牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第41話になります。

今回から新章に突入します。

新章は「魔導人機襲来編」となっています。

統夜は高校3年生となり、けいおん!!2期の話になっております。

話は変わりますが、牙狼のHDリマスターのオーディオコメンタリーは完全にお祭りみたいな感じでとても良かったです。

HDリマスターなだけあってすごく綺麗になってましたし。

それでは、第41話をどうぞ!





魔導人機襲来編
第41話 「高三」


寒かった冬が終わりを告げ、春がやってきた。

 

統夜はその間も学校に行きながら魔戒騎士としての務めを果たしていた。

 

春休みも終わりを告げ、この日は新学期の始業式であった。

 

始業式だろうと統夜の務めが変わることはなく、統夜は朝の日課であるエレメントの浄化を行っていた。

 

『統夜。お前さんも高3になるんだな』

 

「あぁ、何かあっという間だったけどな」

 

統夜はイレスの薦めでこの桜ヶ丘高校に入ったのだが、気が付けば2年が経ち、今日から高校3年生になるのである。

 

「だけど、俺のやるべき事は変わらない。魔戒騎士としてホラーを狩って人を守るってことはな」

 

『あぁ、そうだな』

 

「さて、クラス分けも気になるし、そろそろ行こうか」

 

この日のノルマを終わらせた統夜は、そのまま学校へと向かった。

 

学校へと続く道を歩いていると、木々は満開の桜に覆われており、散りゆく花びらがとても風情のあるものだった。

 

統夜は春を感じながら学校へ向かっていた。

 

学校に到着した統夜はまずクラス分けを見に行った。

 

統夜はすでに出来ている人混みをくぐり抜け、クラス分けの一覧を見ていた。

 

3年2組の欄を見ていると、自分の名前を発見したのだが……。

 

「……!こ、これは……!」

 

統夜は偶然とある事実を発見し、驚愕していた。

 

《ほぉ、これはずいぶんと面白いことになっているじゃないか》

 

イルバもこの事実に驚きながら、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

統夜は自分のクラスを確認したところで、人混みを抜けるのだが……。

 

「……あれ?統夜?」

 

澪が偶然統夜を発見し、統夜に声をかけた。

 

律、紬、唯も一緒のようだった。

 

「あ、みんな。おはよう」

 

「統夜、遅かったな。さっきまでみんなで朝練してたんだぞ」

 

朝練が始まったのは、唯がたまたま早く登校し、練習している音を律たちが聞いて、音楽準備室を訪れたところから始まったのである。

 

「悪い悪い。いつもの日課をこなしてから登校したからさ」

 

統夜は魔戒騎士という単語を出すわけにはいかなかったので、いつもの日課という言葉で誤魔化していた。

 

しかし、統夜の事情を知っている唯たちはその日課が何なのかすぐに理解していた。

 

「統夜君、今日もお疲れ様です♪」

 

「あぁ、ありがとな」

 

統夜が優しい表情で微笑むと、それを見た紬は頬を赤らめていた。

 

「ねぇねぇ、さっきあそこから出てきたってことはクラス分けを見てきたの?」

 

「あぁ、みんなの分もちゃんと確認してきたぞ」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

唯たちは統夜が抜け目なく唯たちのクラスも確認していたことに驚いていた。

 

「それで、私たちのクラスはどうなったの?」

 

「もしかして……澪ちゅわんだけ違うクラスだったりするのかぁ?」

 

「そ、それはないだろ!」

 

律がニヤニヤしながら澪をからかうと、澪はムキになって反論していた。

 

「残念ながらそうじゃないんだな。……俺たち、みんな同じクラスだったぞ」

 

「……へ?今何と?」

 

統夜からの思いがけない言葉に唯たちはポカーンとしていた。

 

「だから、俺たちは一緒のクラスなんだって。俺もびっくりしてるけどな」

 

「え!?私たち、本当に一緒のクラスなの!?」

 

あまりの嬉しさに紬が統夜に詰め寄っていた。

 

「だ、だから最初からそう言ってるだろ……」

 

統夜は紬の勢いに思わずたじろいでしまった。

 

それはともかくとして、みんなが同じクラスだとわかり、唯たちは笑みを浮かべていた。

 

「ねぇねぇ!さっそく教室に行こうよ!」

 

「そうだな、行こうぜ。あ、ちなみに俺たちのクラスは3年2組な」

 

こうして統夜たちは自分たちのクラスである3年2組の教室へと向かった。

 

教室の中に入ると、すでにほとんどの生徒が登校しており、あちこちから話し声が聞こえてきた。

 

