今回は前回も予告しましたが、原作にも登場したとある強敵が出てきます。
そして今回は意外なキャラが出てきますが、そのキャラとは?
そこも踏まえて第37話をどうぞ!
……今よりも遥か昔、この時代にもホラーは存在していた。
そして、この時代にもホラーを討伐する魔戒騎士は存在していた。
そんな中、1人の魔戒法師がとある願いを込めて、人型の魔導具を開発した。
その魔導具はその時代からは考えられないくらいの最先端の技術が使われ、その実力は実力のある魔戒騎士にも引けをとらない程だった。
その魔戒法師は「蒼炎(そうえん)法師」と呼ばれる、その時代の魔戒法師としては実力のある魔戒法師だった。
蒼炎法師が造った人型の魔導具は「阿号(あごう)」と名付けられた。
蒼炎法師と阿号は、とある場所にて、とあるホラーと戦いを始めようとしていた。
「なぁ、阿号。お前には話していなかったよな?俺の夢を」
「法師の夢……ですか?」
「あぁ。俺の夢は、ホラーのいない世界が来ることだ」
蒼炎法師の抱いた夢は魔戒騎士や魔戒法師にとっては、悲願とも言えるほど壮大な夢であった。
人間の邪神がある限り、陰我は生まれ、ホラーは出現する。
すべてのホラーを根絶やしにするというのは、夢物語のようなものでもあった。
蒼炎法師はこのような夢をもっているため、周りの法師や騎士からそんなのは夢物語だと揶揄されたこともあったが、蒼炎法師はそんなことは全く気にしていなかった。
自分の親のような存在である蒼炎法師の夢を聞いた阿号は、その壮大な夢に心を打たれていた。
「なぁ、阿号。お前がどうして造られたかわかるか?」
「それは、ホラーを狩るためです」
「そうだ。だからこそお前は俺の夢なんだよ。俺はそのためにお前を造ったんだ」
「私が……法師の夢……」
阿号はその言葉が嬉しかった。
自分はそのような願いを込められて造られたとは知らなかったからである。
「……法師。その夢、私ももらってよろしいでしょうか?」
「ハハハ!……もちろんだ!その夢、俺とお前で実現させよう!」
このような話をしていると、蒼炎法師はホラーの存在を発見した。
蒼炎法師と阿号はホラーに攻撃を仕掛けた。
蒼炎法師は魔戒法師としてはかなりの実力者である故、大量に出現した素体ホラーを法術によって軽々と蹴散らしていった。
そして阿号も戦闘形態へと姿を変えると、大量の素体ホラーを難なく蹴散らしていった。
しばらくホラーを掃討していると、2人のターゲットであるホラーが姿を現した。
巨大な素体ホラーという見た目であるこのホラーは「グレゴル」と呼ばれる強大な力を持ったホラーだった。
蒼炎法師はグレゴルに戦いを挑むが、その強大な力には敵わなかった。
「!法師!」
蒼炎法師が倒されたことを目撃した阿号は、グレゴルの一撃で体を貫かれるものの、意地の攻撃によって、グレゴルを一撃で葬り去った。
グレゴルの一撃はかなりのものだったのか、阿号の戦闘形態は解除されてしまった。
阿号はフラフラになりながらも蒼炎法師に駆け寄り、その体を抱き抱えた。
そんな中、大勢の素体ホラーが迫り来るのだが……。
1人の騎士が現れると、その騎士は次々とホラーを掃討していった。
その騎士は、白銀の鎧の騎士であり、その手に持った剣で次々とホラーを掃討していった。
「あれは……一体……」
「ま……魔戒騎士……か……」
「?魔戒騎士?」
阿号は魔戒騎士という言葉に首を傾げていた。
この時代、魔戒騎士の数は少なかったからである。
「……彼に託そう……。俺とお前が……果たせなかった夢を……」
「!法師!」
「阿号……その時は必ず来る……俺たちの……ゆ……め……」
自分の叶えられなかった夢を目の前の魔戒騎士に託した蒼炎法師はそのまま息を引き取った。
「法師!!」
阿号が呼びかけても、蒼炎法師が応えることはなかった。
阿号は蒼炎法師を失って悲しみに打ちひしがれながらも立ち上がり、歩き出そうとするが、グレゴルから受けたダメージは大きく、その場に座り込んでしまった。
