牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第54話になります。

今回はけいおんメインの話になります。

それ故に戦闘シーンはなく、日常回となっております。

それでは、第54話をどうぞ!





第54話 「茶会 前編」

アキトが桜ヶ丘で鉄騎を奪った黒幕捜索の任を与えられ、統夜のいる桜ヶ丘高校任を遊びにきてから1週間が経過した。

 

未だに梅雨は続いていたものの、最近の天気は安定していた。

 

そんなある日の放課後だった。

 

「…………」

 

統夜たちと一緒に部室に向かっていた澪だったが、何故かソワソワしていて落ち着かない状態だった。

 

「……?澪、どうした?そんなにソワソワして……」

 

それが気になっていた統夜はすぐさま澪に聞いていた。

 

「い、いや……今日は朝から誰かの視線を感じるんだ……」

 

「……視線をねぇ……」

 

統夜は周囲を見回すが、怪しい気配はなかった。

 

《統夜、とりあえずホラーの気配もないし、怪しい気配は感じないぜ》

 

(やっぱりそうだよなぁ)

 

統夜は澪の誰かに見られてるという言葉にストーカーの可能性を考えたが、イルバも妙な気配を感じていなかったので、その可能性は低いと感じていた。

 

「澪ちゃん、人気者だから♪」

 

「いや、そういうんじゃなくて、ずっと誰かに監視されてるような……」

 

澪は不安気にこう答えるのだが……。

 

「「「「ジー……」」」」

 

統夜、唯、律、紬の4人が澪を凝視していた。

 

「うわぁっ!み、見るな!////」

 

統夜たちに凝視されて恥ずかしかったのか、澪は顔を背けていた。

 

「それもさ、自意識過剰なんじゃないのかぁ?」

 

「いや、だから!本当なんだってば!どこからか監視するような視線を……」

 

澪は必死に視線を感じるということを伝えると、澪の背後に何者かが近付いていた。

 

澪を除く全員がその気配に気付き、戦慄していた。

 

そして……。

 

 

 

 

 

「だーれだっ♪」

 

 

 

 

 

さわ子が澪の両目を両手で覆って隠すお約束をやっていた。

 

「はぁ……さわ子先生……」

 

統夜は年相応ではない悪戯をするさわ子を見て、ため息をつきながら呆れていた。

 

そして、澪はというと……。

 

「………」

 

余りに怖かったのか、真っ白になって固まっていた。

 

「あ……あれ?」

 

さわ子はここまで怖がるとは思っていなかったので、困惑していた。

 

「やれやれ……」

 

『全く……。あいつの悪戯にも困ったもんだぜ……』

 

統夜とイルバは真っ白になって固まってる澪を見て呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふーん。誰かの視線を感じるねぇ……」

 

澪が復活するとそのまま部室に向かい、ティータイムが行われると、澪はさわ子にも誰かの視線を感じると相談していた。

 

「まぁ、私は見られまくってるけどね♪」

 

「さわちゃん、外見“は”いいからな」

 

律は、“は”という言葉を強調していた。

 

「ちょっとぉ!“は”って何よ!“は”って!」

 

「まぁ、内面に問題ありってことだよな……」

 

統夜は誰にも聞こえないようにボソッと呟いたのだが……。

 

「あぁん!?ふざけたこと抜かすとシメるぞ、月影ぇ!」

 

「!すいませんでしたぁ!!」

 

さわ子の迫力が相当なものだったのか、ビビった統夜は土下座で謝罪をしていた。

 

『やれやれ……。統夜、お前なぁ……』

 

イルバはビビって土下座をする統夜を見て心底呆れていた。

 

「もしかして、澪を追っかけ回してたのはさわちゃんじゃないのかぁ?」

 

律はこう言ってさわ子をからかうのだが……。

 

「あら、私だったら見るだけじゃ済まないわよ♪」

 

あっさりととんでもないことを言うさわ子に、律は納得すると、これ以上は何も言わなかった。

 

そんな中、唯は1人うーんと何かを考えていた。

 

「……わかった!犯人はトンちゃんだ!」

 

