牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました、第45話になります!

今回も牙狼とけいおんとは関係のない話をしますが、「ラブライブサンシャイン」の3話の展開はいい意味で裏切られたって感じでした。

まさかの完勝からのスタートとは……(笑)

さて、今回は新キャラの名前と修練場で起きた事件で、クロはどのようにして助かったのかが明らかになります。

それでは、第45話をどうぞ!





第45話 「堅陣」

統夜たちはさわ子の古いギターを売った結果、なんと60万という破格の値段で売れてしまった。

 

買取金額を誤魔化そうとしたことがさわ子にバレたため、律が言った1万円のみが部費に計上されることになった。

 

しかし、さわ子は残りの59万で何か1つだけ好きなものを買ってくれると言ってくれた。

 

統夜は指令が来たので、何にするかを唯たちに任せてホラー討伐へと向かった。

 

統夜は鎧を召還して一気にホラーを倒そうとするが、統夜の目の前に「堅陣騎士ガイア」と名乗る男が現れた。

 

その男は圧倒的な力でホラーを葬り、その素顔を統夜にさらした。

 

すると、その男は、修練場時代に統夜と共に修行し、ホラーに殺されたと思われていたクロだった。

 

「クロ。お前、生きてたんだな」

 

「それはこっちの台詞だ、アカ。いや、今は月影統夜だったな」

 

「まぁな。えっと……」

 

統夜は男がクロと呼ばれていたことは知っていたが、本名は隠されていたため、知らなかった。

 

「……黒崎戒人(くろさきかいと)。それが俺の名前だ」

 

クロは自らのことを黒崎戒人と名乗っていた。

 

「まぁ、そういう訳で改めてよろしくな、統夜」

 

「こちらこそよろしく、戒人」

 

こうして修練場時代、互いをライバルと認めていた2人は魔戒騎士となって再会したのである。

 

「それにしても、お前は何で桜ヶ丘に?」

 

「正式な辞令は改めてだが、この紅の番犬所に配属になってな。この桜ヶ丘に来てすぐホラーの気配を探知したという訳だ」

 

「なるほど……」

 

「近々番犬所にも挨拶に行く。また会った時にでもゆっくりと話を聞かせてもらおう」

 

戒人は自身が羽織っている黒いロングコート……魔法衣をなびかせて、その場を去っていった。

 

「……クロ……いや、今は戒人か……」

 

統夜は立ち去る戒人の姿をじっと眺めていた。

 

死んだと思われていたかつての仲間と再会し、嬉しいという気持ちもあったが、統夜は複雑な表情をしていた。

 

『……統夜、帰るぞ。あの魔戒騎士のことはいずれわかるだろうからな』

 

「……そうだな」

 

統夜は余計なことは考えず、とりあえず家に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、統夜はエレメントの浄化を行う前に番犬所を訪れた。

 

「……統夜、こんな朝早くに来るとは珍しいですね。どうしました?」

 

普段であればエレメントの浄化を行っているはずの統夜が番犬所を訪れたことにイレスは驚いていた。

 

「実はイレス様に聞きたいことがありまして……」

 

「……戒人のことですね?」

 

「!どうしてそれを?」

 

統夜はイレスが聞きたいことを知っていたことに驚いていた。

 

「あなたの過去は聞きましたしね。それに、戒人は昨日、私のところに挨拶に来たのです」

 

「!もしかして、ホラーを倒した後に?」

 

統夜の推察通り、戒人はホラーを討滅し、統夜と別れた後、番犬所を訪れてイレスに挨拶をしていたのである。

 

「その場には大輝もいましたからね、戒人は大輝にも挨拶をしていましたよ」

 

その場には、統夜の先輩騎士である桐島大輝もいたので、戒人は大輝にも挨拶をしていた。

 

「統夜は戒人に会ったのですよね?」

 

「えぇ……」

 

統夜はイレスの問いかけに肯定すると、複雑そうな表情をしていた。

 

「統夜、困惑しているのですね?死んだと思われていた仲間が称号持ちの魔戒騎士として姿を現したことに」

 

「はい。それに、修練場の事件の後はどうしていたのか、それも気になるのです」

 

「それは……。直接本人に聞くといいでしょう。……大丈夫です、戒人はいい子ですよ。まぁ、少し生真面目なところもありますけど……」

 

「……はい、そうします」

 

統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にして、エレメントの浄化を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のエレメント浄化を終えた統夜はそのまま登校し、授業を受けた。

 

そしてとある休み時間。

 

統夜たちは自然と集まって話をしていた。

 

「……あずにゃんが?」

 

「うーん……。6人でいいって言ったものの、やっぱり後輩が欲しいんじゃないかなぁ……」

 

「私も同じことを思ってた……」

 

「……実は、私も……」

 

「……あずにゃんが来てくれた時、凄く嬉しかったもんね……」

 

「………」

 

唯たちは梓の話をしていた。

 

統夜が番犬所に向かった頃、偶然他の部活の練習風景を見ていたのだが、それを見ていた梓が寂しそうな表情をしていたからである。

 

梓は6人でいいと言っているものの、後輩が欲しいという本音を隠しているのではないかと推測出来た。

 

