今回は前後編に分けて学園祭の話になります。
学園祭の話はけいおん要素だけではなく、牙狼要素も出していく予定です。
原作キャラも出てくるかも?
それでは、第30話をどうぞ!
律と澪のわずかな心のすれ違いの問題は無事に解決し、統夜たちのバンドも「放課後ティータイム」というバンド名を得た。
こうして学園祭に向けて本格的に動き始めると思いきや、再びとある問題が発生してしまった。
学園祭まであと4日なのだが、唯が風邪をひいてしまったのである。
時期的に考えれば、律の風邪が移ったと推測するのが自然なのだが、もう1つ唯が風邪を引いてしまった要因があった。
それはバンド名が決まった翌日に遡る。
「さてと、学園祭も近いことだし、そろそろステージ衣装を決めないとね!」
統夜たちがいつものようにお茶を飲んでいると、さわ子がこう話を切り出してきた。
「えぇ?別に制服でもいいじゃないですか!あんまり派手なのは嫌だし」
「何言ってるのよ!それじゃつまらないじゃない!」
さわ子はこう言いながらビシッと統夜を指差していた。
「アハハ……何言ってんだか……この人は……」
統夜は思ったことをボソッと呟いたのだが……。
「あぁん!?今なんて言ったぁ!?月影ぇ!!」
「すいませんでした!!」
デスメタルをやっていた頃の迫力でさわ子が統夜を睨みつけると、統夜は土下座で謝罪をしていた。
(怖え!この人、下手したらホラーより怖いぞ!)
《やれやれ……それはさすがにオーバーだろ……》
さわ子に怯える統夜をイルバはジト目で見ていた。
「……コホン!……それじゃあ、この中から選んで!」
さわ子はどこからか大量の衣装を持ってきた。
さわ子は統夜たちがまだ1年生の頃、初ライブの衣装を作ったのだが、それ以来衣装作りにハマってしまい、事あるごとに統夜たちに自分たちの作った衣装を着るよう強要したりもしていた。
唯たちは自分たちが知らない間にこれ程まで衣装が増えていることに驚いていた。
「例えばこの……ウェイトレスとかは?」
さわ子がウェイトレスの服を見せつけると、紬がいつの間にかウェイトレスの服を着てみんなに見せていた。
(おいおい……いつの間に着替えたんだよ……。それに、ここに男がいるんだから、知らんところで着替えるのはやめろよなぁ……)
統夜は紬が素早く着替えることに驚きながらも自重して欲しいと思っていた。
「絶対嫌だ!」
澪はウェイトレスの服を即答で拒否していた。
「それじゃあ、チャイナ服は?」
紬は続いてチャイナ服に着替えて、披露した。
「もっと嫌だ!」
澪はまたもや即答で拒否していた。
「それじゃあ、バニー!」
紬はその次、バニーに着替え、みんなに披露した。
「これはあり……かな?」
「マジかよ!?」
これも澪は拒否すると思っていたので、統夜は驚いていた。
「先生!なんだか楽しくなって来ました!」
「でしょぉ?なかなか着せ替え甲斐がある子よねぇ♪」
澪は混乱してしまい、平常の感覚を失い、さわ子は色々な服を着てくれる紬を見て楽しそうにしていた。
「帰ってこーい!」
律がドン引きしながらもツッコミを入れていた。
「仕方ないわね……。それならとっておきを見せてあげる!」
さわ子はとある衣装を紬に渡すと、紬は別室へ移動した。
「唯ちゃん、澪ちゃん。あなたたちはこれを着なさい」
さわ子は続いて唯と澪にとある衣装を渡し、2人も別室へと移動した。
そして数分後……。
「待たせたわね……。私自慢の衣装は……これよ!!」
さわ子の宣言と共に、唯、澪、紬の3人が出てきたのだが……。
