今回は完全にけいおんメインの回になりますので、戦闘はありません。
魔戒烈伝は今回も面白かったですね!牙狼の中で理想の上司と言われるあの人の回でしたしね。
だけど、魔戒烈伝は今月で終わりみたいで残念です。
だけど、7月から初代牙狼のHDリマスター版が放送されるみたいなので、それは凄く楽しみにしています!
それでは、第28話をどうぞ!
長かった夏休みが終わり、新学期となった。
合宿が終わった後も統夜は魔戒騎士として忙しい日々を送っていた。
普段は朝からビッチリとエレメントの浄化を行い、夜はホラー狩りという魔戒騎士としては当たり前の日常であった。
夏休み中盤には白夜騎士打無である翼からの指令で閑岱の地へ赴き、翼と猛特訓を行ったりもした。
その数日後にはとある事件に巻き込まれ、数日間桜ヶ丘を空けたりもしていた。
このような出来事がありながらも夏休みは終了し、統夜は魔戒騎士としてさらなる成長を遂げていた。
そして2学期もそれなりに経過し、学園祭が近付いてきた。
この日の放課後、統夜たちはいつも通りティータイムを行っていた。
「……♪」
梓は鼻歌を歌いながらご機嫌な様子であった。
「どうしたの、あずにゃん?ご機嫌だねぇ」
「エヘヘ♪もうすぐ学祭でライブが出来ると思うとワクワクしちゃって♪」
梓がここまでご機嫌だったのは、もうすぐ学園祭でライブが出来ることが楽しみでワクワクしていたからであった。
『そういえば梓は学園祭でのライブは初めてだったな』
「はい!だからすごく楽しみなんです♪」
イルバの言う通り、今年の春にこの高校に入学した梓は初の学園祭ライブであるため、とても楽しみだったのである。
「私、去年の軽音部のライブも見たかったです!」
梓は去年の学園祭ライブを知らないので好奇心でこう言うのだが、紅茶を飲んでいた澪は梓の話を聞くと紅茶を吹き出してしまった。
「去年は澪、大活躍だったからなぁ」
律がニヤニヤしながら澪をからかうと、澪はブルブルと震えだした。
去年の軽音部のライブは澪がボーカルを務め、好評のまま幕を降ろした。
しかし、終了して撤収する時に澪はコードを足に引っ掛けて転んでしまった。
その時にスカートが捲れ上がってしまい、公衆の面前でのパンモロという出来事を起こしていたのである。
それ以降、去年の学園祭のライブは澪に取って最大級のトラウマとなってしまったのである。
「去年の学祭のライブならビデオに撮ってあるわよ!」
1枚のDVDを手にしたさわ子が音楽準備室に入ってきた。
そのDVDの中身を察した澪はビクンと肩をすくめていた。
「うわぁ!見たいです見たいです!」
梓は見たかったDVDにとても興味津々だった。
「あ、梓……考え直さないか?」
澪はどうしても去年のライブを見られたくないのか必死に止めようとしていた。
「仕方ないわね……唯ちゃん、りっちゃん!」
さわ子は指をパチン!と鳴らすと、唯と律の2人は澪を捕まえて無理矢理引っ張り出していた。
「はーなーせー!!」
澪は完全に動けなくなったのか涙目になっていた。
「それじゃあオススメシーンから……♪」
『おい、さわ子。そこは最初から再生した方がいいんじゃないのか?』
ノートパソコンの電源を入れ、DVD再生の準備をしているさわ子にこうイルバが言及していた。
「わかってないわね、イルバ。ただ単純に再生したら面白くないじゃない!」
「いやいやいや……そんなことないんじゃないのかなぁ」
統夜はさわ子の極論を聞いて苦笑いをしていた。
澪は「梓、やめとけ〜、呪われるぞぉ!」っと往生際が悪くDVD再生を阻止しようとしていた。
そしてDVDは再生され、ライブ後の映像が流された。
問題のシーンが流されてしまい……。
「み……見ちゃいました……」
問題のシーンを見た梓は顔を真っ赤にしていた。
「あぁ……」
そして何故か統夜も顔を真っ赤にしていた。
「!!と、統夜!お前まで見るなぁ!!」
