第5話はMAKAISENKIの12話をリスペクトして作っているので似たシーンがあるかと思いますが、ご了承下さい。
それでは第5話をお楽しみ下さい!
……統夜が魔戒騎士とホラーについての秘密を話した日の夜、桜ヶ丘某所でとあるカップルが別れ話をしていた。
「……おい、いったいどういうことなんだよ!急に別れようだなんて……」
男は急に別れ話を切り出してきた女にこう詰め寄ってきた。
「もしかして……俺のことが嫌いになったのか?それとも……他に男が!?」
「それは違う!私は今でも修一のことが好き!!」
「だったら……だったらどうして別れなきゃいけないんだよ、美優!」
「駄目なのよ……。いくら好きでも駄目なものは駄目なのよ……!」
「……!まさか、親父さんの残した借金のせい……なのか?」
別れ話を切り出した女…美優は、3ヶ月前に父親が自殺していた。
父親は莫大な借金を抱えていた。
父親が自殺する前に母親は離婚して家を出てしまっているため、莫大な借金が美優に残ってしまった。
その借金元がヤクザ同然の闇金であり、美優の家に借金の取り立てが昼夜問わず訪れていた。
男…修一もその現場を目撃したことがあるので、彼も事情は知っていた。
「親父さんの借金だったら俺も一緒に返していく!だから!」
「駄目よ!私は今でもあなたのことを愛しているの!だからあなたを不幸にしたくないのっ!」
そう言い放って道路に飛び出すが、タイミングの悪いことに猛スピードの車が近づいていることに気が付かなかった。
「美優!!」
修一は迷わず道路に飛び出すと、車に轢かれそうになっていた美優を突き飛ばした。
そして……。
ガシャァァァン!!
その現場には爆音が響き渡り、車に轢かれた修一はかなり吹き飛ばされてしまった。
「しゅ……修一!!」
修一は全身を強く打ち、即死していても不思議ではなかったが、かすかに意識が残っていた。
「うっ……み、美優……」
美優は修一に駆け寄ろうとするが、車から出てくる男を見て美優は思わず息を飲んだ。
……美優の借金取りだからである。
「……おいコラ、何してくれてるんだよ!あぁ!?人の車をめちゃくちゃにしやがって!!」
「ご、ごめんなさい……」
「いい加減借りたもの返して欲しいんだがねぇ。これでまたてめぇの借金が増えたな!!」
「そ、そんな……」
「支払いが無理だって言うなら体で払ってもらうぜ!なんたっててめぇはエロい身体してっからな!ヤりたい奴なんていくらでもいるだろ!」
借金取りの男はそう言いながら美優の尻を触り、高笑いをしていた。
「あ、あいつが……!美優……を……!」
修一の命の炎は消えそうになっていたが、今の修一には死の恐怖はなく、目の前の借金取りに対する憎しみだった。
(死んで……たまるか……!何があっても…!俺は……!)
何があろうと生きたい。そう強く願ったその時だった。
__貴様、それほど生きたいのか……。
修一の脳内から謎の声が聞こえてきた。
(あぁ……。生きて、美優を苦しめるあいつらを殺せるなら……。この魂を悪魔にやったっていい……!)