そして阿号は戦闘形態に変化すると、そのまま機能停止してしまった……。
※※※
そして時は流れ、現代……。
遥か古の時代に機能停止したはずの阿号そっくりの男が街を歩いていた。
男はしばらく街を歩いていると、ホラーに襲われている男の姿を発見した。
「……そこまでだ」
阿号そっくりの男がホラーと男の前に立ちはだかった。
「た、助けてくれ!」
ホラーに襲われていた男は阿号そっくりの男に駆け寄ろうとするが……。
「お前はそこで見ていろ」
阿号そっくりの男は男を逃がそうとはせずにそのままホラーに向かっていった。
「……貴様、魔戒騎士か?」
「俺は魔戒騎士ではない。だが、貴様らを狩るものでもある」
「いいだろう……。まずは貴様から喰ってやる!」
ホラーはターゲットを阿号そっくりの男に変更すると、そのまま襲いかかってきた。
「…………」
しかし、阿号そっくりの男は腕から鋭利な触手のようなものを放ち、ホラーは触手のようなものの鋭利な刃に貫かれて消滅した。
「……ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
男は阿号そっくりの男に礼を言うことなく、恐怖のあまり逃げ出してしまった。
「……」
阿号そっくりの男は大きくジャンプすると、男の前に立ちはだかった。
「!な、何なんだよ!お前!俺を助けてくれたんじゃないのかよ!?」
「俺はお前を助けるつもりは最初からない」
阿号そっくりの男はそのまま男の胸ぐらを掴み、持ち上げた。
「くっ……苦しい……!助けて……!」
「貴様には夢はあるか?」
「な……何だよ……訳わかんねぇよ!」
「俺にはある。叶えるべき夢というものがな」
阿号そっくりの男はそれだけ言うと、とどめを刺さずに男を放した。
持ち上げられていた男は尻餅をつくが、ゆっくりと起き上がった。
「今日のところは見逃してやる。さっさと消え失せるんだな」
阿号そっくりの男がこう告げると、男は血相を変えて逃げ出した。
「……法師……」
阿号そっくりの男はこう呟くと、どこかへと姿を消した。
※※※
三が日もあっという間に過ぎ去り、冬休みも終わろうとしていた。
そんなある日、統夜は番犬所に呼び出されたため、番犬所を訪れていた。
「統夜、来ましたね」
「はい、イレス様。それで……呼び出しがあったということは、指令ですか?」
「えぇ。実は少々面倒な仕事でしてね……」
こう語るイレスの顔は少し神妙な面持ちだった。
「?面倒なこと?」
「統夜。「翡翠の番犬所」はご存知ですか?」
「えぇ、知ってますよ。確か、東京の秋葉原とかその辺りを管轄にしている番犬所ですよね?」
統夜の言う通り、翡翠の番犬所とは、秋葉原と神田と神保町辺りを管轄にしている番犬所である。
「えぇ、実はここ最近翡翠の番犬所の管轄で少し奇妙な出来事が起こっていましてね」
「?それは一体?」
「えぇ、魔戒騎士でも魔戒法師でもない者がホラーを討滅しているみたいなんです。管轄の騎士がホラー討滅に向かうと、そのホラーは既に倒されているというのです」
「魔戒騎士や魔戒法師にとっては助かりますが、これは妙ですね」
「えぇ。ホラーの気配が消えた後、妙な気配を感じたとの報告がありました」
「妙な気配?」
「えぇ。とある魔戒騎士の魔導具が探知したのですが、人でもホラーでもない妙な気配であると」
「!人でもホラーでもない!?まさか……!」
イレスの言葉に統夜は戦慄していた。
そのような気配を持つ者に心当たりがあったからだ。
「えぇ。もしかしたら闇に堕ちた者か暗黒騎士か……。その可能性は否定出来ませんね」
「………」
統夜はとあることを考えながら拳を力強く握りしめていた。
そのとあることは、強大な力を持つホラーを復活させた暗黒騎士ゼクスことディオスのことである。
統夜はあれほどの力を持った者がまた現れたのか。
そう考えると身震いをしていた。
