牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第26話になります。

今回は合宿の続きですが、統夜たちの合宿はこれからどうなっていくのか?

前回の話から新章に突入しました。この新章はけいおんメインの話や日常の話などが多くなってくると思いますが、ホラーとの戦いももちろんありますので、ご期待ください。

それでは、第26話をどうぞ!




第26話 「合宿 後編」

夏休みが始まり、桜ヶ丘高校軽音部の合宿も無事にスタートした。

 

統夜はどうにか番犬所の許可をもらえたため、合宿に参加することが出来た。

 

紬の別荘到着後は一度海で遊ぶが、その後はちゃんと練習も行い、現在は夕食の準備を行おうとしていた。

 

澪と律が留守番し、残りのメンバーはスーパーで買い出しを行っていた。

 

買い出しを済ませた統夜たちはすぐさま別荘に戻ってきた。

 

「りっちゃん!戻ったよ♪」

 

「おぉ!待ってたぜ!」

 

留守番をしていた律は買い出し組が戻ってくるのを心待ちにしていた。

 

「さて、俺は先に火起こしをするからみんなは仕込みを頼む」

 

統夜は野菜の仕込みをみんなに任せ、自分は火起こしをすることにした。

 

「うん。それじゃあ、お願いね♪」

 

「あぁ、任せろ」

 

女性陣はキッチンに向かい、1人残された統夜はバーベキューコンロを準備し、炭などを置いて火起こしの準備を始めた。

 

「…………」

 

後は火をつけるだけなのだが、統夜はなぜかコンロをジッと見つめていた。

 

『おい、統夜。どうした?さっさと火をつけないと飯は食えないぜ?』

 

「あぁ、そうだな……」

 

『統夜、言っておくが、魔導火を使おうとは思うなよ。それを使ったらどうなるか……お前もわかるだろ?』

 

「アハハ、さすがにそれはわかってるって」

 

統夜はそう言って笑いながら火をつけ始めた。

 

(統夜のやつ、冗談だとは思うが、少しは考えたな。やれやれ……)

 

イルバは火起こしをしている統夜をジト目で見ていた。

 

火起こしが終わってから数分後、バーベキューの仕込みを終えた唯たちが戻ってきた。

 

バーベキューの準備が整った所で本日の夕食でもあるバーベキューが始まった。

 

「あっ、りっちゃん!それ私が食べようと思ってたお肉!」

 

「ふっふっふ……。隙だらけのお前が悪いぞ、唯」

 

バーベキューが始まるなりさっそく肉の争奪戦が始まっていた。

 

「まったく……」

 

統夜は律が大事に育てていた肉を奪い取ると、何も言わずに唯に渡していた。

 

「やーくん、ありがとー!」

 

「あっ!統夜!お前!」

 

「やれやれ、そういうお前も隙だらけだぞ、律」

 

「ムキーっ!!」

 

統夜はさりげなく唯の仇をうっていたのである。

 

「ほら、みんなも。ここら辺とか焼けてるぜ」

 

統夜は焼けている肉をテキパキと澪、梓、紬に渡していた。

 

「あ、ありがとな」

 

「ありがとうございます」

 

「ウフフ♪」

 

統夜から肉を受け取り、3人も満足そうだった。

 

「……うん、おにぎりも美味いな……」

 

統夜は一旦肉を取るのを中断し、おにぎりを頬張っていた。

 

その間に串の肉をしっかりと焼き、育てていた。

 

それを見ていた律が……。

 

「統夜!隙あり!」

 

「…………」

 

統夜はおにぎりを頬張りながら律が奪い取ろうとした肉を取り、更には律が楽しみにしていた鶏肉の串を奪い取った。

 

「あぁ!あたしの鶏肉!」

 

「やれやれ……。魔戒騎士である俺の隙を突こうなんて100年早いぞ。そんなことさえしなけりゃ律の肉を奪うことはしなかったのに……」

 

「ちくしょー!!」

 

肉争奪戦に完敗した律を見て唯たちがアハハと笑っていた。

 

こうしてこの日の夕食であるバーベキューが行われている間は、笑い声が絶えることがなかった。

 

 

 

 

バーベキューが終わり、バーベキュー用のコンロなどの片付けが終わると、外はすでに真っ暗になっていた。

 

「ねぇねぇ、花火しよう♪」

 

紬は事前に用意した花火を取り出し、花火を提案していた。

 

「おぉ、いいね!やろうやろう!」

 

「あぁ!花火とかいいじゃないか!」

 

唯と律が賛同し、統夜、澪、梓の3人も了承したため、花火をすることになった。

 

別荘入り口の広いところに移動すると、それぞれが花火を手に取り、火をつけると、様々な花火を楽しんでいた。

 

最初ははしゃぎながら普通の花火を楽しんでいたが、後半は線香花火を楽しんでいた。

 

「…………」

 

紬はゆらゆらと揺れる線香花火をじっと見つめていた。

 

だが、それもあっという間であり、火種が落ちてしまった。

 

「あっ……」

 

線香花火の火種が落ちると、紬は少し寂しげな表情をしていた。

 

「アハハ……。線香花火ってさ、本当に儚げだよな」

「そうだな、だからこそ最後の最後に頑張れ頑張れって応援したくなるんだよな」

 

紬の寂しげな表情を見た統夜と律はこう優しい表情で語りかけていた。

 

「うん!もう1本!」

 

