牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第40話です!

おかげさまでこの小説も第40話まで到達しました。番外編を含むと40話は超えてますが(笑)

これからもこの小説をよろしくお願いします!

今回は予告通りバレンタイン回となっています。

それでは、第40話をどうぞ!





第40話 「甘味」

冬休みの後半。統夜は番犬所からとある指令を受けて東京に向かった。

 

そこで、統夜は助っ人として組んだアキトと共に大きな事件に巻き込まれた。

 

遥か昔に造られた人型魔導具「阿号」が復活したのである。

 

阿号は、自分を作った蒼炎法師の夢であるホラーのいない世界を作るためにホラー、グレゴルの力を使って人間の殲滅を目論んでいた。

 

統夜とアキトは阿号の野望を止めるために奮闘し、復活してしまったグレゴルをどうにか討滅したのである。

 

それからおよそ1ヶ月が経ち、バレンタインデーが近付いていた。

 

そんな中、統夜はいつものように部室である音楽準備室に向かったのだが……。

 

「……あれ?何だこりゃ?」

 

音楽準備室の扉に1枚の張り紙が貼ってあったのである。

 

「えっと……「ただいま会議中。男子の入室厳禁!」って、おいおい……」

 

何の会議かはわからないものの、男子は入るなという張り紙だった。

 

『ほぉ……なるほどな』

 

イルバは何故このような張り紙がしてあるのかおおよそ察しはついていた。

 

「……?イルバ、心当たりがあるのか?」

 

『まぁ、それはどうでもいいだろ』

 

「いやいやいや……気になるんだけど……」

 

『統夜、今日の部活は休みなんだ。とりあえず番犬所に行くぞ』

 

「……わかったよ」

 

統夜は渋々引き返すと、そのまま学校を後にして、1度番犬所に立ち寄ることにした。

 

 

 

 

統夜が門前払いをくらう中、音楽準備室の中では……。

 

「……これより、バレンタインの対策会議を始める!」

 

少し大袈裟な会議が律主催で行われていた。

 

「もうすぐバレンタインだもんねぇ♪楽しみだなぁ♪」

 

唯は間も無く訪れるバレンタインデーを心待ちにしていた。

 

「統夜にはこれでもか!ってくらい世話になったからなぁ。義理チョコの1つでもやらないとあいつが可哀想だしな」

 

「でもりっちゃん。今回はみんなそれぞれ手作りのチョコを作ってやーくんに渡すんだよねぇ?」

 

「まぁな。統夜のことだから義理と本命の区別はつかないだろうけど、手作りの方がいいだろ?」

 

「アハハ……確かにそうかもしれないですね……」

 

統夜の鈍感ぶりを思い出した梓は苦笑いをしていた。

 

「統夜君、喜んでくれるかしら?」

 

「あぁ、いくら統夜が鈍感でもチョコをもらえたら嬉しいもんだろ」

 

紬が少しだけ不安そうにしていたので、それを澪がフォローしていた。

 

「……」

 

梓は4人の顔をジッと見ながらいつぞやのイルバの言葉を思い出していた。

 

“俺様は知ってるんだからな。お前ら5人と憂のやつが統夜に惚れてるってことを……”

 

(……先輩たち、多分本命のチョコを渡すだろうから……やっぱり統夜先輩のこと、好きなのかな……)

 

梓はイルバの言葉を思い出してこのような不安を抱いていた。

 

自分だって本命のチョコを渡したいけど、それでいいのだろうか?

 

梓は葛藤していたのである。

 

「……?あずにゃん?どうしたの?」

 

「にゃ!?い、いや、何でもないですよ!」

 

梓は焦ってこう答えるが、律はニヤニヤしながら梓のことを見ていた。

 

「……?何ですか、律先輩?ニヤニヤして」

 

「梓さぁ、統夜のこと考えてたろ?」

 

「!?にゃ!?にゃに言ってるんですか!」

 

梓の顔は真っ赤になり、舌足らずな言葉がまるで猫っぽい感じになってしまった。

 

「あずにゃん、照れなくてもいいのに♪」

 

唯はニコニコしながら梓に抱きついていた。

 