「へ?何でそうなるんだよ!」

 

いつの間にか土下座をやめた統夜がすかさずツッコミを入れていた。

 

「だって……。みおちゃんはトンちゃんのことを怖がって、あまり構ってあげてないから、トンちゃん……背中に張り付いているんだよ!」

 

唯がこのような話をすると、澪はそんな様子を想像してみた。

 

すると……。

 

「怖い怖い!!」

 

澪は慌てて背中を掻いていた。

 

「ま、これがマジだったらかなりのホラーだけどな」

 

統夜は冷静に唯の語ったことを分析していた。

 

そんな中……。

 

「皆さん!真面目に考えて下さい!ストーカーに狙われてるかもしれないんですよ!」

 

梓は先輩たちがまともに澪の心配をしていないことに怒っていた。

 

「梓……」

 

澪はそんな梓の言動が嬉しかった。

 

『やれやれ……。仕方ないな……』

 

「……?イルバ?」

 

イルバが何かを見通しており、澪は首を傾げていた。

 

『統夜、澪のやつ気付いてないみたいだから言ってやれ』

 

「あっ、あぁ。わかったよ」

 

「?」

 

「……澪、今日の朝飯は焼きそばパンじゃなかったか?」

 

「え?た、確かに……今朝は寝坊して、朝ごはんをゆっくり食べる暇がなかったから……」

 

統夜が澪の朝ごはんを当ててしまい、澪は驚いていた。

 

「その焼きそばパンってさ、20%引きじゃなかったか?」

 

「な!?何でそこまでわかるんだよ!」

 

焼きそばパンの値引き率まで当てられ、澪はさらに驚愕していた。

 

「!ま、まさか……!」

 

「やーくんが……ストーカー?」

 

律と唯がこのような推理をすると、ジト目で統夜のことを見ていた。

 

「おい!何でそうなる!」

 

「統夜先輩……最低です……」

 

梓はまるで腫れ物を見るような目で統夜のことを見ていた。

 

「だから俺じゃないっつうの!そもそも、俺より先にイルバが当ててるし!」

 

統夜はストーカー疑惑を払拭するために、今までの推理はイルバの推理と伝えた。

 

イルバの推理とわかると、統夜のストーカー疑惑はあっさりと払拭された。

 

「ったく……。イルバが話してくれれば変な疑いはかけられずに済んだのに……」

 

統夜はいらぬ疑惑をかけられたことにブツブツと文句を言っていた。

 

『俺が言うよりお前さんが言った方が面白いと思ってな。それよりも統夜』

 

イルバの言葉に統夜が頷くと、統夜は澪の髪についている値引きのシールを優しく取った。

 

「……これ、朝からついてたぞ」

 

「それでみんな見てたのか……。つか、知ってたんなら何で言わないんだよぉ!」

 

「俺は言った方がいいと思ったんだがな、イルバの奴がこの方が面白いから黙ってろっていうからさ」

 

『…………』

 

統夜はこう弁解するが、何故かイルバは口を開こうとしなかった。

 

すると……。

 

「あなたたち、何覗いてるの」

 

音楽準備室の入り口から和の声が聞こえると、扉がバタン!と開き、2人の女の子がなだれ込んできた。

 

そして、この2人に声をかけたであろう和がぽつんと立っていた。

 

「……和、この子たちは?」

 

「いや、その……」

 

2人の女の子にどうやら和も困惑していて上手く答えることが出来なかった。

 

すると……。

 

「別に!怪しい者ではありません!」

 

《いやいや、この部屋を覗いてた時点で十分怪しいだろうが》

 

(だよなぁ。っていうか、イルバはさっきあの2人に気付いてたから黙ってたのか?)

