前回の後書きでも書きましたが、今回のキーワードは「誕生日」になっています。
果たして誰の誕生日なのか?
それでは、第51話をどうぞ!
統夜たちが修学旅行から帰ってきた翌日、統夜はイレスたちにお土産を渡すために紅の番犬所を訪れていた。
「……統夜、ありがとうございます♪」
統夜がお土産としてイレスに渡したのは、京都名物の八つ橋など京都ならではのお土産ばかりだった。
「お抹茶もありますし、これはおやつの時間が楽しみです♪」
イレスは統夜のお土産を心底喜んでいた。
「喜んでもらえて光栄です」
「統夜、俺たちにもこんなにお土産ありがとな」
大輝と戒人にも、お土産を用意していた。
イレスよりは少ないものの、八つ橋など京都ならではのお土産を渡していた。
ちなみに甘い物が苦手な戒人に八つ橋などのお土産ではなく、京都っぽい雑貨を多く選んでいた。
「俺、甘い物苦手だからこのお土産は嬉しいよ。ありがとな」
「いいんだって。……それよりも戒人!お前昨日は梓たちと遊んだんだって?」
「んな!?何でお前がそれを知ってるんだよ!」
統夜がその事実を知っているとは思っておらず、戒人は驚いていた。
「だって、唯の携帯に送られた写メにお前の姿がチラッと写ってたからな」
「あぁ、なるほど……」
唯の写メを見たならば知っていても不思議はないと思い、戒人は思わず納得してしまった。
「へぇ、珍しいですね。あなたはあまりそういう遊びに興味はないと思っていました」
「まぁ、そうなんですけど、人のことを知るいい機会にはなりました」
「で、何をしたんだ?」
「バッティングセンターとやらを体験してな。まぐれ当りだとは思うが、ホームランも出たし面白かったぞ」
戒人はアミューズメントセンターで遊んだバッティングセンターの話をしていた。
「へぇ、バッティングセンターかぁ。確かに面白いよな」
統夜も唯たちと行ったことがあり、体験したことがあるため、面白さは理解していた。
「私もやったことあります!難しかったですけど……」
イレスも留学生として桜高に潜り込んだ時、クラスメイトたちとバッティングセンターに行ったことがあった。
しかし、まったく打てずに諦めてしまったという結果だった。
「まぁ、戒人にとってはいい経験になったんじゃないのか?」
「はい!俺にとっていい経験になりました」
実はバッティングセンターに行ったことのない大輝が話をまとめていた。
「そういえば、梓にはお土産を渡したのですか?」
「いえ、今は学校を休んでますから、登校した時に渡そうってみんなで決めたんです」
「そうですか」
番犬所を訪れた今日は修学旅行の翌日だったため、3年生は学校を休んでいる。
なので、休みが明けてから梓にお土産を渡そうと唯たちと相談して決めたのである。
「梓、喜んでくれると良いですね♪」
「はい!」
こうして、お土産に関する話は終了した。
「……それはそうと、都の番犬所の神官から話は聞きましたよ。京都でも見事ホラーを討滅したそうですね」
「えぇ、修学旅行を上手いこと抜け出してホラーを討滅しました」
「あの方は口や態度こそ辛辣なところはありますが、根は悪い人ではありません。そこは理解してあげて下さい」
「はっ、はぁ……。イレス様がそうおっしゃるなら……」
稲荷の性格を理解していたイレスは、このように統夜をフォローしていた。
「これは口止めされましたが、あの方は統夜のことを褒めてましたよ?学校なんてくだらないところに行ってるくせにそこら辺の魔戒騎士より強いって」
『……どうやらあいつも人を見る目はあるようだな』
「あぁ、そうらしい」
統夜は稲荷のことを快く思っていなかったが、評価するべき点はしっかり評価していることから、稲荷に対する気持ちを少しだけ改めていた。
