前回の最後でギターが60万円という破格の値段になりましたが、何故その値段かが明らかになります。
そして今回は新キャラが登場します。
それでは、第44話をどうぞ!
統夜たちは私物だらけの音楽準備室の物置を整理していたら、古いギターが見つかった。
そのギターはさわ子の昔のギターなのだが、さわ子がこのギターを売って部費の足しにしていいと言ったので、統夜たちは行きつけの楽器店である「10GIA」でこのギターを買い取ってもらうことになった。
そのギターはなんと60万円という誰も予想していなかった値段がつき、統夜たちは驚愕していた。
そして、統夜たちはしばらくの間呆然としていた。
「……あ、あの。お客様?」
「……ごちそうさまでした!それでは!」
澪は気が動転してその場から逃げ出そうとするが、律がすぐさま捕まえていた。
「……待てって!」
「だっ……だだだだって……。ろ……ろろ……600万!!」
「「落ち着け。桁が変わってるぞ」」
統夜と律が澪にツッコミを入れていた。
澪は気が動転するあまり、桁を増やした金額を言っていたからである。
「ありがとうございます♪」
そんな中、紬は躊躇なく封筒に入った60万を受け取っていた。
「「おめーは躊躇なさ過ぎだ!!」」
統夜と律は続いて躊躇なくお金を受け取る紬にツッコミを入れていた。
《統夜。あのギターだけどな……》
イルバは何故かあのギターのことを知っていたので、統夜はその説明を受けていた。
(ふむふむ……。なるほどな……)
イルバの説明は長かったのだが、統夜はそれだけいいギターだったってことは理解出来た。
そんな中、律が店員に何故こんな値段がつくのか聞くと、店員がこのギターの説明を始めた。
「このモデルは1960年代始めに生まれたギターでして、当初は材料や形が定まっておらず、様々な仕様のマイナーチェンジを繰り返しつつ、現在の形になったと言われております」
(……!ここまではイルバの説明とだいたい同じだ!)
先ほどイルバから聞いたフレーズがいくつも出てきたので、統夜は驚いていた。
そして、店員の説明は続いた。
「お客様にお持ちいただいたこのギターは、フィンガーボードに「ハカランダ」という今となっては貴重な木が使われていまして……。これが高い値段の1つの要因になっております」
店員の話は思ったより長く、まだ終わりそうになかったので、律は目をパチクリとさせていた。
「残念なことにこのギターは、テイルピースが交換されておりまして、フルオリジナルではないため、少し値段が落ちてしまいますが、ストックテイルピースの方が演奏性に優れており、こちらの方を好むお客様も多く、それほどのマイナスにはなりません」
(へぇ、これがフルオリジナルだったらもっと値段が上がってたって訳か)
統夜はもしこのギターがフルオリジナルだったらどのくらいの値段がつくのかを想像し、苦笑いしていた。
「しかも、このギターは長いことしまわれていたそうで、あまり傷やフレットの減りはなく、年代物にしてはとてもコンディションが良く、この値段で買い取らせていただきました」
ここでようやく店員の話は終わったのだが、あまりに話が長かったため、唯たちは呆然としていた。
(それにしても、イルバの説明と店員さんの説明が似てたな。イルバ、何で年代物のギターのことなんて知ってるんだよ)
《ふふん♪俺様は魔導輪だからな。お前さんがギターを始めてからというものの、だいぶギターの勉強をしたんでな。それで年代物のギターのことも知ったのさ》
テレパシーではあるが、このように語るイルバは何故か誇らしげで、ドヤ顔をしていた。
(ドヤ顔するなよ……)
誇らしげにドヤ顔をするイルバを、統夜はジト目で見ていた。
そんな中、唯たちは未だに呆然としていた。
「と、とにかく!それだけ貴重なギターなんです!」
店員の説明にとりあえず納得したところで、統夜たちは店を後にした。
店を出た統夜たちは行きつけのファストフード店に来ていた。
「……うわ!肉厚だ!」
律は封筒の中身を覗き込んで驚いていた。
「あーん……。あぁ、スペシャルバーガーだよ!」
「バーガーの話じゃねぇ……」
律はお金の話をしていたのだが、唯は今食べてるバーガーの話かと勘違いをしていた。
「……それよりも、ポテト多くないか?」
