今回はライブハウス回の続きになります。
ライブハウスでのライブ当日を迎えたが、統夜たちは無事にライブを成功させることは出来るのか?
それでは、第35話をどうぞ!
ライブハウスでのライブ当日、統夜たちは予定通り13時前に会場入りした。
会場で、統夜たちは律の友達であり、「ラブクライシス」というバンドのドラムをしているマキと知り合った。
その後、「ラブクライシス」のベース担当のアヤとも知り合うのだが、アヤは以前ホラーに襲われそうになったところを統夜に助けられたことがあった。
アヤは統夜とライブハウスで再会し、その時のお礼を統夜に言おうとするが、統夜は訳ありで話を誤魔化していた。
渋々納得したアヤであったが、改めてお礼がしたいとのことで、連絡先の交換を行った。
そんな統夜を見て唯たちは嫉妬するが、これからライブの準備でバタバタするため、統夜に怒っている暇はなかった。
こうしてライブのミーティングが行われ、ライブのスケジュール表が配られた。
「おぉ!私たち2番目だ!」
「……2番か……」
唯や澪の言う通り、統夜たち「放課後ティータイム」の出番は2番目だった。
出演順を確認していると……。
「すいませーん!これ、バックステージパスです」
ライブハウスのスタッフの男性が、ライブで必要になるバックステージパスを人数分手渡した。
「あっ、ありがとうございます」
統夜はスタッフに礼を言い、スタッフはペコリと頭を下げると、そのまま次の仕事へと向かっていった。
「ねぇねぇ!これってどこに貼ればいいの?」
唯は初めて見るパスの貼り方を聞くが、他のバンドのギターが目に入り、貼る場所を理解した。
「あぁ、あそこか!」
唯たちが目にしたギターには多くのパスが貼っており、それだけ経験を積んでいるということが理解出来た。
「へぇ、ずいぶんと経験値が高いバンドなんだな」
「あぁ、すげぇよな……」
「じゃあさ、私たちはこれが1枚目だね!」
統夜と律は多くのパスを貼ってあるギターに驚くが、唯はこの1枚目のパスを喜んでいた。
「はいっ!」
「ちなみに体の見えるところに貼っておけよ。ギターケースにパスを貼るのはライブが終わってからだからな」
統夜は唯は必ず貼る場所を間違えると思い、どこに貼るのか指示していた。
唯は統夜の指示で誰の目にもつきやすい左腕につけたのだが……。
「なんか無難なところだなぁ……」
パスを貼った場所に納得していないようだった。
「それじゃあ、次はセッティングシートを書こうぜ!」
律はミーティングの時に渡されたセッティングシートを取り出した。
このセッティングシートはライブの時に照明や音響をどのようにするのかを書くもので、ライブハウスのスタッフがシートに書かれた指示通りに照明や音響の操作をしてくれる。
「色々書くところがあるんだねぇ」
「まぁ、曲名や曲調は決まってるからいいとして……」
「照明のイメージって?」
「そこなんだよなぁ」
唯と律がやり取りしていたように、いきなりどう書いていいのかわからなくなってしまった。
「……どう書けばいいのかしら……」
統夜たちは途方に暮れていたのだが……。
『そこは元気よく!とかポップな感じで!とかそんな感じでいいんじゃないか?』
まさかイルバがアドバイスしてくれるとは思っていなかったのか、唯たちは驚いていた。
「い、イルバ……。わかるのか!?」
『まぁな。俺様は魔導輪だからな』
「ドヤ顔するなよな……」
統夜は何故かドヤ顔をするイルバにツッコミを入れていた。
「と、とにかく!そんな感じで書こうぜ!」
律はイルバのアドバイス通りに照明のイメージ欄を書こうとするが……。
「ま、待って!」
何故か澪が書き込みを止め、統夜たちは首を傾げていた。
「うちは……。全部ピンクで!」
澪は照明を最初から最後までピンクにしようととんでもない提案をしていた。
「ぴ、ピンクですか!?」
「……ダメ?」
「さすがに全部はな……」
「そ、そうだな!それじゃあふわふわ時間のサビはピンクで行くか!」
