今回のタイトルが魔戒烈伝の話にもありましたが、もちろんタイトルが同じなだけで話は違います。
そして今回の魔戒烈伝も最高でした。タイトルでキャラを予測してみてもそれを当てるのは難しいです。
今回の番外編は本来1話でまとめるつもりでしたが、文字数がいつもの倍以上になりそうだったので前後編に分けることにしました。
それでは、番外編をどうぞ!
強大な力を持ったホラー、グォルブを討滅し、暗黒騎士ゼクスの鎧を身に纏ったディオスを討伐してから数日が経っていた。
統夜は呼び出しを受けて番犬所に訪れたのだが、そこでイレスから聞かされたのは驚くべきことであった。
高校卒業後は元老院付きの魔戒騎士にならないかとのことである。
鋼牙やレオも統夜の元老院入りを推薦しているので、それを受ければ統夜は名実共に一流の魔戒騎士であった。
しかし、統夜はその話を断った。
統夜はこの話が大変名誉であることは重々承知であった。
だが統夜は自分はまだ元老院で働けるほどの器ではないということと、桜ヶ丘を愛している故にこの街を守る魔戒騎士でいたいという思いから元老院入りの話を断ったのである。
そして統夜はこの日も指令を受けてホラー討伐へと向かっていた。
「ウフフ……。統夜ったらずいぶんと一人前になりましたね……」
統夜が魔戒騎士になったばかりの頃から統夜のことを知っているイレスは、統夜の成長が何よりも嬉しかった。
「イレス様……例の件ですが、本当にやるのですか?」
イレスの付き人の秘書官の1人が心配そうにイレスにこう訪ねていた。
「もちろんです。私は人界の学校生活に興味がありますからね。これは良い機会です」
「それに元老院にこの事は……?」
「問題ありません。お母様に許可は取っています」
イレスの母親は現在元老院で神官をしているグレスであった。
今回イレスが行おうとしていることはイレス自身がとてもやりたかった事であり、母親であるグレスをどうにか説得したことで合法的に行うことが可能になったのだ。
「あぁ……!明日がすごく楽しみです♪」
イレスはすごくワクワクしており、イレスのそばには何故か桜ヶ丘高校の制服が置かれていた。
※※※
翌日、統夜はいつものように鍛錬を行い、朝のエレメント浄化を行った。
そしてそれが終わると統夜は学校へと向かい、教室の中に入った。
すると、クラスメイトたちはとある話題で盛り上がっていた。
「おはよー。どうしたんだ?何か騒がしいけど」
「月影君、おはよう!ねぇねぇ、知ってる!?今日、外国から留学生が来るんだって!」
「へぇ、留学生かぁ……」
統夜は魔戒騎士であるからか外国人との絡みはほとんどなかったので、それを聞いて少しだけテンションが上がってしまった。
「来るのは男と女どっちかわかるか?」
「多分女子じゃないの?うちの学校、女子の割合が高いし」
この桜ヶ丘高校は共学であるものの、
男子生徒の数は少なく、女子生徒の割合は全体の8割であった。
「ふーん、女子ねぇ……」
「あっ、もしかして月影君気になってる?可愛い子が来ればいいなぁとか」
「?別にそんなことはないけど」
「そ、そう……。だけど、楽しみだよね…」
「あぁ、そうだな」
ここで話は終わり、統夜は自分の席へと向かった。
(留学生ねぇ……。レオさんの潜入が終わったばかりだってのに……。しかもこんな中途半端な時期に……)
統夜は先ほど話をしていた留学生のことを考えていた。
1月程前に元老院付きの魔戒騎士であり魔戒法師でもある布道レオが教育実習生として桜ヶ丘高校に潜り込んでいた。
その目的はホラー、グォルブ復活の阻止と、ホラー復活のゲートを探し出すことだった。
様々な出来事を乗り越えて統夜たちはグォルブとグォルブ復活を企んだディオスを討滅し、その翌日にレオの任期は終了した。
それからそんなに経っていないのに留学生とは話が出来すぎではないか?