「ゆ、唯先輩!抱きつかないで下さい!」

 

梓は恥ずかしさを誤魔化すために唯に対してこのような態度を取っていた。

 

「なぁ、梓ってさ、統夜のこと好きだろ?」

 

梓に話の核心を突いたのは意外にも澪だった。

 

「な!?わ、私は……」

 

梓は顔が真っ赤になりながらもどうにか話を誤魔化そうとするのだが……。

 

「あずにゃん、誤魔化さなくてもいいよ。実は私たちもやーくんのこと好きだから」

 

「え!?」

 

イルバから話は聞いていたが、本当にそうだとは思っていなかったので、梓は驚いていた。

 

「私たち、何度も統夜君に救われたでしょ?それで……ね……」

 

こう答える紬も恥ずかしそうにしていた。

 

「それで、私たち4人は話し合って決めたんだよ。いつになるかわからないけど、もしこの中の誰か統夜と付き合うことになっても文句は言いっこなしだって」

 

「誰が統夜とくっついてもいいようにそこら辺は公平にしないとな」

 

「……まぁ、統夜君、鈍いから。今のままだと誰ともくっつかないと思うのよね」

 

統夜は女性が絡むとあり得ないほど鈍感になるというのは良く知っているので、今のままでは誰とも付き合うことはないだろうと理解していた。

 

「あずにゃん、私、気付いてたよ。あずにゃんがやーくんのことが好きだって♪」

 

「へ!?そ、そうなんですか!?」

 

「梓ちゃん、凄くわかりやすかったわよ♪」

 

「あぁ。統夜があそこまでの朴念仁じゃなかったら普通は気付いてただろうな」

 

「……////」

 

自分が知らず知らずに統夜にアプローチをしていたと4人に悟られてしまい、梓は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

 

「まぁ、それは置いといて。統夜には感謝してもしきれないんだからそれは伝えたいよな」

 

「そうだな、統夜、喜んでくれるといいけどな」

 

こうしてバレンタイン会議はそれぞれどのようなチョコを作るのか相談し合い、幕を閉じた。

 

この会議の後、唯たちは統夜に送るチョコを作るために奔走するのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして、バレンタイン当日となった。

 

この日、統夜はいつもの日課であるエレメントの浄化を行っていた。

 

『……統夜、今日はバレンタインデーだな』

 

イルバがこう話を切り出したのは、この日のノルマを終わらせてすぐだった。

 

「まぁ、そうらしいな」

 

統夜はさほど興味がないのか淡々と歩き続けていた。

 

『統夜、お前さんは興味がないのか?そのバレンタインってやつに』

 

統夜がバレンタインをどう思っているのか知りたかったのか、イルバがこう訪ねてみた。

 

「バレンタインってあれだろ?チョコレートをただで貰えるっていうチョコ好きには嬉しいイベントだろ?」

 

『と、統夜。冗談だろ?』

 

統夜のバレンタイン観があまりにもずれていたので、イルバは思わず絶句していた。

 

「?イルバ、違うのか?」

 

『まぁな。それをリア充じゃない奴の前で言ってみろ?お前、ボコボコにされるぞ』

 

「よくわからないけど、違うってことか?」

 

統夜はバレンタインというイベントがどのようなイベントかわかっていなかった。

 

『わかりやすく言えば女の恋を後押しするイベントってところだぜ』

 

「?恋?」

 

『まぁ、今日1日過ごしていれば何となくわかると思うぜ』

 

「と、とりあえず学校に行くか」

 

統夜は訳がわからなかったが、朝の仕事のノルマを達成したので、とりあえず学校に向かうことにした。

 

街を歩くと男子も女子もどこかソワソワしており、何故このような事になっているのか統夜は理解出来なかった。

 

(そういえば統夜のやつ、バレンタインの度にこんなリアクションを取ってた気がするぜ……)

 

統夜のパートナーとして長いこと一緒に過ごしていたイルバは、その鈍感さ故に毎年のバレンタインはこのように首を傾げていた事を思い出していた。

 

(今年は少しでも意味を教えてやらないとな。唯たちが浮かばれないぜ)

