牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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早いものでこの小説も第20話まで来ました。

今回は予告通り心滅回です。

統夜は一体どうなってしまうのか?

最近思ったんだけど、モブ騎士と考えてた大輝がレギュラーになりつつあるな。

だけど、称号を持たない騎士がここまで活躍するのは珍しいからこれはこれでいいのかな?

それでは第20話をどうぞ!




第20話 「心滅」

強大な力を持つ魔獣、グォルブの牙が闇に堕ちた魔戒騎士、ディオスに奪われ、統夜と大輝、レオの3人はその奪還の任を受けていた。

 

3人はディオスと遭遇。グォルブの牙を奪い返すために戦いを挑むが、暗黒騎士となったディオスの圧倒的な力に敵わず、統夜と大輝は重傷を負ってしまった。

 

レオは唯たちに協力を要請し、駆けつけた彼女たちとともに統夜と大輝は紬の親が経営をしてる琴吹総合病院へ搬送された。

 

魔戒騎士であるが故にその回復力は高く、2人はその日のうちに目を覚ました。

 

2人が琴吹総合病院で眠っている頃、レオは番犬所へ戻ってきていた。

 

「……レオ、どうしたのですか?」

 

「イレス様、報告しなければいけないことがありまして……」

 

「報告……ですか?」

 

「えぇ。僕たちはグォルブの牙を奪った男と遭遇しました」

 

「そうなのですか?」

 

レオの報告にイレスは驚いていた。

 

「はい。その男は……渾沌騎士ゼクスの称号を持っていたディオスという男でした」

 

「渾沌騎士ゼクス……。かつてはこの紅の番犬所所属の騎士でしたが、その系譜は途絶え、ディオスという男は行方不明になっていると聞いています」

 

イレスの言う通り、ディオスはかつてこの紅の番犬所に所属していた。

 

しかし、闇の力に心を奪われてしまい、行方不明となり、その系譜は途絶えてしまった。

 

「彼は今暗黒騎士ゼクスと名乗り、僕たちに立ちはだかりました。その圧倒的な力に僕たちは歯が立ちませんでした」

 

「それで……統夜と大輝はどうしたのですか?」

 

「2人は暗黒騎士にやられ、重傷を負いましたが、今は琴吹総合病院にいます」

 

「琴吹総合病院……ですか?」

 

「はい。例の少女たちに協力してもらったんです。あそこならば秘密は守られると」

 

「なるほど……。今回の件に彼女たちを巻き込みたくありませんでしたが、仕方ないですね」

 

イレスは状況が悪いということから唯たちの協力は仕方ないと感じていた。

 

「ここに来る前に連絡がありました。統夜君も大輝さんもじきに目を覚ますとのことです」

 

「魔戒騎士の回復力は普通の人間を越えますからね……」

 

「はい。ですが、再びディオスとは戦わなければいけないでしょう。魔獣の牙を取り戻すために」

 

「そうですね……。現在黄金騎士と銀牙騎士がこの桜ヶ丘に向かっていると聞いています。恐らく今日の夜には到着するでしょう」

 

「……後、もう1つ報告があります」

 

「?何でしょう?」

 

「ディオスには仲間が1人いたのですが、そいつはホラーとなってしまった魔戒騎士だったのです」

 

「!?それは本当ですか!?」

 

レオのもう1つの報告にもイレスは驚いていた。

 

「……そいつはダンテという名前でした」

 

「!ダンテ!?レオ、それは本当なのですか?」

 

「え、えぇ……」

 

「その男は剛風騎士ダンテ。かつて統夜の父、月影龍夜と共にこの番犬所所属の魔戒騎士としてホラーから人々を守っていましたが、統夜の母、明日菜が死んだ後に行方不明になったのです」

 

ディオスと共にいた男は剛風騎士ダンテの称号を持つ男だった。

 

しかし、彼は統夜の母の死後行方不明になり、ホラーとなって統夜たちの目の前に現れたのだ。

 

「なるほど……。統夜君にとっても大切な人だったのですね……」

 

レオは、ダンテが統夜の目の前に現れた時、何故統夜があそこまで動揺していたのかを理解した。

 

「……レオ、2人が到着したら再びディオスの元へ向かい、グォルブの牙を取り戻すのです」

 