DVDが再生された後解放された澪はテーブルに置いてあったバンド雑誌を統夜に投げつけた。
「ぐぇっ!!」
ちょうど本の角が統夜に直撃し、統夜はそのままダウンしてしまった。
『やれやれ……。とんだ災難だったな。このラッキースケベが……』
イルバはこう呟くと今までのやりとりに呆れていた。
統夜がダウンした状態で、今度はDVDを最初から再生した。
舞台の幕が上がると、ゴスロリのような衣装を着た4人と黒っぽいシャツを着た統夜の姿があった。
しばらくすると、演奏が始まり、梓はその演奏に聴き入っていた。
「……それにしてもライブの時だけは皆さん凄くいい演奏をしますよね」
梓は演奏を聴いて思ったことをポツリともらしていた。
「ほーお?言うようになったな。このぉ!」
律は梓の頭をグリグリとしていた。
「……ぷっ、ふふふっ!」
唯は去年のライブの演奏を聴いて急に吹き出すと、そのまま笑い出した。
「ん?何?」
唯の隣でライブの演奏を聴いていた紬は首を傾げていた。
「ふふっ……何か色々思い出して……ふふふ!」
唯は自分の歌声を聴いたときに去年のライブのことを思い出して笑っていた。
「あぁ、確かこの時、唯ちゃんは声が……ウフフ♪」
唯は去年の学園祭ライブの直前、歌とギターを同時にこなす練習をし過ぎたせいで喉を痛めてしまったのである。
そのためボーカルが唯から澪へと変更になり、どうにかライブを行うことが出来た。
その時唯はコーラスを担当したのだが、喉を痛めていたせいで声はカラカラであったのだ。
「……梓にとっては初めての学園祭でのライブだな」
梓の頭をグリグリしていた律は梓の肩を組むと、優しい口調でこう言っていた。
「はいっ!私、精一杯頑張ります!」
『まぁ、肩の力を抜いて頑張るんだな』
イルバも梓にエールを送っていた。
「盛り上がってるところ悪いんだけど……」
和が1枚のプリントを手に音楽準備室に入ってきた。
「あぁ、和。どうしたの?」
「どうしたのじゃないのよ。……これ!」
和が律に渡したのは講堂使用届と書かれた紙であった。
「学祭で使う講堂使用届……出してないでしょ?」
「え!?」
「あぁ、忘れてたわ」
「そんな呑気な!」
律は学祭に参加するにあたって必要な書類を出し忘れていたみたいで、梓は驚いていた。
「いやぁ、最近忙しくってさぁ」
『やれやれ。また書類の出し忘れか?律、お前さんが部長のはずなのに随分と頼りないじゃないか』
イルバも大事な書類を出し忘れても悠長にしている律に呆れていた。
「むっ!それを言うなよぉ!」
律はイルバに突っ込まれ、膨れっ面になっていた。
和は統夜が魔戒騎士であることを知っているので、イルバは遠慮なく口を開くことが出来たのである。
「とりあえずこいつを書くのが最優先みたいだな」
「そうですね……」
こうして統夜たちは講堂使用届を今この場で書くことになった。
「梓、お前書記頼むな」
律はそう言うと用紙とペンを梓に渡した。
「まぁ、いいですけど……」
梓は必要事項を記入していくのだが、すぐにペンが止まってしまった。
「あれ?名称ってバンド名でいいんですよね?そういえば、私たちのバンド名って何でしたっけ?」
梓は1番の疑問をぶつけていた。
「あっ、そういえばそうだな」
『俺様はてっきり桜高軽音部で定着していると思っていたがな』
「俺もそう思ってた。だけど、それは部活の名前だしなぁ」
『まぁ、バンド名を決めるいい機会かもな』
こうして統夜たちは講堂使用届を書くためにバンド名を決めることになった。
「それで……バンド名はどうします?」
「「「えっと……#$*〆%€*!!」」」
唯、律、澪がバンド名を言うが3人ともバラバラだったので、何を言っているのかわからなかった。
『おいおいおいおい!ちょっと待て!3人ともバラバラじゃないか!』
「イルバの言う通りだぞ!とりあえずどんなバンド名がないか1人1人意見を聞いていこうか」
統夜は話をまとめるために1人1人の意見を聞くことにした。
