牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第59話です!

今回は期末テストと演芸大会が行われます。

いつも以上に勉強を頑張っている統夜ですが、統夜は期末テストを乗り切ることは出来るのか?

そして、演芸大会はどのようなものなのか?

それでは、第59話をどうぞ!




第59話 「演芸」

期末テストが近付いてきており、統夜たちは部活を行わず、テスト勉強に専念していた。

 

統夜もどうにかテスト勉強を行っていたのだが、そんな中、ホラー、レクス討伐の指令を受けると、どうにかレクスを討伐することに成功した。

 

その翌日の休み時間、唯の口から思いもよらぬ話が飛び込んできた。

 

「……演芸大会?」

 

唯は商店街主催の演芸大会があるという話をすると、その演芸大会に出場すると話していたのだ。

 

「面白そうね♪」

 

出場じたいは良いのだが、演芸大会が行われる日にちに問題があった。

 

「……!これ、期末の次の日じゃないか!」

 

澪の言うように、演芸大会は期末試験終了の翌日に行われる。

 

出場するのであれば、テスト勉強と演芸大会の準備と両方頑張らなくてはいけないのである。

 

「うん!だからね、私1人で出るよ!だって、みんなテスト勉強もあるだろうし」

 

唯は同じくテスト勉強をしなくてはいねない統夜たちに気を遣って1人で出場することを決めていた。

 

しかし……。

 

「いやいや、お前もだろ」

 

すかさず統夜のツッコミが飛んできた。

 

「本当に唯ちゃん1人で大丈夫?」

 

「とにかく頑張るって決めたから!」

 

「おいおい!何で辞退しないんだよぉ!」

 

《確かに。こっちを辞退しないとテストに影響が出そうだしな》

 

(そうだよな)

 

律、イルバ、統夜の3人は、演芸大会がテストに大きな影響を与えることを心配していた。

 

しかし……。

 

「……お隣のお婆ちゃん。喜ばせたいんだよ」

 

「お婆ちゃん?」

 

「あぁ、あの人か」

 

唯の言うお婆ちゃんという言葉に紬は首を傾げ、統夜はとみのことを思い浮かべていた。

 

「小さい頃からお世話になってて、恩返しをしたいって思ってたんだよ!」

 

「……へぇ……」

 

「私の晴れ姿を見たいって。優勝して、温泉旅行をプレゼントするんだ!」

 

唯が演芸大会に出場しようと思った大きな理由は、日頃から世話になっているとみに恩返しをしたいからである。

 

演芸大会が優勝商品である温泉旅行をどうにか勝ち取り、それをプレゼントすることで恩返しをしたいと考えていたのである。

 

そのため、試験も演芸大会の準備も両方頑張る覚悟はしていた。

 

「……なるほどな。そんな理由なら納得だよ」

 

統夜はそんな唯の気持ちを汲み取ると、演芸大会出場理由に納得していた。

 

「……素敵!助けた亀に竜宮城とか、お地蔵様に笠とか、そういうお話大好き♪」

 

「昔話……」

 

「いやいや、それはちょっと違うような気がするんだけど……」

 

恩返しという言葉に日本昔話を連想した紬に、統夜はツッコミを入れていた。

 

「唯ちゃん、頑張って!私に出来ることがあれば手伝うわ!」

 

そんな統夜のツッコミをスルーした紬は、唯のことを応援していたのである。

 

「じゃあ、差し入れに美味しいお菓子を……」

 

「「おいおい……」」

 

いきなり紬にお菓子を要求する唯に、統夜と澪は呆れていた。

 

「それで、1人で何やるんだ?」

 

「演芸大会といったら……」

 

律は演芸大会でやる演目を聞き、澪は演芸大会らしいということで、皿回しをする唯を想像していた。

 

「……こんな感じ?」

 

「違うよぉ!ギターで弾き語りしようと思って!」

 

「唯のソロか」

 

「楽しみだわぁ♪」

 

「それはなかなか面白そうだな」

 

律、紬、統夜が唯のギターソロに期待をすると、唯は笑みを浮かべていた。

 

「それにしても、唯がピン芸人デビューとはなぁ」

 

「ボケ倒して終わりそうだよな」

 

「だからぁ!演奏するんだってばぁ!」

 

律と澪の言葉に唯が抗議をすると、唯以外の4人が笑っていた。

 

こうして、唯は1人で演芸大会に参加することになった。

 

