今回で阿号編は完結となります。
統夜とアキトは阿号のしようとしていることを止めることは出来るのか?
それでは、第39話をどうぞ!
統夜と魔戒法師であるアキトは、合流すると、共に謎の気配を追っていた。
偶然訪れた遺跡で、統夜とアキトはとある男と遭遇した。
その男は人でもホラーでもない存在で、この遺跡を守護していた魔戒法師を皆殺しにして、強大な力を持ったホラー、グレゴルの腕を奪った。
統夜とアキトは男に戦いを挑むが、逃げられてしまった。
その後の調査で、この男は、遥か昔、魔導具作りの名人だった蒼炎という魔戒法師が作った人型魔導具「阿号」と呼ばれる者であると発覚した。
その目的もわからないまま、イルバが阿号の気配を見つけたので、2人は神田の街はずれにある今は使われていない廃ビルの屋上に到着した。
「……見つけた!」
統夜は廃ビルの屋上で佇む阿号の姿を発見した。
「……魔戒騎士と魔戒法師か」
阿号は統夜とアキトの姿をジッと見つめていた。
「……悪いが、俺の邪魔をするな。志はお前と同じだ」
「志って……お前の目的は一体何なんだ!?」
「俺の目的……俺の夢はホラーのいない世界が来ることだ」
「……なるほどな。それは俺もそんな世界を作りたいさ!」
阿号の語る夢にアキトは賛同していた。
「だったら……!どうしてホラーの腕を奪ったりするんだ!お前は人を滅ぼすつもりなのか!?」
「そうだ」
「「っ!?」」
「このグレゴルの腕はだいぶ力を蓄えてきている。このホラーを復活させ、大勢の人間を殺す」
統夜の問いかけに阿号が肯定するとは思っていなかったので、統夜とアキトは息を飲んだ。
「お前……ホラーのいない世界を作るんだろ!?だったら何でこんなこと!」
「だからこそだ。全てはホラーのいない世界を作るためだ」
「それが……お前の夢だって言うのか!?」
「そうだ。そして、これは俺を作ってくれた法師の夢でもある」
『おいおい、お前さんのやろうとしていることはずいぶんと身勝手じゃないのか?』
阿号の野望をイルバも否定していた。
「俺はホラーを狩り続けた。だが、それだけではダメだと気付いたんだ!」
「何だと……!?」
「俺が夢を実現し、真の守りし者になるためだ!」
「ふざけるな!」
統夜は魔戒剣を抜くと、阿号に向かっていった。
統夜は魔戒剣を一閃するが、やはり阿号の体に傷をつけることは出来なかった。
「統夜!」
アキトは魔戒銃と魔導筆を取り出すと、法術と銃を同時に放った。
しかし、その一撃はあっさりと防がれてしまい、阿号は左手から触手のようなものを放った。
その触手のようなものに薙ぎ払われたアキトは、その場から吹き飛ばされてしまった。
「!アキト!このぉ!」
統夜は魔戒剣を一閃しようとするが、その前に阿号が蹴りを放ち、統夜は吹き飛ばされてしまった。
すぐに大勢を整えた統夜は魔戒剣を構えて阿号を睨みつけた。
「貴様は……魔戒法師たちを殺し、多くの人を殺そうとしている……そんなお前は、守りし者ではない!そんなの、俺は絶対に認めない!」
「命懸けで守った人間はどうなる?病気で死ぬか不幸な死かそれぞれだ!ある者は同じ人間の手によって命が奪われていく!」
統夜は魔戒剣を振るうが、その攻撃は阿号に受け止められ、阿号はこのように語っていた。
「だけどな……!幸せな人生を送った人だってたくさんいるんだ!」
統夜は力任せに魔戒剣を振るおうとするが、阿号はそのまま統夜を投げ倒した。
「くっ……!」
統夜はすぐに立ち上がろうとするが、その前に阿号は統夜の体を踏みつけた。
「ぐぁっ!」
統夜はあまりの痛みに顔を歪めていた。
「統夜!」
アキトは魔戒銃を連射した。その一撃は阿号には効かなかったが、視線をアキトに向けるには十分だった。
一瞬の隙をついて統夜は魔戒剣を阿号の足に叩き込み、少しだけ足が浮いたところで脱出した。
「……くっ……!」
統夜は大勢を整えて、魔戒剣を構えた。
「……魔戒騎士。貴様に問おう。その幸せな人生を脅かす者は何だ?ホラーか!?」
阿号は右手から触手のようなものを統夜めがけて放つが、統夜は大きくジャンプをしてかわし、魔戒剣を振るうが、その前に触手のようなものに薙ぎ払われてしまった。
