牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第53話になります。

今回は一応オリジナルの話ですが、けいおんの話も少し入っています。

それでは、第53話をどうぞ!





第53話 「法師」

統夜、戒人、大輝の3人がアキトの協力を得て、鉄騎の改良型である鉄騎・獄龍を撃破してから、2週間が経過していた。

 

アキトは鉄騎が桜ヶ丘に現れたことを元老院に報告していた。

 

グレスとレオに事の顛末を報告したアキトは、グレスからとある指令を受け、再び桜ヶ丘に向かった。

 

桜ヶ丘に到着したアキトは、そのまま紅の番犬所に直行した。

 

「……来ましたね、アキト」

 

「はい、イレス様」

 

「あなたが来ることは私の母でもあるグレスから聞いています」

 

「えぇ。実はグレス様から直々に指令を受けてここへ来たんです」

 

「そうみたいですね」

 

普段はレオにくっついて元老院の仕事をしているアキトだったが、レオと離れて仕事をする時は各地の番犬所に派遣されるのである。

 

今回もとある仕事を行うためにこの紅の番犬所に派遣されたのである。

 

「奪われた鉄騎がこの桜ヶ丘に現れたということは鉄騎を奪った者もこの桜ヶ丘に潜伏してる可能性がありますからね。アキト、鉄騎を奪った者を探し出すのです」

 

アキトがこの番犬所に派遣されたのも、鉄騎を奪った者を見つけ出すという仕事のためである。

 

「わかりました、なるべく早く見つけますよ」

 

「アキト、しばらくこの街にいるんですから、統夜にも挨拶をしたらどうですか?」

 

「えぇ、暇な時にでも統夜の学校に顔でも出してみますよ」

 

アキトはこう答えてイレスに一礼すると、番犬所を後にした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

アキトが紅の番犬所を訪れている頃、統夜は日課であるエレメントの浄化を終えて学校に向かっていた。

 

最近梅雨入りしたとテレビでも報道しており、外は雨がザーザーと降っていた。

 

統夜は雨の日にエレメントの浄化やホラー捜索を行う時は、レインコートを着てから魔法衣を羽織っている。

 

魔戒騎士や魔戒法師が着ている魔法衣は霊獣の毛皮で出来ているので、雨も平気で弾くのである。

 

統夜は学校に到着すると、1度魔法衣を脱いでからレインコートを脱ぎ、濡れたレインコートの水分をよく切ると、ビニール袋の中にしまった。

 

その作業が終わると、ビニール袋と魔法衣を手に持った状態で教室へ向かった。

 

「おはよ〜。しっかしひどい雨だよなぁ」

 

統夜は挨拶と愚痴を交えながら教室に入ると、真っ先にレインコートが入ったビニール袋と魔法衣を自分のロッカーにしまうと、自分の席についた。

 

ちなみに、ギターは雨に濡れるのを避けるために魔法衣の裏地の中にしまったままである。

 

そして、周囲を見回すのだが、唯たちの姿は見えなかった。

 

「あれ?唯たち、まだ来てないのかな?」

 

「あぁ、唯たちだったら音楽準備室に行ったみたいだよ。唯ってば制服ビショビショだったからさ、制服乾かして着替えるんじゃないかな」

 

周囲を見回す統夜を見ていた姫子が唯たちが音楽準備室にいることを教えてくれた。

 

「そうなのか。ありがとな!」

 

唯たちがどこにいるのかわかったので、姫子に礼を言っていた。

 

《やれやれ。唯のやつは一体どんな濡れ方をしたのやら……》

 

(まぁ、この雨なんだ。ずぶ濡れになるのも仕方ない気がするけどな)

 

統夜は窓から見える景色を眺めながらイルバとテレパシーで会話をしていた。

 

「あっ、やーくん!おはよー」

 

すると、着替えを終えた唯が教室に入ってきて、統夜に挨拶をした。

 

「あぁ。おはよう、ゆ……い?」

 

統夜は唯の方を見て挨拶しようとしたのだが、唯の格好を見て唖然としていた。

 

それだけではなく、唯の格好を見たクラスメイトたちも驚いているのかざわついていた。

 

「……?やーくん、どしたの?」

 

「どうしたもこうしたもあるか!何でその格好なんだよ!」

 

唯が着ているのは普通の服ではなく、何故かさわ子お手製の素体ホラーの着ぐるみだった。

 

「えぇ?だって可愛いからいいかなぁって思って……」

 

《おいおい、いくら何でもそのチョイスはないだろう》

 

(だよな……)

 