紬はもう1本線香花火を用意すると、その間、唯と律は線香花火に頑張れ頑張れと声をかけていた。

 

「頑張れ……頑張れ……」

 

紬も真似をして声をかけるのだが、火種はすぐに落ちてしまった。

 

「……また落ちちゃった……」

 

紬が困ったような笑顔を梓に向けると、梓はクスッと微笑んでいた。

 

こうして楽しい花火の時間はあっという間に過ぎていき、統夜たちは協力し合っててきぱきと花火の残骸を片付けたのであった。

 

 

 

 

 

 

「……肝試しをしよう」

 

花火の片付けが終わるなり、律が次の提案をしていた。

 

「まったく……次から次へと……」

 

休む間もなく遊びの提案をする律に澪は呆れていた。

 

「だって、夏と言ったら肝試しだろ?」

 

「まぁ、確かに夏の定番だけど……」

 

律が言っていた肝試しが夏の定番という言葉に統夜は賛同していた。

 

(……まぁ、この周辺の見回りはするつもりだったし、ちょうど良かったかな?)

 

統夜はこんな所でもホラーは出てくるかもしれないと予想し、みんなが風呂に入る時間か寝静まった時間に別荘周辺の見回りを行うつもりでいた。

 

「わ、私はやらないからな!」

 

怖いものが苦手な澪は肝試しに乗り気ではなかった。

 

「あぁ、澪は怖いの苦手だもんなぁ」

 

律はニヤニヤしながら澪を挑発していた。

 

「!ぜ、全然余裕よ!やってやろうじゃないの!」

 

澪は律の挑発に乗る形で肝試しに参加することになった。

 

律は肝試しの準備があるからといって何処かへ移動すると、澪が統夜に近づいてきた。

 

「な、なぁ……統夜……。一緒に肝試しをして欲しいんだけど……」

 

澪は頬を赤らめて上目遣いでオドオドしながらこう統夜に訴えかけていた。

 

その姿に統夜は思わずドキッとしてしまった。

 

「ま、まぁそこまで言うなら……」

 

こうして統夜は澪とペアになって肝試しに参加することになった。

 

その前に統夜は一度荷物を置いてある場所に戻り、魔法衣を羽織ってから澪に合流した。

 

「?何で統夜はいつもの赤いコートを着てるんだ?」

 

「あぁ、これは念のためだよ。こんな森だ。急にホラーが出てくる可能性だってあるからな」

 

「ヒッ!?こ、怖がらせるのはやめろよ!」

 

ホラーが出るかもしれないとわかり、澪の恐怖心は倍増したため、澪は涙目になっていた。

 

「わ、悪い悪い。と、とりあえず行こうか」

 

こうして統夜と澪は肝試しの会場となる森の中へ入っていった。

 

真っ暗な森を歩いていると、澪が統夜の手を繋いできたので、ドキッとしたものの、統夜はそれを受け入れていた。

 

「こ、高校生にもなって肝試しもないよなぁ……アハハ……」

 

澪は真っ暗な森が怖いのか、引きつった笑顔で動揺していた。

 

澪はギュッと統夜の手を握っていたのだが、その握力は少しずつ強くなっていた。

 

「なぁ、澪。さっきから手が痛いんだけど……」

 

澪の握力があり得ないほど強くなっており、統夜は恐る恐る澪に手が痛いことを伝えた。

 

『おい、澪。いい加減握力を抑えろ。こっちまで痛みが伝わるだろうが』

 

統夜の手の痛みがイルバにまで伝わっていたので、それだけ澪の握力が凄いことがわかる。

 

その時だった。

 

草むらからカサカサっという物音が聞こえたのである。

 

「!?」

 

「ヒッ!?き、きっと律だよな?」

 

統夜は繋いでいた手を離すと、魔法衣から魔戒剣を取り出し、いつでも抜刀出来る状態にしておいた。

 

澪は物音がした方向に懐中電灯の明かりを向けると、「ううぅぅぅぅぅぅ……」と呻き声をあげながら怪しい人影がこちらに近づいてきていた。

 

(まさか……!ホラーか!?)

 

統夜は近づいて来る人影に鋭い視線を向け、澪は恐怖に怯えていた。

 

そして……。

 

「みーおーじゃーん!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「うぉっ!?」

 

澪の悲鳴が凄かったのか、統夜は思わずたじろいでしまった。

 

澪はあまりの怖さに真っ白になってそのまま気絶してしまった。

 

統夜はすぐ我にかえると、魔戒剣を抜き、帽子をかぶっている謎の人影に魔戒剣を突きつけた。

 

「ヒッ!?」

 

「貴様は何者だ!まさか、ホラーか!?」

 

「そ、そんな……私は……」

 

『統夜、ちょっと待て。こいつは……』

 

「?……あっ!」

 

イルバの指摘に首を傾げた統夜はその人影を凝視すると、その正体はなぜかフラフラなさわ子であった。

 

「さわ子先生!?どうしてこんな所に!?」

 

統夜は魔戒剣を鞘に納めると、さわ子に駆け寄った。

 

「よ……ようやく会えた……」

 

「よ……ようやくって……」

 

何でこんな森にいたのかわからず統夜が首を傾げていたその時だった。

 

「あれ?さわちゃん先生?どうしてここに?ていうか何でいるの?」

 

統夜と澪が出発した後、遅れて出発した唯、紬、梓の3人が合流した。

 