澪の指摘通り、律のトレイに置かれたポテトは普段より量が多かった。
「これだけの金があるんだぞぉ♪ポテトXLサイズ!釣りはいらねぇ!」
「なっ!?つ、使ったのか!?」
「いや、これは自腹だけどな……」
「ったく……びっくりさせるなよ……」
統夜は律が本気でギターの金に手をつけたと思ってしまったので、とりあえず安堵していた。
「でも……いいんですかね……。みんなでもらっちゃって……」
梓は金額が金額だったからか、不安そうにしていた。
高校生がこれだけの大金を持つことはないので、このような心配をするのも無理はない。
「仕方ないだろ。さわちゃんが部費にしろっていうんだから」
「ブヒブヒ!」
「でも……」
釈然としない梓に対して律は札束を突きつけた。
「ほれ!6人で分けたら1人10万だぞ!」
梓はしばらく札束を眺めていたのだが……。
「あぁ……。私、欲しいエフェクターがあったんですよねぇ……」
真面目な梓も金の力には敵わず、自分の欲しいものを思い浮かべていた。
「あ、あずにゃん陥落……」
「バカ!そんな大金見せびらかすな!」
「澪の言う通りだ!さっさとしまえって!」
澪と統夜は大金を持っていると知られたら危険と判断し、律を注意していた。
「全く……。統夜は大袈裟だなぁ……。ほれほれ、澪に統夜。1人10万だぞぉ♪」
律は続いて統夜と律に札束を突きつけてきた。
「うっ……」
「……」
澪はあまりの大金に心揺れていたが、統夜は目の前の大金に全く興味を示さなかった。
「10万か……。10万あったら……。マルチベースアンプシミュレーターに、新しいアンプ……」
澪も梓のように欲しいものを思い浮かべていた。
「あたしはツインペダルに、やっぱりフルアタムも欲しいなぁ♪」
「……」
律は欲しいものを思い浮かべるなか、唯は何故か札束でビンタされる様子を想像していた。
「「「「ふっふっふ……」」」」
統夜と紬以外の4人はドス黒いオーラを放って笑みを浮かべていた。
「うわぁ……」
統夜はそんな4人にドン引きしていた。
「みんな……。一体どうしたのかしら?」
唯たちの変化に紬は困惑していた。
「ムギ、みんなは大金を目の前にしておかしくなってるだけだよ」
「そうなの……?統夜君はいつも通りね?」
「俺はみんなと違ってそこまで欲しいものはないからな」
「そういえば統夜君って1人暮らしよね?お金とかは大丈夫なの?」
紬はずっと心配していた統夜の生活についてのことを聞いていた。
「あぁ、そこは問題ないよ。俺は番犬所からそれなりにお金をもらってるし、衣食住は保証されてるからな」
統夜たち魔戒騎士や魔戒法師はホラーと戦うというとても危険な仕事をしているので、番犬所からそれなりにお金を支給されている。
それだけではなく、最低限の衣類や住む場所なども場合によっては提供してくれる。
統夜も番犬所からそれなりにもらっており、さらには両親の遺産もあるため、毎日外食でも問題ないくらい生活には困っていないのである。
「へぇ……。そうなのね」
「まぁ、それだけ危険な仕事だし、それくらいはな」
紬は統夜がそれなりの生活をしていることを知り、安心していた。
この日はこのまま解散となり、ギターのお金である60万は統夜が預かることになった。
それが一番安全と判断したためである。
統夜はみんなと解散した後、1度番犬所に立ち寄ったが、この日は指令はなかった。
統夜は街の見回りを行い、帰路についた。
※※※
そして翌日の放課後、頼んでいた棚が到着すると、統夜がそれを音楽準備室まで運んだ。
「……よし、こんな感じかな?」
統夜は手際よく棚を組み立て始め、完成までそれほど時間はかからなかった。
「統夜先輩ってけっこう器用なんですね」
「アハハ……そうなのかな?」
褒められたのが恥ずかしかったのか、統夜は笑っておどけていた。
「これで色々収納出来るな。さぁ、さっそくやってくか」
棚が完成したので、本やメトロノームなど、様々な備品を棚に入れていった。
「……綺麗に収まりましたね」
「そうだな、これでだいぶ整頓出来たよな」
統夜は周囲を見回すと、見覚えのあるカエルの置物を発見した。
「唯……これは何だろうね……」
「さ、さぁ……なんだろうねぇ……」
カエルの置物は唯が持ち込んだものであったが、シラを切っていた。