こう統夜は考えていたのである。
統夜が考え事をしているとすぐにチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。
「ほら、お前ら。席に着け」
先生に促されながらクラスメイトたちは続々と自分の席に座った。
「既に知ってる奴もいるだろうが、この学校に留学生が来るようになった」
先生の発表にクラスメイトたちは知ってまーす!と返していた。
「お前ら喜べ!その留学生はこのクラスに入ることになったんだ」
「え!?男かな?女かな?」
「男だったらレオ先生みたいなイケメンがいいな!」
「金髪の美少女の方がいいだろ!」
「あっ、私もそう思う!」
クラスメイトたちは口々に思ったことを言っていた。
「留学生ねぇ……。月影君は男と女、どっちだと思う?」
統夜の隣の席に座っている姫子が統夜に声を掛けてきた。
「うーん。どっちだろ。どっちにしても仲良く出来ればいいけど……」
「アハハ、確かにそうだよね」
統夜と姫子はこのような話をしながら先生の話を聞いていた。
「それじゃあさっそく入ってきてもらおう。……おーい!入ってきてくれ!」
教室の扉が開くと、噂の留学生が中に入ってきた。
クラスメイトたちが歓声をあげる中、入って来たのは……。
「それじゃあ、自己紹介をしてくれ」
「はいっ!」
教室に入ってきたのは黒のロングヘアが良く似合っており、絶世の美少女と呼んでも過言ではないほどの美貌を持った少女であった。
「皆さん、初めまして!私はイレス・サン・ヴァリアンテと申します。1週間という短い期間ではありますが、この学校で最高の思い出を作っていきたいと思っていますのでよろしくお願いします!」
なんとこの学校に留学生として転入して来たのは紅の番犬所の神官であるイレスであった。
(!!?い、イレス様!!?何で学校に!?)
神官の服ではなく桜高の制服を来たイレスを見た統夜はこの世のものとは思えないものを見たような目で驚いていた。
《ほぉ、こいつは驚いたな……。あの女、高校生活にかなり興味を持っていることは知っていたが、まさか自ら乗り込んで来るとはな……》
イルバはここまでイレスが積極的に動く人間だとは思っていなかったのか、驚きを隠せなかった。
「ヴァリアンテはイギリスのオクスフォード大学に飛び級で入学する程の秀才なんだ。だからあまりここに来る意味はないようだが、ヴァリアンテがお前らのような学園生活を送ってみたいとのことなんだ。お前ら、仲良くしてやれよ」
「先生、イレスと呼んで下さい。ヴァリアンテは長いですから♪皆さんもイレスと呼んで下さい♪」
イレスの知的な雰囲気だけではなく、接しやすい雰囲気を感じ取り、イレスを歓迎していた。
「イレスちゃんよろしく!」
「よろしくね!」
「イレスちゃんすげー美人!」
「美少女ktkr!」
「フハハハ!我が世の春が来たぁ!!」
「アハハハ……よろしくお願いします……」
クラスメイトの歓迎ぶりにイレスは苦笑いをしていた。
「へぇ……すごく綺麗な子だね……。月影君もそう思わない?」
「………」
統夜はダラダラと冷や汗を流しながら呆然としていた。
「つ、月影君?どうしたの?」
姫子は統夜の異変を感じて声をかけたが、統夜は呆然としており、復活するまでに時間がかかってしまった。
イレスはそんな統夜を見つけると優しく笑みを浮かべていた。
(やれやれ……。統夜のやつ呆然としてるな……。まぁ、それも無理はないが。……それにしてもさっき御大将の台詞を言ったやつは誰なんだ?)
イルバは統夜が呆然としていることに苦笑いをし、先ほど御大将の台詞を言っていた人間に呆れていた。
イレスは一番前の席に座ることになり、授業は始まったのである。
※※※
授業が終わり、休み時間になると、クラスメイトたちはイレスの席に集まり、質問攻めを行っていた。
「ねぇねぇ、イレスちゃんはイギリスから来たの?」
「えぇ、そうですよ」
「大学では何を勉強してるの?」
「強いて言えば……生物学……ですかね」
番犬所の神官であるイレスは本当の話をするわけにはいかないので、嘘を交えながらどうにか質問に答えていた。
「イレスちゃんの髪って綺麗だよね?手入れのコツとかってあるの?」
「い、いえ……特には……」
「彼氏とかっているの?」
「い、いえ……」
プライベートな質問も入ってきたので、イレスはさらに困惑していた。
統夜は自分の席でイレスの様子を伺っていた。
しかし、クラスメイトたちの質問に困り果てているイレスを見て統夜はいてもたってもいられなかった。