 

《まぁ、そういうことだ。俺たちが話してる途中で覗いてたみたいだからな。だから俺様は黙ってたって訳だ》

 

イルバが急に黙り込んだのは、誰かがこの部屋を覗いていると気配で察知したからであった。

 

「……私たちは、澪先輩ファンクラブの者です!」

 

そう言いながら1人の女の子が澪の写真が入ってる会員証らしきものを見せてきた。

 

実は澪のファンクラブ自体は統夜たちが1年生の時に行った学祭ライブの後に出来たものであった。

 

それだけではなく、秘密裏に統夜のファンクラブも出来ているらしいのだが、本当かどうかはわかっておらず、本人も気付いていないようだった。

 

「ファンクラブ……」

 

その言葉を聞いて和は何かを思い出したようであった。

 

すると、澪はガタン!と机に頭をぶつけていた。

 

「うぅ……。そのことはもう忘れようとしていたのに……」

 

統夜たちが1年生の時に行った学祭ライブの後にファンクラブが出来たことは澪も知っていたようで、そのことはライブと共に澪の黒歴史となっていた。

 

「……あ、もしかして、澪ちゃんの髪にシールがついてるのを見に?」

 

「はい!他の会員から聞きまして!」

 

「おいおい、だったら何で教えてやらなかったんだ?」

 

「さっきまで知らんぷりしてたお前が言うな!」

 

澪は少々呆れ気味に聞いていた統夜が気に食わないようで、すかさずツッコミを入れていた。

 

「私は教えた方がいいと思ったんですけど……」

 

「でも、そういうところが澪先輩らしくて素敵なんです!」

 

(アハハ……。それ、素敵なのかなぁ?)

 

ファンクラブの子の力説に統夜は苦笑いをしていた。

 

《確かに澪は少々天然なところもあるからな。まぁ、唯ほどではないがな》

 

(そうかもしれないな)

 

イルバは澪が少々天然な一面もあることを指摘し、統夜はそれに同意していた。

 

「……私はわざとつけてるのかな?って思ってたよ!」

 

「お前も知ってたのか!」

 

唯の言葉に澪がすかさずツッコミを入れていた。

 

《おぉ、さすがは本物の天然娘。澪の比ではないな》

 

(まぁ、唯が天然なのは前から知ってだけどな)

 

統夜は唯が天然だと思ったのは、初めて顔を合わせた時だった。

 

その時の唯は入部を取り消すために来たのだが、その時の言動を見て唯が天然だとすぐにわかったのであった。

 

澪の髪についてたシールを見て満足したのか、ファンクラブの子たちはいなくなり、和は残ってティータイムに参加していた。

 

「……ごめん、私がしっかりしていないせいでファンクラブの子たちが……」

 

「何で和が謝るんだよ」

 

『律の言う通りだ。和、お前さんは別にファンクラブとは関係ないんじゃないのか?』

 

「うーん、それは……」

 

「それよりもさ!ファンクラブってまだあったんだね!」

 

和が答えに困っていると、唯が話に割って入り、話題を変えていた。

 

唯は和に気を遣った訳ではなく、自分が話したいことを話しただけである。

 

「そうよね!曽我部先輩が卒業して無くなっちゃったかと思ってた」

 

「曽我部先輩って誰ですか?」

 

「あれ?梓は知らなかったっけ?」

 

「曽我部先輩はみおちゃんのファンクラブの会長だった人だよ!」

 

「ほら、梓は知らないか?和の前に生徒会長をやってた人のこと」

 

「……!あ!もしかしてあの人のことですか!?」

 

統夜のおかげで梓も思い出したようだった。

 

先ほどから話に出ている曽我部先輩こと曽我部恵(そかべめぐみ)は、統夜たちが2年生の頃の生徒会長で、澪のファンクラブを作った張本人であった。

 

「懐かしいなぁ、もう、そんなに月日が流れたのか……」

 

「あれから?」

 

律はしみじみとしながら語るのだが、意味がわからず梓は首を傾げていた。

 

「そう、あれは卒業式前の2月……。誰かに見られている気がするって怖がってたから、見かねたあたしが、生徒会に相談してみたら?ってアドバイスをしたんだ」

 

「へぇ、そうだったんですか……」

 

事情を知らない梓は律の話を信じていたのだが……。

 

「おい!ちょっと待て!」

 

「そうだ!妄想も大概にしとけよ!」

 

統夜と澪がすかさず律にツッコミを入れていた。

 

「へ?」

 

それを見ていた梓は唖然としていた。

 

