今回、統夜たちがホラー、グォルブと激突します。
話は変わりますが、「牙狼 DIVINE FLAME」見てきました。
詳しい感想を言うとネタバレになるので一言で言いますが、最高でした。
さらに言うとめっちゃ燃えたしめっちゃ感動もしました。牙狼を知らない人でも楽しめるんじゃないかなと思います。
話はまた戻りますが、統夜たちはグォルブを倒すことが出来るのか?
それでは第23話をどうぞ!
暗黒騎士の称号を持つディオスはホラー、グォルブと一体化し、その意識を乗っ取ることで最強のホラーとなり、自分の理想の世界を作り上げようとしていた。
しかし、逆にディオスはグォルブの媒体となってしまい、取り込まれてしまった。
そのことでグォルブは完全に復活し、人界と真魔界をつなぐ怪しげな輝きを放つ光の柱が現れてしまった。
その光の柱は、桜ヶ丘高校から出られなくなっている唯たちも見ることが出来た。
正体不明な光の柱が現れたことで学校に残っている生徒たちは困惑し、パニックに陥っていた。
「なっ……!なななな何、あれ!?」
統夜が魔戒騎士であると知らない純もそんな1人であった。
(!まさか……あのディオスって人が言ってたグォルブってホラーが復活したの!?)
梓は状況からグォルブが復活したのではないかと推測していた。
それは統夜が魔戒騎士であると知っている唯たちも同じ考えだった。
「何なのよ……!一体何が起こってるのよ……!」
さわ子もパニックになっていた。
「や、山中先生!落ち着いて下さい!」
「そうだよさわちゃん!落ち着いて!」
「あなたたちは何でそんなに冷静なのよ!?あんなの明らかに異常じゃない!」
「えっ?それは……」
統夜が魔戒騎士と知らない和はどう返事をしたらいいか分からなかった。
しかし……。
「大丈夫ですよ、さわ子先生」
「そうだよ、さわちゃん先生!きっと何とかなるよ!世の中にはこんな異常なことを解決させる人がいるんだよ!」
唯は具体的なワードを出さず魔戒騎士が人を守ってくれることを伝えた。
「そ、そうなの……かしら?」
さわ子は不思議にもその言葉を信じようと思った。
(統夜君……。あなたは無事よね?無理だけはしないでね……!)
紬はひたすら統夜の無事を祈っていたが、それは唯たちも同じであった。
※※※
ディオスがグォルブに取り込まれたところを見た統夜たちは自らが突入したビルから脱出した。
脱出するなりビルの崩壊を見ていたレオたちと合流した。
「鋼牙さん!みなさん!無事ですか!?」
「あぁ、俺たちはみんな無事だ」
「フッ……。さすがだな」
鋼牙たちは元老院から来たワタルとエイジの存在に気付いた。
統夜はかつて修練場で教官だったワタルを見て驚いていたが、それはワタルも同様であった。
「!あ、あなたは……」
「お前は……もしかしてあの時の小僧か!?」
修練場に通ってからもうすぐ5年となり、統夜は17歳になっていたのだが、まだ幼さが残る統夜のことをワタルはすぐわかったのである。
「俺はもう小僧じゃないですがお久しぶりです!」
「お前……魔戒騎士になれたんだな」
「はい!」
「統夜、感動の再会はそこまでだ。来るぞ!」
鋼牙がこう統夜に告げると、光の柱から再び大量の素体ホラーが現れた。
「うわ……また出やがった!」
『人界と真魔界が繋がってる今じゃそれは無理もないわね』
シルヴァの推測通り、人界と真魔界が繋がってしまったため、ホラーがこのゲートを通って現れることが出来るのである。
「皆さん!グォルブは真魔界から人界に出てくるのには時間がかかります。ですので、僕たちが直接あのゲートから真魔界に乗り込んでグォルブを討つしかないです!」
「そうか。……零!統夜!行けるか?」
「もちろん!」
「えぇ、これ以上奴らの勝手にはさせません!」
「僕たち4人はここで出てきたホラーを抑えますので、よろしくお願いします!」
