牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第50話になります。

この小説も50話まで来ました。番外編を含めたらそれ以上なんですが。

今回は梓、憂、純の2年生組がメインの話になります。

統夜たちが修学旅行に行っている間、梓たちはどのように過ごしていたのか?

それでは、第50話をどうぞ!




第50話 「留守番」

統夜たちは2泊3日の修学旅行に行っていたのだが、その間、2年生である梓は普通通り授業を受けていた。

 

そして今は休み時間であり、梓は憂の携帯に送られた唯から来たメールを読んでいた。

 

「……今、富士山の中。新幹線が見える……って、はぁ……」

 

メールの内容を見た梓は思わずため息をついてしまった。

 

(もぉ、本当なら「今、新幹線の中。富士山が見える」でしょ?まったく、唯先輩は……)

 

真逆な内容をメールに書いていた唯に梓は呆れていた。

 

「お姉ちゃんすっごく楽しそうだよね♪良かった♪」

 

憂はこのメールを見ても呆れることはなく、前向きな意見を言っていた。

 

「もぉ、憂がそうだから、いつまで経っても唯先輩はダメなんだよ」

 

「え?ダメ?」

 

「……もう3年生なのに、部室でもダラーっとしてて、お菓子ばっかり食べてるし。私か統夜先輩が怒らないと練習しないし」

 

梓の言う通り、唯は軽音部ではダラっとしていてお菓子をよく食べていた。

 

それは唯だけではなく軽音部全体がそんな空気なので、梓や統夜が注意しないとなかなか練習を行わないのである。

 

「それじゃあ、梓ちゃんはお姉ちゃんビシッとしてた方がいいの?」

 

「もちろん!唯先輩がちゃんとしてれば……」

 

梓はビシッとしている唯を想像したのだが、その唯は何故かスポ根ドラマのようなキャラになっていた。

 

梓はそんな唯を想像すると、苦笑いをしていた。

 

「あれ?何見てるの?」

 

「あぁ、これ?お姉ちゃんからのメール♪」

 

憂は唯から来たメールを純に見せたのだが、純はそのメールを見て吹き出していた。

 

「憂のお姉ちゃんって面白いよね♪」

 

(そうかなぁ?唯先輩はどっちかというと天然だと思うんだけど……)

 

梓は心の中でこのようなことを考えていた。

 

「私もね、さっきジャズ研の先輩からメール来たんだ」

 

純はジャズ研の先輩から来たメールを憂と梓に見せていた。

 

「えっと、1年のこと頼むね」

 

「ちゃんとしてる……」

 

後輩を気遣っているメールに梓が関心していると、今度は梓の携帯が鳴った。

 

携帯を取り出すと、どうやら唯からのメールだった。

 

「トンちゃんの餌よろしくね……。って、格好悪い……」

 

梓は唯から来たメールを見てガクッときていた。

 

唯からのメールに写メが添付されていたのだが、その写メには澪と律と紬が写っており、統夜も写ってはいたのだが、統夜は眠っていた。

 

「あっ、統夜先輩寝てる……。毎日忙しいもんね……」

 

梓は写メに写っている寝ている統夜を見て、統夜のことを気遣っていた。

 

純はそんな梓を見てニヤニヤしていた。

 

「梓ってば統夜先輩に夢中だねぇ♪」

 

「にゃ!?そ、そんなことないもん!」

 

ニヤニヤしながらからかう純に、梓は必死に否定していた。

 

「それはともかくとして、軽音部ってさ!」

 

純は憂と梓の2人に軽音部のイメージを語っていた。

 

そのイメージとは、自分たちの楽器はそっちのけで缶蹴りを楽しむといったものであった。

 

「「そんなにひどくないもん!」」

 

純のイメージを、憂と梓は必死に否定していた。

 

 

 

 

 

 

そして昼休みになると、梓たちは購買でパンを買うことにしていた。

 

3年生が修学旅行でいない分、購買の人は少なかった。

 

それ故なのか純は珍しいパンをみつけていた。

 

「あ!幻のゴールデンチョコパン!2年にして初めて出会った!」

 

純はゴールデンチョコパンを手にし、喜んでいた。

 

「そんなのあるんだ」

 

「うん、限定3個。いつも3年生が先に買っちゃうみたい」

 

純の言う通り、ゴールデンチョコパンは3個しかない貴重なパンで、いつもは3年生が先に買っている。

 

なので、このパンに出会う機会は滅多にないのである。

 

純はゴールデンチョコパンを購入し、パンを求める人混みから脱出した。

 

「純ちゃん、記念写真撮ろうよ♪」

 

憂の提案に賛同した純はまるで名バッターのようなポーズをとっていた。

 

憂はすぐさま写メを撮ろうとするが、その寸前に唯からメールが来ていた。

 

その内容は、教室に弁当箱を忘れたので持って帰って欲しいという内容だった。

 

そのメールを見た憂は笑みを浮かべ、梓も唯から来たメールを見ていた。

 

その間、純はポーズをとったまま放置されており、純は恥ずかしさから頬を赤らめていた。

 

どうにか写メを撮り、3人は1度教室に戻って昼食をとった。

 

その後、昼休みが終わるまでまだ時間があったので、3人は唯の弁当箱を回収するために、3年2組の教室に入った。

 

「失礼しまーす……」

 

「……静かだね」

 

「本当に入っていいのかなぁ」

 

修学旅行のため無人になっているとはいえ、梓は勝手に教室に入ることを不安がっていた。

 

「忘れ物を取りに来ただけだから大丈夫だよ」

 

憂がこのように梓をフォローし、教室の中に入っていった。

 

「えっと……唯先輩の席は……その辺だったと思うけど……」

 

「……あっ、本当だ」

 

憂は机に引っかかっている弁当箱を発見し、弁当箱を回収した。

 

「……ねぇねぇ、澪先輩の席は?」

 

「……確か、ここだよ」

 

梓は純に澪の席を教えると、純は澪の席に座っていた。

 

「……何か格好よくなった気分♪」

 

「気のせいじゃない?」

 

