今回は前々から企画していたUA5000記念の作品になります。
統夜の父である龍夜が暗黒騎士キバであるバラゴに戦いを挑む話になっています。
それでは、UA5000記念作品をどうぞ!
UA5000記念作品 「龍夜」
白銀騎士奏狼の称号を持つ月影統夜は、先代の奏狼である月影龍夜と魔戒法師である明日菜との間に産まれた。
先代の奏狼である龍夜はかなりの実力の持ち主で、その力で多くのホラーを討滅して来た。
時には1人で。そして時には友である剛風騎士ダンテの称号を持つダンテと共にホラーを討滅していた。
様々なホラーを討滅してきたその成果を認められ、龍夜は元老院付きの魔戒騎士となった。
元老院付きとなってもホラー討滅の使命は変わらず、多くのホラーを討滅してきた龍夜であった。
しかしそんなある日、元老院から己が運命を変える指令が下された。
闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師の討伐である。
闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師の多くは心に何かしらの陰我をかかえ、ホラーに憑依されるパターンが多いのだが、中にはホラーに憑依されておらず自分の意思で闇の力に魅入られる魔戒騎士や魔戒法師も大勢いた。
龍夜は自分の使命を全うし、次々と闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を殲滅していった。
そんなある日、元老院の命令で龍夜は魔戒法師のパートナーと組むことになった。
その魔戒法師こそが後の妻である明日菜であった。
魔戒法師である明日菜の家は代々闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を討伐する闇斬師の家柄であった。
明日菜も元老院付きの魔戒法師であり、その実力は最強の闇斬師と言わしめるほどであった。
明日菜と組んでからの龍夜はまるで虎が翼を得たかのような破竹の勢いで闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を討伐していったのである。
共に戦うことで絆を深めていった龍夜と明日菜は互いに惹かれあい、結婚することになった。
明日菜は結婚してからも闇斬師の仕事を続けていたものの、妊娠を機に闇斬師の仕事を引退した。
明日菜が引退した後も龍夜は闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師討伐の仕事を続けていた。
そして、統夜が産まれたのである。
統夜が産まれた後、明日菜は子供を守りたいという強い思いから普通の主婦として生きる道を選んだ。
統夜の住んでいる家が魔戒騎士の家に見えないほど普通の家なのはそんな明日菜の思いが残っているからである。
統夜が3歳になった頃、龍夜は元老院に呼び出されると、とある指令を受けた。
それは、いつものように闇に堕ちた魔戒騎士の討伐であったのだが、今回は普段とはわけが違うほどの強敵であった。
元老院から討伐するよう命令を受けた男の名前は「バラゴ」。この男はホラーに憑依された訳でもただ闇の力に魅入られただけでもない。
バラゴは心滅獣身を自力で乗り越えた先にある禁忌の力である暗黒騎士の力を手に入れた魔戒騎士だった。
バラゴは暗黒騎士呀(キバ)と名乗っているようであった。
バラゴは最強の騎士であった黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島大河を手に掛けていた。
それ故、元老院はバラゴの存在を危険視していた。
龍夜にこの指令が来る前に数多の手練れの魔戒騎士がバラゴの討伐に乗り出したが、誰1人とバラゴを倒せる者はいなかった。