「承知!零、統夜、行くぞ!」
グォルブを直接叩くため、鋼牙、零、統夜の3人が真魔界に乗り込むことになったのである。
「皆さん!グォルブを討伐したら速やかにこのゲートから戻ってきて下さい!1秒でも遅れたら真魔界から出ることが出来ません!」
「わかりました!」
こうして鋼牙、零、統夜の3人は素体ホラーたちを突っ切ると、怪しげな輝きを放つ光の柱に突入した。
光の柱に突入し、一本道を進み続けると、3人はグォルブがいる真魔界に到着した。
「ここが真魔界か……」
統夜は魔戒騎士となって初めて真魔界を訪れたので、キョロキョロと周囲を見回していた。
(真魔界の話は鋼牙さんや零さんから聞いてたけど、本当に何もないところなんだな)
真魔界は人界のように都市があるわけではなく、本当に何もないところだった。
「それにしても……グォルブはどこにいるんだ……?」
『!統夜!この先だ!』
イルバがグォルブを探知し、統夜はイルバが示した方向を見た。
すると……。
統夜たちの目の前に巨大なホラーが現れた。
このホラーこそ、メシアの腕と呼ばれたグォルブの本体である。
その姿は統夜たちよりも遥かに巨大であり、禍々しいほど漆黒の身体をしており、その背中には羽根も生えている。
「あれがグォルブの本体か!」
『統夜!奴は今まで戦ってきたホラーとは比べものにならないぞ!油断するな!』
「あぁ!」
『鋼牙!油断するなよ!』
「わかっている」
『ゼロ!あのホラーは手強いわよ!』
「あぁ!どうやらそのようだな!」
イルバ、ザルバ、シルヴァはそれぞれの相棒にこう進言していた。
「行くぞ、零!統夜!」
「おう!」
「はい!」
『統夜!この真魔界では鎧を召還しても制限時間はない。思い切り行け!』
「わかった!」
イルバの言葉通り、この真魔界では鎧を召還したときの制限時間はない。
人界で鎧を装着する時は99.9秒という制限時間があるのだが、真魔界やホラーが生み出した空間のような人界とは異なる空間では鎧の制限時間はなくなるのである。
鋼牙、零、統夜の3人は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
3人はそこから放たれる光に包まれた。
そして……。
統夜は白銀の鎧を身に纏い、奏狼の鎧を召還した。
零は統夜とは違う白銀の鎧を身に纏い、絶狼の鎧を召還した。
鋼牙は金色の鎧を身に纏い、牙狼の鎧を召還した。
そして……。
「行くぞ!白皇!!」
「来い!銀牙!!」
「来い!轟天!!」
統夜、零、鋼牙の3人はそれぞれが持つ魔導馬を召還した。
統夜の召還した魔導馬は白皇という。
そして零の魔導馬が銀牙。鋼牙の魔導馬が轟天である。
魔導馬を召還した3人はホラー、グォルブに向かっていた。
『愚かな……。魔戒騎士如きがこの私を倒せると思うな』
グォルブは身体のあちこちから邪気を放出した弾を呼び出すと、それを3人めがけて放った。
3人はそれぞれの武器を用いてグォルブが放つ邪気の弾を弾き飛ばしていた。
「それにしてもデカイな、こいつ!イルバ、奴に弱点はないのか!?」
『残念ながら奴にはそう言ったものはないぜ』
「デスヨネー」
統夜はグォルブの攻撃を弾き飛ばしながらもがっくりと項垂れていた。
「っと!無駄口は叩いてられないか!」
統夜は勢いが増した邪気の弾の弾幕を皇輝剣で弾き飛ばしていた。
そして3人は攻撃を弾き飛ばしながら邪気の弾の弾幕を突破した。
「零!統夜!一気に決めるぞ!」
「おうよ!」
「わかりました!」
鋼牙は牙狼剣を轟天の力で牙狼斬馬剣へと変化させた。
零は2つの銀狼剣の柄をくっつけて銀牙銀狼剣の形態に移行させた。
統夜は皇輝剣を白皇の力で皇輝斬魔剣へと変化させた。
3人はそれぞれの全力で一気に勝負をつけるつもりだった。
しかし……。
