今のところ統夜と軽音部のメンバーしか登場していませんが、牙狼のキャラはもう少し先で登場させる予定です。
それでは、第3話をお楽しみください。
〜梓 side 〜
こんにちは、中野梓です。
私があの訳のわからない化け物に襲われそうになったのを統夜先輩が助けてくれた翌日、先輩が言ってくれたことを守った私は軽音部に顔を出した。
そこで、どうして軽音部に入ろうと思ったのか、どうして先輩たちの演奏にあそこまで感動したのかという私が抱えている気持ちを先輩たちにぶつけた。
そして私は泣き出してしまったけど、先輩たちは私が感動したあの曲を演奏してくれた。
私、その演奏を聴いた時、統夜先輩が言っていた言葉の意味を理解した。
確かに、先輩たちは演奏をしている時はすごく楽しそうに演奏していた。
これからもお茶ばかり飲んでだらける事もあるだろうけど、それも必要な時間で、楽しく気持ちを一つにして演奏することこそ軽音部の音楽なんだなということを私は実感していた。
私はやっぱり軽音部で頑張りたいそう改めて心に誓っていた。
そして数日後、私は今日も軽音部の部室である音楽準備室にいた。
……それにしても……。
統夜先輩が身につけていたあの銀色の鎧は何だったんだろう……。
あんな化け物をあっという間にやっつけちゃったし……。
先輩はあの事は忘れろって言ってたけど、あんなの忘れろっていうのが無理だもんね……。
統夜先輩……。毎日あんな危ない事をしてるのかな……。
「……梓、どうした?」
じっと統夜先輩の顔を見つめていると、それに気付いた統夜先輩が声をかけてきた?
「あっ、いえ……」
「さっきから統夜のことジッと見てたよな」
「あっ、あの…それは……」
ど、どうしよう……。
私ったら思わず統夜先輩のことジッと見てたみたい……。
「……もしかして今食べてたクッキーのカスがついてたりしたか?」
そう言いながら統夜先輩はティッシュで口元を拭く仕草をしていた。
もしかして…統夜先輩、フォローしてくれてるのかな……?
「まったく…統夜は慌てて食べ過ぎなんじゃないのか?」
「悪い悪い。ムギの持ってきてくれたクッキーが美味くてつい…な」
統夜先輩は恥ずかしそうに笑っていた。
「まぁ♪そう言ってもらえると嬉しいわ♪」
「うん!今日のおやつも美味しいよねぇ♪」
「ウフフ♪唯ちゃんもありがとね♪」
……何だろう……。統夜先輩が上手くフォローしてくれてからまったりとした空気になってる……。
ムギ先輩がおっとりしてるからそんな雰囲気になってるのかな?
統夜先輩は笑いながら携帯電話を取り出すと、時間を確認していた。
「……っと、もうこんな時間か。悪いけど、今日は用事があるから帰らせてもらうわ」
こう言って統夜先輩は立ち上がり、ギターケースと学生鞄。そして、あの赤いコートを手に取った。
「なぁ、統夜。用事って一体何なんだ?」
「秘密……って言いたいところだけど、この後、人と会う約束をしててな。待ち合わせの時間がもうすぐなんだよ」
「会う約束をしてる人って誰なんだ?」
「悪いけど、さすがにそれは秘密かな。それじゃあ、また明日」
統夜先輩はこれ以上の追求が嫌だったのか逃げるように音楽準備室を出て行った。
統夜先輩が出て行ったあと、室内は少しの間だけ静かだった。
「……怪しい……」
律先輩がこう呟くとみんなの視線が律先輩に集中していた。
「だって怪しいと思わないか?統夜って途中で帰る時っていつもいつも理由を曖昧にするじゃんか!」
「確かに律の言う通りだな。今日だって本当に誰かと会う約束をしてるのか?」
「もし違うのならどうしてそんな嘘をつくのかしら……?」
「やーくんにも何かそうしなきゃいけない理由があるのかなぁ?」
……唯先輩にしては珍しく鋭い気がする。
恐らく用事というのは昨日みたいな化け物退治だろうというのは何となく察することが出来た。
統夜先輩もさすがにあんな化け物と戦ってるなんてみんなに話さないだろうし、先輩たちも知らないよね……?