律が妥協案を提案すると、澪の表情がぱぁっと明るくなっていた。
「ねぇねぇ!ミラーボールも使おうよ!」
「お、前奏と間奏に入れたら面白いかもな」
唯の提案に、統夜は賛成の意見を出していた。
それはみんなも同じだったので、前奏と間奏にミラーボールを使うことが決まった。
「……あとは……。ズバッとあたしにピンスポットを当ててもらってもいいかな♪」
「な、何で律先輩だけに!メンバー紹介の時に1人ずつ照明当ててもらいましょうよ!」
律の提案に梓が付け加えるように提案した。
「ギー太もね!」
「おいおい、ギターにピンスポはいるのか?」
統夜はギターにまでピンスポットを当てさせようとする唯にツッコミを入れていた。
「あと、イルイルにも!」
『俺様はいらん!それと、俺様を変なあだ名で呼ぶな!』
唯とイルバはいつものようなやり取りをしていた。
「わ、私はいらないから!」
そんな中、澪は自分にスポットライトが当たるのが恥ずかしいのか、ピンスポットの意見を拒否していた。
「ベースが転んだらすかさずスポットを……」
「絶対転ばない!」
律は意地でも澪にライトを当てさせようとするが、やはり澪は拒否していた。
「ねぇねぇ、音響のイメージはどうすればいいのかな?」
紬は新しい項目について聞いていたのだが……。
『そこはだな、例えば三曲目にリバーブくれとか、この時にボーカルいっぱいくれとかそんな感じでいいんじゃないのか?』
「なるほどな……。じゃあ、そんな感じで♪」
律はイルバのアドバイス通りに用紙を記入していたが、すぐにペンが止まった。
「……なぁ、MCはどこに入れればいいのかな?」
『仕方ないな……。統夜、書くのを変わってやれ』
「わ、わかった」
統夜は律からペンと用紙を受け取ると、ここから統夜が用紙を書くことになった。
『統夜。俺様がアドバイスをするからそれ通りに書くんだ』
「あぁ、わかったよ」
統夜はイルバのアドバイスを聞きながらセッティングシートの全ての項目を埋めることが出来た。
統夜たちは何故かこのような知識に詳しいイルバに驚いていたが、イルバは誇らしげにドヤ顔をしていた。
※※※
セッティングシートを書き終わり、それを提出すると、各バンドのリハーサルの時間となった。
自分たちのリハーサルまでは時間があるのだが、他のバンドのリハーサルは勉強になるため、統夜たちは他のバンドのリハーサルを見学していた。
今リハーサルを行おうとしているのは、律の友達であるマキがいるバンドである「ラブクライシス」だった。
「他のバンドのリハも参考になるからな」
「確かにな。それに、こんな機会は滅多にないしな」
統夜たちは真剣な眼差しでリハーサルの準備をしているマキたちの様子を見ていた。
「あっ……」
そんな中、梓が何かを発見した。
「凄い……エフェクターがいっぱい……」
マキたち「ラブクライシス」のメンバーは複数のエフェクターを使用していた。
さらに……。
「あっ、マイマイクだ……。いくらくらいするのかな?」
律は準備しているマイクが自分たちの自前のマイクであるということに気付いた。
「ラブクライシス」は様々な機材を駆使しているため、それだけ予算をかけていることがわかる。
統夜たちは豊富な機材に関心していたのだが……。
「ねぇねぇ!お菓子も売ってるよ!あっ、りっちゃん!CDも売ってるよ!うわぁ、私たち売るものないねぇ、みおちゃん。……あ!ねぇねぇ、あずにゃん!私たちこれに映るのかなぁ!へぇ、凄いね、ムギちゃん!ワクワクするねぇ、やーくん!」
唯はあちこち見回しながら様々な物を発見する度に興奮して大声をあげていた。
はしゃぐ唯を見ていた統夜たちの顔が赤くなり、これ以上恥をかく前に唯を連れ出して、控え室に移動した。
それで唯が大人しくなれば良かったのだが、唯の興奮はまだ収まらなかった。
「うわぁ!放課後ティータイム“様”だって!“様”!!」
「「いいから落ち着け!!」」
未だ興奮する唯に統夜と澪が同時にツッコミをいれた。
そんな中……。
「お茶にしよっか♪」