その話で唯たちが盛り上がる中、統夜は上の空で、考え事をしていた。

 

「……統夜?」

 

「……!な、何だ?」

 

「それはこっちの台詞だよ。大事な話をしてるのに、ずっと上の空で……」

 

唯たちは話をしながらもずっと上の空で考え事をしていた統夜のことが気になっていた。

 

「ごめんごめん。ちょっと考え事をしていてな」

 

「考え事?」

 

「ま、まぁ!別にいいじゃねぇか!それより、あのギターのお金で何を買うかは決めたのか?」

 

「いや、まだだけど……」

 

「そっか、そしたら早く決めないとな」

 

統夜がうまい感じに話を誤魔化したところで、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

「お!それじゃあまた後でな!」

 

統夜は逃げるかのように、自分の席に戻っていた。

 

「統夜君……」

 

紬はそんな統夜を心配そうに見つめていた。

 

「ねぇ!さっきの話なんだけど、私にいい考えがあるの!」

 

「わかった!その話も改めてしようぜ!」

 

先生が教室に入ってきたので、みんな自分の席に戻っていった。

 

「……」

 

統夜は授業中であったが、戒人のことを考えていた。

 

《……おい、統夜。お前はまだ戒人のことを考えていたのか》

 

(あぁ……。やっぱりあいつが生きてたのは嬉しいんだけど、素直に喜べないんだよ……)

 

《まぁ、戒人も戒人で複雑な気持ちはあるだろうな。だからお前もしっかりしろ!お前がそんなんじゃ、かつての仲間だったあいつらにも笑われるぞ》

 

「!!」

 

統夜はイルバの言葉にハッとしてしまって、思わず席を立ってしまった。

 

統夜が急に席を立ったことにびっくりしたのか、全員の視線が統夜に集中してしまった。

 

「……?月影?どうしたんだ?」

 

「いえ……すいません……」

 

統夜は恥ずかしさの余り顔を赤らめてそのまま席に座った。

 

(……そうだよな……。俺がこんなんじゃ、みんなに笑われるよな……。戒人……クロが生きてて、きっとみんなも喜んでるよな……)

 

統夜は今まで複雑な気持ちを抱いていたが、少しだけその気持ちを吹っ切ることが出来た。

 

統夜はその後、授業に集中していた。

 

(やれやれ……。この程度のことでこれだけ動揺するとは、統夜もまだまだだな……)

 

統夜は魔戒騎士としてはそれなりの騎士に成長したものの、精神的にはまだまだ未熟だとイルバは思っていた。

 

(まぁ、これから戒人と共に戦っていけば統夜もさらに成長するだろうな)

 

イルバはそれと同時に統夜のさらなる成長を期待していた。

 

こうして、今行われている授業は終わった。

 

次の休み時間は昼休みであり、みんなで食事を取っている時に何があったかを聞かれたが、詳しい話は放課後に話すと約束した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

放課後になり、全員が集まったところで、統夜は昨日の話を語り始めた。

 

「……え?修練場時代の……ですか?」

 

「あぁ。修練場の最終日、俺の仲間とライバルだったクロは死んだって話しただろ?実は、クロだけは奇跡的に助かったみたいなんだよ」

 

「それで、そのクロって人が統夜君の前に現れたって訳ね」

 

紬がこのように推測すると、統夜は無言で頷いていた。

 

「俺さ、クロが生きてたことは嬉しかったけど、何か複雑な気持ちになってたんだよ」

 

「なるほど、だからやーくんはちょっと変だったんだね!」

 

「唯に変って言われるのは解せないけど……。まぁ、そういうことだ」

 

「それで、そいつは統夜や大輝さんと一緒に戦うことになったって訳か?」

 

「あぁ。これからあいつと共に戦う機会もあるだろうから、共に切磋琢磨が出来ればいいと思っている」

 

統夜は戒人のことをかつてライバルと思っていた。

 

これからは同年代の魔戒騎士として、共に切磋琢磨していこう。

 

こう決意したことで、複雑だった気持ちを吹っ切ることに成功した。

 

「統夜先輩、頑張ってくださいね」

 

「あぁ」

 

こうして、統夜は戒人の存在を唯たちに話したのである。

 

「ところで、例のギターのお金ですけど、何を買うか決めました?」

 

「うん!実はね、私に色々と考えがあるの。だから私に任せて」

 

「えっ?唯先輩がですか?」

 

唯が何か妙案を考えているらしいが、梓は不安そうにしていた。

 

「まぁ、俺らもどうするのかは聞いてないけどさ、たまには唯を信じてみてもいいんじゃないか?」

 

「むぅ……!たまにって何さぁ!」

 

統夜は梓を安心させるためにこう言ったが、唯は“たまに”というフレーズが気に入らなかったのか、膨れっ面になっていた。

 

このようなやり取りをしていたその時だった。

 

「……統夜君、いる?」

 

さわ子が音楽準備室に入るなり、統夜を呼んでいた。

 

「……?どうしました?」

 

「あなたにお客さんが来てるんだけど……」

 

「お客さん?」

 

統夜が首を傾げていると、誰かが音楽準備室に入ってきた。

 

その人物とは……?