統夜はすぐに着地をして、大勢を整えた。
「……まぁ、それもあるだろう。だがな、大半は人間の邪心だ。人を苦しめているのは、己の邪心なのだ!」
「そんなことはない!」
統夜は魔戒剣を振るうが、すぐに阿号に捕まってしまった。
「本当にそう言い切れるのか?人間の心の邪心……陰我は消え去りはしない!」
「それでも……!そんな人の心だって……守るに値する光はある!」
「そう、光だ」
阿号はそのまま統夜を投げ飛ばした。
「統夜!」
アキトは吹き飛ばされた統夜をキャッチした。
「悪いな、アキト」
「気にするな」
2人は大勢を整えると、阿号を睨みつけた。
「……光があるから闇があるのだ。……断ち切るべきなのは陰我ではない。……人間の心だ!」
「何だと……!?」
阿号の発言に統夜の目がさらに鋭くなった。
「だからこそ……全ての人間を……殲滅するのだ!」
阿号の抱いている野望こそ、人間の邪心を消し去るために、グレゴルの力を使って全ての人間を滅ぼすというものだった。
「お前たちが俺の邪魔をするなら……お前たちから殲滅する!」
こう言い放った阿号は人間の姿から戦闘形態へと変化した。
統夜とアキトが初めて対峙した時とは異なり、両手に太刀が装着されていた。
「そんなことはさせない!……行くぞ、アキト!」
「あぁ!奴を止めようぜ、統夜!」
統夜は再び魔戒剣を一閃するが、阿号は片腕で防ぎ、もう片方の太刀が統夜に迫った。
「……っ!」
統夜は魔戒剣の鞘を用いてもう片方の太刀を防いだ。
「……ほう、やるな」
統夜はニヤリと笑みを浮かべると、蹴りを放って阿号を吹き飛ばした。
すかさずアキトが魔戒銃と法術を交互に放つが、阿号には効いていなかった。
統夜は魔戒剣と鞘をまるで二刀流のような形で構えた。
統夜はこの時、銀牙騎士絶狼の称号を持つ零の言葉を思い出していた。
ホラーと戦う時は機転の良さが危機を救うことがあると。
相手はホラーではないが、鞘を用いた二刀流という機転の良さが統夜の危機を救ったのは事実だった。
統夜は再び阿号に向かって魔戒剣を振るうが、阿号は片腕で防ぎ、再びもう片方の太刀で統夜を斬ろうとするが、統夜は再び鞘を用いて言葉を防いだ。
しばらくの間、統夜と阿号は壮絶な剣の打ち合いを行っていた。
度々飛び散る火花が、その激しさを物語っていた。
統夜は一度距離を取り、再び阿号に向かおうとするが、阿号は巨大な剣を呼び出した。
阿号は巨大な剣を振るい、統夜はそれをかわしていた。
何度かは何とかかわすが、何度も振るわれ、統夜はまともにかわすことが出来なかった。
「……くっ!」
統夜は魔戒剣と鞘を使って防御の姿勢になったが、このままでは危ないのは間違いなかった。
「……統夜!……こいつはとっておきだぜ!」
アキトは魔戒銃にある弾を装填すると、阿号の右足めがけてその弾を放った。
その弾が阿号の足に当たった瞬間、弾丸が爆発した。
その衝撃で阿号は体勢を崩し、統夜に剣を振るうことは出来なかった。
先ほどアキトの放った弾丸は強力で、その衝撃で魔戒銃が壊れてしまった。
「くそ!壊れたか!」
アキトは壊れた魔戒銃を見て舌打ちをした。
アキトの魔戒銃はまだ試作段階であるため、銃の耐久性など改善すべき点は山積みだった。
「アキト……助かる!」
統夜はスライディングをしながらアキトが狙い撃った阿号の右足めがけで魔戒剣を叩き込んだ。
統夜の攻撃で阿号は完全にバランスを崩してしまい、その場に倒れ込んだ。
その時に巨大な剣を手放してしまい、そのまま巨大な剣は屋上を飛び越えて落下していった。
落下した巨大な剣はそのまま地面に突き刺さったのだが、ここは廃ビルということもあり、周囲に人はいなかったため、人的被害はなかった。
「ほう……やるな、魔戒騎士」
アキトと統夜の連携攻撃で倒れた阿号はゆっくりと起き上がった。
「阿号!お前のやろうとしていることは、間違っている!」
「そこまで言うのなら……この俺を止めてみせろ!」