「!!これは……」
『ほぉ、素材は全然違うだろうが、なかなか再現されているじゃないか……』
さわ子自慢の衣装に統夜は驚き、イルバは関心していた。
唯が着ているのが邪美の衣装を再現した衣装だった。
続いて澪が着ているのは烈花の衣装を再現した衣装だった。
そして紬が着ているのは見たことのない魔戒法師と思われる衣装だった。
「さわ子先生、これは?」
「ふっふっふ……。この前の事件の時に魔戒法師だったかしら?その2人の服を見たときにピーン!と来たのよ!それで、夏休みにこれらの衣装を再現したのよ!」
さわ子は邪美と烈花を見たときにこの2人の衣装を再現したいという思いだけで、再現したのである。
「それで、ムギの着てる衣装は?そんな衣装を着てる魔戒法師なんか見たことないですよ」
「あぁ、それね?それはね、私のオリジナルよ!魔戒法師の人はこんなの着てそうだなと思って作ったのよ!」
「マジか……!」
『この衣装の再現度は認めざるを得ないみたいだぜ』
統夜は改めてさわ子の衣装のクオリティの高さに驚き、イルバもダメ出しする所が思いつかなかった。
「確かにすげえな……」
「はい……。私も驚きです……」
さわ子の衣装のクオリティの高さに律と梓も驚いていた。
「ふっふっふ……。りっちゃんと梓ちゃんの分もあるわよ!」
さわ子は律と梓にもとっておきの衣装を手渡した。
「……梓、着てみるか?」
「はい……」
律と梓も着なきゃいけないという空気を感じ取り、別室へ移動した。
そして、数分後、律と梓は出てきたのだが……。
「おぉ!」
「りっちゃんもあずにゃんも似合ってるよ!」
律と梓が着ている衣装も統夜が見たことのない魔戒法師らしき衣装だった。
「うんうん、みんな似合ってるわね。私の目に狂いはなかったわ!」
5人にこの衣装を着せたさわ子はとても満足そうだった。
「だけど……やっぱり恥ずかしいかもしれないな……////」
烈花の服を着た澪は顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。
「いや、みんな似合ってるよ!これなら「放課後ティータイム」じゃなくて「魔戒歌劇団」でも問題なくいけるよ!」
『統夜。お前さん、まだ諦めきれてないんだな……』
統夜は今でも「魔戒歌劇団」というバンド名がいいと思っていたので、そんな統夜を見てイルバは呆れていた。
「この衣装格好いいですけど、私たちのバンドの雰囲気には合わないですよね」
「あー、確かにそうだな」
「他の衣装を決めよっか」
こうしてさわ子の魔戒法師を再現した衣装は好評価であったものの、バンドの雰囲気に合わないという理由で却下となった。
1度制服に着替え直した唯たちはしばらく衣装を物色していると……。
「ねぇ!見て見て!」
「これなんてどうですか?」
唯と梓は浴衣を改造した衣装を着ていた。
「ねぇねぇ、これ可愛いよぉ!」
唯はこの衣装をとても気に入ってたみたいだった。
「本当ねぇ。これなら動きやすそうだし」
紬も唯と梓が着ている衣装は好評価のようだった。
「まぁ、確かにこれなら……」
「あぁ、まだマシ……かな?」
律と澪の評価も悪くはなかった。
「ねぇねぇ、これにしようよぉ♪」
唯の熱いリクエストもあり、女性陣の衣装はこれで決定したのであった。
「まぁ、どうにか衣装が決まったか。さて、それじゃあ練習を……」
「何言ってるの?やーくんの衣装がまだ決まってないじゃん!」
「ヴェェ!?な、ナニヲイッテルノカナー」
統夜はまさか自分に矛先が向かってくるとは思っていなかったので、驚いていた。