 

「んな!?か……戒人?」

 

統夜を訪ねてこの音楽準備室に来たのは、なんと戒人であった。

 

「統夜、昨日ぶりだな」

 

「な、何で俺がこの学校にいるってわかったんだよ!」

 

「あぁ、実はイレス様に聞いた。お前はこの学校に行きながら魔戒騎士としてホラーを狩っていると」

 

戒人は一切躊躇せずに魔戒騎士やホラーという単語を出していたので、統夜は少しだけ焦っていた。

 

唯たちは事情を知っているのでいいが、ここに事情を知らない人がいれば誤魔化しようがないからである。

 

「……そ、そっか……」

 

「あの……。あなたが、クロさん……ですか?」

 

梓はおずおずと戒人に訪ねていた。

 

「何だ、統夜のやつ、俺のことをそう紹介していたのか。……俺の名前は黒崎戒人。魔戒騎士だ」

 

戒人は唯たちに簡単な自己紹介をしていた。

 

「よっ、よろしくお願いします」

 

梓は戒人にペコリと一礼していた。

 

「とりあえず、立ち話もあれなんで、座って下さい♪今、お茶を淹れますね♪」

 

「ほら、戒人」

 

「あっ、あぁ……」

 

統夜は戒人を座らせると、紬はティータイムの準備を行っていた。

 

「が、学校の部活とは普段からこんな感じなのか?」

 

「いや……。俺たちが特殊なだけだ。普通の部活は練習中にティータイムはしないからな……」

 

「そ、そういうものなんだな……」

 

戒人は統夜と違って学校生活というものをよく理解していなかったのか、この部屋特有の空気に少し困惑していた。

 

すると……。

 

「どうぞ♪召し上がって下さい♪」

 

「……」

 

戒人の前に紅茶とショートケーキが置かれると、戒人はショートケーキをじっと眺めていた。

 

「……?戒人?」

 

「すまない。俺、甘い物が苦手でな……」

 

「あら、そうなの?ごめんなさいね……」

 

戒人は甘い物が苦手だということを正直に打ち明け、紬は申し訳なさそうにショートケーキを下げた。

 

「気にしないでくれ」

 

こういうと戒人は紅茶を一口飲んでいた。

 

「……こっちは美味いぞ」

 

「まぁ♪ありがとうございます♪」

 

紅茶は好評だったので、紬はニコニコしていた。

 

「……ところでさ、戒人。聞きたいことがあるんだけど」

 

「……修練場の後、俺がどうしていたか、だろ?」

 

戒人は統夜の疑問を察していたのかこう聞くと、統夜は無言で頷いていた。

 

「まぁ、俺が今日ここへ来たのもそれを話すためだし、話すよ。あれから俺はどうやって魔戒騎士になったかを」

 

戒人はゆっくりと語り始めた。

 

あの忌まわしき事件の後の話のことを……。

 

 

 

 

 

 

 

〜戒人の過去編〜

 

 

 

黒崎戒人は、父親が先代のガイアで、母は魔戒法師という魔戒騎士や魔戒法師にとってはごく普通の家庭に生まれた。

 

戒人は6歳の頃から魔戒騎士としての修行を始めた。

 

戒人は魔戒騎士として才能があったのか、メキメキと力をつけていった。

 

そして戒人が14歳の時、同年代の仲間と学び、成長するために、父の勧めで修練場の修行に参加した。

 

自分は黒の鉢巻を与えられ修行に参加したが、共に修行する魔戒騎士の卵たちのレベルは低く、時間の無駄ではないかとも感じてしまった。

 

そんな中、目を引く相手が現れた。

 

それは、自分とは違うシロ組にいる赤いハチマキをつけた少年だった。

 

他のメンバーはバルチャスの腕はてんでダメで、あっという間にやられてしまっていたが、赤いハチマキの少年は相手を圧倒していた。

 

その結果、赤いハチマキの少年の活躍のおかげでシロ組は勝利した。

 

それを見た瞬間、こいつは自分と互角以上の実力を持っている。だからこそ、この男は自分のライバルになると感じていた。

 

修練場の修行は過酷なものであったが、戒人は弱音を吐くことはなく、修行をこなしていった。

 

修練場の修行も日を追うごとにクロは自身の成長を実感していた。

 

そして、鐘斬りと呼ばれる競技が行われる中、戒人は赤いハチマキの少年……統夜の成長を実感し、こいつは自分の手で倒すと決意した。

 

そして修練場の最終日、戒人たちクロ組の対戦相手は、統夜のいるシロ組だった。

 

試合が始まるなり、戒人の前に統夜が立ちはだかった。

 

戒人は統夜と全力でぶつかるが、これはシロ組の作戦だった。

 

1番強い相手をこちらの1番強い相手をぶつけて動きを封じて、後はその隙に戦う。

 

統夜たちシロ組は戒人のことを警戒していたため、このような作戦が行われた。

 

この作戦は見事に的中し、戒人は統夜を相手するのに何も出来ず、クロ組は敗北してしまった。

 

戒人は統夜と互いの健闘を称え合い、再選を楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホラーヴィアルの襲撃によって、多くの魔戒騎士の卵が喰われてしまった。