こうして稲荷に対する話も終了した。
その後指令はなかったので、統夜は修学旅行がどんなものだったかを報告した後に番犬所を後にした。
その後は街の見回りを行い、帰路についた。
※※※
休みが明けて、統夜たちは無事梓にお土産を渡すことが出来た。
梓にお土産を渡した日の部活が終了すると、統夜はこの日も番犬所を訪れていた。
「統夜、指令です」
番犬所の中に入ると、イレスにこう宣言されたので、統夜は赤の指令書をイレスの付き人の秘書官から受け取った。
魔導ライターを取り出すと、魔導火を放ち、指令書を燃やすと、そこから浮かび上がってきた魔戒語の文章を音読した。
統夜が指令を読み終えると、魔戒語の文章は消滅した。
『……裂空ホラーと言われたズフォーマーか……。これは随分と面倒な仕事を押し付けられたものだ』
イルバは指令の内容から討滅するホラーがズフォーマーと呼ばれるホラーとわかると、げんなりとしていた。
「?そうなのか?」
『あぁ、こいつは相当すばしっこいホラーでな。先回りして叩くしかない』
「先回りって……。そのホラーはかなりすばしっこいんだろ?」
「統夜、そのホラー対策の魔導具が明日の朝にこの番犬所に送られます。その魔導具を用いてズフォーマーを待ち伏せするのです」
「その魔導具って、レオさんの魔導具ですか?」
「えぇ。数年前にもズフォーマーが現れたのですが、その時は冴島鋼牙がレオの魔導具を用いて討滅したと聞いています」
イレスの言う通り、以前もズフォーマーが出現したことがあったのだが、鋼牙はレオの魔導具を用いてズフォーマーを討滅したのであった。
「わかりました。明日の朝、その魔導具を受け取り、ホラーを討滅します」
「頼みましたよ、統夜」
統夜はイレスに一礼をすると、番犬所を後にした。
統夜はホラー討滅の準備のため、1度家に戻ることにしたのだが、その移動中にさわ子に電話をかけた。
明日のホラー討伐は長丁場になるため、学校を休まなきゃいけないからである。
魔戒騎士の仕事だと理解したさわ子は、風邪で学校を休むということにしてくれた。
統夜はそんなさわ子に礼を言うと電話を切り、家に戻って、明日の準備を始めた。
翌日の早朝、番犬所を訪れた統夜はレオから送られたズフォーマー捜索のための魔導具を受け取り、番犬所を後にした。
統夜はイルバのナビゲーションでとある場所にたどり着くと、そこから開かれた扉に入り、奇妙な岩が並び立つ雲海にたどり着いた。
統夜はイルバの指定した場所に到着すると、すぐにレオの魔導具をセットした。
『……よし、これで後は奴さんが出てくるのを待つだけだぜ』
「……あぁ。今日は長丁場になりそうだな」
統夜は今回のホラーとの戦いは待つことが多くなる持久戦となることを予想していた。
統夜は手頃な大きさの岩に腰を下ろすと、魔戒剣を取り出し、いつズフォーマーが現れても良いように準備していた。
統夜がズフォーマーが現れるのを待っていた頃……。
「やーくん、来ないね……」
「今日もひょっとして遅刻かしら?」
もうすぐHRの時間なのに統夜が現れないことを唯と紬は心配していた。
統夜はエレメントの浄化に夢中になるあまり遅刻することは度々あったので、紬は今日も遅刻ではないかと予想していた。
しかし、HRが始まり、さわ子から告げられた報告に唯たちは驚いていた。
「えーっと、月影君ですが、風邪をひいてしまったみたいで、今日は学校をお休みすると連絡がありました」
統夜が風邪を引いて休むと言われ、唯たちはもちろん、他のクラスメイトたちもざわついていた。
「え?月影君も風邪引くんだ……」
「何か丈夫そうなんだけどね……」
