牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第27話です。

今回はタイトル通り夏休みのとある1日の話になります。

合宿を終えた統夜はどのような1日を過ごすのか?

それでは、第27話をどうぞ!




第27話 「休日」

軽音部の合宿が終わり、数日が経過した。

 

この日、憂は梓と遊びに出掛ける約束をしていた。

 

憂が待ち合わせの場所に到着してからおよそ10分後……。

 

「おーい!」

 

梓が待ち合わせの場所に到着し、憂に声をかけた。

 

「あっ、梓ちゃん!……って誰?」

 

憂は日焼けした梓を見て唖然としていた。

 

以前梓を見たときとは明らかに別人だったからである。

 

「えっ?」

 

梓は日焼けした自分がそこまで変わっているという実感はなく、ポカーンとしていた。

 

2人は行きつけのファストフード店に入ると、ハンバーガーのセットを注文し、窓側の席についた。

 

「本当に誰かわからなかったよぉ」

 

「そんなおおげさな……」

 

梓は日焼けした自分がそこまで変わっていると実感がないため、苦笑いをしていた。

 

「お姉ちゃんは日焼けしてなかったけど、梓ちゃんはどうしてそんなに焼けてるの?」

 

「それは……えっと……」

 

梓はどう答えるべきか悩んでいた。

 

自分も一緒になって遊んでたなんて言いたくなかったからである。

 

しかし……。

 

「……私が一番はしゃいでいたから……」

 

梓は顔を真っ赤にしながら本当のことを憂に話すと、憂はニコニコしながら梓の話を聞いていた。

 

「それにしてもいいなー、合宿。楽しそう」

 

「それなら憂も軽音部に入れば?」

 

「それも悪くないんだけどねぇ……お姉ちゃんの晩御飯も作らなきゃいけないし……」

 

憂は姉である唯にも軽音部に誘われたのだが、学校が終わった後の家事が忙しいために断っていたのだった。

 

唯と憂の両親はとても仲が良く、2人を残してよく海外旅行へ行くほどである。

 

「ところで、軽音部ではお姉ちゃんはどんな感じなの?」

 

憂は普段から気になっている質問を梓にぶつけていた。

 

「うーん……ちょっとあれかな?」

 

梓は正直な意見を言うべきか悩んで言葉を濁していた。

 

「えっ?何々?」

 

「うーん……」

 

憂が食いついてきたので、梓はしばらくどう質問を返すか考えていた。

 

そして……。

 

「……全然練習しないし……。変なあだ名をつけてくるし……。やたらスキンシップをしてくるし……」

 

悩んだ末に梓は自分の思っていたことを正直に話すことにした。

 

「お姉ちゃんって暖かくて気持ちいいよね」

 

「いや、そういう話じゃなくて……」

 

憂のあまりにずれた発言に梓は苦笑いをしていた。

 

「そういえば今日唯先輩は何してるの?」

 

「家にいるよ。お姉ちゃん暑いの苦手だから……。冷房も嫌いだし」

 

「だれてる姿が目に浮かぶわ……」

 

唯は寒いのもそうなのであるが、暑いのも苦手であり、家にいる間はずっとぐったりしていた。

 

冷房を使えば済む話ではあるのだが、唯は冷房が嫌いのようなので暑い日は苦手みたいであった。

 

「最近は一日中ぐったりしてるよ」

 

「だらしないわねぇ」

 

「でも……。ゴロゴロしてるお姉ちゃん、可愛いよ?」

 

憂はゴロゴロしてる唯を想像し、頬を赤らめながらニヤニヤしていた。

 

(何だろう……。この私と憂の感覚の違いは……)

 

梓は憂と感覚があまりにもかけ離れていることを感じて苦笑いをしていた。

 

「ねぇねぇ、もう1つ気になることがあるんだけど」

 

「ん?何?」

 

「統夜さんって軽音部じゃどんな感じなの?」

 

「それは、魔戒騎士だってことは抜きにしてだよね?」

 

「もちろん!」

 

憂も梓も統夜が魔戒騎士であることは知っているので、統夜の普段の姿が気になったので、このような質問をしたのである。

 