相変わらずマイペースな紬はティータイムの準備をしていた。
《おいおい……。紬のやつ、緊張感がないんじゃないのか?》
(いや、いつも通りでいられるのは逆に凄いと思うけどな)
統夜とイルバはテレパシーでこのような会話をしていたが、律と梓もいつも通りな紬に驚いていた。
こうして統夜たちは自分たちのリハを待っている時間を使ってティータイムを行っていた。
「うーん、美味しいねぇ♪」
「それに、暖まるしな♪」
統夜たちは相変わらず美味しい紬の紅茶とお菓子に舌鼓を打っていた。
すると……。
「わぁ!いい香り!」
リハーサルを終えたマキたち「ラブクライシス」と、ビジュアル系の出で立ちをしている「デスバンバンジー」のメンバーが控え室に入ってきた。
「良かったらご一緒にお茶、いかがですか?」
紬はマキたちをティータイムに誘っていた。
「え?じゃあ……」
こうして「ラブクライシス」と「デスバンバンジー」のメンバーが加わり、大人数でのティータイムが始まった。
統夜たちは紅茶を飲みながら、自分たちとは違うバンドのメンバーと交流していた。
「……え?それじゃあ、色々なコンテストに出てるんだ」
律は「デスバンバンジー」のメンバーの話を聞いて驚いていた。
「あぁ、なかなか入賞出来ないけどね」
「でも、絶対にプロになりたいから」
「そうだよね、諦めたら終わりだもんね」
「デスバンバンジー」のメンバーの話にマキが乗っかった。
「そうだな。諦めなければ道は開けるもんな」
統夜がこうしみじみと呟くと、「ラブクライシス」と「デスバンバンジー」のメンバーはその言葉に関心していた。
「そうだね……。私たち、頑張るよ!」
統夜にとっては、さりげない言葉だったのだが、そのさりげない言葉でマキたちは絶対にプロになりたいという気持ちを強くしていた。
そんなひたむきな姿に唯たちは驚いていた。
それと同時に、目指せ武道館と軽々しく言っている自分たちが恥ずかしいと思ってしまっていた。
「……それにしてもあんたのその指輪、なかなかロックじゃん」
「デスバンバンジー」のメンバーで、赤髪の女性が統夜の指にはめられたイルバに注目していた。
「あぁ、これ?実はこれは俺の手作りでさぁ」
「へぇ、アクセサリー作れるんだな」
統夜の嘘に赤髪の女性は関心していた。
《おいおい、嘘とはいえ今のは聞き捨てならないな》
(まぁまぁ、とりあえずそういうことにしておいてくれよ)
統夜の嘘にイルバはテレパシーで抗議するが、統夜はそんなイルバをなだめていた。
統夜たちはこんな感じで、他のバンドのメンバーと交流していた。
その時だった。
「……放課後ティータイムさん!リハお願いします!」
リハの時間が迫っても来なかったのでスタッフが統夜たちを呼びに来た。
(やべ!ちょっとまったりし過ぎたな)
統夜たちは大慌てでステージに向かった。
そしてステージに立ったのは良かったのだが、初めて立つライブハウスのステージに緊張しているのか、統夜以外の全員がテンパっていた。
「ま、まずは何から……」
「と、とりあえずはセッティングだろ!」
「そ、そうね!」
紬はテンパっているからか明後日の方向を見て返事をしていた。
「だ!誰に言ってるんですか!」
梓はそんな紬にツッコミをいれるが、梓もテンパっていた。
統夜以外の全員はテンパってどうしていいのかわからず右往左往していた。
(まったく……仕方ないな……)
統夜はテンパる唯たちを見てため息をついていた。
そして……。
「お前ら!落ち着け!!」
統夜はよく通る声で怒鳴ると、唯たちはピタッと動きを止めた。
「そんなんじゃリハーサルにならないだろ?ほら、深呼吸をしろ」
統夜は唯たちに深呼吸をするよう告げると、唯たちは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。
「そうそう。そんな感じで落ち着いて行こうぜ。大丈夫、俺たちなら出来る!」
今度は優しくも力強い言葉で唯たちを諭すと、唯たちはようやく冷静さを取り戻した。
