今回は律と澪が仲良しになったきっかけが明らかになります。
2人はどのようなきっかけがあって仲良くなったのか?
それでは、第57話をどうぞ!
澪ファンクラブのためのお茶会から数日たったある日、唯は未だに進路希望調査表を提出していないことがわかった。
唯や律。そして統夜らさわ子に呼び出され、早く進路希望調査表を提出するよう言われた。
その後、和と共に統夜たちはティータイムを行っていたのだが、その時にたまたま作文の話が出てきて、澪にも作文に関する話があることを律が語った。
その話に統夜たちは興味津々であったため、澪はその話を語らざるを得なくなった。
澪が語る前に律が小学生時代の澪のことを語り出した。
小学生の頃の澪は、今よりも物静かで大人しい女の子だった。
誰かと遊ぶということもなく、休み時間は1人で読書をしているような女の子だった。
そんな中、律はそんな澪に興味を持っていたのか、律は澪に話しかけてみたのである。
当時の澪は声をかけられるだけで涙目になってしまうレベルの人見知りだった。
その時も声をかけた律に怯えながら涙目になっていた。
律はそんな唯の反応が面白いと思ったのか、事ある度にちょっかいをかけていた。
「いーなー、私もちょっかい出したかったな!」
「おいおい、いいのか?それ……」
「統夜先輩の言う通りです!それっていじめじゃないですか?」
唯のちょっかいを出したい宣言に統夜は呆れ、梓はいじめではないかと追求していた。
『いや、そのちょっかいってのは人間の子供にありがちの好きな子にはってやつじゃないのか?』
「そうそう、イルバの言う通りだよ♪」
「イルバ、お前そんなことも知ってるんだな」
『まぁな。俺様は魔導輪だからな!』
「ドヤ顔するなよ……」
自分の知識を誇らしげに語るイルバを見て、統夜は呆れていた。
「だけどさぁ、当時はそこまで仲良かった訳じゃないんだよなぁ」
「そりゃそうだろ!あんなことされたら!」
澪は当時のことを思い出していたのか、苛立ちを募らせていた。
「……思い出したらイライラしてきた。おデコ出しなさい」
「?何すんの?」
澪の言葉に律が首を傾げるが、澪はペンを取り出すと、律のおデコに“目”と書いていた。
「……あ」
律もそれに気付いたようで、統夜、唯、梓の3人は声を出して笑っていた。
「……水性だから安心しろ」
澪は水性のペンを使って律のおデコにいたずら書きをしていた。
「……それで?作文の発表はどうなったの?」
和も笑みを浮かべながら作文の話を改めて聞いていた。
「お、覚えてた……」
「いいじゃん、澪!話してやりなよ!」
律がその時のことを話すように言うと、澪は困惑していた。
そんな中、おデコに目と書かれた律は、「三つ目星人だじょお!」と言いながら唯と戯れていた。
「……小4の頃だっけ?私の作文が県から賞をもらって、賞をもらった人は全校集会でみんなの前で読まなきゃいけなくなってさ……。読みたくなくて落ち込んでた私に律が話しかけてくれたんだ……」
戯れている唯と律を後目に、澪はこう話を切り出し、ゆっくりとその時の話を語り始めた。
〜回想〜
小学生時代の秋山澪は、かなりの人見知りな性格のせいか友達も出来ず、1人で読書をすることが多かった。
そんな中、律は大人しい澪に興味を持ち、よく話しかけるようになった。
澪はちょっと律に話しかけられるだけで、オドオドしながら涙目になっていた。
そんな反応が面白いと思った律は、しょっちゅう澪にちょっかいをかけていたので、仲が良い訳ではなかった。
そんなある日、澪の書いた作文が県での優秀賞になったのである。
澪や律の通った小学生では、賞を取った作文は全校集会で発表しなければいけなかった。
人前に出る事が嫌な澪は1人公園で落ち込んでいた。
その時だった。
「……どうしたの?」
律が澪に声をかけたのである。
澪は自分が作文で優秀賞を取ったことと、そのために全校集会で発表しなければならないこと。
さらにはその作文の発表をしたくないことを律に伝えた。
「……え?作文読みたくない?何で?」
「……だって……恥ずかしいもん……」
こう答えるだけでも、澪は恥ずかしそうにしていた。
「えぇ?恥ずかしくないよ!すごいよ!」
「っ!ぜ、全然凄くないよ……」
「だって、クラスで賞をもらったの、澪ちゃんだけだよ!私だったら、みんなに自慢するよ!」
この頃は律は澪のことを呼び捨てではなく、澪ちゃんと呼んでいた。
そんな澪がいつの間にか足を止めていたので、律も足を止めて澪のことを見ていた。
「……だったらりっちゃんが賞をもらえば良かったのに!みんなの前で読むのやだよぉ!!」
澪は居た堪れない気持ちになったのか、つい声を荒げて自分の気持ちを律にぶつけた。
ちなみに澪はこの頃、律のことを呼び捨てではなく、りっちゃんと呼んでいた。
「……!ご、ごめんなさい……」
すぐに我に返った澪は申し訳ない気持ちになったのか、すぐさま律に謝罪していた。
律は澪の大声に驚いてはいたが、傷ついたりしている様子はなかった。