 

戒人は仲間を助けようとするものの、ヴィアルに吹き飛ばされてしまい、気を失ってしまった。

 

その時のダメージは大きく、戒人は生死の境をさまよっていた。

 

そして、戒人が目を覚ましたのは、あの事件から4日後だった。

 

「……戒人!目が覚めたか!」

 

戒人が目を覚まし、ずっと看病をしていた父親は安堵していた。

 

戒人の母は喜びのあまり涙を流していた。

 

「……父さん……母さん……。俺は、一体……」

 

目を覚ましたばかりの戒人は現状を理解出来なかった。

 

「心配したのよ!あなたたちがホラーに襲われて、あなたは瀕死の重傷を負っていたのですから!」

 

「ホラーに……。……!他のみんなは!?」

 

戒人はここでようやく、自分が仲間を守ろうとして瀕死の重傷を負ったことを思い出した。

 

「……生存者はいるらしいが、ほぼ全滅だそうだ……」

 

「!!」

 

事実を聞いた戒人は絶句していた。

 

もしかしてアカや他のシロ組のみんなもホラーに喰われてしまったのではないか?

 

そう考えると、涙が止まらなかった。

 

両親はそんな戒人を気遣い、戒人はしばらくの間泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

事件の後、戒人の父親は魔戒騎士にならないという道も勧めたが、戒人はあんな事件があったからこそ、誰かを守れる力が欲しいと望み、改めて魔戒騎士になりたいと、願った。

 

戒人はその後も魔戒騎士になるために厳しい修行を続けた。

 

今から1年半前、戒人の父親が魔戒騎士を引退し、戒人は「堅陣騎士ガイア」の称号を受け継いだ。

 

その後戒人は、この紅の番犬所に配属されるまで、桜ヶ丘からはそれなりに離れた街にある「橙の番犬所」の魔戒騎士として、ホラーを狩り続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

〜現代〜

 

 

 

 

「……戒人、お前も大変だったんだな……」

 

統夜は戒人の話を聞いて、こうしみじみと呟いた。

 

「あぁ……。ほぼ全滅だって聞いた時はお前も死んだと思ってたよ。だけど、お前も生きてたんだよな」

 

「あぁ。俺は助けられたんだよ……。あの時、ヤマブキが助けてくれなかったら俺も今頃は……」

 

統夜は自分が助かった経緯を話すと、唇を噛み締め、拳を力強く握りしめていた。

 

「統夜先輩……」

 

梓はそんな統夜の姿を心配そうに見つめていた。

 

「お前も色々あって魔戒騎士になれたんだよな?」

 

「まぁな。あの後も厳しい修行を乗り越えて、魔戒騎士になったんだ」

 

「お前の噂は聞いていたぞ。15歳という若さで魔戒騎士になった奴がいるって。それがお前だったんだな」

 

15歳という若さで魔戒騎士になるのはとても異例なので、その噂は瞬く間に広まっていた。

 

「まぁな。俺が奏狼の称号を継いだのは中3の頃だったし」

 

「そういえばそんなこと言ってたね」

 

唯たちも統夜が中3の頃に魔戒騎士になったという話は聞いていたので、統夜の話を聞いてウンウンと頷いていた。

 

「それから、お前の活躍も耳にしていたぞ。若干17歳って若さでメシアの腕と呼ばれたグォルブを討滅し、暗黒騎士の1人も討伐したと」

 

統夜がグォルブを討滅したことは多くの魔戒騎士や魔戒法師に知れ渡ることになった。

 

「ま、まぁな……。だけど、それは俺1人の力じゃない。牙狼の称号を持つ鋼牙さんや絶狼の称号を持つ零さん。それだけじゃない。多くの魔戒騎士の協力があったからグォルブやディオスを倒すことが出来たんだよ」

 

統夜は多くの人の協力があったからこそこの偉業を成し遂げることが出来たと語った。

 

「そうか……。お前はあの黄金騎士や銀牙騎士と共に戦ったのだな」

 

戒人は統夜が最強と名高い黄金騎士や銀牙騎士と共に戦っていたことに驚いていた。

 

『ほぉ……。それならそれだけのホラーを倒せても納得じゃの』

 

突然戒人ではない声が聞こえてきた。

 

「あれ?今の声……どこから?」

 

紬はキョロキョロと周りを見回すが、他に誰もいなかったので困惑していた。

 

「戒人、もしかして……」

 

「あぁ。俺の相棒の魔導輪だ」

 

戒人は統夜たちに銀色で、口のようなものが見える腕輪を見せた。

 

『自己紹介がまだじゃったの。ワシはトルバ。戒人の相棒の魔導輪じゃよ』

 

「あれ?魔導輪?それってイルイルみたいに指輪のことじゃないの?」

 

唯は首を傾げながらこう訪ねていた。

 

「魔導輪っていうのはイルバみたいな指輪もそうだが、腕輪型の魔導具も魔導輪って呼ぶんだよ」

 

『それと唯。お前さんは毎度毎度俺様を変なあだ名で呼ぶな!』

 

統夜は魔導輪について説明し、イルバは唯があだ名で呼ぶのをやめさせようとしていた。

 