統夜たちは一度自分たちの席に座るために散らばり、統夜も自分の席に腰をおろした。

 

すると……。

 

「お、月影君、また同じクラスだね!」

 

統夜に声をかけてきたのは、2年生の時に同じクラスで、隣の席だった立花姫子だった。

 

「あ、立花さん。確かにまた同じクラスだな」

 

「今回は、軽音部のみんなも同じクラスなんだね」

 

「あぁ、この1年は騒がしくなりそうだけどな」

 

「アハハ、これからもよろしくね!」

 

「あぁ」

 

統夜と姫子はこのような挨拶をかわしていた。

 

姫子と話をしてしばらくすると……。

 

「あ、月影君だ」

 

統夜に声をかけてきたのは、2年生の時に同じクラスだった若王子いちごだった。

 

「おう、若王子さん。また一緒のクラスになったな」

 

「……うん」

 

「騒がしくなりそうだけどさ、この1年もよろしくな」

 

「……よろしく」

 

統夜と挨拶をしたいちごはそのまま自分の席に戻っていった。

 

それから統夜はすでに集まって話をしている唯たちのもとへ行こうとするが、2年生の時に同じクラスだった子は他にもいて、その子たちが統夜に声をかけてきた。

 

それで統夜は挨拶をしていたのだが……。

 

《……おい、統夜。唯たちが恨めしそうにこっちを見てるぜ》

 

(あぁ、嫌な気配を何となく感じたよ)

 

統夜と自分たち以外の女の子が話をしているのが面白くなかったのか、嫉妬の目で統夜たちを見ていた。

 

ちなみに和も同じクラスなのだが、その様子を見て苦笑いをしていた。

 

統夜も唯たちの嫉妬の目に苦笑いをしながらクラスメイトたちと交流をしていた。

 

《それにしても、まるで誰かに仕組まれたみたいに全員揃ったな》

 

(あぁ、偶然だと思いたいけど、流石に出来過ぎだよな)

 

クラスメイトたちとの会話が終わると、統夜はイルバとテレパシーでこのクラス分けについて話をしていた。

 

《まったくだ。こんなことが出来るやつなど……》

 

いない。イルバがこう言い切る前に教室のドアが開いて、1人の女性教師が入ってきた。

 

すると……。

 

(《いたぁぁぁぁぁ!!!》)

 

統夜とイルバは教室に入ってきた女性教師を見て驚愕していた。

 

それと同時にこの人ならこんなクラス分けもやれるだろうと判断した。

 

それは唯たちも同じことを考えており、統夜とイルバのように驚いていた。

 

統夜たちが驚いている間に他のクラスメイトたちは席につき、SHRが始まった。

 

始まってすぐ、先生の紹介が始まったのだが、その先生とは……。

 

「山中さわ子です。教師になって初めて担任を受け持つので至らぬ点はあるとは思いますが、よろしくお願いしますね」

 

さわ子は統夜たち軽音部の顧問をしている。

 

今は完全におしとやかで優しい教師を演じているが、実際の素顔はそれとは間逆な傍若無人なところがある。

 

衣装作りが趣味で、統夜たちは度々さわ子お手製の衣装を着せられたりと色々振り回されているのである。

 

統夜たちはさわ子の本性を知っているが、他の生徒はさわ子がそんな性格とはつゆ知らず、おしとやかで優しい先生という印象を持っていた。

 

《あ、あの女……。完全にキャラを作っていやがる……》

 

(あぁ、みんな先生の上辺に完全に騙されてるよな……)

 

統夜とイルバはさわ子のいつもとは違うキャラに苦笑いをしていた。

 

それを知っている律はクラスメイトにそのことを耳打ちしようとしていたのだが……。

 

「田井中さん!」

 

「は、はい!」

 

律はさわ子に呼ばれると、立ち上がった。

 

「私語は謹んでくださいね♪」

 

言い方は優しいが、そのオーラから、「余計なことを言ったら殺す」という言葉が伝わってきた。

 

「は、はい……。すびばぜん……」

 

律は涙目になりながら自分の席に座った。

 

《律のやつ、明らかに口封じされたな》

 

(まったく……。あの人は1年間あのキャラで通すつもりか?)