「後から合流してみんなを驚かせようと思ったんだけど……。道に迷って……」

 

「はぁ……やれやれ……」

 

『全く……呆れて言葉もないぜ……』

 

さわ子がこんな森にいた理由がわかり、統夜とイルバは呆れていた。

 

「まぁ、驚かせようって目的は達成出来たみたいですけど……」

 

「澪ちゃん!大丈夫だから。澪ちゃん!」

 

澪に駆け寄った紬が澪の肩を揺するが、澪は真っ白になって気絶したままだった。

 

(澪先輩ってこんなに怖がりだったんだ……)

 

梓は澪の知らない一面を見て驚いていた。

 

「……とりあえず戻ろっか」

 

唯の提案で別荘に戻ることにしたのだが……。

 

再び草むらからカサカサっという物音が聞こえてきた。

 

「!?な、何!?」

 

突然聞こえてきた物音に唯は怯えていた。

 

「みんな、一か所に固まるんだ」

 

統夜は冷静に唯たちに指示を出すと、唯たちは統夜の指示に従って一か所に集まっていた。

 

「……ハッ!私は一体……」

 

タイミングが悪く、澪が目を覚ましてしまった。

 

「?何でみんなは固まってるんだ?」

 

「澪先輩、どうやら向こうの草むらに何かがいるみたいで……」

 

「ヒッ!?驚かせるなよ……!」

 

まだ何かがいるのかと思い、澪の顔は真っ青になっていた。

 

統夜は再び魔戒剣を手に取り、いつでも抜刀出来る状態にしておいた。

 

そして……。

 

草むらから何者かが現れ、その影は統夜に向かっていった。

 

「っ!」

 

その影が剣を一閃してきたので、統夜は魔戒剣を抜いてその一撃を防いだ。

 

「貴様……何者だ!?」

 

統夜は剣を防ぎながら影に問いかけるが、反応はなかった。

 

「お前こそ何者なんだ!?まさか、お前がホラーか!?」

 

しかしその影がすぐさま言葉を発し、統夜をホラーだと勘違いしていた。

 

「ホラーだと!?違う!俺は!」

 

統夜は違うと弁解しながら、相手を弾き飛ばして距離を取った。

 

その時、月明かりが照らされ、周りが明るくなったその時だった。

 

「……なっ!?そんな馬鹿な……!?」

 

統夜たちを襲撃したのは10代後半くらいの女性で、その女性が手に持っていたのは男にしか扱えないはずの魔戒剣だった。

 

「お前、魔戒騎士じゃないのにどうして魔戒剣を持てるんだ!?」

 

統夜は自分の持っている疑問を相手にぶつけていた。

 

魔戒剣はソウルメタルで出来ており、そのソウルメタルに認められた物にしか扱うことは出来ない。

 

更に言うと女性には魔戒剣を扱うことは出来ず、この女性のように操ることは本来なら不可能なのである。

 

(!魔戒剣を扱う女……?まさか、この人って……!)

 

統夜はこの女性に心当たりがあるようであった。

 

「お前に話す必要はない!ホラーであるお前に!」

 

「違う!俺は!」

 

「問答無用!」

 

女性は統夜の話に聞く耳を持たず、統夜に襲いかかってきた。

 

「くっ……!」

 

相手の正体の見当がついた統夜は本気を出す事が出来なかった。

 

(あーっ!もぉ!こうなったら仕方ない!ちょっとだけ痛めつけてわかってもらうしかない!)

 

統夜は女性を説得するために少しだけ相手を痛めつけて話を聞いてもらうことにしたのだ。

 

「統夜先輩……」

 

突然の乱入者との戦いを梓は心配そうに見つめていた。

 

それは唯たちも同様であった。

 

統夜は女性の魔戒剣による一閃を無駄のない動きでかわしていた。

 

「!?こいつ……強い!」

 

女性は少しだけ焦りを見せていた。

 

統夜がここまでの手練れとは思っていなかったからである。

 

統夜は一瞬の隙を見逃さず、女性の魔戒剣を弾き飛ばした。

 

「なっ!?しまった!?」

 

弾き飛ばされた魔戒剣は統夜の近くにある木に突き刺さった。

 

そして統夜は女性の喉元に魔戒剣を突きつけた。

 

「くっ……!」

 

「やれやれ……これで俺の話を聞いてもらえるかな?」

 

「誰が……!」

 

女性は怯むことなく統夜を睨みつけていた。

 

(マジかよ……。ここからどうしたものか……)

 

相手の誤解を解くためにどうすべきか考えていたその時だった。

 

「ちょちょちょ……ちょっと待った!」

 

突如20代前半くらいで、傘を持った青年が乱入してきた。

 

「えっ!?カイン!?」

 

女性は青年のことをカインと呼び、その姿を見て驚いていた。

 

「おい、ユナ。そいつの格好をもっとちゃんと見ろよ!そいつ、魔戒騎士だぜ!」

 

「えっ?」

 

(やれやれ……ようやく誤解は解けたか……)

 

統夜は魔戒剣を降ろすと、そのまま魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「そういうことで、俺は魔戒騎士なんです」

 

統夜も再度自分が魔戒騎士であると説明をすると、ユナと呼ばれた女性は目をパチクリとさせていた。

 

『やれやれ、お嬢ちゃんも随分とそそっかしいな。こんな真夏にこんなコートを着てる奴なんて魔戒騎士くらいしかいないだろうに』

 