澪の席に座って喜ぶ純を見て、梓は苦笑いをしていた。

 

そんな中、純が何かを発見した。

 

「……?引け?」

 

それは、机の中からはみ出している引けと書かれた紙だった。

 

純はそれを迷わず引いてみた。

 

「あっ、ダメだよ!勝手に!」

 

梓が注意した時は既に手遅れで、驚いているような顔の絵が描かれていた。

 

「……?何これ」

 

純はこの絵の意図が読めず、首を傾げていた。

 

「……律先輩……」

 

梓はこの絵を描いたのが律だということを察していた。

 

「……あれ?ところで憂は?」

 

近くにいた憂の姿が見えなくなったので周囲を見回すと、憂は唯の席に座っていた。

 

「……お姉ちゃんの机だ♪」

 

憂は姉である唯が座っている席に座ると、満足気な表情をしていた。

 

「……何か嬉しそうだね」

 

「ねぇねぇ、梓は統夜先輩の席に座らなくてもいいの?」

 

「にゃ!?べ、別に私は……!」

 

梓は統夜の席に座りたいという気持ちはあったものの、顔を真っ赤にしてこう言ってからかう純の言葉を否定していた。

 

純は顔を真っ赤にしている梓を見てニヤニヤしていた。

 

「……あ、それよりさ。憂はそんなにお姉ちゃん好きで寂しくないの?」

 

「……え?」

 

「だって、明後日まで帰ってこないんだよ?」

 

「……!あ、そっか……。お姉ちゃん……帰って来ないんだ……」

 

憂は唯が修学旅行に行ってることは知っていたが、明後日まで帰って来ないことは忘れていた。

 

「今気付いたの!?」

 

憂は目に涙をいっぱいため、今にも泣き出しそうだった。

 

梓と純はそんな憂を見て慌てふためいていた。

 

「……お姉ちゃあん……!お姉ちゃあん……!」

 

「ご、ごめん!今日遊びに行って上げるから!何なら泊まってもいいから!」

 

憂はさらに涙目になり、梓と純は必死にフォローし、この日は憂の家に泊まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして昼休みは終わり、放課後となった。

 

憂は梓と純が泊まりに来てくれることになったので、そのお礼にジャズ研の練習を手伝うことになった。

 

憂と梓はジャズ研の部室に入ると、多くの楽器が置かれていることに驚いていた。

 

「へぇ……いっぱいあるんだね……」

 

「へへん♪楽器の数ならブラバンにも負けないからね♪」

 

純は誇らしげにこう語っていた。

 

桜高の吹奏楽部は部員数もそれなりにいる部活で、コンクールなどにも頻繁に出場する程である。

 

ジャズ研も吹奏楽部に負けじと練習をしている部であり、楽器の数もそうだが、実力も吹奏楽部に負けてはいないのである。

 

「こんなに弾く人いるの?」

 

「そう!ジャズ研はサバイバルなの。だから、先輩いない間に頑張って練習して……。って!あぁ!ベース教室に忘れた!」

 

純は教室にベースを置いてきてしまったので、慌てて取りに戻っていた。

 

「はぁ……。相変わらずだな、純は……」

 

ちょっと抜けた部分がある純に梓は少し呆れていた。

 

すると、緑のリボンの女の子2人が部室に入ってきた。

 

リボンの色からこの2人が1年生だということがすぐにわかった。

 

「あっ、あの……私たち……」

 

「ごめんなさい、私たち、純ちゃんの友達で!」

 

上手く事情を説明出来なかった梓をフォローする形で憂が2人に事情を説明していた。

 

「もしかして梓先輩ですか?」

 

1年生の2人が梓と憂に駆け寄ってきた。

 

「え?」

 

「純先輩に言われていたんですよ。軽音部にすっごいギターの上手い先輩がいるから教えてもらえって」

 

「あっ……。そ、そうなんだ……」

 

ギターが上手いと褒められたことが恥ずかしかったのか、梓は頬を赤らめていた。

 

「あっ!ちょうど良かった!」

 

ベースを取りに教室に戻っていた純が部室に戻ってきた。

 

「「おはようございます!」」

 

「おはよう。この2人、うちの1年なんだ。梓、ちょっとギターを教えてあげてよ」

 

「あっ……う、うん」

 

こうして梓は1年生2人にギターを教えることになった。

 

梓はリズムの基礎練習や、指のストレッチなど、丁寧にギターの指導を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

ジャズ研の練習も終わり、夜となった。

 

純と梓はお泊りの準備のため1度家に戻り、それから憂の家に行くことになっている。

 

梓は泊まりの準備を整えると、憂の家へ向かった。

 

憂の家に到着し、中に入ると、既に純は来ていて、憂と一緒に出迎えてくれた。

 

「あっ、これ、お母さんが持っていけって」

 

梓は家を出る前に母親に渡された袋を憂に渡した。

 

「わぁ♪ありがとう♪」

 

「ねぇ、ちなみに中身は?」

 

「?お寿司だけど?」

 

(ドーナツ遠のいたぁ!)

 

純は心の中でこのように嘆いていた。

 

純は憂の家に行く前にドーナツ屋でオールスターパックという多くの種類のドーナツが入ったものを買ったのだが、梓が寿司を持って来たので、ドーナツは今日は食べられないのかと嘆いていたのである。

 

梓は憂と純と一緒にリビングに入るのだが、テーブルに置かれたおびただしい料理の数に驚いていた。

 

こうして、3人揃ったところで、梓たちは夕食をとることにした。

 

憂は梓と純が泊まりにくるからか料理を気合い入れて作っていたので、どれも美味しいものであったが、いかんせん量が多かった。

 

3人はじっくり夕食を楽しんだが、全部を食べ切ることは出来ず、残りは明日の朝食べることになった。

 

「ふぅ……」

 

「食べすぎた……」

 

「もう入らない……」

 

純はその場で寝転がり、梓もその場でリラックスしていた。

 

梓は近くにあったドーナツの箱が目に入ったのだが、そのドーナツは全部何故か一口だけかじられた状態だった。

 