(……澪ちゃん、こんな大きな声を出せるんだ……。なんか……)
「面白い!!」
律は澪の新たな一面を見て、さらに澪に興味がわいたのか、目をキラキラと輝かせていた。
「ねぇ!今から家においでよ。家で特訓しようよ!」
「と……特訓?」
律の提案に澪は困惑していたものの、律の提案が非常にありがたいと思い、澪は律の家にお邪魔することになった。
「それでは、4年1組、出席番号1番、秋山澪さん、どうぞ!」
「ひぅっ!!」
律の部屋に入るなり、本番さながらの練習を行うが、澪は律しかいないのだが、恥ずかしがって、作文を読むことが出来なかった。
「あぅぅ……。出来ないよぉ……!」
「え?もっと台が高い方がいいの?」
律は澪を箱の上にあげて発表させていたのだが、律はもう1つ箱を取り出してこう聞いたのだが……。
「そ、そういうことじゃなくて!」
「……」
律は箱を置くと、どうすればいいか考えていた。
しばらく考えていると……。
「あっ!ちょっと待ってて!」
律はカチューシャを外すと、髪ゴムを取り出して髪型を変えてみた。
「……はい!出来上がり!」
「?何それ?」
「パイナップルだよ!お父さんがね、緊張した時は観客をジャガイモだと思えって言ってたの!でもあたしはジャガイモは出来ないから……パイナップル!」
律は両手をほっぺにくっつけて変顔をすると、パイナップルの物真似をしていた。
「アハッ!全然似てないよぉ!」
律の顔がおかしかったのか、澪は笑っていた。
それがとても効果的だったのか、特訓では緊張せずに作文を読むことが出来た。
……そして、作文発表当日を迎えた。
澪は律のアドバイス通り、生徒全員をパイナップルだと思ったらリラックス出来ていた。
その結果……。
「……ということで、人から人へ伝わっていくのでした。終わり。4年1組、秋山澪」
リラックス出来た澪は最後まで作文を読むことが出来たのであった。
〜現在〜
「……律のおかげで、凄くリラックス出来たんだよな」
「いい話ねぇ♪」
澪の話を最後まで聞くと、紬はニコニコしていた。
「昔は良い子だったんですね、律先輩」
『確かにな。その頃のお前さんはどこへ行ったのやら……』
「……やっぱり、りっちゃんのキャラじゃないよ」
そんな中、梓、イルバ、唯の3人は律のことを素直に褒めることが出来なかった。
「……素直に褒めるってことは出来ないのかい?」
律はこんな良い話をしてもいつも通りな唯たちに不満だった。
「なぁ、澪の作文ってどんな感じだったんだ?上手くいったんだろ?」
統夜は1番気になっている作文の内容の話を律に聞いてみた。
「あぁ。作文発表は上手くいったんだよ。でもまぁ、澪が書いた作文だから……。内容がとてもメルヘンだったんだよ……」
「……なるほど、澪の感性はその頃から健在って訳か」
統夜は澪の作文がメルヘンだと聞くと、作文の内容を察してこれ以上は何も聞かなかった。
「でも、あれからだよな?律の家に遊びに行くようになったのは」
「そうそう!あたしが色々教えてあげたっけか♪」
澪や律の言う通り、この作文のおかげで、2人はよく遊ぶようになり、仲良くなったのである。
「色々ねぇ……。もしかして澪のその喋り方も律直伝だったりするのか?」
統夜はさすがにそれはないと思っていながらも冗談のつもりで律に聞いてみた。
すると……。
「うん、そだよ。自分に自信をつけさせるためにいいかなぁって思ってな」
「アハハ……。やっぱりそうなんだな……。って、何ぃ!!?」
統夜はそうだよと返ってくるとは思っておらず、驚愕していた。
「……思い出してみれば、ロクなこと教えてもらってない気がする……」
澪は律の家で遊んだ時のことを色々思い出していたのだが、これといっていい思い出がなかったのか、眉間にしわを寄せていた。
「……やっぱり、助けてもらうんじゃなかったかな」
澪はさらりと酷い言葉を言うと、律は唖然としていた。
「ひ、ひどいよ、みおちゃん!」
「唯だって好き勝手言ってたくせに……。でもまぁ、私に音楽を勧めてくれたのは感謝してるかな?」
澪はこんな事を言うのが照れ臭かったのか、少しはにかみながらこの言葉を紡いでいた。
すると……。
「「「みおしゃん!」」」
「澪先輩!」
統夜と和を除く全員が目をキラキラと輝かせながら澪のことを見ていた。
「うぉっ!?」
澪はそんな様子を見るなり驚いていた。
「アハハ……。何やってんだか……」
統夜はそんなやり取りを見て、苦笑いをしていた。
「……って!私と律の話じゃなくて!今は2人の進路調査をどうするかだろ?」
「あ……」
「そうだったわ!」
全員にとって興味深い話を聞いたため、1番大事な話をすっかりと忘れていた。
「唯、とりあえず難しく考えないで、漠然と自分のなりたいものから考えればいいんじゃない?」
和が唯に行ったアドバイスはとても的確なものだった。
「そっか……。じゃあ、お花屋さんかな?」
唯は花屋になった自分を想像してみた。
〜花屋になった唯〜
……私、平沢唯!街のお花屋さん!