「途中までは本当だけど、生徒会に相談したらとアドバイスしたのは俺だぞ」

 

律の妄想もおおよそ合ってはいたのだが、アドバイスをしたのは律ではなく、統夜だった。

 

「そうなんだよ。たまたま統夜が相談に乗ってくれたから、統夜と一緒に生徒会室に行ったんだよ」

 

こうして澪はその時の状況を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

〜回想〜

 

 

 

 

 

バレンタインも終わり、卒業式も迫っていたある日、統夜はたまたま周囲を見回してソワソワしている澪を見つけた。

 

気になった統夜は澪から事情を聞くと、一緒に生徒会に相談しようとアドバイスした。

 

こうして、統夜と澪は2人で生徒会室に向かい、その時生徒会室にいた和に相談した。

 

「……ずっと誰かに見られてる気がする?ストーカーの類かしら……。学内に不審者がいるとは考えにくいんだけど……」

 

『そうだな。俺様も調べてみたが、怪しい奴はいないみたいだぜ』

 

イルバも澪の話を聞いて気配を探知してみたのだが、怪しい気配を探知することはなかった。

 

統夜、イルバ、和が真剣にこのことを考えていると、急に澪が泣き出した。

 

「な、何泣いてるのよ」

 

「だ、だって!統夜やイルバ以外に普通の反応してもらえたのが嬉しくて……!」

 

「……軽音部でどんな扱い受けてるのよ……」

 

「……和、察してやってくれ」

 

まともな反応しただけで嬉し泣きする澪に和は呆れていたが、こう統夜がフォローを入れていた。

 

すると……。

 

「真鍋さん、いるかしら?」

 

生徒会に入って来た人物こそ、曽我部恵だった。

 

「あら、お客さん?」

 

「あっ、曽我部先輩じゃないですか」

 

「あら、月影君じゃない。久しぶりね♪」

 

「アハハ、そうかもしれないですね」

 

統夜の姿を見つけた恵はこう統夜に話しかけ、2人は親しげに話をしていた。

 

「あっ、そうそう。真鍋さん、引き継ぎの資料、持ってきたわ」

 

恵は生徒会長の任期を終え、後任となったのは和であった。

 

恵はその引き継ぎのために、生徒会室を訪れていた。

 

「……なぁ、統夜。この人は?」

 

「澪、この人は生徒会長だよ。ほら、学祭の時だってお世話になっただろ?」

 

「学祭の時……。あっ!」

 

統夜の言葉で澪は思い出したようだった。

 

統夜たち軽音部は学祭前に律と澪がギクシャクしてしまうという危機を迎えており、講堂使用届を出すことなどすっかり忘れていた。

 

そんな中、統夜は前もって提出が遅れることを当時生徒会長だった恵に告げ、使用届の提出を待ってもらったことがある。

 

澪もその時の状況を思い出し、その時の生徒会長は目の前にいる恵だということを思い出した。

 

「元生徒会長だけどね。まぁ、思い出してくれて嬉しいわ♪」

 

「あっ、いえ……」

 

「改めて、よろしくね♪秋山さん♪」

 

こうして澪と恵は挨拶をかわし、統夜と澪は勧められるがままに椅子に座った。

 

すると、恵は統夜と澪にお茶を出してくれた。

 

「……はい、どうぞ。軽音部みたいに良いお茶じゃないけど」

 

「あ、いえ……」

 

(……ん?あれ?)

 

統夜は恵の言葉に少し疑問を抱いていた。

 

《?どうした、統夜?》

 

(いや、軽音部が毎日のようにお茶してるってそんなに知れ渡ってるのかなって思ってな)

 

《確かにそうかもしれないな》

 

この時、統夜は恵に対してとある疑惑を抱いており、イルバもそれに賛同していた。

 

統夜がイルバとテレパシーで会話している間に、澪は恵に誰かに見られていることを相談していた。

 

「……それにしてもストーカーなんて……。由々しき問題ね……」

 

澪の相談を受けた恵は深刻そうな表情をしていた。

 

「真鍋さん、後で風紀委員会にこのことを報告してくれる?」

 