 

イルバは今年こそ統夜にバレンタインとはこういうものだということを教えるつもりだった。

 

こうして統夜は学校に到着したのだが、異変はすぐに訪れた。

 

いつものように上履きに履き替えるために下駄箱を開けるのだが……。

 

「……?何だこりゃ?」

 

統夜の下駄箱の中に小さな包が入っていた。

 

イルバはこれがチョコであるということはすぐに察しがついていた。

 

『ほう、さっそく1つ目のチョコか。お前さんも隅に置けないな♪』

 

イルバは空振りに終わるとわかっていたが、このように統夜をからかった。

 

「チョコか。ほら、やっぱりただでチョコを貰える日じゃないかよ」

 

『お前なぁ……』

 

未だにバレンタインを勘違いしている統夜に、イルバは呆れていた。

 

統夜はとりあえずそれを鞄にしまうと、上履きを履いて教室に向かおうとしたのだが……。

 

「あっ、月影先輩来た!」

 

「あ、あの!月影先輩!おはようございます!」

 

2人の女子生徒が統夜を待っていたのか、見つけるなり挨拶をした。

 

「あ、ああ。おはよう」

 

統夜は制服のリボンを確認すると、梓と同じ赤のリボンだったので、1年生であるということはすぐにわかった。

 

「それで、俺に何か用事か?」

 

統夜は相手を怖がらせないようなるべく優しい口調でこう聞いた。

 

「あっ、あの……!」

 

2人組の1人である黒髪にポニーテールの女の子は顔を真っ赤にして、もじもじと恥ずかしがっていた。

 

「ほら、頑張って!」

 

ポニーテールの女の子の付き添いと思われる黒髪で長髪の女の子は、エールを送っていた。

 

統夜はこの光景を見て首を傾げていた。

 

(ほう、これはこれは。何か面白いことになりそうだぜ!)

 

イルバはイルバでこの状況を楽しんでニヤニヤしていた。

 

「月影先輩!こ、これ!」

 

ポニーテールの女の子が渡してきたのは、先ほどの包より大きい包だった。

 

「これを……俺に?」

 

「はい。あと、これを!」

 

ポニーテールの女の子は統夜にピンク色の便箋を渡した。

 

「?これは?」

 

「そ、それは、後で読んで下さい!それじゃあ!」

 

統夜にチョコと手紙を渡したポニーテールの女の子は逃げるようにその場から立ち去り、長髪の女の子がそれを追いかけていった。

 

「……?何だろう?」

 

統夜はまじまじとピンク色の便箋を眺めながら首を傾げていた。

 

『統夜、良かったじゃないか』

 

「?何がだよ!」

 

『まぁ、それは休み時間にでも読むといいぜ。あ、誰もいない場所でな』

 

「よくわからんが、イルバが言うならそうするよ」

 

統夜はチョコと手紙を鞄にしまい、教室へと向かった。

 

すると、教室の中は……。

 

「な、何だ?この甘ったるいオーラは……」

 

色恋に関しては鈍感な統夜もドン引きするくらい、教室が激甘な空気に包まれていた。

 

チョコの受け渡しが行われていたり、既に付き合っているカップルがこれ見よがしにいちゃついてたりとしていたからである。

 

《統夜。バレンタインとはこういうもんだぜ!》

 

(よ、よくわからないけど、わかった……)

 

統夜はこの甘い空気を感じてバレンタインとはチョコがただでもらえるイベントではないということだけは理解した。

 

統夜はとりあえず自分の席に座るものの、落ち着ける空気ではなかった。

 

「……おはよ、月影君」

 

「あぁ、おはよう立花さん」

 

統夜は隣の席である姫子に挨拶をした。

 

「何か凄い空気だよねぇ。バレンタインだからかな?」

 

「そうかもな。何かいつもと空気が違うから何か落ち着かないけど」

 

「月影君もチョコを心待ちにしているという訳か」

 

「べっ、別にそんなんじゃ……」

 

「隠さなくてもいいんだよ♪男の子ってそういうもんだろうし。まぁ、私はそういうの興味ないけどね」

 