イルバも何故か素体ホラーの着ぐるみをチョイスした唯に呆れており、統夜も共感していた。

 

「とりあえず、他のを着てこい!」

 

「えぇ!?このままでもいいと思ったんだけどなぁ……」

 

「ダメに決まってんだろ!さっさと行ってこい!」

 

「チェッ……わかったよぉ……」

 

唯は不満そうではあったが、渋々了承し、再び音楽準備室に戻って着替えを再び始めた。

 

しばらく経って、唯は戻ってきたのだが、今度は何故かメイド服を着ていた。

 

こうして、唯はメイド服のまま、HRは始まった。

 

さわ子は出欠を取ろうとするが、メイド服の唯の姿がすぐ目についてしまった。

 

「……平沢さん?あ、あなた、何でそんな格好をしているの?」

 

「制服が濡れちゃったので、代わりに着ました!」

 

唯はさわ子にこのような格好をしている理由を説明した。

 

「い、いくら何でもそんな変な格好で授業を受けるのは……」

 

「なーに言ってるのさ。それ作ったのはさわちゃ……」

 

さわちゃんじゃん。こう律が言い切る前にさわ子は律を睨みつけ、口封じをしていた。

 

さわ子に睨まれた律は顔を真っ青にして固まっていた。

 

「平沢さん、他の服はないの?」

 

「えっと……」

 

全くない訳ではなかったのだが、唯は返答に困っていた。

 

すると、教室の扉が開き、どこかに行っていた和が戻ってきた。

 

「遅れてすみません」

 

こう挨拶をした和はジャージを抱えて唯のところへと向かった。

 

「……これ、よそのクラスの子から借りて来たから」

 

そう言って和はジャージを渡そうとするが、何故か唯は不満そうだった。

 

「……?どうしたの?」

 

「せっかくだからもっと違う服が着たいなぁ」

 

「おいおい、コスプレパーティーじゃないんだから……」

 

唯のあまりにずれた発言に統夜は思わずツッコミを入れていた。

 

「いいから、着替えなさい!」

 

さわ子からの檄が飛び、唯は慌てて和からジャージを受け取ると、着替えのため教室から出て行った。

 

着替えをしている唯はひとまず置いておき、さわ子はHRを再開した。

 

唯がジャージに着替えて戻ってきたのは、ちょうどHRが終わった頃であった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

昼休みになると、音楽準備室に置いてある唯の濡れた制服は乾いていたので、唯たちは昼食を取った後に被服室を借りてスカートのアイロンがけを行っていた。

 

今回は統夜も一緒に被服室に来ていた。

 

唯は自分のスカートのアイロンを行うのだが、なかなか上手く出来なかった。

 

手つきも危なっかしく、その様子を見ていた統夜、澪、紬はハラハラしていた。

 

ちなみに律は、唯のワイシャツのボタンがとれそうだったので、ボタン付けをしていた。

 

唯のアイロンがけは危なっかしくて見ていられないと判断した紬は唯の代わりにアイロンがけを行った。

 

唯とは違い、紬の手際は良く、丁寧な仕上がりになっていた。

 

「……ムギ、上手いな」

 

「へぇ、さすがはムギだな」

 

「ごめんね、ムギちゃん」

 

澪と統夜は紬のアイロンがけに関心しており、唯は代わりにやってくれたことに対して申し訳なさそうにしていた。

 

「ゆーい!ボタン、とれかけてたぞ」

 

ボタン付けを終えた律は唯にワイシャツを手渡した。

 

「……りっちゃん、つけてくれたの?」

 

「うん」

 

「りっちゃん、ありがとー!」

 

唯は律がボタン付けをしてくれたことに感激していた。

 

「チマチマしたこと苦手なのに、ボタン付けは早いんだよなぁ」

 

「へぇ、律がここまで出来るとはねぇ、本当に意外……!」

 

意外だわ。統夜がそう言い切る前に律の拳骨が飛んできた。

 

「お前は一言多いんだよ、バカ統夜!」

 

「いてて……」

 

律の拳骨がかなり効いたのか、統夜は殴られたところを手で抑えていた。

 

『律、お前さんも女らしい一面があったんだな』

 

続いてイルバが律をからかっていた。

 

「むぅ、うるせぇよ!バカイルバ!」

 

律はぷぅっと頬を膨らませながらイルバに反論していた。

 

『おいおい、バカは心外だな……』

 

律の反論に対してイルバはこのように呟いていた。

 

そんなやり取りをしているうちにスカートのアイロンがけも終わったので、統夜は一足先に被服室から出て行き、唯は被服室で制服に着替えた。

 

「ごめんね、やーくん。お待たせぇ」

 