そんな中、龍夜にバラゴ討伐の指令が来たのである。
龍夜は最初断ることを考えてはいたが、それだけ危険な相手を野放しにしておく訳にはいかない。
そう考えた結果、バラゴ討伐の指令を受けたのである。
バラゴ討伐を明日に控え、龍夜は自分の家で英気を養っていた。
「……明日菜、統夜は?」
「今はぐっすりと眠っているわ」
「そうか」
「あの子は魔戒騎士を継ぐのかしらね。今日もあの子は剣を振るう真似事をしていたわ」
明日菜は微笑みながら統夜の近況を語っていた。
統夜は当時3歳で、この頃は魔戒騎士の修行を行ってはいなかった。
しかし、自分の家が魔戒騎士の家柄であると理解していたのか木の棒を振るってまるで魔戒騎士の真似事をしていた。
統夜の行いは近所の人や第三者から見ればただのチャンバラごっこに見えたので魔戒騎士の家であるとバレる心配はなかった。
それ故に明日菜は統夜がこのようなことをしても何も言わなかったのである。
ただし、危ないことをしようとしたらその時は叱るのだが。
「魔戒騎士になるかどうか決めるのは統夜だ。この仕事を片付けたら俺は統夜に魔戒騎士として鍛錬を積み始めようと考えている。まぁ、統夜が魔戒騎士を志すのならな」
「え?いくらなんでも早すぎるんじゃない?統夜はまだ3歳よ?」
「俺が剣を握ったのもそれくらいだ。大丈夫、俺と明日菜の子なんだ。きっと魔戒騎士の才能はある」
魔戒騎士の後継ぎが産まれた後、その子供をいつから魔戒騎士として育てるのかは家によって異なる。
龍夜のように3歳くらいで指導することもあれば、1歳の頃からソウルメタルを操らせようとする家もある。
さらには子供が小学校入学時期まで訓練をしないところもあるくらいである。
龍夜は自分の子供には才能があると少しだけ親バカな発言をしていた。
「ウフフ、そうね。あの子が本気で魔戒騎士を目指すなら、きっと……」
明日菜はしみじみと呟いていた。
「?明日菜?」
「……私ね、統夜は奏狼の称号を継がなくてもいいかなって思うのよ。この家で主婦をしているとね、よく聞こえるのよ。子供たちの当たり前な笑い声が。私は統夜に魔戒騎士としてではなく当たり前な人生を送って欲しいって思っているの。……これは私のエゴなんだけどね」
家で主婦をしていると、当たり前の日常という風景を目の当たりにするのはよくあることである。
それ故に自分のエゴだと思っていても統夜に普通の人生を送って欲しいと考えてしまった。
「なるほどな……。だが、さっきも言ったろ?魔戒騎士になるかならないか。決めるのは統夜だって。あいつがそれを望むなら俺は何も言わないさ。俺だってあいつの幸せを望んでいるんだから……」
魔戒騎士の後継ぎが産まれた後、その子に魔戒騎士を継がせるか継がせないかはその子供自身に決めさせる家がほとんどである。
魔戒騎士として戦うということは当たり前の日常をすべて捨て去り、自分の人生をホラーを倒して人を守ることだけに捧げるからである。
子供が魔戒騎士になりたいと願うと、修行は行われる。
修行が行われた後でも魔戒騎士の修行についていけず、当たり前の日常に逃げ出す子供も少なくはない。
その場合は、その子供が親の称号を受け継ぐことは無くなるのだが。
「あいつの幸せを望んでいるからこそ……俺は……」
龍夜は拳を強く握りしめると、唇を噛み締めていた。
「指令のことはダンテから聞いたわ。……暗黒騎士と戦うことになったって」
「!くそっ、ダンテのやつ、余計なことを……」
龍夜は明日菜や統夜に心配させまいと指令の内容は言わなかった。
しかし、元魔戒法師の勘が何かを感じ取ったのか明日菜は龍夜の親友であるダンテを問い詰めて指令のことを聞いた。
龍夜はダンテには指令のことを話しており、ダンテは明日菜の勢いに負けて指令の話をしたのである。
「黙ってたのは悪かったよ。今回は相手が相手だからな……。お前や統夜に変な心配はかけたくなかったんだよ」