「イルイルって……」

 

唯がイルバをあだ名で呼んでいることに戒人は驚いていた。

 

「あぁ、気にするな。こう呼ぶのはあいつだけだから」

 

『ホッホッホ。どうやらここはずいぶんと賑やかのようじゃな』

 

唯は喋るトルバをジッと見つめていた。

 

『?どうしたんじゃ?お嬢ちゃんや』

 

「お爺ちゃんみたいな喋り方にトルバ……。あだ名はトル爺……だね!」

 

『おいおい、何が「だね!」だ。俺様以外にも魔導輪に変なあだ名をつけるなよ……』

 

イルバはトルバにまであだ名をつける唯に呆れていた。

 

『ホッホッホ。まぁ、良いじゃろう。好きに呼ぶといい』

 

トルバはイルバと違い、あだ名で呼ばれることをあっさりと承諾していた。

 

「……とりあえずお前のこともだいたいわかったよ、戒人」

 

「俺もだ、統夜。……それで、お前に頼みがあってな」

 

「頼み?」

 

「……俺と……戦ってくれないか」

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

「……」

 

戒人の突然の申し出に唯たちは驚き、統夜はジッと話を聞いていた。

 

「……まぁ、それは俺も思ってたんだ。あの時つけられなかった決着をつけたいんだろ?」

 

統夜も戒人とは決着をつけたいと思っていたので、その気持ちを察して、こう戒人に訪ねた。

 

「あぁ。私闘を禁じられてるのは百も承知でこのお願いをしている……。ダメか?」

 

「……」

 

統夜はジッと戒人を見てどう答えるかを考えていた。

 

『おい、統夜。何を考えている!?魔戒騎士同士の私闘は禁じられていることはお前さんも知っているだろう?』

 

イルバは騎士の掟を破ろうとしている統夜を必死に止めていた。

 

『落ち着くんじゃ、若い魔導輪。戒人もそこの小童も寿命を没収されるのは覚悟の上じゃ。これは、2人が魔戒騎士として成長するために必要なことなのじゃ!』

 

本来なら止めるべき立場であるトルバは、罰を受けることは覚悟している戒人や統夜の気持ちを察して反対しなかった。

 

「……戒人。決着をつけよう。……あの時出来なかった決着を!」

 

「ちょ、統夜先輩!?本気ですか!?」

 

「そうだぞ!相手は魔戒騎士だろ?そこまでする必要はあるのか?」

 

統夜が戦いを承諾し、それを梓と澪が止めようとしていた。

 

「悪いけど、止めないでくれ。これは必要なことなんだよ。俺や戒人が魔戒騎士として成長するために!」

 

「やーくん……」

 

「……仕方ないわね。本来なら私も止めるべき立場だけど、学校を壊さないと約束出来るなら思い切りやりなさい」

 

さわ子は学校を壊さないという条件付きで2人の戦いを認めたのであった。

 

「せ、先生!いいんですか!?」

 

「これは私たちの口出し出来る問題じゃないわ。2人の気の済むようにやらせましょう」

 

「……ありがとうございます。それじゃあ、戒人、行こう。屋上なら思い切り戦える」

 

統夜は席を立つと、長椅子に置いてあった魔法衣を羽織り、屋上へと向かった。

 

戒人は統夜の後に続き、唯たちもついていった。

 

 

 

 

 

 

屋上に到着すると、屋上のちょうど真ん中のあたりで統夜と戒人は対峙した。

 

「……統夜。鎧の召還はありにしないか?」

 

「あぁ。後はサバックと同じルールでいいか?」

 

「問題ない」

 

こう戒人は答えると、戒人は魔戒剣を抜き、統夜も魔戒剣を抜いた。

 

2人は魔戒剣を構えると、互いを睨みつけていた。

 

この時2人の殺気はかなりのものであり、痛々しい空気がこの場を支配していた。

 

「……なぁ、本当にいいのかよ!」

 

「あの2人……本気だわ」

 

「……なんか怖いよ……」

 

唯たちは統夜と戒人の放つ殺気に怯えていた。

 

(統夜先輩……。ケガだけはしないで……!)

 

この戦いを止めることが出来ない梓は統夜がケガしないことを祈っていた。

 

そして……。

 

「「はぁっ!!」」

 

統夜と戒人は同時に魔戒剣を一閃し、互いの魔戒剣のソウルメタルが激しい打ち合いで共鳴していた。

 

統夜がすかさず剣を続けて一閃し、戒人はそれを魔戒剣で受け止めた。

 

「……どうした?まさか、これで終わりじゃないよな?」

 

「……っ!当然!」

 

戒人は統夜の剣を弾くと、その隙を突いて統夜を殴り飛ばした。

 

吹き飛ばされた統夜はすぐに体勢を立て直し、魔戒剣を構えた。

 

戒人は反撃の隙を与えないためにも突撃して、魔戒剣を一閃した。

 

統夜はジャンプして魔戒剣の攻撃をかわすと、戒人の顔面に蹴りを叩き込んだ。

 

蹴られたことで戒人は後方にさがり、統夜は着地して、魔戒剣を構えた。

 

「うわぁ……」

 