「うんうん、それじゃあ始めよう。唯、照明に見とれて歌詞を忘れないようにな」
「う、うん!わかった!」
「それじゃあ、4曲目「ふわふわ時間」のワンコーラスいきます!」
統夜がリハーサルの内容を宣言すると、律はスティックを叩いて合図を取り、ふわふわ時間の演奏を始めた。
統夜の叱咤激励が効いたのかリハーサルでミスらしいミスはなく、順調にリハーサルを終えた。
リハーサルを終え、後は本番を待つばかりだった。
統夜はリハーサルを終えて、のんびりしようとしたのだが……。
「あっ、月影統夜さん。入り口にあなたのお客さんが来てますよ」
「?お客さん?と、とりあえずわかりました」
スタッフは統夜に来客があることを告げると、そのまま次の仕事へ向かって行った。
「統夜先輩にお客さんって誰でしょうね?」
「わからないけど、とりあえず行ってくるよ」
統夜は入り口の来客に会うためにライブハウスの入り口に向かった。
ライブハウスの入り口に到着した統夜を待っていたのは……。
「統夜、来ちゃいました♪」
神官の服ではなく、清楚な白のワンピースを着たイレスだった。
「い……イレス様!?な、何でここに!?」
「もぉ……統夜ってば水臭いですよ。こんな楽しそうなイベントのことを黙ってたなんて……」
イレスはぷぅっと頬を膨らませていた。
「あっ、あの……。そ、それは……」
統夜はイレスにライブハウスでのライブを話していないのは事実だったので、統夜はどう弁解すればいいか困っていた。
しかし……。
「クスッ♪冗談ですよ♪実はライブハウスの話は前から唯に聞いていたのです」
「唯のやついつ話したんだよ……」
唯がいつの間にかイレスと接触していたことを知り、統夜は驚いていた。
(まぁ、大方イレスがふらっと番犬所を抜け出した時に唯に会ったのだろう)
イルバは何故イレスが唯と接触出来たかを何となく察することが出来た。
「私が言いたかったのはそこではなくて、本題は別にあるんです」
「!もしかして……」
「はい、指令です」
イレスは統夜に赤の指令書を手渡した。
「本当だったら大輝に頼む予定でしたが、大輝には別の指令を出していましてね」
「そう……ですか……」
ライブ直前に指令が来てしまい、統夜はガクッと肩を落としていた。
「統夜、ライブの演奏が終わり次第、ホラーを討滅するのです」
「わっ、わかりました」
「統夜、申し訳ないですが、頑張ってくださいね」
イレスは申し訳なさそうに統夜に指令を告げると、その場から立ち去っていった。
統夜は人目のつかないところに移動すると、魔法衣の懐から魔導ライターを取り出し、指令書を燃やして指令内容を確認した。
「……音を奏でし者をことごとく喰らうホラーあり。直ちに殲滅せよ」
統夜が指令内容を確認すると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。
『こいつはホラー、メロディアス。ホラーのくせに音楽を愛し、気に入らない音を出す連中を徹底的に喰らう少しおかしなホラーだぜ』
「……音楽のホラーか……。ということはこのライブに現れる可能性はあるかもな」
『そうだな、俺たちの出番が終わるまで奴が大人しくしてくれればいいが』
「あぁ。イルバ、ライブが終わったら俺はホラー探しを始めるが、その前に不審な動きがあった場合は教えてくれ」
『それはいいのだが、ライブ中にホラーが現れたらどうするつもりだ?』
「その時はライブ演出みたいな感じでどうにかするさ」
統夜はもしライブ中にホラーが近くに現れた時は、多少ライブをめちゃくちゃにしてもどうにかしようと思っていた。
「……とりあえず戻るか」
「あぁ、そうだな」
統夜とイルバは唯たちのもとに戻り、ライブが始まるまでは控え室で待機していた。
※※※
そして、ライブハウスでのライブは始まった。
統夜たち放課後ティータイムの出番は2番目だったので、その出番はすぐ来た。
唯のMCでライブは始まったのだが、統夜は演奏をしながらも周囲を警戒していた。
(……イルバ、ホラーの動きはどうだ?)