制服に着替えた唯が被服室から出てきた。

 

しかし……。

 

「……なぁ、唯」

 

「ほえ?なーに?」

 

「その下のジャージは女子としてどうなんだよ……」

 

唯はスカートの下にジャージのズボンをはいており、あまりにおかしい格好だったので、統夜は呆れていた。

 

「やっぱり統夜もそう思ってたか。あたしも女子としてどうかと思ってたんだよ」

 

統夜の意見に律も賛同し、律も統夜のように呆れていた。

 

「えぇ!?りっちゃんだってよくやってんじゃん!」

 

「ですわよねぇ♪」

 

『そういえばお前さんもよくそんな格好をしていたな……』

 

律も今の唯のような格好をよくしていたことを思い出し、イルバも呆れていた。

 

「何やってるの?」

 

「あ、さわちゃん」

 

唯たちが被服室を出てすぐ、たまたま通りがかったさわ子が唯たちを見つけて声をかけた。

 

そして、すぐ唯のはいているジャージに目がいってしまった。

 

「ジャージは脱ぎなさいね」

 

さわ子は先生として当然の注意をしていた。

 

「えぇ!?」

 

「田井中さんも裾を中に入れて」

 

「な、何と!」

 

律は自分も注意されたことに対して驚いていた。

 

さらに……。

 

「月影君、あなたはネクタイちゃんと締めなさい」

 

「へ!?」

 

統夜もまさか自分に飛び火が来るとは思っていなかったので、驚いていた。

 

「普段は怒らないのに!」

 

「今日に限ってどうしたんだよ!」

 

唯のジャージはともかくとして、律は普段からシャツの裾は中に入れておらず、統夜もネクタイは緩く締めてある。

 

普段は注意しないのに今は注意していることが気に入らなかったのか、唯と律は反論していた。

 

しかし、統夜は……。

 

(……あ、なるほどね。そういうことか)

 

統夜は他の先生がこっちに向かっていることに気がつくと、ネクタイをしっかりと締めていた。

 

さわ子は教師である手前、他の先生が見ている状態で身だしなみをちゃんとしていない生徒を注意しない訳にはいかなかったのである。

 

「……唯、律。ここは察して言う通りにしておけ」

 

さわ子の立場を察した統夜はこう唯と律を説得し、律は渋々言うことを聞いていた。

 

唯はジャージを脱ごうとはせず、膨れっ面のままだった。

 

こうしてこっちに向かっていた先生はそのまま階段を降りてどこかへ移動していた。

 

先生がいなくなったのを見計らったさわ子は……。

 

「ほら、平沢さんも早く!」

 

「この方がいいんだもん!」

 

「ダメなものはダメなの!」

 

「スカートめくれても平気なのに……」

 

『唯。お前さんは女子としてもうちょっと恥じらいを持てよ……』

 

ジャージだからか平然とスカートをめくる唯を見たイルバは全く恥じらいのない唯に呆れていた。

 

それは統夜も同じ気持ちで、統夜は苦笑いをしていた。

 

「いいから脱ぎなさい!」

 

さわ子は無理矢理唯のジャージを脱がそうとするのだが……。

 

「いやーん!さわちゃん、やめてぇ!」

 

唯がいきなりこのようなことを言い出したため、他の生徒の視線も集まり、さわ子の顔は真っ青になっていた。

 

「ちょっ!?それじゃ私が襲ってるみたいじゃないの!」

 

こんなやり取りはあったものの、唯は渋々ジャージを脱ぎ、この問題は解決した。

 

唯は制服姿で教室に戻ると、それを見たクラスメイトは少し残念そうにしていた。

 

それを見ていた唯は少し不満そうにしていたが、期待に応える必要はないと和にたしなめられていた。

 

もうすぐ昼休みが終わる時間だが、雨はまだ降り続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、放課後となった。

 

「……さて、今日は先に部室に行ってるかな」

 

今日は掃除当番の仕事がない統夜はレインコートが入ったビニール袋と魔法衣を手に取り、教室を出て部室へ向かった。

 

すると……。

 

「ねぇねぇ、今すっごいイケメンが職員玄関に来てるんだって♪」

 

「え、嘘!?ちょっと見てみたいかも?」

 

「それじゃあ、行こうよ!」

 

こんな話をしていた女子生徒が駆け足で玄関に向かっていた。

 

「……何だろう。凄く嫌な予感がする……」

 

《奇遇だな、俺様も同じことを考えていた》

 

(……とりあえず行ってみるか)

 

こうして統夜は部室に行く前に玄関へと向かった。

 