「そこで、翡翠の番犬所にも頼まれたのですが、統夜、翡翠の番犬所に行ってその謎の気配の調査をお願いしたいのです」
「俺が翡翠の番犬所に……ですか?」
「えぇ、翡翠の番犬所の神官であるロデルもグォルブを討滅したあなたの腕を見込んで今回の調査を依頼したと言っています。ですから、ぜひ行ってあげて下さい」
「……わかりました。普段から世話になっているイレス様の顔に泥を塗るわけにはいきませんから」
統夜は仕事がうんぬんではなく、普段から世話になっているイレスの顔を立てるために今回の仕事を受けると決断した。
『おいおい、統夜。本気か?……まぁ、他の番犬所での仕事も魔戒騎士としては経験になるだろうな』
イルバはこの仕事は乗り気ではなかったが、他の番犬所の仕事を通して統夜が成長すると考えたら反対することは出来なかった。
「統夜、今回の仕事は数日は桜ヶ丘を空けることになると思います。申し訳ありませんが、調査の方、お願いしますね」
「わかりました」
「あっ、そうそう。忘れていました」
「?何ですか?」
「今回とある魔戒法師を助っ人として派遣すると先方から話がありました。その魔戒法師と協力して事に当たって下さい」
「わかりました」
統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にした。
数日は桜ヶ丘を空けることになるので、一度家に帰り、軽く手荷物をまとめて、出かける準備を整えた。
準備を終えた統夜は家を後にして、翡翠の番犬所の管轄である、東京へと向かった。
魔戒道を使えばそれほど時間もかからずに目的地へ向かうことは出来るが、統夜は旅の気分を味わいたいという思いから汽車に乗って東京へ向かうことにした。
※※※
汽車に乗って東京に向かった統夜は、東京の秋葉原に到着した。
テレビで見たことのある電気街など秋葉原特有の光景に統夜は呆然としていた。
「へぇ……ここが秋葉原か……」
『ほう、なかなか面白い街じゃないか。お前さんとテレビを見ていたが、歩いてるだけでも楽しめそうじゃないか』
統夜とイルバは初めての秋葉原にワクワクしていた。
『だが、俺様たちはホラーを狩る謎の存在を調査するんだ。それを忘れるなよ、統夜』
「わかってるって!」
『とりあえずは翡翠の番犬所の神官に挨拶でもするか?』
「その方が良さそうだ。イレス様の言っていた魔戒法師はそれから合流してもいいだろう」
統夜たちは街を移動しながら翡翠の番犬所に向かうことにした。
秋葉原の街は桜ヶ丘よりも多くの人で賑わっており、中にはアニメキャラのコスプレをしている者や、メイド服を着た女性なども街を歩いていた。
『おい、統夜。どうやらこの街は変わった出で立ちをしている奴がちらほら見えるな』
「あぁ。この感じなら俺が魔法衣を羽織ってても怪しくは見えないな」
統夜は普段から魔法衣を羽織って街を歩くのは目立つと思っていたのだが、この街ではそこまで気にする必要はないと感じていた。
統夜は番犬所に向かいながらも初めての秋葉原の景色を堪能していた。
しばらく歩いていると……。
「……なぁ!いいじゃねぇかよ!俺たちと遊ぼうぜ!」
統夜は声の方を見ると、中学生と思われる少女3人組がチャラそうな男3人組に絡まれていた。
統夜はふと周囲を見回すが、周囲の人々はそのことを認知してはいるものの、見て見ぬ振りをしていた。
その光景を見て、統夜ははぁっとため息をついた。
「やれやれ……。あの子たちはあんだけ怖がってるのに無粋だねぇ……」
『おい、統夜!むやみに人のいざこざに首を突っ込むなよ!』
「ホラーも指令もないんだ。少しくらいならいいだろ」
統夜はイルバの反対を押し切ると、そのまま絡まれた少女たちの方へ歩いていった。
統夜は秋葉原の街を歩いていた時に自販機で缶ジュースを買っていたのだが、統夜は空になった空き缶を1人の男の頭めがけて投げた。
「痛っ!誰だ!この野郎!!」
空き缶を投げつけられた男が統夜の方を向くと、そこにいる全員の視線が統夜に集中した。