この日も部活はないので、統夜は勉強を始める前に一度番犬所に立ち寄った。

 

今日は指令がなかったので、魔戒剣の浄化を済ませると、番犬所を後にして、行きつけの喫茶店で勉強を行っていた。

 

昨日行った喫茶店はヒカリがいるため、今日はいつも行っている喫茶店にしたのであった。

 

1時間ほど勉強を行うと、統夜は喫茶店を後にして、街の見回りを行った。

 

しばらくの間、街の見回りを行った統夜は帰宅し、家でもテスト勉強を行った。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日、統夜はこの日もいつもの日課であるエレメントの浄化を行ってから登校した。

 

そして、その日の放課後、演芸大会に出ると言っていた唯から思いも寄らぬ話が飛び込んできた。

 

「……え?梓が?」

 

それは、今回の演芸大会に梓も一緒に参加するという話だった。

 

「うん!そうだよ!」

 

「やっぱあたしらも参加するか?って話してたんだけどな」

 

昨日唯から演芸大会の話を聞いた後に、唯のいないところでこのような話し合いを行っていたのである。

 

「2人のユニットもいいわね♪」

 

「そうだな。唯と梓のコンビなら演芸大会にも華が出るだろ」

 

演芸大会は年寄りばかりが出ると思い込んでいる統夜はこのような発言をしていた。

 

「エヘヘ……」

 

華があるという言葉を聞いた唯は嬉しさのあまり笑みを浮かべていた。

 

すると……。

 

「唯先輩!」

 

梓が教室の入り口から唯のことを呼んでいた。

 

「あっ、あずにゃん!やっほー!!」

 

唯はそんな梓を見るなり、駆け寄って抱き付こうとするのだが、その前に梓は1枚の紙を唯に突きつけた。

 

「こ、これは?」

 

「唯先輩!私、スケジュール立ててきました!」

 

梓はテスト勉強と演芸大会の練習の両方を両立させられるスケジュールを作っていたのである。

 

そのスケジュール表を見て、あることに気付いた唯は顔を真っ青にしていた。

 

「……あずにゃん、おやつの時間は?」

 

「ありません。休憩の時にささっと食べちゃって下さい」

 

梓はスケジュールにおやつの時間を入れておらず、おやつを食べるならささっと食べるよう告げた。

 

そして梓は唯の首根っこを掴んでそのまま図書室へと連行していった。

 

「梓ちゃん、頼もしいわね♪」

 

「今回は梓に任せるか」

 

「うん、そうだな」

 

「梓なら安心して唯を任せられるしな」

 

統夜たちは試験と演芸大会を両方成功させるためのスケジュールを立てた梓を信頼し、唯のことは梓に任せることにした。

 

「さて、今日は教室で勉強しようかな」

 

「あっ、私も一緒に勉強するわ!」

 

統夜がここで勉強をすると話すと、紬も一緒に勉強すると食い付いてきた。

 

紬は統夜と2人っきりで勉強したいと思い、こう言ってきたのである。

 

それを察した澪と律はそのまま下校するのだが、「今度はあたしたちの番だからな」と律が紬に耳打ちをしてから学校を後にした。

 

こうして、統夜と紬は2人机を並べて一緒に勉強をしていた。

 

統夜と紬は黙々と勉強を行っていたのだが、紬にとっては、統夜と2人っきりでいられる滅多にない機会なので、紬は頬を赤らめながらドキドキしていた。

 

「……?ムギ、どうしたんだ?さっきから顔が赤いぞ」

 

統夜は頬を赤らめている紬が気になったのか、こう訪ねていた。

 

「ふぇ!?な、何でもないのよ?何でも!」

 

「?そ、そうなのか?ならいいんだけど」

 

統夜は何でもないという言葉を鵜呑みにすると、そのまま勉強やな集中していた。

 

紬も勉強を再開し、しばらく勉強を続けていると……。

 

「……ねぇ、統夜君」

 

「ん?どうした、ムギ?」

 

「統夜君って……好きな人は……いるのかしら?」

 

「へ?」

 

紬からそんな質問が飛んでくるとは思ってなかったのか、統夜はポカーンとしていた。

 

「な、何でそんな質問を?」

 

「だって私たち高3でしょう?だからどうなのかなぁって」

 

「……好きな人ねぇ……」

 

統夜はうーんと考え始め、紬はドキドキしながら考えている統夜を見ていた。

 