どうやら姫子はバレンタインというイベントに興味はなく、誰かにあげるであろうチョコも用意はしていなかった。

 

姫子とこのような会話をしていると、始業のチャイムが鳴ったので、どうにか甘ったるい空気は収まったようだった。

 

こうして授業は始まり、休み時間になると、統夜は男子トイレに向かうと、大専用の個室に入り、手紙を取り出した。

 

「……んーと、何々……」

 

統夜は便箋の封を開け、中身を読み始めた。

 

 

“月影統夜先輩へ

 

いきなりこのようなお手紙すいませんでした。

 

あと、いきなりのチョコで困惑したかと思いますが、心を込めて一生懸命作りました。

 

味わって食べてもらえると嬉しいです。

 

月影先輩。私、先輩にお話したいことがあります。

 

今日の放課後、校舎裏で待っていますので、必ず来てください。

 

1年1組、日代玲奈”

 

 

手紙にはこのようなことを可愛らしい文字で書かれていた。

 

この、日代玲奈という女の子は、統夜に手紙を渡したポニーテールの女の子だということは察することが出来た。

 

「なぁ、イルバ、これって?」

 

『統夜、良かったな。こいつはどうやらラブレターのようだ』

 

「ラブレター?これが?」

 

『文面からしてそうだろう。統夜、断るならちゃんと断らないとな』

 

「わかってるよ」

 

統夜は手紙を制服のポケットにしまうと、そのまま個室を出て、そのまま教室へと戻っていった。

 

そして教室に戻ると、クラスメイトの女の子から義理チョコとはっきり言われたが、チョコを受け取った。

 

イルバはその様子を見ながらニヤニヤしていた。

 

そして昼休みになり、統夜は購買でパンを購入して教室に戻ろうとすると、憂と純に呼び止められた。

 

「統夜先輩、いきなりすいませんね」

 

「別にいいけど、どうしたんだ、2人とも?」

 

「統夜先輩、これ」

 

純は躊躇することなく、チョコと思われる包を統夜に渡した。

 

「統夜先輩ならたくさんもらってると思うけど、これはあたしからです!……義理ですけど」

 

そう言って純は苦笑いをしていた。

 

「と、統夜さん。私も……」

 

憂が統夜に手渡したのは、純のより少しだけ大きい包だった。

 

「私、初めて手作りしてみたんです。統夜さんには色々お世話になってますから……。食べてもらえると嬉しいです」

 

「あぁ、憂ちゃん、純ちゃん、ありがとな」

 

「「はい!」」

 

純と憂は統夜に一礼すると、自分の教室に向かっていった。

 

統夜も教室に戻ると、購買で買ったパンを頬張っていた。

 

ちょうど完食した頃合いに和がやってくると、和も統夜に義理チョコを渡していた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして放課後……。

 

統夜は手紙の返事をするために校舎裏に向かっていた。

 

校舎裏に到着すると……。

 

『統夜。例のお嬢ちゃんはもう来てるみたいだぜ』

 

統夜にチョコと手紙を渡した少女……日代玲奈は既に校舎裏におり、統夜を待っていた。

 

「ごめん、待ったかな?」

 

「い、いえ!私も今来たところですから!」

 

(……その台詞、デートではベタな台詞だよな……)

 

統夜と玲奈のやり取りにイルバは心の中でツッコミを入れていた。

 

「それで、手紙を読んだよ。俺に話があるんだろ?」

 

「はっ、はい……」

 

こう答える玲奈の表情は強張っていた。

 

「あっ、あの……私……」

 

玲奈はどうにか話を切り出そうとするが、勇気が出ないのか、なかなか話し出すことが出来なかった。

 

統夜はそれを悟ったのか何を言う訳ではなく玲奈の言葉を待っていた。

 

しばらく俯いていた玲奈であったが、覚悟を決めたのか目をカッ!と見開いた。

 

「わ、私!入学してからずっと月影先輩を見ていました!私、月影先輩のことが好きなんです!わ、私と付き合ってください!」

 

それは、統夜自身初めてとなる異性からの告白であった。

 

(おぉ、ついに言ったか!このお嬢ちゃん、唯たちでも出来なかったことをやりやがった!そこは評価出来るぜ!)