『愚かな……。その程度の攻撃で私を倒せるものか!』
グォルブは真っ黒な手を複数召還した。
その手たちはものすごいスピードで3人に迫った。
3人はそれぞれの武器を振るって迎撃しようとするが、迫り来る黒い拳のスピードには追いつけず、3人は黒い拳に殴られることで吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ……!」
「ぐぁ……!」
「この……!」
魔導馬から引きずり降ろされた3人はどうにか体勢を立て直そうとするが、そこに複数の拳が迫ってきた。
3人は2発、3発と連続でパンチを受けたことでさらに吹き飛ばされてしまい、その衝撃で鎧が解除されてしまった。
「くそっ!なんてデタラメなスピードの拳だよ!」
「へっ、こいつは思った以上にやるようだな」
「あぁ。あの拳を見切らなければ俺たちに勝ち目はない」
鋼牙はどこから飛んでくるかわからない拳の動きを見切らなければ勝機はないと推測していた。
「統夜。俺と零が囮になる。お前はその隙にグォルブに攻撃をしてくれ」
「……統夜、頼んだぜ!」
「……わかりました!」
3人は体勢を立て直したところで魔戒剣を高く突き上げ、再び鎧を召還した。
鋼牙と零はグォルブに接近しようとするが、先ほどの拳が襲いかかってきた。
同じ攻撃に何度も屈する2人ではなく、2人は迫り来る拳をかわしたり弾き飛ばしたりしながら攻撃をしのいでいた。
「統夜!今だ!」
「はい!……行くぞ、白皇!」
統夜は再び白皇を召還し、グォルブに接近した。
そして……。
「こいつを喰らえ!」
統夜は皇輝剣を皇輝斬魔剣に変化させると、剣を一閃した。
しかし……。
「何だと!?」
その一撃でグォルブの身体を斬り裂くことは出来ず、あっさりと受け止められてしまった。
『愚か者が……。そんな剣では私は斬れぬよ』
「くっ!」
統夜は皇輝斬魔剣をさらに一閃させるが、やはり効果はないようだった。
『思い知るがいい!私の力を!!』
グォルブは更に複数の拳を召還し、その攻撃は全て統夜に迫ってきた。
「ぐぅ……がぁ……ごぉ……」
2発、3発、4発とグォルブの容赦ない攻撃が続き、統夜はそのまま吹き飛ばされてしまい、遠く離れた壁に叩きつけられた。
その衝撃で奏狼の鎧は解除されてしまった。
「「統夜!」」
鋼牙と零は吹き飛ばされて鎧を解除された統夜を心配するが、グォルブの攻撃が激しく、救援に行ける状態ではなかった。
「くそっ……!まだ……だ!」
統夜は連続で受けた攻撃のせいですでにボロボロだったが、どうにか立ち上がった。
『まだ立つか。魔戒騎士とは相変わらずしぶとい連中だな。……いいだろう。私のさらなる力を見せてやろう。……はぁっ!!』
グォルブは統夜の前に魔方陣のようなものを呼び出すと、そこから複数の素体ホラーが現れた。
しかし、その効果はこの真魔界だけに及んだものではなかったのだ。
※※※
その頃、桜高の校庭では相変わらず取り残された生徒たちが出られるのを待っていた。
(……戦いが始まってもう1時間……。統夜先輩……大丈夫かなぁ……)
梓たちが統夜たちと別れておよそ1時間が経過していた。
「……あずにゃん、もしかしてやーくんの事を考えてた?」
「はい、そうです」
梓は照れて隠すことはせず、素直に答えていた。
「大丈夫だよ、あずにゃん。やーくんならきっと……」
唯は統夜ならこの事態を何とかしてくれる。そう確信していた。
「……そうですね」
梓も統夜のことを信じていたので唯の言葉に頷いていた。
その時である。
「ね、ねぇ!何なの、あれ!?」
桜高の校門前に突然魔方陣のようなものが現れ、それを見た生徒たちは困惑していた。
現れたのは魔方陣だけではなかった。
その魔方陣から素体ホラーが10体ほど現れたのである。