「わかりました」

 

あまり話を大きくしたくない澪はアタフタとしていた。

 

「あっ、あの!そこまでしてもらわなくても!」

 

「いいのよ。うちの学校の生徒が困ってるのなら力になりたいのよ」

 

(うちの部長に伝えたい……)

 

澪は普段から大雑把な律を思い出し、苦笑いしながらも、このような立派な言葉を律に伝えたいと思っていた。

 

「それにしても、澪を追いかけ回す人って、どんな人かしら?」

 

「ファンクラブの人……とか?」

 

恵の放ったファンクラブという言葉に、澪は過剰に反応していた。

 

「そ、そのことは……」

 

「あら?どうかした?」

 

「い、いえ……。それにしても会長は軽音部のこと色々お詳しいんですね。私の名前も知ってたし」

 

澪は思ったことを言っただけなのだが、恵の顔は何故か真っ青になっていた。

 

「そう言えば軽音部がお茶会してたことも知ってたんですね」

 

「え、えっと……。真鍋さんが前に教えてくれたんじゃない」

 

「え?私は言ってないですよ?」

 

「そうだったかしら?でも、軽音部って色んな意味で有名だからね」

 

澪や和の指摘に、恵はあからさまに動揺していた。

 

《統夜。あの女の動揺ぶりだが……》

 

(あぁ、間違いなさそうだな)

 

統夜とイルバは恵のことを怪しいと思っていたのだが、その疑惑は確信に変わろうとしていた。

 

「じゃ、じゃあ私は行くわね」

 

統夜は恵を捕まえようとしたが、その前に恵のポケットから何かが飛び出してきた。

 

「……?これは……。って!」

 

統夜はカードのようなものを拾って中身を確認すると、驚愕していた。

 

それには「秋山澪ファンクラブ」と書かれており、曽我部恵という名前も確認出来たからである。

 

それを落としたことに気付いた恵は統夜の手にしたカードを奪い取った。

 

「……そ、それは、さっき廊下で拾ったのよ!」

 

「いや、そこに先輩の名前が書いてましたよ?」

 

「……」

 

統夜の追求に恵は黙り込み、室内に気まずい空気が流れ込んでいた。

 

澪はこの状況を和ませるためにどうするべきかを考えていた。

 

そして、澪はその考えを実行することにした。

 

「も、もしかして、会長がストーカーの犯人だったりしてぇ♪」

 

「ちょ、澪!?」

 

澪がさらっと核心に迫る発言をしており、統夜は驚愕していた。

 

澪は軽い気持ちでこのように言ったのだが……。

 

「……ごめんなさい!悪気はなかったの!」

 

「「えぇ!?」」

 

「アハハ……やっぱりか……」

 

恵のまさかの告白に澪と和は驚愕するが、統夜は確信していたので、苦笑いをしていた。

 

「もうすぐ私……。卒業でしょ?そうしたらもう、秋山さんに会えなくなっちゃうのかなって思ったら、居ても立っても居られなくて……」

 

恵は澪をストーカーまがいの方法で監視していた理由を明かすと、泣き出してしまった。

 

「会長!あんたの気持ちはわかるけど、やっていいことと悪いことがあるだろ!?あんたがそうするせいで澪がどれだけ……」

 

「統夜、いいよ」

 

統夜は恵の行動が許せずに怒りを露わにするのだが、澪はそんな統夜をなだめていた。

 

「何でだよ!?お前だって怖い思いしただろ?」

 

「まぁ、そうだけどさ……。そこまで言ってもらえるのは嬉しいからさ。……まぁ、やり方はあれだけど……」

 

澪は恵のせいで怖い思いをしたにも関わらず、そんな恵を許すことにしたのである。

 

「秋山さん……」

 

恵はそんな澪の優しさが嬉しかったのか、目をキラキラと輝かせていた。

 

「……ってか、会員番号1番ねぇ……」

 

統夜は先ほど見た会員証の会員番号が気になっていた。

 

「あっ、私、ファンクラブの会長でもあるの」

 

「「「えぇ!!?」」」

 