「うーん……。ギターに関しては凄く尊敬してるかな?普段は魔戒騎士の勤めで忙しいのにそれを感じさせないくらいギターが上手いんだよね。練習に関しては厳しいところはあるけど、凄くためになるんだよね」

 

梓は統夜のギターテクをかなり評価していた。

 

魔戒騎士の勤めがあるが故に練習時間は少ないはずだが、普段から持っている才能のおかげなのか軽音部で一番のギターテクを持っている。

 

「それに何と言っても統夜先輩って格好いいし、優しいし……」

 

梓は統夜の良いところを考えながら統夜のことを考えているといつの間にか顔が真っ赤になっていた。

 

「ふーん、梓ちゃんって統夜さんのことが好きなんだね♪」

 

「べっ!別にそんなんじゃ……」

 

ニヤニヤしながらこう追求する憂に梓は顔を真っ赤にして反論しようとするが、いつぞやのイルバの言葉を思い出していた。

 

__俺様は知っているんだからな。お前ら5人と憂のやつが統夜に惚れてるってことを

 

(ちょっと待って……。ということは憂も統夜先輩のことが好きってことなんだよね……)

 

梓は憂も統夜に惚れてるということを思い出し、どうリアクションをすればいいのかわからなかった。

 

「確かに統夜さんって格好いいし、優しいよね♪」

 

憂はそんな梓の気持ちを汲み取ったのか統夜の容姿や性格の話に同意していた。

 

「だ、だけど!統夜先輩って本当に女の人のことになったら鈍いよね!」

 

「クスッ、そうだね♪だけど、私はそこも含めて統夜さんはいいなぁって思うけどね♪」

 

「ねぇ、憂。憂ってもしかして……」

 

「梓ちゃん、皆まで言わなくてもいいよ。私は何となくわかってるから♪それに、私は好きっていうよりは憧れてるって感じだから」

 

「そ、そうなんだ……」

 

憂は憂で気を遣っていると感じた梓はこれ以上余計なことは言わないことにした。

 

「そういえばさ、私は澪先輩みたいなお姉ちゃんだったら欲しいなって思うんだよね♪」

 

梓は場の雰囲気を変えるために話題を変えた。

 

「それ、何となくわかる!澪さん、優しくて格好いいもんね♪」

 

「軽音部で頼りになるのは統夜先輩と澪先輩だけだよ」

 

梓は軽音部の常識人が統夜と澪であると考えていた。

 

「律さんは?」

 

「律先輩?あぁ、あの人はいい加減で大雑把だからパス」

 

梓は思ったことを正直に答えたのだが……。

 

「ほーお……」

 

いつの間にか梓の背後にいた律が目をギラギラとさせながら2人に近付いた。

 

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)

 

梓はまさか律がこの話を聞いているとは思っておらず、驚いていた。

 

律は梓の隣に座ると梓の頭をグリグリとしており、梓は「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返していた。

 

「こんにちは、律さん」

 

「やっほー。外から見えたから来ちゃった」

 

「今日はお一人なんですか?」

 

「うん。澪は夏期講習に行ってるよ」

 

「り、律先輩は行かなくてもいいんですか?」

 

「へ?私が?夏期講習?何で?」

 

律は何で自分が夏期講習に行かなければならないのかとキョトンとしながら思っていた。

 

「……で、ですよねー……」

 

梓は夏期講習に行かないのが当たり前と思っている律に呆れていた。

 

「そういえば、律先輩。私、ずっと気になってたんですけど」

 

「ん?何?」

 

「ムギ先輩って自前のティーセットを持ってきてたり、大きな別荘持ってたり、リムジンを運転する執事さんがいたり……。凄いお嬢様なんですか?」

 

梓は今までずっと気になっていた質問を律にぶつけていた。

 

今までの紬の行動を見ていると、紬はお金持ちのお嬢様なのでは?と思うのには十分だった。

 

「そうだぞぉ。執事さんはともかくとして長期休暇には海外に行ったりしてるんだぞぉ!」

 

「本当ですか!?」

 

「だったら面白いよね!」

 

「知らないんじゃないですか……」

 

律のあまりにも適当すぎる発言に梓は呆れていた。

 

「それなら今から電話してムギんちに遊びに行こうぜ!」

 

律はそう言いながら携帯を取り出すと、紬の携帯に電話をかけた。

 

「いいんですか?そんな急に……」

 

梓は律の唐突な行動に不安を覚えるのだが、紬はこの日は忙しいのか電話に出なかった。

 

「あれ?携帯に出ないなぁ……。家電にかけてみるか……」

 

律は今度は紬の家の番号に電話をかけてみた。

 

すると……。

 

『はい』

 

今度はちゃんとつながり、50代くらいの壮年の声が聞こえてきた。

 

「あ、紬さんのお父さんですか?」

 

『いえ、私、琴吹家の執事でございます』

 

(そ、そういえば執事がいたんだった!)