統夜はあまり風邪を引くことはないと思い込んでいる人が多かったので、風邪と聞いて驚いていたのである。
「はい、静かに!HRはまだ終わってないですよ!」
ざわつく生徒たちをさわ子が注意し、さわ子は連絡事項の説明を始めた。
「……やーくん……」
唯も学校を休んだ統夜のことを心配していた。
「……さーわちゃん!」
HRが終わり、さわ子は職員室に戻るため廊下を歩いていたのだが、律に呼び止められた。
「聞きたいことがあるんですけどー!」
そう言って律はさわ子に駆け寄った。
律だけではなく、唯、澪、紬、和もついてきていた。
「……もしかして、統夜君のこと?」
さわ子の問いに唯たちは頷いていた。
「ねぇ、さわちゃん。やーくんは本当に風邪でお休みなの?」
唯はずっと気になっていた疑問をさわ子にぶつけた。
さわ子は他の生徒が聞き耳を立ててないか警戒し、周囲を見回すが、幸い唯たち以外の姿はなかった。
「……実は統夜君はね、ホラー討伐に向かってるみたいなの」
さわ子が本当のことを唯たちに告げると、唯たちは驚いていた。
「え!?だって今は朝だろ?こんな時間にホラー討伐に行ったって言うのか?」
「私もそれは思ったんだけどね、今回のホラーは相当すばしっこいんですって。だから待ち伏せして倒すしかないって言ってたのよ」
「なるほど……。ホラーを待ち伏せして確実に倒すために今日は学校を休んだってことね」
さわ子の説明を受けた紬はこのような推理を行い、その推理にさわ子は頷いていた。
「統夜君のことが心配だとは思うけど、統夜君なら大丈夫よ!だからあなたたちは教室に戻りなさい」
「そうだよね。確かにやーくんのことは心配だけど、やーくんなら大丈夫だよね!」
「そうだな。統夜は守りし者なんだ。そんな統夜の強さを私は信じてる」
「あぁ!あたしもだ!」
「私も私も♪」
唯たちは統夜のことを心配はしていたが、統夜の強さを信じていた。
そんな統夜を信じる姿勢を見たさわ子は笑みを浮かべていた。
こうして唯たちは教室に戻り、いつも通り授業を受けていたのである。
※※※
その頃、統夜は未だ姿を見せないズフォーマーを待ち続けていた。
『……そろそろ授業が始まる頃合いだな』
「あぁ。今日は学校休むって言ってたし、唯たちは心配してるだろうな」
『そうかもな。だからこそ唯たちを安心させるためにズフォーマーを確実に仕留めないとな』
「あぁ、わかってる。このレオさんの魔導具があれば奴の動きはわかるからな」
現在レオの魔導具はまるで風車のようにグルグルと回転していた。
これは、ズフォーマーが移動を続けていることを示している。
統夜は精神を集中させてズフォーマーを待ち続けていた。
「……え?統夜先輩、お休みなんですか?」
この日もあっという間に過ぎ去り、放課後となった。
梓は唯たちから統夜が休みと告げられて驚いていた。
「あぁ、統夜は朝からホラー討伐に向かったみたいなんだよ」
「え!?朝から……ですか?」
「今回のホラーは相当すばしっこいみたいなの」
「それで、ホラーを待ち伏せして確実にやっつけるために学校を休んだみたいなんだよね」
「……そうだったんですか……」
「……梓もやっぱり統夜のことが心配か?」
澪の問いかけに梓は無言で頷いた。
「心配ですけど、私は統夜先輩のことを信じています。だって、統夜先輩は多くの人を……私たちを守る守りし者ですから!」
統夜のことを心の底から信じている梓は力強い瞳で統夜の無事を確信していた。
「そうだよな、私たちもそう思ってるよ」
「うん!私もやーくんを信じてるよ、あずにゃん!」
「だからこそ私たちはいつも通りでいましょう♪」
「はい!」
こうして唯たちは統夜を信じながらいつも通りの生活を送ることにしたのであった。