「それは承知しているわ。私だって元魔戒法師……それも元闇斬師だもの。暗黒騎士がどれだけの存在かはわかっているつもりよ」
『そうだな。暗黒騎士など俺様も初めて見るが、実力はかなりのもののようだ』
龍夜の指にはめられたイルバが口を開いた。
「あぁ……。あいつはあの冴島大河だけじゃない。数多の手練れの魔戒騎士を葬って来たんだ。俺だって……もしかしたら……」
龍夜はこれから戦いを挑む相手に恐怖すら感じていた。
『おいおい、龍夜。戦う前からそんなんでどうする!お前さんは明日菜や小僧を守るためにあいつを斬るのだろう?』
「ちょ!?イルバ!それは言うなよ!!」
『お前と明日菜は夫婦なんだ。それくらい気の利いたことは言ったらどうだ』
「ウフフ、確かにそれは言ってもらいたいわよね」
イルバにからかわれる龍夜を見て明日菜は笑みを浮かべていた。
「……ところで龍夜。あなたは明日そのバラゴの討伐に行くのよね?いつ行くの?」
「明日の朝には発つ」
「バラゴの居場所はわかっているの?」
『あぁ、おおよその場所はな。奴がとある森に潜伏していると目撃情報があったからな。まずはそこに行ってみるつもりだ』
龍夜とイルバはバラゴがどこに潜伏しているのか目処がついていた。
それ故に今日はホラー討伐を親友のダンテに任せ、龍夜はバラゴとの戦いに備えて英気を養っているという訳である。
「龍夜、私にして欲しいことはない?今日は遠慮しなくてもいいわ」
「そうだな……。そしたら久しぶりにビールが飲みたいかな」
「はいはい、わかったわ」
明日菜は笑いながらそう言うと冷蔵庫へ向かっていった。
冷蔵庫の中にあるビールを取り出すと、明日菜はそれを龍夜に渡し、何かツマミを作るためにキッチンへと向かった。
龍夜は自分の好きなビールと明日菜の作ったツマミを食べながらゆっくりと英気を養っていた。
※※※
そして翌日、朝食を済ませた龍夜は赤いコート……魔法衣を羽織り、バラゴ討伐の準備を整えた。
「それじゃあ、行ってくる」
「気をつけてね、あなた」
「………」
明日菜は龍夜を見送っていたが、統夜はジッと龍夜のことをみていた。
「ん?どうした、統夜?」
「お父さん、お仕事なの?」
「あぁ、そうだ。俺は必ず帰ってくるからな。だから統夜は母さんのことを守ってくれよな」
「うん!おれがお母さんを守るから、お父さん、お仕事頑張ってね」
「あぁ!」
龍夜は愛する我が息子である統夜を優しく抱きしめていた。
しばらく統夜を抱きしめると、龍夜は明日菜にキスをし、優しく抱きしめた。
「……明日菜。統夜を頼む」
「……えぇ、わかったわ。龍夜」
こうして家族と別れを済ませた龍夜はバラゴ討伐のため家を発ったのでった。
しかし、その数分後……。
「……龍夜、行くんだな」
龍夜のことを待ち伏せしていた親友のダンテが龍夜に声をかけた。
「あぁ。……それはそうと、何で明日菜に仕事のことを話したんだよ!せっかく黙ってようかと思ったのに……」
「俺だってお前の気持ちはわかっているから黙ってるつもりだったさ。だけど、問い詰めている明日菜が怖くてつい……」
ダンテは龍夜の仕事のことは黙っているつもりだったが、言い寄ってくる明日菜が怖くてつい口を割ってしまったのだ。
「まぁ、いいさ」
「龍夜……いいのか?良かったら俺も手伝うが。相手は手強いのだろう?」
「いや、お前はこの街を守ってくれ。俺はバラゴとの戦いで多分死ぬだろう。だけど俺は刺し違えてもバラゴを倒す。これ以上暗黒騎士の好きにはさせないさ」
「龍夜……」
親友の覚悟を聞いたダンテは龍夜に何て声をかけていいのかわからなかった。
「ダンテ、もし俺が死んで、統夜が魔戒騎士の道を志したらお前にあいつの師匠になってもらいたい」
「龍夜……お前……」