 

電話に出たのは執事をしている斉藤という男であった。

 

「つ、紬さんはい、いらっしゃいますかしら?」

 

「り、律先輩、落ち着いて!」

 

梓は小声でテンパっている律のフォローをしていた。

 

『紬お嬢様はただいまフィンランドで避暑中でございます』

 

「そ、そうですか!ありがとうございます!失礼しました!」

 

律はそう言ってすぐに電話を切った。

 

執事である斉藤の言う通り、紬は合宿が終わった後、フィンランドの別荘で避暑をしていた。

 

「……ほ、ほら!あたしの言った通りだろ?」

 

奇しくも律が適当に言ったことが真実だったので、憂と梓は苦笑いをしながら拍手をしていた。

 

「……とりあえず、そろそろ出るか?」

 

律が席を立とうとしたその時であった。

 

「……あれ?」

 

何かに気付いた憂が窓から見える景色を凝視していた。

 

「?憂、どうしたの?」

 

「あそこにいるの……統夜さんじゃない?」

 

「どれどれ……あ、本当だ!」

 

憂が目にしたのはこのような暑い夏にも関わらず赤いコートを羽織っている統夜であった。

 

「夏場にあのコートだから目立つよな……」

 

「統夜先輩、こっちに気付くかなぁ……」

 

「もしかしたら気付くかも……。……あっ!気付いたみたい!」

 

憂がその場で手を振ると、梓と律も同じく手を振り、それを見た統夜は苦笑いをしていた。

 

 

 

 

律が紬に電話していた頃、朝からエレメントの浄化を行っていた統夜は偶然にも行きつけのファストフード店の近くを通っていた。

 

統夜は合宿が終わるとイレスや大輝、そしてレオにお土産をきちんと渡し、その日からエレメントの浄化を行っていた。

 

統夜はこの日、今までエレメントの浄化を頑張ってくれた大輝を休ませるために1日かけて1人でエレメントの浄化を行う予定だった。

 

ちなみにレオは統夜が戻ってきた翌日に自分の仕事を終わらせて元老院に戻っていった。

 

今日はエレメントの浄化も半分くらい終わらせた所で、昼食をどうするか考えながら行きつけのファストフード店の近くを歩いていたのであった。

 

統夜は行きつけのファストフード店を見つけて足を止めた。

 

(ハンバーガーかぁ……。それも悪くはないけど、どうしようかな……。この近くに吉○屋があるからそこも捨てがたいよなぁ……)

 

統夜はハンバーガーにするか牛丼にするかで悩んでいた。

 

すると……。

 

《統夜。あのファストフード店に憂と梓と律がいるみたいだぞ?》

 

イルバは街中は人が多かったため、テレパシーで統夜に話しかけていた。

 

(ん?そうなのか?)

 

《ほら、上の階にいるぞ》

 

統夜は上の階を確認すると、窓際の席に憂、梓、律の姿を確認した。

 

3人はその前から統夜に気付いていたのか統夜に手を振っていた。

 

「アハハ……あいつら……」

 

統夜は苦笑いをしながら統夜も手を振り返していた。

 

《統夜。今日の昼飯はハンバーガーみたいだな》

 

(あぁ、そうだな)

 

今日の昼食を決めた統夜はそのままファストフード店に入ると、注文を済ませた後に二階に上がった。

 

「あっ!統夜先輩!」

 

「統夜さん!こっちです!」

 

梓と憂が統夜を呼んでくれたので統夜はそのまま3人のいる場所まで移動した。

 

「よう。梓と憂ちゃんはともかく律も一緒とはびっくりしたよ」

 