「……そういえば、今度の日曜日が統夜先輩の誕生日らしいんですけど、知ってました?」
いつものようにティータイムを行っていたのだが、梓が唐突に振ったこの話題を聞いた唯たちは唖然としていた。
「え!?もうすぐやーくんの誕生日だったの!?」
「全然知らなかった!」
「そう言えば統夜君の誕生日とか話をしなかったわよね」
「確かにそうだな……」
唯たちは統夜と誕生日の話をしたことはなく、統夜の誕生日がいつだか知らなかった。
「知らなかったんですか?先輩たちは知ってると思ったんですけど……」
梓は唯たちが統夜の誕生日を知らないことに驚いていた。
「っていうかあずにゃん誰からやーくんの誕生日を聞いたの?」
「え?本人からですけど?」
梓は去年の期末テストが終わった後に統夜と動物園でデートをしたのだが、その時に誕生日を聞いていたのである。
統夜は誕生日を隠す気もなかったので、普通に教えてくれたのである。
「本人って、いつ聞いてたんだよ……」
いつの間にか誕生日の情報を仕入れていた梓に澪は驚いていた。
「まぁ、それはともかくとして、統夜君は毎日大変だし、今度の日曜日、統夜君のサプライズバースデーパーティーをしたらどうかしら?」
「それだ!」
紬の提案に律はすぐに賛同していた。
「いいかもしれないですね」
「うん!面白そう!」
「私も賛成だ!」
梓、唯、澪も賛同し、統夜のバースデーパーティーを行うことになった。
「ところて、パーティーをやるのはいいんですけど、どこでやるんですか?」
梓はやるにあたって1番の問題である場所について聞いていた。
「んー、そうだなぁ……」
「私の家はどうかな?」
唯は真っ先に自分の家を提案していた。
「まぁ、唯の家が1番無難だけど、憂ちゃんにかなり負担をかけちゃうよな」
「……!だったら、ムギの別荘はどうなんだ?」
「それなら私たちで準備も出来るし、悪くはないかもな!」
律の考えた紬の別荘というのはかなりの妙案だと思われたのだが……。
「ごめんなさい、ちょうど今度の日曜日は別荘はどこも予定がいっぱいで使えないの……」
紬の別荘は残念ながら使用出来ないという状態だった。
「……あっ!鋼牙さんのお屋敷はどうかしら?」
「ゴンザさんなら相談したら喜んで協力してくれそうだな」
「だけど、尊敬する人の家でのパーティーって逆にやーくんが気を遣うんじゃないかなぁ?」
「そうですね。それに、カオルさんはオメデタで、今は大変な時期らしいですからね」
梓の言う通り、鋼牙の妻であるカオルは去年統夜の学園祭を見に行ったあたりで妊娠が発覚し、今年の夏に産まれる予定になっている。
梓は時々カオルとメールでやり取りをしており、その時に妊娠したことを知ったのである。
ちなみに統夜や唯たちもカオルが妊娠していることは知っている。
「そうだよなぁ……。大変な時期なのにカオルさんに迷惑をかけられないしな」
「やっぱり唯ちゃんの家が良さそうね……」
「私たちも協力してなるべく憂ちゃんの負担を減らさないとな」
こうして色々検討した結果、統夜のバースデーパーティーは唯の家で行うことになった。
「ねぇ、プレゼントはどうしよう?」
「それは今度の土曜日にみんなで見にいこうぜ!」
「そうだな!」
「はい!そうしましょう!」
「うん!賛成!」
プレゼントも前日である土曜日に集まって買いに行くことを決めた。
その後はパーティーでどのようなことをするかを話し合っていたため、練習どころではなかった。
統夜のバースデーパーティーをどのように行うかある程度話をまとめたところでこの日の部活は終了し、解散となった。
※※※
統夜が魔導具を設置し、ズフォーマーを待ち続け、どれだけの時間が経っただろうか?