今まで何故か黙っていたイルバがここで口を開いた。

 

「ま……魔導輪!?それじゃあやっぱり……」

 

ユナはイルバを見たことで統夜が魔戒騎士であると確信していた。

 

「おい、イルバ。何で最初からお前が説得してくれないんだよ。そうすりゃ、こんなことしなくても済んだのに」

 

『このお嬢ちゃんがホラーではないとわかっていたからだ。それに、合宿中のお前さんには良い鍛錬になると思ってな』

 

「お前なぁ……」

 

イルバが今まで黙っていた理由がわかり、統夜はジト目でイルバを睨みつけていた。

 

「本当にごめんなさい!怪我はなかった?」

 

ユナは勘違いとは言え統夜に剣を向けたことを謝っていた。

 

「まぁ……。こんな森にいた俺も悪かったし、気にしてないです。だけど……」

 

統夜は唯たちに視線を移すと、ユナも視線を移してハッとしていた。

 

ユナはこの瞬間まで唯たちの存在に気付いていなかったのである。

 

「謝るなら彼女たちに謝って下さい。俺は魔戒騎士だからこんなの慣れっこですけど、彼女たちはこんな生活には慣れてないんですから」

 

「うん……そうだね……。……本当にごめんなさい!」

 

ユナは自分の行動を唯たちに詫びると、しゅんとしていた。

 

「い、いえ……。気にしないでください……」

 

梓がこう答えると、唯たちはウンウンと頷いていた。

 

『それで……お前さんたちはどうしてこんな所にいるんだ?』

 

イルバはユナとカインがどうしてこの森に来ているのか事情を聞いていた。

 

「あぁ、実は番犬所からの指令でな。この森にホラーが出たみたいだから、倒してこいってことで来たわけでなんだよ」

 

カインが統夜やイルバに事情を説明した。

 

「やっぱりこの森にホラーがいたのか……」

 

統夜は肝試しをする前から嫌な予感がしていたのだが、その予感が的中してしまった。

 

その時、統夜は何かを思い出してハッとしていた。

 

「そういえば、律の奴の姿を見てないよな?」

 

「りっちゃん。脅かす役をやるって言ってたけど……」

 

「!このままじゃ律が危ない!」

 

統夜は慌てて森の奥を進もうとしていた。

 

「ちょ、やーくん!?」

 

「お前らは先に別荘に戻ってろ!律は俺が連れ戻す!」

 

統夜はそれだけ言うとそのまま森の奥へと向かっていった。

 

「ユナ!俺たちも追うぞ!」

 

「うん!」

 

ユナは木に突き刺さった魔戒剣を引き抜いてそれを鞘に納めると、カインと共に統夜を追いかけていった。

 

「統夜先輩……」

 

「ホラーのことは統夜君たちに任せて私たちは戻りましょう」

 

「うん、そうだね……」

 

「まさか……。こんなことになるなんてね……」

 

さわ子は合宿に合流するなりこんなことが起こるとは思っておらず驚いていた。

 

さわ子はグォルブの事件の後に統夜から魔戒騎士やホラーの話を聞いたのだが、あまりに非日常過ぎて実感がなかったのである。

 

(統夜君……。無茶だけはするんじゃないわよ……)

 

さわ子はこう統夜を応援することしか出来なかったのである。

 

こうして唯たちは律のことを統夜たちに任せて先に別荘に戻ったのである。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

統夜たちが律を探していたその頃……。

 

「……誰もこねー」

 

律はなぜかこんにゃくをぶら下げた竿を持って待ちぼうけしていた。

 

律は夕食をなかなか食べさせてもらえなかった仕返しに澪を驚かそうと画策していたのだが、誰も姿を現さないのであった。

 

(それにしても真夜中の森って何か怖いよな……。なんか不気味だし……)

 

律は静かで暗い森の怖さに少しだけ怯えていたのである。

 

(こんな森にホラーなんて……出ないよな……?さすがにそれはないと思うけど……)

 

律がもう1つ怖いと思ったのはホラーの存在である。

 

出るはずはないと言い切っているものの、ホラーはいつ現れるかわからないからである。

 

(……もう帰ろうかな……。統夜たちも現れなさそうだし……)

 

律はこの場を離れようとしたその時だった。

 

カサカサっ!

 

背後の草むらから突然物音が聞こえてきた。

 

「ひっ!?な、何だよ!」

 

律は突然の物音に怯えて後ろを向くが、何もいなかったのである。

 

「何だよ……びっくりしたなぁ……」

 

律は何もないことに安堵するが、再び物音が聞こえてきたので身構えていた。

 

そんな律の目の前に現れたのはどこにでも売ってそうな熊のぬいぐるみだった。

 

「何だ、ぬいぐるみか……」

 

律は安堵したのだが、ぬいぐるみの異変にすぐ気付いた。

 

「あれ?このぬいぐるみ……何でこっちに近付いてるんだ?」

 

こちらに近付いてくるぬいぐるみを不気味に思ったのか律はゆっくりと後ろに下がっていた。

 

その時だった。

 

__キシャァァァァァァァァ!!!

 

どこにでも売ってそうな可愛い熊のぬいぐるみが、突然不気味な化け物に変貌してしまった。

 

「!?ほ、ホラー!?」

 

律は突然現れたホラーに驚いていた。

 

ぬいぐるみが変化した森のホラー熊は、気付けば律と同じくらいの大きさになっていた。

 