修一は魂を悪魔にやったっていいとまで豪語してしまった。
__そうか……。ならば、我を受け入れよ!
事故によって壊れた車がゲートとなり、現れたホラーは黒い帯のような姿になると、修一の中に入っていった。
修一は弱っているため悲鳴をあげることはなかったが、ホラーに憑依されると、ゆっくりと立ち上がった。
「……!しゅ、修一……!?」
「嘘だろ!?てめぇ、あれで生きてるなんて!?」
美優だけではなく、修一を轢いた借金取りも驚きの声をあげていた。
すると修一はそのまま借金取りに近付くと、借金取りの胸ぐらをつかんだ。
「て、てめぇ!何しやがる!?」
借金取りは唐突な展開に抵抗することが出来なかった。
「貴様は美優を苦しめる……。だから、殺す!」
修一の体がおぞましい怪物へと変貌した。
「!しゅ、修一……?」
「ばっ!?化け物!?」
美優は愛する人がおぞましい怪物へと姿を変えたことに唖然とし、借金取りは身動きがとれず、恐怖が支配していた。
修一は借金取りにボディーブローを放った。
その力は常人のものではなく、借金取りの身体を貫いたのであった。
「……がぁ……あぁ……」
体を貫かれた借金取りの男はそのまま絶命したのだが、男の体は黒い粒子に姿を変えると、黒い粒子は修一の口の中に入っていった。
「……」
「あなた……。修一……なの……?」
美優は恐る恐る怪物に姿を変えた修一の顔を覗き込もうとするが、修一は美優の胸ぐらを掴んだ。
「!しゅ……修一……?どうして……?」
「まだだ。まだ足りない。貴様もいただくぞ!」
修一に憑依したホラーは美優までも喰らおうとした。
その時だった。
「……よ、よせ!!彼女は!彼女だけは喰らうな!!」
修一は美優を突き飛ばしてこう叫びだした。
すると、おぞましい怪物から元の修一の姿に戻っていた。
(き、貴様……!我が貴様を生かしてやったというのに……!黙って貴様の体をよこせ!!)
「黙れ!!この体は俺の物だ!!貴様の好き勝手にはさせない!!」
なんと修一は強靭な精神力でホラーの意識を乗っ取ってしまった。
本来ホラーに憑依された者は、そのままその精神もホラーに喰われてしまうのだが、修一の生への執着と愛する者を助けたいという気持ちは相当なものであった。
その気持ちの強さがホラーの意識を押さえ込んでしまった。
(そんなに人間を喰いたいなら好きなだけ食わしてやる!だけど、美優を喰らうことだけは許さん!!)
修一は美優以外の人間であれば食らっても良いと自分の中にいるホラーに告げた。
(良いだろう……。ただし、我との契約が破られたら貴様は死ぬ。それを忘れるな!!)
ホラーは餌を得るために修一の提案を受け入れたのであった。
「美優……。ごめんな、大丈夫か?」
「修一!?修一なのね!?」
「あぁ。俺はお前を遺して死ぬわけにはいかないからな!」
「修一!!」
「美優!!」
修一と美優は抱き合うとお互いの温もりを確かめ合っていた。
※※※
その頃統夜は夜の街を歩いていた。
軽音部のみんなに魔戒騎士やホラーの秘密を話した後はほとんどの時間がティータイムで終わってしまい、この日は解散となった。
解散した後番犬所に寄ったのだが、この日は指令がなかったので、夜の街を見回ることにした。
指令はなくてもホラーが出現する時があるので、統夜はホラーが現れてもすぐ討伐できるように見回りをしているのである。
繁華街の方を歩いていたその時だった。
「おい!!少し前に向こうの通りで事故があったらしいぞ!!」
「マジか!!ちょっと行ってみようぜ!!」
20代前半くらいの男二人組の話が聞こえてきたので統夜は足を止めた。
『……どうした、統夜?』
「いや、事故だなんて物騒だなと思ってな」