玄関に到着すると、職員玄関のところに立っている1人の男が、女子生徒たちと楽しげに会話をしていた。

 

「……!な……!あ、あいつ……」

 

その男の姿を見た統夜は驚きのあまり絶句していた。

 

すると、男は統夜の姿を確認して……。

 

「あっ、おーい!統夜ぁ!!」

 

統夜を呼んで手をブンブンと振っていた。

 

「あ、アキト……お前……!」

 

その男の正体は、仕事のため桜ヶ丘に来ていたアキトだった。

 

「おう、統夜。来たぞ!」

 

「来たぞって……。いきなりだな」

 

「まぁ、お前に話もあったしな」

 

アキトは統夜に用事があるらしく、そのためここを訪れたのである。

 

「えぇ?あの人って、月影先輩の知り合いなの?」

 

「2人並ぶと絵になるわね〜♪」

 

「統アキ……アキ統……。ふっふっふ……これならいけるわ!」

 

さっきまでアキトと話をしていた女子生徒たちは統夜とアキトが知り合いだとわかり、ざわついていた。

 

中には腐女子全開な言葉が聞こえてきて、統夜の顔が真っ青になっていた。

 

「とりあえず、ほら、そこで中に入る手続きをしてくれ。部室に案内するから」

 

「あぁ、わかった♪」

 

アキトは受付で中に入る手続きを行い、それが済むと、統夜の案内で音楽準備室へ向かった。

 

統夜とアキトが音楽準備室の中に入ると、すでに唯たちは集まっており、紬がティータイムの準備を行っていた。

 

「あ、やーくん来た!」

 

「あ、あと、あなたは……アキトさん?」

 

「おう、統夜に用事があってな、寄らせてもらったぜ」

 

突然現れたアキトに唯たちは驚くが、アキトはそんなことなどお構いなしでここに来た理由を話していた。

 

「そうなんですか?まぁ、とりあえず座ってください♪もうすぐお茶の準備が出来ますので♪」

 

「おっ、待ってました!」

 

「お前なぁ……」

 

お茶と聞いたアキトはそれを心待ちにしており、マイペースなアキトに統夜は呆れていた。

 

そうしているうちにティータイムの準備が終わったようで、アキトを座らせた統夜も自分の席に腰を下ろした。

 

アキトの前に紅茶とケーキが置かれると、紬は遠慮なくどうぞとアキトを促していた。

 

「……これが軽音部のお茶か……。統夜から話を聞いていたけど、これは楽しみだよ♪」

 

紅茶の香りも良く、ケーキも美味しそうだったので、アキトは胸を躍らせていた。

 

「まぁ♪それなら遠慮なくどうぞ♪」

 

「それじゃ遠慮なく♪」

 

アキトは紅茶を一口飲み、ケーキも一口食べた。

 

すると……。

 

「うまい!紅茶もケーキも今までの中で1番だ!」

 

「ウフフ♪気に入ってもらえたなら良かったです♪」

 

アキトにも紅茶とケーキは好評のようで、紬は嬉しそうだった。

 

「それはそうと。わざわざティータイムに参加するためにここに来たんじゃないだろ?」

 

統夜はアキトにここへ来た目的を問おうとしていた。

 

「おっと、そうだった」

 

アキトも大事な用事を思い出していた。

 

そしてアキトは一息つくと、話を切り出した。

 

「……実は俺さ、しばらくこの街にいることになってな。それで挨拶に来たって訳だ」

 

「ということは何か指令があるってことなのか?」

 

「ま、そういうこと♪ほら、この前襲ってきたあの格好いい鉄騎がいただろ?」

 

「あ、あぁ……」

 

格好いいということには同意出来なかったのか、統夜は苦笑いをしていた。

 

「鉄騎を奪った奴がこの桜ヶ丘に潜伏してる可能性が高いんだよ。俺は元老院からそいつの捜索を命じられてるって訳さ」

 

「なるほどな。確かにその可能性はあり得るよな」

 

実は統夜も鉄騎が桜ヶ丘に現れたことで、この事件には黒幕がいるのではないかと疑っていたのである。

 

「まぁ、なるべく早くそいつを見つけてとっ捕まえるつもりだから、その時は統夜も力を貸してくれよな」

 

「もちろんだ。鉄騎を奪った奴が何を企んでるかは知らんが、みんながいるこの街で好き勝手はさせないさ」

 

統夜も鉄騎を奪った者を探しているアキトに協力するつもりだった。

 

「へへっ、そう来なくちゃな♪」

 

統夜が快く協力してくれるとわかると、アキトは嬉しそうにしていた。

 