「ねぇ、りっちゃん。統夜君って確か1人暮らしよね?やっぱりアルバイトなのかしら?」
「そうだったらそうだってハッキリ言ってるよな」
確かに……。本当にバイトならわざわざ隠す必要はないだろうし……。
「もしかして人と会うって彼女とか?」
「いやいや……。統夜に限ってそれは有り得ないだろ。統夜はわりと真面目だからな。もし本当に彼女が出来たら私たちに報告すると思うんだよな」
「何かやーくんってわからないところがいっぱいあるよねぇ」
「そこでだ。明日は部活を休みにして統夜のことを尾行してみないか?」
「おぉ!何か探偵さんみたいだねぇ!」
律先輩の提案に唯先輩はノリノリみたいだけど……。
「でも、統夜先輩に悪いですよ。尾行だなんて……」
私は律先輩の提案に反対意見を出した。
だって、そんなことをしたらまたあんな化け物が襲ってくるかもしれないのに……。
「梓の言うことはもっともだけど、確かに統夜の動向は気になるんだよなぁ」
み、澪先輩まで賛成だなんて…!
「私、探偵みたいに誰かを尾行するのに憧れていたのぉ♪」
……そこ、憧れるようなところじゃないですよ、ムギ先輩……。
「よっしゃ!そういうことなら多数決ってことで決定だな!」
「そ、そんなぁ……」
「梓だって統夜が本当は何をしてるか気になるだろ?」
「ま、まぁ…。確かにそうですけど……」
確かに統夜先輩やあの化け物が言っていた魔戒騎士っていうのは何なのかはすごく気になるけど……。
「それじゃあ決まりだな!そしたら明日は部活は休みで、放課後玄関前に集合な。統夜にも部活は休みだってメールしておくか」
律先輩は携帯を取り出すと、統夜先輩に明日の部活は休みだということをメールで伝えた。
統夜先輩は今日も化け物退治をしているのかなあ……。
私はそんな事を考えながらティータイムに参加していたけど、ティータイムはすぐ終わり、その後少しだけ練習をして、この日の練習は終わったのだった。
〜統夜 side 〜
部室を出てそのまま学校を後にした俺は、番犬所に直行した。
そこで昨日ホラーを狩ったので狼の像に魔戒剣を突き刺し、剣の穢れを浄化し、昨日斬ったホラーの邪気は1本の短剣に封印された。
それをイレス様の付き人の秘書に渡すと、すぐさま指令書を受け取り、すぐさま指令に書かれたホラーの討伐に向かった。
……それにしても梓のやつ、昨日のことをまだ忘れてないみたいだな……。
忘れろって言ったのに……。
それに明日は何で部活を休みにしたんだ?まぁ、その方が俺は助かるけどな。
何の気兼ねもなく騎士としての務めを果たせるしな。
……っと、それよりも今は目の前のことに集中しないとな。
現在は夜であり、俺は今ガーゴイルと呼ばれるホラーと相対していた。
俺は早期決着のために奏狼の鎧を召還し、一太刀でガーゴイルを真っ二つにし、鎧を解除した。
「ふぅ……。今日のお仕事も完了だな」
『あぁ。今日の動きは悪くなかったと思うぜ』
イルバも今日はダメ出しを言わないみたいだな。
『それよりも、明日は部活が休みらしいが大丈夫か?あのお嬢ちゃんたち、何か良からぬ事を企んでるような気がするが』
「まぁ、それは俺も思ったが、大丈夫だろ」
一般人が魔戒騎士の秘密を探るなんて出来るわけがないしな。
「とりあえず帰ろうぜ、イルバ」
『了解だ、統夜』
こうしてガーゴイルを討伐した俺は、そのまま帰宅し、シャワーを浴びてから眠りについた。
※※※
そして翌日、いつも通り鍛錬を行い、エレメント浄化を行った俺はいつも通り登校した。
放課後、この日は部活はないって事は律からメールで聞いていたのでそのまま下校し、番犬所に向かおうとしたんだけど……。
「………」
番犬所に向かう途中、視線を感じたので俺は振り向くが、何もなかった。
……はぁ……。この展開はまさかな……。
俺は視線を戻すともう一度歩き始めた。
『……おい、統夜』
「イルバ…皆まで言うな。つけられてるって言うのはわかってるから」
『あのお嬢ちゃんたち、やっぱり統夜をつけるために部活を休みにしたみたいだな』
「あぁ、そうみたいだな」
ったく……。あいつらは……。
梓のやつは俺の秘密をしってるくせに尾行するなんて……。
元の生活に戻れなくなっても知らないぞ……。
「まぁ、番犬所はすぐそこだし、さっさとまくとしますか」
俺は走り出し、行き止まりの壁に到着すると、イルバをかざして番犬所への入り口を解放すると、その中に入っていった。
……ふぅ、これで大丈夫だろ。
〜梓 side 〜
翌日の放課後、私たちは一度玄関前に集合すると、校門前で統夜先輩を待ち伏せし、統夜先輩が現れると、統夜先輩の尾行を開始した。
統夜先輩は私たちが一緒に帰るときに通っている道を歩いていた。
あれ……?今日は何もしないで帰るのかな?