「だったらこれは破棄しても問題はないよな♪」
統夜はカエルの置物を破棄しようとしたのだが……。
「ごめんなさい!それだけは許してつかーさい!」
唯はカエルの置物が破棄されると知り、素直に自分のものだと白状した。
「唯先輩!私物はみんな持って帰るって約束でしょ!?」
「だって!昨日持って帰った物の他にこれだけあるんだよ!?これ以上持って帰ったら憂に怒られちゃうよぉ!」
長椅子には唯の私物らしきものがおかれていたが、それは紙袋3個分もあった。
昨日は学生鞄がいっぱいになるまで私物を持って帰っていたので、唯の私物が圧倒的に多いということが推察できた。
「ここに置いといたら私が怒ります!」
「憂だって怖いもん!昨日だって……」
唯はぷぅっと頬を膨らませながら昨日のことを話していた。
〜回想〜
唯はファストフード店で解散した後、まっすぐ帰宅したのだが、大量の私物を持って帰ったことが憂にバレてしまった。
そして……。
「……めっ!!」
「許してつかーさい!!」
憂は実の姉をまるで子供を叱るかのように叱ると、唯は涙目になって許しを請うた。
「クスッ……やれやれ……」
__回想終了
「「姉の威厳まるでなしかよ……」」
姉であるはずの唯の情けない話を聞いて、統夜と澪は同時にツッコミを入れながら呆れていた。
『威厳どころか姉妹の立場が逆転してるな、こりゃ』
「!むぅぅ……!」
イルバの的を得たツッコミを聞いた唯はぷぅっと頬を膨らませていた。
「……やーくん!お願い!いくつかでいいからコートの中に入れさせて!」
魔法衣の裏地が魔界に通じていると聞いた唯は瞳をウルウルさせながら統夜に懇願してきた。
「ダメに決まってるだろ……。つか、魔法衣の裏地は物置じゃないんだからな……」
魔法衣の使用意図を間違っている唯に統夜は呆れていた。
「せ……せめてケロだけでも!ケロだけでいいから!」
「嫌だよ!何で魔法衣の裏地にカエルの置物をしまわなきゃいけないんだよ!」
魔戒騎士のことを知ってる人間が見たらあまりにシュールな光景を想像した統夜は唯の申し出を断固拒否していた。
『ま、当然だな。魔法衣には必要最低限なものしか入れないしな』
「むぅぅ……。やーくんのケチ……」
「あのなぁ……」
膨れっ面になっている唯を見て統夜は呆れていた。
「お願い!ちゃんと持って帰るから、しばらくここに置かせて下さい!」
続いて唯は部長である律にこのように懇願していた。
「しょうがないなぁ……。それだけだぞ?」
律は整頓したことでスペースの出来た棚に何故か漫画を置こうとしていた。
「「お前は何をしている!」」
統夜と澪は同時にツッコミを入れると、律は「キャハッ☆」と言って笑って誤魔化そうとしていた。
澪はそんな律に拳骨をお見舞いしていた。
律は相当痛かったのか、その場でうずくまっていた。
すると……。
「やっほー!」
さわ子がこのような声をあげて音楽準備室の中に入ってくると、澪と律が驚きの声をあげていた。
「棚は届いたの?」
「はい、これがその棚です」
統夜以外は何故か呆然とする中、統夜は棚をさわ子に見せていた。
「あら、いい感じじゃない!」
さわ子は棚を見て感想を言うが、この部屋の空気がおかしいことを感じ取った。
「……ん?どうしたのよ?人がせっかく声をかけてるのに」
「……?みんな?」
さわ子の問いかけに何故か誰も答えようとはせず、律はこっそり逃げ出そうとするが、澪が律の肩を掴み、さわ子の前まで押し出した。
「あ、さわちゃん♪来てたんだぁ♪聞こえなかったぁ☆」
(うぜぇ……。何で律はぶりっ子キャラになってんだよ……)
あまりにも律のキャラがぶれぶれだったので、統夜はドン引きしていた。
《おいおい、何でこいつら険しい表情してるんだよ……。ギター代を誤魔化そうとしてるんじゃないだろうな》
イルバには律たちの考えはお見通しだった。
《まぁ、とりあえずは黙っておくか。何か面白そうだしな♪》
(お前なぁ……)
イルバは面白そうという理由だけで黙っているつもりでいたので、統夜はそんなイルバに呆れていた。
「それで、昨日どうだった?」
「へっ!?き、昨日!?」
「私のギターよ。いくらで売れたの?」
さわ子からこの質問が来るのはわかりきってたはずだが、律は何故かテンパり、説明しようとしなかった。