「あー!もう!お前ら、その辺にしておけ!イレス様が困ってるだろうが!」
『様?』
クラスメイトたちは統夜が当たり前のようにイレスのことを様付けで呼んでいることに驚いていた。
「統夜、いいのです。それに、私たちはクラスメイトですから、様付けは可笑しいですよ?」
「そうだよ、月影君!」
「っていうか月影君とイレスちゃんって知り合いなの?」
「えぇ、私は彼がここに通っていると知ってましたし、面識はありますよ」
「ふーん、そうなんだ」
「ねぇ、後さぁ」
1人がこう質問をしようとしたその時、次の授業を告げるチャイムが鳴り響いた。
「あぁ!残念!」
「イレスちゃん、また後でねぇ♪」
クラスメイトたちは自分の席へと戻っていった。
「それじゃあ、俺もこれで」
「統夜。後で話があります。いいですか?」
「わかりました」
こうして統夜も自分の席に戻り、授業を受け始めた。
授業が終わると、質問をしようとするクラスメイトたちをかわし、統夜とイレスは屋上で話をすることになった。
「ウフフ、統夜。驚きましたよね?私が突然このような場所に来て」
「えぇ。正直、すごく驚きました」
『それにしても番犬所の神官であるお前さんがどうしてこんな所に来たんだ?』
番犬所の神官は魔戒騎士や魔戒法師に指令を出すのが主な仕事であるため、外に出歩くことがない。
このように番犬所の神官が番犬所を抜け出すこと自体が非常に稀なケースなのである。
「私……ずっと憧れてたんです。人界の高校生活というものに。だから無理を言って留学生としてこの学校に入れるよう手配をしたのです」
『それにしてもよく入れたな。元老院がそんなことを許可してくれるとは思えないが』
「お母様に無理を言って頼んだのです。少し呆れてはいましたが、1週間だけならと許可してくれました」
「お母様って……。確か元老院の神官であるグレス様ですよね?」
「はい。そうですよ♪」
「…………」
統夜はイレスがとんでもないことをしていると思って苦笑いをしていた。
「とりあえずこの1週間、私とあなたはクラスメイトということになります。よろしくお願いしますね、統夜♪」
「は、はい。よろしくお願いします」
「それと、統夜。学校にいる間は様付けはやめて下さいね。これは命令ですよ♪」
「そ、そんな……じゃあなんて呼べばいいんですか?」
「そうですねぇ……」
呼び名を変えなきゃいけないことに困惑する統夜の問いにイレスが考え込んでいた。
「……あっ!「お嬢」とかどうでしょう?そう呼ばれるの憧れてたんです!」
「お嬢……ですか?」
『それもちょっと違うような気がするが……。まぁいいだろう』
「改めてよろしくお願いします、お嬢」
「ウフフ、出来れば敬語もやめてくれるとありがたいですけどね♪」
「……善処します」
「ウフフ♪それじゃあ戻りましょうか♪」
「わかりました、いれ……お、お嬢!」
統夜がイレスのことをお嬢と言うと、イレスは満足そうな表情をしていた。
「はい♪それじゃあ戻りましょう♪」
イレスは満足そうに屋上を後にした。
(何でだ……?何で俺はこんなにドキドキしてるんだ……?俺の目の前にいるのは神聖な番犬所の神官だぞ……?)
統夜は今ドキドキしているのだが、何故ここまでドキドキしているのか意味がわからなかった。
(ほぉ、これはいい傾向じゃないか……。これはあいつらに強大なライバルが登場か?なかなか面白くなってきたぜ)
イルバはイルバでこんなことを考えながらこの状況を楽しんでいた。
「統夜!早く戻りますよ!」
「は、はい!!」
統夜は慌てて屋上を後にし、イレスと共に自分の教室に戻っていった。
※※※
こうしてイレスがこの学園に来た理由を統夜は理解したのだが、ここからが心労の始まりだった。
統夜はイレスの身に何かあってはまずいとイレスをいつでも守れるよう気を配っていた。
座学の授業では特に問題はなかったのだが、体育の授業はかなり神経をすり減らしていた。
この日の授業はバドミントンだったのだが、イレスは当然バドミントンの経験はなかった。
なのでイレスは飛んできた羽根を返そうとラケットを振るうのだが……。
「おっとっと……。きゃあっ!」
狙いを定めようと後方に下がっているうちに尻餅をついてしまった。
それを見ていた統夜は……。
「お嬢!」
自分の行っていたラリーそっちのけで尻餅をついたイレスに駆け寄った。
「いたたた……」
「大丈夫ですか!?お嬢!」
「えぇ……大丈夫です……」
「アハハ!月影君ってば心配しすぎだって!」
「そうだよ!私たちだってついてるんだし!」
「で、でも……」
「統夜、私は大丈夫ですから」