 

イルバは唯たちよりも先に玲奈が告白したことに驚き、この状況を楽しんでいた。

 

統夜は初めての告白に戸惑うものの、どう返事をするべきかじっくり考えていた。

 

そして……。

 

「……ごめん、君とは付き合えない」

 

統夜の返事に玲奈はハッとするが、それと同時にやっぱりかと言う気持ちもあった。

 

「俺さ、女の子から告白なんて初めてだったから嬉しかったよ。でもな、俺と関わったら君は必ず悲しませることになる。俺をそこまで想ってくれている人を悲しませたくないんだ」

 

統夜は真剣な眼差しで振った理由を語った。

 

統夜は人知れずホラーを狩る魔戒騎士である。今は楽しい高校生活を送っているが、自分はいつ命を落とすかわからない。

 

ホラーのことを何も知らない彼女に悲しい思いはさせたくない。

 

何よりも、魔戒騎士である自分に関わったことでホラーに襲われる可能性に統夜は恐怖していたのである。

 

「アハハ……。そう、ですよね……。私なんか、月影先輩とは釣り合わないですよね……」

 

玲奈は困ったような笑顔を統夜に向けながら体をプルプルと震わせていた。

 

玲奈は振られたショックで今にでも泣き出しそうだったのだが、どうにか強がっていたのである。

 

「……ごめんな、だけど、嬉しかったっていうのは本当だから」

 

「はいっ!ところで先輩は軽音部の中の誰かが好き……なんですよね?」

 

「へ?お、俺が?」

 

統夜はそんなことまったく意識していなかったのかポカンとしていた。

 

「私、先輩のこと見てましたし、軽音部のことも見てましたもん。わかりますよ」

 

こう玲奈に言われた瞬間、統夜は胸の高鳴りを感じていた。

 

(俺が……あいつらのこと……好き?)

 

玲奈の言葉に統夜が狼狽えていることはイルバはすぐにわかった。

 

(ほう……。あのお嬢ちゃんがいいきっかけを作ってくれたみたいだな。これからどうなることやら……)

 

イルバは統夜たち軽音部の関係に変化が起こるのではないかと予想していた。

 

「ご、ごめんなさい!私、先輩を困らせちゃいましたかね?」

 

「い、いや!そんなことはないよ!」

 

統夜はハッとすると、慌てて玲奈の言葉を弁解した。

 

「そ、それじゃあ私は行きますね!月影先輩。これからも軽音部、頑張ってくださいね!」

 

玲奈はこう言ってペコリと一礼すると、逃げるようにその場から立ち去った。

 

『……統夜。バレンタインがどんなものか。身をもって理解したか?』

 

「あぁ、驚いた……。だからこそこの日になると男も女もソワソワしてるって訳か」

 

『ま、そういうことだ』

 

「でもさ、義理チョコっていうシステムもあるんだろ?やっぱりバレンタインってチョコをただでもらえるっていう要素もあるんじゃないのか?」

 

統夜は未だにチョコがただでもらえるということから離れられなかった。

 

『おい、統夜!お前さんはいい加減その発想は忘れろ!』

 

イルバはそんな統夜にツッコミを入れていた。

 

「……まぁ、それは置いといて、部室に行こうか」

 

『置いといてって……。まぁ、いいだろう』

 

これ以上の問答が面倒になったのか、イルバは統夜の提案に賛同し、統夜は音楽準備室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

そして統夜は音楽準備室の中に入るのだが……。

 

「あっ、統夜。やっと来たな!」

 

「やーくん、遅いよぉ!」

 

律が第一声を発して、唯はぷぅっと頬を膨らませていた。

 

「わ、悪い悪い」

 

統夜は遅れたことを謝りながらも考え事をしていた。

 

(……俺、本当に唯たちが好きなのか?今までこんな気持ち感じなかったけど……)

 

統夜はこう考えながら頬を赤らめていた。

 

(いやいや!ダメだ!俺は魔戒騎士なんだ!そんな浮ついた考えは命取りだろ!)