すると、統夜先輩はこちらに気付いたのか足を止めると、こちらを睨むように見ていた。
「「「「「!!!!」」」」」
統夜先輩の迫力に驚いた先輩たちは陰に隠れ、私も同じように陰に隠れて難を逃れた。
「あぁ……びっくりした……」
「やーくん、なんか怖いよ……」
確かにさっきの統夜先輩はなんだかとっても怖かった。
まるであの化け物と戦ってる時のような。
統夜先輩は再び歩き始めたんだけど、明らかにさっきより歩くスピードが速かった。
そして……。
「あ!りっちゃん!統夜君が走り始めたわ!」
「なにぃ!?もしかして気付かれたか?急いで追いかけるぞ!」
私たちは慌てて統夜先輩を追いかけて、統夜先輩が曲がった角の道に入っていった。
あれ?確かその先は行き止まりだったような……。
私たちも角の道に入って行き止まりのところまで進んだんだけど……。
「……あれ?」
「やーくん、いないねぇ」
行き止まりなので統夜先輩の姿があってもおかしくないのに、そこに統夜先輩の姿はなかった。
「おかしいな……。行き止まりなんだから統夜の姿があってもおかしくないんだけどな…」
「確かにこの道に入っていったわよねぇ?」
澪先輩とムギ先輩も壁をじーっと見つめながら首をかしげていた。
「まさか……」
律先輩はこう前置きをすると、じっと上を見つめていた。
私もつられて上を見たんだけど、壁の高さは100m以上はありそうなので、とても人が飛び越えられるような高さではなかった。
でも……。
「この上を飛び越えていったとか!?」
律先輩があまりにも予想通りなことを言うもんだから私は思わず苦笑いをしてしまった。
「おぉ!やーくんってばすごい!」
唯先輩もそこは間に受けなくてもいいのに……。
いや、統夜先輩なら出来そうだからなんか怖いな……。
「おいおい、いくらなんでもそんなの出来るわけないだろ?ヒーローじゃあるまいし……」
「まさか……。統夜君は人知れず悪と戦ってるヒーローとか?」
「アハハ!そんなハズないよなぁ!」
「そうだとしたら統夜が途中で帰るのも納得だけど、さすがに有り得ないよな!」
律先輩と澪先輩はこう言って笑ってたけど……。
……ほぼ正解に近いよね……。
やっぱりムギ先輩って勘が鋭いのかなぁ……。
まぁ、あんな化け物は実物を見ないと信じることは出来ないと思うけど……。
私だって未だに信じられないのに……。
それはそうと統夜先輩はどこへ行ったんだろう……。
〜統夜 side 〜
俺は番犬所に向かう途中に軽音部のみんなが俺を尾行していることに気付いた。
最初は気づかないふりをしていたけど、番犬所の近くで歩くスピードを速め、さらに走って番犬所の入口がある行き止まりまで走ると、そのまま番犬所の入口を解放して中に入り、唯たちをまいた。
……はぁ、あんなんで尾行してるつもりかよ……。
それに、魔戒騎士を尾行しようなんて100年はやいっつうの。
番犬所の入口だって中に入った後にすぐ塞いだから唯たちに番犬所の入口を見つけることは出来ないだろう。
……今頃は俺が消えたって騒いでるだろうな。
そんなことを考えながら俺は番犬所の中に入ると、イレス様に挨拶をした。
そして狼の像の前で魔戒剣を抜くと、その口の中に魔戒剣を突き刺し、剣の穢れを浄化した。
浄化を終えた俺は魔戒剣を鞘に納め、昨日ガーゴイルを封印した短剣をイレス様の付き人の秘書官に渡した。
「統夜、今日はずいぶんと早いですね。部活はどうしたのですか?」
「それが、急に休みになりまして……」
『あのお嬢ちゃんたちは統夜の素性を探ろうと尾行なんてしやがってたな。まぁ、バレバレだったがな』