「アハハ……。いやぁ、すいませんねぇ。ついつい手が滑っちゃいましたよ」
統夜はヘラヘラと笑いながら一応謝罪をしていた。
「あぁん!?何だてめぇ、なめてんのか!?」
「アハハ……嫌だなぁ、勘弁して下さいよぉ〜」
統夜はヘラヘラとした態度を改めることはしなかった。
「何ヘラヘラしてんだ……!てめぇ!」
空き缶を投げつけられた男は統夜に殴りかかるのだが、統夜は軽々とかわすと、足を出して男を引っ掛け、男は凄い勢いで転んで行った。
「あーあ……。何やってんすか……」
統夜はニヤニヤと笑いながら転んだ男を挑発した。
「てめぇ!」
男2人が一斉に統夜に襲いかかるが、統夜は無駄のない動きでかわし、足を引っ掛けると、2人の男も凄い勢いで転ばせた。
「「「……」」」
男3人に絡まれていた3人の少女は唐突な展開に唖然としていた。
「どうしたの?俺何にもしてないのに何勝手に自滅してるのさ?」
統夜は敬語からタメ口に口調を変えると、さらに男を挑発していた。
「野郎……!ぶっ殺してやる!」
最初に転ばされた男が立ち上がると、懐に隠していたナイフを取り出した。
「やれやれ……。そういうのやめないか?俺は出来ればあんたらを傷付けたくないんだけど」
統夜はため息をつくと、男にこう警告した。
統夜は守りし者であるため、このようなことがあっても、相手は極力傷付けないよう心がけていた。
「うるせぇよ!こら!」
男は統夜を殺すつもりでナイフを突き刺そうとした。
しかし、そんなもので統夜を捉えることは出来ず、統夜は素早くナイフをかわすと、ナイフを奪い取り、逆にナイフを突き付けた。
「……っ!」
「これ以上はもういいでしょ?ここはお引き取り願えるかな?」
統夜はナイフを突き付けながらギロリと男を睨みつけた。
統夜の睨みを見た男は統夜の鋭い視線に戦慄していた。
そして……。
「くそ!覚えてろよ!」
お決まりの捨て台詞を吐き捨てると、男は逃げ出し、2人の男もそれに続いた。
「やれやれ……あんまり手荒な真似はしたくなかったんだけどな……」
統夜はこう呟くと、手に持っていたナイフを安全そうな場所に投げ捨てた。
「……大丈夫?チンピラにナンパされるとかついてなかったね」
統夜なアハハと笑いながらこう語りかけて、3人の少女を安心させようとした。
「あっ、あの……助けてくれてありがとうございます」
少し青が入った黒の長髪の少女が深々と頭を下げた。
「気にしなくてもいいよ。俺はたいしたことしてないんだから」
「いえ!そんなことないですよ!」
「そうですよ!凄く嬉しかったです!」
サイドポニーの少女とグレーの髪の少女も統夜に感謝をしていた。
「そっか。それなら良かったよ。えっと……」
「あぁ、私、高坂穂乃果(こうさかほのか)。中学2年です!」
「南ことりです♪穂乃果ちゃんと同じ中学2年です!」
「園田海未(そのだうみ)と申します。私も2人と同じ中学2年生です」
サイドポニーの少女は穂乃果といい、グレーの髪の少女がことり、そして黒のロングヘアの少女が海未という名前だった。
「俺は月影統夜。高校2年だ」
統夜も3人に自己紹介をした。
「統夜さん……ですか」
「統夜さんってどこの高校なんですか?」
「桜ヶ丘って街を知ってるか?俺は桜ヶ丘高校に通ってるんだよ」
穂乃果の問いかけに統夜が答えた。
「あっ、聞いたことがあります!ここからはそう遠くないけど、桜ヶ丘って街の高校が共学になったって」
「へぇ……桜ヶ丘高校ってそれなりに有名だったんだな」
統夜はまさか東京の女の子がここまで桜ヶ丘高校のことを知っているとは思っておらず驚いていた。
「私のお母さんが音ノ木坂学院の理事長をしてまして……」
(音ノ木坂?何かどっかで聞いたような……)
《統夜。確かその高校は今年から共学になるって話を聞かなかったか?それで、先に共学になった桜ヶ丘高校に音ノ木坂の理事長が来て、色々聞いたとか》
(あぁ!そういえば冬休みの前にそんな話を先生がしてた気がするぞ!)