「そうですよ!統夜先輩だけ制服じゃおかしいですし……」
「ふっふっふ……。もちろん、統夜君専用の衣装もたくさん用意しているわよ!」
さわ子はどこからか統夜専用の衣装を持ってきたが、その種類はなかなかのものであった。
「べ、別に俺はいいだろ!?」
「何言ってるんだよ。お前だけ衣装を着ないとかずるいじゃないか!」
統夜はどうにか制服のままいこうとするが、澪から抗議が入ってしまった。
「なぁ、みんな。みんなで統夜の衣装を決めないか?」
「まぁ♪それは名案ね♪」
「うん!りっちゃんに賛成♪」
「あぁ……いや……俺は……」
『統夜。どうやら逃げ道はないみたいだぞ!』
「そ、そうみたいだな……」
統夜は冷や汗をかきながらそれでも逃げ出そうとするのだが……。
「ムギちゃん!」
さわ子が指をパチンと鳴らすと、紬は統夜を捕まえた。
「ちょ!?ムギのやつ、なんて力だよ?動けないんですけど!」
統夜はどうにか脱出しようとジタバタするが、紬の腕力はかなりのものであり、脱出することが出来なかった。
そんな中……。
「「「「「「ふっふっふ……!」」」」」」
紬は統夜を捕まえながら黒い微笑みを浮かべ、残りの5人も黒い微笑みを浮かべながら統夜に近付いていった。
逃げる術を失った統夜の顔はみるみる真っ青になっていた。
「やめろ……来るな……!」
統夜の怯え方は強大な力を持つホラー、グォルブを倒した魔戒騎士とは思えないものだった。
それはイルバも思っていたようで……。
(やれやれ……。今の統夜はずいぶん情けない姿じゃないか。あのグォルブを討伐した魔戒騎士とは思えないぜ)
イルバはそんな統夜に呆れていたものの、この状況を楽しんでいた。
そして……。
「だっ……ダレカタスケテー!!!」
統夜の悲鳴が音楽準備室に響き渡る中、統夜の衣装選びが始まったのである。
その間、統夜は言わば軽音部の着せ替え人形と化してしまい、あれやこれやと思いついた衣装を着せられた。
最初は抵抗していた統夜も無駄とわかった時点で抵抗をやめ、そして、考えることをやめた。
イルバはそんな相棒の様子を見てただただ楽しみ、笑っているだけだったのである。
こうして、どうにか統夜の衣装は決まったのだが、この日の出来事が統夜のトラウマになったのは言うまでもなかった。
こうして衣装は決まったのだが、唯は浴衣を改造したような衣装が相当気に入ったようで、この日はその衣装のまま帰宅し、そのまま過ごしていた。
季節も秋になってきているため、浴衣で過ごすと当然寒く、冷えてしまったのも唯が風邪をひいた原因となっている。
放課後ティータイムのリードギターは唯の担当であったが、統夜はリードギターの練習もしていたので、最悪の場合、統夜はリードギターのパートと自分のパートを合わせて演奏することになったのである。
それを提案した澪は申し訳なさそうに統夜に頼んでいたのだが、統夜は「問題ない」と答えていた。
統夜はこの日から唯がいなくても曲のバランスを損なわないようにリードギターと自分のパートを合わせて必要な部分を演奏する練習を行っていた。
一見無謀なようにも見えるが、統夜が演奏するのは7割はリードギターのパートで、残りの3割が自分のパートなので、無茶なバランスにはなっておらず、どうにかなっていた。
時間の許す限り練習した統夜は1度番犬所に立ち寄った。
イレスに挨拶をした統夜は狼の像の口に魔戒剣を突き刺し、剣の浄化を行うと、魔戒剣を鞘に納めた。
「統夜、指令です」