「に……逃げないと!」

 

律は慌てて逃げ出すが、森のホラー熊は獲物を喰らうために追いかけてきた。

 

「くそっ!何で追いかけて来るんだよ!」

 

迫り来るホラー熊に怯えながら律は逃げ続けていた。

 

その時だった。

 

律が逃げてる方向から人のような影が迫ってきた。

 

「!?今度は何だよ!?またホラーじゃないよな!?」

 

律は逃げながらも迫り来る影に警戒していた。

 

その時であった。

 

「律!!」

 

迫り来る影の正体は統夜であり、律は統夜の姿を確認した。

 

「統夜!」

 

律と統夜は無事に合流することが出来たのである。

 

「律、無事か!?」

 

「あぁ、なんとか……」

 

「無事で良かったよ」

 

統夜が安堵の笑みを浮かべていた。

 

「!////」

 

律は統夜の笑顔を見て頬を赤らめていた。

 

その時、律を追いかけて来た森のホラー熊が2人の前に現れた。

 

「どうやら、こいつがホラーのようだな」

 

『そのようだ。統夜、油断するなよ!』

 

「あぁ」

 

統夜が魔戒剣を抜いたその時、統夜を追いかけて来たユナとカインが合流した。

 

「!あいつが!」

 

「どうやらそうらしい!」

 

「ユナさんとカインさん……でしたね?」

 

「そうだけど、何だ?」

 

「2人は彼女を頼みます!こいつは俺が斬る!」

 

「えっ!?でもこいつらは……」

 

カインは統夜の言葉に戸惑っていた。

 

自分たちは目の前のホラーは自分たちの獲物だからである。

 

「誰の獲物とか言ってる場合じゃないでしょう!?守るべき人がいるなら然るべき行動を取る。それが守りし者のはずです!」

 

統夜はホラー熊に立ち向かいながらユナとカインを叱責していた。

 

「「!!」」

 

ユナとカインは統夜の叱責で自分たちがすべきことを理解したのであった。

 

「そこのお前!こっちに来い!」

 

「わ、わかった!」

 

律は少しだけ不安そうにしていたが、統夜の知り合いみたいだったので、2人を信じて2人に駆け寄り、安全な場所まで下がった。

 

『やれやれ……お前さんも一丁前なことを言うようになったな、統夜』

 

「無駄口を叩いてる場合じゃないだろう!?」

 

統夜はホラー熊と交戦しながらイルバに怒っていた。

 

ホラー熊は爪による連続攻撃を仕掛けるが、統夜は無駄のない動きでホラー熊の攻撃をかわしていた。

 

「あの子の戦い方……」

 

ユナは統夜の戦いに見入っていた。

 

「?どうしたんだ、ユナ?」

 

「あの子の戦い方なんだけど、何となくあの人に似てる気がするんだよね……」

 

「!あの人ってもしかして……」

 

カインの問いかけにユナは無言で頷いていた。

 

ユナが思い描いていたのは、かつて共にリングという強大なホラーと戦った涼邑零のことであった。

 

ユナは統夜と零の戦い方が何となく似ていると感じていたのであった。

 

ホラー熊と交戦している統夜は、苦戦している素振りは見せず、ホラー熊を翻弄していた。

 

そして統夜は蹴りを放ってホラー熊を吹き飛ばした。

 

「そろそろ戻らないとみんなが心配するし、一気に決める!……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜はこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げて、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

「!あの子の鎧……」

 

「あいつとは違う銀の騎士がメシアの腕と呼ばれたホラーを討滅したとか。……まさか、あいつがその……」

 

「白銀騎士……奏狼……」

 

ユナとカインは統夜の鎧を見たことはないが、その武勇伝は聞いたことがあった。

 

統夜がグォルブを討滅したことは元老院だけではなく、あちこちの番犬所にも広まっているため、奏狼という名前も様々な魔戒騎士や魔戒法師に広がっていた。

 

ホラー熊は爪による連続攻撃を仕掛けるが、そんな一撃で奏狼の鎧に傷をつけることは出来なかった。

 

統夜はホラー熊にパンチによる攻撃を仕掛けると、ホラー熊はその一撃で吹き飛んだのであった。

 

「……一気に決める!」

 

統夜は一気に駆け出すと、皇輝剣を一閃した。

 

その一撃を受けたホラー熊の体は真っ二つになり、ホラー熊は断末魔をあげながら消滅した。

 

「……よしっ!」

 

ホラー熊が消滅したことを確認した統夜は鎧を解除して、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「律、大丈夫か?」

 

「…………」

 

統夜は律に駆け寄るのだが、律は何故か黙ったまま俯いていた。

 

「……?律?」

 

何故か黙る律に首を傾げるが、その時、律が急に統夜に抱きついた。

 

「!?り、律!?////」

 

「ふぇ!?///」

 

「へぇ、これはこれは」

 

律に抱きつかれて統夜は顔を赤らめており、それを見たユナも何故か顔を赤らめるのだが、カインだけはニヤニヤしながら動向を見守っていた。

 

「統夜ぁ……!怖かったよぉ……!」

 

律はあまりに怖かったのか、統夜に抱きついた状態で大泣きしていた。

 

「そうだよな……。だけど、もう大丈夫だ……」

 

統夜は律の頭を撫でながら優しく囁いていた。

 