統夜はことりが話していた音ノ木坂学院という言葉に聞き覚えがあったが、イルバがテレパシーで伝えてくれた話で思い出していた。
「あぁ、その高校なら聞いたことある。この前、音ノ木坂の理事長が桜ヶ丘高校に来たって先生に聞いたからな」
「あ!お母さんが言ってました!桜ヶ丘は凄く良いところだって!」
「まぁな、住みやすいし、良いところだよ」
統夜の言葉に嘘偽りはなく、これは統夜の本音だった。
「それよりも、本当にありがとうございます。それで、助けていただいたお礼をしたいのですが……」
「え?別にそんなのはいいって!俺はそんなつもりで助けたんじゃないんだから」
統夜が3人を助けたのは下心ではなく、単純に3人が困っていたから助けたので、お礼というのは申し訳ないと思っていた。
しかし……。
「駄目です!助けて頂いたのに何のお礼も出来ないなんて!」
「そうですよ!何かないんですか?」
「うーん、そうだなぁ……」
統夜は3人にどんなお礼をしてもらうか考えていた。
(本当ならジュースを奢れでもいいんだけど、それじゃ納得してくれないよな……。なぁ、イルバ。番犬所による前に寄り道しても大丈夫か?)
《本当ならさっさと番犬所に行った方がいいのだろうが……。まぁ、少しだけならな》
事の一部始終を見ていたイルバも簡単過ぎるお礼じゃ納得出来ないと思い、統夜の提案を渋々聞くことにした。
「それじゃあ……。ここら辺で美味しいスイーツの店があったら案内してほしいかな」
「え?そんなんでいいんですか?」
「あぁ、俺的には最高のお礼だからな」
「わかりました!それじゃあ、穂乃果たちが良く行くお店に案内しますよ!」
「あぁ、よろしく頼むよ」
こうして統夜は穂乃果、海未、ことりの3人と共にスイーツの美味しい店へと向かった。
その店は、歩き始めてから数分かからないところにあった。
「……はい!ここです!」
「お、随分と近くだな」
統夜はここまではやくお店に到着すると思っていなかったので、驚いていた。
「3人とも、ありがとうな。このお店を教えてくれただけでお礼としては充分過ぎるからな」
統夜は穂乃果たちと別れてさっさと店の中に入ろうとしたのだが……。
「あの!私たちもご一緒してもいいですか?」
「「え?」」
「ちょっと、穂乃果?」
穂乃果の突然の提案に統夜、ことり、海未は驚いていた。
「せっかく知り合えたのに、ここでさよならは勿体無いかなぁって思って……」
穂乃果はアハハ……と苦笑いをしながら統夜とお茶したい理由を伝えた。
「……まぁ、3人がいいなら好きにするといいよ」
統夜は穂乃果の提案を反対することはしなかった。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
穂乃果はペコリと一礼していた。
《おいおい、いいのか?こんなところ、唯たちに見られたら面倒なことになりそうだな》
(?何でただお茶するだけなのに唯たちが出てくるんだよ?)
《やれやれ……。こっちに来てもお前さんは相変わらずのようだな……》
イルバは相変わらず鈍感な統夜に呆れていた。
こうして統夜は穂乃果たちと共に店の中に入った。
店の中に入り、テーブルにつくと、すぐさま注文を済ませた。
注文したものが来るまで、統夜たちはお互いの学校の話をしていた。
「へぇ、統夜さんって高校では軽音部なんですね!」
ことりは統夜が軽音部だと話を聞いて、驚きと共に目を輝かせていた。
「ま、まぁね」
「ちなみに、どのようなバンドなんですか?」
「あぁ、バンド名は放課後ティータイムっていうんだよ」
「放課後ティータイム……可愛いバンド名ですね♪」
「メンバーは女の子が多いんですか?」
「あぁ。俺たちは今6人で活動してるんだけど、男子は俺だけなんだよ」
「「「へぇ……」」」
穂乃果たちに軽音部の部員の話をしていると、突然統夜の携帯が鳴り出した。
「ん?電話か?みんな、ちょっとごめんな」
統夜はポケットから携帯を取り出すと、電話をかけてきたのは律からだった。
「……はい、もしもし」
『あ、繋がった。なぁ、統夜。お前、今日ってこれから時間あるか?』
「悪い。俺、今東京にいるんだよ」
『はぁ!?東京!?』
律は受話器越しで大声を出していたので、統夜の耳にキーンと響いていた。
『どうして東京に?』
「それは……えっと……」
統夜は律に東京にいる本当の理由が話せなかった。
それは、穂乃果たちに魔戒騎士やホラーという単語を聞かせる訳にはいかなかったからだ。
『もしかして、ホラーなのか?』
「当たらずも遠からずってところかな。それを確認しに来たんだよ」
統夜は律のナイスアシストに乗っかり、理由を説明した。