この日はホラー討伐の指令があったので、統夜はイレスの付き人の秘書官から赤の指令書を受け取ると、それを魔導火で燃やし、指令を確認した。
「……わかりました。直ちにホラーを討滅します」
「頼みましたよ、統夜。……ところで、もうじき学園祭らしいですね」
「はい。4日後に行われます」
統夜は学園祭の日にちをイレスに伝えた。
「実は私も行きたいと思っているので、楽しみにしていますよ♪……ところで、練習の方は順調ですか?」
「いえ、実は……」
「?どうしました?」
「唯が風邪を引きましてね……。今の状態だと、本番に間に合うかどうか……」
イレスに本当のことを話した統夜の表情は深刻そうな表情であった。
「そうですか、それは心配ですね……。ですが、問題ありません。私は、統夜や軽音部のみんなを信じていますからね♪」
「イレス様……」
イレスの言葉は統夜にとってはかなり嬉しいものであった。
「統夜、魔戒騎士としての務めもそうですが、学園祭も頑張って下さいね」
「ありがとうございます!俺、頑張ります!」
統夜はイレスに深々と頭を下げると、そのまま番犬所を後にして、ホラーの捜索を開始した。
※※※
気が付けば夜になっており、統夜はイルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を続けていた。
そして指令書に書いてあるホラーを発見したのだが、そのホラーは素体ホラーであった。
「さて、明日も学祭の練習があるんだ。一気に決める!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれると、統夜は奏狼の鎧を召還した。
統夜は魔戒剣が変化した皇輝剣を一閃すると、一撃で素体ホラーを葬り去った。
素体ホラーを討滅したことを確認した統夜は鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。
ホラー討滅の指令を終えた統夜がそのまま家に帰ろうとしたその時だった。
「統夜……今日も見事だったな」
黒いコートを着た青年が統夜に声をかけてきた。
「……!零さん!お久しぶりです!」
その男は銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零であり、統夜と零はグォルブの事件以来会っていなかったので、久しぶりの対面となった。
「おう、久しぶり♪そういえば聞いたぞ、統夜。お前、閑岱で翼にみっちりしごかれたんだって?」
「アハハ……。翼さんには厳しく指導してもらいましたよ……」
統夜は翼との修業を思い出し、苦笑いをしていた。
「まぁ、その分強くなったみたいだな」
「あっ、ありがとうございます!」
「それはそうと、もうすぐ統夜の高校は学園祭なんだって?」
「えぇ。4日後ですよ」
「そっかぁ、鋼牙やカオルちゃんにも伝えとくよ。特にカオルちゃんが楽しみにしてたからさ♪」
現在、黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙と婚姻している御月カオルは、元々桜ヶ丘高校の卒業生であり、さわ子の同級生でもあった。
それ故に統夜が桜ヶ丘高校に入ったと知り、学園祭は行きたいと考えていたようである。
「そういえばカオルさん、桜高のOGですもんね」
「俺も楽しみにしてるんだぜ♪学園祭って出店が出るんだろ?クレープとか、チョコバナナとかスイーツもいっぱいあるだろうし♪」
(アハハ……学園祭当日、スイーツをやる店はあり得ないほどの戦場になるだろうな……)