「まぁ、あたしも偶然2人がいたのを見つけたんだけどな」

 

「なるほどね」

 

統夜はこう返事をすると、空いている憂の隣に腰を下ろしていた。

 

「統夜先輩……。それ、全部食べるんですか?」

 

統夜のトレイにはLサイズのポテトとジュース。そして、4種類のハンバーガーが置いてあった。

 

「あぁ。今日は朝から何も食べずに仕事してたから、腹減ってな。だからこれ位はな?」

 

「へぇ……さすがは男の子です♪」

 

「アハハ……そうかな……」

 

統夜はそう言って笑いながらハンバーガーを頬張っていた。

 

3人は統夜の食べっぷりをじっと見つめていた。

 

「……ん?どうしたんだ?食ってるところを見られるのは恥ずかしいんだけど……」

 

「あぁ、ごめんなさい。だけど、統夜先輩の食べっぷりが凄くてつい……」

 

梓の弁解に憂と律もウンウンと頷いていた。

 

「まぁ、いつもの時はここまで食べないからそれも無理はないかな?」

 

統夜はそう言って笑いながらハンバーガーを頬張っていた。

 

「統夜さん、今日は魔戒騎士のお仕事だったんですか?」

 

「そうだよ。合宿で長い事この街を空けてたからな。その分は仕事しないと」

 

「統夜先輩が合宿に行っている間は大輝さんが1人で仕事してたんですよね?」

 

「いや、たまたまレオさんが桜ヶ丘に来ててレオさんも仕事を手伝ってくれたみたいだよ」

 

「え!?レオ先生来てたの?」

 

「あの事件以来だからまた会いたかったです」

 

レオはグォルブの事件が終わった翌日に教育実習の期間が終わって元老院に帰っていったので、憂、梓、律を始めとする桜ヶ丘高校の生徒たちはあれ以来レオに会っていないのであった。

 

「アハハ……レオさん、みなさんによろしくお伝え下さいって言ってたぞ」

 

レオからの伝言があったことを思い出した統夜は3人にレオからの伝言を伝えた。

 

「ところで、統夜先輩はまだお仕事終わってないんですか?」

 

「あぁ。とりあえずやるべき仕事の半分は終わったからこの後残りの仕事を終わらせるつもりだよ」

 

「そうなんですか……」

 

「もし統夜が仕事終わってるなら遊びに誘おうかなって思ってたんだよね」

 

「そっか、それは残念だ」

 

統夜はこの後も予定がなければ遊ぶのも悪くはないと思っていたので少し残念そうにしていた。

 

「3人はこの後どこか行くのか?」

 

「いえ、まだ決めてないです」

 

「梓ちゃんも律さんもこの後良かったら家に来ませんか?スイカありますよ?」

 

「スイカ……。行く!!」

 

律はスイカにつられて憂の家に遊びに行くことを決めたのであった。

 

「うん、私も行こうかな」

 

梓は元々憂と遊ぶ約束をしていたので、憂の家に遊びに行くことを快諾していた。

 

「統夜さんも良かったらスイカだけでも食べて行きませんか?」

 

「うーん……そうだなぁ……」

 

統夜はどうしようか少し悩んでいたのだが……。

 

《統夜。これからエレメントの浄化に行くのはちょうど唯の家あたりから再開する予定だ。だから少しくらいはいいんじゃないか?》

 

意外にもイルバが少しくらいならと許可をしたのだった。

 

(何だよ、ずいぶんと気前がいいな。てっきりダメって言うかと思ったけど)

 

《まぁ、半分とは言ったが、残りは少ないからな。ちょっとくらいの骨休めは問題ないと判断しただけだぜ》

 

(そうだな、スイカをご馳走になったらさっさと仕事を片付けるか)

 

統夜はイルバとテレパシーで会話をして憂の家に少しだけお邪魔することを決めた。

 

「それじゃあ、せっかくだからご馳走になろうかな」

 

「!本当ですか!?」

 

「あぁ。あんまり長居は出来ないけど、それで良かったらな」

 

「もちろん!大歓迎です♪」

 

「統夜先輩、大丈夫なんですか?この後もお仕事があるって言ってたのに……」

 

梓は統夜が無理にこちらに合わせてくれていると思って仕事の心配をしてくれた。

 