まぁ、あの程度の尾行に気付かないようじゃ魔戒騎士として終わってるよな……。
万が一気付かなくても魔導輪であるイルバが気付くハズだしな。
「それで、彼女たちはまけたのですか?」
「はい。さすがに彼女たちは番犬所の入口を見つけることは出来ないでしょうから大丈夫です」
「そうですか」
まぁ、出る時は遠回りになるけど反対方向の出口から出るか。
じゃないと待ち伏せされる可能性があるからな。
魔戒騎士としての自分を唯たちに見られるわけにはいかないからな……。
梓には見られたが、全員に見られたとなると流石に誤魔化しきれないし……。
「統夜……指令です」
イレス様がこう宣言すると、秘書官が俺に赤い指令書を渡してきたので、俺は魔導ライターを取り出すと、すぐさま指令書を燃やした。
そして指令書から浮かび上がってきた指令は……。
「親切な気持ちで獲物に近付き、そのまま獲物を喰らうホラーあり。直ちに殲滅せよ」
親切ねぇ……。
困ってる人に声をかけてそのままその人を喰らうって訳か…。
そういうタイプのホラーは上手く人に溶け込んでるうえに邪気すら消しちゃうから捜索は困難だろうな……。
『ホラー「ラウル」か……。こいつはやっかいなホラーだな。奴はその人当たりの良さを利用して人の中に溶け込める奴だからな』
「それに、邪気まで隠してるんだろう?」
『あぁ。奴が早々に姿を現して誰かを喰おうとすれば邪気を感知できるんだがな……』
「それじゃあ手遅れになる可能性が高い。これは根気よく探していかないとな……」
「統夜の言う通りですね。現在はまだ人的被害は出ていません。大変だとは思いますが、被害が出る前にホラーを見つけ出し、掃討するのです」
「はい、お任せください」
……親切な気持ちで獲物に近付くホラーか……。
なぜだろう……。何か嫌な予感がする。さっさとホラーを見つけないとな……。
〜梓 side 〜
統夜先輩を尾行してそのまま見失ってしまった私たちは先輩を探すのを諦めていつものファストフード店で休憩をとった。
ファストフード店で休憩を取り、ウィンドウショッピングをしていると気が付けば夜になっていた。
「やーくん、結局見つからなかったねぇ」
「そうだなぁ……。統夜のやつ、今頃何をしてるのやら……」
そうだよね……。統夜先輩は今、何してるんだろう……。
もしかして、またこの前みたいな化け物を探して町をうろついているのかな……。
「気がつけばすっかり遅くなっちゃったわね」
「先輩方、今日はそろそろ帰りませんか?もう暗いですし」
「そうだな。統夜を探すのは諦めて今日は帰るとするか」
私の提案に澪先輩が賛同してくれて、私たちはそのまま帰ることになった。
しばらく歩いてみんなが解散する道の近くまで来たんだけど……。
「……あれ?」
「ねぇ、りっちゃん。そこの街灯って普段灯りがついてるよねぇ?」
「あぁ。だけど……真っ暗だな」
律先輩の言う通り、いつもはついているハズの街灯の灯りがついておらず、今私たちがいる道は真っ暗だった。
「うぅ……。何でこんな時に故障してるんだよぉ……」
「あれぇ?澪ぉ。ひょっとして怖いのかぁ?」
「そ、そんな訳ないだろ!ほら、さっさと行くぞ。ここを抜けたら少しは明るくなるだろうし」
澪先輩は恐怖を振り払うかのように前向きに進もうとしたその時だった。
「あら、どうしたの?」
「ひっ!」
突如30代前半くらいの女性に声をかけられ、澪先輩はビクンとしていた。
わ、私もちょっとびっくりしたかも……。
「あらあら、あそこの街灯が壊れてるなんてあなたたちついてないわねぇ。大丈夫?」
「え、えぇ……まぁ……」
私たち暗い道に怯えてるように見えたから声をかけてくれたのかな?
