今回もけいおんメインではありますが、牙狼要素も少しだけ出てきます。
話は変わりますが、「牙狼 魔界の迷宮」という牙狼のスマホゲームが出ましたね。皆さんはやっていますか?
僕も一応はやってます。あまり進んでないけど(笑)
この小説のオリ主と同じ名前の統夜でやってますので、見かけたらよろしくお願いします。
それでは第29話をどうぞ!
学園祭が近付いており、統夜たちは学園祭ライブに向けて練習を行おうとした。
しかし、唯がギターのメンテナンスをしなければいけないことを知らなかったので、ギターの弦は錆び、汚れも目立っていた。
統夜たちはこの状況をなんとかするために楽器店へ向かい、ギターのメンテナンスを依頼した。
その帰り辺りから律の様子が少しだけおかしくなっていた。
統夜はそのことに勘付いたのだが、その原因がわからず困惑していた。
そして翌日、統夜はいつものようにエレメントの浄化を終わらせた後に登校した。
その日の昼休み、統夜たちは音楽準備室にいた。
学園祭が近いから昼休みも練習しようという律の提案からである。
統夜はパンを手早く食べたので良かったのだが、他のメンバーは昼食も中途半端な状態で練習に参加することになったのである。
全員集まったところでそれぞれ楽器の準備を始めていた。
「今年は澪、何をしてくれるかなぁ」
準備の途中で律が不意に口を開けた。
澪はそんな律の言葉を聞き流し、むすーっとしながらベースのチューニングをしていた。
澪も昼食の途中で半ば強引に律に連れ出されたので、機嫌を損ねているのである。
「去年はパンチラだったし、今年はヘソ出しとかなぁ?あっ、それとも……」
「練習するんだろ!!」
澪は声を荒げ、それを聞いた統夜たちの視線は澪に向いていた。
それと同時にいつもとは違う空気を感じ取ったのか不安そうに見つめていた。
「もちろんするよぉ!」
「?だったら……」
「たこ焼きぃ♪」
澪が困惑する中、律が澪をからかい始めていた。
「……三つ編みぃ♪……ポニテぇ♪」
続いて律は澪の髪で遊び始めた。
統夜たちはどうしていいのかわからず、そのやり取りを見てることしか出来なかった。
「やめろって!」
澪も律の行動に困惑していたのだが、髪をいじって遊ぶ律を振りほどいていた。
「もぉ!何なんだよ!」
「あっ、そうだ!澪にオススメのホラー映画があるんだけどさ!」
「うっ!……れ、練習しないなら教室戻るからな!」
「ふーん、戻れば?」
澪の言葉に律はこう返したのだが、それは澪だけではなく、統夜たちにも予想出来ないものだった。
「悪かったよ。和との楽しいランチタイムを“邪魔”してさ」
律は一切笑わずにこう言い放っていた。
その際“邪魔”と言う言葉が強調されてるようにも聞こえた。
「そんなこと言ってないだろ!!」
律の言葉が癇に障ったのか、澪の剣幕が音楽準備室内に響き渡っていた。
「ど……どうしたの?」
あまりにも重苦しい空気を感じて、唯は怯えていた。
「お、お茶にしない?お茶にしようよ。ね?」
紬はこの重い空気をどうにか和ませようとこう提案するものの、空振りに終わって涙目になっていた。
(ど……どうしよう……なんとかしなきゃ……)
梓はどうしていいのかわからず、オドオドしていたが、この空気をどうにかしようと考えていた。
そして、考え抜いて梓が思いついた行動とは……。
「み、みなさん!仲良く練習しましょ……う」
猫耳をつけて場の雰囲気を和ませようとした。
しかし、みんなは黙ったままであり、猫耳作戦が失敗したことで梓は恥ずかしそうにしていた。
「梓、よくやったな……」
統夜は一生懸命この場の雰囲気を和ませようと頑張った梓の頭を撫でていた。
「……みんな、とりあえず練習するぞ」
『統夜の言う通りだ。後輩の梓がここまで頑張ったのにそれを無下には出来ないだろう?』
「統夜先輩……イルバ……」
梓は統夜とイルバが自分のフォローをしてくれたことが何よりも嬉しかった。
「……そうだな」
「うん。練習……しよっか」
律と澪が了承したことで統夜たちは練習することになった。
準備を終えた統夜たちは「ふわふわ時間」の演奏を始めたのだが……。
「……?」
ドラムの音があまりにも小さかったので、統夜たちは演奏に違和感を感じていた。