『そっか……それじゃ仕方ないよな。もしかして、しばらくそっちにいるのか?』
「あぁ、その予定だよ」
『わかった。統夜、今回も無茶するんじゃねぇぞ!』
「あぁ、ありがとな、律」
統夜は電話を切ると、携帯をポケットにしまった。
「……あぁ、ごめんな」
「もしかして、今のは軽音部の人からですか?」
「あぁ、遊びの誘いだったけど、俺は今こっちにいるからな。断ったんだよ」
「こっちには遊びに来られたんですか?」
「まぁ、そんなところかな」
統夜は本当のことを話す訳にはいかないので、このように答えて話を誤魔化していた。
このような話をしていると、注文したものが出てきたので、統夜たちは美味しい紅茶とスイーツに舌鼓を打っていた。
その時、統夜は穂乃果たちが通う中学校の話を聞いていた。
話を聞く限りでは、穂乃果たちの通う中学校はいたって普通の学校だった。
ごく普通の生活ではあったが、それなりに充実しているみたいだった。
統夜は穂乃果たちの話を聞いたところで、スイーツも紅茶も完食し、席を立った。
「……もう行っちゃうんですか?」
「悪いな、この後行かなきゃいけない所があるんだよ。それじゃあな」
穂乃果は寂しそうな目をしていたのだが、統夜はお構いなしといった感じで、テーブルに千円札を3枚置くと、店を出て行った。
「行っちゃった……」
「それだけ急ぎの用事なのでしょうが、残念ですね……」
「……」
「?ことりちゃん?」
穂乃果と海未は統夜がいなくなって残念そうにしていたが、ことりはジッと統夜が出て行った方を見つめていた。
「ことり?どうかしましたか?」
「ぴぃ!?な、何でもないよ!ただ……」
「「ただ?」」
「何でかはわからないけど、統夜さんとはまた会えそうな気がするの」
ことりはたったわずかな時間の付き合いではあったが、統夜と再び再会すると予想していた。
「……えぇ、そうだといいですね」
「その時は、統夜さんと友達になろうよ!」
「「えぇ!(うん!)」」
統夜と再会した時は統夜と友達になろうと穂乃果たちは決意していた。
ことりの予想通り、そう遠くない未来に統夜と再び再会することを穂乃果たちは知る由もなかった……。
※※※
穂乃果たちと別れた統夜はそのまま本来の目的地である翡翠の番犬所へと向かっていた。
しばらく歩いていると、イルバが番犬所の入口を発見したのだが、そこは、先ほど穂乃果たちとの話に出ていた音ノ木坂学院の近くだった。
番犬所の入口は何もない行き止まりであったが、統夜がイルバをかざすと、番犬所の扉が開いたので、統夜は番犬所の中に入った。
しばらく歩いていると、番犬所の神官の間に到着した。
「……来ましたね、白銀騎士奏狼よ」
統夜を出迎えてくれたのは、20代前半くらいの物腰の柔らかそうな青年だった。
この青年こそ、この翡翠の番犬所の神官であるロデルであった。
「……はい、ロデル様。月影統夜。紅の番犬所神官、イレス様の命によりこちらに参上致しました」
「まぁまぁ、そう固くならず、気楽にして下さい」
「は……。あ、ありがとうございます」
ロデルが予想以上にフランクな性格だったので、統夜は驚いていた。
「統夜、おおよその話はイレスから聞きましたね?」
「はい。魔戒騎士でも魔戒法師ない者がホラーを討滅していると聞きました」
「そうです。何者かは知りませんが、ホラーを倒して回っているそうです。その目的がはっきりとしない以上、野放しには出来ませんからね」
「それで、イレス様からとある魔戒法師と協力して事に当たるよう言われましたが、その魔戒法師は来ていないのですか?」
統夜はこの番犬所に魔戒騎士もしくは魔戒法師が自分しかいなかったので、こうロデルに問いかけた。
「はい、まだ姿を見せていません。統夜、謎の気配を探すついでにその魔戒法師も探して下さい。恐らくはすぐに姿を表すでしょう」
「わかりました」
「もし、ホラーの気配を察知したら構わずに討滅して下さい。私が許可しますから」
統夜たち魔戒騎士はそれぞれ番犬所の指令でホラーを討滅するのだが、管轄外の場所でのホラー狩りはトラブルの元であるため、行わないようにしている。
しかし、その管轄の番犬所の神官が許可したとなれば、スムーズに話を進めることが出来た。
「ありがとうございます!」
統夜はロデルに一礼すると、番犬所を後にし、さっそく仕事を始めることにした。
統夜が番犬所を出た頃には夕方になっており、統夜はとりあえず共に戦うことになる魔戒法師を探しながら謎の気配を追うことにした。
しばらく歩き回っていると、空は暗くなっていた。
(もう夜か……。今のところは手がかりはないけど、もうちょっと探さないとな……)