「んとねぇ……「平沢唯とずっこけシスターズ」はどうかな?」
「あたしらはいったい何の集団だよ」
『それに、シスターじゃないのが1人いる時点でそれはダメだろう』
律がツッコミを入れ、イルバがダメ出しをすると、唯はぷぅっと頬を膨らませていた。
「あのさぁ……。「ぴゅあぴゅあ」とかどうかな?」
「あぁ、ネタはいいから」
澪の意見を律が一蹴するのだが……。
「あぅぅ……。割と本気なのに……」
澪は自分の意見が却下され、涙目になっていた。
『おいおい、本気なのかよ?』
「まぁ、澪の感性は相変わらずってところだな」
統夜は澪が書く詞がとてもメルヘンなところがあるので、その感性が出ていると理解していた。
「ねぇねぇ、統夜君はいいアイディアはないの?」
紬はバンド名の案を統夜に振った。
「うーん……そうだなぁ……」
統夜は真面目な顔をして考え込んでいた。
「……あっ!「魔戒歌劇団」とかはどうだ?」
「歌劇団って……。あたしらは踊らないだろう?」
「それに、端から見たらちょっと厨二っぽいバンド名ですよね……」
「!!マジか!?」
自分の考えたバンド名が梓に少し厨二っぽいと思われてしまい、統夜は少しショックを受けていた。
「あっ、あの!そうは言っても私は悪くないって思ってるんですよ!」
梓はショックを受けていた統夜を必死にフォローしていた。
「よしわかった!私が決める!」
「「「「「「もう少しみんなで考えよう!」」」」」」
統夜たちは一丸となってさわ子の言葉をスルーしていた。
「それじゃあ後で書類は生徒会室に持ってきてね」
今すぐは決まらないと判断した和は生徒会室に戻ろうとしていた。
「ごめんな、和。待たせちゃって」
「いいよ」
澪が申し訳なさそうに詫びを入れると、和は笑顔で返してくれた。
「和ちゃん!たまには帰りにお茶しようよ!」
「わかった。後でメールするね」
和は笑顔でこう返すと、音楽準備室を後にし、生徒会室に戻っていった。
「さて……バンド名は各自考えるとして、練習しようぜ」
こうしてこのまま練習が始まろうとしていたのだが……。
「あっ、そうだ!ねぇねぇ、やーくん、あずにゃん。最近ちょっと音の調子が悪くて……」
「?何でしょうね?」
「とりあえず見せてくれないか?」
唯はギターケースから愛用のレスポールを取り出し、2人はそれを見たのだが……。
「……!これはこれは……!」
『これなら音の調子が悪いのも納得だぜ』
統夜はギターを見て唖然としており、イルバは冷静な分析をして納得していた。
「これ……弦錆びてるじゃないですか!これ、いつ弦を交換したんですか?」
「へっ?弦って交換するものなの?」
唯のとんでもない発言にその場の空気が一瞬凍りついていた。
「「「「「な、何ぃ!?」」」」」
唯を除く全員が唯の発言に驚いていた。
『やれやれ……。それは問題だぞ、唯。それは音楽に詳しくない俺様でも知っていることだぜ』
イルバはギターに関してあまりにも無知な唯に呆れていた。
「ネックは反ってるし、これじゃあオクターブチューニングもめちゃくちゃじゃないですか!」
梓の指摘は的確なものだったのだが……。
「落ち着け、梓!今の唯には到底理解出来ない!」
澪がフォローを入れたのだが、唯の思考は完全にオーバーヒートしていた。
「まぁ、わかりやすく言えば大事にしなきゃダメだろう?ってことだよ」
統夜はわかりやすく唯に説明したのだが……。
「むぅ……大事にしてるもん!」
唯がすぐさま反論していた。
「一緒に寝たりとか、服着せてあげたりとか……。とにかく大事にしてるんだから!」
「おいおい、大事にするベクトルが全然違うぞ!」
『ギターに服とか……。ギターは着せ替え人形じゃないぜ?』
統夜とイルバは的確なツッコミを入れていた。
「うぅ……。さわちゃん先生!なんとかしてよぉ!」
「えぇ!?」
唯はさわ子に助けを求めるが、さわ子は面倒くさそうなリアクションをしていた。