何か優しそうな人だけど……。
「そう……。だけど、気を付けてね。ここら辺ね、「出る」のよ……」
……あれ?何かさっきとちょっと雰囲気が変わったような……。
「……な、何が……ですか……?」
澪先輩がこう訪ねると、女の人はニヤリと妖艶な笑みを浮かべた。
その笑みを見た瞬間、私はすぐにでもこの女の人から離れた方が良いのでは?と思ってしまった。
この人、まさか……。
「……「化け物」……がね……」
「!!先輩方、その人から離れて下さい!」
私が急に大声を出すからそれを聞いてハッとした先輩たちは慌てて女の人と距離をとった。
すると、私の予想通り、あの女の人はあの時の男の人と同じ怪物だった。
私たちが離れたのと同時に街灯の灯りがつくと、その女の人の姿がはっきりと見えた。
すると、女の人の瞳が真っ白になった。
「ひっ!?」
「あ、あずにゃん……」
「唯先輩、ひっつかないで下さいよ……。私も怖いんですから……」
唯先輩とそんなやり取りをしているうちに女の人はあの時と同じ、見たこともない化け物へと姿を変えてしまった。
「あっ……!あっ……」
「ば……化け……もの……」
あんな化け物を初めて見たからだと思うけど、澪先輩は恐怖のあまり言葉も出ないようで、律先輩も絶句していた。
ムギ先輩は息を飲んでいたが、怖いんだろうというのは素直に伝わってきた。
「うぅ……あずにゃん……」
そして唯先輩は相変わらず私にしがみついていた。
やっぱり怖い……!
あんな化け物……!
「あなたたち、本当に可愛いわねぇ。文字通り「食べ」ちゃいたいわぁ」
化け物へと姿を変えた女の人は怪しげな笑みを浮かべているのがよくわかった。
「み、みんな!逃げるぞ!!」
律先輩の号令で私たちは逃げ出そうとするが、澪先輩だけがあまりの恐怖から腰がぬけてしまい、その場から動かなくなってしまった。
「え……?な、何で……!?」
「澪先輩!!」
「澪!!早く逃げろ!!」
「だ……だめ……!動けない……!」
澪先輩は目の前の光景の恐怖と動けないことへの焦りからか顔面が真っ青になっていた。
私はどうにか澪先輩を助けたいんだけど、足がすくんでしまった。
怖い……。怖い怖い怖い怖い怖い!!
だけど、このままじゃ澪先輩が……!
私は自分を奮い立たせようとするけど、体が言うことを聞かなかった。
それは他の先輩も同じようで、恐怖で足が震えてしまい、澪先輩を助けに行くことが出来なかった。
あの化け物はドチャッドチャッっともはや人間の足音でない音で歩きながら少しずつ澪先輩に近づいていった。
「い……嫌……。来ない……で……」
澪先輩はそう言うのが精一杯で、目は涙でいっぱいだった。
「ウフフ、いい表情ね。まずは貴女からいただくとしますか……」
「澪!!」
「「澪(みお)ちゃん!!」
「澪先輩……!」
あの化け物は澪先輩の近くまで接近し、先輩を捕まえようとした。
……お願い……。統夜先輩……助けて……!!
私は必死に統夜先輩が助けに来てくれることを祈った。
……その時だった。
「ウフフ……。それじゃあいただき……うぐっ!!」
あの化け物が澪先輩を掴もうとした瞬間、澪先輩の前に何かが現れたと思ったら、その化け物を切り裂き、蹴りで化け物を吹き飛ばした。
「くっ……。誰!?せっかくの食事を邪魔するのは!!」
澪先輩の前に現れたのは赤いコートを見にまとい、手には剣を持っている男の人で、私…いや、私たちが待ちわびていた人だった。
「統夜……先輩……」
統夜先輩が、間一髪のところで助けに来てくれた!
良かった……。本当に……!