統夜は今現在もズフォーマーを待ち続けていた。
そして、待ちに待った瞬間が訪れたのである。
「……!」
統夜は何かを感じ取り、立ち上がった。
その異変はイルバも察知していた。
「……統夜!来るぞ!」
統夜の眼前に龍のような姿をした何かが統夜の方に近付いてきた。
その龍のような姿をした何かこそが、統夜の追い求めていたズフォーマーであった。
統夜はズフォーマーと接触する直前に鎧を召還し、皇輝剣を一閃してズフォーマーを一撃で斬り裂いた。
千載一遇のチャンスを見事にものにした統夜は鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。
『統夜、ようやく倒したな』
「あぁ。これで家に帰れるよ……」
長い時間待ってホラーを倒したため、疲労がいつもより蓄積していたのか、統夜は大きく伸びをしていた。
「さて、さっさと撤収して、家に帰るとしますか」
『あぁ、そうだな』
統夜はレオの魔導具を手に取ると、それで帰る準備は整ったので、イルバのナビゲーションを頼りに今いる空間から脱出すると、そのまま帰路についた。
※※※
ズフォーマー討伐から数日が経過した。
この日は土曜日で、学校は休みであった。
今日は部活も休みだと事前に聞いていた統夜は、この日はいつも以上にエレメントの浄化を行っていた。
商店街で昼食を済ませた統夜はエレメントの浄化を再開しようとしたのだが……。
「……ん?あれって……」
統夜は唯たちを発見したのだが、唯たちは雑貨屋の中に入っていった。
「みんな揃って買い物かな?今日は部活も休みだし」
統夜は唯たちが統夜の誕生日プレゼントを買っているなど知る由もなかった。
『統夜。唯たちは気になるだろうが行くぞ。まだ今日の仕事はたくさん残ってるんだからな』
「わかってるって」
統夜は雑貨屋とは反対方向の道を歩き始めると、再びエレメントの浄化を行っていた。
この日のエレメントの浄化を終えた統夜は一度番犬所を訪れていた。
しかし、指令はなかったため、番犬所を出た統夜は街の見回りを行っていた。
そして、夜遅くになり、この日このまま帰ろうかと思っていたその時、突如統夜の携帯が鳴り響いていた。
統夜は携帯を取り出すと、律から電話が来ていた。
それがわかると、統夜はすぐに電話に出た。
「……はい、もしもし」
『あっ、統夜。今大丈夫か?』
「あぁ、大丈夫だ」
『明日なんだけどさ、明日も1日中魔戒騎士の仕事があるんだろ?』
「あぁ、部活が休みなら午前午後とエレメントの浄化をしなきゃいけないからな」
統夜は日曜日も部活が休みと聞いていたので、明日も今日のようにエレメントの浄化を行うつもりだった。
もし指令があればホラー討伐に向かわなければならないのだが……。
『明日、そのエレメントの浄化が終わったらさ、唯の家に来てくれないか?』
「唯の家?何かあるのか?」
『それは明日になったらわかるよ。それじゃあ、頼んだぜぇ!』
「おい!ちょっと、律!」
統夜の有無を言わさずに律は電話を切った。
ツーツーツーという電話の切れる音を聞きながら統夜は唖然としていた。
「……ったく、何なんだよ、律のやつ……」
統夜は正気に戻ると、このように文句を言っていた。
『やれやれ。行かないとうるさそうだし、これは行くしかなさそうだな』
「ま、仕方ないな」
統夜は遺憾ではあるものの、とりあえず明日のエレメントの浄化が終わり次第、唯の家に行くことにした。
予定が決まったところで、統夜は帰路についた。
※※※
翌日、唯たちは午前中から唯の家に集まり、統夜のバースデーパーティーの準備を行っていた。
それは、料理や飾り付けなど、憂1人に負担をかけさせないためである。
料理は憂、澪、紬が行うことになり、残りのメンバーは飾り付けなどを担当していた。
ちなみに統夜のバースデーパーティーにはさわ子、和、純も来るようだった。