「……どんな食べ方してるの……」

 

「だって、味確かめてみたかったんだもん!」

 

全部何故か一口だけ食べた純は悪びれる様子もなく、伸びをしていた。

 

「梓、後は食べていいよ」

 

現在全員満腹で、かつ全部のドーナツが残っている状態だったので、純は相当な無茶振りをしていた。

 

梓はドーナツをジーッと見つめるのだが……。

 

「……入る訳ないでしょ」

 

満腹だからかこのようなリアクションをしていた。

 

「甘いものは別腹だよぉ。チョコのやつとか美味しいよ♪」

 

純の誘惑に心動かされてしまったのか、梓はチョコのドーナツに手を伸ばしていた。

 

それと同時に洗い物をしていた憂がリビングにやってきていた。

 

「あれ?食べるの?」

 

憂は満腹であるはずの梓がドーナツを食べようとしていることに驚いていた。

 

そんな憂はおかまいなしで梓はドーナツを一口頬張った。

 

「……甘い……」

 

梓は甘いチョコドーナツに舌鼓を打っていた。

 

すると、憂の携帯が反応し、憂が携帯を取り出した。

どうやら、唯からのメールのようだ。

 

「あ、お姉ちゃんだ」

 

「どれどれ」

 

梓も憂の携帯の画面を覗き込み、憂と一緒に唯からのメールを見て笑っていた。

 

唯は枕投げの様子の写真を送っていた。

 

その様子は本当に修学旅行の定番といった感じだった。

 

「修学旅行って感じだね♪」

 

憂もこの写真を見てこのように思っていた。

 

「憂たちもお泊り楽しんでる?だって」

 

唯からのメールを見た憂と梓は笑みを浮かべながら寝転がっている純を見ていた。

 

「……ん?何?」

 

純は2人の様子が気になったのか、転がりながら2人のところへ移動するのだが、起き上がるタイミングで梓の頭にぶつかってしまい、思わず頭突きをしてしまった。

 

「だ、大丈夫?」

 

憂は苦笑いをしながら梓と純を気遣っていた。

 

 

 

 

 

しばらくの間リビングでまったりしながら、交代でお風呂に入っていた。

 

全員がお風呂に入り、3人は憂の部屋で寝ることになったのだが……。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

純が憂のベッドを独占してそのまま眠ってしまっていたのである。

 

「寝ちゃってるねぇ……。じゃあ、私たちも寝ちゃおっか?」

 

純も既に寝ているため、憂はこのような提案をしていたのだが……。

 

「えぇ?まだ眠たくないよぉ」

 

梓は今寝るのは反対のようだった。

 

「それじゃあ、お布団でお話しよっか」

 

憂は部屋の電気を消して、布団に潜り込んだ。

 

梓もとりあえず布団の中に入っていた。

 

「……唯先輩たち、きっと今頃楽しんでるんだろうなぁ……」

 

「もう寝ちゃってたりして」

 

「それはないよ。合宿の時とか、みんな遅くまで遊んでたし、きっと……」

 

 

 

 

 

〜梓のイメージ〜

 

「お土産?あ、ごめん!楽しすぎて忘れちゃったぁ♪」

 

「あ、やべ!俺も忘れてたよ♪アハハ♪」

 

「ごめんなぁ♪」

 

「お茶ですよー」

 

「アハハ!」

 

梓はそっちのけで楽しむ統夜たちを見て、梓は1人涙を流す……。

 

 

 

〜イメージ終了〜

 

 

 

 

「……こんな感じで」

 

「アハハ、さすがにそれはないと思うけど……」

 

「まぁ、そうだよねぇ。部屋は違うだろうけど、班は統夜先輩も一緒だろうし……」

 

梓はふと統夜のことを考えて、頬を赤らめていた。

 

「……はぁ、いいなぁ……。統夜先輩と修学旅行に行きたかったなぁ……」

 

梓は思わず本音をもらしていた。

 

それは、梓が今でも統夜のことが好きだという気持ちの表れだった。

 

そんな梓を見た憂は笑みを浮かべていた。

 

「……クスッ、梓ちゃんってやっぱり統夜さんのことが好きなんだね♪」

 

「う、うん……」

 

梓はムキになって否定することはせずに素直に認めていた。

 

「そういう憂はどうなの?憂だって統夜先輩のことが好きなんでしょ?」

 

「ふぇ!?」

 

梓が憂にこの話を振るのは初めてであり、憂は顔を真っ赤にしていた。

 

「う、うん……そうかもしれない……。統夜さんって格好いいし、優しいし、すごく面倒見もいいし……」

 

「統夜先輩は鈍感だからきっと私たちが好きだってことは気付いてないよね」

 

「クスッ、そうだね」

 

梓と憂は統夜が鈍感だということを思い出して笑みを浮かべていた。

 

「先輩たちとも話し合ったんだけどさ、誰が統夜先輩と付き合うことになっても恨みっこなしにしようね……」

 

「うん、わかってるよ」

 

憂も梓だけではなく、自分の姉や他のメンバーも統夜のことが好きだと気付いていたので梓の提案をあっさりと受け入れていた。

 

「……ねぇねぇ、それはともかくとして、明日はどこか遊びに行こうよ!どこか行きたいところある?」

 

翌日は学校が休みであったが、翌日の予定はまだ立てていなかったのである。

 

憂は梓に明日どこへ行きたいかを聞いていた。

 

「……ど、動物園……」

 

梓が恥ずかしそうに提案したのは、以前統夜とデートした動物園だった。

 

「あっ、私も行きたい!」

 

「本当?」

 

「うん!」

 

憂も動物園に行きたいということがわかり、2人は笑い合っていた。

 

すると、憂の携帯に反応があったので、憂は携帯を取り出した。

 

それは唯からのメールだったので、梓と一緒にメールの内容を確認していた。

 

メールには「しゃれこうべ」とだけ書かれており、メールの意味がわからずに2人は首を傾げていた。

 

唯からのメールを見た後は、お互い眠くなるまで統夜に関する話しや恋バナなどで盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その頃、京都にいる統夜は……。

 