さすがにそれは予想外だったのか、統夜、澪、和の3人は驚愕していた。

 

こうして、澪のストーカー事件の犯人は見つかったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜現在〜

 

 

 

 

「……ということは、生徒会長が犯人だったんですか?」

 

話を最後まで聞いた梓は驚きを隠せなかった。

 

犯人があまりに意外な人物だったからである。

 

「まぁ、立場上それは言い出しにくいわよね」

 

「えぇ……まぁ……」

 

「だからね、私たち、そんな曽我部先輩に何か出来ないかなって思ったんだ!」

 

「そう、それで……」

 

澪は卒業式の日のことを語り始めた。

 

 

 

 

 

 

〜回想〜

 

 

 

卒業式当日、この日を持って恵は桜ヶ丘高校を卒業するのだが、軽音部のメンバーに呼び出され、和と共に講堂に来ていた。

 

「軽音部に講堂に来るよう言われましたけど、何なんでしょうね?」

 

「お、お礼参りとか?」

 

「まさか、そんな……」

 

こんな話をしていると、突如ステージの幕があがり、澪を中心に統夜、唯、紬、律が並んでいた。

 

今回は2年生だけでやろうという話になり、梓には声をかけていない。

 

そのため、ステージにいるのは梓を除いた全員だった。

 

「……曽我部先輩!ご卒業……」

 

「「「「おめでとうございます!」」」」

 

「あの……私たち、桜高軽音部がお祝いの意味を込めて演奏させていただきます!」

 

卒業する恵のために出来ること。

 

それこそが、恵のためだけのライブであった。

 

もちろん、ボーカルは澪である。

 

「聞いて下さい……」

 

「「「「「ふわふわ時間!」」」」」

 

統夜たちが曲名を宣言すると、そのまま演奏は始まった。

 

恵は突然の出来事による驚きと嬉しさで呆然としていた。

 

そして、気がつくと恵は我を忘れて統夜たちの演奏……主に澪の勇姿に見入っていた。

 

「……先輩、曽我部先輩!」

 

そのためか、演奏が終わっても放心状態だったので、和に呼びかけられても、しばらく気付くことはなかった。

 

そして、ようやく和に声をかけられたことに気付いたのだが……。

 

「……ハッ!む、無断で講堂を使用するなんてどういうことですか!?」

 

「なにぃ!?そりゃないぜ!曽我部先輩!」

 

恵のために行ったサプライズなのに怒られてしまったので、統夜は驚いていた。

 

統夜だけではなく、澪たちも困惑していた。

 

しかし……。

 

「……というのは建前で、ありがとう、みんな。こんな贈りもの、初めてよ!」

 

恵は澪たちのライブが嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべていた。

 

(……まぁ、大成功ってところかな)

 

統夜は満面の笑みを浮かべる恵を見て、今回のサプライズは大成功したと思っていた。

 

ここで終われば綺麗にしまったのだが……。

 

「記念に……。サイン下さい!」

 

「ひぃっ!?」

 

急に恵がサインをせがんできたので、澪は怯えていた。

 

「それで、「みおたんより」って書いて!」

 

大人びた感じの恵が、まるで人が変わったかのようにサインをねだっていた。

 

(そ、聡明な先輩のイメージが……)

 

和はそんな恵を見て、ショックを隠せないようだった。

 

 

 

 

 

 

〜現在〜

 

 

 

 

「……それで、書いたんですか?「みおたん」って」

 

「……うん、書いた……」

 

澪は当時の状況を思い出し、顔が真っ青になっていた。

 

「……先輩、すごく喜んでいたわ」

 

そう言うと和は1枚のカードを取り出した。

 

そのカードとは……。

 

「か、会員番号1番!?」

 

「しかも、和の名前!?」

 

澪ファンクラブの会員証なのだが、そこには会員番号1番と書かれており、名前の部分は「真鍋 和」となっていた。

 

和は恵の卒業後、正式に生徒会長の仕事を引き継いだのだが、ついでに澪ファンクラブ会長の座も引き継いでしまったのである。

 

始めは拒否した和だったが、熱心な恵に根負けし、それを了承してしまった。

 