「わ、わかりました……」
統夜は渋々戻っていった。
そして昼休みになり、昼食を持ってきてないイレスはクラスメイトの女子数名と購買でパンを買いに来たのだが……。
「うわぁ、すごい人ですね……」
「そうだよ!昼休みは戦場なんだから!」
「なるほど、それはすごいです!」
購買に群がる人混みを見てイレスは感心していた。
「イレスちゃん、何が食べたい?」
「ここって何がおいしいのですか?」
「やっぱり幻のゴールデンチョコパンかな?でも、もう売り切れかも」
「幻ですか、それは興味があります!」
そう言ってイレスは人混みの中に入っていったのだが……。
「おっとっと……きゃあっ!」
あっという間に押し戻され、イレスは尻餅をついてしまった。
そして……。
「お嬢!大丈夫ですか?」
昼のパンを買いに来た統夜がイレスに駆け寄った。
「えぇ、大丈夫です」
「お嬢は何が食べたいのですか?」
「私は幻のゴールデンチョコパンとやらが気になっているのですが……」
「ゴールデンチョコパンですね。ちょっと待ってて下さい」
統夜はそう言って人混みの中に入っていった。
そして……。
「すいません!!誰かゴールデンチョコパン!譲ってくれませんかねぇ!?」
統夜はまるでホラーがいるかのようなまるで悪鬼の如く表情でゴールデンチョコパンを求めた。
そうすると……。
「ご、ゴールデンチョコパンならここに……」
とある男子生徒がゴールデンチョコパンを買おうとしていたが、統夜の表情に怯えてしまい、統夜にゴールデンチョコパンを譲ったのである。
「すいません、ありがとうございます……」
統夜は半ば強引にゴールデンチョコパンを譲ってもらったのでそこは申し訳なさそうに礼を言った。
統夜はゴールデンチョコパンの他に自分のパンも確保してイレスのもとへ戻っていった。
「お嬢、ゴールデンチョコパンを無事確保しました!」
「ありがとうございます、統夜。すごく嬉しいです♪」
「それにしてもこの人混みでよくゲット出来たね、月影君」
「まぁね。実は親切な人が俺に譲ってくれたんだよ」
《よく言うぜ。半ば脅しに近い形で奪ったくせに》
一部始終を見ていたイルバがテレパシーでツッコミをいれていた。
(ちょ!?俺は別にそんなつもりはないぞ!?)
《どうだか……》
イルバは統夜に呆れながらもこれ以上は何も言わなかった。
「さて、教室に戻って食べましょうか♪」
「ねぇねぇ、月影君。たまにはみんなでお昼を食べない?月影君って1人か軽音部の子としかごはん食べないからさ」
「そうだな……。たまには一緒させてもらおうかな」
「やったぁ♪それじゃあ、月影君、行こっ!」
「統夜、行きましょう♪」
こうして統夜はイレスやクラスメイトの女子たちと共に教室に戻ると彼女たちと昼食を取ったのであった。
そして昼休みが終わり、5時間目の授業が終わった。
統夜はトイレから戻ってくると、驚くべき光景が見えたのである。
それは……。
「ねぇねぇ君ってさ、留学生なんだろう?放課後俺たちと遊びに行かない?」
3年生の男子2人がイレスに声をかけていた。
「あっ、あの……。私は放課後は用事がありますから……」
「えぇ?別に今日くらいいいじゃん!俺たちと遊びに行こうぜ!」
3年生の男子2人は半ば強引にイレスをナンパしていたのである。
「ねぇ、あれって3年生だよね?」
「あの2人ってかなりチャラいからねぇ」
その様子を見ていた2人の女子生徒がヒソヒソとこのような話をしていた。
「……」
統夜は無言で3年生の男子2人とイレスの前に現れると、2人の男を睨みつけた。
「……おい、何の用だよ?」
「そうだぜ。せっかくイレスちゃんに声をかけてるんだから邪魔するなよな」
男の言葉を聞いた統夜は無言で2人の胸ぐらを掴み、壁まで押し寄せた。
「!んな!?」
「こ、こいつ……」
突然の出来事に男2人は驚いていた。
「汚い手でお嬢に触るな。この下衆が……!」
統夜はまるでホラーを相手にしているかのような目で男2人を睨みつけていた。
「ひっ!?」
「な、何だよ!」
「さもなくば2人とも無事でいられると思うな……!」
《おい、統夜!よせ!相手はホラーじゃないぞ!?》
今の統夜だったら何をしでかすかわからないと判断したイルバが統夜を止めようとしていた。
「わ、わかったよ!」
男の言葉を聞いた統夜は掴んでいた手を離した。
統夜から解放された2人は逃げるように教室から出て行ったのである。
「……ふぅ」
イレスは事態が無事解決し、安堵の溜息をついていた。
「すいません、お嬢。片付けるのに手間取りました」
「た、助かりました。でも、あまり手荒な真似はしないようにして下さいね?」