 

統夜は頭をブンブンと振ると、そのような考えを払拭していた。

 

自分は魔戒騎士であるが故にこのようなことにうつつを抜かす訳にはいかない。

 

そんな気持ちが自分の隙となり、ホラーに命を奪われかねない。そんなことを考えていた。

 

「……?統夜先輩?」

 

「な、何でもない!」

 

統夜は慌てて学生鞄と魔法衣を長椅子に置いていた。

 

(統夜のやつ、動揺してるな。こんなことになるのは初めてだからな。まぁ、これがいい傾向になればいいのだが……)

 

イルバは心の中でこのようなことを考えていた。

 

統夜は鞄からイルバ専用のスタンドを取り出すと、それをテーブルの上に置いた。

 

梓は統夜がイルバ専用のスタンドを取り出す瞬間、鞄の中にチョコと思われる包が入っていることを見逃さなかった。

 

「統夜先輩、鞄の中に入ってるのってチョコですか?」

 

「あぁ、見えたのか。まぁ、ほとんどは義理チョコらしいけど、そうだよ」

 

「ふーん……そうなんだぁ……」

 

こう答えた唯は何故かドス黒いオーラを発していた。

 

それは律たちも同様であった。

 

『それだけじゃないぜ!統夜のやつな……』

 

「イルバ!余計なことは言うなよ!」

 

統夜はこう話を誤魔化し、自分の指にはめられたイルバを外すと、強引にスタンドにセットした。

 

『痛っ!おいおい、統夜。お前なぁ……』

 

統夜の慌てっぷりにイルバはジト目になっていた。

 

「統夜、私たちに何か隠してないか?」

 

「そこらへん、じっくり聞きたいわねぇ」

 

律と紬がドス黒いオーラを発しながらジリジリと統夜に迫っていた。

 

「……!わ、わかった!話す!話すから!」

 

ドス黒いオーラを放つ唯たちがあまりに怖かったのか、統夜はあっさりと告白されたことを話したのであった。

 

「……ふーん、統夜がねぇ……」

 

「やーくんって鈍感だからそういう話も聞き流しそうなのにねぇ……」

 

「あのなぁ……俺はそこまで鈍感じゃないぞ」

 

統夜は弁解するためにこう言ったのだが……。

 

「「「「「はぁ!!?」」」」」

 

それに5人が一斉に抗議していた。

 

「……すいません」

 

統夜は素直に謝ってしゅんとしていた。

 

「それにしても統夜、今年は随分とチョコをもらったんだな」

 

律は統夜に話を聞いた後に統夜の鞄を物色してこう言っていた。

 

「まぁ、和に純ちゃん。そして憂ちゃんの分もあるからな」

 

「あっ、そういえば昼休みに2人揃って出てったから、そうなのかなとは思ってました」

 

梓は憂と純が昼休みに出るところを目撃していたので、統夜にチョコを渡したのだろうと予想していた。

 

そう思えたのは、休み時間にチョコの話をしていたからである。

 

「いくら義理チョコとはいえ和が統夜にチョコを渡すとは思わなかったな」

 

「和ちゃん、真面目で義理堅いところがあるからねぇ」

 

幼なじみである唯は和のことをよく理解していた。

 

「さてと……なぁ、統夜」

 

「?何だ?」

 

何かをしようと話を切り出した律に統夜は首を傾げていた。

 

唯たちは一斉に机の下に隠していたチョコを取り出した。

 

「やーくん!これは私たちからだよ!」

 

「こ、これ……俺のために……?」

 

「当たり前ですよ!私たち、統夜先輩のために一生懸命作ったんですから!」

 

梓がこう言うと、唯たちの表情が優しくなっていた。

 

「みんな……ありがとな!俺、凄く嬉しいよ!