 

《やれやれ……。どれくらいもつかな?》

 

統夜とイルバはテレパシーで会話をしていたのだが……。

 

「月影君!」

 

「は、はい!」

 

「今はHRだから……。その指輪は外してくださいね♪」

 

律の時同様、言い方は優しいが、そのオーラから、「余計なことを言ったら殺す」という言葉と「今すぐそいつを黙らせろ」という言葉が伝わってきた。

 

さわ子は何故だか統夜とイルバがテレパシーか何かで話をしていると感じ取ったのである。

 

「……す、すいやせーん……」

 

統夜はすぐさまイルバを外すと、制服のポケットの中に入れた。

 

(イルバ、少しの間、勘弁な)

 

《やれやれ……仕方ないな……》

 

イルバは渋々ポケットの中で大人しくしていることにした。

 

そしてSHRは終わり、この後は始業式が始まるのだが……。

 

「せんせーい!」

 

律が教室を出て階段を降りようとするさわ子を引き止めた。

 

統夜、唯、澪、紬、和も一緒だった。

 

「聞きたいことがあるんですけどー」

 

律がこう言うと統夜たちはさわ子に駆け寄った。

 

「クラス分けだけど……さわちゃん何かしたの?」

 

律はいきなり核心を突こうとしていた。

 

「そうよ、みんな同じクラスにしてあげたの」

 

『おいおい、いいのかよ。それは職権乱用じゃないのか?』

 

「何よぉ〜、嬉しくないの?」

 

イルバに指摘され、さわ子はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「い、いえ。嬉しいは嬉しいんですけど……」

 

澪は嬉しいながらも複雑そうにしていた。

 

自分たちが仲が良いため、わざわざこのようなクラスにしてくれたと思うと申し訳ないからである。

 

「私も名前覚えなきゃいけない子が減るし♪」

 

さわ子がこのようなクラス分けにしたのは、このような理由からだった。

 

「アハハ……そこですか……」

 

『おいおい、お前さんのその理由は不純すぎるぞ……』

 

さわ子が語った理由に統夜とイルバは呆れていた。

 

「私は凄く嬉しいよ!ありがとう、さわちゃん♪」

 

唯はさわ子のことを「さわちゃん先生」と呼んでいたが、いつの間にかさわ子のことを「さわちゃん」と呼ぶようになっていた。

 

「ウフフ♪どういたしまして♪」

 

「唯、お前は少し落ち着けよ」

 

興奮気味な唯を律がなだめようとしていた。

 

「だって、高校最後の年にみんな同じクラスなんだよ!」

 

唯は軽音部のみんなや和と同じクラスになったことが嬉しいようだった。

 

「一緒なのも嬉しいけど、進路とかも考えないと……」

 

澪が進路の話をすると、統夜以外の全員が暗い表情になっていた。

 

統夜は学校を卒業した後も魔戒騎士として生活していくが、他のみんなはそれぞれの進路を考えなきゃいけないからである。

 

(そっか……。みんな、これから進路のことを考えなきゃいけないんだな)

 

《まぁ、お前は魔戒騎士だから進路は決まってるからな》

 

(そうだよな……)

 

ここで、統夜は自分と唯たちとは住んでいる世界が違うことを実感し、暗い表情になっていた。

 

《おいおい、お前まで暗くなってどうする!》

 

イルバは暗い表情になった統夜をなだめていた。

 

「でもね!修学旅行も一緒だし、学園祭のクラス発表も一緒だし、テスト勉強見てもらえるし、宿題写させてもらえるし♪」

 

唯が暗い空気を吹き飛ばすようなことを言うのだが、後半言っていることは少しずれたものだった。

 

『おいおい、唯。特に最後のはおかしいんじゃないのか?』

 

イルバもすかさずツッコミを入れていた。

 

「ワックワクだね、3年生♪」

 

唯はイルバのツッコミをスルーしていた。

 

「ほら、始業式始まるわよ。早く講堂に行きなさい」

 

『はーい!』

 

さわ子に講堂に行くよう促され、統夜たちは一斉に返事をすると、そのまま講堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

始業式も終わり、放課後となった。

 

統夜はこの日も部活に参加し、音楽準備室はすでに全員集合し、お茶の準備も整っていた。

 

「……あたしさ、春休み中に何度も部室に来たくなったよ!」

 

「私もです!」

 

春休み中は毎日部活があった訳ではなく、統夜たちがこうして部室に集まったのは久しぶりであった。

 

「ようし!新学期だからやることは?」

 

「あっ!新入ぶいn……」

 

「ムギのケーキをたーべる!」

 

律がこう答えると、梓はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「アハハ……嘘うそ、お約束お約束♪」

 

「もぉ……真面目にやってくださいよ!」

 

「そうだよ、りっちゃん。新入部員が入らないと来年はあずにゃん1人になっちゃうんだよ」

 

唯は珍しく真面目なことを言っていたのだが、その割にはのほほんとした態度だった。

 

『おいおい、お前さんにしてはもっともな意見だが、そうだらけてたら説得力はないぜ?』

 