「そ、そういうのはお店に頼んだ方がいいんじゃないの?」
「先生、面倒くさいだけですね」
「………」
統夜の指摘が図星だったのかさわ子は苦笑いをしながら黙っていた。
「とりあえず今日は練習どころじゃないから楽器屋に行って治してもらおうか」
「えぇ!?そこまでしなくても……」
「唯、お前はギターのメンテは出来ないだろ?だったらプロに任せるべきだ。それに、唯のギターがそんなんじゃ俺たちも練習どころじゃないからな」
「うーん……。りっちゃんはお手入れなんてしてないよねぇ?」
唯は同志が欲しかったのか律に対してかなり失礼なことを言っていた。
「しとるわい」
「やーくんは?」
(おいおい、ここで俺に話を振るのかよ……)
今度は統夜に話が振られ、統夜は苦笑いをしていた。
「俺だってちゃんとメンテはしてるぞ。最近弦の張り替えをしたのは1週間くらい前か。それにいくら律がいい加減で大雑把でも楽器のメンテはちゃんとしてるんだ。だからしてなくても当たり前な言い方はやめるんだな」
「その通りだけど……。お前は一言多いんだよ!」
統夜の言葉が気に入らなかったのか、律は統夜に拳骨をお見舞いした。
統夜は律の拳骨を受けるとしばらくの間うずくまっていた。
※※※
こうして統夜たちは唯のギターのメンテナンスをお願いするために行きつけの楽器店である「10GIA」と呼ばれる店へと向かった。
「……私はここで待ってるよ」
店の入り口に到着するなり澪がこう言い出した。
「え?何でですか?」
「私、左利きだし……。右利き用の楽器を見ても悲しくなるだけだし……」
楽器店は主に右利き用の楽器を主に扱っているため、左利き用の楽器は少なく、左利き用の楽器を探すのは一苦労なのである。
そんな事情もあって、澪は楽器店の中に入ろうとはしなかったのである。
しかし……。
「澪、なんか今日はレフティフェアをやってるみたいだぞ?」
「え!?」
偶然にもこの日は左利き用の楽器のセールが行われていた。
それを聞いた澪の表情が変わると、レフティフェアのコーナーに直行した。
左利き用の楽器たちを見た澪の表情がぱぁっと明るくなっていた。
「こ、ここは天国ですか!?」
「アハハ……大袈裟だなぁ……」
「て……店員さん!ここにあるの全部ください!」
「「澪、落ち着け!」」
統夜と律がツッコミを入れ、暴走状態の澪の発言をどうにか撤回させた。
《これ全部買ったらかなりの額になるな……。そんな金もないだろうに》
(イルバ、それは俺も思ったが、それは野暮な発言だぞ)
統夜とイルバはテレパシーでこのようなやり取りをしていた。
「とりあえず俺たちはギターを見てもらうよ」
こうして統夜、唯、梓の3人がカウンターへと向かった。
「すいません、ギターのメンテナンスを頼みたいんですけど……」
「はい。どちらのギターでしょうか?」
「これです」
唯は自分のギターケースをカウンターに置いた。
「それでは、中を確認させてもらいます」
店員はギターケースを開けるのだが、あまりの汚さにギョッとしていた。
「こ、これは……!ヴィンテージギターですか?」
「すいません……ただ汚いだけです……」
「まだ買って1年です!」
「おい!そこは威張るところじゃないだろう?」
統夜は汚いギターを買って1年と宣言する唯にツッコミを入れていた。
「と、とりあえず終わったらお呼びいたしますので、しばらく店内でお待ちください」
こうして統夜たちはギターのメンテナンスをお願いし、終わるまで店の中で待つことにした。
「……そういえば唯先輩は何であのギターを買ったんですか?」
「え?何でって?」
「だって重たいし、ネックは太いし、クセがあるじゃないですか」
「んとねぇ……可愛いから!」
「「え?可愛い?」」
「うん。可愛いから」
唯のあまりにずれた発言に統夜と梓は唖然としていた。
それだけではなく偶然その話を聞いていた店員も思わず手を止めてしまった。
((唯(先輩)の感覚はよくわからない……!))