しばらく演奏した後にすぐ演奏を止めた。
「……律?あのさ……ドラムが走らないのは良いけど、パワー足りなくないか?」
「……」
律は澪の話を聞いておらず、何故かぼうっとしていた。
(……あれ?律の奴、なんか様子が変だな……。やる気がないにしても変だし……)
統夜は律が何故ここまでぼうっとしているのか疑問を持っていた。
(……!律のやつ、まさかとは思うけど……)
統夜は何か思い当たる節があるようだった。
「あー……ごめん、なんか調子出ないや……。また放課後ねぇ……」
律はそう言うとスティックを持って出て行った。
「あっ……りっちゃん!」
唯は慌てて律を追いかけようとするが……。
「いいよ、唯!」
澪は律を追いかけようとする唯を引き止め、扉を見つめていた。
「……バカ律……」
(……なぁ、イルバ。律の奴、もしかして……)
《あぁ、統夜の予想は当たってると思うぜ》
(それに、最近律の様子が変なのって律のやつが……)
《ほぉ、お前もようやく気付いたようだな》
(ようやくってイルバは気付いていたのかよ!?)
《まぁな。だが、俺様がこの問題を解決しても何の意味がないと思ったからな。この問題はお前らの力で解決するべきだ》
(まぁ……確かにそうだけど……)
統夜とイルバはテレパシーでこのような会話をしていた。
イルバは一足早く律の様子がおかしい原因を突き止めたのだが、統夜も律の様子がおかしい原因を何となくではあるが突き止めたのであった。
昼休みの練習は律の不在で何も出来ないまま、お開きとなってしまった。
その日の放課後、律は部活に現れることはなかった。
※※※
そして翌日、統夜はいつものようにエレメントの浄化を行っていた。
「……律のやつ、今日は部活に来るんだろうか……」
『さぁな』
「もう学祭も近いんだから何とかしないとな」
統夜はこのままでは学祭のライブどころではないので、この問題を解決させようと決意したのだが……。
『統夜。張り切るのは結構なのだが、明日が何の日か、忘れた訳ではないだろうな』
「明日が何の日かって?……あっ!まさか……」
明日が何の日か思い出した統夜は顔を真っ青にしていた。
『そう、明日は魔導輪に命を差し出す日なんだ。だから明日は学校も休まなければいけないことを忘れるなよ』
「そうだった……。だったら今日中にはある程度なんとかしないとな……」
魔導輪と契約した魔戒騎士は1カ月のうちの1日を魔導輪に捧げなければならないのである。
命を魔導輪に差し出している間は仮死状態となり、1日中眠り続けるため、学校はもちろん魔戒騎士の仕事も休まなければならないのである。
魔戒騎士が魔導輪に命を差し出す日は番犬所は把握しているため、わざわざ番犬所に報告をしなくても良いのである。
統夜は魔導輪に命を差し出さなければいけないので今日中にこの問題をある程度は解決させようと決めたのである。
朝のエレメントの浄化を終えた統夜はそのまま登校し、放課後になったのだが、この日も律は現れなかったのである。
「……りっちゃん……今日も来ないね……」
「律先輩……どうしたんでしょうか……」
律はこの日も現れなかったので、唯も梓も律のことを心配していた。
「それはやっぱり澪ちゃんが冷たいからじゃない?」
「え?」
さわ子の指摘に澪は困惑していた。
(まぁ、それは当たらずも遠からずって感じなんだけどな……)
統夜はさわ子の指摘は全く正解でも外れでもないと思っていた。
「軽音部のために……今日1日、りっちゃんのおもちゃになってきなさい!」
「ちょちょちょ……あんた、先生なのに何言ってるんですか!」
統夜はさわ子のとんでもない発言に思わずツッコミを入れてしまった。
「このままだとりっちゃんの心は荒んでいって……牛丼屋で食べきれもしない牛丼の特盛を頼み……。挙げ句の果てにはヘビメタの道へ突き進むことになるわ!」
統夜はさわ子の説明したことをストレートに想像してしまい、苦笑いをしていた。
「いやいやいや……それはおかしいでしょう?」
『統夜の言う通りだな。しかもそれは失恋した時のお前さんなんじゃないのか?』
統夜とイルバはジト目でさわ子にツッコミを入れていた。
「……あぁ!?」
さわ子はそんな統夜とイルバを睨みつけるが、統夜は苦笑いをしていた。