「アハハ……確かに……」

 

イルバが唯にツッコミを入れ、統夜は賛同しながら苦笑いをしていた。

 

「確かに……唯の言うことはもっともだよな」

 

「だけどさ、このままいけば確実に来年部長になれるぞ」

 

「……」

 

律の言葉を聞いた梓は何故かぼうっとしていた。

 

「……はっ!そんなのはどうでもいいんです!」

 

(考えた……)

 

(ちょっと考えた……)

 

(梓も案外満更ではなさそうだな)

 

自分が部長だということを梓がちょっと考えたと律、澪、統夜は予想していた。

 

「そ、それよりも早く部員の勧誘に行きましょう!」

 

(誤魔化した)

 

(焦って誤魔化した)

 

《やれやれ……。素直になればいいものを……》

 

(まぁまぁ、そう言ってやるなって、イルバ)

 

紬、唯、イルバは梓が話を誤魔化してることがわかっており、統夜はそんなイルバのツッコミをなだめていた。

 

「あ、そうだ!私、ビラ作って来たんだよねぇ!」

 

「「「「「嘘!?」」」」」

 

唯のまさかの発言に統夜たちは驚愕していた。

 

唯が部員を集めるための行動をしているとは思っていなかったからである。

 

「うちの憂の勧めでしてねぇ……エヘヘ……」

 

『やれやれ……。ほとんど憂が作ったんだろ?まぁ、そこは別にどうでもいいが』

 

「そうですね、とりあえずこのビラを配りに行きましょうよ!」

 

こうして、ビラを配りに行く流れになったのだが、統夜は何か胸騒ぎを覚えていた。

 

(まさかとは思うけど……。去年みたいにヘンテコな着ぐるみを着たりはしないよな?そうなると嫌だし……ここは退散しようか……)

 

統夜たちは1年前、新入部員を勧誘する時に何故か動物の着ぐるみを着て勧誘を行っていたのだが、統夜はそれを嫌々行っていた。

 

そのため、今年も同じようにやるのが嫌なので、ビラ配りは任せてどうにか退散しようとしていた。

 

しかし……。

 

「統夜……どこに行くんだ?」

 

「い、いや……。ちょっとトイレに……」

 

統夜はこう言って話を誤魔化そうとしていた。

 

トイレと言えば誤魔化せると思ったからである。

 

「統夜君……。トイレに行くフリをして逃げたりはしないわよねぇ?」

 

何故か統夜の狙いを見透かしていた紬がこう統夜を追求していた。

 

「うぐっ!あ、アハハ……ば、馬鹿だなぁ。そんなことある訳ないじゃないか……」

 

統夜はこう弁解するが、統夜の顔は冷や汗でびっしょりだった。

 

《おいおい……。それじゃその通りですと言ってるもんじゃないか》

 

イルバは統夜のバレバレな弁解に呆れていた。

 

それは紬もわかっていたようで……。

 

「じ〜……」

 

紬はジト目で統夜を睨みつけていた。

 

統夜を睨む紬からはドス黒いオーラが放たれていた。

 

それを恐れた統夜は……。

 

「……申し訳ございません……」

 

あっさりと逃げようとしたことを白状した。

 

「だ、だってよ!今年もまたあの着ぐるみを使うつもりだろ?俺はあれは嫌なんだよ!」

 

統夜は正直に逃げようとした理由を明かしていた。

 

「着ぐるみって、もしかして……」

 

何かを思い出した梓は苦笑いをしていた。

 

梓は軽音部に入る前、着ぐるみを着て勧誘する統夜たちを見てドン引きしたという過去があったからである。

 

「だって……普通にビラ配ってもインパクトないんだもん!」

 

『いやいや、そこは普通でいいんじゃないか?』

 

「そーだそーだ!」

 

イルバのツッコミに統夜は賛同していた。

 

「うーん……確かにそうかもな……」

 

イルバのツッコミに澪まで賛同しよいとしていた。

 

「おいおい、この勧誘はあたしら軽音部だけのアイデンティティだろ?だったらそこで勝負しないと!」

 

「アイデンティティ?」

 

律の言葉に唯は首を傾げるなか、律がどこからか着ぐるみを取り出し、ビラ配りの準備を始めた。

 

統夜はこの時点で、拒否権はないと判断し、観念していた。

 

「あ、統夜君。あなたには逃げようとした罰で、さわ子先生お手製の着ぐるみを着てもらうわね♪」

 

唯たちが着ている着ぐるみはほとんどが借り物なのだが、1つだけはさわ子手作りの着ぐるみだった。

 