「さーて、要件は伝えたし、ムギちゃんのお茶を堪能させてもらおうかな♪」

 

「ウフフ♪お代わりもたくさんあるので、遠慮しないで下さいね♪」

 

「それじゃあお言葉に甘えて♪」

 

統夜に伝えるべきことを伝えたアキトは紬の用意した紅茶やケーキを味わい、悦に浸っていた。

 

統夜はまるで自分の家のようにくつろぐアキトをジト目で見ながら自身も紬の用意した紅茶やケーキを味わっていた。

 

こうしてティータイムは始まったのだが、今日の朝に誰かの制服がこの部屋に干されていた話や、梓がインターネットで購入した便利グッズの話で盛り上がっていた。

 

その中で、ギターを濡れたまま放置すると、フィンガーボードにカビが生えると梓が話をすると、何故か澪が怯えていた。

 

唯も慌ててギターをチェックするのだが、弦が錆びていたので、弦の交換を行うことにした。

 

「……ふーん、弦の交換を見てると、本当にここが軽音部なんだなって思うよ」

 

「いやいや、軽音部だから……」

 

アキトがこの部活が軽音部だということを改めて実感していると、統夜は呆れていた。

 

「……あっ、そうだ!」

 

「?」

 

何かを思い出したアキトは、どこからか赤い封筒……指令書を取り出した。

 

「これ、番犬所から預かってたんだった」

 

「おいおい、そこは忘れるなよ……」

 

1番大事な用事をど忘れしていたアキトに統夜は呆れていた。

 

統夜はアキトから指令書を受け取ると、長椅子に置いてある魔法衣から魔導ライターを取り出し、魔導火を放って指令書を燃やした。

 

唯たちは何度かこの光景を見ているので、驚くことはなかった。

 

指令書が燃え尽きると、そこから魔戒語で書かれた文章が浮かび上がり、統夜は指令の内容を音読した。

 

『……ホラー、アンドゥークか……。実力はたいしたことはないが、トラップを用いた戦術が厄介なホラーだぜ』

 

「トラップねぇ、まるでアングレイみたいだな」

 

『ま、アングレイとは全く関係はないんだがな。名前が似ているだけで』

 

今回討伐するアンドゥークとかつて牙狼の称号を持つ鋼牙が討伐したアングレイとは、名前が似ている以外の共通点はなかった。

 

「さて、指令なら行かないとな。今なら雨も上がってるし」

 

統夜はそう言いながら帰り支度をしていたのだが……。

 

「本当!?よし、私たちも帰ろう!今のうちだ!」

 

唯が雨の降らないうちに帰ろうと提案していた。

 

「何でそんなに急ぐんです?」

 

「だって、ギー太が濡れちゃうよぉ」

 

「またギー太って……」

 

唯はギターことギー太の弦を交換している時にもギー太に語りかけていた。

 

そのことに梓はツッコミを入れるものの、それがやきもちと勘違いされ、先輩たちにからかわれていたのである。

 

「……あずにゃんはあずにゃんで、大事に思ってるよ♪」

 

唯のこの言葉に梓の顔は真っ青になっていた。

 

唯と梓がこのようなやり取りをしているうちに、統夜は帰り支度を整えた。

 

「……統夜。今回のホラーだが、俺も手伝うぜ」

 

「えっ?でも、いいのか?お前だってやる事があるだろ?」

 

「まぁ、そうだけどさ、これからお前らにも協力してもらうことが出てくるし、お前らの仕事も手伝わないとな。魔戒法師として」

 

アキトはひょうきんな性格の上義理堅いところがあり、これからの仕事で統夜たちの手を借りる機会が増えるため、統夜たちの仕事も手伝おうと考えていた。

 

「それじゃあ、お前の力を借りるぜ、アキト!」

 

「おう、それじゃあ行こうぜ!……という訳でケーキと紅茶ご馳走さん♪また遊びに来るからな」

 

「はい、待ってます♪」

 

アキトがケーキと紅茶をご馳走になったことに礼を言うと、統夜と2人で学校を後にして、イルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

統夜とアキトがホラー捜索を始めた頃、桜ヶ丘某所にある小さな画廊で、二十代前半くらいの女性が翌日行われる個展の準備を行っていた。

 

女性は東ヒカリという名前で、とある画家に憧れて、画家を志した女性である。

 

「……よいしょ。……もうすぐ私の個展が始まるのね!」

 

ヒカリは明日行われる個展に胸を躍らせていた。

 

「……あたしもなれるかなぁ。御月カオル先生みたいな画家に……」

 