「え、えっと……。確か……」
「結構古くて……。確か50年くらい前のものだったらしいです」
「へぇ……」
澪と梓も何故かテンパり、買取額を誤魔化そうとしていた。
「あれぇ?それじゃあさわちゃんはひょっとして、50代でいらっしゃる……」
「『あ……』」
唯が言ってはいけないことをいってしまったと思い、統夜とイルバは思わず声を出してしまった。
そして……。
「どこにこんなにピチピチした50代がいるんじゃあ!!」
さわ子は怒りモードで怒鳴っていた。
「お父さんの友達にもらったって言ったでしょ?」
「エヘヘ……。そうでした……」
「で、結局いくらになったの?」
さわ子は改めて金額を聞いていた。
「え、えっと……」
(やれやれ……。俺が言うしかないか……)
誰も話そうとしなかったので、統夜が話すことにした。
「先生、ギターですけど、実は……」
「……」
「うっ……!」
統夜はふと紬を見ると、ドス黒いオーラを放って統夜を睨みつけていた。
正直に話すとどうなるか……。統夜は身の危険を感じていた。
「……それで?どうしたの?」
「アハハ……。すいません……ド忘れしちゃいましたよ……」
「何よ、それ」
統夜の予想外な解答にさわ子は呆れていた。
「それで、りっちゃん。いくらだったの?」
「え……えっと……。い、1万円……」
律がこの金額を言った瞬間、その場の空気が一瞬にして凍りついた。
みんな頭が真っ白になりながらテンパっていた。
(り、律ぅぅぅぅぅぅ!!?)
(いくらなんでも無理があり過ぎますよ!!)
(おいおいおい!いくら何でも欲張り過ぎだろ!)
(す、すまん!つい!!)
統夜たちは心の中でこのような会話を繰り広げていた。
(クククク……。律のやつ、欲張り過ぎたな。さて、ここからどうなるかな?)
イルバはカタカタと音を鳴らしながら心の中で笑っていた。
「そっかぁ……。やっぱりそんなもんかぁ。カビ生えてたもんね」
さわ子は律の言った金額を信じていたことに統夜たちは驚いていた。
そして……。
「それじゃあ、買取証明書をちょうだい」
さわ子のこの言葉にその場の空気が再び凍りついた。
「は……はひ!?」
「部費に計上しておくから当然でしょ?……まさかもらってこなかったの?」
「あ……いや……あの……」
律が買取証明書を出そうか迷ってる中、統夜も本当の事を言うべきか葛藤していた。
しかし……。
(……本当のことをあっさりバラしたら酷い目にあいそうだしな……)
統夜は先ほどの紬のドス黒いオーラを思い出し、身震いしていた。
律はこれ以上誤魔化すのは無理だと判断し、鞄から買取証明書を取り出した。
ドクン……ドクン……。
さわ子に買取証明書を渡そうとする律の鼓動は激しく高鳴り、手も震えていた。
このまま大人しく渡してしまえば買取金額を大幅にサバ読みしていたことがバレてしまう。
迷った末に律が取った行動とは……。
なんと、買取証明書を口に含み、食べることで証拠隠滅を計ろうとしていた。
「「「「「!!?」」」」」
律のまさかの行動にみんな驚くのだが、何故か統夜以外の4人はどこか嬉しそうな表情をしていた。
そして……。
「「「「食ーえ♪食ーえ♪食ーえ♪食ーえ♪」」」」
「アハハ……。何やってるんだか……」
『さすがの俺様もこれは予想外だぜ』
律の行動に唯、紬、澪、梓がエールを送っており、統夜とイルバは予想外過ぎたのか唖然としていた。
「何やってるのよ!早く出しなさい!」
「んあ(やだ)!!」
さわ子は律の頬をつねって紙を出そうとするが、律は抵抗していた。
紙を口に含んでいたので、「やだ」とは聞き取れなかった。
「……出しなさい!」
「!!!」
「「「「あ!!」」」」
「あーあ……」
『やれやれだぜ……』
さわ子は眼鏡を外すと、まるで「DEATH DEVIL」時代のような迫力で律を睨みつけていた。
この時点でこれ以上の抵抗は無意味と判断したのである。
統夜とイルバはようやくこの問題が解決すると思い、安堵しながらも呆れていた。
律は観念して口の中に含んだ買取証明書を吐き出した。
「先生……実はですね」
これ以上隠し通す必要はないと判断した統夜はさわ子のギターが60万で売れたことを、伝えた。