「今のは痛そうですね……」

 

先ほどのパンチや蹴りを見て、唯たちは少しだけ引いていた。

 

「はぁっ!!」

 

「っ!!」

 

戒人は統夜の顔面めがけて魔戒剣を叩き込むが、統夜は無駄のない動きでその一撃を回避した。

 

統夜は一瞬の隙を突いて、戒人の足を引っ掛けることで、戒人を転ばせた。

 

「……!」

 

統夜は戒人の顔面めがけて魔戒剣を突き刺そうとするが、戒人はぐるっと横に回ることで、回避した。

 

「……あ!やべ!」

 

統夜が気付いた時には既に手遅れだった。

 

魔戒剣の一突きのせいで、屋上の床に少しだけ傷がついてしまった。

 

「ちょっと!屋上は壊すなって言ったじゃない!」

 

「すいませーん!!」

 

統夜は隙を突いて攻撃を仕掛けてきた戒人の攻撃を防ぎながらさわ子に謝っていた。

 

その後、2人は激しく魔戒剣を打ち合い、その時に生じた火の粉がその激しさを物語っていた。

 

「凄い……」

 

梓は統夜と戒人の真剣勝負に見入っていた。

 

「確かに凄いけど、これってお互い殺す気で戦ってる感じがするよな?」

 

戦いの素人である律でさえ、この戦いは互いに手を抜いておらず、本気で戦っていることがわかった。

 

「……これが、魔戒騎士同士の本気の戦い……なのかな」

 

「うぅ……。2人とも本当に怖いよぉ〜!」

 

「そうね……」

 

唯と紬は初めて見る魔戒騎士同士の真剣勝負に怯えていた。

 

ホラーとの戦いは何度か見ているが、それとは違う恐怖感があったのである。

 

魔戒剣による打ち合いが続き、2人は一度距離を取った。

 

「……戒人!そろそろ鎧を召還して決着をつけようぜ!」

 

「あぁ!受けて立つ!」

 

統夜と戒人は、同時に魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

2人はそこから放たれる光に包まれて、それぞれの鎧を召還した。

 

統夜は白銀の鎧を身に纏い、奏狼の鎧を装着した。

 

一方、戒人は濃い紫の鎧を身に纏い、ガイアの鎧を装着した。

 

「統夜、それがお前の鎧という訳か」

 

「あぁ!……白銀騎士奏狼。行くぜ!」

 

統夜はこう宣言すると、戒人めがけて駆け出し、皇輝剣を一閃した。

 

戒人はその一撃を堅陣剣で受け止めていた。

 

その後、戒人は統夜の攻撃を弾くと、戒人は堅陣剣を一閃し、統夜は皇輝剣で防がずに攻撃をかわしていた。

 

すかさず攻撃を仕掛けると、互いの剣を激しく打ち合っていた。

 

2人の実力は一見拮抗しているように見えた。

 

しかし、統夜は一瞬の隙を突いて戒人の攻撃を防ぐと、戒人を殴り飛ばした。

 

戒人は体勢を整えて、堅陣剣を構えた。

 

「……戒人!そろそろ決着をつけようぜ!」

 

「あぁ、そうだな!」

 

2人は同時に駆け出すと、攻撃の体勢に入った。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

2人はまるで獣のように吠えると、互いの剣を一閃した。

 

どちらが勝ったのかはわからず、唯たちはその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

しばらくの間静寂が支配し、勝者はすぐに決まった。

 

「くっ……!」

 

先ほどの一撃を制したのは統夜であり、戒人の鎧が解除されると、そのまま膝をついた。

 

統夜も鎧を解除すると、魔戒剣を戒人の喉元に突きつけた。

 

「……勝負あり、だな」

 

「あぁ……参ったよ……」

 

戒人が負けを認めると、統夜は剣を降ろし、魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「……統夜、お前、これほど強くなっていたとは……」

 

戒人は直接統夜と戦い、統夜が予想以上の実力を持っていたことに驚いていた。

 

「戒人、お前もかなりのものだったぜ」

 

こう言いながら統夜は笑みを浮かべると、戒人に手を差し伸べた。

 

戒人も笑みを浮かべると、統夜の手を取り立ち上がった。

 

「……ありがとう。俺のワガママを聞いてくれて……」

 

「気にするな。俺だってお前と決着をつけたかったんだから」

 

統夜も戒人もかつての決着をつけることが出来て、清々しい表情をしていた。

 

「統夜。これからは同じ番犬所で戦うんだ。だから、これから共に戦える時は共に戦おう!」

 

戒人はこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げた。

 

「あぁ!」

 

統夜は戒人の思いに応えると、魔戒剣を抜いて同じように高く突き上げた。

 

2人の魔戒剣は交わり、仲間として……そして友としての契りを交わした。

 

しばらくこの状態でいて、唯たちはその様子を見守っていた。

 

『……そしたら番犬所にいかないとな』

 

2人が魔戒剣を鞘に納めるのを見たイルバがこう話を切り出した。

 

「……あぁ、わかっているよ」

 

理由はどうあれ、統夜と戒人が騎士の掟を破ったのは事実であり、2人ともその罰を受ける覚悟は出来ていた。

 