零の甘党ぶりをよく知っている統夜はスイーツをやる店の繁盛ぶりを想像して苦笑いをしていた。
『ゼロ、学校のお祭りなんだからほどほどにしておきなさいよ』
零の相棒であるシルヴァがこう零をたしなめていた。
「わかってるって♪」
『はぁっ……本当かしら……』
零の甘党ぶりをよく理解しているシルヴァは苦笑いをしていた。
「さてと……それじゃあ俺は行くな。統夜!軽音部でライブもやるんだろ?そっちも楽しみにしてるからな!」
「はいっ!ありがとうございます!」
統夜は零に深々と頭を下げると、それを見た零は苦笑いをしながらその場から立ち去った。
『統夜。俺たちもそろそろ帰るか』
「あぁ、そうだな」
ホラーを討滅し、久しぶりに零と会うことが出来た統夜はそのまま帰路についた。
※※※
翌日の放課後、この日も唯は休みであったが、迫り来る学園祭に備えて練習していた。
現在はライブで演奏する「ふわふわ時間」の練習を行っていた。
__♪ジャジャーン!!
「統夜、どうだ?行けそう?」
「まぁ、なんとかって感じかな?正直なところまだまだ課題は山積みなんだけどな」
統夜はどうにかこなせてはいるものの、自分の演奏には納得していなかった。
「そ、そんなこと無いですよ!1日練習しただけでここまで出来るのはさすがです!」
「梓、そう言ってくれるのは嬉しいが、ダメ出しをくれた方が嬉しいかな?その方が改善点も見つけられるし……」
「えっ……その……」
『まぁまぁ、統夜。そんなに気張る必要はないぜ。今のまま練習をこなせれば問題ないと俺様は思うぜ』
梓にダメ出しを強要する統夜をイルバがたしなめていた。
「まぁ、確かにイルバの言う通りだけど……」
統夜はイルバの言葉は理解したが、納得はしていなかった。
「私もイルバの意見に賛成だ。統夜は魔戒騎士としての務めもあるんだろう?だからあまり無茶はしないでくれ」
「そうね、高望みすることも大事だけれど、まずは自分の体も大事にしないとね」
「そ、そうだな……」
澪と紬にもこう言われたため、統夜は納得せざるを得なかった。
その時だった。
「やっほー」
唯が音楽準備室に入ってきた。
「あっ、来た!」
「唯先輩!風邪は大丈夫なんですか?」
「え?あっ、風邪か……。ゴホッ!ゴホン!ゲフン!」
「わざとらしい……」
唯の咳がわざとらしい咳だったのか梓は呆れていた。
「それにしても唯ちゃんが元気になって良かったわぁ♪」
「はい!まだ治るまでかかりそうだって聞いてましたし」
「憂が真剣に看病してくれたんだよ!」
「っていうか治ったんなら朝からちゃんと来いよなぁ。みんな心配してたんだぞ」
「そ、そう!授業が終わる頃に良くなったの!」
「サボりたかっただけだろ……」
唯の言葉に律は呆れていた。
「……」
全員が唯が治ったことに喜ぶ中、統夜は何故か黙っており、ジト目で唯のことを見ていた。
(怪しい……。熱があるって言ってたよな?それってすぐ治るものなのか?それに、いつもの唯より少し声が高いような……。!まさか……!)
統夜は目の前にいる唯が本物の唯ではないと予想していた。
それはイルバも思っていたようで……。
《おい、統夜。あの唯なんだけどな……》
(イルバ、皆まで言わなくてもいいぞ。俺の予想が正しければあいつは……)
このような会話をテレパシーで行い、2人は目の前の唯は偽者だと確信していた。
「それよりも早く練習しましょう!ねっ、唯先輩♪」
「そ、そうだね!」
とりあえず唯が来たということで練習することになった。
(まぁ、実際の演奏となればこいつもボロを出すだろう)
統夜は演奏さえすればすぐにこの唯が偽者だとバレるだろうと思い、素直に演奏の準備を始めた。
全員の準備が整い、とりあえず先ほど練習していた「ふわふわ時間」を合わせることになった。
__♪ジャジャーン!!
「ジャーン♪」
ふわふわ時間の演奏が終わったのだが……。
((((あれ!?))))
唯(?)と梓以外の全員が今の演奏に違和感を感じていた。
それも下手という違和感ではなかった。
「なぁ……どう思う?」
「わからないけど……」
「たまたまじゃないか……?」
この違和感に澪、紬、律は困惑していた。
そんな中、統夜は……。
(アハハ……。まさかここまでとは……)
《あぁ、この演奏は本物以上のレベルだな》
(偶然だと言いたいけどな……)