『おいおい。そんなものよりも物騒なものに関わっているのに何を言っているんだ』
「…それもそうか」
統夜が再び歩き出そうとしたその時だった。
『……統夜。どうやらその事故現場からホラーの気配を感じるぜ』
「…!したら行くしかないな」
イルバがホラーの気配を察知したので、統夜はその事故現場へ向かった。
事故現場に到着すると、そこは野次馬だらけだった。
今警察官が事故現場を実況見分していた。
(野次馬が多い……!これじゃホラーを探せないぞ)
統夜の周りは野次馬と警察官だらけであり、ホラーを探すのは困難であった。
しかし……。
《統夜。どうやらホラーは移動したようだ。それに、ホラーの気配が消えた。今日は恐らく人間を襲うことはないだろう》
(そうか……。そしたら明日の朝またここに来よう。この人混みじゃ邪気の浄化も出来ないからな……)
《そうだな。今日のところは撤収するとしよう》
この日は人混みのせいで何も出来ないと判断した統夜とイルバは家路についた。
※※※
翌日の朝、統夜は人混みの多かった交通事故現場からエレメントの浄化を開始した。
ホラーのゲートとなったのは車の破片だった。
破片は小さく、真っ暗だったので警察官が見つけることが出来ず、ゲートだけが無事に残っていたので統夜はすぐさま魔戒剣を抜いて邪気を浄化した。
事故現場の邪気の浄化を済ますと、その他のエレメントの浄化を行い、登校した。
そして放課後になり、この日も最後まで部活に参加してから番犬所へ向かった。
統夜はイレスに昨日ホラーが出現したことを報告したが、番犬所も現在そのホラーを捜索中とのことで指令はなかった。
この日もホラーを捜索したのだが、ホラーは見つからず、気が付けば3日も経っていた。
最後まで部活に参加した統夜は軽音部のみんなと同じ帰り道を歩いていた。
「……なぁ、統夜」
「……ん?どうした、律?」
律が急に足を止めて声をかけてきたので、統夜も足を止め、他のみんなも足を止めた。
「あれからずっと考えてたんだけどさ、あたしたち、何か統夜の力になれないかな?」
律はこう話を切り出したのだが、統夜は律の話に驚きながら少しだけ呆れていた。
「ホラー退治のことだったらお前らに出来ることは何もないぞ」
統夜は律たちがホラーとの戦いに首を突っ込まないようにハッキリと言い放った。
「うぅ……。確かにそうかもしれないけど、どうにか統夜の力になりたいんだよ」
『やめておけ、律。第一、お前さんはホラーと戦う力はないだろう?』
「イルバの言う通りだ。それに、戦う力のないものが首を突っ込んでも邪魔なだけだ」
統夜は冷たい言い方だと自覚しながらも、ホラーとの戦いに関わらないようにあえてきつい言葉を選んでいた。
「統夜先輩。今のはいくらなんでもひどすぎると思います!」
「そうだよ!りっちゃんがかわいそうだよ!」
梓と唯は統夜の言葉があまりに冷たいと感じたのか統夜に反論していた。
反論していない澪と紬もうんうんと頷きながら統夜を睨んでいた。
統夜は仕方なく、奥の手を使うことにした。
「はぁ……。確かに言い過ぎだったな。悪かったよ……」
統夜がここまであっさり謝ると思っていなかったので律たちは驚いていた。
「……どうしてもホラー退治についていきたいなら好きにすればいいさ」
『おい統夜!本気か!?』
統夜の言葉にイルバは反論するが、それを無視した統夜は魔法衣の懐から魔戒剣を取り出した。
「律、この剣を持ってみろ。これを持てたならホラー退治についていくことを許可するよ」
「え?それだけでいいのか?それくらい楽勝だって♪」
「ハハ、それはどうかな」
統夜は律に魔戒剣を渡した。
その瞬間……。
ズシン!!
