起こってるってことですよね?」
今からおよそ1年前にも、ディオスが強大な力を持つグォルブを復活させようとしていたのだが、それを阻止するよう命じた指令書も黒の指令書だった。
「統夜、とりあえず指令の内容を確認するんだ!」
「あぁ、そうするよ」
統夜は長椅子に置かれた魔法衣を羽織ると、そこから魔導ライターを取り出した。
黒の指令書を魔導火を放って燃やすと、そこから、魔戒語で書かれた文章が浮かび上がってきた。
それを見た統夜は、音読する前に、その内容に驚愕していた。
「……?統夜先輩?」
「あ、あぁ……」
統夜はすぐ我にかえると、魔戒語で書かれた文章を音読した。
「……現在、魔戒騎士狩りが行われている。これ以上犠牲を出す前に、騎士狩りの原因を調査し、速やかに阻止せよ……」
統夜が音読すると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。
そして……。
「「「「「!!!」」」」」
指令の内容を聞いた唯たちは驚愕していた。
「ま、魔戒騎士狩りって……」
「統夜先輩……」
魔戒騎士狩りということは、多くの魔戒騎士が殺されているということを理解し、梓は不安気な声をあげていた。
「騎士狩りとか、穏やかじゃないな……。さっさと解決させないとな……」
「統夜、とりあえず番犬所に行くぞ」
「そうだな。イレス様に詳しい話を聞かないと」
統夜はアキトと共に番犬所へ向かうため、帰り支度を始めた。
そんな中、騎士狩りと不穏な言葉を聞いた唯たちは不安そうな表情をしていた。
騎士狩りが行われているということは、統夜にも危険が及ぶ可能性があるからである。
統夜は帰り支度を整えると、唯たちが不安そうにしていることに気付いていた。
「……心配するな。俺は死なないし、必ず戻る。信じて待っててくれ」
統夜は自信に満ち溢れた表情でこう断言すると、アキトと共に音楽準備室を後にして、そのまま番犬所へと向かった。
「……統夜先輩、死なないで……」
統夜が音楽準備室を出て行く際、梓は誰にも聞こえないようにボソッと呟いていた。
※※※
統夜とアキトが番犬所に到着すると、既に戒人と大輝は来ており、2人を待っていた。
「……来ましたね、統夜、アキト」
「「はい、イレス様」」
統夜とアキトはイレスに頭を下げるのだが、神妙な面持ちをしていた。
「その顔……。指令の内容は確認したのですね?」
イレスの問いに、統夜とアキトは無言で頷いた。
「それよりもイレス様。魔戒騎士狩りとは……」
統夜は指令に書かれていた魔戒騎士狩りについての詳細を聞こうとしていた。
「1週間くらい前からなのですが、腕自慢の魔戒騎士がことごとくホラーに破れ、ホラーに捕食されたか、命を落としています。称号を持たぬ魔戒騎士がほとんどですが、称号を持つ魔戒騎士も犠牲になっています」
多くの魔戒騎士が犠牲になり始めたのは、つい最近の話であった。
犠牲になったのは、ほとんど称号を持たない魔戒騎士だったのだが、称号を持つ魔戒騎士も何名かホラーの餌食となっていた。
「それで、それだけの数の魔戒騎士を殺したのは一体どんなホラーなんですか?」
「それが……。まだわかっていないのです。どのようなホラーが、どのような手段で多くの魔戒騎士たちを葬ったのか……」
1番由々しき問題なのは、魔戒騎士狩りを行っているホラーの正体がわかっていないことと、どのような手段を用いて魔戒騎士を葬ったのかが未だにわかっていないことだった。
「元老院も調査をしていますが、速やかにこのようなことは阻止しなければいけません。魔戒騎士の皆さんはホラー狩りは必ず2人以上で行うよう元老院から通達がありました。どのようなホラーが相手でも、決して油断はしないで下さい」