「……俺、ムギは好きだぞ」

 

「ふぇ!!?」

 

予想外過ぎる言葉が飛び込んできて、紬の顔は真っ赤になっていた。

 

「ムギだけじゃない。軽音部のみんなや、憂ちゃんや純ちゃん。それに……」

 

「へ?」

 

そんな紬の喜びも束の間であり、統夜はあっさりとんでもないことを言っていた。

 

「そ、それって……仲間とか、友達としてってことよねぇ?」

 

「?他に何があるんだ?」

 

統夜の鈍感ぶりはこの日も健在であり、紬はため息をついた。

 

『やれやれ……。そんなことだろうと思ったぜ……』

 

イルバも相変わらず鈍感な統夜に呆れていた。

 

今、教室の中には誰もいないため、イルバは問題ないと判断して口を開いたのである。

 

「そ、そうじゃなくて!彼女というかお付き合いしたい人というか……。そんな人はいないの?」

 

「んー……。ぶっちゃけよくわからないんだけど、そういった人はいない……かな」

 

統夜にとって、恋愛というのは未知の領域のようであり、恋人うんぬんと言われると今はいないと言わざるを得なかった。

 

「ムギはいるのか?そういう人」

 

「ふぇ!?」

 

まさか統夜からそんな質問が飛んでくるとは思ってなかったのか、紬は顔を真っ赤にしていた。

 

そして……。

 

「……う、うん……。私にはいるわ。お付き合いしたいって思う人が……」

 

それが統夜だとは公言しなかったが、好きな人がいることをはっきりと答えた。

 

統夜はそうだとわかっても、それが自分だとは全く思っていないので、平然としていた。

 

「……ふーん……。だけど、羨ましい話だよな」

 

「へ!?な、何が?」

 

「だってムギは凄く美人だからさ、そんなムギに想われてる人は幸せだなぁって思ったんだよ」

 

「……」

 

美人と言われたのは嬉しかったのだが、紬は、それよりも統夜の発言に唖然としていた。

 

(やれやれ……。本当に朴念仁だな、統夜のやつ。そんな統夜に惚れた紬や唯たちが哀れに思えてくるぜ……)

 

イルバは統夜の朴念仁ぶりはよく知っているのだが、そんな統夜たちに好意を寄せている唯たちが可哀想に思えると感じていた。

 

「……あっ、そうだ。ムギ。この問題がわからないんだけど、教えてくれないか?」

 

統夜は全く無意識に話題を切り替えた。

 

少し気まずくなった空気を変えるためではなく、今解いてる問題がわからないので聞いただけだった。

 

「どれどれ?見せて?」

 

一方紬は気持ちを切り替えて統夜のわからない問題をチェックすると、わかりやすい説明で問題を解説していた。

 

その後は色恋沙汰の話は一切出ることはなく、1時間程勉強して、2人の勉強会は終了した。

 

勉強会終了後、統夜は番犬所に顔を出さなければいけないので、学校の入り口で紬と別れ、番犬所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

統夜は番犬所に到着したのだが、この日はホラー討伐の指令はなかった。

 

なので、統夜はイレスと少しだけ世間話を行った後に番犬所を後にして、街の見回りを行った。

 

統夜が商店街近くの川辺を歩いていると、見覚えのある顔を見つけた。

 

「……あれは……。唯と梓か。演芸大会の練習かな?」

 

統夜のいる場所から唯と梓が練習しているのが見えた。

 

「……どんな曲をやるんだろうな……」

 

統夜は2人の練習の邪魔をしないよう、2人の練習を見守っていた。

 

すると……。

 

「……あら、統夜君?」

 

「え?」

 

急に声をかけられたので、声の方を向くと、唯のお隣さんであるとみが、茶色の紙袋を手に立っていた。

 

「あ、確か。唯のお隣のお婆さん……ですよね?」

 

「えぇ、そうよ。覚えていてくれて嬉しいわ♪ところで、あなたも唯ちゃんに会いに来たの?」

 

「いえ、俺はたまたまここを通りがかっただけなんです」

 

「あら、そうなの?私は唯ちゃんに差し入れを持ってきたのよ。あなたもぜひ食べてちょうだい」

 

「は、はぁ……」

 

統夜は唯と梓の練習を見てるだけだったハズなのだが、とみの差し入れを頂くことになったのである。

 

「……唯ちゃん!」

 

そうと決まったとみは、さっそく練習中の唯に声をかけた。

 