「でも……。このまま律先輩が戻らなかったら……学園祭のライブはどうなるんでしょうか……?」
梓は1番心配なことを指摘し、不安げな表情をしていた。
「練習しよう」
澪はそう言うと立ち上がった。
「でも……りっちゃんがいないのに……」
「仕方ないだろ」
「でも、律先輩を呼びに行かなくていいんですか?」
「……」
梓の質問に澪は何も答えなかった。
「……最近色々あったからな。気まずくて顔を合わせられないんだろ」
「!!そ、それは……」
「違うって言うのか?」
「……」
統夜の厳しい追及に澪は何も言うことは出来なかった。
「もしくは代わりのドラムを探すとかね」
さわ子の提案に統夜たちの視線がさわ子に集中していた。
「まぁ、この状況じゃそれもやむなしか……」
「そう言うことよ。まぁ、あくまでも万が一のことも考えとくってことだけど……」
「え……でも……」
唯たちは困惑していた。
急に律の代わりを探すなんて思ってもいなかったことだったからである。
そんな中……。
「りっちゃんの代わりはいません!!」
珍しく紬が声を荒げていた。
紬がこのような声を出すのは珍しいことで、統夜たちの視線は紬に集中していた。
「ムギちゃん……」
「待ってよう……。りっちゃんが来るの……待っていようよ……。りっちゃん……きっと来るから……」
「ムギ……」
紬の懇願するような言葉を聞いた統夜は優しく笑みを浮かべていた。
「そうだな。今さら律の代わりなんて思いつかないし、俺だって律のことは信じている。だからこそ、今俺たちに出来ることをしないとな」
「統夜君……」
紬は少しだけ流していた涙を拭き取ると、にっこりと笑っていた。
「みんな、律のことは俺に任せてくれないか?今日中に俺に出来ることをやろうと思っているんだ」
「えっ?これからですか?明日じゃ……ダメなんですか?」
「明日は、俺は学校を休まなきゃいけないんだよ」
「えっ?どうして?」
「俺がイルバと契約していることはみんな知っているだろう?魔導輪と契約した魔戒騎士は1カ月のうちの1日の命を魔導輪に捧げなければいけないんだよ」
「!もしかして、明日が……」
「あぁ。魔導輪に命を差し出す日だ」
「「「「「……」」」」」
魔戒騎士と魔導輪の秘密を改めて1つ知ることができて、唯たちは驚いていた。
「……!あ、そっか!だからやーくんは毎月必ず学校を休む日があるんだ!」
「そう言うことだ。風邪をひいたとかそう言う理由をずっと通して来たんだよ」
「統夜先輩の事情はわかりました。でも、律先輩がこんな状態なのに統夜先輩までいなくなるなんて……」
「そうは言っても1日だけだぞ。明後日には元気な顔を見せるさ。もちろん、律の元気な顔もな」
「統夜君……」
「と言う訳でみんなは学園祭に備えて練習をしてくれ。律のことは俺に任せろ」
そう言って統夜は立ち上がると、帰り支度を整えてそのまま音楽準備室を出て行った。
「統夜先輩……」
「ま、統夜君なら大丈夫でしょ?あの子は1度やるって言ったら最後までやり遂げる子だからね」
さわ子は統夜とあまり話すことはないのだが、統夜のことは魔戒騎士であることは抜きにしてこのような評価をしていた。
「そうね……。今は統夜君やりっちゃんを信じて、私たちは練習しましょう?」
「そうだな……」
「はいっ!そうですね!」
紬たちも今自分たちに出来ることをするということで、練習を開始したのであった。
※※※
音楽準備室を後にした統夜は、校内で1つだけとある用事を済ませてから学校を後にして、それから律の家へと向かった。
「さてと……これからが本番かな?」
統夜は気合を入れると、律の家のインターホンを押した。
『……はい!』
「あっ、すいません。俺は律さんと同じ軽音部の月影統夜です」
統夜は自分のことを明かすと、ドアの鍵が開いたので、そのまま中に入った。
中に入ると、玄関で出迎えてくれたのは中学生くらいの男の子だった。
「あの……姉ちゃんに何か用事ですか?」
(姉ちゃん?ということはこの子は律の弟って訳だな)
統夜は目の前の少年が律の弟であるとすぐに察しがついたのであった。
「あぁ。律とちょっと話があるんだけど、律はいるかな?」
「姉ちゃんなら、実は風邪で寝込んでて……」
(やっぱりな……!)