「……へっくしっ!!」

 

今夜何度目になるかわからないくしゃみをしていた。

 

《おい、統夜。どうした、風邪か?》

 

(いや、それは違うと思うんだけど……)

 

統夜はいたって健康であり、風邪を引いている感じはなかった。

 

(……!なるほど、恐らくは憂と梓だな?唯の家に泊まってるらしいしな。まぁ、おそらく統夜の話をしているんだろう。まぁ、そのことは統夜には黙っておくか)

 

イルバには思い当たる節があったのだが、それをあえて統夜に伝えることはしなかった。

 

統夜は何でくしゃみが出るのか首を傾げていたが、すぐに眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

翌日、梓たちは起きると洗顔等を済ませ、昨日の残り物を朝食にとっていた。

 

朝食が終わると、出かける予定だったが、外は土砂降りだったため、今はリビングで大人しくしていた。

 

「……土砂降りだね……」

 

「うん……。動物園は無理っぽいね……」

 

雨がひどいため、動物園行きは断念せざるを得なかった。

 

「あーあ……。行きたかったなぁ」

 

梓は動物園に行けないとわかると、残念そうにしていた。

 

そんな中、純は1人黙々ととある漫画を読んでいた。

 

「純、何かすることない?」

 

「うん」

 

「どっか行きたいとこはないの?」

 

「うん」

 

「ゲームとかでもいいよ?」

 

「うん」

 

純は漫画に夢中だったからか、梓の問いかけに「うん」としか答えていなかった。

 

しばらくすると、漫画の単行本を読み終わったのか、純は漫画本を閉じていた。

 

「憂、これの6巻ってある?」

 

純がようやく放った違う言葉は、今読んでいる漫画の続きを聞くことだった。

 

「え?どうだったかな?」

 

「友達んちでそれやると友達なくすと思う」

 

梓は漫画にそっちのけな純に抗議をしていた。

 

リビングには単行本はなかったので、憂は唯の部屋を探してみることにした。

 

「えっとねぇ、お姉ちゃんの本棚にあったと思うんだけど……」

 

憂は唯の部屋に入ると、本棚を調べて単行本を探していた。

 

「……ここがお姉ちゃんの部屋?」

 

唯の部屋に初めて入った純は興味津々といった感じで部屋を見回していた。

 

梓も同じように部屋を見回していると、とあるものを見つけた。

 

「……あ、この間の……」

 

梓が見つけたのは、部室の整理をした時に唯が持って帰ったぬいぐるみ等だった。

 

「あぁ、この前たくさん持って帰ってきて……」

 

(大掃除の時の……だよね?)

 

ぬいぐるみ等は唯が大掃除の時に持って帰った私物なので、その時のことを思い出した梓は苦笑いしていた。

 

憂は本棚から単行本を発見した。

 

「純ちゃん、あったよ。7巻」

 

憂はとある漫画の7巻を純に渡そうとするのだが……。

 

「え?私が欲しいのは6巻だよ」

 

「あれ?でも、ここから先しかないよ?」

 

「一冊くらいいいじゃん」

 

「よ、読んでみようかな?」

 

純は恐る恐る憂の持っている7巻を受け取ろうとしたのだが……。

 

「やっぱダメだ!本屋さん行こ!」

 

「え?まだ土砂降りだよ!?」

 

梓の言う通り、外はまだ土砂降りで、止む気配はなかった。

 

「えぇ!?……なんか一気に退屈になっちゃった」

 

6巻がないとわかり、純はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「だからさっきから何かしようって言ってるのに……」

 

純は梓の提案をスルーしていたので、梓はそんな純に呆れていた。

 

すると、梓の携帯が反応したので、梓は携帯を取り出した。

 

「……あ、唯先輩からだ」

 

どうやら唯からメールのようで、憂は梓の携帯の画面を覗き込み、一緒に唯からのメールを見ていた。

 

「あずにゃんたちは何してるの?だって……」

 

このようなメールと共に写真が添付されていたが、その写真は山らしきところで全員で撮ったと思われる写真だった。

 

澪、律、紬の3人は満面の笑みでピースをしていたが、統夜は苦笑いをしていた。

 

その写真を見るだけで唯たちは修学旅行を楽しんでいると感じていた。

 

それと同時に、天気が悪いからと言って何もしていないということを悔しく感じていた。

 

「……やっぱりどこか遊びに行こ!」

 

梓はこのままだらだら過ごすのが癪だったので、出かけることを提案した。

 

憂と純は最初は戸惑っていたが、家でダラダラするよりは良いと判断し、梓の提案を了承した。

 

こうして梓たちは外に遊びに行くことになった。

 

梓たちが向かったのは、桜ヶ丘某所にあるアミューズメントセンターだった。

 

ここはゲームセンターやボーリング、バッティングセンター、カラオケなどが楽しめる複合型のアミューズメント施設である。

 

アミューズメントセンターに到着し、中に入ろうとしたその時だった。

 

「……あれ?お前は梓、だったよな?」

 

黒いロングコートを羽織った青年が梓を見つけて声をかけた。

 

「あっ、戒人さん」

 

その青年とは、統夜と同じ魔戒騎士である戒人だった。

 

梓は何度か顔を合わせているが、憂と純は戒人を見るのは初めてだったので、首を傾げていた。

 

「梓ちゃん、知り合い?」

 

「あぁ、この人は黒崎戒人さん。統夜先輩と同じ魔戒騎士なの」

 

梓の簡潔な説明で、憂と純は戒人が何者なのかを理解した。

 

「もしかして、この2人も魔戒騎士のことを知っているのか?」

 

「はい、そうです」

 

「統夜先輩と同じ魔戒騎士だったんですね」

 

戒人は憂と純が魔戒騎士について知っているとは思わず、驚いていた。

 

「私は鈴木純です!よろしくお願いします!」

 

「私は平沢憂です!」

 

「平沢?もしかして唯の?」

 

「はい!妹です!」

 

「へぇ、あの唯に妹がいたとはな」

 

『ホッホッホ、性格も違うみたいだから驚きじゃの』

 