「うおっ!?」
律は魔戒剣を持った瞬間持ったことのない重さに襲われ、魔戒剣を落としてしまった。
「「「「!!?」」」」
それを目の当たりにしていた律以外の4人は目を丸くしていた。
「な、なんだよこれ……。めちゃくちゃ重い……」
律は落とした魔戒剣を懸命に持ち上げようとするが、何度挑戦しても魔戒剣が持ち上がることはなかった。
「だ、だめだこりゃ……」
「りっちゃん。私に任せて!」
律がギブアップし、続いては力自慢の紬が魔戒剣を持ち上げるのに挑戦した。
しかし……。
「ふんすっ!うーん……!」
紬も渾身の力を込めて魔戒剣を持ち上げようとするが、紬でも魔戒剣を持ち上げることは出来なかった。
「力自慢のムギでもダメなんて……」
「そりゃそうさ」
統夜は律と紬が持ち上がれなかった魔戒剣を軽々と持ち上げた。
「何でやーくんはそんなに軽々とその剣を持てるの?」
「この剣はソウルメタルで出来てるからな。ソウルメタルは真に認められた者しか扱うことが出来ない金属なんだ。持ち手によっては鋼よりも重く、また羽毛のように軽くもなる」
『早い話、お嬢ちゃんたちにソウルメタルで出来ている剣は持ち上げることすら出来ないという訳だ』
さらに言うと、ソウルメタルは女性に扱うことが出来ない。
一部例外はあるのだが、その例外を行うのは危険が伴うと言われている。
「という訳でむやみにホラー退治に首は突っ込まないでくれよ」
ここまで言えば力になりたいとは言わないだろう。統夜はそう思っていた。
そんなやり取りをしているうちに番犬所の近くまでたどり着いた。
「それじゃ、悪いけど俺はここで」
「あれ?この前も統夜と別れたけど、この先は行き止まりだろう?」
「あぁ、そうなんだけど、この先には番犬所の入口があるんだ」
「「「「「番犬所?」」」」」
聞きなれない単語だったのか唯たちは首を傾げていた。
「まぁ、わかりやすく言えば魔戒騎士を総括する場所だな」
『統夜たち魔戒騎士はその番犬所から指令をもらってホラーを狩るという訳さ』
「「「「「へぇ……」」」」」
5人まとめて相槌をうっていたので統夜は思わず苦笑いをしていた。
「まぁ、そういうことだからまた明日な」
統夜はそれだけ言うと唯たちと別れ、そのまま番犬所へと向かった。
番犬所の中に入ると、統夜はイレスに挨拶をした。
「統夜……指令です」
「ということは例のホラーが見つかったのですね?」
「ええ。ですので討伐をお願いします」
統夜はイレスの付き人の秘書官から赤の指令書を受け取ると、それを魔導ライターで燃やした。
そして飛び出してきた指令とは……!
「男女の愛を隠れ蓑にして人を喰らうホラーあり。ただちに殲滅せよ」
というもので、統夜が指令を読むと魔戒語で書かれた文書は消滅した。
「男女の愛……ですか?」
「えぇ。憑依されたのが男なのか女なのかは不明ですが、すでに5人が行方不明になっています」
「5人も……ですか?」
統夜は自分がホラーを見付けるのが遅れたせいでここまで被害が広がってしまったのではないかと心の中で自分を責めていた。
「……統夜。自分を責めてはいけません。これ以上被害を出す前にホラーを殲滅するのです」
「そうですよね……。すいません、ありがとうございます」
統夜はイレスの言葉で気持ちを切り替え、ホラー討伐に集中することにした。
「統夜。犠牲になった5人ですが、共通点が見つかりました」
イレスは統夜にこう告げると、イレスの秘書官が統夜に一枚の写真を渡した。
統夜は写真を受け取り、その写真を見ると、そこには1人の女性が写っていた。
「彼女の名前は浅野美優。行方不明になった5人はその浅野美優の関係者のようです」
「関係者……ですか?」
「彼女は莫大の借金があったのですが、行方不明になった5人はその借金の金貸しだったそうです」
『なるほど……。その女がホラーって可能性が高そうだな』
「いや、男女って言ってたから男の方がホラーの可能性もある。だからとりあえず一度会ってみないと……」
統夜は浅野美優か男のどちらかがホラーであるだろうと確信していたため、浅野美優と接触することにした。
「頼みましたよ、統夜。……それはそうと、軽音部の少女たちに騎士の秘密を話したそうですね」