和は統夜たちにそのことを伝えた。

 

「……この会員証、断りきれなくて受け取ったけど、結局機会がなくて会長としての責務を何一つ果たせなかった……」

 

こう語る和の表情は今まで何もしてこなかったことに申し訳ないといった気持ちが込められていた。

 

「和ちゃん……」

 

「まぁ、和がそこまで気に病む必要はないけどな」

 

『あぁ、俺様もそう思うぜ』

 

統夜は和を気遣った言葉をかけ、イルバも同意していたが、そんな統夜とイルバの言葉に和は「うぅん」と首を振っていた。

 

「だから、今日はみんなにお願いがあって来たの。ファンクラブの子たちのために、お茶会を開いてもらえないかなって……」

 

和が統夜たちに提案したのは、澪ファンクラブの子たちが楽しめるお茶会だった。

 

その提案を聞いた統夜たちはその後の和の話をジッと聞いていた。

 

「このままなにもしないとなると、先輩にも申し訳なくて……」

 

「わかった!私たちも協力するよ!」

 

「えぇ!?」

 

「和にはいつも助けてもらってるからな!」

 

「えぇ!?」

 

唯と律が二つ返事で和の申し出を受けたので、澪は驚いていた。

 

「そうと決まればどんなお茶会にする?」

 

「ムギまで!?」

 

唯と律だけではなく、紬もお茶会に乗り気のようで、澪の顔は真っ青になっていた。

 

「おいおい、お前ら、少しは落ち着けよ」

 

『統夜の言う通りだぜ!主役である澪が乗り気じゃないだろうが!』

 

統夜とイルバは1番重要なことを指摘すると、唯たちはそこに気付いたようだった。

 

「澪ちゃん、嫌なの?」

 

「え?い、いやぁ、嫌だって訳じゃないけど……」

 

「みおちゃん!ファンクラブの子たちのためのお茶会だよ!?ぜひやろうよ!」

 

「いや……だけど……」

 

紬と唯の説得に澪は困惑していた。

 

「もちろん澪が嫌だというなら、このお茶会は中心にせざるを得ないわ。だけど、1回くらいはファンクラブの子たちや曽我部先輩のために頑張ってみない?」

 

「和……」

 

「まぁ、それを決めるのは澪だ。お前が嫌だというならみんなだって文句は言わないさ。っていうか言わせない」

 

「統夜……」

 

『それで、澪。お前さんはどうするつもりだ?やるもやらぬもお前さん次第だぜ』

 

「……」

 

和や統夜。そしてイルバの言葉を聞いて、澪は少し考え込んでいた。

 

そして……。

 

「ちょっと恥ずかしいけど、私、やるよ!」

 

澪はお茶会をやる決意を固めた。

 

「よっしゃあ!そうこなくちゃな!」

 

「澪がやると言うなら、俺も協力するぜ!まぁ、魔戒騎士の仕事があるからどこまで手伝えるかはわからないけど……」

 

「統夜……。ありがとな」

 

澪は優しい表情で笑みを浮かべると、統夜に感謝の言葉を述べていた。

 

「お、おう」

 

統夜はお礼の意味がわからず、困惑していた。

 

「統夜君、安心してちょうだい。統夜君が忙しい時はその分私たちが頑張るから!」

 

「はい!ですので統夜先輩は自分の使命に専念して下さい!」

 

「わかった。その時はよろしく頼むな」

 

こうして、澪ファンクラブのためのお茶会が開かれることが決定した。

 

この日は練習はせず、そのお茶会で何をするかの話し合いを終始行っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『とうとう始まるか。例のお茶会って奴が。やれやれ、一体どんなお茶会になるのやら。次回、「茶会 後編」。やるからには良いものにしていこうぜ!』

 

 




こうして、澪ファンクラブのためにお茶会が開かれることになりました!

今回次回とお茶会の話になるので、次回も澪メインの話になるかなと思います。

お茶会のシーンは個人的にも好きなシーンでして、もしかしたら意外なキャラが出てくるかも?

そこもふまえて、次回をお楽しみに!



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