トルバが突如口を開いたので、憂と純は驚いていた。

 

「あれ?今の声ってどこから……」

 

『ホッホッホ、ここじゃよ』

 

戒人はわかりやすいようにトルバを憂と純に見せていた。

 

「あれ?イルバとは違う形なんですね……」

 

純も統夜がつけているイルバの存在を知っているため、指輪以外も喋ることを知り、驚いていた。

 

『ホッホッホ、ワシはトルバ。腕輪の形をしておるが、ワシも魔導輪じゃよ』

 

「「へぇ……」」

 

指輪だけではなく、腕輪の形をした魔導具も魔導輪と呼ばれているとは知らなかったので、憂と純はジーッとトルバを見ていた。

 

『ホッホッホ!若いお嬢ちゃんに見られるというのはちと照れるわい!』

 

トルバは口ではこう言っていたが、憂や純に見られるのは満更でもないようだった。

 

「ところで、戒人さんは今もお仕事ですか?」

 

「いや、ちょっと前にエレメントの浄化を終わらせてな。今は見回りを兼ねて街を見ていたところだよ」

 

戒人がこの場所にいたのは本当に偶然で、エレメントの浄化を終えた戒人が見回りを兼ねて街を回っている時にたまたまこのアミューズメントセンターの前を通り過ぎようとしたタイミングで梓を見つけたのである。

 

「ということは、今は暇なんですか?」

 

「まぁ、一応は」

 

「だったら!戒人さんも一緒に遊びませんか?」

 

「へ?俺が?」

 

梓の思わぬ提案に戒人は驚いていた。

 

魔戒騎士である自分が普通の人間の遊びに誘われるとは思ってもいなかったからである。

 

「で、でも俺、普通の人間の遊びとかよくわからないし……」

 

「それだったら尚更ですよ!ぜひ行きましょうよ!」

 

「い、いや……。俺は……」

 

『戒人。行ってみてもいいんじゃないかのぉ?普通の人のことを知るのも魔戒騎士には必要ようなことじゃぞ』

 

トルバは普通の人間の遊びをすることは人のことを知る機会であるため、戒人を後押ししていた。

 

「……まぁ、確かにそうだな。たまにはいいか」

 

「やったぁ♪それじゃあ行きましょう♪」

 

こうして戒人も遊びに誘った梓たちは戒人と共にアミューズメントセンターへと入っていった。

 

入り口入るとすぐゲームセンターがあり、戒人は初めて見る景色に見入っていた。

 

「……ここが噂の……。まるで別世界みたいだ……」

 

戒人は目をキラキラと輝かせ、入り口から見えるゲームなどを色々見ていた。

 

「……クスッ、戒人さん楽しそう♪」

 

「本当にこういうところに来るのが初めてなんだね……」

 

憂と梓は初めて見るゲームセンターにはしゃぐ戒人を見て、笑みを浮かべていた。

 

「……戒人さん、まずはここに行きましょう!」

 

「うわ!ちょっと!引っ張るなって!」

 

純は戒人の手を引っ張ると、ある場所へと移動を始めたので、憂と梓も後を追いかけた。

 

純が向かった場所とは……。

 

「……ここは?」

 

「バッティングセンターですよ!ボールが飛んでくるのでそれをバットで打ち返すんです!」

 

純が向かった場所はバッティングセンターのコーナーだった。

 

「……それって、もしかして野球とかいう球技なのか?」

 

「戒人さん、野球知ってるんですか?」

 

「噂程度だけどな。実際には見た事もやったこともないんだよ」

 

戒人は野球というスポーツのことは噂などを聞いて何となく知っていたが、見たことや遊んだことはないので、これが初めて触れる野球となる。

 

……厳密に言えば野球ではないのだが……。

 

「それじゃあまずは私たちがお手本を見せますよ!見てて下さいね!」

 

「あぁ、わかった……」

 

こうして戒人を残し、梓、憂、純の3人はバッティングのブースへと入り、実際にバッティングを始めた。

 

「……それよりも何でバッティングセンターなの?……っと!」

 

梓が何故バッティングセンターにしたのかを純に聞くと、ボールが飛んできたのだが、バットを振るうことは出来なかった。

 

「だって……。野球漫画だったからさ……っと!!」

 

純が読んでいたのは野球を題材にした漫画だったので、バッティングセンターに行ってみたかったのであった。

しかし純は飛んでくるボールを打ち返すことは出来なかった。

 

何度か挑戦してみたのだが……。

 

「……私無理かも。戒人さん、交代ね」

 

純はあっさりと諦めて、戒人と交代することにした。

 

「え?」

 

戒人は戸惑いながらもブースの中に入り、バットを手に取った。

 

「……構え方は……こうか?」

 

戒人は見よう見まねでバットを構えてみたのだが、きちんとしたフォームにはなっていなかった。

 

そして、ボールが飛んできた。

 

「……!」

 

迫り来るものを弾くというのは魔戒騎士故に慣れているからか、まるで魔戒剣を振るうかのようにバットを振って、ボールを弾き飛ばした。

 

しかし、戒人は縦にバットを振るったため、ボールは1度地面に叩きつけられると、大きくバウンドして飛んでいった。

 

「……戒人さん!縦じゃなくて横にスイングです!」

 

「そんなこと言ってもな……。っと!」

 

戒人は続いてバントのような構えでボールを受け止めていた。

 

『戒人、隣の男のプレイを見るんじゃ』

 

トルバにこう言われたため、戒人は隣のブースでプレイしている男を見ると、男は綺麗なスイングで迫り来るボールを打ち返していた。

 

「へぇ……」

 

『戒人、野球とはあのような感じでバットを振り、ボールを打ち返すんじゃよ』

 

何故か野球のことを知っていたトルバはこのように的確なアドバイスをしていた。

 

「……やってみるか」

 

戒人は先ほど見たスイングを参考にバットを構えた。

 

すると、ボールが迫って来たので、戒人は先ほど見たスイングを真似てバットを振るった。

 

するとボールは綺麗に飛んでいき、ホームランと書かれた板に直撃した。

 