唯の感覚のずれに統夜と梓は思わず苦笑いをしていた。
「それじゃあ、俺はちょっと楽譜でも見てこようかな」
「あっ、はい!私たちはここで待ってますね!」
統夜はカウンター付近で待つ2人を置いて楽譜コーナーへと移動した。
統夜はギターの楽譜をしばらく物色したのだが、欲しい楽譜がなかったので、すぐに唯と梓の元へ戻った。
「あっ、統夜先輩。なんかいい楽譜はありました?」
「いや、特に欲しい楽譜は見つからなかったよ」
「そうでしたか……」
統夜と梓がこのようなやり取りをしていたその時であった。
「お待たせしました!」
唯のギターのメンテナンスが終了し、ギターは先ほどとはうって変わり、ピカピカになっていた。
「ほわぁ……」
唯はピカピカになった自分のレスポールに見惚れていた。
そして……。
「ギー太!」
唯はそう言ってギターを受け取り、そのギターに抱きついた。
(ギー太って……名前付けてたのかよ……)
《唯のセンスは相変わらずだな》
(あぁ、それは俺も思ったよ)
統夜はギターに名前をつける唯に少しだけ呆れており、イルバとテレパシーで会話をしていた。
「あっ、ありがとうございます!」
「いっ、いえ……。あぁ、お題の方5000円になります」
店員がそう告げると、唯は固まっていた。
「へっ……?お金かかるの?」
「いや、当たり前ですよ」
(まぁ、新しい弦を買ったりメンテ道具を揃えたら5000円前後ってところか……。まぁ、あれだけ汚けりゃ妥当なところだろ)
統夜は冷静にメンテナンス代が妥当な金額だと判断していた。
「……お金ない……」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
唯の爆弾発言に統夜と梓は驚愕していた。
「どうしたの?」
唯の手持ちがなくて困っていると、律と紬がこちらにやってきた。
「あぁ、いえ……。唯先輩、メンテナンスにお金がかかるって知らなかったみたいで……」
「え?そうなの?」
「仕方ない……。その5000円は俺が立て替えるよ」
統夜はそう言って財布を取り出した。
「さすがにそれは悪いわ。……だけど、今、手持ちあったかしら……?」
紬は鞄に入っている財布を探し始めると、店員が慌て始めた。
「つ、紬お嬢様!こ、ここはサービスということで!」
店員がメンテナンスのお金はいらないと言ってきた。
(まぁ、俺はともかく世話になってる社長の娘から金は取れないよな)
この「10GIA」という楽器店は紬の父親が経営しているお店である。
以前唯はこの店でギターを買ったのだが、なんと紬が値切りをした結果、25万のギターを5万にしてもらったこともあった。
ちなみに統夜もこの時にギターを買ったのだが、統夜は18万のギターを一括で購入したのであった。
「えっ?でも悪いわ」
「とんでもない!日頃からお父様にはお世話になっておりますので、ここは……」
結局店員の熱意ある態度に押し切られ、ギターのメンテナンス代はサービスしてもらった。
「それじゃあ、そろそろ帰りますか」