「あっ、お婆ちゃん!それに……」

 

「統夜先輩?どうしてここに?」

 

唯と梓は、統夜ととみが一緒にいるということに驚いていた。

 

「アハハ……。俺はたまたまここを通りがかっただけなんだよ。それで、お婆さんに会ってな」

 

「そうなんだぁ」

 

統夜がとみと一緒にいる理由を説明すると、どうやらすぐに納得したようだった。

 

「……はい、肉じゃがコロッケ」

 

とみは茶色の紙袋の中に入った肉じゃがコロッケを唯に手渡した。

 

「ありがとぉ♪」

 

「憂ちゃんからここだって聞いたのよ。練習頑張ってるのねぇ」

 

「そうなんだよ!……あっ、一緒に出場してくれる、あずにゃん!」

 

「おい!そこはあだ名じゃなくて、本名の方を言えよ!」

 

唯がいつものようにあだ名で梓を紹介していたため、統夜はすかさずツッコミを入れていた。

 

「お婆さん、この子はあずにゃんこと、中野梓です」

 

そして統夜は唯に代わってしっかりと梓を紹介した。

 

「初めまして!」

 

梓はとみにペコリと一礼していた。

 

「あら、そうなの?あずにゃんさん、無理しないでね」

 

とみは梓の本名を知っても、唯が紹介したあずにゃんにさんを付けて梓のことを呼んでいた。

 

「はい」

 

梓はそんなとみの呼び方に嫌そうな顔は全くしていなかった。

 

「統夜君、あなたも肉じゃがコロッケ、食べていってね!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「ウフフ、それじゃあ、唯ちゃん。練習頑張ってね!」

 

とみはこう言い残し、その場を後にした。

 

とみがいなくなると、唯と梓は休憩がてら肉じゃがコロッケを頂くことにした。

 

統夜の分もあるとのことなので、統夜も一緒に肉じゃがコロッケを頂くことにした。

 

「はむっ……美味しい♪」

 

唯はコロッケを一口頬張ると、幸せそうな表情をしていた。

 

「お隣のお婆ちゃん、優しそうな方ですね」

 

「それは俺も思ったよ」

 

「うん!お婆ちゃんの炊き込みごはんとか、おいなりさんとか、美味しいよ♪」

 

唯が話すのは食べ物のことばかりで、そのことを語る唯は幸せそうだった。

 

統夜はそんな幸せそうな唯を見て、笑みを浮かべていた。

 

(唯……幸せそうだな……。それに、これがお袋の味って奴か……)

 

統夜はコロッケを頬張りながら幸せそうな唯を見ていたのだが、再びコロッケを一口頬張った。

 

(……うん、美味い。何か、いいよな、こういう優しい味は。魔戒騎士として殺伐とした毎日を過ごしていたら味わえない味だしな)

 

普段の統夜はかなり味オンチなのだが、お袋の味というのは、何となくわかっていたのである。

 

「……?統夜先輩?」

 

梓は幸せそうな唯を見て笑みを浮かべる統夜を見て、首を傾げていた。

 

「ん?あぁ、悪い悪い。唯の奴が随分と幸せそうだなって思ってたらつい……」

 

統夜は唯を見て笑みを浮かべた経緯を梓に説明した。

 

「そうだったんですね……。それにしても、今の唯先輩ってまるで餌もらってる猫みたいですよね♪」

 

梓にまるで猫みたいと言われた唯は何故か嬉しそうにしていた。

 

「……それにしても、頑張らないとですね……」

 

「そだねぇ♪」

 

唯と梓はとみに良い演奏を見せるため、演芸大会でベストを尽くすことを決意していた。

 

「あっ、そうそう。ユニット名はどうする?」

 

『おいおい、まだ決めてなかったのかよ……』

 

演奏する曲もそうなのだが、2人のユニット名も決まってないことがわかると、イルバは呆れていた。

 

「あっ、そっか。放課後ティータイムじゃないですもんね」

 

「ねぇねぇ、“先輩後輩”とかは?」

 

「それ、殊更強調されても……」

 

「何か体育会系みたいだよな」

 

梓は微妙そうな反応をし、統夜は冷静に名前の分析をしていた。

 

「じゃあ、“唯とあずにゃん”とか?」

 

「ちょっとど直球過ぎるよな」

 

統夜は唯のアイディアに微妙そうな表情をしていたのだが……。

 