《今のところはまだ現れてないぜ。今向かってるのか、他の所で誰かを喰ってるか……》
(わかった。俺は演奏を続けるから引き続き警戒を頼む)
《あぁ、わかったぜ!》
イルバに周辺の警戒を頼んだ統夜は演奏に集中した。
今回のライブは準備期間が短かったにも関わらず、演奏のクオリティは高かった。
統夜たちは何故か本番には強く、練習がてんで駄目でも、本番で実力以上の演奏が出来るということはよくある話だった。
今回もそのような感じで、順調に演奏を続けていた。
そして、最後の曲である「ふわふわ時間」の演奏が始まった。
最後の曲ということもあって、統夜はより一層ホラーの出現を警戒していた。
しかし、イルバはこのライブハウス周辺でホラーの気配を探知することは出来なかった。
今のところはホラーが現れることはないということである。
最終的には放課後ティータイムのライブ中にホラーが現れることはなく、無事に統夜たちのライブは終了した。
ライブを終えた統夜たちは控え室に戻り、撤収の準備をしていた。
そんな中、統夜は足早にギターを片付け、帰り支度を整えていた。
「と、統夜先輩どうしたんですか?そんなに早く帰り支度をして」
「悪い、この後仕事があるんだ。だから俺は行かなきゃいけなくて」
梓の言葉に答えた統夜はもう完全に帰り支度を整えた。
「もしかして、ホラー?」
「そういうことだ」
「そんな……。この後打ち上げも兼ねて鍋をする予定なのに……」
「だったらさっさとホラーを倒して合流するさ。唯、どこで鍋をするか後でメールしといてくれ」
「う、うん。わかった」
「統夜先輩!気を付けて下さいね!」
「あぁ、俺は必ず戻って打ち上げに合流する。信じて待っててくれ」
統夜はそう唯たちに告げると、控え室を後にし、ライブハウスの入り口まで移動した。
『……統夜。ちょうどいいタイミングだ。ホラーのお出ましだぜ!』
イルバはホラーの気配を探知したのだが、統夜たちのすぐ近くだった。
統夜はライブハウスを出たのだが、ライブハウスを出てすぐにいかにも怪しい人を見つけた。
「……イルバ、あのいかにも挙動不審な動きをしてる奴が……」
『あぁ、ホラーみたいだぜ』
ホラーを発見した統夜はすぐさま挙動不審な動きをしてる男に駆け寄った。
「あの、すいません」
「あぁ?何だ、お前」
「ちょっとお話があるんですけど、いいですか?」
「俺は忙しいんだ。邪魔するな!」
「それは、お前がホラーだからか?」
「あぁ?お前何言って……」
統夜は魔法衣の懐から魔導ライターを取り出すと、火を出して男の瞳を照らした。
すると、男の瞳に不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。
それは、この男がホラーである証である。
「貴様!魔戒騎士か!まさかこんなに早く現れるとは……」
「貴様の事情は知らんけど、あそこのライブの邪魔はさせない!」
統夜は人目を気にして魔戒剣は取り出さず、格闘技の構えをとった。
「……はぁっ!」
統夜は素早い動きでパンチを放つと、殴られた男は吹き飛ばされてしまった。
(まずいな……。ここじゃ人目につく……)
統夜はここではまともに戦えないと判断し、どうにかこの場を移動出来ないかを考えていた。
『統夜!奴をあそこの路地裏に誘導するんだ!そうすれば多少は人目につかないと思うぜ!』
「わかった!」
統夜は男と格闘戦を繰り広げながら、イルバの指示を了承した。
統夜は男のパンチをかわすと、蹴りを放って男を吹き飛ばした。
その後、統夜はすかさず男の手を掴むと、すぐ近くの路地裏に投げ飛ばした。
「ぐぁっ!く、くそ……」
投げ飛ばされた男はすかさず逃げようとするが、統夜が立ちはだかったことにより、逃げ道を失った。