ここにいる人間のほとんどはホラーを見たことがなかったので、突然現れた異形の怪物に悲鳴をあげると、その場は騒然となってしまった。
「な!何よあれ!!」
「か、怪物!?」
「……!」
ホラーを初めて見るさわ子、純、和の3人は恐怖に怯えていた。
「あれは……ホラー!?」
「何で学校の前にいきなり現れたの!?」
唯たちも突然ホラーが現れたことに困惑していた。
「な、何よあんたたち!あの怪物のことを知っているの!?」
「えっ、えぇ……。一応……」
迂闊にホラーや魔戒騎士のことを話してはいけないと感じた紬はこう話を濁していた。
「今はそれどころではないわ!」
和がこう言った瞬間、素体ホラーたちが目の前の結界を攻撃し始めた。
その様子を見ていた生徒たちは学校の中へと逃げ始めた。
「唯!私たちも逃げるわよ!」
和もこのままではいけないと感じ、逃げるよう促していた。
「えっ?でも……」
「逃げたって、あいつらが入って来たら逃げ場はないんじゃ」
澪はこう冷静に判断していた。
逃げるのは良いのだが、結界を放っておけば、いくら強力な結界でもその結界が破れるのも時間の問題である。
そうなったらホラーが一斉に校内に押し寄せ、どれだけの被害が出るか想像がつかなかった。
逃げようにも他に逃げ道はないのである。
「だけど、校内の方が安全よ!」
そう言ってさわ子も唯たちに逃げるよう勧めるが、ホラーたちは休むことなく校内に入れるよう結界を攻撃し続けていた。
そして、結界に僅かだがヒビが入ってしまった。
このままでは結界が壊れるのも時間の問題である。
しかし、自分たちにはホラーを倒す術はなく、統夜たち魔戒騎士はグォルブとの戦いに赴いている。
この状況に絶望しかけていたその時であった。
どこかから弾のようなものが飛んで来ると、それが一体の素体ホラーを消滅させた。
『え?』
その様子を見ていた唯たちは驚きを隠せなかった。
今の攻撃はいったい誰が?
そう考えていると、黒いコートを身に纏った女性が現れ、素体ホラーと戦闘を開始した。
「こ、今度はなんなのよ!」
「あっ!あれは!」
唯たちは素体ホラーと戦う女性に見覚えがあった。
「……!お前たち、無事か?」
「!烈花さん!」
その女性の正体は烈花であり、紬が歓喜の声をあげていた。
「烈花さん、どうしてここに?」
「統夜からホラー、グォルブが復活することは聞いただろう?俺たちは統夜とは合流せずにここでお前たちを守ることにしたんだよ」
「俺……たち?」
唯たちは何故烈花が俺たちと複数形で言っているのか理解できなかった。
その時だった。
「はぁっ!!」
着物をカスタムしたような黒い服を着た女性が現れると、筆から放たれた光線で素体ホラーを消滅させた。
そして、白いコートに槍を持った男が素体ホラーを斬り裂いていった。
「!な、なぁ!あの人って!」
「魔戒……騎士?」
唯たちは目の前にいる魔戒騎士に驚いていた。
「お前たち……統夜のことを知っているのか?」
「ということはあの子たちが統夜の言っていた軽音部とやらの子達だね」
「そうです、邪美姉」
烈花はもう1人の女性のことを邪美姉と呼んでいた。
邪美姉こと邪美は閑岱という魔戒法師の里の魔戒法師である。
その実力は最強の魔戒法師と言っても過言ではなく、黄金騎士である鋼牙も一目置いている。
「自己紹介がまだだったね。あたしは邪美。魔戒法師さ」
邪美は素体ホラーを蹴散らしながら唯たちに自己紹介をしていた。
「俺は山刀翼、魔戒騎士だ。統夜が世話になってるそうだな」
白いコートの魔戒騎士……翼も素体ホラーを蹴散らしながら自己紹介をしていた。
「お二人も統夜先輩のことを知っているんですか?」
「まぁね、統夜のことはよく知っているよ」
「俺はあいつに魔戒騎士として手ほどきをしたことがある。なかなか鍛え甲斐のある奴だよ」
「そ、そうだったんですか……」
統夜には一体どれだけの知り合いがいるのか?