唯のギターのメンテナンスが終了し、予定が終わったのでそろそろ店を出ることにした。
「その前に澪を呼ばないとな」
澪は今レフティフェアのコーナーを見ているので、全員で澪のもとへ向かった。
「あぁ、あたし、澪を呼んでくるわ」
レフティフェアのコーナーに到着すると、律は澪を呼ぶために歩み寄った。
「澪、ほら、帰るぞ」
「やだ」
澪はこう即答し、その場から動こうとはしなかった。
「小学生か……。ていうかさ、みんな待ってんだって」
「やだ」
澪は全く聞く耳を持っておらず、みんなが待っていると言われてもその場から動こうとはしなかった。
「まったく……。ほら、澪ちゃん!」
このままでは埒があかないと判断したのか律は澪の肩を引っ張って無理矢理その場から離れようとした。
「ちょっ!律!」
「はい、帰りまちょうねぇ」
「嫌だってば!」
澪はその場から離れたくないのか必死に抵抗をしていた。
しばらくこのようなやり取りが続いていたのだが……。
ドスン!
澪はその場で尻餅をついてしまったのである。
「あっ……。な、何やってるんだよ、澪!」
「もういいよ!」
けっこうな剣幕でこう言い放つと澪は立ち上がった。
「えっ?」
「……バカ律……」
こう澪が言った瞬間、律が一瞬だけ悲しそうな表情をしていたことを統夜は見逃さなかった。
(律……。何か一瞬だけ悲しそうな顔をしてるけど、気のせいじゃないよな?……それにしても何故だろう……嫌な予感がするぞ……。何か一波乱がありそうな……そんな気がするよ……)
統夜はこの時胸騒ぎがしていた。
律と澪との間にこれから何かが起こりそう。そんな予感がしたからである。
この統夜の嫌な予感は当たらずも遠からずであり、この出来事はこれから軽音部に待ち受ける危機の始まりに過ぎないことを統夜は知る由もなかった。
※※※
楽器店を出た統夜たちは、今その楽器店の入り口にいた。
「良かったぁ!ギー太元に戻って♪」
唯は汚れていたギターがピカピカになり、ご機嫌であった。
「……名前つけてたんだな……」
その場にいなかったら澪は唯がギターに名前をつけていたことを初めて知り、苦笑いをしていた。
「これからどうする?」
「そうだな……。よし!お茶でも飲んでくか!」
「おいおい、またお茶かよ……」
律がティータイムをしようという提案に統夜が反論していた。
「あっ、ごめん!私、この後和ちゃんと約束あるんだ!」
唯はこの後予定があるため、参加出来ない旨を伝えた。
「えっ?和も来るの?私も行っていい?」
唯の言葉に澪が反応し、唯についていっていいか聞いていた。
「そっかぁ。みおちゃん。和ちゃんと同じクラスだもんね。いいよ!」
「本当?」
唯がこの後の予定についていくことを了承すると、澪の顔はぱぁっと明るくなっていた。
そんな澪を見て、律は浮かない表情をしていた。
(……?律、まただ。一体どうしたんだよ?)
《ほぉ……なるほどな。俺様は何となくわかったぜ》
(本当か?それで、律は何で様子が変なんだ?)