イレスからの通達に、統夜たちは無言で頷いた。
「そしたら、二手に分かれて調査を行おう。アキトは統夜と共に行動してくれ。俺は戒人と行動する」
「「わかりました!」」
「おう、わかったぜ!大輝のおっさん!」
大輝がチーム分けを行い、統夜たちはそのチーム分けを了承した。
そんな中、アキトは大輝のことを大輝のおっさんと呼んでいたのだが、アキトは親しみを込めてこのように呼んでいるである。
しかし、大輝はその呼び名を快く思っていないようだった。
「……おっさんはやめろ。……とりあえず行動開始だ!」
大輝の号令に統夜たちが頷くと、統夜たちは番犬所を後にして、魔戒騎士狩りの手がかりを得るために行動を開始した。
※※※
その頃、東京にある「翡翠の番犬所」の管轄である、秋葉原の町外れで、2人の魔戒騎士が1体のホラーと交戦していた。
1人は、称号を持たない魔戒騎士ではあるが、様々な死地を乗り越えてきたベテラン魔戒騎士だった。
そして、もう1人である如月奏夜は、中学3年生ながらも最近魔戒騎士になったばかりの少年である。
翡翠の番犬所の魔戒騎士たちにも魔戒騎士狩りの手がかりを得て、それを阻止するよう指令が来ており、奏夜は新人ということもあり、ベテランの魔戒騎士と行動を共にしていた。
奏夜は先輩騎士と共に素体ホラーと戦っていた。
素体ホラーが相手ということもあり、奏夜たちは、着実に素体ホラーを追い詰めていった。
そして、2人揃って素体ホラーにトドメを刺そうとしたその時だった。
どこからか、超音波のような音が聞こえてきたのである。
「……?これって……」
「……一体どこから……」
奏夜と先輩騎士は、どこからか聞こえてくる超音波のような音に首を傾げていた。
……その時だった。
「……!な、何だ!?」
「魔戒剣が……持てない!?」
奏夜と先輩騎士は共に魔戒剣が持てなくなってしまったのである。
『!奏夜!この近くから妙な音波が出てるのだが、それがソウルメタルの性質を狂わせてるみたいだ!』
奏夜の相棒である、魔導輪キルバが急に魔戒剣が持てなくなった要因を分析していた。
「なるほど……。その音波が魔戒騎士狩りに使われたという訳か……!」
先輩騎士も、魔戒剣が持てないという現状から、謎の音波が魔戒騎士狩りに関わっていることを確信していた。
「……奏夜!お前は急ぎ番犬所に戻ってこの事実を伝えろ!」
「!?しかし!」
「このままじゃ2人揃ってやられるだけだ。俺は、お前のような若い魔戒騎士を死なせる訳にはいかないのだ!」
先輩騎士は、このような所で、若い魔戒騎士の命を散らすということだけは避けたかった。
「それに、原因がわかれば解決策も見つかる。お前に与えられた仕事は大仕事だと心得ろ!」
「!……は、はい!」
先輩騎士の言葉に心を動かされた奏夜は、その言いつけを守ることにした。
持ち上げることの出来ない魔戒剣は放置し、番犬所へと直行した。
「……頼んだぞ、奏夜……」
先輩騎士は奏夜に全てを託すと、丸腰の状態で素体ホラーに戦いを挑んだ。
格闘戦でも素体ホラーを圧倒していたのだが、素手でホラーは倒せず、消耗したところを素体ホラーに喰われてしまった。
そんな中、奏夜は振り返ることなく、番犬所へと向かっていた。
『……奏夜!もうすぐで番犬所だぞ!』
「あぁ!わかっている!」
どうにか番犬所の近くまで来ていた。
しかし、簡単に番犬所に到着することは出来なかった。
「……そこまでだ!」
奏夜の目の前に、カブトムシのような鎧のホラーが現れた。
「くっ、ホラーか!」
『奏夜!このホラーだが、魔戒騎士の鎧に酷似しているぞ!』
「何だと!?」