イレスは統夜が唯たちに騎士の秘密を話したかの確認をとっていた。
「申し訳ありません。以前現れたホラーに彼女たちが襲われ、これ以上秘密を隠し通すことが出来ませんでした……」
統夜は秘密を話したことは事実だったので、深々と頭を下げてイレスに謝罪した。
「責めているわけではありません。遅かれ早かれ彼女たちは騎士の秘密を知るだろうと私は予想していました」
イレスは軽音部の少女たちが統夜の秘密を知るのは時間の問題だということを予想していた。
「統夜。彼女たちは統夜に協力したいと話をしていましたか?」
「えぇ。俺の力になりたいと言っていましたが、ホラーとの戦いに彼女を巻き込むのは危険なので、その話は断りました」
「それは賢明な判断ですね。ですが、言葉だけで言いくるめては彼女たちは納得しないでしょう。私が許可します。一度彼女たちをホラー狩りに連れて行ってはどうですか?」
「なっ……!?イレス様、お言葉ですが、本気ですか!?」
イレスの唐突な提案に統夜は驚きを隠せなかった。
「今回のホラー討伐で彼女たちは魔戒騎士の現実を思い知るはずです。そうすれば彼女たちはホラーとの戦いに首をつっこむことはしなくなるでしょう」
イレスは軽音部の少女たちに魔戒騎士の現実を突き付け、ホラーとの戦いになるべく関わらないようにするために軽音部の少女たちをホラー狩りに連れていくことを一度だけ許可することにした。
「わかりました。今回のホラー討伐には彼女たちを同行させます」
番犬所を出た統夜はすぐさま唯たちに連絡をして事情を話すと、全員二つ返事でついて行くと答えたため、統夜は唯たちをホラー討伐に同行させることになった。
行きつけのファストフード店で待ち合わせをすると、ホラーを見つけるために行動を開始した。
※※※
その頃、浅野美優は、恋人である修一と共に、美優の家へ向かって歩いていた。
「……ねぇ、修一」
「ん?」
「私……。今、すごく幸せよ」
「あぁ、俺もだ」
修一はホラーに憑依されてから人間の捕食を続けていた。
そのターゲットは全員美優の借金取りだった。
借金取りを喰らうだけではなく事務所まで襲撃したため、美優の借金は有耶無耶になっていた。
修一は美優を苦しめる者すべてをホラーの餌にしていた。
しかし、修一は明日からの餌に悩んでいた。
美優を苦しめる者は全て消したので明日からは罪のない一般人を喰らわなければならない。
修一は美優のためにそれもやむなしと考えていた。
美優の家が近づいてきたその時だった。
「あの……すいません」
小柄でツインテールの少女……梓が美優に声をかけたので、美優と修一は足を止めた。
「あら、どうしたの?お嬢ちゃん?」
「ちょっとお二人に聞きたいことがありまして……」
「あら、何かしら?」
美優がこう答えると、美優の前に統夜が現れ、近くにいた唯たちも梓と合流した。
「な、何なの?あなたたちは!?」
統夜は何も言わず魔法衣の懐から魔導ライターを取り出すと、火をつけて美優の瞳を照らした。
しかし、美優の瞳には何の反応もなかった。
「おい、坊主。一体何がしたいんだ!?」
「……やっぱりあんたがホラーだったか」
統夜は魔導火を修一の瞳に照らすと、修一の瞳に不気味な文字のようなものが浮かんできた。
……修一がホラーであるという証しである。
「お前……。魔戒騎士か。いったい俺をどうしようっていうんだ?」
「決まってるだろ……」
こう言うと統夜は魔戒剣を取り出すと、抜いて構えた。
「……斬る」
そしてホラーである修一を切るために睨みつけていた。
「……!ヒッ!?」
美優はいきなり現れた少年が剣を抜いてきたので驚きと恐怖に心が支配されていた。
「あんたは下がってろ。俺が斬るのはそこの男だけだ」
統夜は鋭い瞳で冷酷にこう告げていた。
そして修一に斬りかかろうとしたその時だった。
「やめて!修一を殺さないで!」
「あんたの目の前にいるのはもう人間じゃない!!人間の姿をした化け物だ!」
統夜は修一を守ろうとしている美優を必死に説得した。
「私が悪いのよ!私が急に道路に飛び出したりしなければ、修一はあんな事にはならなかった!」
「あいつを斬らないとあんたの恋人の魂は救われない!そこをどいてくれ!」