「おぉ!戒人さん、凄い!」

 

「……野球か……悪くないかもな……♪」

 

戒人はいきなりホームランを打つと、野球の楽しさを実感し、笑みを浮かべていた。

 

隣のブースでその様子を見ていた梓も戒人の筋の良さに驚いていた。

 

「……凄いな、戒人さん……。ところで、憂はどう?」

 

「うん、すっごく難し……い!」

 

憂はバットを振るうが、上手くボールに当たらなかった。

 

どうバットを振るえばいいかわからない憂だったが、隣で遊んでいる父親と子供の会話が聞こえてきた。

 

それは、どうバットを振るえばいいかという細かいレクチャーだった。

 

その細かいレクチャーに関心した憂はそのレクチャーを参考にバットを構えていた。

 

先ほどより綺麗なフォームになった憂は迫り来るボールを見事にとらえ、バットを振るった。

 

バットは見事にボールを打ち返し、ボールは綺麗に飛んでいった。

 

すると、先ほど戒人が当てたホームランの板に直撃した。

 

「やった……」

 

「すげぇ……」

 

隣で遊んでいた男の子も憂のホームランに驚いていた。

 

「やった……。やったよ!梓ちゃん!」

 

憂はホームランを打てた喜びを梓に伝えようとしたが、隣のブースにいるはずの梓の姿はなかった。

 

なのでブースから出ると、すぐ近くに梓、純、戒人の姿があった。

 

「……憂って本当に飲み込みが早いよね」

 

「本当に憂のそういうところは唯先輩そっくりだよね」

 

「え?そうなのか?」

 

戒人は憂のことを知らなかったので、飲み込みが早いこととそういうところが唯に似ているということを知り、驚いていた。

 

憂はのんびりと椅子に座る3人を見て首を傾げるが、先程ホームランに当てた戒人と共に、ホームラン賞の景品を受け取った。

 

憂が受け取ったのは大きな亀のぬいぐるみで、戒人が受け取ったのは数年前に人気の出たウォークマンだった。

 

戒人はこのウォークマンが音楽を聴くものだとは理解していなかったので、受け取ったはいいものの、困惑していた。

 

「……お待たせぇ!」

 

憂と戒人は梓と純の元へと戻ってきた。

 

「……って!憂のぬいぐるみでかっ!」

 

純は憂のぬいぐるみのでかさに驚いていた。

 

「戒人さんのはウォークマン……ですか?」

 

「なぁ、これって一体何なんだ?」

 

戒人はウォークマンを知らなかったので、これが何なのかを梓たちに聞いていた。

 

「あっ、それはウォークマンって言って、音楽を聴く機械です」

 

「音楽か……。俺は音楽聴かないから必要ないな……。どっちかこれいるか?」

 

戒人はこのウォークマンを梓か純のどちらかに渡そうとした。

 

すると……。

 

「はい!はい!欲しいです!」

 

純がウォークマンが欲しいと手を挙げていた。

 

「まぁ、私は同じもの持ってるし、大丈夫ですよ」

 

梓は手を挙げずにウォークマンを純に譲ることを伝えた。

 

「それじゃあ……ほら」

 

戒人は景品のウォークマンを純に渡した。

 

「ありがとうございます、戒人さん!大切にしますね♪」

 

「あ、あぁ……」

 

満面の笑みで笑う純を見て恥ずかしくなったのか、戒人は頬を赤らめていた。

 

『戒人、お前が照れるとは珍しいのぉ』

 

「うるさいよ!」

 

ニヤニヤしながらからかってくるトルバに戒人は反論していた。

 

「それにしても憂のぬいぐるみはでかいよねぇ」

 

「うん。トンちゃんの10倍くらいは……。……あ!」

 

梓は何かを思い出したのか、急に大声をあげた。

 

「?梓ちゃん、どうしたの?」

 

「トンちゃん……忘れてた……!」

 

梓はトンちゃんに餌をやるということをすっかり忘れており、顔を真っ青にしていた。

 

「トンちゃん?」

 

戒人は状況がわからず首を傾げていたが、その話を聞ける状況ではないと思っていたので、黙っていた。

 

梓たちは急いで桜高に向かうことになり、戒人も3人についていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

梓がトンちゃんの餌やりをしていないことを思い出した頃、もう1人の紅の番犬所所属の魔戒騎士である桐島大輝は、桜高の近くを歩いていた。

 

この日のエレメント浄化は終わり、街の見回りを行っている途中で偶然桜高の近くを歩いていたのである。

 

すると……。

 

「……ん?あれは……」

 

大輝が目にしたのは、桜高目指して走っている3人の少女だったのだが、その3人に見覚えがあった。

 

「確か統夜の……」

 

統夜の友達である梓、憂、純だということはわかったのだが、その3人と行動を共にしている男を見て驚いていた。

 

「……!あれは、戒人!?何であいつがあの3人と……」

 

戒人と梓たちには何の接点もないことは知っていたので、大輝は驚きを隠せなかった。

 

「……まぁ、今日は指令もなさそうだし、見なかったことにしても大丈夫か……」

 

今のところ指令はないため、戒人のことはスルーしても問題ないと判断し、大輝は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、戒人も大輝の存在に気付いたのだが、今のところ指令はないのでもう少しだけなら3人と行動しても問題はないと判断していた。

 

そのため、戒人は一緒に桜高の中に入った。

 

この日は授業がないため、学校へは教員玄関から入るしかなかった。

 

事情を説明すると、3人はすんなり中へ入れたのだが、戒人だけは部外者ということで中に入ることは許されなかった。

 

しかし、純は戒人が自分の兄で、付き添ってもらっていると嘘をつくと、その嘘を信じた警備員はあっさりと戒人が中へ入ることを許したのである。

 

こうしてどうにか中に入れた梓たちはそのまま音楽準備室に直行し、どうにか無事にトンちゃんに餌をあげることが出来た。

 

「良かったぁ。ちゃんと元気だね!」

 

「ごめんね……トンちゃん……」

 

梓は申し訳なさそうにトンちゃんのことを見ていた。

 