紬は統夜にその衣装を着せようとしていた。

 

その衣装とは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「……屈辱だ……!」

 

統夜が着ているさわ子お手製の着ぐるみとは、何故か素体ホラーを着ぐるみっぽく可愛らしくデフォルメしたものだった。

 

実際の素体ホラーとは見た目も全然違うので、怖いというより逆に可愛いという印象の見た目であった。

 

しかし……。

 

『……魔戒騎士がホラーの着ぐるみを着るとは、これ以上の皮肉はないよな』

 

「……言うなよ、イルバ。それ、1番気にしてるんだから」

 

統夜は魔戒騎士でありながら素体ホラーの着ぐるみを着るという知っている人が見たらあまりに皮肉たっぷりな光景に、がっくりと肩を落としていた。

 

唯たちの着ぐるみは少し怖いのか不評だったのだが、統夜の着た素体ホラーの着ぐるみは意外にも可愛いと評価され、ビラを受け取ってくれる人がそこそこいたのである。

 

こうして統夜たちのビラ配りは終了したのだが……。

 

 

 

 

「……誰も来ないね……」

 

「統夜の着た着ぐるみは意外と好評だったけどな」

 

律は統夜の着た着ぐるみがここまでウケるとは思っていなかったので、驚いていた。

 

「そうね……。ここまでこの着ぐるみが好評とは思わなかったわ」

 

統夜にこの着ぐるみを着せた紬もまさかこのような結果になるとは思っていなかった。

 

「まぁ、魔戒騎士の俺から言わせれば屈辱でしかなかったけどな」

 

統夜はこんな着ぐるみを着せられたことを根に持っているのか、少しだけ不機嫌そうな表情をしていた。

 

「だけど、この着ぐるみ、可愛いよね♪」

 

「あぁ、本当は怖いホラーをここまで可愛くデフォルメ出来るなんて、さわちゃん凄いな!」

 

「あぁ、これならホラーを知らない人が見てもこれがホラーだってわからないよな」

 

「はい。自作の怪獣っぽいデザインですもんね!」

 

唯、律、澪、梓もこの素体ホラーの着ぐるみは高評価であり、パッと見も素体ホラーに見えないところも評価していた。

 

「それにしてもここまで部員が集まらないと来年は廃部だよなぁ」

 

律は部員が集まらないことを悲観してこのようなことを言った。

 

すると、澪は律の言葉を聞いて何かを考え始めていた。

 

そして……。

 

「ひっ!うわぁぁぁぁぁ!!梓、梓ぁ!」

 

澪は何故か涙目になりながらその場から逃走した。

 

「廃部なんて駄目っす!」

 

「自分もそう思いまっす!」

 

唯と紬は何故か「◯◯っす」とおかしい口調になっていた。

 

「「部長!」」

 

ここで唯と紬は部長である律を頼っていた。

 

「……そうだな……。部員が増えれば部費も増えるし……」

 

「ブヒブヒ♪」

 

唯は何故か豚の鳴き真似をしていた。

 

『おいおい、何でそこで豚の鳴き真似なんだよ……』

 

イルバが豚の鳴き真似をしていた唯に呆れていた。

 

そんな中……。

 

「よし、部員獲得大作戦を実行だぜぇ!」

 

「ブヒィ!!」

 

こうして部員を得るために律たちは動き始めようとしていたのだが……。

 

『……統夜、タイミングが良いのか悪いのか。番犬所から呼び出しだぜ』

 

絶妙なタイミングで番犬所から呼び出しが来てしまった。

 

「……おっと、だったら行かないとな」

 

統夜は面倒なことに巻き込まれることはないと安堵しながら、帰り支度を始めた。

 

「統夜先輩、お仕事ですか?」

 

「あぁ。恐らくは本物のホラーを狩ることになりそうだ」

 

着ぐるみのことを根に持っていた統夜は、少しだけ言葉に皮肉を込めていた。

 

しかし、それを梓たちは全く気にする素振りはなかった。

 

「統夜先輩……。気を付けてくださいね!」

 

「あぁ、俺は必ず戻る。だから、信じてくれ」

 

帰り支度を終えた統夜はこう言って梓たちを安心させると、そのまま音楽準備室を後にして、番犬所へと直行した。

 

 

 

 

 

「おっ、統夜。来ましたね」

 

「はい、イレス様」

 

統夜はイレスに挨拶をすると、狼の像の口の部分に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

魔戒剣の浄化を終えると、1つだけ出てきたホラーを封印した短剣をイレスの付き人の秘書官に渡し、魔戒剣を鞘に納めた。

 