「はい、お任せください」

 

レオはイレスに深々と頭を下げると、番犬所を後にして、統夜と大輝のいる琴吹総合病院へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

統夜と大輝が目を覚ましたのは、病院に運ばれてから1時間ほど経ってからだった。

 

統夜が先に目覚め、唯たちがそのことを喜び抱きついたタイミングで大輝が目覚めてしまった。

 

そのことを問い詰める大輝であったが、統夜と紬が弁解をしていた。

 

その弁解に大輝は渋々ではあるが、納得していた。

 

統夜たちが目を覚ました時間が夜遅くであったため、紬の計らいで唯たちも統夜と共にこの病院に泊まることになった。

 

唯たちはこの時に大輝が統夜と同じ紅の番犬所所属の魔戒騎士であり、統夜が学校に行っている間にエレメント浄化を行っていることを知った。

 

大輝のおかげで統夜は学校も部活も行けるので唯たちは大輝に感謝の言葉を述べるが、大輝はそれが照れ臭かったのか素っ気ない態度を取っていた。

 

統夜と大輝は今いる部屋で寝ることになり、唯たちは隣の部屋で寝ることになった。

 

翌日の朝、憂が持って来た弁当を朝食として取った。

 

この日は学校は休みだったので、唯たちは午前中は統夜と共に過ごし、12時になる前に唯たちは一度帰宅することになり、病院を後にした。

 

その帰り道だった……。

 

「お前たちが月影統夜と同じ軽音部とやらか?」

 

暗黒騎士ゼクスことディオスが唯たちの前に現れた。

 

「あ、あなた……もしかして……」

 

梓は強大な力を持つホラーを復活させようとしている魔戒騎士がいるというレオの言葉を思い出していた。

 

「なんだ。月影統夜から話を聞いていたのか?だとしたら話は早い」

 

「あ、あたしたちをどうするつもりなんだ!」

 

「何、大人しく私についてきてくれれば手荒な真似はしない」

 

こう語るディオスは怪しげな笑みを浮かべていた。

 

このままではいけない、逃げなくては。

 

唯たちの思考にこのような考えが浮かんだ。

 

「み、みんな!逃げるぞ!!」

 

律の号令で唯たちは逃げ出そうとした。

 

「愚かな……。この私から逃げられると思ったか?」

 

唯たちが走り出そうとしたその時、彼女たちの前にダンテが現れた。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「貴様ら、大人しくしろ。ディオス様は手荒な真似は避けたいと仰っている」

 

ダンテが現れたせいで唯たちは逃げ出すことが出来なかった。

 

「何で私たちを捕まえようとするんだ?」

 

「決まっている。貴様らは月影統夜をおびき寄せための餌だ。だから殺しはしない」

 

「な、何でそんなこと!」

 

「貴様らは月影統夜の守るべき存在であると共に月影統夜の弱点でもある」

 

「弱点?」

 

「そうだ。貴様らの存在そのものがあの男の枷になるのだよ」

 

「そんなことない!統夜君は私たちだけじゃない!色んな人のために戦っているんだもの!」

 

紬は自分たちの存在そのものが統夜の弱点であると認めなかった。

 

それは他のみんなも同様であった。

 

「やれやれ……。大人しくついてくる気はないか……。仕方ない」

 

ディオスとダンテは素早い動きで憂を除く全員を気絶させた。

 

「お姉ちゃん!みなさん!!」

 

ディオスとダンテは気絶した5人を捕まえた。

 

「そこの女。貴様は月影統夜に伝えろ。この5人を助けたければ今日の夜に○△ビルまで来いとな。もし来なければ…わかるだろう?」

 

ディオスが指定したのは桜ヶ丘某所にある今は使われていないビルであった。

 

「そ、そんな……」

 

「ハハハハハ!それではな!」

 

ディオスとダンテがその場を立ち去ろうしたその時だった。

 

「貴様は……!ディオス!!」

 

番犬所から病院に戻ろうとしていたレオが偶然エンカウントした。

 

「ほぉ、これはいいタイミングだ。そこの女!月影統夜にしっかり伝えることだ!わかったな?」

 

「待て!!」

 

レオは魔戒剣を抜き、ディオスに向かって行こうとするが、ディオスがテレポートを使ってその場からいなくなってしまった。

 