「俺、前々から考えていたんだ。父親が子の師匠として騎士の教えをするのが当たり前だってことはわかっている。でも俺は統夜とは父と子でいたいんだよ。これは俺のワガママではあるけどな。
「……わかった。その時は俺が統夜を一人前の魔戒騎士に育てる。お前もびっくりするくらい強さを持った魔戒騎士にな」
「ありがとう、ダンテ……」
龍夜はダンテに一礼すると、その場を去っていった。
「……龍夜……死ぬなよ……必ず帰って来い……」
ダンテは去りゆく龍夜を見つめながらこう呟いていた。
暗黒騎士であるバラゴは桜ヶ丘の隣町にあるとある森に潜伏していた。
暗黒騎士の力を得たバラゴは1000体のホラーを喰らうという目的のため、ホラーを蹂躙し、ホラーを喰らっていた。
その合間に自分を始末しに来た魔戒騎士を次々と蹴散らしていったのである。
「やれやれ……。また無謀な魔戒騎士が来たって訳か」
バラゴは目の前に対峙する龍夜を見てやれやれと肩をすくめていた。
「貴様がバラゴだな?」
「そうだが、貴様は?」
「暗黒騎士である貴様を斬る者だ」
龍夜は魔戒剣を抜くと、バラゴを睨みつけた。
「愚かな……。闇の力の前では貴様の力など無力だというのに……」
「黙れ!貴様はこの俺が斬る!」
「やれやれ……よかろう。相手になってやる。貴様のような者が相手でも暇つぶしにはなりそうだ」
バラゴは龍夜のことを完全に見下していた。
そんな龍夜が相手でも暇つぶしにはなると思ったバラゴは魔戒剣を抜いて、構えた。
「はぁっ!!」
龍夜は魔戒剣を一閃するが、その一撃はバラゴにあっさりと防がれてしまった。
「くっ……!」
「どうした?その程度か?だとしたら暇つぶしにもならないが」
「なんの……まだまだぁ!!」
龍夜はバラゴ相手に競り負けていたが、蹴りを放ってバラゴを吹き飛ばした。
「………」
バラゴはわざと龍夜の蹴りを受けたのか吹き飛ばされた後も冷静だった。
「はぁっ!!」
龍夜は2度、3度と魔戒剣を振るうが、バラゴは無駄のない動きで龍夜の攻撃をかわしていた。
「どうしたどうした!その程度か?もっと私を楽しませろ!!」
「このっ……!」
『龍夜!相手の挑発に乗るな!!冷静になれ!』
「あぁ、そうだな」
「……!ん?貴様の魔導輪……」
バラゴは龍夜がはめている魔導輪を凝視していた。
「その魔導輪……まさか、ザルバか!?」
イルバがザルバに似ていると知らないバラゴはイルバを見て驚いていた。
『俺様を奴と一緒にするな!俺様は魔導輪イルバだ!』
「イルバ……?ほう、ザルバではないか……」
バラゴはイルバとザルバは別だとわかり、納得したような表情をしていた。
「まぁ、貴様が何者であろうと関係ない。貴様はこの私に叩き潰されるだけなのだからな」
「いや、俺は刺し違えても貴様を斬る!」
「ほぉ……たいした覚悟だが、貴様に私が斬れるかな?」
「やってやる……!闇の力なんかに頼らなくても人は強くなれるんだ!貴様には負けはしない!」
「闇の力の素晴らしさを知らない愚か者が……。良いだろう。貴様に思い知らせてやる。闇の力の偉大さをな!!」
バラゴは首にかけているネックレスを外すと、その宝石にフッと息を吹きかけた。
すると、そのネックレスが反応し、バラゴはそのネックレスを上空で回転させた。
すると、上空が円の空間に変わり、そこから放たれる光にバラゴは包まれた。
光に包まれたバラゴの身体に漆黒の鎧が装着された。
この姿こそ暗黒騎士キバ。闇の力という禁忌の力を手に入れた漆黒の騎士である。
その鎧からは禍々しいオーラが放たれており、その存在感に龍夜は冷や汗をかきながら畏怖の感情を抱いていた。
しかし……。
「俺は負けるわけにはいかない!!妻と子供にもう一度会うために!!」
龍夜の脳裏に浮かんだのは桜ヶ丘で自分の帰りを待っている明日菜と統夜の姿であった。
「貴様の陰我、俺が断ち切る!!」