ヒカリが憧れている画家こそ、画家や絵本作家として成功したカオルだった。

 

現在カオルは鋼牙と結婚しているため、本名は「冴島カオル」なのだが、仕事の時は旧姓である「御月カオル」と名乗っているのである。

 

ヒカリは偶然カオルの作品を見た時にその作品に心打たれ、こんな絵が描ける画家になりたいと思い、画家の道を志した。

 

ヒカリが個展の準備をしていると……。

 

「……東くん、精が出るね」

 

この画廊のオーナーがヒカリに労いの言葉を送っていた。

 

「はい!ワンフラットだけでも展示してもらえるのは本当にありがたいです!」

 

個展といってもワンフラットのみの展示ではあるが、それでも画家としては大きな一歩であることに間違いはなかった。

 

「……あ、そうだ。倉庫の片付けがあったんだった。東くん、手伝ってくれないかな?」

 

「え?でも、まだ明日の準備がありますし……」

 

ヒカリがこう断ると、オーナーは何故か不機嫌そうな表情をしていた。

 

「……ま、仕方ないね」

 

そう言ってオーナーは倉庫の方へと消えていき、ヒカリは明日の準備を再開した。

 

 

 

 

 

1時間後、ヒカリは明日の準備を終え、一息ついていた。

 

「ふぅ、これで良しっと……」

 

ヒカリが一息ついて休んでいると……。

 

「おぉ、東くん。終わったかね?」

 

倉庫の片付けをしていたオーナーが再びやってきた。

 

「あ、はい!終わりました!」

 

ヒカリはオーナーに明日の準備が終わったことを報告した。

 

「おぉ、そうか。それじゃあ今日はもうここを閉めるから、この後食事でもどうかな?」

 

「あ、いえ……あたしは……」

 

ヒカリは唐突なオーナーのナンパに困惑していた。

 

「いいではないか。明日はここを使わせてもらうんだろ?食事くらい」

 

オーナーは自分の立場を利用してヒカリに迫った。

 

「……あ、いや、その……」

 

ヒカリはどう断るかを考えていたのだが、断る言葉が見つからなかった。

 

こうしてヒカリが困り果てていたその時だった。

 

「……そこら辺にしといた方がいいんじゃないですか?」

 

こう制止する言葉と共に統夜とアキトがヒカリとオーナーの前に現れた。

 

「……な、何なんだ!君たちは!ここは立ち入り禁止だぞ!」

 

「いやぁ、実は探し物をしてたらたまたま通りがかりましてね。あなたがその人に迫る所を見ちゃったって訳ですよ」

 

「……!見ていたのか!」

 

「ま、安心してください。俺たちはあなたを脅すつもりはないですから」

 

「そ、それならさっさと出て行きたまえ!」

 

オーナーは少し安堵しながらも統夜とアキトを追い出そうとした。

 

「もちろん出て行きますとも」

 

「その前に……」

 

統夜はいつの間にかオーナーの前に移動すると、魔導ライターを取り出し、魔導火を放ってオーナーの瞳を照らした。

 

すると、オーナーの瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

それは、オーナーがホラーであるという証であった。

 

ホラーであることが発覚したオーナーは素早い動きで何処かへ移動すると、結界のようなものを貼った。

 

そして、統夜、アキト、ヒカリの3人は謎の空間にいつの間にか移動していた。

 

「な、何!?何なのよ!」

 

ヒカリはあまりに非日常的な光景に困惑していた。

 

「……どうやら、これがアンドゥークお手製のトラップって訳か」

 

『あぁ、そのようだぜ』

 

「え?声?今の何処から……」

 

イルバの声にヒカリが困惑していると、3人の目の前に人のような姿をした何かが現れた。

 

その手には槍のようなものが握られており、しかも、それは1体ではなかった。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……っと。6体か。アキト、一気に蹴ちらすぞ」

 

「おう!」

 

アキトは魔導筆を取り出すと、とある術を放ち、ヒカリを強制的に安全な場所に移動させた。

 

「え!?な、何!?」

 

突然体が動いたことに困惑するヒカリを後目に統夜は魔戒剣を抜き、アキトは魔戒銃を取り出した。

 

そして、人のようなものたちが統夜とアキトめがけて突っ込んでいた。

 

「……統夜!」

 

アキトは魔戒銃を発砲すると、統夜はそこから飛び出してきた弾を6等分に斬り裂き、魔戒剣の切っ先に留まらせた。

 

統夜が魔戒剣を一閃すると、6等分に分けられた魔戒銃の弾がそれぞれ人のようなものに直撃した。

 