「くそっ……!逃げられたか……!」

 

レオは魔戒剣を鞘に納めた。

 

「……布道せんせぇ……」

 

憂は泣きそうな表情でレオを見ていた。

 

「う、憂さん。どうしたんですか?」

 

「お、お姉ちゃんたちが…あの人たちに捕まったんです……」

 

「え!?それは本当ですか!?」

 

レオの問いに憂は無言で頷いていた。

 

「返して欲しければ、今日の夜に○△ビルに来いって……。来なかったら、お姉ちゃんたちは……」

 

最後まで言わずとも統夜が姿を現さなければ、唯たちを殺すつもりだということはレオには察しがついていた。

 

「わかりました……。一度病院に戻りましょう!」

 

こうしてレオと憂は病院に戻ることになった。

 

 

 

 

 

「統夜君!大変です!」

 

レオはこう言いながら病室の中に入っていった。

 

「?レオさんどうしたんです?それに憂ちゃんも。唯たちと帰ったんじゃないのか?」

 

統夜がこう憂に問いかけると、憂は涙をポロポロと流して泣き出してしまった。

 

「グスッ……ヒック……統夜さぁん……」

 

憂は泣いていて話が出来る状態ではなかった。

 

「……統夜君。実は、唯さんたちがディオスに捕まりました」

 

「!レオさん、それは本当ですか!?」

 

「えぇ。返して欲しければ今日の夜に○△ビルまで来いと」

 

「…………」

 

統夜は何も言わなかったが、怒りを露わにしていた。

 

「これは罠だな。俺たちを誘き寄せるための」

 

大輝は冷静にこう判断していた。

 

「そうですね。ですが、統夜君が姿を現さなければ、ディオスは躊躇なく唯さんたちを殺すでしょう」

 

「くっ……!そういうことか!」

 

大輝は罠に乗る必要はないと考えていたが、レオの話を聞いてその考えをやめた。

 

「……あいつら……!!唯たちまでも利用しようって言うのか!!」

 

統夜は今まで誰も見たことがないくらい怒りを露わにしていた。

 

「統夜、奴はお前1人で来いとは言っていないんだ。だから俺たちも共に行こう」

 

「……俺1人で行きます」

 

「統夜君!無茶です!統夜君1人では暗黒騎士に勝てません!」

 

「そうだとしてもだ!!」

 

統夜はひどい剣幕で怒鳴り散らしていた。

 

「と、統夜君……?」

 

レオはここまで統夜が怒っているところを初めて見ていた。

 

「統夜、いい加減にしろ!お前1人の力で何が出来る!今俺たちがすべきなのはあの5人を奪還することだ。奴を倒すのはそれからだ!」

 

「……」

 

大輝は頭に血がのぼっている統夜をなだめるが、統夜は納得していなかった。

 

「とりあえず、今は体を休めましょう。今日の夜には鋼牙さんと零さんも到着します。それから○△ビルに向かっても問題はないでしょう」

 

「黄金騎士と銀牙騎士が来るのか。だとしたらその方が良さそうだな」

 

大輝はレオの提案に賛同していた。

 

しかし……。

 

「…………」

 

統夜は何も言わず、怒りだけを露わにしていた。

 

「統夜!今は私情は捨てろ!確実にあの5人を奪還するためなのだからな!」

 

「……はい」

 

統夜は渋々了承したフリをしていたが、納得はしていなかった。

 

こうして統夜たちは唯たちを救うために鋼牙と零の到着を待つことにした。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そしてその夜、事件は起きた。

 

「……統夜君、遅いですね……」

 

鋼牙と零を待っていたレオたちであったが、統夜がトイレに行くと行って30分以上経つが戻って来なかった。

 

「……!まさか!統夜君、1人で!?」

 

「くそっ!あの馬鹿!!」

 

統夜の暴挙に大輝は舌打ちをした。

 

「統夜さん……」

 

一緒に病室で待っていた憂も不安げな表情を見せていた。

 

「と、とりあえず僕たちも行きましょう!鋼牙さんと零さんには連絡をいれておきます」

 

「わかった!」

 

こうしてレオと大輝は統夜を追うことにした。

 