キルバはこのホラーの容姿が魔戒騎士の鎧に酷似していると話すと、奏夜は驚愕していた。
「フン、冥土の土産に教えてやる。俺の名はヘラクス。そこの魔導輪の言うように元魔戒騎士だ」
「お前か!?多くの魔戒騎士を殺したホラーっていうのは!?」
奏夜は元魔戒騎士であるというヘラクスに臆することなく、ヘラクスを睨みつけた。
「厳密に言うと違うがな。そう仕向けたのは俺さ」
魔戒騎士狩りを仕組んだのは奏夜の目の前にいるヘラクスだった。
「元魔戒騎士であるお前が何でそんなことを!?」
奏夜は魔戒騎士になってまだ日は浅いが、元は魔戒騎士だったヘラクスの所業が許せなかった。
「それをお前が知る必要はない!何故なら……お前は俺に殺されるんだからな!」
ヘラクスはどこからか剣を取り出すと、剣を奏夜に突きつけた。
「……っ!」
現在奏夜は丸腰であり、真っ向から立ち向かって敵う相手ではなかった。
奏夜は魔戒騎士になって日が浅いものの、死を覚悟していた。
そんな中、ヘラクスが奏夜を殺そうと剣を突き刺そうとしたその時だった。
「させませんよ!!」
突如ヘラクスと奏夜の間に何者かが割って入ってくると、剣でヘラクスの攻撃を防ぎ、続けて蹴りを放ってヘラクスを吹き飛ばした。
「!?な、何だ!?」
突然現れた乱入者に奏夜は驚きを隠せなかった。
「き……貴様は!?」
ヘラクスも突然現れた乱入者を睨みつけていた。
「……僕の名は布道レオ。お前たちホラーを狩る魔戒騎士だ!」
奏夜の命を救ったのは、元老院付きの魔戒騎士である、布道レオだった。
「ほぉ、まだ魔戒騎士がいたとはな……。だが、飛んで火に入る夏の虫ってやつだな」
魔戒騎士の乱入にヘラクスは驚くのだが、獲物が増えたと思い、笑みを浮かべていた。
「貴方は下がっていて下さい!こいつは僕が倒します!」
「レオさん……でしたっけ?気を付けて下さい!こいつは、魔戒騎士狩りの首謀者なんです!」
「なるほど……ですが、問題ありません!」
魔戒騎士狩りのことはレオも聞いているハズなのだが、何故かレオは余裕そうな表情をしていた。
「フン、強がりを言えるのも今のうちだ!」
ヘラクスはパチン!と指を鳴らすと、何かを起動させた。
それと同時にレオは手に持っている魔戒剣をヘラクスめがけて投げつけたのだが、ヘラクスはその魔戒剣を弾き飛ばした。
「ほぉ!貴様、魔戒剣が使えなくなることを知っていたか!しかし、丸腰の魔戒騎士など、俺の敵ではない!」
ヘラクスはレオの魔戒剣を弾き飛ばし、そのままレオを殺そうとレオに向かっていった。
しかし、レオは動じることはまったくなく、レオは笑みを浮かべていた。
そして……。
「……やはりそう来ましたね!読んでましたよ!」
レオは魔導筆を取り出すと、それをヘラクスに見せつけるかのように突きつけた。
「!?な、何だと!?貴様、まさか!?」
ヘラクスはレオのもう1つの顔にようやく気付いたのだが、その時には既に手遅れだった。
「そう!僕は魔戒騎士であり、魔戒法師でもあるんだ!」
こう宣言したレオは、法術を放つと、その法術でヘラクスを吹き飛ばした。
「魔戒騎士であり、魔戒法師……」
奏夜はレオのことを知らなかったのか、魔戒騎士と魔戒法師と、2つの顔を持っているレオの存在に驚いていた。
『ほぉ、こいつは驚いたな。奴があの布道レオとはな……』
「キルバ、あの人のことを知ってるのか?」
『まぁな。あの男はかなりの有名人だぞ』
「……ふーん。そうなのか……」
奏夜はレオの兄であるシグマの起こした事件のことは知らなかったので、レオが有名人と聞いて素直に感心していた。
「まさか、魔戒法師が現れるとは予想外だったな。まだ俺の実験は終わっていないのでな、俺はここで失礼させてもらうよ」