統夜はこの違和感の正体がなんとなくわかっていたのだが、それを認めようとしなかった。
「……気のせいだとは思うけど、もう一回やってみよう!」
「そうね」
こうしてもう一度「ふわふわ時間」を演奏することになった。
__♪ジャジャーン!
「ふぅ……」
「「「「…………」」」」
やはり演奏に違和感があるのか、統夜、澪、律、紬の4人は無言になっていた。
「……なぁ、唯」
「は、はい!?」
「完璧に合いすぎる!今までこんな感触なかったのに!!」
「唯のリズムキープが正確過ぎるんだ!何があった!?」
唯(?)の演奏が非の打ち所がないほど完璧だったので、澪と律が唯(?)に詰め寄っていた。
「な、何も……」
(やっぱり……。どうりで今まで以上に合わせやすい訳だよ)
唯(?)の演奏が正確だったので統夜も普段より演奏しやすかったのである。
(ここまで機械みたいに完璧な演奏が出来る時点でやっぱりこの唯は偽者だな。ということはやっぱり……)
統夜はこの偽者の唯の正体の検討はついていた。
「いいじゃないですか!完璧に合ってるならそれで!私はすごく気持ち良かったです!」
「そうそう!“梓ちゃん”の言う通りだよ!」
「……え?」
梓も普段とは違う呼ばれ方のせいで目の前の唯(?)に違和感を感じていた。
「そ、そうよね?」
「何かいつもと違うから混乱しちゃったよ!」
「……“律さん”も“紬さん”も心配し過ぎだよ」
唯のこの一言で場の空気が一瞬で凍りついてしまった。
「えっ?律さん?」
「紬さん?」
言われた本人も困惑していた。
(あーあ……。やっぱりそうか。今のは完璧にボロを出したな)
統夜の疑惑も確信に変わっていた。
「もういいんじゃないか?これ以上はもう隠し通せないだろ」
「そうね……。もう唯ちゃんのフリはいいんじゃない?“憂ちゃん”」
統夜が唯(?)の正体を明かそうとしたその時、いつの間にか現れたさわ子があっさりと正体を見抜いていた。
「「「「えっ!?憂ちゃん!?」」」」
澪、律、紬、梓の4人はまさか憂とは思っていなかったのか驚きを隠せなかった。
「みんなの目は誤魔化せても私の目は誤魔化せないわよ!だって……唯ちゃんよりおっぱい大きいじゃない!!」
「いやいやいや……そこかよ!?」
さわ子が憂と見抜いた理由に統夜がツッコミを入れるが、その本人は恥ずかしいのか両手で胸を隠していた。
「な、ナンノコトヤラ……」
唯(?)は動揺したのかしどろもどろになっていた。
そのため、声色もどことなく憂に近付いていた。
「じゃあ私のあだ名言ってみて!」
「あ、ああああ……あずさ2号!!」
「偽者だ!!」
ここで唯(?)の正体が憂であることが明白になった。
(あずさ2号って……)
《そんな感じの曲があった気がするな》
(あぁ、確かに)
唯(?)の正体が発覚した中、統夜とイルバはテレパシーでこんなくだらないやり取りをしていた。
「ごめんなさい……。お姉ちゃん、まだ具合悪くて……」
憂は正体がバレて観念したのかいつものポニーテールに戻っていた。
とりあえず練習は一時中断となり、統夜たちはいつもの席に座っていた。
「それにしても似てたなぁ……。全く気付かなかったよ」
澪は憂の完璧な変装に驚きを隠せなかった。
「なぁ、統夜。お前、あの時一言も喋らなかったけど、さわちゃんより早く正体を見抜いていたのか?」
「まぁ、最初から怪しいとは思ってたんだけどな……」
「さ、さすがは魔戒騎士ですね……」
統夜が最初から憂の変装を怪しいと思っていたことを知り、梓は驚いていた。
「もしかしてぇ……統夜も憂ちゃんの胸見てわかったのかぁ?」