そんな私のお店にとあるお客さんがやって来ました!
「……あの、このお花は育てるの大変ですか?」
「わかりません」
__閉店ガラガラ!!
「……植物の知識が必要ですね……」
花屋になるためには様々な植物や花の知識が必要になってくるので、唯には厳しいかと感じられた。
「あ、そうだ!会社勤めのOLさんとか!」
唯は続けてOLになった自分を想像してみた。
〜OLになった唯〜
……私、新米OLの平沢唯!今日も遅刻しちゃった!テヘッ♪
そんな私ですが、どうにか会社に着きました。
「すいません!遅刻しました!」
……ど、どうしよう……。みんなの目が怖いよ……。
あれ?1人だけため息ついているけど、何でだろう?
「……あなたの会社、隣のドアだよ」
「し、失礼しました!!」
__解雇不可避!!
「……時間が決まってるのは無理かも……」
梓は冷静にOLも無理かもと分析をしていた。
「あぅぅ……。あずにゃん、しどい……」
梓の厳しい分析に唯は涙目になっていた。
「ゆーい!バスガイドとかいいんじゃないか?」
「バスガイドねぇ。確かに唯のキャラなら向いてそうだが……」
律がバスガイドを提案し、統夜はそれも悪くないと考えていた。
そして、唯バスガイドになった自分を想像してみた。
〜バスガイドになった唯〜
……私、バスガイドの平沢唯!
『えー、皆様、右手をご覧ください!みぎ……て、うぐぅ!』
やばい!乗り物酔いなのか吐きそうだよ!
も、もうダメ!我慢出来ない!
『ううぉぉ……』
__大惨事!!
「……酔いやすい人は無理だと思います」
唯は想像したことで、実際にも吐き気を催していた。
「まぁ、喋りが上手くても酔うようじゃ論外だよな……」
唯は復活までしばらく時間がかかっており、その間にも色々な職業を思いついたものの、どの職業も一筋縄ではいかず、どれも厳しそうだった。
すると……。
「……あっ!これなんてどうかな!」
酔いが醒めた唯は、1つ良いアイディアを持っていた。
「それは何ですか?」
「魔戒法師になって、やーくんのお手伝いをするの!」
「アハハ……魔戒法師になるって……」
『おいおい、魔戒法師ってそう簡単になれるものじゃないぜ』
唯の魔戒法師になるという発言に統夜とイルバは呆れ果てていた。
今までの職業以上に簡単になれるものではないからである。
「まぁ、無理だよな……」
「でも、魔戒法師になった唯先輩か……」
唯だけではなく、その場にいる全員が魔戒法師になった唯を想像してみた。
〜魔戒法師になった唯〜
……私、平沢唯!ホラーをやっつけて人を守る魔戒法師です!
今日はやーくんのお手伝いで、一緒にホラー退治です!
「……唯!法術で援護してくれ!」
え!?法術?私、法術は苦手なのに……。
だけど、やーくん苦戦してる!
ここは何とかしなきゃ!
私は魔導筆を取り出して、術を放ちます!
その術は……。
ポン!!
……私が出したのはまるで手品みたいに花を出すだけで終わってしまいました!
「……おい」
あぁ!やーくんだけじゃなくて、ホラーも呆れてるよ!