統夜は昨日の昼休みの練習の時から律が風邪をひいているのではないか?と予想していたが、その予想が見事に的中したのである。
「やっぱりそうだったんだね。実は話もそうなんだけど、それは律のお見舞いも兼ねてだったんだよ」
「なるほど……。とりあえず姉ちゃんなら部屋にいるんで、どうぞ」
「ありがとう。……えっと……」
「聡(さとし)です!田井中聡!」
「聡か……。ありがとう、邪魔するよ」
統夜は律の弟の名前を聞くと、そのまま中に入り、階段を上がって律の部屋に向かった。
律の部屋に到着すると、統夜はコンコンと部屋のドアをノックした。
「何?聡?」
「律、統夜だけど、入ってもいいか?」
「と、統夜!?」
律は統夜が家まで来るとは思っていなかったので驚いていた。
「あ、あぁ。いいぞ」
統夜は律の部屋に入ると、律はベッドにいた。
先ほどまで寝ていたのだろうが、起き上がったのである。
「おう、律。急に悪いな」
「……今日あたしが部活に来なかったことを怒ってるのか?」
「いや、怒ってないよ。俺は律の様子がおかしいと思って心配になったから来たんだよ」
「そ、そんな……。あたしの心配なんて……ゴホッゴホッ!」
律は言葉の途中で咳き込んでいた。
「やっぱりな」
「?統夜?」
「律、お前、風邪引いてるだろ。それも昨日あたりから」
「……!」
『驚くと言うことは本当のようだな』
イルバの問いかけに律は無言で頷いていた。
「とりあえずみんなにはまだ言ってないから安心しな。お前が風邪だってこの瞬間まで確信はなかったからさ、みんなに余計な不安を煽りたくなかったし……」
「やれやれ……統夜には敵わないな……」
律はこうボソッと呟いていた。
「その様子じゃ明日も学校に来るのは無理だよな?……だったら明日澪をお見舞いに行かせるからお前ら2人で腹割って話し合え」
「え?」
「俺はお前の事情はよくわからないけど、最近お前が変だったのは何か思うところがあったからだろ?だったらそれを全部澪にぶちまけるんだ。そしたら澪も思ってることをぶちまけるだろうからお前はそれを受け止めるんだ」
「……あたしに……出来るかな……」
「問題ない、お前らなら出来るさ。だって律と澪は親友……だろ?」
「……わかった……」
「それでいい。今日はもう遅いし、明日澪がお見舞いに来るよう手配するから」
統夜は自分が明日学校を休むことは告げずに明日澪をお見舞いに行かせることだけを伝えた。
「さて……俺がいちゃお前もゆっくり寝れないだろ?俺はそろそろお暇するよ」
統夜は律の部屋を出ようとするが……。
「なぁ、統夜」
律に呼び止められたので、統夜は足を止めた。
「ん?どうした、律?」
「……ありがと……」
「礼ならまだ早いぞ。礼を言うならまずは風邪を治すんだな」
統夜はそう告げると律の部屋を出て、そのまま律の家を後にした。
「……さてと……。これでお膳立ては終わったな」
統夜は律の家を眺めながらこう呟いた。
『あぁ。どうやらそうみたいだな』
(俺に出来るのはここまでだ……。律……澪……後はお前ら次第だからな)
『統夜。こっちの仕事は終わったんだ。今度は魔戒騎士の仕事をするぞ』
「あぁ、そうだな」
自分のやるべきことを終えた統夜は魔戒騎士としての務めを果たすために行動を開始した。
※※※
翌日の昼休み、澪は律の様子が気になったのか律の教室を覗くが、律の姿はなかった。
澪はそのまま自分の教室へ戻ろうとするが……。
「あっ、澪ちゃん!」
律のクラスメイトである紬と唯が澪を見つけて声をかけた。
「あっ……えっと……」
「実はりっちゃんね……」
「あぁ……律の様子を見に来た訳じゃなくて……その……」
澪は素直になれずついこのようなことを言うので、紬と唯は顔を見合わせていた。
「……学校休んでるの」
「……え?」
紬から告げられた言葉に澪は驚いていた。