「憂さん、あなたはここで待っていて下さい!」

 

「私も行きます!私じゃ何も出来ないけど、お姉ちゃんたちを放っておくわけにはいきませんから!」

 

「……仕方ないですね。それじゃあ僕の言うことを必ず守って下さいね」

 

「はい!」

 

こうして憂もレオと大輝についていくことになった。

 

そしてその頃、統夜はディオスが指定した○△ビルへ向かっていた。

 

その顔はまさに悪鬼のような表情で、それだけ統夜は怒りを露わにしていた。

 

『おい統夜!何を考えている!!1人で行くなんて無謀だ!!』

 

「……」

 

イルバは統夜をなだめるが、今の統夜にイルバの言葉は届かなかった。

 

統夜は歩みを止めることなく○△ビルへと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

統夜が○△ビルへ向かっている頃、そよビルの入り口でディオスとダンテは統夜の到着を待っていた。

 

そして捕まってしまった唯たちはロープで縛り付けられている。

 

「さて……そろそろ月影統夜は現れるかな?」

 

ディオスは統夜が現れることを心待ちにしていた。

 

「おい!あたしたちをどうするつもりだよ!」

 

律はディオスに向かってこう吠えながらジタバタと暴れていた。

 

「大人しくしていろ。月影統夜が現れさえすればお前たちは解放してやる」

 

ディオスは統夜が現れさえすればすぐにでも唯たちを解放するつもりでいた。

 

「月影統夜は必ず来る。あの男がお前たちのことを見捨てるわけがないからな。……まぁ、来なければ貴様らはホラーの餌になるだけだがな」

 

ディオスはもし統夜が来なければ唯たちをホラーの餌にするつもりだった。

 

「……まぁ、1人で来いとは言ってないからあの2人も連れてくるとは思うがな」

 

「あなた……統夜先輩をどうするつもりですか!?」

 

「別にどうもしないさ。だが、あの男の弱点であるお前たちを人質に取られ、あいつはどうなるのか……。見ものだからな」

 

「あなた……。それだけのために私たちを攫ったって言うの!?」

 

「これは余興だよ。ホラー、グォルブが復活するまでのな」

 

ディオスが唯たちを誘拐したのはグォルブ復活までの余興に過ぎなかった。

 

唯たちは統夜たちから具体的な話は聞いていないが、グォルブというのが強大な力を持つホラーの名前であることは察しがついていた。

 

「あなた……最低です!!」

 

梓はディオスに怒りをぶつけた。

 

「黙れ小娘。貴様などいつでも消せるということを忘れるな」

 

ダンテはそんな梓を不愉快に思ったのか魔戒騎士時代に使っていた魔戒槍を取り出すと、梓に切っ先を向けた。

 

「ひっ!?」

 

梓はダンテに切っ先を向けられ、恐怖に怯えていた。

 

「ダンテ、よせ!ここでこの女を消しては意味がないだろうが」

 

「はっ、申し訳ありません……ディオス様……」

 

ダンテはディオスに謝罪をすると、手に持っていた槍をしまった。

 

この時唯たちは余計なことを言えば自分たちの身が危ないということを感じて、これ以上ディオスに言葉をぶつけることが出来なかった。

 

その時だった。

 

「……来たか」

 

ディオスが統夜が来たことを察知すると、唯たちの目の前に統夜が現れた。

 

「やーくん!!」

 

「「統夜!!」」

 

「統夜君!!」

 

「統夜先輩!!」

 

唯たちが統夜の出現に喜んだのは一瞬だった。

 

「統夜……先輩?」

 

統夜が普段見たことのない悪鬼のような表情をしていることにすぐ気づいていた。

 

「ほぉ、1人で来たか。そのことは褒めてやろう」

 

「そんなことはどうでもいい!唯たちは無事なんだろうな!?」

 

統夜の言葉にも怒気が混じっていた。

 

「心配するな。今にでもこの女どもは解放してやるさ。……それよりも……」

 

ディオスはまじまじと統夜の顔を見ていた。

 

「いいねぇ。最高だよ、月影統夜!すごくギラギラしてるじゃないか!今のお前の目は最高に綺麗で深い……闇の色だ!」

 

「黙れ!!」

 

愉快そうに笑うディオスに統夜は剣幕で返していた。

 