「あ、あの子たち、付き合ってるの!?////」

 

「さぁな。そこまではわかんねぇよ」

 

ユナは顔を真っ赤にしており、カインは未だにニヤニヤしながら動向を見守っていた。

 

律が泣き止む間はそのままの状態を維持することになり、統夜は律の頭を撫でながら律をなだめ、ユナとカインはそんな2人を見守っていた。

 

 

しばらくして律は統夜から離れたのだが、ユナとカインに一部始終を見られていたことに気付き、顔を真っ赤にしていた。

 

「……すいません、2人の獲物を横取りしてしまって……」

 

統夜はユナとカインが倒すはずだったホラーを自分が倒したことを詫びていた。

 

「べ、別に……。気にしてないから大丈夫だよ」

 

「そうだな。おかげで噂の白銀騎士の戦いが見られた訳だしな♪」

 

「噂って……俺が……ですか?」

 

「あぁ。あちこちの魔戒騎士や魔戒法師たちはお前の話で持ちきりだぜ?強大なホラーを倒した若い騎士に黄金騎士も一目置いてるってな」

 

「そんな……。俺なんてまだまだ魔戒騎士としては未熟なのに……」

 

統夜は自分の活躍が噂になってることは嬉しかったが、自分はそこまでの器ではないとも感じていた。

 

「そんなに謙遜することはないって!噂通りの実力だって思ったぜ!」

 

「それに、あなたの戦い方は何となくあの人に似てる気がしたんだよね……」

 

「?あの人?」

 

「涼邑零。この名前に聞き覚えはないか?」

 

「!!もしかして、零さんのことを知ってるんですか!?」

 

まさか零の名前が出てくるとは思っておらず、統夜は驚いていた。

 

「まぁ、そういう事だ」

 

「君もあの人のことを知ってるんだね」

 

「えぇ。俺は零さんに魔戒騎士としての心得を色々教えてもらいました」

 

「へぇ、そうなんだね」

 

「今友達の別荘に来てるんですけど、良かったら一緒に来ませんか?色々お話を聞きたいですし」

 

統夜はユナとカインを紬の別荘に招待していた。

 

「……どうする、カイン?」

 

「せっかくだし、寄って行こうぜ!」

 

「そうだね」

 

こうしてユナとカインは統夜の申し出をありがたく受け入れ、統夜たちは別荘へと戻ることになった。

 

その時だった。

 

「な、なぁ……統夜……」

 

「?どうした、律?」

 

「……手、繋いでもいいか?」

 

「……それくらいおやすい御用だよ」

 

統夜は律の手を握ると、律は顔を真っ赤にしていた。

 

「……ありがと」

 

「あぁ」

 

2人の動向を見ていたユナは再び顔を赤らめて、カインは再びニヤニヤしながら動向を見守っていた。

 

こうして統夜たちは別荘へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……あっ!戻って来たよ!」

 

統夜に別荘に戻るように言われた唯たちは別荘に戻ると、入り口で統夜と律の帰りを待っていた。

 

すると、統夜と律が姿を現したのである。

 

「良かった……。りっちゃんも無事みたいで……」

 

紬は統夜と律が無事に戻って来たことに安堵していた。

 

「あぁ……。本当に良かったよ……って、あれ?」

 

澪は何かに気付いたのか訝しげな表情をしていた。

 

「お前ら……どうして手を繋いでるんだ?」

 

澪は統夜と律がこちらに来るなり訝しげな表情で統夜と律に手を繋いでいることを追求していた。

 

「「あっ!」」

 

そこでようやく気付いたのか2人は慌てて手を離していた。

 

「べっ、別にこれは深い意味はなくてだな……」

 

統夜は慌てて手を繋いでいたことを弁明していた。

 

「むー……!羨ましいです……」

 

梓はぷぅっと頬を膨らませながら統夜を睨みつけていた。

 

「あらあら、統夜君とりっちゃんってば、いつの間にかそんな関係に……」

 

紬は笑みを浮かべていたのだが、そのオーラは恐ろしいくらい真っ黒であった。

 

「むー……!」

 

唯は何を言うわけではなかったが、ぷぅっと頬を膨らませながら統夜を睨みつけていた。

 

「まったく……。見せつけてくれるわね……。これが若さってやつなの?」

 

さわ子は統夜たちの様子を見て苦笑いしていた。

 

「アハハ……」

 

「何だかよくわからんが、あいつもどうやら大変そうだな」

 

ユナは苦笑いをしており、カインは統夜の現状に憐れんでいた。

 

「……そういえば、あなたたちはどうしてここに?」

 

ユナとカインの存在に気付いたさわ子は2人にこう問いかけると、唯たちはハッとしていた。

 

「あぁ。実は統夜に招待されたんだよ」

 

「そうだったんですか……。それに、あなたたちは?」

 

「あぁ。自己紹介をしてなかったな。俺はカイン。魔戒法師だ」

 

「私はユナ。カインと同じく魔戒法師でもあるんだけど……。魔戒剣を操る魔戒剣士でもあるの」

 

「魔戒剣士?」

 

「ちょっと待て。確か女性は魔戒剣を持てないって統夜は言ってたけど、どうしてあなたは魔戒剣を?」

 

澪は以前統夜から魔戒剣は女性には扱えないという話を聞いていたので、その疑問をユナにぶつけていた。

 

「実は術を使って私の腕に死んだ父さんの骨を埋め込んだの。それで、私は魔戒剣を操れるようになったんだ」

 