〜3人称 side 〜
唯たちが街灯が壊れていることに気付いたその頃、統夜はちょうどその近くの道を捜索していた。
指令をもらってから町をあちこちと周りホラーを探していたが、見つからなかった。
今もとある道を歩いていたが、ホラーの気配はなかったので、繁華街の方を捜索しようとしたその時だった。
『統夜!!ホラーの気配だ!ここから近いぞ!』
イルバがホラーの気配を察知し、統夜はすぐさま足を止めた。
「本当か!?それなら急ぐぞ!誰かがホラーに喰われる前に」
統夜はイルバのナビゲーションでホラーが現在出現しているポイントに急行した。
そこで統夜が目にしたのは……。
「!あれは……みんな!」
ちょうど誰かがホラーに姿を変え、そのホラーに襲われていたのは軽音部のみんなだった。
(まさか俺の嫌な予感が的中するとはな……)
統夜は梓がホラーに襲われてからというもの、唯先輩も近々ホラーに襲われるのではないかと予感していた。
その予感が的中してしまったことに統夜は表情を歪めていた。
その時だった。
「……まずい!澪のやつ、動けないのかよ!!」
他の4人はホラーと距離をとったのだが、澪だけが腰を抜かしてしまったのか動けずにいた。
このままでは澪が危ない。
統夜は迷わず魔戒剣を抜くと、ホラーのもとへ駆け出し、澪の前へと現れた。
「ウフフ……それじゃあいただき……うぐっ!!」
統夜はホラーを魔戒剣の一閃で切り裂き、怯んだところで蹴りを放ってホラーを吹き飛ばした。
「くっ……誰!?せっかくの食事を邪魔するのは!」
「……そこまでだ、ホラー」
統夜は魔戒剣を構えると、目の前のホラーを睨みつけた。
「と…統……夜?」
澪は目の前に統夜がいるのが信じられず、目を大きく見開いていた。
「統夜だよ!」
「統夜君!!」
「やーくん!!」
「統夜……先輩!!」
澪を救ったのが統夜だとはっきりわかった律たちはそれぞれ統夜の名前を呼び、歓喜の声をあげていた。
「澪……早くみんなのところへ逃げろ」
「え?私……その……」
『統夜、ダメだ。あのお嬢ちゃんは腰を抜かしてやがる』
「自力じゃダメか……。みんな!澪を連れて早く逃げるんだ!」
統夜は澪たちをなるべくホラーから遠ざけるため、ホラーめがけて突撃した。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」
体当たりからの怒涛の剣の一閃にホラーは攻撃を防ぐことしかできず、少しずつ後ろに下がっていった。
その隙に律と紬は動けなくなった澪を抱え、唯や梓と共に少し離れた安全圏へと避難し、統夜の様子を伺っていた。
「すごい……」
「あれ……統夜君……よね?」
統夜の戦いを見ていた唯と紬が、今自分たちを守ってくれているのが統夜だと信じられないと言いたげな表情をしていた。
「澪……大丈夫か?」
律がこう訪ねると、助かったことに安堵したのか澪は律に抱きついてそのまま泣き出してしまった。
「律ぅ……!怖かった!怖かったよぉ!!」
「澪、助けに行けなくてごめんな……。だけど、あとは統夜が何とかしてくれるさ……」
律は澪の頭を優しく撫でながら、ホラーと戦う統夜を見つめていた。
(統夜……死ぬなよ……)
律は統夜の無事を祈りながら戦いを見守っていた。
「あなた……魔戒騎士ね?本当に忌々しい!」
「悪いが、お前らを狩るのが俺たちの仕事なんでね!」
統夜は力強く魔戒剣を振り下ろすと、ホラーは再び吹き飛ばされていった。
「イルバ。こいつがラウルか?」
『あぁ、そうだ。こいつはラウル。見た目は素体ホラーだが、実力は素体ホラー以上だ!だから油断するなよ!』
統夜が相対しているホラー「ラウル」は、見た目は素体ホラーであるが、体の色は黒ではなく青である。
イルバの指摘通りただ青いだけの素体ホラーというわけではなく、戦闘力は素体ホラー以上である。
「なるほど……。とりあえずみんなをあそこまで怖がらせた報いは受けてもらうぜ!」