「問題ない。イルバが許可してくれたからな」

 

「え?イルバは一言も喋ってないだろう?何でわかるんだよ?」

 

「あぁ。さっき俺はイルバとテレパシーで会話してたんだよ」

 

「そ、そんな事が出来るんですね……」

 

統夜とイルバがテレパシーで会話が出来ることを知らなかった梓は驚きを隠せなかった。

 

それは憂と律も同様であった。

 

こう話をしているうちに統夜はトレイに乗ったものを完食した。

 

「うん、ごちそうさんっと」

 

統夜はかなり空腹だったからか、完食すると、とても満足そうにしていた。

 

「それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

「うん、そうだね」

 

「あぁ♪」

 

「わかった」

 

こうして4人はファストフード店を後にし、そのまま唯と憂の家に向かった。

 

「ただいまー!」

 

憂は家の中に入り、統夜、梓、律がその後に続いた。

 

「ただいま梓ちゃんと律さんと統夜さんが来たよ」

 

憂はリビングの中に入り、3人もそれに続いた。

 

「おーかーえーりぃー」

 

唯は団扇を扇ぎながらぐったりとしていた。

 

(なんかホッとするなぁ……)

 

(聞いてた通りだ……)

 

(あぁ……。ゴロゴロしてるお姉ちゃんは可愛いなぁ……♪)

 

団扇を扇ぎながらぐったりとしている唯を見て、律はほんわかとしていた。

 

梓はジト目で唯のことを見ており、憂はうっとりとしながら唯を見ていた。

 

(アハハ……。本当に唯のやつはだらけてるな……)

 

統夜もあまりにだらけている唯を見て苦笑いをしていた。

 

『おいおい、いくら夏休みだからってだらけ過ぎだろう』

 

イルバだけが思ったことを言葉に出していたが、唯はイルバの話を全く聞いていなかった。

 

憂はキッチンへ移動すると、冷蔵庫で冷やしてあったスイカを均等にカットし、統夜たちは美味しいスイカに舌鼓をうっていた。

 

スイカをある程度食べた統夜は唯の家を後にし、エレメントの浄化を再開した。

 

唯の家を出てから統夜は2時間ほどの時間をかけてエレメントの浄化を行っていた。

 

エレメントの浄化が終わる頃には夕方になるかならないかの時間であったため、統夜は番犬所へ向かった。

 

しかし、この日は指令がなかったため、統夜は街の見回りを行っていた。

 

統夜は見回りの途中で夕食を済ませ、すっかり夜になった街中を歩いていた。

 

しばらく街中を歩いていたその時だった。

 

『統夜。ホラーの気配だ!』

 

「……!わかった、行こう、イルバ」

 

統夜はイルバのナビゲーションを頼りにホラーが現れた場所へと急行した。

 

 

 

イルバがホラーの気配を探知した頃、茶色い髪にツインテールの少女が街中を歩いていた。

 

彼女の名前は若王子いちご。桜ヶ丘高校に通っており、統夜と同じクラスであった。

 

彼女はとても愛らしい容姿ではあるものの、その性格は相当クールであり、さらっと毒舌を吐くなどギャップがある少女であった。

 

いちごはクラスメイトである統夜のことはもちろん知ってはいたが、そこまで話をしたりはしていなかった。

 

この日は自身の用事があって出かけており、今はその帰りであった。

 

(……ずいぶんと遅くなっちゃった……早く帰らないと……)

 

思いのほか帰りが遅くなってしまったので、いちごは急ぎ足で自宅へ向かっていた。

 

こうしてしばらく歩いていたその時であった。

 

「……」

 

「?」

 

いちごの視界に1人の男の姿が映ったのだが、その男は挙動不審な動きをしていた。

 

(なんなの、あの人……。気持ち悪い……。関わらない方がいいわよね……)

 

いちごは目の前の男を訝しげな目で見ており、男を避けようとしたのだが、男はいちごに近付いてきた。

 

(!何なの!?あの人、すごく怖いんだけど……)

 

少しずつ近付いてくる男にいちごは恐怖を覚えていた。

 

いちごは少しずつ後ろに下がるが、それでもなお男は近付いていた。

 