「……!あっ、“ゆいあず”なんてどうですか?」

 

梓がユニット名のアイディアを出してみた。

 

「へぇ、悪くないんじゃないか?」

 

『あぁ。シンプルだが、良いと思うぜ』

 

統夜とイルバは“ゆいあず”という名前は好評だった。

 

「うん!私も良いと思う!」

 

唯も賛成していたので、2人のユニット名はゆいあずでほぼ決定した。

 

「それより、曲決めないといけないですね」

 

唯と梓は色々練習はしていたものの、本番でやる曲は決めかねていた。

 

すると……。

 

「♪ふぅわふぅわたぁ〜あ〜いむ!」

 

唯が急に変な歌い方でふわふわ時間を歌っていた。

 

「おいおい、何だよ、それは……」

 

「ふわふわの演歌バージョンだよ!」

 

こう語る唯は何故かドヤ顔をしていた。

 

『さすがにふわふわの演歌は無しだな……』

 

ふわふわ時間の演歌バージョンを聞いたイルバはただただ呆れていた。

 

「……ま、何やるか今わかったら面白くないし、俺は行くとするよ」

 

統夜はゆっくりと立ち上がった。

 

「統夜先輩……。ひょっとして、お仕事ですか?」

 

「まぁな。とは言っても指令はないから街の見回りだけだがな」

 

今日はホラー討伐の指令がないとわかると、唯と梓は安堵の表情を浮かべていた。

 

「……したら、俺は行くな。2人とも、大変だとは思うが、無理はするなよ」

 

「うん!もちろんだよ!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

統夜が労いの言葉をかけると、唯と梓の2人は笑みを浮かべていた。

 

2人の笑顔を見た統夜はウンウンと頷くと、その場を離れ、街の見回りを再開した。

 

しばらく街の見回りを行った統夜はその後帰宅し、この日も勉強に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

試験が真近に迫ったある日の休み時間、さわ子は何故か顔を真っ青にして、げっそりしていた。

 

「ど、どうしたんですか、先生?」

 

「お茶とお菓子が足りないのよ!何で最近お茶会しないのよぉ!」

 

試験前で部活とティータイムを行っていないため、さわ子はそのせいで禁断症状のような状態になっていた。

 

「いや、試験前だし、規則だし……」

 

律はまともすぎる理由を述べていた。

 

そんな中……。

 

「そんな規則と私と、どっちが大事なの?」

 

さわ子のこの言い振りはまるで「仕事と私と、どっちが大事なの?」という恋人同士の喧嘩の時に言うような言い振りだった。

 

「……いや、規則だろ……」

 

まともな答えをしながら、律はジト目でさわ子を見ていた。

 

『……やれやれ……。今の発言は教師のものとはとても思えんな……』

 

イルバもそんなさわ子に呆れていた。

 

こんなことがあったものの、統夜は試験勉強に専念し、唯は梓と共に試験勉強と演芸大会の練習を頑張っていた。

 

 

 

 

そして試験当日を迎えた。

 

今回は試験前日に強大なホラーと戦うといったことはなく、万全の状態で試験に臨んだ。

 

今までで1番勉強していた統夜はその甲斐あってか、苦手な理数系の教科もどうにかこなしていった。

 

そんな中、日本史の試験では唯はあまりの眠さに問題を解くのも中途半端な状態で眠ってしまった。

 

しかし、和がわざと消しゴムを落とし、それを拾うために「先生!」と声をかけると、唯はそれで目を覚ました。

 

和のフォローのおかげで唯は寝ぼけ眼ながらも問題に集中していた。

 

 

 

 

 

 

こうして期末試験は無事に終了し、演芸大会当日を迎えた。

 

この演芸大会は商店街が主催で行われたものであり、地元の人間がマジックや楽器演奏など、得意なものを披露する場となっている。

 

律、澪、紬、憂、和、さわ子が唯と梓を応援するために見学に来ていた。

 

もちろん統夜も顔を出しており、統夜だけではなく、アキトと戒人も顔を出していた。

 

「……まさか、お前らも来るとはな」

 

統夜は今行われている三味線の演奏を聴きながら、こうアキトと戒人に言っていた。

 

「まぁな。最近例の奴の捜索で忙しかったし、たまには息抜きしないと♪」

 

アキトは鉄騎を奪った者の捜索を続けていたのだが、未だにその足取りすら掴めていない状態だった。

 