「まぁ、本当はその方法は体に相当負担をかけるんだけどな。ユナの覚悟は相当だったから、その術をかけるのに協力したんだよ」

 

「そうだったんですね……」

 

「そのような話を零さんから聞いたことがあったんですけど、実際見るのは初めてなので驚きました……」

 

統夜は零からユナの話を聞いたことがあったのだが、実際に女性がソウルメタルを操る術を聞いて驚いていた。

 

「とりあえず立ち話もあれなんで、中に入りましょう。お2人も良かったらゆっくりしていって下さい!」

 

「うん!ありがとう!」

 

「それじゃあ、遠慮なく♪」

 

こうして統夜たちは別荘の中に入り、一度リビングに入った。

 

そこで唯たちは自己紹介を済ませると、そのままお風呂へ向かい、統夜、ユナ、カインの3人は紅茶を飲みながら様々な話で盛り上がっていた。

 

涼邑零という共通の知り合いがいるため、話はとても弾んでいた。

 

その中で統夜は強大な力を持ちながら人間とホラーの共存を考えていたというリングと呼ばれるホラーの話を聞いたりもしていた。

 

その話は零からちらっとしか聞いていなかったので、詳しく聞いてみたいと思ったのである。

 

リングはユナの父親であるクロウドを殺したホラーであり、ユナは仇を取るためにクロウドの遺骨を術の力によって移植したのである。

 

その術をかけたのがカインであったのだが、その術は体に相当な負担をかけるもので、時折その影響が出て満足に戦えなくなることもある。

 

しかし、魔戒騎士だったクロウドの骨を移植したことで、女性には扱えない魔戒剣を扱うことが可能になったのである。

 

ホラー、リングとの戦いのいきさつを聞いた統夜はそのお礼ではないが、グォルブやディオスとの戦いのいきさつを語った。

 

暗黒騎士の力を得たディオスが強大な力を持つグォルブを蘇らせようとしたこと。

 

それを阻止するためにディオスに戦いを挑むが、敗れたこと。

 

そして、唯たちを人質に取られたことで怒りに支配されて心滅してしまったこと。

 

グォルブ復活が間近となり、復活を阻止しようとするが、グォルブが復活してしまったこと。

 

真魔界に現れたグォルブをどうにか討滅し、ディオスを討伐したことを語った。

 

「へぇ……統夜も随分と過酷な戦いをしてたんだな……」

 

「それに零さんや黄金騎士である冴島鋼牙さんだけじゃなくてレオさんも協力してたなんて……」

 

ユナは零、鋼牙、レオと多くの魔戒騎士や魔戒法師に知られる人物がホラー、グォルブやディオスとの戦いに参加していたことに驚いていた。

 

「レオ……。あぁ、あの野郎か……!」

 

カインはレオの名前を聞いて眉間にしわを寄せていた。

 

カインとユナはとある指令でレオに会っていたのである。

 

その指令はレオが出したものであり、それも法師と騎士2つの顔を持つユナを試すためのものであった。

 

そのためカインを介入させる訳にいかないと判断したレオはカインをダウンさせたのだが、カインはその時に足を痛めてしまった。

 

その時からカインはレオに苦手意識を持つようになったのである。

 

レオの指令をどうにか乗り越えたユナはレオと邂逅し、その時、元老院にスカウトされた。

 

しかし、ユナはその話を断ったのであった。

 

元老院所属というのはこの上ない名誉であることをユナはもちろんわかっていたのだが、ユナは自分1人でもなくこれからもカインと2人で戦っていきたいという理由で元老院へのスカウトを断ったのであった。

 

ユナはカインの不機嫌そうな顔を見ると統夜にその時の話をしたのであった。

 

「へぇ……。ユナさんも元老院行きの話を断ったんですね」

 

「ユナさんもってことは統夜も元老院にスカウトされたの?」

 

「えぇ。グォルブを討伐した数日後に番犬所から話があったんです。俺が今通ってる桜ヶ丘高校を卒業したら元老院に来ないか?って。俺の元老院入りをレオさんや鋼牙さんも推薦してくれたんです」

 

レオだけではなく黄金騎士である鋼牙も統夜の元老院入りを推薦してくれたと知り、ユナとカインは驚いていた。

 

「マジか?黄金騎士が統夜に一目置いてるとは聞いていたけど、元老院入りを推薦までしてたのかよ?しかもそれを断ったんだろ?もったいない気がするぜ」

 

カインは驚きながらも鋼牙の推薦をもらっているのに元老院入りを断ったというのがもったいないと感じていた。

 

「確かにそれは今でもそう思います。だけど、俺は魔戒騎士としてはまだまだだから元老院はまだ早いって思いましてね」

 

「そんなに謙遜することはないと思うけどな」

 

「それに……俺は桜ヶ丘が大好きだから……桜ヶ丘を守るってのが性に合ってるんですよ」

 

統夜はイレスに言ったことと全く同じことをユナとカインに言っていた。

 

「なるほどね……。私は統夜君の気持ちが何となくわかるなぁ」

 

「えっ?そうなのか?」

 

「うん。私が元老院入りを断ったのも似たような理由だしね♪」

 

「元老院入りは確かに名誉なことだけど、番犬所でも元老院でもホラーを狩って人を守るってのは変わらないですからね」

 

「うんうん♪私もそう思う♪」

 