「嫌よ!どんな姿になったって修一は修一よ!」
「「「「「………」」」」」
目の前で起こっている壮絶な展開に唯たちは言葉を失っていた。
「なぁ、魔戒騎士。俺はどうなってもいい。だけど、彼女だけは助けてやってくれ」
「ホラーのお前に言われなくてもそうするつもりだ」
「嫌だ!そんな事言わないでよ!修一!」
「美優…」
「あんた………。どうしても修一を殺すって言うなら私も殺して!」
美優は自分がどうなろうと修一を守ろうとしていた。
「……わかった……」
統夜は魔戒剣の矛先を修一ではなく、美優に向けた。
「統夜先輩!?本気ですか!?」
「梓、約束したハズだぞ。俺がやろうとしてることに口を出さないって」
統夜はファストフード店で唯たちと合流した時に自分がやろうとすることに口を出さないということを約束させていたのだ。
「でもっ……!」
「梓……」
澪が梓の肩に手を置き、何も言わずに頷いていた。
「澪先輩……」
梓はこれ以上何も反論することが出来なかった。
統夜は美優を斬るフリをして美優の鳩尾にボディーブローをお見舞いすると、美優を気絶させた。
「悪いけど……。俺たち魔戒騎士が斬れるのはホラーだけだから……」
美優が気絶する間際に統夜はボソッとこうつぶやいた。
統夜の言う通り、魔戒騎士は人を守りし者であるため、人間を斬ってはならないということが厳しく課せられている
それ故、魔戒騎士は自分がどのような状況であろうと人間を斬ることは許されていない。
「……みんな、彼女を頼む」
統夜は気絶している美優の介抱を唯たちに任せると、ホラーである修一と向かい合っていた。
「貴様……。この男はこの娘を本気で愛している。娘の悲痛な声を聞いただろう?貴様は本当に私を斬るつもりか」
ホラーが修一の意識を一時的に乗っ取ると、統夜にこう告げるが、統夜は全く耳を貸そうとはしなかった。
「それに、我と共にこの男が死ねばこの女はどうなるかわからない。貴様は人間の愛情まで断ち切るつもりなのか」
「……言いたいことはそれだけか?」
ホラーの話を聞き流した統夜はそのまま修一に斬りかかると、修一は統夜の魔戒剣による一閃をかわした。
「……美優を守るために貴様は始末しなきゃいけないな」
再び意識を乗っ取った修一は人間の姿からおぞましい怪物へと姿を変えた。
『統夜!あのホラーはヤシャウル!こいつは手強いホラーだぞ!油断するな!』
「ヤシャウルって確か以前零さんが封印したホラーだったよな?また出て来たのか!」
『どうやらそのようだ。だから油断するなよ!』
統夜と相対しているホラー「ヤシャウル」は、以前もとある母親の歪んだ愛に引き寄せられてその母親に憑依した。
しかし、銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零によって斬られたのだが、それから数年が経過しており、再び違う陰我をゲートに出現したのだ。
統夜は魔戒剣を一閃するが、それをヤシャウルに受け止められてしまう。
「っ……!」
ヤシャウルは統夜にボディーブローをお見舞いすると、統夜は痛みで顔を歪めていた。
統夜が痛みで怯む隙にヤシャウルは片手で統夜の首を掴みながら持ち上げた。
「…うっ……くっ……!」
統夜はどうにか脱出しようとするが、ヤシャウルの腕力は相当なものだった。
ヤシャウルはそのま統夜を投げ飛ばすと、統夜は近くに置いてあったベンチに叩きつけられ、その衝撃でベンチは真っ二つになっていた。
「「「統夜(君)!!」」」
「やーくん!!」
「統夜先輩!」
美優を介抱しながら遠くで統夜の戦いを見守っていた唯たちは押されている統夜を見て心配そうに声をあげていた。
ベンチに叩きつけられた統夜は全身に痛みが走っているものの、骨折などはなかった。
なのでフラフラになりながらも立ち上がった。
(……零さんからこのホラーの話は聞いたことあるけど……零さんは一体どんな気持ちであいつを斬ったんだろうか……)
統夜は以前このホラーを討伐した零のことを考えていた。
(非情になりきらないとこのホラーは倒せない。俺は……みんなを守るためにこんなところで死ぬ訳にはいかないんだ!)