律はニヤニヤしながら統夜をからかっていた。
「違うっての!そもそも演奏がまるで機械みたいに正確だったろ?だからおかしいって思ったんだよ」
「まぁ、確かにあれだけ完璧だったからな……」
「それよりも、憂ちゃんってギター弾けたのね!」
「いえ。お姉ちゃんに何回か触らせてもらっただけで……」
憂は唯に何回かギターを触らせてもらい、唯にギターの弾き方を教えているうちにここまで弾けるようになったという。
「な……!なん……だと……!?何回か触っただけでここまで弾けるなんて凄すぎだろ!」
統夜は憂の才能に驚きながらも少しだけ嫉妬していた。
「そ、そんな……私は……」
統夜に褒められて嬉しかったのか憂は頬を赤らめていた。
「……このまま唯には休んでもらった方がいいのかも」
「「おいおい」」
律の言葉に統夜と澪が同時にツッコミを入れていた。
「梓ちゃんもごめんね。なんかベッドで寝てるお姉ちゃんを見てたら、居ても立っても居られなくて……」
憂は申し訳なさそうに梓に頭を下げていた。
『憂、気にすることはないぜ。お前さんは唯やこいつらのためにやってくれたんだろう?』
「イルバの言う通りだよ!私も憂がそこまでやってくれて嬉しかったよ♪」
「イルバ……梓ちゃん……」
イルバと梓のフォローが嬉しかったのか、憂は少しだけ涙目になっていた。
このようなやり取りをしていたその時であった。
「やっほー」
今度は本物の唯が音楽準備室に入ってきた。
「うわ!激しくデジャブ!」
「唯先輩!」
「ごめんねぇ、心配かけて」
統夜たちは唯に歩み寄っていた。
「唯ちゃん、大丈夫なの?」
「うん!さっき起きたらねぇ、なんか元気になっててねぇ。……ふぇ、ふぇ、ふぇっくしっ!!」
「!やべっ!!」
唯が思い切りくしゃみをし、その時飛び出した鼻水が統夜に迫るが、統夜が咄嗟にかわしたことにより、鼻水は律の顔面に直撃した。
「……汚ねぇー」
律は鼻水が直撃したことで唖然としていた。
憂は唯が持ってきたティッシュの箱からティッシュを取り出すと、唯の鼻をちーん!としていた。
「だからねぇ、もう大丈夫♪」
「嘘つけ!……あぁ、あたしにも1枚」
律は憂からティッシュを受け取り、顔面を拭いていた。
「……統夜、お前!咄嗟によけるなよなぁ!お前がよけたからあたしに当たっただろうが!」
統夜が鼻水をかわしたことが納得できず、律は統夜に抗議していた。
「んなこと言ったって仕方ないだろ?体が勝手に動いたんだから」
統夜はホラーとの戦いでもギリギリのところで攻撃をかわすということがあるので、そのクセが私生活でも出てしまった結果だった。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい」
梓がそんな律をなだめていた。
「……あっ!ギー太!こんなところにいたのかぁ♪」
唯は長椅子に置かれたギー太こと自分のギターを見つけると、それを手に取ろうとするのだが……。
「よっこいしょ……って重っ!」
風邪で力が入らないのかギターを持った瞬間、ゆっくりとその場に倒れ込んでしまった!
「お姉ちゃん!」
「まったく、しょうがないな……」
統夜は唯のギターを別の場所に移動させると、唯を抱き抱え、長椅子に寝かせた。
(……?何でみんなはそこまでドス黒いオーラを出しているんだ?)
唯を長椅子に寝かせた後に後ろを振り返ると、澪、律、紬、梓、憂がドス黒いオーラを出して統夜を睨みつけており、統夜は首を傾げていた。
《やはりお前さんはわからないか……。相変わらず鈍い奴だぜ》
(?どういう事だ?)