「統夜、そういえば今日から3年生になったそうですね!」

 

「はい、そうです。唯たち軽音部のみんなとも同じクラスになりました」

 

「そうですか、それは良かったですね!」

 

『まぁ、その分騒がしいクラスにはなりそうだがな』

 

「クスッ……そうかもしれないですね」

 

イレスは唯たちと面識があるため、統夜のクラスが騒がしいクラスになるだろうと想像し、笑みを浮かべていた。

 

「あっ、そうそう。統夜、指令です」

 

イレスがこう宣言すると、イレスの付き人の秘書官が統夜に赤の指令書を渡してきた。

 

統夜はその指令書を受け取ると、魔法衣の懐から魔導ライターを取り出し、指令書を魔導火で燃やした。

 

すると、魔戒語で書かれた文章が浮かび上がってきた。

 

「……狂気の刃。その美しさに魅入られたホラーあり。ただちに殲滅せよ」

 

統夜が指令の内容を音読すると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

『……こいつは、ホラー「ヴェイケンナ」。実力はたいしたことはないが、自分を強いと勘違いしてるたちの悪い奴だぜ』

 

イルバは指令の内容からホラーの正体を推察していた。

 

『こいつは単純だからな。こいつが暴れまわった時にすぐに尻尾をつかめるだろ』

 

イルバはヴェイケンナをすぐ発見出来ると予想していた。

 

「ですが、被害は最小限に抑えなければいけません。統夜、ただちにホラーを見つけ出し、殲滅するのです」

 

「わかりました。ホラーを見つけ次第に討滅します」

 

統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にして、イルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

外が暗くなり、夜になった頃、桜ヶ丘某所にある公園で、数人のチンピラグループが1人の男にボコボコにされていた。

 

数人のチンピラは男に全く歯が立たず、その場で気を失っていた。

 

男は何かを探しているようであり、男は気を失っているチンピラたちから何かを物色していた。

 

そして……。

 

「グヘヘ……。やっぱ持ってるじゃねぇか!」

 

男は1人のチンピラが隠し持っていたナイフを手に取ると、それをじっと眺めて悦に浸っていた。

 

「ヘヘ……。やっぱりこの輝き……。刃物はやっぱり最高だぜ!これで俺はまた強くなったって訳だ!」

 

男は刃物が好きだという変わった男であり、端から見ても怪しいし危険だとわかる男だった。

 

目的の物を手に入れて撤収しようとしたその時だった。

 

「やれやれ……ちょっと待てよ」

 

「あぁん!?」

 

何者かに声をかけられ、男が振り向くと、赤いコートの少年……統夜が魔導ライターを手にし、魔導火を放っていた。

 

すると、男の瞳に不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

これは、この男がホラーであるという証である。

 

「……!て、てめぇ、魔戒騎士か!?」

 

「武器集めとは時代錯誤も甚だしいな。武蔵坊弁慶にでもなったつもりか?」

 

「う、うるせぇよ!」

 

「力尽くで人から武器を奪うなんて……。と、言いたいところだけど、こんな物騒な物を持ってる奴らだから、いいお灸になったかな?」

 

『そうだな、こいつらは気絶してるだけで生きてるしな』

 

統夜とイルバはチンピラたちが生きていることに安堵しながらも、ナイフを持ってるような悪い連中だったので、天罰は受けたかなと考えていた。

 

「……ま、お前がホラーであるならば斬るだけだ」

 

「てめぇ!やれるもんならやってみろ!」

 

男の目が真っ白になると、男は人間の姿からこの世のものとは思えない怪物へと姿を変えた。

 

『統夜!こいつがヴェイケンナだ!』

 

「なるほど、狂気の刃ねぇ……。いろいろ武器をぶらさげちゃって……」

 

ヴェイケンナの右手には巨大な斧を、左手には大剣を手にしており、その他にも様々な武器を装備していた。

 

「どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって……!もう、俺はあの頃とは違う!ヤクをやって粋がってた俺とは違うぜ!」

 

「なるほど、それがお前の陰我って訳か」

 

統夜は目の前の男が何故ホラーになったのかを理解した。

 

(……ここだと戦いづらいな……。相手と距離を取るか)

 

統夜は倒れているチンピラを巻き込む訳にはいかなったので、相手と距離を取るかのように後方に下がっていった。

 

「てめぇ!逃げるんじゃねぇ!」

 

ヴェイケンナは統夜が逃げようとしていると思い込み、統夜を追いかけていた。

 

「ようし、いい子だ……!」

 

統夜は安全そうな場所まで移動しながらヴェイケンナを誘導していた。

 