統夜が魔戒剣を構えてラウルを睨みつけると、ラウルは反撃として放った爪による攻撃をかわした。
その状態でラウルに蹴りを放ってラウルを吹き飛ばした、自分も後ろに下がって距離をとった。
「さて……。ここは一気に決着をつけるとしますか。……貴様の陰我、俺が断ち切る!」
速攻でラウルを倒すと宣言した統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
すると、円を描いた部分だけ空間が変化すると、そこから光が放たれ、統夜はその光に包まれた。
光に包まれた統夜の体に次々と白銀の鎧が装着され、光が収まると、そこに統夜の姿はなく、そこにいたのは白銀の鎧を身にまとった狼のような騎士だった。
白銀騎士奏狼(ソロ)。統夜が継承した騎士の鎧である。
それと同時に統夜の持っていた魔戒剣も奏狼専用の剣である皇輝剣へと姿を変えた。
「えっ……やー……くん?」
「こ、これは……?」
「銀色の……狼……?」
「………」
奏狼の鎧を初めて見た唯、律、紬、澪の4人は奏狼の鎧が放つ白銀の輝きに呆然としながら息を飲んでいた。
「統夜先輩……」
統夜が奏狼の鎧を召還した姿を見たことのある梓も白銀の輝きを放つ鎧に見入っていた。
彼女たちは目の前で起こっている光景にただただ驚きを隠せなかった。
それも無理はない。
よく知っている部活仲間がこの世のものとは思えない化け物相手に臆さず立ち向かい、見たことのない鎧を見に纏う光景を見れば誰だって驚くだろう。
「みんなにホラーの返り血を浴びさせるわけにはいかないからな……。出し惜しみはせず、一気に決める!」
統夜はラウルをパンチによる一撃で吹き飛ばすと、魔導ライターを取り出し、皇輝剣の刃に魔導火の炎を浴びせた。
皇輝剣が赤い炎に包まれると、統夜は常人とは思えないほどの高さまで飛翔した。
「えぇ!?」
「やーくんが飛んじゃったよ!!」
「すごい……」
「「……」」
律、唯、紬の3人は驚きの声をあげ、澪と梓はあまりの凄さに呆然としていた。
統夜が高く飛翔すると、皇輝剣の刃だけではなく、奏狼の鎧も赤い炎に包まれていった。
この姿は「烈火炎装」。
魔導火を全身に纏うことにより攻撃力と防御力を高める技であり、実力のある魔戒騎士であれば使用できる。
全身に赤い炎に包まれた統夜はそのままラウルに向かって降下し、炎に包まれた皇輝剣を振り下ろした。
振り下ろされた赤い炎の刃はラウルの体を真っ二つにし、切り裂かれたラウルの体は大きな爆発と共に消滅した。
ラウルを烈火炎装によって切り裂いた統夜はそのまま鎧を解除した。
すると元の統夜の姿に戻り、皇輝剣も魔戒権に戻った。
統夜は魔戒剣を青い鞘に納めると、少し離れたところで統夜の戦いを見守っていた唯たちのもとへと歩み寄った。
「みんな……大丈夫か?」
「「「「「………」」」」」
統夜は先ほどまでの騎士の顔とはうって変わり、優しい表情でこう訪ねるが、唯たちは呆然としていて口を開かなかった。
「ま、その様子なら大丈夫そうだな」
統夜は5人の無事に安堵すると、左手にはめているイルバに視線を移した。
(イルバ、みんなホラーの返り血は浴びてないよな)
《あぁ。そうしないために烈火炎装で焼き払ったんだろ?お嬢ちゃんたちは大丈夫だぜ》
イルバとテレパシーでやり取りをし、イルバのお墨付きをもらったところで、統夜は5人の無事を改めて無事を確信した。
「本当なら何で逃げなかったんだって怒るところだぜ。だけどみんな無事だったから本当に良かったよ」
唯たちは無邪気な笑みを浮かべて笑う統夜を見て安心していた。
先程までは別人のように思えたが、今目の前にいるのはやはり月影統夜だからである。
目の前に写る笑顔に安心したのか唯たちの目からは少しずつ涙が溢れていた。
「さ、いつまでもここにいるわけにはいかないし帰ろ……」
「うわぁぁぁん!やーくん!!」
言葉の途中で唯は泣き出してしまい、唯はそのまま統夜に抱きついた。
「ちょ、唯……?」
「グスン……怖かったよぉ……!」