「嘘!?60万にもなったの!?凄いじゃない!!」
統夜から金額を聞いて、買取証明書の中身も確認したさわ子はまさかの値段に驚愕していた。
統夜以外の全員はその場で土下座をしていた。
統夜だけは正直に申告したということと、しっかりお金を預かっているということで、土下座を免れたのである。
「ご、ごめんなせぇ!隠すつもりはなかったんじゃが、あまりの金額の多さにオラ、気が動転してしまって」
律は何故金額を誤魔化したのかを正直に話していた。
「……心が汚いですね」
「昔からこうなんだ」
「お前らに言う資格ないだろ!?」
梓と澪のまさかの言葉に律は2人に反論していた。
「そうねぇ。それじゃあ、りっちゃんが言った1万円を部費として計上しておくから、その棚を買ったことにしておきなさい」
「えぇ!?それだけ!?」
「統夜君みたいに最初から正直に言えば全部あげたのになぁ♪」
「つか、統夜もギリギリまで黙ってたじゃねぇか!何でお前はそっちなんだよ!」
律は統夜だけ土下座を免れていることが不満だった。
「俺は早い段階で本当のことを言うつもりだったからな。まぁ、無言の圧力で黙らされたけど」
統夜は無言の圧力で黙らされたため、早い段階で本当のことを言えなかったと主張した。
「そう言うことよ♪あなたたちと違って嘘をつく気配はなかったしね」
「やっぱり統夜だけずりぃぞ!」
「そう言うならまず反省しろよ……」
「統夜の言う通りだぞ。変に隠そうとするから……」
「そうですよ。私はきちんと話した方がいいって……」
澪と梓はやはり最初の頃と言っていることが変わっていた。
「どの口が言う!」
「そうだよなぁ。澪、梓。それで、本音は?」
統夜はまるで誘導尋問のように澪と梓から本音を聞こうとしていた。
「「申し訳ありませんでした!!」」
澪と梓は再び土下座をし、最初から誤魔化せたらいいということを認めていた。
『やれやれ……。お前ら高校生のくせに金に汚すぎだぜ……』
事の一部始終を見守っていたイルバは、律たちの強欲っぷりに呆れ果てていた。
「さわちゃん!お願いがあります!その札束でほっぺを……ほっぺを殴って下さい!」
唯はさわ子に奇妙なことをお願いしていた。
さわ子はお願い通り札束で唯を軽くビンタすると、唯は満足そうにしていた。
『やれやれ……。ずいぶんと幸せな奴だな、お前さんは』
イルバは札束で殴られて満足そうにしている唯をジト目で見ていた。
最終的にさわ子は残った59万で何か1つだけ好きなものを買っていいと言ってくれた。
1つだからよく考えて決めてくれと注意したところで、この日の部活は終了した。
統夜は唯たちと何を買ってもらうかの話し合いに参加する予定だったが、番犬所から呼び出しが来た。
統夜は何を買うかは唯たちに任せることにして、唯たちと別れて番犬所へ向かった。
※※※
番犬所についた統夜は指令書を受け取ると、魔導火を用いて指令書を燃やし、内容を確認した。
「……わかりました。ただちにホラーを見つけて、殲滅します」
統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にして、イルバのナビゲーションを頼りにホラー捜索を始めた。
番犬所を出るとすでに外は暗くなっていたので、統夜は急いでホラーを見つけることにした。
しばらく街を歩いていると……。
『統夜!ホラーの気配だ!』
イルバがホラーの気配を探知した。
「……よし、行こう!」
統夜はイルバのナビゲーションを頼りに、ホラーのいる場所へと急行した。
統夜がホラーのいる現場に到着すると、ホラーはすでに実体化しており、40代前半くらいの男がホラーに喰われそうになっていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
統夜はホラーに突撃すると、跳び蹴りを放って、ホラーを吹き飛ばした。
「……早く逃げろ!」
「……ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
男は相当恐怖に支配されていたのか、統夜の呼びかけに返事をすることなく一目散に逃げ出した。
「さて……!」
統夜は魔戒剣を取り出すと、魔戒剣を抜いた。
『統夜!こいつは「ジェミトレ」。目に映るものは何でも喰っちまうとんでもないやつだぜ!』