「へへ……!魔戒騎士、もう逃がさねぇぞ!」

 

ヴェイケンナは統夜を追い詰めたつもりでこう言うが、統夜はニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「……引っかかったな。やっぱりお前の頭は単純みたいだな」

 

「あぁん!?何がおかしいんだ!」

 

「あそこにいたら倒れてる人を巻き込むんでな。ここなら心置き無くお前を斬ることが出来る!」

 

統夜は魔戒剣を取り出すと、それを抜いた。

 

ヴェイケンナはその様子を凝視していた。

 

「そ、その青い柄の剣……てめぇ、まさか噂のソロとか言う奴か!」

 

「へぇ……だいぶ俺も有名人になったもんだな」

 

統夜は魔戒剣を構えると、ふふっと笑みを浮かべていた。

 

「そ、ソロだろうがなんだろうが関係ねぇ!てめぇをぶっ殺してその武器も奪ってやる!」

 

「……お前に出来るかな?」

 

統夜は一気に決着をつけるために魔戒剣を高く突き上げ、円を描こうとするが……。

 

「させるかよぉ!!」

 

その隙を突いたヴェイケンナは大剣を統夜に突き刺そうとするが、統夜は咄嗟にかわし、鎧の召還を妨害されてしまった。

 

その時、大剣の切っ先が統夜の頬に触れ、統夜の頬に軽い切り傷が出来ていた。

 

「鎧の召還はさせねぇぜ!てめぇが何度やろうとしても止めてやらぁ!そいつで円を描ききらないとてめぇは鎧を召還出来ねぇってことは知ってるんだぜ!」

 

ヴェイケンナの言う通り、魔戒騎士の鎧は魔戒剣を高く突き上げ、円を描くことで召還出来る。

 

逆に言えば、円を描ききらないよう妨害すれば、魔戒騎士は鎧の召還は出来ないのである。

 

『……ったく、脳筋のくせに物知りな奴だぜ……』

 

「全くだ。それに、鎧の召還中に攻撃を仕掛けてくるとは、外連味のわからん奴だな……」

 

統夜とイルバは鎧の召還を妨害されて焦ってはいなかったが、相手が鎧の召還方法を知っていたことに少しだけ驚いていた。

 

統夜に至っては、ヒーローで言うならば変身を妨害する相手に不満を抱いていた。

 

「鎧さえ召還させなきゃてめぇなんて怖かねぇ!ただの人間のガキだろうがよ!」

 

ヴェイケンナは統夜に鎧を召還さえさせなければ必ず勝てると踏んでいた。

 

統夜はその言葉にピクンと反応し、少しだけ不機嫌そうな表現になっていた。

 

「……言ってくれるじゃねぇか……」

 

不機嫌ではあるが、統夜は怒りで心を乱されている様子はなく、至って冷静だった。

 

そして……。

 

「お前がその気なら、鎧を使わないでお前を倒してやんよ!」

 

統夜がまさかの発言をすると、その場の空気は凍りついていた。

 

「なっ……!?」

 

『おいおい……』

 

統夜のまさかのナメプ宣言にヴェイケンナは絶句し、イルバは呆れていた。

 

鎧の召還の妨害など簡単に見切ることは出来たのだが、統夜は少しだけムキになり、鎧なしで相手を叩きのめすつもりでいた。

 

自分が馬鹿にされているとわかった瞬間、ヴェイケンナの中で何が切れてしまった。

 

「なめやがってぇ!死にやがれ!!」

 

統夜の余裕な態度に激昂したヴェイケンナは力任せに巨大な斧を振るった。

 

しかし、統夜は何故か斧をかわす素振りを見せなかった。

 

統夜はふふっと笑みを浮かべたその時だった。

 

統夜はヴェイケンナよりも早く魔戒剣を一閃した。

 

その一撃で、ヴェイケンナが振るっていた巨大な斧が縦に真っ二つに斬り裂かれた。

 

「……!な、何……!?」

 

「武器が良くても振るう奴が三下じゃあ何も斬れないぜ」

 

統夜は斧を真っ二つに斬り裂くと、ヴェイケンナを苛立たせるためにドヤ顔をしていた。

 

「お、斧を真っ二つにしやがったぞ!しかも縦に真っ二つにしやがった!この野郎が!!」

 

ヴェイケンナは自慢の武器をあっさりと斬り裂かれてしまい、動揺していた。

 

「な、何の!こんなの偶然だ!こいつでぶっ殺してやらぁ!」

 

ヴェイケンナはもう片方の手に持っていた大剣を振るうが、それは統夜に軽々とかわされてしまった。

 