ヤシャウルは統夜にとどめを刺すべく腕についている鋭利な刃で統夜を切り裂こうとするが、統夜は魔戒剣でヤシャウルの攻撃を防いだ。
「貴様っ……!」
「……はぁっ!!」
統夜はそのままヤシャウルの攻撃を弾き飛ばすと、続いて蹴りを放つとヤシャウルを吹き飛ばした。
「貴様の陰我……俺が断ち切る!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げると円を描いた。
円を描いた部分だけが違う空間に変化し、統夜はそこから放たれる光に包まれた。
そして統夜の体に次々と白銀の鎧が装着され、最終的には統夜の顔も狼の鎧に身をまとった。
統夜は白銀騎士奏狼の鎧を召還した。
統夜は奏狼の鎧を召還するなり、魔戒剣が変化した皇輝剣を一閃した。
その一撃はヤシャウルに少しダメージを与えた程度であった。
一撃を与えた統夜はヤシャウルと対峙していた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
統夜はヤシャウルの攻撃を防ぎながら2度、3度とヤシャウルを切り裂くが、ヤシャウルはまだ倒れなかった。
(さすがに手強いな……。こんだけ斬っても倒れないなんて……)
統夜はヤシャウルが予想以上に頑丈であることに少々焦りを感じていた。
『統夜!奴は確実に弱っている。時間も限られているんだ。一気に決めろ!』
「あぁ、そのつもりだ!」
統夜はヤシャウルにとどめを刺すべく皇輝剣を構えた。
※※※
統夜が奏狼の鎧を召還したちょうどその頃、統夜のボディーブローを受けて気絶していた美優であったが……。
「……う、うぅん……」
なんと目を覚ましてしまった。
「あっ、大丈夫ですか?」
梓が美優に声をかけるが、美優はボケっとしながらゆっくりと起き上がった。
「私は……いったい……」
状況が飲み込めず唖然としていたのだが、少し先からガチン!ガチン!と金属が擦れるような音が聞こえてきた。
美優は音が聞こえた方を見ると、奏狼の鎧を身にまとった統夜とヤシャウルに変貌した修一が戦っていた。
「……!し、修一!!」
今の状況に気付いた美優は修一の危機を感じて2人の戦っているところまで駆け寄ろうとしていた。
「ダメです!危ないですよ!!」
律と紬が2人がかりで美優を押さえつけると、彼女を戦いの場所へ行かないようにしていた。
「は、放して!じゃないと修一が!!」
美優は悲痛な声をあげながらジタバタとしていた。
ちょうどその頃、統夜はヤシャウルにとどめを刺すべく皇輝剣を構えていた。
「……貴様の歪んだ愛情と陰我……俺が断ち切る!」
統夜がヤシャウルに斬りかかるより早くヤシャウルも統夜に斬りかかるが、統夜はヤシャウルの攻撃をかわした。
そして……。
「……はぁっ!!」
統夜は皇輝剣を一閃すると、ヤシャウルの体は真っ二つに切り裂かれた。
「がぁっ!!……み、美優……」
ヤシャウル……修一は消滅する間際に自分の愛する者の名前を呼び、消滅していった。
「……」
ヤシャウルを討滅した統夜はすぐ鎧を解除したのだが、悲痛な表情で元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。
「あぁ……あぁ……!」
ホラーが消えたことを見届けた律と紬は押さえつけていた美優を解放すると、美優はその場にへたり込んでいた。