男のあまりの不審さに警察を呼ぶことも考えていた。

 

いちごが携帯を取り出したその時だった。

 

「こんな奴相手に警察なんて呼んでも無駄だよ!」

 

いちごと男の間に赤いコートを着た少年が割り込んできた。

 

「!?」

 

「え?月影……君?」

 

いちごの目の前に現れたのはクラスメイトである統夜であったので驚いていた。

 

「おっと、若王子さんか。ずいぶんと災難みたいだね」

 

「うん……。キモい男に付きまとわれそうになってて……」

 

いちごの毒舌を聞いた統夜は苦笑いをしていた。

 

「アハハ……。こいつが「人間」だったらそうなるよね」

 

「え?」

 

統夜の唐突な発言にいちごは唖然とするが、そんなこともお構いなしに統夜は魔法衣の懐から魔導ライターを取り出すと、魔導火を男の瞳に照らした。

 

すると、男の瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

これは、この男がホラーであるという証拠でもあった。

 

「やれやれ……。指令はないのにホラーは現れるんだな。もしかして、ゲートから出てきたばかりなのか?」

 

統夜はため息をつくと男を睨みつけていた。

 

「貴様……魔戒騎士か……」

 

「?魔戒騎士?」

 

いちごは男が言っている魔戒騎士という言葉の意味が理解できなかった。

 

「若王子さん、ここは危ないから早く逃げるんだ」

 

「え?月影君は、どうするの?」

 

「あいつを斬る」

 

統夜はドスのきいた低い声でこう宣言すると、魔戒剣を抜いて、構えた?

 

「!?け、剣!?」

 

いちごは目の前で起こっている現状があまりにも訳が分からず困惑していた。

 

すると、男の体が少しずつ変化していき、この世のものとは思えない怪物へと変化したのであった。

 

「ひっ……!?か、怪物!?」

 

「若王子さん!早く逃げろ!!」

 

統夜は強めの口調で逃げるように促すと、無言で頷いてその場から逃げ出したのであった。

 

「よし、これなら……」

 

統夜は目の前のホラーを睨みつけると、ホラーは自身の背中に生えている蝶のような羽を羽ばたかせ、飛翔していた。

 

『統夜!こいつはホラー、ピクロ。飛翔能力もあるしなかなか厄介な相手だぞ、気を付けろ!』

 

「そうみたいだな……。わかった!」

 

統夜が対峙しているホラーはピクロというホラーである。

 

その特徴は蝶のような羽を持っていることであり、その様相は醜さを持った妖精のようなホラーである。

 

上空に飛翔しているピクロは統夜めがけて突撃するが、統夜はその動きを見極めて回避していた。

 

統夜に攻撃をかわされると、ピクロは再び上空に飛翔し、統夜と距離を取っていた。

 

「くそっ!いちいち空に逃げるとか面倒くせえ奴だな!」

 

『奴は飛翔能力を持っているからな。その能力を活かしているんだろう』

 

「そうだろうな」

 

統夜は空に逃げながら戦うピクロに苛立つが、冷静であった。

 

「どうした?来いよ?それとも、お前は空を飛んでなきゃ何も出来ないのか?……ホラーのくせに情けないねぇ……」

 

統夜は上空にいるピクロに思い切り挑発をしていた。

 

実力のあるホラーであればこの程度の挑発では乗らないだろうが、ピクロであれば挑発に乗るだろうと判断したからである。

 

「貴様……!馬鹿にしやがって……!許さん!」

 

統夜の挑発にあっさりと乗ったピクロは統夜目掛けて突撃した。

 

「やれやれ……。こんなにあっさりと挑発に乗るなんて。この単細胞が……」

 

予想通りとはいえ、ここまであっさりと挑発に乗るとは思っていなかったので驚きながらも呆れていた。

 

そして統夜はボソッと呟くと魔戒剣を構え、ピクロの攻撃を正面から受け止めた。

 

「なっ!?俺様の攻撃を受け止めただと!?」

 

ピクロはこんなにあっさりと防がれるとは思っておらず、焦りを見せていた。

 

統夜は一瞬の隙を突いて両足を魔戒剣の一閃で斬り裂いた。

 

「ぐぅ……!こいつ……強い!」

 