「あとね、統夜君から伝言があるんだけど……」
「?統夜から?」
「うん。……今日の放課後、りっちゃんの様子を見るように……だって」
「統夜が……そんなことを?」
「うん!あとね、後はりっちゃんと澪ちゃん2人の問題だから2人次第だよ!とも言っていたわ」
「……」
統夜からの伝言を聞いた澪は言葉を失っていた。
統夜は昨日の夜に紬に電話をし、律が風邪であるということと、先ほどの言葉を澪に伝えて欲しいと伝えた。
統夜はこの日、学校を休むため自分が澪に伝えることが出来ないので、紬に伝言を託したのであった。
統夜の伝言を聞いて言葉を失っていた澪の表情が変わり、何かを決心したようであった。
その日の放課後、澪は部活を休むと、そのまま律の家へと向かった。
律のお見舞いに行くためである。
澪は律の家の中に入ると、階段を上がり、律の部屋に向かった。
そしてドアノブに手を伸ばしたその時だった。
「……みお?」
律は足音を聞いただけでそれが澪だとわかったようで、澪は驚きながらも部屋の中に入った。
「お前は超能力者か?」
澪は部屋の中に入ると、自分の荷物を置いた。
「わかるよぉ。澪の足音は……」
律の声はいつもより元気がなかったのだが、風邪なら仕方ないと澪は思っていた。
澪はベッドの近くに腰をおろした。
「風邪はどうなんだ?」
「うん。まだちょい熱がある……」
「ドラムに力なくても無理ないよな……」
「学園祭が近いのに……」
律は申し訳なさそうに言っていた。
「今は体を治すことだけ考えなよ。みんな待ってるからさ」
「みんなは怒ってる?」
こう質問をする律はとても不安そうだった。
「怒ってないよ」
「澪は?」
「ないよ。当たり前だろ」
澪は律を安心させるためなのか優しい口調で穏やかな表情だった。
「だけどさ……。やっぱり律のドラムがないと寂しいよ……。私はさ、走り気味でも勢いがあってパワフルな律のドラムが好きなんだよ」
「……プッ!プクククク……!」
律は布団をかぶり、笑いをこらえていた。
「なっ!律、お前!」
「もう治ったぁぁぁぁ!!」
律はそう言って起き上がるが、それで風邪は治ることはなく、くしゃみをして鼻水を垂らしていた。
「ほら、寝てなって。まだ熱があるんだからさ」
澪は律をベッドに寝かせていた。
「それじゃあ、私は帰るからな」
澪が立ち上がると、律が澪の手を握った。
「えぇ?寝るまでそばにいてよぉ!ねぇ、お願いみおぉ!!」
「クスッ……やれやれ……」
子供のように駄々をこねる律を見て、澪は優しい表情で笑みを浮かべていた。
「エヘヘ……」
律は満面の笑みを浮かべていた。
「……統夜には感謝しないといけないな……」
「?統夜に?」
「あぁ……。統夜のやつは最初からわかってたみたいだからな……」
「……そうかもしれないな……」
統夜は事情を理解した上で澪に律の家にお見舞いに行かせたのではないかと澪は推察していた。
「統夜ってさ、普段は魔戒騎士としての務めがあるから忙しいのに、みんなのことをよく見てるよな。……まぁ、あり得ない程の朴念仁だけど、優しいし、頼りになるし……」
「そうだな……」
「あたしさ……。和に嫉妬してたんだと思う。澪があたし以外の人と仲良くしてるのがなんか面白くないって思ってたんだと思う……。本当にごめんな」
律は自分の本音を澪にぶつけたのだが、澪はその時に律の様子がおかしかった原因がわかって納得していた。
それと同時に、楽器店に行った辺りから自分と律との間にわずかな心のすれ違いがあったことも理解した。
イルバはすぐさまその事情を理解し、統夜もその事情を理解したために、解決のために奔走していたのであった。
「私も律に謝らないとな……。私たちは長い付き合いだからこんなにすれ違うなんて思ってなかったんだよ……。だから、本当にごめんな」
「……うん」