「これで思い切り戦えるな」
統夜は魔戒剣を抜くと、それを構えた。
「はぁっ!」
統夜は魔戒剣を一閃すると、男の体を斬り裂きすかさず蹴りを放って男を吹き飛ばした。
「おのれ……魔戒騎士!あそこの目障りな音楽を消すのを邪魔しやがって!」
男の狙いはやはり今行われているライブハウスのライブだった。
「悪いがな、ライブハウスのライブの邪魔はさせない!」
統夜は魔戒剣を構えながら男を睨みつけた。
「この……!こうなったら貴様を喰って目障りな音楽を潰してやる!」
男の体は少しずつ変化し、ホラーの姿へと変化した。
『統夜。こいつがメロディアスだ。気を付けろ!』
統夜の目の前に現れたホラーこそがメロディアスというホラーであり、様々な音を操るホラーである。
「あぁ、わかった!」
統夜はメロディアスに接近するが、その前に音符を飛ばす攻撃を繰り出してきた。
統夜は魔戒剣を何度も振るい、全ての音符を弾き飛ばした。
「どうした?これでフィナーレではないよな?」
「当然だ。ならば、これならどうだ!」
メロディアスはまるで指揮者のような動きをすると、まるで楽譜のような長い物体が出現し、それを統夜に向けて放った。
「……貴様の陰我、俺が断ち切る!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこに放たれる光に包まれたのと同時に、楽譜のような長い物体が統夜の体に巻き付いた。
しかし……。
統夜が奏狼の鎧を身に纏ったのと同時に、楽譜のような長い物体は消滅した。
「な、なんだと!?俺の自慢の音楽が……」
「だったら聞かせてやるよ!俺の音楽を!」
「な、なんの!!」
メロディアスは負けじと音符の塊を放つが、奏狼の鎧に傷一つつけることは出来なかった。
統夜は音符の塊による攻撃を受け止めながらメロディアスに近付いていった。
「くっ、くそ!」
「こいつで、フィナーレだ!!」
統夜は皇輝剣を一閃すると、メロディアスの体を真っ二つに斬り裂いた。
皇輝剣の一閃で斬り裂かれたメロディアスは断末魔をあげながら、消滅した。
メロディアスが消滅したことを確認した統夜は、鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。
「さて……思ったより早くホラーを討滅出来たな……」
統夜はライブハウスに出てすぐホラーを見つけたため、予想より早く仕事を終えていたのであった。
『どうする?ライブハウスに戻るか?それとも、大輝の応援に行くか?』
統夜に与えられた選択肢は、このままライブハウスにとんぼ返りするか、指令を受けている大輝の応援に行くかであった。
「うーん……。ライブハウスに戻るか。大輝さんならきっと大丈夫だ。俺は、みんなと一緒にいられる時間を大切にしたいからな」
統夜は少し考えた結果、このままライブハウスにとんぼ返りすることを選んだ。
統夜は魔戒騎士であるが故に、いつ命を落としてもおかしくはない。
それ故に大切な仲間である唯たちと一緒に過ごす時間は大切にしたい。
そう思っていたからである。
『まぁ、確かに大輝程の実力ならばお前さんの助けはいらないだろうな。ここはライブハウスに戻るとするか』
統夜は移動を開始すると、そのままライブハウスへ戻っていった。
ホラーと戦った場所がそれほどライブハウスから離れていなかったので、ライブハウスにはすぐ到着した。
統夜がライブハウスの中に入り、控え室に入ると、まだ控え室にいた唯たちは驚いていた。
「や、やーくん!?」
「ずいぶん早かったですね……。もしかして忘れ物……ですか?」
「いや、ホラーは討滅したよ。タイミング良く近くに潜伏してたからな」