《今俺様が答えを言っちゃつまらないからな。自分で考えるんだな》
(なんだよ、それ)
統夜はイルバとテレパシーで会話をするが、望んだ答えを得られなかったので、統夜は唇を尖らせていた。
「……?統夜先輩?」
「あぁ、悪い悪い。何でもないんだよ」
統夜は律に何かあると他のみんなに悟られないよう、こう言って笑いながらおどけていた。
そうしているうちに唯と澪はその場を離れ、和との待ち合わせ場所へ向かった。
「……なぁ、みんな。これからあの2人を尾行しないか?」
「えぇ?いいんですか?」
「だって気になるじゃん!」
「ウフフ、確かにそうかもね♪」
律の提案に紬は乗り気のようであった。
「まぁ、俺もまだ時間あるし、構わないぞ」
「と、統夜先輩も!?」
(まぁ、乗り気じゃないけど、律の様子がおかしい原因がわかるかもしれないしな……)
統夜が律の提案に乗ったのは、律の様子がおかしい原因を調べるためであった。
「そ、それじゃあ私も……」
「よし、それじゃあ、行くぞ!……あっ、統夜!そのコートは脱げよな!目立つから」
「わかったよ」
こうして統夜たちは唯と澪の後をこっそりと追いかけるのだが、統夜は律に言われて魔法衣を脱いで歩き始めていた。
唯と澪は和と合流し、向かったのはとある喫茶店だった。
3人が入るのを確認した統夜たちはしばらく待ってから店の中に入った。
統夜たちは唯たちが見える席を陣取り、紅茶とスイーツを注文した。
統夜たちは唯たちの様子を見ていると、唯はテーブルに並べられたスイーツを頬張り、澪と和は楽しげに話をしていた。
しかし、遠いところにいたせいで、会話の内容までは聞こえなかった。
「……何だよ。何かいい雰囲気だな」
「……あの……こんなにこっそりする必要があるんでしょうか?」
「ウフフ♪まるで探偵さんみたいね♪」
統夜たちはこそこそと唯たちの様子を見ていたのだが、梓はここまでこそこそすることに疑問を感じており、紬はニコニコしていた。
「……よしっ、突撃!」
律は席を立つと、そのまま3人が座っている席に向かい、乱入した。
会話までは聞こえなかったのだが、澪が困惑しているということは雰囲気を統夜は感じていた。
律が乱入したことにより、唯たちがこちらの存在に気付いたようであった。
「やれやれ……」
統夜は注文した紅茶を飲みながら事の動向を見守っていた。
(律のやつ、やっぱり様子が変だな……。何でわざわざあっちに乱入したりしたんだ……?)
統夜は律の行動の意味が理解出来ず、紅茶を飲みながら訝しげな表情で向こう側にいる律たちの様子を見ていた。
(やれやれ……。統夜は気付かないか……。律の様子がおかしくなったのは単純なことなんだがな……)
統夜だけではなく、梓と紬も律の様子がおかしいことに困惑する中、イルバだけがその原因を察していた。
(俺様がこいつらの問題を解決させても意味がないからな……。統夜たちが自分でこの問題を解決させないとな。さて、どうするんだ、統夜?)
イルバはこの問題に介入することはせずにただ見守ることに徹することにしたのであった。
統夜は直接の原因はわからないものの、自分自身の嫌な予感が的中しつつあるということを感じていた。
学園祭が近付いているというこの時期に軽音部にこれから危機が訪れることを統夜や唯たちは知る由もなかった。
……続く。
__次回予告__
『どうやら面倒なことになったみたいだな。解決のために奔走するのはいいが、あの日が近付いてるぜ!次回、「危機」。さぁ、一体どうするんだ、統夜?』
律と澪との間に何か起こりそうな予感がしますね。
タイトルは波乱という穏やかじゃないタイトルですが、けいおんメインの回ですので、ちょっとゆるめな日常回になっております。
この話の冒頭に統夜が閑岱で修行したとありますが、それは夏休み編で書きたかった話になっています。この話を見たいというリクエストがあれば番外編としてあげる予定なのでよろしくお願いします。
もう1つのとある事件というのはこの作品とは別に書いている統夜がとある異世界へ迷い込むという話になっています。これも見たいというリクエストがあれば別の作品としてあげる予定なのでよろしくお願いします。
次回もけいおんメインではありますが、ちょっとだけ牙狼要素も入れる予定です。
予告でイルバが言っていたあの日とはなんなのか?
そこも踏まえて次回をお楽しみに!