お互いが本音をぶつけ合ったことにより、2人とも満足そうな表情をしていた。
律と澪とのやり取りから1時間が経過し、唯、紬、梓の3人が律の様子を見に来た。
「……お邪魔しまーす……。ねぇねぇ、りっちゃん……」
唯が律に声をかけようとするのだが……。
「シーッ!……今寝かしつけてるところなんだよ」
澪の穏やかな表情を見たことで問題が解決したことを察し、3人は安堵の表情をしていた。
そして唯たちはそのまま律のお見舞いをするのだが……。
「何で唯まで寝てるんだよ」
律のことを見ている間に唯まで寝てしまったのである。
「やれやれ……」
澪、紬、梓の3人は眠る律と唯を見て笑みを浮かべていた。
「ねぇねぇ、唯ちゃんが目を覚ましたら統夜君の様子を見に行かない?」
「いや、今日はもう帰ろう。統夜にとっては月に一度のゆっくり出来る日なんだ。ゆっくり休ませてあげよう」
「そうですね。唯先輩が起きたら私たちは帰りましょうか」
しばらくすると唯が目を覚ましたので、唯たちはそのまま律の家を後にして、この日は解散となった。
※※※
そして翌日の放課後……。
「ぜんかぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
完全に風邪を治した律は元気いっぱいであった。
ちなみに統夜も仮死状態で1日眠り続けていたので、いつもより元気いっぱいであった。
統夜は登校した後に問題が解決したことを澪から直接聞いていたのである。
「やれやれ……どうやら無事一件落着したみたいだな」
『そうだな、お前もお膳立てした甲斐があったんじゃないか?』
「そうだな。無事にこの問題が解決して良かったよ」
統夜は自分が昨日1日動けなかったものの、問題が無事に解決し、安堵していた。
「さて、学園祭まで時間がないし、気合入れていこうぜ!」
律の号令で統夜たちのやる気は全開だったのだが……。
「……っ!!あなたたち!講堂の使用届……出さなかったの!?」
和が血相を変えて音楽準備室に駆け込んで来た。
「あっ!」
重要な事実を思い出し、律だけではなく、唯たちの顔色が青ざめていた。
しかし、統夜だけは顔色1つ変えることなく、何故か余裕そうな表情を浮かべていた。
「……すいません!すいません!」
統夜たちは生徒会室にやってきており、律は生徒会長に頭を下げていた。
「でも規則は規則だから……」
どうにか講堂使用届の提出を待ってもらおうと交渉するが、生徒会長は首を縦には振らなかった。
「会長。私からもお願いします。届が出せなかったのは部長が風邪で欠席していたからですし……」
和も頭を下げて、助け舟を出していた。
「……あぁ、とりあえず、そこは問題ないよ。……そうですよね?会長?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
統夜の思いがけない言葉に和を含めた軽音部のみんなの視線が統夜に集中した。
「えぇ、その話は聞いていたからね」
「会長、あなたも人が悪いですね」
「いやぁ、こういうドッキリみたいなのが面白くて、つい♪」
統夜と生徒会長はこう話しながら笑い合っていた。
「な、なぁ統夜。これは一体どういうことなんだ?」
「簡単なことさ。一昨日、みんなと別れた後に真っ先に向かったのが生徒会室だったんだよ」
「生徒会室……ですか?」
「あぁ。あんなことがあったからみんな絶対に講堂使用届のことを忘れてると思ったからな。それで生徒会長と交渉したって訳だ」
統夜が事情を説明すると、唯たちは納得はしたものの、驚いていた。
「まぁ、前もって提出が遅れると申請してくれたので、今日か明日までは待つことにしたんです。……本来はダメなんですけどね」
本来であれば生徒会の規則で許可は出来ないのだが、きちんと理由を説明して提出が遅れると申請したので、特別に提出を待ってくれたのである。