「待て!逃してたまるか!」
レオはヘラクスを逃がさないために、術を放とうとするが、その前にヘラクスは衝撃波を放った。
レオは法術でバリアを貼ると、衝撃波を防ぐことは出来たのだが、その隙にヘラクスに逃げられてしまった。
「……!く、くそ!逃げられたか……!」
『あのホラー、随分とやるようじゃないか』
ヘラクスの引き際の良さに、レオの相棒である魔導輪エルヴァは感心していた。
ヘラクスがいなくなったことを確認したレオは、奏夜のもとに駆け寄った。
「……大丈夫ですか?怪我は?」
「いえ、大丈夫です」
「それは良かったです。……えっと……」
「……如月奏夜です」
奏夜は自身の名前をレオに名乗り出た。
「奏夜君……ですか。無事で良かったです」
レオは奏夜が無事だったことがわかり、安堵していた。
「あの……。レオさん……でしたっけ?貴方は、どうしてここに?」
「僕は、例の魔戒騎士狩りの調査でこの街に来たんですけど、どこからか放たれる特殊な超音波がソウルメタルの性質を一時的に変容させることを突き止めたのです」
レオはこの街を訪れた経緯を奏夜に説明し、レオは魔戒騎士狩りが行われたである方法を突き止めていた。
『それをこの番犬所に報告しに行く途中に偶然ホラーに襲われてる坊やを見つけたという訳じゃよ』
さらにエルヴァが補足説明をしていた。
「そうだったんですか……」
『なるほどな、だが、お前が来てくれて助かったよ。魔戒剣を置いてきてしまった状態ではホラーを倒すことは困難だったからな』
「気にしないで下さい。魔戒騎士も魔戒法師も助け合いが大事だと僕は思っていますから」
「あ、ありがとうございます……」
「さぁ、まずは魔戒剣を回収しに行きましょう。番犬所への報告はそれからです」
「は、はい」
レオはまずヘラクスに向けて放り投げた魔戒剣を回収すると、続いて奏夜の魔戒剣の回収に向かった。
奏夜とレオがその現場に到着すると、奏夜が先輩騎士と共に戦った素体ホラーは既に姿を消していた。
さらに、先輩騎士がそのホラーに喰われてしまった証として、先輩騎士が使っていた魔戒剣だけが残されていた。
「……!そ、そんな……!!」
奏夜は先輩騎士がホラーに喰われてしまったことを知ると、絶望が奏夜を支配し、立ち尽くしていた。
「……奏夜君……」
レオは絶望からか立ち尽くしている奏夜を見て、何て声をかければいいのかわからなかった。
『……奏夜!しっかりしろ!魔戒騎士の日常とはこのようなものだ!いつ命を落としてもおかしくはないからな。気持ちを切り替えないと次に死ぬのはお前だぞ!』
相棒であるキルバが、奏夜に叱咤激励をしていた。
奏夜は魔戒騎士になってまだ日が浅いため、当然仲間の死を見るのは初めてだった。
しかし、キルバの指摘通り、そこを乗り越えて気持ちを切り替えなければ、それが命取りになってしまう。
「……そう……だよな……。すまない、キルバ」
『気にするな。お前は魔戒騎士としてはまだまだ未熟なんだ。そんなお前のサポートをするのも俺の仕事だからな』
キルバは魔戒騎士になったばかりの奏夜を全力でサポートするつもりだった。
「あぁ……!俺は1日でも早くなってやるさ!一人前の魔戒騎士に!」
奏夜は先輩騎士の犠牲を糧にして、1日でも早く一人前の魔戒騎士になることを誓った。
そんな奏夜を見て、レオは笑みを浮かべていた。
『……?レオ、一体何がおかしいんだい?』
「いや、今の奏夜君を見てると、統夜君もこんな時期があったなぁと思ってね」
レオは魔戒騎士になったばかりの頃の統夜のことを知っており、今の奏夜をかつての統夜と重ねていた。