トンちゃんは餌を食べて元気が出たのか、水槽の中を悠々と泳いでいた。

 

「……この子がトンちゃんか……。確かに可愛いかも♪」

 

憂は初めてトンちゃんを見たのだが、トンちゃんをジッと見ながら笑みを浮かべていた。

 

「可愛い?」

 

「うん、お姉ちゃんが言ってたよ!あずにゃんと同じくらい可愛いって♪」

 

「私と同じ……」

 

梓は亀と同列に語られて微妙に思ったのか、トンちゃんをジト目で見ていた。

 

「あー!!ここにあったよ6巻!」

 

純は部室を見回していると、偶然自分の読んでた漫画の続きを発見した。

 

「来て良かったね♪」

 

憂はこう純に声をかけると、純は満足そうに笑みを浮かべていた。

 

そんな中、戒人は水槽を悠々と泳ぐトンちゃんをジッと眺めていた。

 

「……こいつ、この前初めて来た時はいなかったよな。もしかして俺が来た後にこいつが来たのか?」

 

「はい、そうなんです」

 

「なるほどな……」

 

戒人はこの前来た時はいなかったトンちゃんがいつ来たのかを聞くと、その説明に納得していた。

 

「トンちゃんのことは解決したし、良かったんだけど……。雨、止まないね……」

 

梓は未だに降り続ける雨を見て憂鬱になっていた。

 

「せっかくのお休みなのにね……」

 

「……それじゃあ3人でセッションでもしてみる?」

 

「え?」

 

梓は純が出した意外な提案に驚いていた。

 

「こんな雨なんだし、ちょっとくらい大きい音だしても大丈夫なんじゃない?」

 

「3人で……。それ面白いかも!」

 

「え?でも、私、上手く出来るかなぁ?」

 

「大丈夫、簡単なのにするから」

 

「ねぇ、憂。オルガンなら弾けるんじゃない?」

 

「あっ!小さい頃弾いたことある!」

 

「それじゃあ、やってみようよ!」

 

こうして、憂、梓、純の3人でセッションを行うことになった。

 

「それじゃあ俺はそれを聴かせてもらおうかな」

 

そして戒人はたった1人の観客として、3人のセッションを聴くことにした。

 

ギターやベースはジャズ研の部室から借りることになり、オルガンは音楽準備室に置かれているものを使用することになった。

 

こうしてジャズ研の部室からギターとベースを持ってきた梓と純はそれぞれギターとベースの準備を行い、憂もオルガンがいつでも弾けるよう準備していた。

 

「……それじゃあ行くよ。……いち……に……さん……し……」

 

3人の準備が整い、純の合図で演奏が始まった。

 

3人が演奏している曲は、童謡である「むすんでひらいて」のアレンジである。

 

オルガンがメロディを弾き、ギターが伴奏部分を弾き、ベースの重低音がそんなギターの音を支えている。

 

3人のセッションは即興で組まれたものとは思えないほどバランスの良い演奏になっていた。

 

音楽について無知な戒人でさえも、演奏に聞き入る程である。

 

こうして、即興とは思えないバランスの取れた演奏が終了した。

 

「……出来た!」

 

「凄い!何か格好いい曲になったね!」

 

「うん!戒人さん、どうでした?」

 

「俺は音楽のことはわからないけど……すごく良かったよ」

 

戒人からの評価も良く、3人は満足そうに笑みを浮かべていた。

 

その時である。

 

先ほどまで土砂降りだった雨が止み、綺麗な夕焼けの光が射し込んでいた。

 

梓たちは綺麗な夕焼け空に目を輝かせ、戒人はそんな3人を見て笑みを浮かべていた。

 

その時、憂の携帯が鳴っていたので、憂は携帯を取り出した。

 

「……あっ、お姉ちゃんからだ!」

 

唯からメールが来たようなので、梓と純も憂の携帯の画面を覗き込み、一緒にメールをチェックしていた。

 

「うぅ、ギー太が恋しいよ。だって」

 

唯からのメールを見た3人は笑みを浮かべ、笑い合っていた。

 

その後、唯にメールを返す前に写真を撮ることになったのだが……。

 

「戒人さん。戒人さんも一緒に写りましょうよ!」

 

「い、いや、俺はいいよ。恥ずかしいし」

 

戒人は照れながら写真に写るのを断ったんだが……。

 

「いいからいいから♪」

 

純は強引に戒人を連れ出し、4人で写真を撮ることになった。

 

憂たち3人がピタっと密着しており、戒人は3人と距離を置いて写るか写らないかの微妙な位置に立っていた。

 

その後、写真を撮ったのだが、憂たち3人がメインで写る中、戒人もかすかに写っていた。

 

そして憂はこうメールを返信した。

 

「お姉ちゃんへ……羨ましいでしょ♪」

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

桜高を後にして、純が家に向かうために乗るバス停に到着した時は少し日が傾き、暗くなろうとしていた。

 

純は帰りのバスに乗り込み、そのまま自分の家へと向かっていった。

 

「……戒人さん、すいません。今まで無理に付き合わせちゃって……」

 

純が乗り込んだバスを見送りながら、憂が申し訳なさそうに詫びを入れていた。

 

「気にするな。俺にとってもいい機会だったから楽しかったぞ」

 

統夜と違って普通の人生を捨て去って魔戒騎士の修行を積んできた戒人にとっては、今日のような普通の人間の遊びはとても新鮮なものだった。

 

こういう遊びも人を守る者である魔戒騎士にとっては良い経験になったと戒人自身も実感していた。

 

「戒人さん……」

 

楽しかった。こう言ってもらえただけで梓は戒人のことを誘って良かったなと思っていた。

 

その時だった。

 

突然梓の携帯が鳴り出したので、梓は携帯を取り出した。

 

今回はメールではなく、電話のようだったので、梓は電話を取った。

 

「もしもし!」

 

『あ、もしもしあずにゃん?私たち、迷子になっちゃったんだよねぇ』

 

「へ?」

 

『『梓に電話してどうするんだよ!』』

 