「あぁ!そのつもりだ!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。
「……はぁっ!」
統夜は皇輝剣を振るうが、それは阿号に軽々と防がれてしまった。
阿号は両手の太刀で統夜を斬り裂こうとするが、統夜は皇輝剣で二本の太刀の攻撃を防いだ。
「まだまだぁ!」
統夜は皇輝剣の一撃を何度も叩き込むが、それで阿号に致命傷を与えることは出来なかった。
「統夜!」
アキトは統夜を援護するために、法術を放った。
その一撃は阿号にダメージを与えられなかったが、足を止めるには十分だった。
「はぁっ!」
統夜はアキトが作ってくれた隙を突いて皇輝剣を一閃した。
その一撃は阿号の左手の太刀を真っ二つに斬り裂いた。
「くっ……!」
さすがの阿号も焦りを見せていた。
統夜が予想以上に善戦していたからである。
「やるな、魔戒騎士。だが!」
阿号はビルから落ちて地面に突き刺さった巨大な剣を呼び寄せて、それを手に持った。
巨大な剣を手に持った阿号を見て、統夜は一度距離を取った。
『統夜!あんな剣で斬られたら流石に奏狼の鎧も持たないぜ!』
「わかってる!」
統夜は阿号の持つ巨大な剣に警戒していた。
阿号は巨大な剣を振るうと、統夜は大きくジャンプをしてかわした。
その後、追撃が来ることを読んでいた統夜は、皇輝剣の切っ先に赤い魔導火を纏わせ、烈火炎装の状態となった。
「統夜!俺の力も使え!」
アキトは魔導筆を統夜に向けると、青い色の雷を放つ法術を統夜に向けて放った。
統夜はその雷を皇輝剣の切っ先で受け止めると、奏狼の体は赤い炎だけではなく、青い稲妻も纏っていた。
この状態は「烈炎電装(れつえんでんそう)」。
アキトの協力によってなることが出来た攻撃形態で、アキトの咄嗟の判断で偶然この状態になることが出来た。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
阿号が巨大な剣を振るうのと同時に統夜は赤い炎と青い稲妻に包まれた皇輝剣を振るった。
巨大な剣と皇輝剣の切っ先がぶつかり、火花を散らしていた。
そして……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
2つの剣の衝突は、統夜に軍配が上がり、統夜は阿号の持つ巨大な剣を真っ二つに斬り裂いた。
「……!」
阿号は巨大な剣を斬り裂かれ、少し焦るものの、統夜は先ほどの一撃でかなりの力を使ったのかかなり消耗していた。
その隙を見逃さなかった阿号は蹴りを放って統夜を吹き飛ばした。
「ぐぁっ!」
統夜は地面に叩きつけられ、その衝撃で鎧が解除されてしまった。
「くっ……!まだだ!」
統夜は体にダメージが残っていたが、気合だけで立ち上がった。
「思ったよりやるじゃないか、魔戒騎士。だが、お前に俺は倒せない」
一方の阿号は巨大な剣を斬り裂かれた衝撃で少しダメージを負ったものの、戦闘に支障はなかったが、戦闘形態は解除され、素顔を出していた。
「阿号!もうやめるんだ!」
「……人の死が夢を実現させるのだ。ホラーのいない世界を」
「阿号、それは長い間考えたお前の答えだって言うのか!?」
「そうだ。全ては法師の夢。俺は、必ずこの夢を果たすと法師と約束したのだ!」
「ホラーのいない世界……。それは俺だってそれを望んでる。……みんなが、ホラーの恐怖に怯えることのない、平和な世界を……!」
「何?」
統夜は阿号に対してこう言った時、唯たちの存在が脳裏に浮かんでいた。
「お前は、答えを出すことは出来たのか?その世界をどう実現させるのか!」
「……そんなものはない」
「話にならんな」
「だけどな、俺たちは人を守るためにホラーを狩っているんだ。ホラーを殲滅するために人を滅ぼすなんて、やっぱり間違っている!」
「……」
「なぁ、蒼炎法師はお前に夢を託したんだろ?……法師はどんな顔でお前に夢を語ったんだよ!」
「統夜……」
悲痛な表情で阿号に訴えかける統夜をアキトはジッと見守っていた。
「……」
統夜にこう言われ、阿号は思い出していた。
あの時の蒼炎法師の顔を。
“……阿号!”