そう脳裏をよぎった梓は苦笑いをしていた。
「「「…………」」」
さわ子、和、純の3人は全く状況を飲み込めず言葉を失っていた。
この世のものとは思えない怪物を難なく蹴散らすあの3人は何者なのか?
それに彼らや唯たちが口にする魔戒騎士や魔戒法師とは一体何なのか?
3人の頭の中でその疑問は絶えることはなかった。
全く状況が飲み込めない3人を置き去りにするかのように更に自体は動き始めた。
翼、邪美、烈花の3人によって素体ホラーは殲滅させたのだが、再び素体ホラーが現れたのだ。
「あぁ、もう!しつこいね!」
「恐らくはグォルブの力でしょう。奴の力でホラーが湧き出ているのでは?」
「どうやらそのようだ」
そう答える翼は眉間にシワを寄せていた。
話を聞いているだけでとんでもない話であると事情を知っている唯たちだけではなく、さわ子、和、純も察していた。
「こいつらを一気に蹴散らす。……邪美、烈花。あいつらを頼んだぞ」
「あぁ、わかったよ」
「任せておけ」
翼が再び出現した素体ホラーたちを殲滅することになり、邪美と烈花は唯たちの護衛にあたった。
『翼!白夜騎士の力を見せてやれ!』
突然翼の腕から男の声が聞こえ、カチカチという音も聞こえてきた。
今口を開いたのは魔導輪ゴルバ。腕輪の形をした翼の相棒である。
「?今の声、どこから?」
和は謎の声に首を傾げていた。
そして……。
翼は魔戒槍を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれると、翼は純白の鎧を身に纏った。
翼が身に纏った鎧は白夜騎士打無(ダン)。その白き鎧は高貴さを表している。
翼は魔戒槍が変化した白夜槍を振るい、次々と素体ホラーを蹴散らしていった。
「えっ?」
「何よ、あれ……」
「白い……鎧?」
魔戒騎士の鎧を初めて見る3人は驚きを隠せなかった。
というよりも今現在起こっている非日常の風景に驚きを隠せなかった。
再び素体ホラーを全滅させたところで翼は鎧を解除した。
(お前の大切な友は俺たちが守る……。だから統夜、お前は思い切り戦ってこい!)
翼は唯たちを守るとともに真魔界で戦っている統夜にエールを送っていた。
※※※
翼、邪美、烈花の3人が桜高の前で唯たちを守っていた頃、真魔界では激闘が続いていた。
鋼牙と零は無数に飛び交う黒い拳を相手に苦戦を強いられていた。
どうにかここを突破してグォルブに一撃を与えたいが、それを許してくれる状況ではなかった。
統夜はボロボロになりながらも素体ホラーの群れと戦っていた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
統夜はグォルブの連続攻撃を受けてすでに体力は限界だったのだが、グォルブは休む暇を与えてはくれなかった。
そんな状態の中、統夜は2体、3体と素体ホラーを斬っていくが、体力が限界の中それは長く続かなかった。
10体の素体ホラーが統夜に一斉に押し寄せてきた。
「くっ……!」
素体ホラーたちを押し返す程の力は残っておらず、統夜は素体ホラーたちに押し倒されてしまった。
「「統夜!!」」
このままでは統夜がホラーに喰われてしまう。
鋼牙と零はどうにか助けに行こうとするが、グォルブはそれを許さなかった。
グォルブの攻撃はより激しさを増し、少しでも隙を見せれば連続で攻撃を受けてしまう。
そんな状況だった。
(統夜、ふんばれ……!)