唯たちは戒人や大輝に声をかけることも考えたが、統夜のバースデーパーティーは魔戒騎士としてではなく、同じ軽音部の仲間として行いたいという思いがあった。
そのため、今回は誘っていないのである。
唯たちは統夜のエレメントの浄化が早く終わることも計算に入れて素早く作業を行っていた。
唯たちがそんなことをしてくれているとはつゆ知らず、統夜はいつものようにエレメントの浄化を行っていた。
「……それにしても唯の家で何をやるんだろうな?」
統夜は昨日の夜に律から電話が来てから、ずっとそのことが気になっていた。
『さぁな。俺様にもわからん』
「もしかしたら指令が来るかもしれないってのに……」
『まぁ、唯の家に行ってから番犬所に行けばいいだろう。そこで指令を受けたらそのままホラー討伐に向かえばいいしな』
「そ、そうだな」
統夜はイルバと話すことで納得したのか、これ以上はこの話をすることはなく、エレメントの浄化を行った。
昼食も済ませ、この日のエレメントの浄化が終わったのは、16時になる前だった。
統夜は律に今から唯の家に向かうと連絡し、唯の家に向かった。
移動を始めてから10分後、唯の家に到着した統夜は、ピンポーンと家のチャイムを鳴らした。
ドタドタドタと足音が聞こえてくると、鍵が開く音が聞こえ、統夜は扉を開けた。
「統夜さん、いらっしゃい♪」
「統夜、待ってたぞ!」
玄関で統夜を出迎えてくれたのは憂と律だった。
「あぁ、遅くなった。それよりもさ、今日はこの家で何をするんだ?」
「まぁまぁ、焦るなって♪すぐにわかるからさ♪」
「?」
統夜が律の言葉に首を傾げていると、憂がスリッパを準備していた。
「とりあえず、上がって下さい♪」
「じゃ、じゃあ、お邪魔します」
律の目的がわからず困惑する統夜であったが、とりあえず家にあがり、2人に連れられてリビングに入った。
すると……。
__パン!パン!パン!!
「!?」
突然あちこちからクラッカーの音が聞こえてきて、統夜は驚いていた。
よく見るとクラッカーを鳴らしていたのは唯たちで、テーブルにはご馳走が並んでいた。
「なぁ、律。これは?」
突然の出来事に困惑する統夜を見て、律はふふん!と笑みを浮かべていた。
そして、「せーの!」と全員に合図をしていた。
すると、その場にいた全員が口々に統夜に誕生日おめでとう!と言っていた。
その言葉を聞いた統夜は状況が飲み込めず、目をパチクリとさせていた。
「……?やーくん?」
「どうしたんですか、統夜先輩?」
「あ、あぁ。悪い悪い。突然だったからびっくりしちゃってな……」
統夜は突然誕生日を祝ってもらったことに驚いていたのである。
「それに、今日は俺の誕生日だったな。祝ってもらうまで忘れてたよ」
『え!?』
統夜の言葉にその場にいた全員がこう反応していた。
『そういえば、去年の誕生日だってお前さんはど忘れしてたもんな』
「誕生日を祝ってもらうこと自体久しぶりだったからな……」
統夜は幼い頃に両親を失っており、その後は魔戒騎士になるため必死に修行していた。
そのため、日々の忙しさにかまけて誕生日のことなどすっかり忘れていたのである。
「そうだったんですね……」
「だけどさ、みんなに誕生日を祝ってもらって嬉しいよ。ありがとな!」
統夜は自分の嬉しいという気持ちを素直に伝えると、それを聞いた唯たちは笑みを浮かべていた。
「さぁ、統夜君。さっそくだけど、火を消して下さい♪」
統夜の誕生日ケーキは紬が用意したものなのだが……。
「あぁ、わかったよ。……ってでか!」
紬の持ってきたケーキは普通のケーキの倍以上の大きさであり、その大きさに思わず驚いてしまった。
しかし、統夜は気を取り直してロウソクに灯された火を吹き消していた。
統夜が火を消すと、唯たちから拍手が送られた。