「あぁ!わかった!」
統夜は魔戒剣を構えると、ジェミトレを睨みつけた。
『統夜!来るぞ!!』
ジェミトレは統夜に体当たりを仕掛けてきたので、統夜は大きくジャンプをして攻撃をかわした。
統夜はそのまま魔戒剣を振るうが、ジェミトレの体は固く、ジェミトレの体に傷をつけることが出来なかった。
「くっ……!けっこう固いな、こいつ」
統夜は後方にジャンプして、ジェミトレと距離を取った。
「こうなったら鎧を召還して一気に決着つけるか!」
統夜は鎧を召還し、ジェミトレを一気に倒そうと決意した。
統夜が魔戒剣を高く突き上げようとしたその時だった。
『統夜!何か来るぞ!!』
「え?」
イルバの言葉に統夜が困惑していると、何かが飛び出し、統夜とジェミトレの間に何者かが現れた。
その者は濃い紫の鎧を身に纏った騎士だった。
その手には大きな剣が握られていた。
「……!ま、まさか、魔戒騎士……?」
統夜は目の前の鎧を身に纏った者が魔戒騎士ではないかと予想していた。
「……堅陣騎士ガイア……参る」
紫の鎧から男の声が聞こえてきて、自らのことを「堅陣騎士ガイア」と名乗っていた。
『堅陣騎士ガイアだと!?』
「イルバ、知ってるのか?」
『あぁ。だが、こいつはこの番犬所の管轄の騎士ではないはずだぜ!』
「!そしたら何で……」
ガイアと名乗る男の目的がわからず、統夜は困惑していた。
困惑する統夜はお構いなしにガイアと名乗る男の持つ剣の切っ先に黄緑の魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態になった。
「……!これは……烈火炎装!?」
『ほぉ、どうやらこいつはそれなりの実力はあるようだ』
「はぁっ!!」
ガイアと名乗る男は、専用の剣……堅陣剣を一閃すると、ジェミトレの体を真っ二つにした。
ジェミトレは断末魔をあげると、その体は消滅した。
「………」
ジェミトレが消滅した後、静寂がその場の空気を包み込んでいた。
「お前は……一体……」
「お前がこの番犬所の魔戒騎士、月影統夜だな?」
ガイアと名乗る男は鎧を解除すると、統夜にこう問いかけていた。
「!何で俺の名前を!?」
「……」
統夜は男が自分の名前を知っていることに驚くが、何も語らず統夜の方を振り向いた。
すると……。
「……!!お、お前は……」
統夜は男の顔を見ると驚きのあまり絶句していた。
何故か統夜は目の前の男に見覚えがあったからである。
それは男も同様のようで、統夜の顔を見ると驚いていた。
そして……。
「……お前……。生きていたのか……。それに、お前が噂の白銀騎士とはな……“アカ”」
男は統夜のことを、修練場時代に呼ばれていた“アカ”と呼んでいた。
「お前も、生きてたんだな……。“クロ”」
統夜は男のことを“クロ”と呼んでいた。
クロは修練場最終日、ホラーヴィアル襲撃の時に、仲間を助けようとして死んだと思われていた。
しかし、統夜の目の前にいる男は少したくましい顔つきになっているものの、あの頃のクロの面影が残っていた。
こうして、アカこと統夜とクロは、再会をはたしたのである。
この再会は偶然か必然か?
それは誰にもわからなかった。
しかし、この2人の再会は新たなる戦いの序章であることを、統夜は知る由もなかった……。
……続く
__次回予告__
『まさかあの男が生きていたとはな。こいつはまさに運命の再会ってやつだぜ!次回、「堅陣」。ぶつかり合う2つの牙!』
新キャラとして登場した「堅陣騎士ガイア」の正体は、修練場時代に死んだと思われていたクロでした。
今作の11話を見てもらうとわかるのですが、クロがはっきりと死んだと描写をしなかったのは、再登場のフラグだったのです。
今回のホラーは、「牙狼 炎の刻印」第5話に登場し、ラファエロさんのガイアに倒されたホラーでした。
前半がコミカルだった分、後半のクロの登場は衝撃だったと思います。
ちなみに、ガイアの魔導火の色と、「堅陣剣」という剣の名前は僕が考えた設定なので、オリジナルのものではありませんのでご了承下さい。
次回はクロの本名と修練場の後の話が語られます。
そして、予告ではぶつかり合うとありますが、どうしてそうなったのか?
次回をお楽しみに!