蒼炎法師は笑っていた。
さらに言うと、自分の夢を語っている時は、まるで子供のように無邪気な表情をしていた。
「……法師……」
統夜の説得が功を奏しそうになったその時だった。
「ぐっ……!」
突然、阿号の体に異変が起こった。
阿号の持っていたグレゴルの腕が反応し、グレゴルが復活しようとしていた。
「阿号!そいつを放すんだ!」
阿号はグレゴルの腕を放そうとするが、腕を放すことは出来なかった。
__人間を滅ぼす。それは、我も同じ願いだ!
グレゴルは、ホラーを滅ぼすために人を滅ぼそうとする、阿号の思いに同調し、阿号をゲートにしようとしていた。
__人に造られし者よ、我と1つになり、その願いを果たそうではないか。
「うぅ……ぐぅ……」
「阿号!」
苦しそうな表情で抵抗する阿号にアキトも声をかけていた。
__貴様は気付いていなかったようだな。お前の体に我の肉身の一部があったことを……
遥か昔、グレゴルは阿号に倒される前に阿号の体を貫いたのだが、その時に、グレゴルの体の一部が阿号の体の中に潜んでいたのであった。
「な、何だと……!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
阿号は断末魔をあげると、グレゴルに体を取り込まれてしまい、巨大な素体ホラーのような見た目をしているグレゴルが実体化してしまった。
『グレゴルが復活したか……。統夜!こいつは一筋縄ではいかないぜ!』
「そうみたいだな!」
グレゴルは阿号を取り込んだ事で得た能力である、鋭利な触手を体の一部から統夜めがけて放った。
統夜は魔戒剣でその触手を受け止めていた。
「統夜!!」
アキトはグレゴルめがけて法術を放ち、統夜を救った。
「アキト、助かったよ!」
「気にすんなって!それよりも、あいつをぶっ倒して阿号を助けようぜ!」
「もちろんだ!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれると、統夜は奏狼の鎧をを身に纏った。
鎧を召還した統夜は、そのままグレゴルに向かっていった。
統夜は皇輝剣を一閃してグレゴルの体の一部を斬り裂くが、ダメージは無いに等しかった。
その後、グレゴルは衝撃波を放ったのだが、その威力は凄まじく、統夜たちのいたビルはその衝撃で全壊した。
「ぐぁっ!」
「がぁっ!」
統夜とアキトはビルが破壊された衝撃でその場に投げ出されてしまった。
アキトは法術を用いてどうにか下に降りる事が出来た。
そして、統夜は……。
「来い!白皇!」
統夜は魔導馬である白皇を召還し、白皇に乗り込むことで下に降下した。
2人が下へ降りると、グレゴルはどこかへと移動して行った。
『統夜!まずいぞ!あんなのが街に向かったら大惨事は避けられないぞ!』
「あぁ!わかってる!」
統夜は白皇を走らせ、グレゴルを追跡した。
グレゴルは追いかけてくる統夜を見て触手による攻撃を連続で繰り出した。
統夜は白皇の力で皇輝剣を皇輝斬魔剣に変化させると、触手の攻撃を全て薙ぎ払った。
白皇を大きくジャンプさせると、統夜はグレゴルの翼めがけて皇輝斬魔剣を一閃し、グレゴルを地面に叩き落とした。
「聞こえるか阿号!」
統夜はグレゴルに取り込まれた阿号に語りかけた。
「お前が法師から受け継いだ夢……俺が必ず果たす!」
その統夜の声はグレゴルに取り込まれた阿号に届いていた。
グレゴルは尻尾による攻撃を放った。
その攻撃で統夜は白皇ごと薙ぎ払われると、白皇の召還は解除されてしまい、皇輝斬魔剣も皇輝剣に戻ってしまった。
「くっ!」
それでも統夜は諦めず、街に被害を出さないために必死にグレゴルを食い止めていた。
その頃、グレゴルに取り込まれた阿号は、信じられない幻を見ていた。
“阿号……”