『はっ!そっか!』

 

澪と統夜のツッコミに唯が反応したところで電話を切った。

 

「な、何?」

 

迷子という不穏な言葉が聞こえてきた電話に梓は困惑し、それを見ていた憂と戒人は首を傾げていた。

 

「……さっきの電話は気になるが、1度番犬所に寄らなきゃいけないし、俺は行くな」

 

「あっ、はい。戒人さん、今日はありがとうございました!」

 

梓と憂は戒人にペコリと一礼をし、戒人はそれに「あぁ」と応じると、そのまま番犬所へと向かっていった。

 

戒人がいなくなったのを見送った2人は途中まで一緒に帰り、解散となった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

修学旅行が終わった数日後、この日は久しぶりに3年生が登校する日だった。

 

「……え?唯先輩が?」

 

「うん。お姉ちゃん、あずにゃん分が足りないって言ってたから」

 

「隠れようかな……」

 

これから起こる展開を予想した梓はげんなりとしながらこのようなことを言っていた。

 

「?何があるの?」

 

純が首を傾げながら梓に事情を聞こうとしたその時だった。

 

「あーずーにゃん♪」

 

「にゃ!?」

 

いきなり唯が現れると、梓に抱きついていた。

 

そして……。

 

「久しぶりぶり〜♪」

 

久しぶりに梓に会えたのが嬉しかったのか、唯は梓に頬ずりをしていた。

 

「やめて下さいよ!ここ廊下ですよ?」

 

所構わずこのようなことをする唯が恥ずかしかったのか、梓はこのように抵抗していた。

 

「……あ、そうそう。お土産も買ってきたんだよ!みんな部室で待ってるから行こっ♪」

 

「え?後でいいですよ」

 

「ダメだよぉ〜。ムギちゃんお茶淹れてたもん!……それじゃあねぇ♪」

 

唯は無理矢理梓を連れ出すと、そのまま音楽準備室へと向かった。

 

音楽準備室の中に入るなり、梓がお土産として受け取ったのは「ぶ」と書かれたキーホルダーだった。

 

「……「ぶ」?お土産ですか?」

 

このお土産の意図がわからず少し困惑する梓であった。

 

「そう!それでね、私はこれなんだ!」

 

そう言って唯が取り出したのは「ん」と書かれたキーホルダーだった。

 

「?」

 

唯のキーホルダーを見た梓が首を傾げると、唯たちは互いの顔を見合わせていた。

 

「「「「「せーの!」」」」」

 

5人は同時に出したのは、どれも1文字のキーホルダーだった。

 

「……!これって……!」

 

全員のキーホルダーを見た時、梓はこれが何を意味するのかを理解していた。

 

しかし……。

 

「……「おけぶいん!」桶を愛する部員のことだ!」

 

「いやいや、違うだろ」

 

律の繰り出すボケに統夜がすかさずツッコミを入れていた。

 

「「いぶおんけ!」東北地方に生息する妖怪の名前だ!」

 

「それも違うっての!」

 

『おいおい、今はお前さんの大喜利コーナーじゃないんだぜ?』

 

「ムキーっ!うるせぇよ!イルバ!」

 

イルバの指摘が気に入らなかったのか、律はムキになって反論していた。

 

「だからなぁ、これは……」

 

「……「けいおんぶ!」ですよね?」

 

統夜が正解を言う前に梓が正解を当てていた。

 

「……あぁ!」

 

統夜は全員のキーホルダーを並べてみた。

 

「け」 「い」 「お」 「ん」 「ぶ」 「!」

 

このように並べられたキーホルダーを見た梓は嬉しさのあまり笑みを浮かべていた。

 

「……あと、俺からもお土産があってな」

 

統夜はキーホルダーのようなものを取り出すと、それを唯たち全員に渡した。

 

そのキーホルダーには盾と剣のイラストが描かれていた。

 

「あの、統夜先輩、これは?」

 

「まぁ、簡単に言えばこれは俺の誓いの証ってやつかな?」

 

「「「「「誓いの証?」」」」」

 

「あぁ。俺はこれからも魔戒騎士として人を……みんなを守っていく。俺はそのために盾にもなるし剣にもなる。その思いを込めたものだよ」

 

こう語る統夜の目は真剣そのものであった。

 

「「「「「……!!////」」」」」

 

統夜のまっすぐな言葉に5人は顔を真っ赤にしており、それを見た統夜は首を傾げていた。

 

「?みんな、何で顔が赤いんだ?」

 

『やれやれ……。気の利いた物を送ったと思えばこれか……』

 

剣と盾のキーホルダーはお土産としては良いと思っていたイルバだったが、相変わらず統夜は鈍感であり、そんな統夜に呆れていた。

 

「……まぁ、よくわからないけど、練習しようぜ」

 

統夜は気を取り直して練習しようと提案したのだが……。

 

「えぇ?今日はお茶でいいよ」

 

「時差ボケだしぃ♪」

 

「おいおい、時差ボケも何も修学旅行は日本だっただろうが!」

 

統夜はすかさずツッコミを入れるが、いつも以上にだらけている唯たちを見て練習は無理だと判断した。

 

それは梓も同じことを考えており、梓は大きなため息をついていた。

 

こうしてこの日は練習は出来ず、最後までティータイムを行っていた。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『人間というのは面白いもんだな。自分の産まれた日をわざわざ祝うんだからな。次回、「生誕」!ま、俺様は祝ってもらったことはないがな』

 

 




今回はちょっと長くなってしまいました。

本当は前後編に分ける予定でしたが、今回の話は番外編みたいなものなので、1話でまとめることにしました。

今回は梓たちメインの回であり、戒人が初めて人間の遊びに触れた回でありました。

魔戒騎士である戒人がバッティングセンターでバットを振るう姿を想像するとシュールな光景ですよね(笑)

そして、最後に出てきたキーホルダーは統夜たちの絆の証になりました。

ちなみに統夜が持っているキーホルダーは最後の「!」になっています。

次回はオリジナルの話になります。

次回の話のキーワードは誕生日ですが、誰の誕生日なのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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