「まぁまぁ、こいつらを解放してやるからそうかっかするなって。……ダンテ、こいつらを解放してやれ」

 

「ハッ、かしこまりました」

 

ダンテは唯たち一人一人のロープを解いて唯たちを解放した。

 

ディオスから解放された唯たちは逃げるように統夜に駆け寄った。

 

「お前……何が目的なんだ!!」

 

「何ってただの余興さ。グォルブが復活するまでのな!」

 

「ふざけるな!!そのために唯たちを誘拐したって言うのか!?」

 

唯たちは解放されたのだが、統夜の怒りは収まらなかった。

 

「なぁに、あいつらはお前をおびき寄せるための餌さ。お前は絶対に食いついてくると思っていたからな」

 

「貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

統夜は魔戒剣を抜くと、ディオスめがけて突撃してきた。

 

「やれやれ、血の気の多い奴だ。……ダンテ、遊んでやれ」

 

「ハッ!」

 

統夜は魔戒剣を振るうが、それをダンテが魔戒槍で受け止めた。

 

『!!そいつは、魔戒槍!やはりお前さんはあのダンテか!?』

 

「言ったはずだ。私は貴様らの知るダンテではないと」

 

ダンテは冷酷な眼差しでイルバの言葉を返すと、そのまま統夜を蹴りで吹き飛ばした。

 

「ぐぅ……!」

 

「やーくん!!大丈夫!?」

 

唯たちは統夜に駆け寄ろうとするが……。

 

「どけ!!お前らにウロウロされたら邪魔だ!!」

 

怒りに心が支配されている統夜には唯たちに優しい言葉をかける余裕はなかった。

 

「やーくん……」

 

「唯先輩。離れていましょう……」

 

「あずにゃん……」

 

「私たちが近くにいたら統夜の邪魔になるからな……」

 

「みおちゃん……」

 

梓も澪も統夜が怒りに心が支配されているということがわかっていたが、悲痛な面持ちで唯に離れるよう訴えていた。

 

そんな2人の気持ちを汲み取った唯は頷くと、統夜の邪魔をしないよう安全な場所まで下がり、統夜の戦いを見守っていた。

 

「おぉ、怖い怖い。そんなこと言っちゃって、あいつらが可哀想だな」

 

「黙れぇぇぇぇ!!!」

 

統夜はディオスに向かっていくのだが、ダンテに妨害されてしまった。

 

「小僧!貴様の相手は私だと言っているだろう!」

 

ダンテは魔戒槍を振るうが、それは統夜にかわされてしまった。

 

「どけ!!貴様に構っている暇はない!!」

 

「貴様にはなくても私にはある!!」

 

ダンテは魔戒槍の棒の部分を振るうと、その一撃で統夜を吹き飛ばした。

 

「貴様を斬って……俺はあいつを倒す!!」

 

統夜は魔戒剣を高く突き上げると、円を描いた。

 

そして、そこから放たれる光に包まれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

そしてダンテは精神を集中させると、魔戒騎士の鎧を召還する円を空中に呼び出し、まるで魔戒騎士の鎧を身に纏ったかのようにホラー態へと姿を変えた。

 

『やはり……。初めて会った時は気付かなかったが、あの姿……ダンテの鎧だな』

 

ホラーとなったことでその形は変容したものの、イルバは目の前にいるホラーがダンテの魔戒騎士時代の鎧に似ていると感じていた。

 

しかし……。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そんなことはお構いなしに統夜はダンテにぶつかっていった。

 

統夜は皇輝剣を振るうが、ダンテは魔戒槍が変化した剛風槍でその一撃を防いでいた。

 

「はぁっ!!」

 

ダンテは統夜を一度弾き飛ばすと、剛風槍の切っ先に風を集めると、それをエネルギー弾のような形で統夜に放った。

 

「ぐぅ……!」

 

統夜はダンテの攻撃をモロに受けたが、統夜は構わず攻撃を続けていた。

 

「……なんだろう……」

 

「……?あずにゃん?」

 

「戦い方がいつもの統夜先輩と違うような……」

 

「恐らくは統夜が怒りに任せて戦ってるからだろうな」

 

「あたしもそう思う」

 