「統夜先輩……。さすがは抜け目ないですね……」
「あぁ、まったくだよ……」
統夜の先を読んだ行動に唯たちは驚きを隠せなかった。
「とりあえず、一刻も早くバンド名を決めよう」
統夜たちは音楽準備室に戻り、再びバンド名を考えることになった。
「なぁ、やっぱり「ぴゅあぴゅあ」良くないか?」
澪は前回考えたバンド名が良いと今でも思ってるようだった。
「却下」
律は即座にその意見を切り捨てていた。
「握り拳!とかは?」
『おいおい、それじゃ演歌っぽいぞ』
唯のあまりに渋すぎる案にイルバがツッコミを入れていた。
「靴の裏のガム!」
唯はさらにと思いついたことを言っていた。
「今日、踏んだんだな」
「それに、完全に思いつきだよな、それは……」
律が推測し、統夜はツッコミを入れていた。
「それじゃあねぇ……箪笥の角に薬指とかは?」
「それはさすがに変だろ……って!薬指!?逆に器用だな、おい」
唯の奇抜すぎる発想に律は思わずツッコミをいれた。
『唯、話が進まないからお前さんは黙ってろ』
イルバにこう言われると、唯は膨れっ面になっていた。
「なぁ、ムギは何かいい案はないのか?」
「そうねぇ……充電期間とかどうかしら?」
「縁起悪っ!!」
紬の提案に統夜が思わずツッコミをいれていた。
「じゃあ、統夜はいい案はあるのか?」
「俺か?そうだな……狐の神様……三狐神囃子(いなりばやし)とかはどうだ?」
「狐って……あたしらに狐要素はないだろ」
律が統夜の案にツッコミを入れていた。
「衣装を狐っぽくしたら面白そうじゃないか?」
「わぁ♪可愛いかも♪」
紬は乗り気なのだが……。
「いや、さすがに私たちっぽくないですし、さすがに却下じゃないですか?」
「そうだな、却下だ」
「マジか!?我ながら名案と思ったんだけどなぁ……」
統夜は自分に意見が却下されたことに納得いかないようだった。
その後も色々アイディアを出し合うものの、なかなかいい案が出ず、あーだこーだと話していると、それをずっと聞いていたさわ子の怒りのボルテージが上がっていた。
そして……。
「まぁどろっこしい!!」
なかなか決まらないことに業を煮やしたさわ子が使用届を奪い取った。
「これじゃあゆっくりお茶も出来やしない。こんなのは適当でいいのよ」
さわ子は思いついたバンド名を適当に記入していた。
そのバンド名とは……。
「放課後ティータイムねぇ……」
『なるほどな、これならお前らにぴったりかもしれないな』
この放課後ティータイムというバンド名はイルバも好評価であった。
バンド名が決まり、完成した講堂使用届を和に渡すと、ホワイトボードにバンド名を書いて、記念写真を撮った。
ここからは学園祭に向かって突っ走っていく。
そう全員で決意したのだが、写真を撮った直後に唯がくしゃみをしていた。
それを見た統夜たちは大丈夫だろうかと不安にかられていた。
しかし、その不安は的中し、さらなる苦難が待ち受けることを統夜たちは知る由もなかった。
……続く。
__次回予告__
『やれやれ。律と澪の問題が解決したと思ったらこれか。一難去ってまた一難とはよく言ったものだぜ!次回、「学祭 前編」。学園祭まであとわずかだぜ!』
今回で、桜ヶ丘高校軽音部は「放課後ティータイム」というバンド名を得ました。
前回に続いて今回もだけど、統夜が考えるバンド名が牙狼のものばかりだ(笑)
まぁ、それは統夜が魔戒騎士だからという訳で(笑)
今回、初めて魔導輪に命を捧げる話をしました。
月に1度魔導輪に命を差し出さなければいけないので、その度に統夜は学校を休んでいます。
さて、次回は2話かけて学園祭の話になります。
ここはアニメ「けいおん!」一期の最終回ということで、話はだいぶ盛り上げていこうと考えています。
牙狼の原作キャラも出していこうとは思っています。
それでは、次回をお楽しみに!