 

統夜は大切な仲間である唯たちからチョコをもらい、心の底から喜んでいた。

 

「……統夜君♪」

 

統夜の嬉しそうな顔を見た紬は満面の笑みを浮かべていた。

 

それは、唯たちも同様だった。

 

「……ほら、統夜。さっそく食べてくれよ!」

 

「あぁ、そうだな。いただくよ」

 

統夜は唯たちお手製のチョコたちを食べることにしたのである。

 

そこまでは良かったのだが……。

 

「はい、あーん……」

 

唯が自分の作ったチョコを統夜に食べさせようとしていた。

 

「ちょ、ちょっと……唯?」

 

唯の突然の行動に統夜は困惑していた。

 

「むー……。ダメ?」

 

唯は少しだけ頬を赤らめ、頬を膨らませ、こう言っていた。

 

「うぐっ……!」

 

今まで見たことのない唯の表情に統夜は動揺していた。

 

しかし、統夜は覚悟を決めたようで……。

 

「ほ、ほら……」

 

統夜は口を開き、唯は統夜の口にチョコを放り込んだ。

 

「んぐんぐ……。お、美味いな」

 

「本当!?」

 

統夜の美味しいという言葉を聞いた唯の表情はぱぁっと明るくなった。

 

「あー!唯ばっかりずりぃぞ!あたしもあたしも!」

 

続いて律があーん攻撃を仕掛けてきた。

 

統夜は何度もやるのは恥ずかしいと思っていたが……。

 

(えぇい!ままよ!)

 

統夜は勢いに任せて口を開き、先ほどのようにチョコが放り込まれた。

 

「……うん、これもなかなか」

 

「だろぉ?あたしの自信作だからな!」

 

律も統夜に褒められて満更でもなさそうだった。

 

「わ、私も……」

 

今度は澪が統夜にあーん攻撃を仕掛けてきた。

 

3度目となると、統夜は無心で口を開き、澪のチョコを味わった。

 

「……これも美味いな」

 

「本当!?」

 

澪も統夜に褒められて嬉しかったのか、ぱぁっと表情が明るくなった。

 

「それじゃあ私ね♪」

 

その次は紬が同様にあーん攻撃を仕掛けてきた。

 

統夜は口を開けて紬のチョコを堪能していた。

 

「お!これも美味い!」

 

「本当!?初めて手作りしたから嬉しいわぁ♪」

 

紬は統夜に褒められ、頬を赤らめながら微笑んでいた。

 

「そ、それじゃあ最後は私ですね……」

 

最後になった梓も先輩たち同様にあーん攻撃を仕掛けてきた。

 

統夜は口を開き、梓のチョコを堪能していた。

 

「うん、これも美味い!」

 

「本当ですか?良かったです!」

 

梓は統夜に美味しいと言ってもらえてホッとしていた。

 

こうして5人全員のあーん攻撃を受けた統夜は5人のチョコをゆっくりと堪能していた。

 

唯たちも自分で作ったチョコや他のメンバーが作ったチョコを食べ始め、チョコの食べ比べが始まった。

 

(……統夜のやつ、満更でもなさそうじゃないか。ここから統夜の恋愛が少しでも進むといいんだがな……)

 

イルバはみんなで楽しくチョコを食べる統夜を見て、統夜の恋愛が少しでも発展することを祈っていた。

 

この日は練習を行うことはなく、のんびりとした時間を過ごしていた。

 

この時間は、魔戒騎士である統夜にとってかけがえのないのんびりとした時間となったのであった。

 

 

 

 

 

……放課後ティータイム結成編・終

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『統夜もいよいよ3年生か。魔戒騎士としての生活もどうなることやら。次回、「高三」。新しい季節が幕を開けるぜ!』

 

 




バレンタイン?ナニソレ?オイシイノ?(遠い目)

今回は統夜のリア充ぶりかつモテっぷりが垣間見える回でした。

統夜が羨ましすぎる(笑)

まぁ、それはともかくとして、統夜が少しだけ唯たちのことを意識するようになり、今後統夜たちの関係がこの日をきっかけに変化するかもしれません。

今回で放課後ティータイム結成編は終了で、次回からは新章になります。

新章はけいおん!!2期の話も交えつつ話を進めていきます。

統夜と一緒に阿号およびグレゴルと戦ったアキトも登場させる予定です。

次回は少し話が飛んで、統夜は高校3年生になります。

新学期を迎える統夜たち軽音部の今後は一体どうなるのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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