統夜とユナは共に元老院入りを断ったということで意気投合していた。

 

しばらく話をしていると、風呂に入っていた唯たちが戻ってきた。

 

「はぁ……いい湯だった♪」

 

別荘のお風呂がとても良かったのか、唯は満足そうな表情をしていた。

 

それは唯だけではなく、みんなも同様であった。

 

「あっ、ユナさん。統夜との話は終わったんですか?」

 

「うん、一応ね」

 

「ユナさんも良かったらお風呂に入っていきませんか?」

 

「えっ?いいの?」

 

「はい♪遠慮しないでください♪」

 

「ユナ、入るなら入って来いよ。じゃないと俺も統夜も風呂に入れないしな」

 

「それじゃあ……入って来るかな♪」

 

ユナは紬の案内で風呂場へと移動すると、そのまま風呂に入り、統夜とカインはそれを待っている間は唯たちとトランプをしながら遊んでいた。

 

1時間ほどトランプで遊んでいるとユナが戻ってきたので、統夜とカインは風呂場へと向かうと風呂に入り、戦いの疲れを癒していた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

統夜とカインが風呂から戻ってくると、しばらくは遊んでいたのだが、遊び疲れたのか唯たちはすぐさま眠りについたのであった。

 

みんなが寝静まった頃、統夜はこっそりと別荘を抜け出すと、剣の素振りを始めていた。

 

剣の素振りは毎日の日課であり、どのように忙しい日であろうと1日も欠かすことはなかった。

 

統夜は今や魔戒騎士の中でもかなりのレベルまで達しているものの、自らはまだまだであると感じており、魔戒騎士として精進する気持ちは今までよりも強くなっていたのである。

 

『統夜、今日も精が出るな』

 

「まぁな。俺はこれからももっともっと精進しなきゃいけないんだ。これくらいは当然だよ」

 

『お前さんは頑張るな。そこまでして力が欲しいのか?』

 

イルバは少しだけ意地悪な質問をしてきたので、統夜はその手を止めた。

 

「俺が確かに力が欲しいよ。だけどそれは自分を満たす力じゃなくて、誰かを守る力だ。俺だって全ての人を守れるとは思ってはいないけど、この手が届くならその人は絶対助けたい」

 

統夜は右手の拳をギュッと握りしめていた。

 

「俺は1人だろうと2人だろうと明日へ……その先へ繋げていきたい。それは、守りし者としての俺の想いだよ」

 

こう語る統夜の目は凛としており、統夜の守りし者としての覚悟が伺える程であった。

 

『ほぉ……。随分と成長したな……統夜』

 

「何だよ、今日は珍しく素直だな、イルバ」

 

『何を言っている。俺様はいつだって素直なんだぜ』

 

「ハハ、そうかもな」

 

統夜は笑みを浮かべると、素振りを再開した。

 

1時間ほど素振りをすると、統夜は別荘に戻っていった。

 

別荘の中に入り、自分が今日寝る部屋へ移動する途中、一部屋だけ明かりがついていた。

 

(?ギターの音が聞こえるな……)

 

統夜は明かりがついた部屋を覗こうとしたその時だった。

 

「あずにゃんに出会えて良かったよ!」

 

明かりがついている部屋から唯の声が聞こえてきた。

 

「あずにゃぁぁぁん!!……ウフフ……ありがとう♪あずにゃん♪」

 

統夜が部屋を覗くと、唯が梓に抱きつき、頰ずりをしていた。

 

梓はまんざらでもなかったのか、優しい表情で笑みを浮かべていた。

 

(そっか……。練習をやってたんだな……。これは邪魔しちゃ悪いよな……)

 

統夜は笑みを浮かべると、そのまま明かりがついた部屋を通り過ぎて、自分の寝る部屋に戻ると、すぐさま眠りについた。

 

 

 

翌朝、日課の稽古を行うためいつもの時間に目を覚ました統夜であったが、同じ部屋で眠っていたカインの姿がなかった。

 

1時間ほど剣の素振りを行ってから部屋に戻ってもカインの姿はなかったので、ユナと共に早朝にここを出発したと推測出来た。

 

唯たちも起床し、全員が歯磨き洗顔を終えると朝食の時間になった。

 

この後も合宿は続いたのであるが、練習よりも遊ぶ時間の方が長かった。

 

統夜は久しぶりの平和な時間を満喫し、心身共に休息を取ることが出来たのであった。

 

こうして軽音部の3泊4日の合宿は幕を降ろしたのである。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『夏休み、魔戒騎士である統夜に休みはないが、普通の高校生はのんびりと休日を満喫しているみたいだな。次回、「休日」。いくら休みと言っても勉強は忘れるなよ』

 

 




統夜たちの合宿が無事終わりました!

今回はホラーとの戦いもありましたが、今回の相手はホテー熊こと森のホラー熊でした。

そして今回はカインとユナが登場しました。

始めはこの2人ではなく、翼と邪美を出すことを考えていましたが、カインとユナを出したときに意外とすんなり話が書けたのでこの2人を採用しました。

この合宿回はこの小説執筆当初からどうするかけっこう悩んでました。

本当に初期の頃は閑岱で合宿をすることも考えましたが、カオルですら行けてない土地に行けるっていうのもどうかなって思ってやめて、今回のような感じになりました。

そして次回は日常回となります。

戦闘はあるかないかはわかりませんが、次回をお楽しみに!


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