阿号の目の前に遥か昔に命を落としたはずの蒼炎法師がいたからである。
「蒼炎……法師……」
“あの若い魔戒騎士……。彼に託そう……。俺とお前が果たせなかった夢を……”
こう語る蒼炎法師の顔はとても穏やかな表情だった。
“阿号……。いつかきっと……その時が来るさ……。お前は十分に戦った……もう、いいんだ。休んでも、いいんだよ”
こう語ると蒼炎法師の幻は消滅した。
阿号はその場に座り込むと、阿号の体も消滅したのであった。
『!統夜!奴の体から何かが出てくるぞ!』
イルバにこう言われた統夜は一度グレゴルと距離を取った。
グレゴルが断末魔をあげていると、グレゴルの体から出てきたのは、阿号の使っていた巨大な剣……号殺剣だった。
『統夜!あれは阿号の剣だぜ!』
「そうみたいだな。……阿号!お前の力、借りるぜ!」
統夜は号殺剣を手に取ると、それを構えた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
統夜は号殺剣を手にグレゴルに接近すると、号殺剣を一閃した。
その一撃はグレゴルの体を真っ二つに斬り裂いた。
断末魔をあげながらグレゴルの体は爆発と共に完全に消滅した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
グレゴルを討滅した統夜は鎧を解除すると、この戦いでかなり消耗したのか、膝をついていた。
「……統夜!」
自分の足で統夜とグレゴルを追いかけていたアキトが合流し、統夜に駆け寄った。
「……統夜、大丈夫か?」
「あぁ、何とかな……」
統夜はゆっくりと立ち上がると、その目にとあるものが写っていた。
統夜はそれに近付いて拾うと、それは阿号の体の一部であるパーツだった。
『……統夜、そいつはお前さんが持ってた方がいいんじゃないか?お前があいつの夢を叶えるのだろう?』
「……そうだな」
統夜は阿号の形見ともいえるパーツを魔法衣の懐にしまった。
「……今思えば、あいつは間違っていなかったかもな」
アキトがこう呟いたのを聞くと、統夜はアキトを睨みつけていた。
「人間がいなくなれば、確かに陰我は消し去ることは出来る。まぁ、それは決して出来ないけどな」
『そうだな。あいつは、真っ直ぐ過ぎたのかもしれないな。俺様はそう思っているぜ』
「そんなの……悲しすぎるよ……。俺には守りたい人たちがいる。そいつらがいない世界なんて……俺は耐えられないよ……」
こう語る統夜の表情は悲しみに満ちていた。
「そうだな……。だからこそ、俺たちは戦わないとな。ホラーを討滅し、人を守るために……」
「あぁ。そして、いつの日か叶えてみせるさ……。阿号や蒼炎法師が夢見たホラーのいない世界ってやつを……」
統夜はこう呟きながら、夜から朝になろうとしている景色を眺めていた。
ちょうどその頃、何者かが統夜と阿号、及びグレゴルの戦いをジッと見物していた。
「……ちっ、やっぱり骨董品の魔導具じゃこんなものか……」
マントを羽織ったその者は、何故か阿号の存在を知っていた。
「……まぁ、いい。データは十分に取れたからな……。これで、理想の魔導具を造る事が出来る……!」
この者はとあることを計画していた。
「……楽しい余興を見たことだし、桜ヶ丘に戻るとするか……」
その者はこう呟くと、その場から姿を消した。
※※※
グレゴルを討滅した数時間後、外は完全に朝になっており、統夜とアキトは隠れ家である廃ビルの前にいた。
「……統夜、お前は桜ヶ丘に戻るのか?」
「あぁ、翡翠の番犬所への報告は済んだし、このことを紅の番犬所のイレス様にも報告しないといけないしな」
統夜とアキトはグレゴルを討滅した直後に翡翠の番犬所に直行し、事件の解決を報告した。
街が大惨事になる前にグレゴルを討滅したことをロデルはとても感謝していた。