「……だから、奏夜君はきっと……統夜君みたいに……」
『そうかもしれないねぇ』
同じく統夜のことを見守っていたエルヴァも奏夜が将来的に統夜のような魔戒騎士になるであろうと信じていた。
こうして、魔戒剣を回収した奏夜は、レオと共に番犬所へ向かい、魔戒騎士狩りの原因とも言える超音波の存在を報告した。
※※※
その頃、桜ヶ丘で魔戒騎士狩りの原因を調査していた統夜とアキトであったが、未だにその足取りを掴めずにいた。
「くそっ!全然手がかりがつかめないな!」
「そうだな。つか、ホラー自体まだ現れてないしな」
調査を開始してからだいぶ経つのだが、ホラーも現れておらず、騎士狩りの情報は全く得られていない状態だった。
『ホラーがいないのは悪いことではないが、このままでは何の情報も得られないな』
「次の犠牲者を出す訳にはいかないんだ。早く何か手がかりを見つけないと……」
このまま何も手がかりがないと再び犠牲者が出る可能性があるため、統夜は焦っていた。
その時だった。
『……統夜!番犬所から呼び出しだ!』
「え?番犬所から?」
「!もしかして……!」
『あぁ。何か手がかりが見つかったのかもしれないな』
「そういうことなら急いで番犬所に戻ろう!」
こうして統夜とアキトは番犬所から呼び出しがあったため、急いで番犬所へと戻ったのである。
統夜とアキトは番犬所へ向かったのだが、そんな2人をジッと見つめる影があった。
「……あれがこの街の魔戒騎士か……。どうやら魔戒法師も一緒のようだな」
番犬所に移動する統夜とアキトを見ていたのは、かつて鉄騎を奪い、統夜を襲わせた謎の男だった。
「……魔戒騎士狩りは順調のようだが、あの兵器の仕組みはバレてしまったみたいだな……」
謎の男は、魔戒騎士狩りの時に用いたとある兵器の仕組みがレオや奏夜のせいで判明してしまったことを知っていた。
しかし、謎の男は焦る様子はなく、笑みを浮かべていた。
「ククク……。ここまでは計画通りだ!仕組みがわかったところで、肝心のその兵器が見つからなければ意味がないからな!」
確かに、レオと奏夜は謎の兵器の仕組みは掴んだものの、肝心の兵器の場所は見つけることが出来なかった。
「まぁ、せいぜい足掻くんだな。俺はどんな手を使っても必ず全て滅ぼしてやるよ。目障りな魔戒騎士共をな!」
謎の男は魔戒騎士に対して憎悪のような感情を抱いており、そのため、ホラー、ヘラクスと協力して魔戒騎士狩りを行っていたのである。
魔戒騎士狩りを阻止するための戦いは、まだ始まったばかりであった……。
……続く。
__次回予告__
『例の魔戒騎士狩りがどのように行われたのかがわかったのはいいが、それを阻止しなければ意味がないぜ!次回、「強襲」。迫り来る、真紅の刃!』
最近ほのぼの回が多かったから、やっと戦闘メインの話が書けた(笑)
面倒なこととは、魔戒剣を使えなくなった魔戒騎士がホラーに狙われる魔戒騎士狩りでした。
今回登場し、生き残った如月奏夜は、次回作の主人公と考えているキャラですが、この時期はまだ魔戒騎士になったばかりで経験も浅い魔戒騎士という設定になっています。
そして、レオも再登場しました。レオなら魔戒剣が使えない状況も乗り越えられると思いまして。
そして、今回登場したホラー、ヘラクスですが、仮面ライダーカブトに出てくるあのライダーとは全く関係ないので、ご了承ください(笑)
ヘラクスの容姿ですが、「牙狼 魔戒ノ花」に登場したホラー、ゴキートを、カブトムシっぽくしたというイメージになっております。
次回も、統夜たちは魔戒騎士狩りを阻止するために奮闘します。
統夜たちは魔戒騎士狩りを阻止することは出来るのか?
それでは、次回をお楽しみに!