そんな中、統夜から演芸大会の話を聞くと、息抜きも兼ねて見に行こうとしたのである。

 

ちなみに戒人はエレメントの浄化を終えて街を歩いていたところ、たまたま統夜とアキトに会ったのだが、そこで演芸大会に行かないかと誘われたので、ついてきたのである。

 

「……これが演芸大会か……。なかなか興味深いな……」

 

戒人は三味線の演奏を聞くと、三味線に興味津々のようだった。

 

戒人は音楽というものに興味があるのか、以前澪ファンクラブのためのお茶会に参加した時も統夜たちの演奏に興味津々だった。

 

統夜たちがこのような話をしていると、のど自慢のような鐘の音が聞こえ、三味線の演奏が終了した。

 

『続きましては、14番、東ヒカリさんによる、ギターの弾き語りです!』

 

三味線の演奏が終わると、司会の人が次のプログラムを説明した。

 

「東?どこかで聞いたような……」

 

統夜は司会の人が言っていた東という名字に聞き覚えがあった。

 

すると、ステージに現れた女性を見て、統夜とアキトは反応していた。

 

「あ、あいつ!」

 

「確かこの前ホラーとの戦いに巻き込まれた奴だ!」

 

統夜はヒカリを見て思わず身構えてしまい、アキトはヒカリのことを覚えていた。

 

「……どうした、統夜?そんなに身構えて」

 

戒人はヒカリを見て身構えている統夜が気になってこのように聞いていた。

 

「あぁ、実はな……」

 

統夜は、今ステージに立っているヒカリがホラーとの戦いに巻き込まれたことでホラーに関する記憶を失い、そのため、再開した時にかなり絡みにくい相手になっていたことを話した。

 

「なるほど、それは随分面倒な相手に目を付けられたな」

 

戒人は統夜の話を聞いて、ホラーの記憶のみを失ったヒカリが相当面倒だということは理解していた。

 

それと同時に、ヒカリと関わったのが自分でなくて良かったと安堵していた。

 

統夜は高校に通っているためそんな相手の対処もどうにかなりそうだが、自分だったらすぐにボロを出しそうだなと思っていたからである。

 

ステージに立ったヒカリは統夜たちが目立つ格好をしているからか、統夜とアキトのことをすぐに見つけていた。

 

(……!あ、あの2人!何でこんな所に!?また、私の邪魔をしようって訳!?)

 

統夜とアキトを見つけたヒカリはしかめっ面になっていた。

 

(それにあの黒コートの男……。あいつもあいつらの仲間って訳!?)

 

ヒカリは続いて戒人のことを睨みつけていた。

 

「……なぁ、統夜、アキト。もしかして俺、睨まれてるのか?」

 

「まぁ、俺たちと一緒にいるから、お前も俺たちの仲間だと思ってるんだろ」

「マジかよ……」

 

自分は全く関係ないのに睨まれており、戒人はげんなりとしていた。

 

(……まぁ、いいわ。知り合いに頼まれて仕方なく出たこの大会だけど、あいつらに見せつけてやるわ!私の音楽を!)

 

ヒカリは統夜たちに対する敵愾心のおかげで、最高の演奏をしようとスイッチが入ったのである。

 

(……私の歌を聞けぇ!!)

 

心の中でこのように絶叫すると、ヒカリは挨拶もなしにギターを弾き始めた。

 

「……!へぇ、あの人、絵だけじゃないんだな……」

 

統夜は前奏部分を聞いただけで、ヒカリが相当ギターが上手いということを理解した。

 

それはアキトと戒人も思っていたようで、前奏でヒカリの演奏に引き込まれていた。

 

ヒカリの演奏している曲は自身が作詞作曲したオリジナル曲で、画家を目指す前はギタリストを目指していた時期もあった。

 

そのため、ヒカリの演奏は、軽音部で1番ギターテクのある統夜よりも上手だった。

 

律たちもヒカリの演奏が上手いと感じており、演奏に聴き入っていた。

 

そしてヒカリは、1番のサビを最後まで歌い切り、そこで鐘が鳴って、演奏は終了した。

 

「……本当に上手かったな……」

 

統夜はヒカリの演奏を聞いて、素直にその演奏を評価していた。

 

アキトと戒人もウンウンと頷きながら、ヒカリの演奏を評価していた。

 

『ありがとうございました!続きましては、15番、ゆいあずのお2人です!』

 

ヒカリの次が、唯と梓の出番だった。

 