足を斬られたピクロは慌てて上空に飛翔するが、思うように力を出すことは出来ず、先ほどよりも飛翔した時の高度は下がっていた。

 

「よしっ!一気に決める!……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜はこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

奏狼の鎧を召還した統夜は魔導ライターを取り出すと、魔戒剣が変化した皇輝剣の切っ先に赤い魔導火を浴びせた。

 

そして統夜の身に纏う奏狼の鎧も赤い炎に包まれ、烈火炎装の状態となった。

 

統夜はピクロ目掛けて大きくジャンプをすると、赤い炎に包まれた皇輝剣を一閃した。

 

赤い炎の刃を受けたピクロの体は真っ二つに切り裂かれた。

 

そのままピクロの体は爆発四散し、ピクロは断末魔をあげながら消滅した。

 

統夜はそのまま地面に着地をすると、そのまま鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「さて……これでお仕事は完了だな」

 

指令はなかったものの、出現したホラーを討滅した統夜はそのまま自宅に向かおうとしていたが……。

 

「……ねぇ」

 

「うぉ!?若王子さん!?逃げたんじゃないの!?」

 

逃げ出したはずのいちごが統夜の目の前に現れ、統夜は驚いていた。

 

「……あの化け物は何なの?後、月影君がつけてたあの鎧も」

 

「!?もしかして見てたの?」

 

統夜の問いかけにいちごは無言で頷いた。

 

いちごは一度逃げ出した後に統夜のことが心配になり、再び戻ってきたのである。

 

その時に統夜が鎧を召還し、ホラーを討滅する瞬間を見ていたのである。

 

「……ねぇ、教えてよ。今日のことは誰にも言わないから……」

 

「……」

 

いちごは統夜の秘密を聞き出そうとするが、統夜は何も語らず黙っていた。

 

「……何も言わないならクラスのみんなにバラすよ」

 

(!?こいつ……。可愛い顔してえげつねぇな……)

 

いちごがここまでの強行手段に出るとは思わず、統夜の顔は引きつっていた。

 

「やれやれ……仕方ないな……」

 

『おい!統夜!正気か!?』

 

「!?指輪が喋った!?」

 

いちごは統夜が身につけている指輪が喋ったことに驚いていた。

 

「……って思ったけどね」

 

統夜はいちごが驚いた隙を突いて魔法衣の懐から一枚の札を取り出した。

 

そして……。

 

「ごめんね」

 

統夜はそれだけ言うといちごの額にその札を貼り付けた。

 

いちごはそのまま倒れ、意識を失ってしまった。

 

「さて……後は……」

 

統夜は気を失ったいちごを安全な場所まで運ぶと、そのまま帰路についた。

 

統夜の貼った札はホラーに関する記憶を消し去る効果があり、ホラーとの戦いに巻き込まれた人に貼る札である。

 

魔戒騎士や魔戒法師はホラーから人を助けると、その人のホラーに関する記憶を消さなくてはいけないので、このようなことを行う必要があるのである。

 

その後目が覚めたいちごは何故自分がこんな所にいるのか理解出来ず、ホラーとの記憶が消えた状態で帰路についた。

 

こうして、魔戒騎士である統夜の夏休みのとある1日が終了したのであった。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『新学期が始まったな。学園祭が近付いているというのにまさかこのようなことが起こるとはな。次回、「波乱」。この状況、どう乗り切る?統夜!」

 




以上、統夜のとある1日でした!

ただの日常回という訳ではなく、ホラーとの戦いもありました。

今回出てきたピクロはTV版「GOLD STOME 翔」の2話に登場したホラーです。

原作では流牙との生身のアクションもありましたが、今回はいきなりホラーの姿で統夜に立ちはだかりました。

最近思ったけど、この小説は最近日常回が多いからか牙狼特有のダークさがあまりない気がする……。

だけど、それはそれでありなのかな?と思う自分もいたりもしています(笑)

次回はけいおんの原作の話になっていきます。

本来はもっと夏休みの話をもうちょっと書きたかったのですが、それを書いたらさらに長くなりそうだったのでカットしました。

もうちょっと夏休みの話が見たいという意見があれば番外編としてあげようかなとも考えています。

という訳で次回をお楽しみに!


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