「うっ……す、すいません……」
統夜もさすがにやり過ぎたと思ったのか素直に反省していた。
こうして濃厚すぎる1日が終了し、放課後となった。
「ねぇ、イレスちゃん!今からカラオケに行くんだけどさ、一緒に行かない?」
「カラオケ……ですか?」
「あれ?もしかしてカラオケって初めて?」
「だったら是非一緒に行こうよ!この後用事がなければだけど……」
「そうですねぇ……」
イレスは少し考え込んでいた。
この後統夜と共に軽音部の部室に顔を出そうと考えていたからである。
しかし、番犬所から出たことのないイレスにとってクラスメイトとカラオケというのは憧れの1つであったのだ。
「私……歌は歌えないのですが、いいんですかね?」
「もちろん大歓迎だよ!イレスちゃんが来るならクラスのみんなも来るよ♪」
「それでは……ぜひご一緒させてもらいます♪」
「そう来なくちゃ♪」
こうしてイレスはクラスメイトたちと人生初のカラオケに行くことになったのである。
「月影君はどうする?一緒に行かない?」
「そうだな……」
統夜も少し考え込んでいた。
この後いつものように軽音部に顔を出す予定だったからである。
「良かったら軽音部のみんなも誘ってよ!」
「あっ!それいいね!」
「今商店街にある娘娘のVIPルーム押さえたから人数増えても問題ないよ!」
今話に出ていた「娘娘(にゃんにゃん)」とは、桜ヶ丘の商店街にあるカラオケ屋であり、大手のカラオケ店並の安さから学生御用達のカラオケ店なのである。
そのVIPルームは20人から30人くらい入れる大きな部屋である。
「そうしたら軽音部に顔出すからみんなに聞いてみるよ」
「わかった。それじゃあ後でメールちょうだい」
「わかった。……みんな、お嬢を頼むな」
「任せて♪それじゃあ、イレスちゃん。行こっ♪」
「はいっ♪それでは、統夜、また後で会いましょう♪」
こうしてイレスはクラスメイトたちと共にカラオケボックスである娘娘へと向かった。
「さて……俺は部室に行こうかな」
統夜はフラフラになりながらも音楽準備室へと向かった。
※※※
その頃、紅の番犬所所属の魔戒騎士である桐島大輝は、日課であるエレメント浄化を行っていた。
その日行う必要のあるエレメントの浄化は終わり、大輝は桜ヶ丘の商店街を歩いていた。
少し歩くと大輝の目に留まったのは楽しそうに商店街を歩く桜ヶ丘高校の制服を着た女子生徒だった。
(あの制服……。確か桜ヶ丘高校の制服だったな……。あの学校の近くでホラーグォルブが復活したっていうのにもう平凡な毎日に戻ったんだな)
大輝もまた統夜と共に強大な力を持つホラー、グォルブを討滅するために共に戦った魔戒騎士である。
統夜が学校に行っている間にエレメントの浄化を行い、夜はホラー狩りと忙しい毎日を送っている。
統夜は毎日学校に行けるのは大輝のおかげであるため、大輝に感謝している分、大輝に頭が上がらないのである。
そんな中、大輝は偶然にも見覚えのある顔を見かけた。
しかし、大輝がその人物をこんな所で見かけるのはあり得ないのである。
その見覚えのある人物こそ、何故か桜ヶ丘高校の制服を着ているイレスだったからである。
イレスは番犬所の神官である為このような所にいる筈は無いのだが、イレスで間違いようがないのである。
大輝の存在に気付いたイレスは大輝に笑顔を向けていた。
この瞬間、その女性がイレスであると大輝は確信した。
呆然と立ち尽くす大輝を後目にイレスたちは大輝の視界から消えていった。
しばらく大輝は呆然と立ち尽くし……。
「な……なんじゃこりゃあ!!」
大輝はまさかの展開に思わず叫んでしまった。
その為街行く人々の視線が集中してしまったのだが、そんな事はお構いなしで大輝は暫くその場に立ち尽くしていた。
こうしてイギリスから来た留学生として桜ヶ丘高校にやって来たイレスであったが、彼女の放課後はまだ始まったばかりであった……。
……後編へ続く。
今回はイレス回でした。
番犬所の神官であるイレスが学校に潜り込むなんてそんなことをする神官は今までいないですよね。
イレスは初期から高校生活に憧れてるという設定だったのでこの話は書くつもりでした。
この話はフルメタルパニックのテッサが転校して来た話を参考にしています。
イレスは番犬所に長いこといるということで運動は苦手な設定になっているのでちょっとドジっ子という前章では見せなかった顔を見せています。
今回が前編ということで次回は後編になります。
イレスの1週間という留学生活はどうなるのか?
それでは次回をお楽しみに!