__足手まとい!!
「……これはあまり想像したくないな」
統夜は実際このような場面に遭遇したらと思うとゾッとしていた。
「そうですよね。魔戒法師の人だって、統夜先輩みたいにすごく努力してるんだもんね……」
梓も魔戒法師はそう簡単になれるものではないことは理解していた。
「……まぁ、とりあえずそんな感じで、自分で思いついたものを書いてみればいいんじゃないの?」
和は今までのやり取りを通して、自分で思いついたものをどんどんあげていくことを提案した。
「……なりたいものかぁ……」
唯は律と一緒に自分のなりたいものは何かを考えていた。
すると……。
「……!りっちゃん!」
「おう!!」
2人は何か思いついたようで、進路希望調査表に何かを記入すると、そのまま職員室に向かっていった。
数分後……。
「……ダメでした、隊長!」
どうやら今回もダメみたいだった。
統夜たちは唯と律が何を書いたかをチェックすると、そこには「ミュージシャン」と書かれていた。
「……ミュージシャンって……」
和はミュージシャンと書かれた進路希望調査表を見て、唖然としていた。
「真面目にやりなさい!」
「いや、真面目……なんだけど……」
「ミュージシャンねぇ……。本気で目指すならお茶なんかしてる場合じゃないよな」
「うぐっ!そ、それだけは!」
統夜が的を得た指摘をすると、律は狼狽えていた。
そんな中、唖然としていた和が急に笑い出した。
「おぉ、和ちゃんが笑ってる!」
「……呆れてるんじゃ」
「実は、和ちゃんを笑わせるよう仕込んだ、体を張ったギャグなんだよね!」
「……いや、無理がありますよ、唯さん……」
唯の苦し紛れの言い訳に、澪は呆れながらツッコミをいれていた。
この日は結局他のアイディアが出ずに部活が終了してしまった。
統夜はこの日も番犬所に立ち寄るが、この日も指令はなかったため、統夜は街の見回りを行っていた。
「……」
統夜は考え事をしながら歩いていた。
《……おい、統夜。どうしたんだ?さっきから難しい顔をして》
今歩いている道は人が多いため、イルバはテレパシーで統夜に話しかけた。
(あぁ……)
統夜はその場で足を止めると、近くにあった座り心地の良さそうな石に腰を下ろした。
(人の進路って色々なんだなぁって思ってさ)
《まぁ、お前さんは子供の頃から魔戒騎士になると決めていたんだ。他の奴らみたいに将来に迷うことがなかったから、それが物珍しいんだろ?》
統夜とは長い付き合いであるイルバは、統夜が何を考えているのかを見透かしていた。
(ったく、お前にはかなわないよ)
どうやら図星だったようで、統夜は苦笑いをしていた。
(まぁ、俺が心配しても仕方ないけどな。俺と唯たちとは進むべき道が違うんだから……)
今は楽しい毎日を送っているが、魔戒騎士である自分と一般人の唯たちとでは、いつかこんな生活に終止符を打たなきゃいけないことは統夜も理解していた。
《だからこそ、お前はあいつらとの日々を大切にしないとな。その経験は今後に必ず活きてくるぜ》
イルバは大切な人と日々を過ごすことこそ、これから守りし者として多くの人を守ることに繋がっていくと信じていた。
無論、それは統夜も考えていたことだった。
(……そうだな。俺は俺で悔いのない高校生活を過ごすよ。クヨクヨと考えるのは時間の無駄だからな)
《あぁ、そうだ。あまりセンチメンタルになって考え事をするもんじゃないぜ》
イルバは色々考え事をしながらもいつも前向きな姿勢の統夜のことを高く評価していた。
気持ちを切り替えることは魔戒騎士としても大切なことだからである。
《まぁ、とりあえず今日は帰ろうぜ。ある程度見回りは済んだからな》
(あぁ、そうするよ)
統夜はゆっくりと立ち上がると、この日の見回りを終了し、そのまま自宅へと向かった。
翌日、唯はクラスのみんなに進路をどうするのか聞いて回っていた。
それが参考になるかと思われたが、ますますどうするかわからなくなってしまった。
唯は少し考えた結果、「とりあえず一生懸命頑張ります」と書いてさわ子に提出しようとするが、案の定却下となった。
唯が自分の進路を決めて、進路希望調査表がさわ子に受理されるのはまだ先の話であった……。
……続く。
__次回予告__
『またやって来たな。この時期が。統夜、お前さんも気を引き締めないとダメだぜ!次回、「期末試験」。統夜、ちゃんと勉強するんだぞ!』
今回も前回くらいの長さになってしまいました。
これだったらこの2話をくっつけても良かった気がするけど、まぁ良しとしよう(笑)
今回は律と澪が仲良しになったきっかけがわかったのもありますが、唯がどんな職業に向いているか色々考えていました。
果たして唯に向いている職業はあるのだろうか?(笑)
流石に魔戒法師だけは無理がありすぎるとは思いますが(笑)
次回は、今作3回目となるテスト回です。
統夜は今回もテストを乗り越えることは出来るのか?
それでは、次回をお楽しみに!