その一撃で急所が狙い撃たれたのか、人のようなものは消滅した。

 

「よっしゃあ!ナイスコンビネーション♪」

 

アキトは統夜との連携技が見事に決まり、満足そうにしていた。

 

「アキト、油断するなよ。ホラーはまだ生きてるんだからな」

 

「わかってるって♪」

 

「あなたたちは……一体……」

 

ヒカリは剣や銃を持つ統夜やアキトの戦いを唖然としながら見ながらも不審そうに見ていた。

 

こうしてアンドゥークの放ったトラップは統夜とアキトにあっさりと破られ、空間が歪むと、元の画廊に戻ってきた。

 

アンドゥークことオーナーは統夜たちがあっさりとトラップを破ると思っていなかったので、驚愕していた。

 

「…….トラップにしては歯応えがなかったな」

 

驚くオーナーを後目に統夜とアキトはトラップを破ったことを告げ、飄々としていた。

 

「……貴様ら、魔戒騎士と魔戒法師か」

 

オーナーは鋭い目線で統夜とアキトを睨みつけていた。

 

「え?魔戒騎士?魔戒……法師?」

 

全く聞きなれない単語にヒカリは困惑していた。

 

それと同時にこの2人は普通の人間ではないことも確信していた。

 

「……アキト、その人を頼む。俺は、こいつを斬る!」

 

統夜は魔戒剣を構え、オーナーを睨みつけた。

 

「わたった。任せたぜ!」

 

アキトはヒカリを連れて安全な場所まで移動した。

 

すると、オーナーの体が次々と変わっていき、この世のものとは思えない化け物に変化した。

 

「……こいつがアンドゥークか」

 

『あぁ、統夜、油断するなよ』

 

統夜は魔戒剣を力強く握りしめ、アンドゥークを睨みつけた。

 

アンドゥークもそんな統夜を睨みつけると、先制攻撃と言わんばかりに突撃してきた。

 

統夜はそんなアンドゥークの攻撃を軽くあしらうと、蹴りを放ってアンドゥークを吹き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

その後、統夜は反撃と言わんばかりにアンドゥークに突撃し、魔戒剣を一閃した。

 

1度だけではなく、2度、3度と魔戒剣を叩き込み、着実にアンドゥークにダメージを与えていった。

 

「このぉ!魔戒騎士が!」

 

アンドゥークはどうにか反撃をしようとするが、統夜はその前に蹴りを放ち、アンドゥークを吹き飛ばした。

 

「ぐぁっ!く、くそ……!」

 

「一気に決着をつける!……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜がアンドゥークに向かってこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。

 

「!ぎ、銀色の……狼……?」

 

ヒカリは見たこともない白銀の輝きを放つ鎧を見て、驚愕していた。

 

アキトは驚いているヒカリを見て、笑みを浮かべていた。

 

「大丈夫だ。あいつはあの怪物を倒す。俺もそうだけど、あいつは守りし者だからな」

 

「守りし……者?」

 

 

あまり聞きなれない言葉ではあったが、ヒカリにとって、その言葉は心地の良い響きであった。

 

そんな中、統夜はゆっくりとアンドゥークに向かっていった。

 

「おのれ!これならどうだ!」

 

アンドゥークは統夜めがけて衝撃波を放つが、全く効いていないのか、歩みを止めることはなかった。

 

それでもどうにか統夜を止めようと連続で衝撃波を放つが、どれも統夜には効いていなかった。

 

衝撃波を受け止めながらアンドゥークに接近した統夜は皇輝剣を一閃しようとするが……。

 

「こうなったら……!」

 

何かを企んだアンドゥークはアキトとヒカリに接近した。

 

「!させるか!」

 

統夜はアンドゥークが2人に接近する前に皇輝剣を一閃し、アンドゥークを斬り裂いた。

 

しかし……。

 

「ククク……。計画通りだ……!」

 

アンドゥークはこう言葉を言い残し、消滅した。

 

統夜がアンドゥークを斬り裂いた時、アンドゥークの血が飛び散ったのだが、その返り血がヒカリに接近していた。

 

アンドゥークの狙いこそ、普通の人間であるヒカリを血に染まりし者にしてしまおうというものだった。

 

このままホラーの返り血がヒカリについてしまえば、ヒカリはホラーにとって格好の餌になり、100日後には尋常ではない苦しみと共に死に至ってしまう。

 

そうなってしまえば、ヒカリを斬らなくてはならなかった。

 

しかし……。

 

「させるかよ!」

 

アキトは魔導筆を取り出し、ヒカリに結界を貼った。

 