「……統夜先輩……」

 

梓は心配そうな表情で2人のことを見ていた。

 

「……心配するな。罰と言っても多分数日から1週間分の命を没収されるだけだから」

 

「い、命を没収って……」

 

日数はともかくとして、命を没収されるということに梓は驚愕していた。

 

「……とりあえず、番犬所に行かなきゃいけないから帰るな」

 

こう言うと統夜と戒人は屋上を後にして、そのまま番犬所へと向かった。

 

「……やーくん……」

 

「統夜君……大丈夫かしら……」

 

「大丈夫だとは思うけど……」

 

命を没収されるという穏やかではない話を聞いていたので、唯たちは不安そうにしていた。

 

「……とりあえず戻りましょうか」

 

「……そうだな」

 

唯たちも一度音楽準備室に戻ったのだが、この日は練習もティータイムも行わず帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

番犬所に到着した統夜と戒人は、イレスに掟を破って私闘を行ったことを報告した。

 

イレスはそのことを察していたようだった。

 

「……イレス様、申し訳ありませんでした」

 

「俺たちは言い訳はしません。どんな罰も受ける覚悟です」

 

統夜と戒人は自分の罪を認め、罰を受ける覚悟はあった。

 

「やれやれ……。あなたたちの事情は知っていますが、まさか本当に勝負するとは思いませんでした……」

 

察していたイレスも本当にこのようなことをするとは思っていなかったので、呆れていた。

 

「2人がぶつかることは確かにあなたたちの成長に必要だと思いますが、咎めがないというのは他の騎士や法師たちに示しがつきません」

 

イレスは毅然とした態度でこう言うと、統夜と戒人はジッとイレスの目を見ていた。

 

「……月影統夜!黒崎戒人!罰としてあなた方の命の4日分を没収します!」

 

「……!4日分……それだけでいいのですか?」

 

統夜は思ったよりも罰が軽く驚いていた。

 

「まぁ、あなた方は罪を認め反省していますからね。だから罰は少しだけ軽くしたのです」

 

今回のように魔戒騎士が掟を破った時は、番犬所の神官が掟を破った者に罰を与える。

 

さほど重い罪を犯していなければ、数日から1週間分の命を没収する。

 

その日数は神官の裁量で決められるのである。

 

今回の場合は統夜も戒人も罪を認め、罰を受ける覚悟があるとのことなので、罰は少しだけ軽くなったのである。

 

「……まぁ、あなたたちのことですから、もうこのようなことはしないですよね?ですが、今後はこのような身勝手な行動は慎むようにして下さいね」

 

「……はい、肝に銘じます」

 

「……申し訳ありませんでした」

 

イレスからの厳しい言葉に統夜と戒人は素直に反省の意思を見せていた。

 

この日は指令がなかったので、統夜と戒人は罰として命を没収され、この日は帰された。

 

番犬所で戒人と別れた統夜はそのまま帰路についたのだが、統夜は家に着くなり、とてつもない疲労感に襲われていた。

 

それは命を没収された反動であり、統夜はこの後何をする気力もなく、ベッドに入るとそのまま眠りについたのだった。

 

『おいおい……せめて俺様は外せよな……』

 

統夜はイルバを外す余裕もなかったのか、イルバを指にはめたまま眠っていた。

 

『まぁ、仕方ないか……。本当ならあんな馬鹿な真似はさせるべきではなかったが、もうあんな真似はしないだろうしな……』

 

イルバは最初から2人の私闘に反対していたが、結果的にはこれで良かったと判断していた。

 

『やれやれ……統夜もあの小僧もまだまだ未熟だな……』

 

イルバはグォルブを討滅した統夜も未熟扱いしていた。

 

『まぁ、これからはあの小僧と共に精進するんだな』

 

イルバは統夜と戒人のさらなる成長を願い、この日は大人しくしていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日、いつもより早く起床した統夜はシャワーを浴びてからいつもの日課であるエレメントの浄化を行った。

 

『……おっ、統夜。いつもより浄化すべき場所が減っているぜ』

 

イルバが口を開いたのはエレメントの浄化を始めて1時間も経っていなかった。

 

「戒人もここの魔戒騎士として仕事してるからな」

 

『あいつもいるならお前と大輝の負担もかなり減るな』

 

「あぁ、正直ありがたいよ」

 

戒人が紅の番犬所所属になり、その分浄化すべき場所も減るため、負担はだいぶ軽くなる。

 

しばらくエレメントの浄化を行っていると……。

 

「……あっ、統夜」

 

「おう、戒人」

 

偶然戒人と遭遇した。

 

「そういえば統夜はこの後学校に行くんだよな?」

 

「あぁ」

 

「話はイレス様や大輝さんから聞いている。俺もお前の学校生活とやらをサポートするつもりだから、安心してくれ」

 

「戒人……ありがとな!」

 

戒人も大輝のように統夜の高校生活をサポートしてくれると言ってくれて、統夜は喜びを隠せなかった。

 

「それじゃあ、頑張れよ」

 

戒人はこう言うと統夜と別れ、エレメントの浄化を再開した。

 

『……さて、統夜。俺たちももうひと頑張りしないとな』

 