統夜はゆっくりと美優に歩み寄るが、愛する人を失って悲しむ美優を見てなんて声をかけていいのかわからなかった。
美優はそんな統夜を睨みつけていた。
「どうして……」
「えっ?」
「どうしてあの人を斬ったの!?なんであの人が死ななきゃならなかったの!?」
「あれはもう人間じゃない。ホラーに憑依された時点で、もう人としては死んでいるんだ」
それに、ホラーを放っておけば、被害者が増えるだけである。
そう統夜は言いたかったが、どうしてもそれを言うことが出来なかった。
「どんな姿になっても修一は修一よ!!それなのに……!」
殺気立った瞳で統夜を睨みつける美優には憎しみの感情が支配していた。
「私はあなたを一生許さない……!この人殺し!!」
「!!!」
統夜は一番言われたくないことを言われ、拳を強く握りしめ、唇を噛んでいた。
「!あなた!!いい加減にしてください!!統夜先輩はあなたのためを思って……」
「いいんだ梓!!」
「っ!で、でも!」
「行くぞ」
統夜は美優を置き去りにした状態でその場を離れると、唯たちも慌てて統夜の後を追った。
1人残された美優は愛する人の名前を何度も呼びながら泣き叫んでいた。
※※※
ヤシャウルを討滅し、帰る途中であったが、統夜は口を開こうとしなかった。
『……おい、統夜』
それを見かねたイルバが統夜に声をかけると、統夜は足を止め、唯たちもそれに続いて足を運ん止めた。
『何をそこまで落ち込んでいる。お前さんはホラーを狩ってあの女を守ったんだ』
「そんなことはわかってる!だけど……俺は……」
『統夜。お前は誰かに感謝されるために魔戒騎士になった訳じゃないだろう!それに、あれくらいの恨み言を言われるのは良くあることじゃないか!』
イルバは統夜を励ますことはせず、事実だけを統夜に告げていた。
「そうだな……。あの人はこれからも俺を恨むことで未来の笑顔を守ることが出来たんだ……。だからこれで……」
「やーくん、本当にいいの?」
唯は真っ直ぐな瞳で統夜を見ていた。
「唯?」
「唯先輩の言う通りです!統夜先輩、無理はしないで下さい!」
「そうよ。……辛かったわよね……」
「……!」
唯、梓、紬の優しい言葉に統夜の瞳から涙が出てきたが、慌てて首を横に振って涙を払っていた。
「統夜。あたしたちの前だけは素直になれよ」
「そうだ。我慢しなくても……いいんだぞ……」
「!」
みんなの優しさに統夜の瞳からは涙が溢れていた。
「……うっ……くっ……!!」
統夜は泣き叫ぶことはせず、ただただ静かに涙を流していた。
唯たちは優しく統夜の肩に手を置いたり頭を撫でるなどをして静かに涙を流す統夜を励ましていた。
魔戒騎士とホラーとの戦いの現実を思い知った唯たちは、魔戒騎士の戦いにはなるべく関わらないようにしようと心に決めたのであった。
……続く。
__次回予告__
『魔戒騎士というのは統夜1人ではない。統夜以上の魔戒騎士はたくさんいるんだぜ!次回、「銀牙」。月夜に輝く白銀の双牙』
ヤシャウルが出て来ました!
MAKAISENKIの12話は鬱回だとは思いますが、個人的には好きな話なんですよね。
原作ではヤシャウルに憑かれたのは女性でしたが、今回憑かれたのは男性でした。
次回予告を見たら察することが出来ると思いますが、次回は原作からあの人が登場します。
ですので、次回も楽しみにして下さい。