そのおかげでヒカリはホラーの返り血から守られ、そのままホラーの返り血も消滅した。

 

「ふぅ……良かった……」

 

アキトのおかげで最悪の事態は回避され、統夜は安堵していた。

 

そのまま鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

そして統夜はアキトとヒカリのもとへ歩み寄った。

 

「あんた、怪我は……ないみたいだな」

 

とりあえずホラーとの戦いでヒカリが負傷していないことを確認すると、統夜は安堵していた。

 

「あ、あんたたち、一体なんなのよ!?それに、さっきの怪物は?」

 

あまりに非日常的な光景をたくさん見たヒカリは混乱して色々なことを問い詰めていた。

 

「いやぁ、あれは……」

 

ヒカリのあまりの迫力に統夜とアキトはタジタジになっていた。

 

「それに、何てことをしてくれたのよ!あたしは明日の個展に命をかけてたのに、それを台無しにするなんて!」

 

ヒカリは怒りに満ちた表情で統夜とアキトを睨みつけていた。

 

この画廊のオーナーはホラーであったが故に統夜たちに討伐されたおかげで、明日行われる予定の個展は中止せざるを得なかった。

 

しかも、そのために支払ったお金も戻ってこないため、ヒカリがここまで怒るのも無理はなかった。

 

「それは悪いと思ってるよ。だけど……」

 

「俺たちが来なかったらあんたはあのホラーに喰われてたぞ。あいつらは人間を喰らうからな」

 

統夜とアキトは個展を台無しにしたことを謝りながら自分たちが来なかったらヒカリも危なかったことを伝えた。

 

「ホラー?人を喰らう……怪物?」

 

ヒカリはあの怪物が何なのか少しわかった気がしていた。

 

しかし……。

「ホラーとの戦いを見られたからには……」

 

「?」

 

統夜は魔法衣の懐から1枚の札を取り出すと、それをヒカリの頭に貼り付けた。

 

札を貼り付けられたヒカリはそのまま倒れ、気を失っていた。

 

「……さて、帰ろうぜ。統夜」

 

「あっ、あぁ……」

 

統夜はそう答えながら気を失っているヒカリのことをジッと見ていた。

 

「?どうした統夜?早く行こうぜ!」

 

そう言ってアキトは先に画廊から出て行った。

 

「あぁ!今行く!」

 

統夜も慌ててアキトを追いかけた。

 

(画家を目指してて、ホラーのせいで個展がめちゃくちゃになる……。まるでカオルさんみたいだな。……もしかしたらまた会うことがあるかもしれないな)

 

統夜はヒカリとカオルが似ているところがあるからか気になっていた。

 

そして、もしかしたらまた会うことがあるかもしれないと感じていた。

 

そんなことを考えながら統夜は画廊を後にした。

 

途中アキトと別れていると、統夜はそのまま自宅へと向かった。

 

『……おい、統夜。お前はさっきから何を考えているんだ?』

 

家に帰る途中、イルバが声をかけてきた。

 

「ん?さっきホラーに襲われた人がいただろ?あの人、どこかカオルさんに似ているなって思ってさ」

 

『あぁ、確かにそうかもしれないな。あのお嬢ちゃんもカオルもオーナーがホラーになったせいで個展を台無しにされたり、画家を目指してるところとか似てるかもな。まぁ、カオルは今や画家なんだがな』

 

統夜だけではなく、イルバもヒカリとカオルの共通点に気付いていた。

 

『まぁ、ホラーに関する記憶は消えても個展を台無しにされた記憶は残ってるだろうから今度会う時はつっかかられるかもな』

 

「アハハ……。出来ればそれは勘弁だな……」

 

『まぁ、それはともかく早く帰ろうぜ』

 

「そうだな」

 

こうして統夜はそのまま自宅へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『ほぉ、こいつは驚いた。澪のやつのファンクラブが出来ていたとはな。澪のやつ、人気はあるみたいだからな。次回、「茶会 前編」。まぁ、俺様ほどの人気ではないだろうがな』

 




こうしてアキトがしばらくの間、桜ヶ丘に留まることになりました。

アキトはコミュ力の高さを感じさせる場面がありましたが、アキトは統夜を含めたオリキャラの中で1番コミュ力が高いと思います。

そして、今回出てきたオリキャラのヒカリですが、カオルに憧れて画家を目指すという今までの牙狼でいそうでいなかったキャラになりました。

そんなキャラを今後出さないのはもったいないかなぁと思っているので、今後も出して行こうかなぁって思います。

次回は、けいおんメインの話になります。

予告にもあった澪のファンクラブとは一体何なのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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