「それじゃあ食べようぜ!あたしたちは統夜が来るまであんまり食べてないんだからもうお腹ペコペコなんだからな!」
「はいはい、わかったよ」
こうして統夜たちはテーブルに並べられたご馳走たちを食べ始めた。
テーブルのご馳走たちはかなり豪勢なもので、朝から気合入れて作ったのだろうということが理解できる程である。
統夜はそのことに感謝しながらご馳走たちに舌鼓を打っていたのである。
※※※
「……あっ、そうそう。あたしたちから統夜にプレゼントがあるんだよね」
食事を始めてから1時間が経過し、律がこのように話を切り出してきた。
「え?そうなのか?」
統夜はプレゼントまで用意しているとは思っていなかったので、驚いていた。
「これは私からよ」
和が用意したプレゼントは、少し高そうな万年筆だった。
「これは、良かったのか?何か高そうだけど……」
「いいのよ。魔戒騎士の使命も大事だけど、ちゃんと勉強もしなさいね」
「アハハ……。わかってるって」
本当に母親のような和の言葉に統夜は思わず苦笑いをしてしまった。
「私からはこれです!」
続いて純が用意したプレゼントは、ギターの交換用の弦だった。
「!純ちゃん、これって……」
「梓から聞きました。統夜先輩はそれを好んで使ってるって。ギターやってたら定期的に弦の交換は必要だし、良いかなって思いまして」
「ありがとな、純ちゃん!大切にするよ!」
統夜は魔戒騎士の使命があるからかなかなか交換用の弦を買う暇がなかったので、純からのプレゼントは心の底から嬉しかった。
「私からはこれよ!」
さわ子が統夜に渡したのは1枚のCDなのだが、それを見た統夜の表情が一変していた。
「!先生、これってまさか……」
「えぇ、あなたの好きな「ワルキューレ」のアルバムよ。最近出たこのCDを統夜君は欲しいって言ってたじゃない?良いかなって思ったのよ」
「ありがとうございます!凄く嬉しいです!」
ワルキューレは統夜の好きなグループなので、そのアルバムは素直に嬉しかった。
「わ、私からはこれです……」
憂が統夜に渡したのは、本なのだが、一冊だけではなかった。
「統夜さん、その小説読みたいって言ってましたよね?なので、その全巻集めてみたんです」
統夜が読みたがっているこの小説は、とある魔法使いが主人公の話で、世界中で大人気の小説であった。
「全巻って……。揃えるのにけっこうかかったんじゃないのか?」
統夜は読んでみたかった小説は嬉しかったのだが、一冊の予算がかなりのものなので、気を遣っていた。
「大丈夫です。私も読みたかったですし、インターネットを使って上手いこと安く仕入れましたから!」
憂はネットオークションで普通に買うより安い値段で仕入れることが出来たため、経済的負担は思ったよりも少なかった。
「なので、読み終わったら私にも貸して下さいね♪」
「あぁ、もちろんだよ」
統夜は憂と共有しながらこの小説をじっくりと読んでいくつもりだった。
「そして、私たちは5人は共同で統夜のプレゼントを選んだんだよ」
何と唯たちは一人一人ではなく、5人でお金を出し合って1つのものを購入したようだった。
そのプレゼントは小さな箱に入っており、軽音部を代表して、律が統夜にその箱を渡した。
「統夜先輩、開けてみて下さい♪」
梓がこう統夜を促すと、律、唯、澪、紬の4人はウンウンと頷いていた。
統夜は箱を開けて、中身を確認した。
すると……。
「こ、これって……」
箱の中身を見た統夜はこの日で1番驚いていた。
「……ウフフ♪やっぱり驚いてるわね♪」
「やーくん、絶対気にいると思うよ♪」
紬と唯はこのプレゼントは統夜が必ず喜ぶと確信していた。
その中身とは……。
「……これは、ネックレスか。だけどこの部分はもしかして……」
「あぁ。統夜のもう1つの名前、奏狼の紋章をモチーフにしたんだ」
唯たちのプレゼントこそ、統夜のもう1つの名前である奏狼の紋章が入ったネックレスであった。