(お前には帰りを待ってる人がいる。ここが正念場だぞ)
鋼牙と零はエールを送ることしか出来なかった。
「……はっ!やーくん!?」
ちょうどその頃、唯が何か異変を察知していた。
「?どうしました、唯先輩?」
「このままじゃやーくんが危ないの!」
唯はそれだけ言うと学校の中へ走っていった。
「ちょ!?唯、待てって!」
律たちはそれを慌てて追いかけ、校庭には状況を飲み込めずにいるさわ子、和、純が残された。
「あいつら、一体何をするつもりなんだ?」
「あの子たちはあの子なりに統夜の応援をしたいんだろうさ」
「俺もそう思います」
翼、邪美、烈花の3人は走り去る唯たちを見守っていた。
現在はホラーは現れていないので3人はホラーの襲撃に備えていた。
学校の中へ走っていった唯が真っ先に向かったのは軽音部の部室である音楽準備室だった。
唯は中に入るなり迷うことなく自分のギターケースを取り出し、ギター演奏の準備を行っていた。
ちょうどそのタイミングで律たちも音楽準備室に入ってきた。
「唯ちゃん、ギターを準備してどうしたの?」
「演奏するんだよ!」
「唯、何でまたこんな状況で演奏するんだよ?」
澪の指摘はもっともであった。
こんな非常事態に楽器を弾くとはあり得ない状況だからである。
「だからこそだよ!やーくんは今必死に戦ってるんだもん!私たちは私たちに出来ることでやーくんの応援をしようよ!」
「お姉ちゃん……」
憂は姉である唯のここまで真剣な表情は初めて見た。
唯は魔戒騎士でも魔戒法師でもない。それ故に今自分が出来ることをやろうとしていた。
その思いを汲み取った軽音部のメンバーたちはそれぞれの楽器の準備を始めた。
「!みんな!」
「確かに唯の言う通りだな。あたしたちに出来るのは演奏することだけだしな」
「あぁ。統夜にこの演奏は聞こえないかもしれない。だけど、この気持ちは届けたい!」
「えぇ。私たちの想いはきっと統夜君の力になるわ!」
「はい!私たちの音楽を統夜先輩に届けましょう!」
「私は演奏は出来ないけど、祈ることは出来ます!統夜さんの無事を。そして、統夜さんの勝利を!」
律たちはやる気になっており、演奏が出来ない憂も祈りを捧げていた。
「よーし、みんな!やろう!」
「「「「「おー!!」」」」」
演奏準備が整ったところで唯たちは演奏を始めた。
統夜の無事を。そして、統夜の勝利を祈りに込めて。
〜使用曲→ふわふわ時間〜
梓は演奏をしながら驚いていた。
普段はお茶ばかり飲んでだらけているのにいざという時にはプロ顔負けの演奏をしている。
その時、梓は統夜の言葉を思い出していた。
演奏をしている時はみんな楽しそうで、みんなの気持ちが1つになった時、自然と良い音楽になっていると。
梓は今演奏しているこの瞬間、統夜の言葉を実感し、理解していた。
(統夜先輩…。私、あの時の先輩の言葉を実感してます……。お願い、負けないで!無事に帰って来てください!)
そして梓は統夜の無事を音楽に込めていた。
それは梓だけではなく、唯たちも同じ気持ちであった。
そして、ふわふわ時間の演奏は終了したのである。
「……なぁ、唯。次は何を演奏する?」
律は次の曲を唯に相談するが……。
「…………」
何故か唯はそれを答えようとはしなかった。
「……?唯ちゃん?」
何故か無言になる唯に首を傾げていたその時だった。
「♪例えば、途切れた空が見えたなら〜」
唯は突然弾き語りのように歌を歌い始めた。
「!唯先輩?」
「なぁ、この曲って……」
「あぁ。ワルキューレの曲だよ。今流行ってる」
「統夜君もこの曲が好きだったわね」
唯が今歌っているのは最近人気が出ているアイドルグループ「ワルキューレ」の「僕らの戦場」という曲である。
統夜がワルキューレの曲が好きで、軽音部の練習と言ってはこの曲や他のワルキューレの曲を練習したりもしていたのである。
「唯のやつ良いチョイスをするじゃないか!」
「えぇ。これなら統夜君にきっと翼を届けることが出来るわ」
唯の歌を聴きながら律、澪、紬、梓は互いの顔を見合って頷いていた。
そしてこの曲がサビに入ろうかというところで律たちも演奏に加わった。
〜使用曲→僕らの戦場(桜高軽音部ver)
唯たちが演奏を始めていた頃、統夜は絶体絶命のピンチに陥っていた。
体力が限界の中素体ホラーたちと戦っていたのだが、素体ホラー10体に押し倒されてしまったのだ。
統夜はどうにかこの危機を脱しようとするが、そこまでの力は残されていなかった。
(こんなところで死んでたまるか!俺は、唯たちと約束したんだ!必ず生きて帰るって。だから!)