龍夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれた龍夜は奏狼の鎧を身に纏った。
「ほぉ、それが貴様の鎧か」
「我が名は奏狼!貴様を倒す魔戒騎士だ!覚えておけ!!」
「ソロか……。知らん名だな……。まぁ、これから滅びゆく者など覚えておく必要はないが……」
「それは……俺に勝ってから言うんだな!!」
龍夜はバラゴに突撃をしかけ、皇輝剣を一閃した。
しかし、バラゴはわざとその一閃を受けたのだが、キバの鎧に傷1つついていなかった。
「なっ!無傷……だと!?」
「これこそ偉大なる闇の力だ!!その程度の一撃などビクともせん!!」
「くっ……だが、まだまだだ!!」
龍夜は2度、3度と皇輝剣を振るうが、全てバラゴに防がれてしまった。
「どうした、鎧を装着してもその程度なのか?だとしたらがっかりだな」
「まだだぁ!!」
龍夜は至近距離で烈火炎装を発動し、バラゴに攻撃を仕掛けてきた。
バラゴが咄嗟に烈火炎装の攻撃をかわし、その一撃は腕をかすめる程度で終わってしまった。
「ほぉ、その距離で烈火炎装とは、なかなか大胆なことをするではないか。さっきのはさすがに危なかったぞ」
龍夜の大胆不敵な戦法にバラゴは少しだけ焦りを見せていたが、どうにか攻撃はかわした。
「貴様、なかなか面白い戦い方をする。良かろう、少しだけ本気を出してやる」
バラゴは魔戒剣が変化した黒炎剣の切っ先に赤紫の魔導火を纏わせると、烈火炎装の状態になった。
「この一撃で貴様を葬ってやろう」
「させるかぁ!!」
龍夜は再び烈火炎装の状態となり、バラゴと対峙した。
そして……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤い炎と赤紫の炎。2つの炎は激しくぶつかり合った。
烈火炎装の対決はバラゴに軍配が上がり、龍夜は黒炎剣の一閃を受けたことにより、鎧が解除されてしまった。
「くっ……!」
烈火炎装で受けたダメージは相当なものであったからか龍夜は膝をついていた。
「フン、ここまでのようだな。思ったよりはいい暇つぶしになったぞ」
「くそっ……!ま、まだだ……」
「そのダメージで何が出来る。……これで終わりだ」
バラゴは傷ついた龍夜にゆっくりと近づくと、龍夜の胸に黒炎剣を突きつけた。
「がはっ!!」
急所を突き刺され、龍夜は吐血していた。
しかし……。
「言ったはずだ……。刺し違えてでも貴様を斬ると……!」
龍夜は致命傷を受けながらも魔戒剣を力強く握りしめていた。
龍夜は魔戒剣をバラゴの左胸に突き刺そうとするが……。
「……!」
バラゴは慌てて黒炎剣を引き抜くが、龍夜の魔戒剣はバラゴの左腕に突き刺さった。
「くっ……!こいつ……無駄なあがきを……」
バラゴは突き刺さった魔戒剣を引き抜くと、それを地面に投げ捨てた。
バラゴに胸を貫かれた龍夜はその場に倒れ込み、意識も失いそうになっていた。
「……貴様、よくもこの私に傷を与えてくれたな……。このまま野垂れ死にさせてやろうと思ったが……」
バラゴは倒れている龍夜を睨みつけた。
そして、バラゴは黒炎剣を再び龍夜の身体に突き刺した。
「ぐぁ!!……あ……明日菜……と、統夜……!」
バラゴに止めの一撃を受けてしまったことで、白銀騎士奏狼の称号を持つ月影龍夜は、バラゴに敗れるといった形で絶命したのであった。
バラゴは鎧を解除すると、魔戒剣を鞘に納め、どこかへと姿を消した。
※※※
龍夜の妻である明日菜は龍夜の帰りをずっと待っていたが、この日は龍夜が帰ってくることはなかった。
そして翌日、悲報は突然告げられたのである。
「あっ、明日菜!大変だ!」
龍夜の親友であるダンテが大慌てで家に乗り込んできた。
「どうしたのよ、ダンテ。そんなに慌てて」
「た……龍夜が……!暗黒騎士に……!」
「!!?」
ダンテの発する言葉の意味を理解した明日菜は息を飲んでいた。