「統夜君、いつもはそんな戦い方じゃないものね……。人を守るために一生懸命。そんな戦い方だって私は感じたわ」

 

唯たちは統夜の戦い方がいつもと違うという事を感じていた。

 

「それは私も思いました。……私、嫌な予感がするんです……」

 

「嫌な予感?」

 

「はい。統夜先輩が統夜先輩じゃ無くなっちゃうような気がするんです……」

 

梓は統夜の怒りに任せた戦い方に不安を感じていた。

 

その統夜はダンテ相手に苦戦していた。

 

統夜の怒りに任せた攻撃はダンテには通用せず、ダンテは反撃で剛風槍による攻撃を何度も統夜に繰り出していた。

 

2度、3度と斬られながらも統夜はダンテに向かっていった。

 

「弱い。攻撃が直線的すぎる。そんな戦い方でよく今まで生き残ってきたな」

 

「黙れぇ!!」

 

統夜は皇輝剣を振るうが、これもダンテにかわされてしまった。

 

ダンテは統夜の足の関節を狙って剛風槍を振るった。

 

「ぐぅ……!」

 

統夜は足に来る痛みに動きが鈍くなると、ダンテは蹴りを放ち、統夜を吹き飛ばした。

 

「ま……まだだ!!」

 

統夜は痛みに顔を歪めながらも統夜はダンテに向かっていった。

 

『統夜!冷静になれ!!そんな戦い方じゃ倒せる相手にも勝てないぞ!』

 

「うるさい!!」

 

統夜はイルバの警告を無視し、ダンテに向かっていた。

 

「愚かな……。魔導輪の言うことは正しいと言うのに」

 

ダンテは頭に血が上っている統夜に憐れみの目を向けていた。

 

「黙れぇ!!」

 

統夜は冷静になることなく、戦い続けていた。

 

その時……。

 

「統夜君!!」

 

「統夜!!」

 

「統夜さん!!」

 

統夜を追いかけていたレオ、大輝、憂の3人がやって来た。

 

「憂!?」

 

「お姉ちゃん!!」

 

唯たちを発見した憂は唯に駆け寄った。

 

「お姉ちゃん、大丈夫なの!?」

 

「うん。私たちは大丈夫だよ。だけど……」

 

唯はダンテと戦っている統夜を見た。

 

憂もそんな統夜を見たのだが……。

 

「統夜さん……」

 

怒りに任せて戦う統夜に憂は言葉を失っていた。

 

「レオ!このままじゃまずいぞ!」

 

「えぇ!統夜君を止めましょう!」

 

大輝とレオは同時に魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、大輝は鋼の鎧を、レオは狼怒の鎧を身に纏った。

 

鎧を召還した大輝とレオは怒りで我を忘れている統夜に向かっていった。

 

「統夜!落ち着け!!」

 

「統夜君!冷静になって下さい!!」

 

「どけ!!」

 

統夜は怒りに任せて皇輝剣を振るい、大輝とレオを吹き飛ばした。

 

「統夜!!無茶するな!!」」

 

「統夜君!!落ち着いて下さい!!」

 

『まずいよ、レオ!もう坊やの鎧の制限時間が迫っているよ!!』

 

エルヴァは奏狼の鎧の制限時間が迫っていることを感知した。

 

『統夜!一度鎧を解除しろ!!』

 

イルバは統夜にこう警告をするが、統夜は一向に話を聞かなかった。

 

「やーくん!!」

 

「統夜君!!」

 

「統夜さん!!」

 

「統夜!無茶するなよ!!」

 

「このままじゃ危ないんだろ!?」

 

「統夜先輩!!お願いだからレオ先生やイルバの言うことを聞いて!!」

 

唯たちも必死に訴えかけるが、統夜の耳には届かなかった。

 

「このおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

統夜は再びダンテに向かっていった。

 

10……

 

9……

 

8……

 

7……

 

「……取った!!」

 

統夜はダンテを倒すことの出来るチャンスを得て、全力で皇輝剣を振るった。

 

しかしその時……。

 

 

 

 

 

 

3……

 

2……

 

1……

 

0……

 

 

 

 

 

奏狼の鎧が活動限界である99.9秒を過ぎてしまった……。

 

「うっ……」

 

この瞬間、腰部の四角のエンブレムが回転し、菱形に変わった。

 