「おいおい、そんだけ立派なものをぶら下げてるのに、武器の使い方がなってないぞ!」

 

統夜は魔戒剣を2度、3度と振るうと、今度は大剣をバラバラに斬り裂いた。

 

今の一撃はヴェイケンナにダメージを与えることは出来たのだが、相手の戦意を削ぐためにあえて武器を壊していたのである。

 

「どうした?まさかもうネタ切れじゃないよな?」

 

「く……クソッタレがぁ!!」

 

ヴェイケンナは統夜を叩きのめすために、大量の剣を召還した。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……。へぇ、よくこんなに集めたもんだな」

 

「お、俺様は強い!強いんだよぉ!」

 

ヴェイケンナは大量の剣をまるでミサイルのように統夜めがけて放った。

 

「……」

 

統夜は魔戒剣と魔戒剣の鞘を用いて全ての剣を弾き飛ばした。

 

「馬鹿が!そいつは囮だぜ!死ねぇ!」

 

ヴェイケンナは隠し持っていた剣を統夜の心臓めがけて放った。

 

常人であれば対応できずに心臓を貫かれるだろうが、統夜の場合は……。

 

「……馬鹿はお前だ!」

 

統夜は奏狼の鎧を右腕のみを部分装着すると、ヴェイケンナが放った剣を弾き飛ばした。

 

「ば、馬鹿な!その右腕、鎧だと!?鎧はそいつで円を描かなきゃ召還出来ないんじゃねぇのか!?」

 

「こういう芸当も出来るのさ。ま、お前は知らなかっただろうがな」

 

統夜が鎧を部分装着した時、魔戒剣は皇輝剣に変化していた。

 

統夜はそのままヴェイケンナ目掛けて駆け出すと、皇輝剣を一閃し、ヴェイケンナを真っ二つにした。

 

「ホラーを封印するためには一応鎧の召還が必要なんでね。一部だけ召還させてもらったぜ。悪く思うなよ」

 

統夜は全身に鎧を纏うことも出来たのだが、鎧なしで戦うと決めた手前、あえて部分装着という選択肢を選んだのであった。

 

「つ、強すぎる……こんな……ガキが……」

 

統夜の圧倒的な力に絶望しながらヴェイケンナは消滅した。

 

「俺には守りたい人がいるんだ。これくらいは当然だぜ」

 

統夜は消えゆくヴェイケンナにこう宣言し、ヴェイケンナが消えゆく様を見ていた。

 

この時に右腕の部分装着を解除し、皇輝剣が元の魔戒剣に戻ると、統夜は魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

『……おい、統夜。いくらなんでも相手をなめ過ぎだったんじゃないのか?さっさと鎧を召還してればさっさと倒せただろうに』

 

「そうかもな。だけどこれは力試しさ。鎧なしでどこまで戦えるかってことをな。これからこんな場面も出てくるかもしれないしな」

 

統夜はこれからの戦いでヴェイケンナのように鎧の召還を妨害するような外連味のわからないホラーが出てくるかもしれないと予想していた。

 

その時、対処出来るように鎧なしの戦いを試していたのである。

 

『まぁ、それだけお前さんが強くなったってことか』

 

「イルバ、素直に褒めるとは珍しいな」

 

『俺様だって褒める時は褒めるんだぜ』

 

「なるほどね……。明日も学校だし、そろそろ帰るとするか」

 

『了解だ、統夜』

 

ホラー、ヴェイケンナを討滅した統夜は翌日の学校に備えて帰路についたのである。

 

こうして統夜の高校3年生初日は幕を閉じた。

 

この戦いは、これから始まる壮絶な戦いの序章であることを統夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『なかなか思い通りに部員が集まらないらしいな。お前ら、一体どんな勧誘をしているのやら……。次回、「勧誘」。新入部員は何人入るかな?』

 

 




3年生になり、統夜たちは全員同じクラスになりました。

そして今回、さわちゃんの凄い衣装part2が出てきました(笑)

魔戒法師の衣装を再現したさわちゃんは凄かったけど、素体ホラーを可愛くデフォルメした着ぐるみまで作るとか本当に凄い(笑)

今回戦ったホラーは漫画「牙狼 魔戒ノ花」に登場したヴェイケンナというホラーです。

統夜同様に漫画版で雷牙に最後以外鎧の召還なしで倒されたホラーでした。

統夜に至っては鎧の部分召還のみで倒してしまいました。

新章の1話にこのホラーを持ってきたのは、統夜がどれだけ強くなったかを表現したかったからです。

次回はけいおん!!2期1話の後編の話になります。

統夜たち軽音部に新入部員は入るのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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