「?お母さん、どうしたの?」
「統夜、出かけるわよ。あなたも準備しなさい!」
「うん。わかったー」
統夜は遊んでいたおもちゃを片付けると、服を着替えて出かける準備を始めた。
明日菜も出かける準備を整え、2人はダンテと共に龍夜が殺された隣町の森へと向かった。
そこで明日菜が見たものは……。
「!た、龍夜!!」
変わり果てた姿になった龍夜であった。
明日菜は慌てて龍夜に駆け寄り、統夜もダンテに連れられて龍夜に歩み寄った。
「くっ……!龍夜……馬鹿野郎が……」
龍夜の亡骸を見たダンテは悲痛な面持ちをしていた。
「?ダンテおじさん……?」
まだ幼い統夜にはダンテが何故辛そうな表情をしているのか理解出来なかった。
「龍夜!ねぇ!しっかりしてよ!目を開けてよ!!」
明日菜は泣きながら必死に龍夜に声をかけるが、龍夜からの反応はなかった。
『明日菜……。龍夜はもう……』
魔導輪であるイルバは龍夜が既に死んでいることを理解していた。
龍夜はイルバと契約していたので龍夜は1月のうちの1日をイルバに捧げなくてはいけない。
しかし、龍夜の命が尽きたことでイルバとの契約は無効になってしまったのだ。
「そんな……!龍夜!!」
愛する人の亡骸を見ながら明日菜は涙を流していた。
「……?お母さん?」
幼い統夜には理解出来なかった。
父親はどうなってしまったのかを。そして、母親は何故そこまで号泣しているのかを。
「お母さん……どうしたの?どこか痛いの?」
統夜は明日菜に歩み寄ると、明日菜の服の袖をくいっと引っ張っていた。
「統夜……お父さんが……」
「お母さん、泣かないで。お母さんはおれが守るから」
統夜は父親の言いつけを守り、母を守ると宣言していた。
愛する人を失った明日菜には統夜の言葉は胸に深く突き刺さる言葉であり、何よりも嬉しい言葉であった。
「統夜……!ありがとう……ありがとうね……!」
明日菜は統夜を力強く抱きしめ、涙を流していた。
「……お母さん……泣かないで……泣かないでよ……」
明日菜が泣き止まないから統夜の瞳にも涙が浮かんでいた。
そして……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
統夜も母親の涙を見てもらい泣きし、思い切り泣き出していた。
「統夜……ごめんね……ごめんね……!」
明日菜と統夜は抱き合いながら互いに泣いていた。
その間ダンテは悲痛な面持ちでその様子を眺めていた。
こうして月影龍夜は暗黒騎士キバであるバラゴに殺され、明日菜は龍夜の死を悲しんでいた。
桜ヶ丘に戻った明日菜は龍夜の遺体を丁重に埋葬し、再び日常が戻ってきた。
しかし、龍夜のいない日常ではあるが……。
龍夜が死んだ後も統夜はチャンバラごっこのように剣を振るう練習をしていた。
統夜が魔戒騎士の修行を本格的に始めたのは統夜が5歳になった時であった。
この頃には明日菜も魔戒法師として復帰し、統夜の修行を見ながら法師としての務めを果たしていた。
そして、龍夜の親友であるダンテも龍夜との約束を守り、統夜の修行を明日菜と共に見ていた。
この後、明日菜は暗黒騎士ゼクスの鎧を身に纏ったディオスに殺され、ダンテは何らかの原因でホラーになってしまった。
しかし、これらは別の話である。
……完。
以上、龍夜とバラゴの戦いをお送りしました。
龍夜はバラゴに敗れてしまいましたが、手傷を負わせることが出来てどうにか一矢報いることが出来ました。
今回は過去編の話なので、ショタ統夜も登場しました。
そんな統夜が様々な出来事を乗り越えて一人前の魔戒騎士へと成長していくのです。
次回も番外編をお送りします。
番外編はホラーとの戦いより日常の話が多めになっております。
内容を言うと番外編がどんな話かわかってしまうので番外編の予告はしませんのでご了承ください。
それでは次回をお楽しみに!