「そ、そうなんだ……」
事情は理解したものの、唯たちはやはり驚きを隠せなかった。
「ところで、ライブの状況は?」
「ちょうど今4番目の出番の「デスバンバンジー」の演奏が終わったところだよ」
律が指さしたところを見ると、ライブを終えた「ブラックバンバンジー」のメンバーが楽器を片付けて撤収の準備をしていた。
「そうか……。それじゃあこのライブももう終盤ってことだな」
統夜がホラー討伐を行っている間に2つのバンドが出番を終えていた。
残るバンドは2バンドであり、この2バンドの演奏が終われば、統夜たちが出演したこのライブの第1部が終了となる。
統夜たちは控え室にあるテレビ画面から残りのバンドの演奏を聴いていた。
こうして第1部出演の6バンドの演奏が全て終了した。
統夜たちは現在、ライブハウスから出ていた。
「んー!終わったぁ!」
「終わったな」
唯は大きく伸びをして、唯の言葉に律が乗っかっていた。
「お疲れ様!」
さわ子、憂、和、純の4人が統夜たちを出迎えてくれた。
「あっ!さわちゃん先生!待っててくれたの?」
「……お姉ちゃん!」
憂と純が唯に駆け寄った。
「お姉ちゃん!凄く良かったよ!」
憂は唯たちの演奏に興奮していた。
「ありがとう♪」
「本当……みんな頑張ってたわね。格好良かったわよ」
和も唯たちの演奏をとても評価しており、唯たちの表情は明るくなっていた。
「……ありがとう!」
唯が和にお礼を言うと、ライブハウスの入り口の方から黄色い歓声が聞こえてきた。
統夜たちはその声の方を向くと、ラブクライシスのファンの子達がメンバーが出てきた瞬間に歓声をあげながら声をかけていたのである。
「すげぇな!」
「はい」
ラブクライシスのあまりの人気に律と梓は驚いていた。
「でも、私たちも和ちゃん、純ちゃん、憂、さわちゃん先生とみんな来てくれたよ」
ラブクライシスに比べたらファンは少ないが、自分たちを心から応援してくれる和たちの存在が、かけがえのないものだと唯は思っていた。
そして……。
「ありがとー!!」
唯はラブクライシスのメンバーたちに大声で呼びかけた。
すると、その声に気付いたのかこちらを見ていた。
「また!一緒にライブしよう!」
「お世話になりました!」
「ありがとう!」
「お疲れ様!」
「単独ライブ!頑張れよ!」
続いて律、梓、紬、澪、統夜の順でラブクライシスのメンバーに呼びかけをしていた。
「ありがとう!また誘うからね!」
統夜たちの呼びかけにマキが応え、近くにいたアヤも笑みを浮かべてこちらに手を振っていた。
「良いお年を!」
唯は年末定番の挨拶をすると、ラブクライシスのメンバーたちと別れた。
ライブハウスを後にした統夜たちはそのまま唯の家に向かい、打ち上げを行うことになったのである。
……続く。
__次回予告__
『今年も終わって新しい歳になるか。それで盛り上がれるとは人間ってやつは面白いぜ。次回、「年末年始」!今年もよろしく頼むぜ!』
無事にライブハウスでのライブを終えることが出来ました!
その後、統夜はすぐにホラーを見つけるというすごいタイミング(笑)
今回登場したホラー、メロディアスは、「牙狼 魔戒ノ花」に登場したアビスコアの色違いのホラーです。
アビスコアは黒ですが、メロディアスは青になっています。
色だけではなく、攻撃や戦い方もアビスコアとは異なります。
メロディアスの戦い方は仮面ライダーゴーストに出てくる「ベートーベン魂」に似た戦法になっています。
本来であれば年越しの下りも入れる予定でしたが、長くなりそうだったので、次回に持ち越しとなりました。
次回は年越しの話となるので、日常回となります。
それでは、次回をお楽しみに!