唯は統夜に抱きついた状態で泣き出し、それに続いて澪たちも一斉に統夜に抱きついた。
「ちょ……5人はさすがに苦し……」
「怖かった!本当に怖かったよぉ!!」
「あのまま死んじゃうかと思っちゃったじゃないかぁ!」
「ありがとう…助けてくれてありがとう!統夜くぅん……!」
「うわぁぁぁん!統夜先輩、良かったです!」
5人まとめて抱きつかれ、初めは苦しそうにしていた統夜だったが、泣きじゃくる5人を見てやれやれと肩をすくめていた。
(よほど怖かったんだな……。まぁ、それも当然か……。落ち着くまではこのままでいよう……)
《やれやれ……。モテる男はつらいねぇ。統夜、ハーレムなぞ考えないで5人からちゃんと1人選ぶんだぞ!》
(うっさい!茶化すなよ、イルバ)
統夜は茶化してくる相棒をジト目で睨んでいた。
そして統夜は唯たちが泣き止むまで今の体勢を維持することにしたのであった。
※※※
「……ごめんね、もう大丈夫だから」
しばらくして泣き止んだ唯たちがゆっくりと統夜から離れていった。
「ごめんな、統夜。私たちが泣いてたからそのコートが……」
「気にするな。これくらいすぐ乾くから」
「それよりも統夜。お前は今までずっとあんな化け物と?」
「まぁ、そういうことだ。今まで理由を曖昧にしてたことは謝るよ」
統夜は律の問いをすぐ肯定すると、今まで部活を休んだり途中で抜け出す理由を曖昧にしていたことを詫びた。
「だけど、この事は出来ることならずっと秘密にしたかったんだけどな……」
「それはそうですよね。こんなのは実際見ないと信じられないですし……」
「さすがにこれ以上は誤魔化しきれないか……。お前ら、あの化け物のことやさっきの鎧について……聞きたいか?」
「話してくれるの!?」
「だけど、この話を聞いたら今までの穏やかな生活に戻れるっていう保証なんてない。お前らにその覚悟はあるのか?」
「「「「「………」」」」」
真剣な眼差しでこう訴える統夜の問いに唯たちは答えることが出来なかった。
「……もしその覚悟があるなら明日の部活の時に話す。とりあえず、今日はもう遅いから帰ろう。送るからさ」
こうして魔戒騎士の秘密を話すなら翌日話すということになり、統夜は唯たちを家まで送ることにした。
※※※
『……おい、本当にいいのか?』
統夜は唯、律、澪、梓、紬の順でそれぞれ家まで送り届けた。
紬を家まで送り家に帰る途中、それまでずっと黙っていたイルバが口を開いた。
「イルバ……。お前の言いたい事はわかる。騎士の秘密を喋るべきではないって言いたいんだろ?」
『わかってるならなぜわざわざ話す必要がある?明日にでも5人まとめて記憶を消せば済む話だろう?』
「まぁ、その通りなんだけどさ…。それも出来ないんだよ…。ホラーに関することだけとは言ってもさ、あいつらの記憶を消すなんて……。俺……これ以上あいつらに嘘はつきたくないんだよ。それに…」
『それに?』
「元の穏やかな生活に戻れなくてもこの話を聞きたいか聞きたくないかはあいつらが決めることだしな」
『はぁ……。イレス様なら許してくれるかもしれないが、元老院に咎められて寿命を減らされても知らないからな』
イルバはため息をつきながらもこれ以上は反対意見は言わなかった。
こうして、ホラーラウルを討伐した統夜はそのまま家路についたのであった。
……続く
__次回予告__
『俺様が直々に魔戒騎士の秘密をお前たちに教えてやろう。知ってしまったからにはもう抜け出せないぞ……。次回、「魔獣」。暗黒の世界へようこそ』
軽音部のみんなが統夜の正体を知りました!
この話を書いててちょっと統夜が羨ましいって思っちゃいましたよ(笑)
タグにも書いていますが、メインヒロインは未定となっているので、ハーレムにはならないと思います。
第2話では触れてなかったですが、統夜の魔導火の色は赤なので、烈火炎装の色も赤になっています。
次回は牙狼の世界観についての話になると思うので、戦闘シーンはないと思いますが、次回を楽しみにして下さい!