統夜はこの絶体絶命のピンチでも諦めてはいなかった。
生きて唯たちのもとへ帰るために。
どうにか素体ホラーたちを引き剥がそうとしたその時だった。
突如紬からもらったネックレスが光りだしたと思ったら曲が聞こえてきたのだ。
唯たちが奏でる音楽が。
そして……。
__♪例えば、途切れた空が見えたなら〜
(!唯!?それに、この曲……)
統夜は間違うはずはなかった。
唯が歌っている曲は今自分がハマってるアイドルグループ「ワルキューレ」の曲だったからである。
(……俺は1人じゃない。俺にはみんながいる。みんなのこの想いが俺に翼を与えてくれる……。だから……!)
統夜が強く念じたその時であった。
統夜の身体から銀色の光が放たれたのである。
そして……。
素体ホラーたちが一気に消滅したと思ったら、何かが飛翔していたのである。
ホラーを消滅させて飛翔したのは統夜が身に纏っている奏狼であった。
しかし、ただの奏狼ではなかった。
奏狼の背中に銀色に輝く翼が生えていたのである。
その姿は雄々しくもあり、気高くもあった。
この姿こそ翔翼(しょうよく)騎士奏狼。
唯たちの祈りが統夜に届き、その背中に翼を与えた奇跡の形態であった。
統夜は華麗に飛翔すると、そのままグォルブに向かっていった。
「!あ、あれは、統夜?」
「統夜……。ふっ、そういうことか」
鋼牙はホラーの始祖と呼ばれたメシアと戦った時、カオルの想いと祈りが届き、金色の翼人となりてメシアを討滅した。
その時の記憶が頭をよぎり、鋼牙は笑みを浮かべていた。
そして……。
「行け、統夜!!今のお前ならグォルブを倒せる!!」
鋼牙は力強い言葉で統夜にエールを送っていた。
『ほぉ、まだ歯向かうか。良かろう。まずは貴様を始末してやる』
鋼牙と零を捨て置き、統夜を始末しようとしたグォルブはその背中の羽で飛翔し、統夜に向かっていった。
統夜とグォルブは空中でぶつかり合い、互角の戦いをしていたのである。
『馬鹿な……!貴様は既に限界のハズ。なぜそこまで動けるのだ!?』
グォルブは焦っていた。
一時は統夜を相当追い詰めたのにそれを全く感じさせない動きをしていたからだ。
「俺には大切な仲間がいる!その支えがある限り、俺は絶対に折れたりはしない!」
統夜は赤い炎の斬撃を飛ばすと、グォルブを吹き飛ばした。
『ぐぉ!な、何だと!?』
グォルブは壁に叩きつけられたが、すぐに体勢を立て直した。
「ホラー、グォルブ!その強大な力でこの世の全てを滅ぼそうとする貴様の陰我……俺が断ち切る!!」
統夜はグォルブに向かってこう宣言すると、そのままグォルブに向かっていった。
『おのれ……。だが、これならどうだ!!』
グォルブはおびただしい数の拳を召還すると、その全てを統夜にぶつけようとした。
『まずいぞ、統夜。あれ全てを食らったら流石に持たないぜ!』
「そうだな、だけど!!」
統夜は皇輝剣に念を込めると、その姿が皇輝斬魔剣に変化した。
翔翼騎士奏狼の形態になると、魔導馬である白皇の力を借りなくても皇輝剣を皇輝斬魔剣に変化させることが出来るのだ。
さらに、統夜は皇輝斬魔剣の切っ先を赤い炎で包み込み、自らの体も赤い炎に包まれた。
そう。統夜は烈火炎装の状態になったのである。
迫り来る拳たちは統夜の身体から放たれる赤い炎に触れると消滅した。
こうしておびただしい数の拳をくぐり抜けながら統夜はグォルブに向かっていった。
『な、何だと!?そんな馬鹿な!あれだけの攻撃を受け止めるなんて!?』
グォルブは戦慄していた。
己が強大な力でさえも跳ね除ける目の前の強大な力に。