「さて、次が唯と梓の出番だな」

 

「2人のユニットとは聞いてたけど、どんな感じなんだろう?」

 

「あぁ、俺も楽しみにしている」

 

アキトと戒人も唯と梓の演奏なや期待をしていた。

 

すると、赤い着物を着た唯と梓がステージに現れた。

 

ステージに現れた唯は、さっそくギターをジャラン!と鳴らしていた。

 

『どうもぉ!桜ヶ丘高校3年、平沢唯です!』

 

『同じく2年!中野梓です!』

 

『2人合わせて……ゆい!』

 

『あず!』

 

『でーす!!』

 

ユニット名を紹介したところで、唯はギターをジャラジャラと鳴らしていた。

 

「……どうやら、掴みは上々みたいだな……」

 

統夜は最初の自己紹介が中々良いものであると評価していた。

 

「……なるほど、唯ちゃんと梓ちゃん。2人の名前を取ってゆいあずなんだな」

 

アキトはここで、このユニット名の由来を理解していた。

 

『私たち、最初は演歌をやろうと思って、拳を回す練習をしてきたんですよぉ!』

 

唯はこう言うと、何故かブンブンと腕を振り回していた。

 

『そ……そっちの拳じゃな〜い!』

 

梓は少し照れていたのか、若干棒読み気味にツッコミを入れると、唯の頭をハリセンで叩いていた。

 

すると、少しではあるが、客席から笑いが起きていた。

 

「……ハハ、まさか漫才まで仕込んでいたとは……」

 

「梓ちゃん、相当緊張してるな」

 

「そうみたいだな。ツッコミも何か棒読みだし」

 

統夜は漫才を仕込んでいたゆいあずに唖然としており、アキトと戒人は、棒読みのツッコミを聞いて、梓が緊張していることを理解していた。

 

『あずにゃんは後輩ですけど、私よりちゃっかりしています!”

 

『それを言うならしっかりだ!』

 

梓は再びハリセンを用いてツッコミを入れていた。

 

再び笑いが起きていたのだが、おじさんたちが「まいったな、こりゃ」と言いながら笑っていた。

 

『それでは演奏の方、行きましょう!』

 

『行きましょう!』

 

ここで演奏が始まると思われたのだが……。

 

『……あれ?何演奏するんだっけ?』

 

『いい加減にしなさい!』

 

梓がハリセンを用いてツッコミを入れると、今までの中で1番大きな笑いが起きていた。

 

『それでは……。「ふでペン〜ボールペン〜」の「ゆいあずバージョン」です!」

 

唯と梓が今回選んだのは統夜だが放課後ティータイムオリジナルの曲である「ふでペン〜ボールペン〜」だった。

 

統夜たちは「ゆいあずバージョン」という言葉が気になっていた。

 

どのようなアレンジをしているのかと想像していたのだが、前奏は予想外のものだった。

 

まるで演歌のようなイントロになっていたからである。

 

それを聞いた統夜は思わずコケそうになっていた。

 

「おいおい、ゆいあずバージョンって、それかよ!」

 

《ほぉ、これは俺様も予想外だったぜ》

 

統夜もイルバも唯と梓が本気で演歌をやるとは思っていなかったので、演歌っぽいアレンジに驚いていた。

 

演歌っぽいアレンジで、盆踊りが踊れそうなリズムだったので、客席から手拍子が鳴り、2人の演奏はそれなりに盛り上がっていた。

 

しかし、Aメロ終了と同時に鐘が鳴ってしまい、ここで2人の出番は終わってしまった。

 

「……あっちゃあ……ダメだったか……」

 

サビまでいかずに演奏が終わってしまい、統夜は思わず頭を抱えていた。

 

「まぁ、あのギターソロの後じゃそれも仕方ないよな」

 

2人の前に行われたヒカリの演奏がかなりのものだったので、アキトはこの結果も仕方ないと感じていた。

 

「とりあえず、2人の検討を讃えようじゃないか」

 

「あぁ、そのつもりだぜ!」

 

戒人は2人の頑張りを素直に評価しており、それは統夜も同じ気持ちだった。

 

こうして、演芸大会は終了し、優勝したのは何とヒカリだった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……ごめんなさい、お婆ちゃん!参加賞でした!」

 

演芸大会終了後、唯は参加賞としてもらったタオルをとみに手渡した。

 

「……あら、私に?」

 

「本当は、温泉旅行をプレゼントしたかったんだけど……」

 