統夜はイルバの言葉の意味が理解出来なかった。
その後、保健室から体温計を借りて唯の体温を測りながら紬が冷たいタオルを唯の額に当てたりして唯の看病をしていた。
やがて体温計の測定が終わり、澪が温度を見ると、澪は驚きを隠せなかった。
「!!まだ全然熱下がってないじゃないか!」
唯の熱はまだ全然下がっていなかったのである。
「ごめんね……。やっぱり駄目だね……。私抜きで本番の方がいいかも……」
「そんな……」
「あずにゃん……やーくん……ギターは任せたよ……」
唯は弱々しい口調で梓と統夜にギターを託そうとしたいた。
「「……」」
統夜と梓は何も答えず黙っていた。
しばらく考えた後に統夜は口を開いた。
「……断る」
「えっ?」
統夜の言葉に唯は驚いていた。
それは澪たちも同様であり、全員の視線が統夜に集中していた。
「断るって言ったんだ!学園祭までまだ3日もあるだろうが。そう簡単に諦めるんじゃねぇよ!」
「やーくん……」
「私も統夜先輩と同じ意見です」
「統夜さん……梓ちゃん……」
「やっぱり駄目ですよ!みんなで出来ないなら辞退した方がマシです!」
梓は目に涙をいっぱい溜めてこう言い放った。
そして居た堪れなくなった梓はその場から逃げ出そうとするが……。
「梓!逃げるな!!」
統夜の剣幕を聞いた梓はすぐさま立ち止まった。
「統夜先輩……」
「唯、お前だってわかってるだろう?俺たちは6人揃ってこそ「放課後ティータイム」なんだ。唯抜きのライブなんて意味ないしやる価値もない」
「やーくん……」
『そうは言うが唯はこの状態なんだ。統夜、お前はいったいどうしたいんだ?』
イルバはあえて厳しい言葉を統夜にぶつけていた。
「そうだな……」
統夜は目を閉じて少しだけ考え事をしていた。
そして……。
「唯、お前に指令を与える」
「え?指令?」
「そうだ。これはお前にしか出来ない指令だ」
統夜の言葉に唯だけではなく、この場にいた全員が驚き、統夜の言葉を聞いていた。
「唯、お前はこれから本番までゆっくり体を休めて風邪を完全に治せ。それまでは何があろうと軽音部に来る事は許さん」
「やーくん……」
「お前は完全に風邪を治して全員で本番を迎えるんだ。だから絶対に諦めるな!」
統夜は唯に風邪を治すことに専念するように伝えた。
「……うん!わかったよ!」
「そして、梓!」
「はっ、はい」
「お前にも指令を与える!」
「えっ?私に……ですか?」
梓は自分にまで話が来るとは思っていなかったので驚いていた。
「今やっているパートの他にリードギターのパートも練習しておくように。これは唯がどうこうという訳じゃなくて今後のためにな」
「統夜先輩……。……はい!わかりました!」
「もちろん俺も今やってる練習は継続する。今後のためにな。……みんな!今俺たちが出来る精一杯のことをやろう!」
統夜の言葉に全員が頷いていた。
その後、唯は憂に付き添われて帰り、練習を再開した。
この日はみっちりと練習を行い、この日は解散となった。
本番が刻一刻と迫る中、統夜たちは今自分たちに出来ることをやろうと決意し、日々を過ごしていた。
そして月日は流れ、学園祭当日となったのであった。
……続く。
__次回予告__
『いよいよこの時が来たな。お前らがどんな演奏をするのか見せてもらおうか!次回、「学祭 後編」。その調べを響かせろ!放課後ティータイム!」
さわちゃんマジで半端ない(笑)
今回は学園祭に向けての準備+コスプレ回でした(笑)
唯たちが着た衣装は魔戒法師の衣装を再現したものになっています。
その衣装は以下の通りになっています。
唯→邪美
澪→烈花
紬→莉杏
梓→リュメ様
律→エマ(炎の刻印ver)
もちろん本物の素材ではありませんが、魔戒法師の衣装を再現したさわちゃんはマジで半端ないですよね(笑)
そして次回の後編はいよいよ学園祭当日です。
風邪をひいた唯は無事に治して間に合わせることは出来るのか?
そして、学園祭のライブは無事成功するのか?
それでは、次回をお楽しみに!