「……そうだな」

 

統夜はもう少しエレメントの浄化の仕事をこなしてから学校に登校した。

 

統夜が教室に入ると、唯たちは心配だったのか統夜に詰め寄った。

 

統夜は問題ないと伝えると、どうやら安心したようだった。

 

そして、この日は唯がさわ子のギターのお金を使って購入したある物が届くとのことだった。

 

その内容を聞いて統夜は驚くが、理由を聞くと何も言わなかった。

 

統夜がその話を聞くと、チャイムが鳴ってこの日の授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

この日の放課後、統夜たちは音楽準備室に入ると、昨日まではなかった水槽が置いてあり、その中で1匹の亀が悠々と泳いでいた。

 

「……何ですか、これ?」

 

昨日まではなかった水槽と亀を見て梓はポカーンとしていた。

 

「……新入部員のトンちゃんだよ!」

 

「先生に頼んで買ってもらったの!梓ちゃんの後輩よ!よろしくね!」

 

唯の提案こそがこの亀である。

 

みんなでホームセンターに行った時、梓は売られていた亀をジッと眺めていたのを唯は目撃していた。

 

その時、梓がこの亀が欲しいと唯は感じたので、この亀……トンちゃんを軽音部の部員として迎えることになった。

 

しかし……。

 

「……へぇ……」

 

梓は亀が欲しがってるとは思えないほどリアクションが薄かった。

 

予想外の展開にその場の空気が凍りついていた。

 

「おいおい……言ってることが違くないか?」

 

「そうだよなぁ。梓がこの亀が好きだって言ったのは唯だろ?」

 

「だってあずにゃん、欲しそうにジッと見つめてたから……」

 

「見つめてたのは唯先輩でしょ?私はただ変な顔だなと思って見ていただけで……」

 

この時点で唯と梓のずれが生じていた。

 

梓はただ見ていただけであり、好きとか欲しいとかそういう気持ちはなかったのである。

 

「へ?」

 

その事実が発覚し、唯の顔は真っ青になっていた。

 

「……やっちまったな……」

 

『おいおい、そしたら早とちりでこの亀を買ったってことなのか?』

 

律は唖然とし、イルバは呆れていた。

 

「……でも、何で急に?」

 

「梓、後輩いなくて寂しいのかなって思ってな……」

 

「だから……」

 

「新入りさんなんだけど……」

 

この亀を買ってもらったもう1つの理由が、後輩がいなくて寂しがっている梓の後輩としてこの亀を迎えたいと思ったからである。

 

先輩たちの気持ちを汲み取った梓は笑みを浮かべて、水槽の亀……トンちゃんに近付いた。

 

「……もぉ、こんな早とちりで飼われたら迷惑だよね」

 

梓がトンちゃんに語りかけて、指で水槽に触れると、トンちゃんは頷く仕草をしていた。

 

「あ、頷いた」

 

「か、可愛い♪」

 

唯はトンちゃんの仕草が可愛らしいと感じて目をキラキラと輝かせていた。

 

「大丈夫、これからは私がちゃんと面倒を見るからね♪」

 

「いやいや、私もちゃんとするし♪」

 

「無理でしょ、唯先輩には」

 

『あぁ、唯には無理だろうな』

 

唯にはトンちゃんのお世話は無理と判断した梓の言葉にイルバは賛同していた。

 

「むぅぅ……。そんなことないもん!」

 

唯はぷぅっと頬を膨らませながら反論していた。

 

澪はそんなやり取りを見て笑みを浮かべると、デジカメを取り出して、その瞬間を撮影していた。

 

『やれやれ……。軽音部の新入部員が人ではないとはな……』

 

「……イルバ、お前だって人じゃないだろう」

 

『あ、確かにそうだな……』

 

統夜がこう指摘した通り、これで軽音部の部員は増えたのだが、軽音部の部員は6人と1体と1匹となったのである。

 

統夜たち6人意外に人間のメンバーがいないことになる。

 

「……まぁ、それでも新入りなのは間違いないんだ。これからもよろしくな、トンちゃん!」

 

統夜は水槽に近づいてカチン!と音を立てながら水槽に触れると、トンちゃんはウンウンと頷く仕草をしていた。

 

こうして統夜たち軽音部に人ではないが、新たな仲間が増えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『カメ公が来たのはいいんだが、律のやつは一体どうしたんだ?変なことを考えてるみたいだが……。次回、「楽器」。まぁ、時にはこんなのもいいかもな』

 

 




こうして、クロこと戒人が共に戦う仲間となり、軽音部にはトンちゃんという新入部員が入りました。

軽音部の部員が6人と1体と1匹とか、すごい構成ですよね(笑)

今回、統夜と戒人が修練場時代の決着をつけるべく戦いました。

2人は騎士の掟を破ることは承知で戦っていましたが、個人的にも騎士の掟に関する認識が軽すぎたかなと思いました。

なので、その手のツッコミは無しにしてもらえると助かります(笑)

ちなみに、戒人の相棒であるトルバのイメージCVは「茶風林」さんになっております。

今回はオリジナル要素が多かったですが、次回はけいおんメインの話になります。

それでは、次回をお楽しみに!


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