統夜は手がかりを得るために再び歩き出そうとしたその時だった。
『……統夜!ホラーの気配だ!ここから近いぞ!』
「あぁ、わかった!」
統夜はイルバのナビゲーションを頼りにホラーがいる場所へと急行した。
ちょうどその頃、姉妹と思われる2人組の女の子が素体ホラーに襲われていた。
2人は金色の髪に青い瞳の少女であり、日本人とは思えない容姿であった。
その1人である絢瀬絵里(あやせえり)は、とある中学校に通う3年生で、音ノ木坂学院を受験する予定だった。
絵里はこの日、妹である亜理沙(ありさ)と共に買物に出かけていたのだが、思いの外遅くなってしまい、急いで家に帰る途中で素体ホラーに襲われてしまった。
2人はどうにか逃げようとするのだが、途中行き止まりに阻まれてしまったのである。
__キシャァァァァァァァァ!!
素体ホラーは不気味な鳴き声をあげながら絢瀬姉妹に迫っていた。
「お……お姉ちゃん……!」
「大丈夫よ。あなたは私が守るわ……!」
こうは言うものの、見たことのない化け物相手に為す術はなかった。
(助けて……!誰か……!助けて……!お祖母様!)
絵里が助けを求める中、素体ホラーが絢瀬姉妹のすぐそこまで近付こうとしたその時だった。
「……そこまでだ!ホラー!」
誰かの声にホラーは足を止め、声のする方を向いた。
すると、すごい勢いで赤いコートの少年がこちらに駆け出してきて、高くジャンプをすると、絢瀬姉妹とホラーの間に現れた。
その少年……統夜は蹴りを放って素体ホラーを吹き飛ばした。
「……大丈夫か?」
「あ、あなたは……?」
「まぁ、話は後だ」
統夜は魔戒剣を抜くと、ホラーに向かっていった。
「お姉ちゃん……あの人……」
「えぇ。悪い人ではなさそうだけど……」
絵里と亜理沙は、ジッと統夜の戦いを見守っていた。
(くそっ!行き止まりだったらあの子たちを逃せない!近くで戦ったらまずいよな)
統夜は魔戒剣を振るいながら、絢瀬姉妹の安全を最優先で考えていた。
そんな中、統夜は蹴りを放って素体ホラーを吹き飛ばした。
(ここは鎧を召還して一気にケリをつけるか……?)
統夜は絢瀬姉妹の安全を考慮して鎧を召還して一気に素体ホラーを倒そうと決断した。
鎧を召還するために魔戒剣を高く突き上げようとしたその時だった。
どこからか銃の弾丸のようなものが飛んでくると、それは素体ホラーを貫いた。
銃の弾丸のようなものに貫かれた素体ホラーは今の一撃が致命傷となり、そのまま消滅した。
「……っ!何者だ!」
統夜がこう呼びかけると、統夜の目の前に1人の青年が現れた。
青年は一般人とは思えない特異な格好をしていた。
その格好はどこか統夜の格好に通づるものがあった。
「お前……もしかして……」
統夜は目の前の青年が何者なのか何となく察知が付いていた。
「……ふっ……」
笑みを浮かべる青年の手には見たことのない銃のようなものが握られていたのであった。
……続く。
__次回予告__
『ついに姿を現した古の人形魔導具。こいつは……一筋縄ではいかないようだぜ!次回、「閃騎 中編」。統夜、気を引き締めてかかれよ!』
今回の強敵は、映画「牙狼 GOLD STOME 翔」に登場した阿号でした。
阿号は流牙たちの世界にいたので、名前を変えることも考えましたが、思いつかずそのまま使わせてもらうことにしました。
そして、今回はラブライブから何人か登場しました。
何でラブライブのキャラが出てくるの?と疑問に思う人もいるかと思いますが、これは次回作として考えている牙狼とラブライブのクロス作品のフラグになっています。
次回作にも統夜は出そうと思っているので。
そして現れた新キャラですが、その正体は次回明らかになります。
そして次回は統夜と阿号が初めてぶつかります。阿号の実力はどれほどのものなのか?
それでは、次回をお楽しみに!