温泉旅行をプレゼントしてとみに恩返しをしようと思っていた唯は、優勝を逃してしまい、残念そうにしていた。

 

「うぅん!気持ちだけで嬉しいわ!ありがとうね。本当に2人とも素敵だったわ!唯ちゃん、本当に立派になっちゃって。ねぇ♪」

 

演芸大会での頑張りをとみに褒められた唯は、頬を赤らめながら嬉しそうにしていた。

 

「そうそう、ちらし寿司たくさん作ったのよ。憂ちゃんや皆さんと一緒に食べましょう♪」

 

「わーい!あずにゃん、行こっ♪」

 

「はい!」

 

唯がとみとこのようなやり取りをしているその頃、統夜は少し離れた所でその様子を見守っていた。

 

「……唯、梓。本当に頑張ったな……」

 

統夜は優しい表情で微笑むと、このように呟いていた。

 

「……その言葉、本人に直接伝えればいいのに」

 

そんな統夜の様子を見ていたアキトはニヤニヤしながら統夜のことをからかっていた。

 

「も!もちろん!後で言うっての!」

 

「どうだか……」

 

「それは俺も同感だな……」

 

アキトにからかわれて焦る統夜に、アキトと戒人は笑みを浮かべていた。

 

統夜たちがこのようなやり取りをしていると……。

 

「……やーくん!!早く早く!!」

 

唯がブンブンと手を振って、統夜のことを呼んでいた。

 

「おう!今行く!……お前らも行くか?」

 

「あぁ!俺は行こうかな。ご馳走にありつけそうだし♪」

 

アキトはご馳走につられて行くつもりだった。

 

一方戒人は……。

 

「いや、俺はやめておくよ。もしかしたら、指令が来るかもしれないし……」

 

戒人はこの後に来るかもしれない指令に備えるため、行かずに番犬所に向かう予定だった。

 

「……統夜、もし指令が来たらそれは俺が受けるから、お前は思う存分楽しんでこい!」

 

「……戒人、ありがとな」

 

「気にするな。これくらいは何てことないさ」

 

戒人は統夜に1つでも多くの思い出を作ってもらうために、その手助けを行うつもりでいた。

 

「……それじゃあ、俺は行くよ。統夜、アキト。またな」

 

こう挨拶をかわすと、戒人はそのまま番犬所へと向かっていった。

 

「それじゃあ、行こうぜ、アキト」

 

「おう!ご馳走、楽しみだなぁ♪」

 

こうして、統夜とアキトは唯たちと合流し、とみお手製のちらし寿司をご馳走になったのである。

 

 

 

 

 

その頃、見事演芸大会で優勝したヒカリは、そんな統夜たちのやり取りをジッと見ていた。

 

「あいつ……。あの女の子たちと知り合いなのね……。桜ヶ丘高校軽音部か……。あの子たちがあの事件の真相を……知らないか」

 

ヒカリは統夜と唯たちが親しげにしてるのが気になっていたのだが、唯たちがオーナー行方不明の事件のことを知っているとは思っていなかった。

 

しかし、ヒカリは統夜が桜ヶ丘高校の生徒か、その関係者であると推理しており、そこから、統夜のことを調べようと考えていた。

 

統夜は、ヒカリが自分のことを調べようとしていることを予想し、面倒なことにならないよう警戒するつもりでいた。

 

 

 

 

 

 

そして数日後、期末テストの全教科が返ってきた。

 

何と唯は全教科80点以上と高得点を叩き出していた。

 

唯がいうには、山が当たったらしい。

 

ちなみに統夜は、唯ほど高得点ではなかったものの、努力の甲斐があってか、全教科平均点以上は取っていた。

 

こうして、期末テストはどうにか無事に終わったのであった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『……どうやらかなり面倒なことが起こっているようだな。これは気を引き締めないといけないみたいだぜ!次回、「猟獣」。統夜、油断するなよ!』

 




統夜は無事期末を乗り越え、唯と梓もどうにか演芸大会をこなしました。

それにしても、統夜は相変わらず鈍感ですね(笑)これは某ワンサマーといい勝負かもしれない(笑)

そして今回はヒカリの意外な特技が明らかになりました。

ヒカリは画家になる前はギタリストを目指していただけあり、その腕前は統夜たち以上となっております。

さて、次回からは物語が進んでいきます。予告にあった面倒なこととは一体何なのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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