そして……。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
統夜はまるで獣のような咆哮をあげながら赤い炎に包まれた皇輝斬魔剣を一閃した。
その一撃はメシアの腕と言われたグォルブの身体を真っ二つにしてしまったのである。
『馬鹿な……。この私が……こんな小僧に……』
「俺は小僧ではない!」
『な、何!?』
「我が名は奏狼!!白銀騎士の称号を受け継いだ魔戒騎士だ!!」
統夜は高々と自分の魔戒騎士としての名前を宣言したのである。
そして……。
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
断末魔をあげながらグォルブの身体は爆発を起こし、その身体は消滅していった。
鋼牙と零の近くに着陸した統夜はグォルブ消滅の瞬間をジッと見据えていた。
こうしてグォルブを討滅した統夜は鎧を解除し、鋼牙と零も鎧を解除した。
「統夜、やったな。凄かったぜ!さっきの戦い」
「零さん……ありがとうございます……」
「統夜、零。話はそこまでだ。脱出するぞ」
「おっと、そうだった。早く出ないとこの真魔界に取り残されるからな」
「はい!戻りましょう」
こうして統夜たちは勝利の余韻にひたる暇もなく、自分たちが入ってきた光の柱から人界に戻っていった。
※※※
統夜がハマってるグループである「ワルキューレ」の曲を最後まで演奏した唯たちはとても満足そうな表情をしていた。
「やーくんに……この歌は届いたかなぁ?」
「はい!絶対に届いてますよ!」
「そうだぜ!この演奏がきっと統夜の力になったさ」
「あぁ、私もそう思う」
「えぇ♪最高の演奏だったもの♪」
「皆さん、さすがです!」
唯たちの演奏は今まで以上のものであり、祈りを込めながら演奏を聴いていた憂も大満足だった。
「みんな、戻ろう!戻ってやーくんの帰りを待とうよ!」
「「「「「うん(はい)!!!」」」」」
こうして唯たちは自分たちの楽器を片付けると、統夜の帰りを待つために校庭に戻ることにした。
その頃、統夜たちが脱出した真魔界では、グォルブが開いた光の柱が閉じようとしていた。
そして、それを漆黒の鎧を身に纏った男がジッと眺めていた。
「おのれ……月影統夜……。あいつだけは……生かしておくわけにはいかない……!」
漆黒の鎧の男は統夜に憎悪の感情を抱いていた。
グォルブは討滅したが、戦いはまだ終わっていなかったのである。
……続く。
__次回予告__
『おいおい、どうやら戦いはまだ終わってないようだな。ここで一気に決着をつけようぜ、統夜。次回、「白銀」。勇気の刃で闇を斬り裂け!ソロぉ!!』
統夜の得た力、翔翼騎士奏狼が見事グォルブを討滅しました。
グォルブはZERO black blood に出てきたリングの真っ黒バージョンというイメージで執筆しました。
さらにグォルブが放った黒の拳の攻撃は、炎の刻印に出てきたメンドーサの攻撃を参考にしました。ですが、鋼牙や零が防いでいたのであれほどチート技ではありません。
あと、唯たちが歌っていたワルキューレの「僕らの戦場」は現在放送中のマクロスΔの挿入歌です。
初めてこの曲を聴いた時、翔翼騎士奏狼の戦闘シーンに合いそうだなと思ったのでこの曲を使いました。
そして邪美と翼が登場したことでメインキャラはだいぶ登場したと思います。
そして次回がこの章の完結編になります。
この章が終わりなだけで最終回ではありませんのでご了承ください。
この章が完結したらUA5000記念の番外編を投稿します。
それでは次回をお楽しみに!