「これ、どこで買ったんだ?」
「これはね、私の知り合いの人に作ってもらったの。今日の朝、出来上がったのよ♪」
紬の言う通り、このネックレスは紬の知り合いに頼んで作ってもらったオーダーメイドのネックレスだった。
「昨日色々見てみたんだけど、これが1番統夜らしいかなって思ってさ」
昨日統夜は雑貨屋に入っていく唯たちを見かけたのだが、それは統夜のプレゼントを探すためであった。
しかし、雑貨屋では目ぼしいものはなく、話し合いを重ねた結果、紬の知り合いにオーダーメイドのネックレス作りを依頼し、今日の朝、完成したものを受け取ったのである。
1番統夜らしい。その言葉が統夜にとってはどんな言葉よりも嬉しかった。
そこまで自分のことを考えてこのネックレスを用意してくれたのか。
そんな唯たちの気持ちも統夜の心を満たしていたのである。
「統夜先輩。それ、つけてあげますね」
軽音部を代表していた梓が統夜にネックレスをつけた。
その間は統夜と梓はもう少しで体が密着するくらい近付いており、梓は恥ずかしさで顔を赤らめていた。
統夜は梓とここまで接近したことはなく、梓からは女の子らしい良い匂いがしていた。
その甘い匂いと、背伸びをして一生懸命ネックレスをつけようとする梓の姿に、統夜は顔を真っ赤にしていた。
純、和、さわ子はそんな光景を見てニヤニヤしていたが、残りのメンバーは羨ましそうにそんな光景を見つめていた。
(ほぉ、奏狼の紋章のネックレスとは、ずいぶんと面白いものを選んだじゃないか。それなら統夜が喜ぶのは確実だしな)
イルバは唯たちが送ったネックレスをこのように評価していた。
「……はい、終わりましたよ」
ネックレスをつけ終えた梓は統夜から離れるが、少しだけ名残惜しそうにしていた。
「唯、律、澪、ムギ、梓……。本当にありがとな!これ、大切にするからな!」
つけられたネックレスを見つめながら統夜は満面の笑みでこう語っていた。
それを見ていた唯たちも満足そうに微笑んでいた。
「……さぁ!プレゼントも終わったことだし、パーティーの続きをするわよ!」
「そうですよ!まだまだご馳走もあるんですから♪」
統夜と唯たちの間にとてと甘い空気が流れていたため、さわ子と純がこう切り出し、そんな空気を断ち切っていた。
「2人の言う通りね。楽しいのはこれからだしね♪」
普段から真面目な和もこの雰囲気を楽しんでいた。
「そうだな、今日は思い切り楽しませてもらおうかな」
統夜はみんなが企画してくれたこの会を心の底から楽しむことを決めた。
『統夜、番犬所から呼び出しが来たらそっちを優先するからな』
「わかってるって♪」
統夜は魔戒騎士であるため、そう割り切ってはいたものの、今日だけは指令や呼び出しはやめてくれと心の底から祈っていた。
結局この日は指令も番犬所からの呼び出しもなく、統夜や唯たちはこのパーティーを思い切り楽しんでいた。
……続く。
__次回予告__
『これはなかなかまずいことになったな。まさかアレと戦うことになるとはな……。次回、「獄龍」。アレを敵に回すとは厄介過ぎるぜ!』
今回行われた誕生日は統夜の誕生日でした。
これだけの人に誕生日を祝ってもらい、統夜は幸せ者だと思います。
プレゼントもみんなそれなりに高値ですし(笑)
奏狼の紋章のネックレスは僕も欲しい(笑)そして牙狼の紋章のネックレスが実際あるのなら凄く欲しい(笑)
今回登場したホラーは、「牙狼 makaisenki」第10話に出てきたズフォーマーでした。
統夜はかつての鋼牙と同じ魔導具を駆使してズフォーマーを討滅することが出来ました。
次回もオリジナルの話ですが、この章の黒幕が登場します。
獄龍なんて名前は聞いたことないと思いますが、何故タイトルをこれにしたのかは次回明らかになります。
それでは、次回をお楽しみに!