そんなロデルに挨拶をすると、翡翠の番犬所を後にして、現在に至る。
「……アキトも行くのか?」
「あぁ、俺は魔戒銃の改修作業をしなくちゃいけないからな」
アキトは先の戦いで壊れてしまった魔戒銃を修理し、その性能を向上させるための改修作業を行うつもりだった。
「……ま、お互い頑張ろうな」
「あぁ。……統夜!また2人でタッグを組めるといいな。お前と組んだこの仕事はなかなか楽しかったぜ!」
「……あぁ、俺もだ」
統夜とアキトは固い握手を交わすと、それぞれの場所へと帰っていった。
統夜は早く帰るために、魔戒道を利用して桜ヶ丘に帰ってきた。
桜ヶ丘に戻った統夜は番犬所に直行すると、イレスに今回の事件の一部始終を報告した。
報告を受けたイレスは統夜に労いの言葉を送り、今日はゆっくり休むように通達した。
統夜はそんなイレスの心遣いに感謝をして番犬所を後にした。
「……さて、確か明日から3学期だし、今日は家に帰ってゆっくり休もうかな……」
そう決めて家路につこうとしたその時だった。
「……あっ、やーくん!!」
統夜を偶然発見した唯が大きく手を振っていた。
「唯……それに、みんな……」
唯の他にも軽音部のみんながいて、唯たちは統夜に駆け寄った。
「統夜先輩、仕事で東京に行ったって律先輩から聞きましたけど、終わったんですか?」
「あぁ、終わったよ。それで、今イレス様に報告した所だ」
『ちょうど今日は休めと言われたんでな、家に帰る所だったのさ』
「統夜君、お疲れ様です♪」
「あぁ、ありがとな」
仕事が終わったと聞いた紬は労いの言葉をかけるが、唯は仕事が終わったと聞いて目をギラリと輝かせていた。
「だったらさ、これからやーくんも一緒に遊ぼうよ!」
唯は仕事を終えたばかりの統夜に遊ぼうと提案した。
「ちょ、唯先輩!?」
「あたしもそうしたいが、さすがに統夜は疲れてるだろ?」
普段なら賛同するであろう律が統夜の体を気遣って唯の提案に反対していた。
「むー……。やーくんと遊びたかったなぁ……」
唯は頬をぷぅっと膨らませてむくれていた。
『おいおい、統夜は過酷な仕事を終えたばかりなんだぜ?少しは察してくれよ……』
こうイルバが唯をなだめるのだが……。
「……あぁ、いいよ」
統夜がまさかのOKだったので、唯以外の全員が統夜の言葉に驚いていた。
「本当!?」
唯は嬉しかったのか、目をキラキラと輝かせていた。
『おい、統夜。本気か!?あんだけ消耗したんだから大人しく休んでた方がいいんじゃないのか?』
「確かにその方がいいんだけどさ、みんなと遊ぶのが俺にとっては何よりも息抜きになるからさ」
統夜の言葉に唯たちの表情がぱぁっと明るくなった。
『まったく……。お前さんがそう言うなら仕方ないか……』
イルバは渋々統夜がみんなと遊ぶことを了承した。
「ほら、やーくん。行こっ♪」
「おい、唯!引っ張るなって!」
唯に引っ張られる形で統夜は走り出し、律たちはその後を追いかけた。
こうして統夜は夕方頃まで唯たちと遊んだのであった……。
……続く。
__次回予告__
『いよいよバレンタインか。俺様には関係ないが、統夜のやつ、色々勘違いしてやがる。次回、「甘味」。やれやれ、面倒なことが起きそうだぜ』
統夜が無事事件を解決し、桜ヶ丘に戻ることが出来ました。
それにしても今回は大半が戦闘シーンだったけど、戦闘シーンを書くのって本当に難しい……。
臨場感あるバトルが表現出来てればいいなぁとは思っているんですけど……。
今回でアキトとは別れましたが、アキトは3年生編でも再登場させるつもりです。
これだけのキャラを今回ばかりで終わらせるのは勿体無いですし(笑)
次回はバレンタイン回になります。
この回で統夜のリア充ぶりが明らかに……?
それでは、次回をお楽しみに!