「ぐぅ……ぐぁ……!!」

 

鎧の制限時間が過ぎたことで統夜が急に苦しみ始めた。

 

「……!」

 

その様子を見ていたダンテは後方にジャンプをし、距離を取った。

 

統夜は手に持っていた皇輝剣を落としてしまい、皇輝剣は地面に突き刺さった。

 

その時だった……。

 

「ぐぅ……ぐぁ……!!」

 

統夜の身長に合っていた奏狼の鎧が、少しずつ変化を始めて行った。

 

腕……脚……体と徐々にその身体が人間とは思えない大きさになっていった。

 

「……!!」

 

「まさか、これが……!」

 

大輝とレオは今統夜の身に何が起こっているのかを理解していた。

 

「あぁ……」

 

「な、何だよこれ……」

 

「そんな……」

 

「や……やーくんが……」

 

「統夜さん……」

 

「統夜……先輩……」

 

唯たちは統夜が目の前で変わっていく姿を目の当たりにし、今目の前で起こっている出来事が信じられなかった。

 

こうして統夜の身体は魔戒騎士の鎧から、巨大な獣のような姿に変わってしまった。

 

この姿は心滅獣身(しんめつじゅうしん)。鎧の制限時間を超えた魔戒騎士がこの姿となり、巨大な獣ような姿になる。

 

この姿になると圧倒的な力を得ることが出来るものの、この状態が続くと鎧の装着者は鎧に心と魂を喰われてしまう。

 

統夜は鎧に魂を喰われそうになっていた。

 

「ほぉ……なるほど……」

 

統夜とダンテの戦いの一部始終を見ていたディオスは、心滅となっていく統夜を見てウンウンと頷いていた。

 

ディオスは暗黒騎士になった時、統夜のように心滅の状態となり、鎧に心と魂を喰われそうになったのだが、ディオスの邪心が逆に鎧の力に打ち克ち、暗黒騎士の力を手に入れた。

 

ディオスの戦闘力が圧倒的なのは暗黒騎士が心滅獣身の力をそのまま制御しているからである。

 

暗黒騎士の力の脅威はそれだけではない。心滅の状態になった時に鎧の制限時間を超えているため、鎧の制限時間はないのである。

 

さらに、ホラーを喰らうことでその力を吸収することも可能なのである。

 

「あの男……暗黒騎士になるつもりだな……」

 

ディオスは自身の経験から統夜が自分と同じ暗黒騎士になろうとしていると推察していた。

 

「こいつは……。まずいことになったな……」

 

「大輝さん!統夜君を止めましょう!」

 

大輝とレオは統夜の前に立ちはだかり、統夜を止めようとしたのだが……。

 

全力で腕を振るうと、その衝撃で2人とも吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その一撃の衝撃は相当なもので、それを受けた瞬間、2人の鎧は解除されてしまった。

 

2人がそのまま地面に叩きつけられそうになったその時であった。

 

突然2つの影が飛び込んでくると、吹き飛ばされている大輝とレオをキャッチした。

 

「……レオ、無事か?」

 

「あんたも、大丈夫か?」

 

レオと大輝を助けたのは、白いコートの男と、黒いコートの男だった。

 

その2人の正体は……。

 

「!鋼牙さん!!」

 

「あんたが、銀牙騎士の涼邑零だな」

 

「あぁ」

 

グォルブ討伐の応援として桜ヶ丘に派遣された鋼牙と零であった。

 

「僕たちは大丈夫です。ですが、統夜君が……」

 

「統夜が?」

 

鋼牙と零は統夜を見ると、巨大な獣に姿を変えていることを知り、息を呑んだ。

 

ダンテは心滅と化した統夜と立ち向かうが、その殺気は先ほど以上のものだった。

 

ダンテは剛風槍を振るうが、そのまま統夜に奪われてしまい、統夜は剛風槍をボキッと真っ二つにへし折った。

 

そして統夜はダンテを捕まえた。

 

「ぐっ……くそ……!」

 

ダンテはどうにか脱出しようとするが、心滅と化した統夜の力は圧倒的で逃げることが出来なかった。

 

「ぐぅぅ……」

 

統夜は獣のような咆哮をあげながら尻尾についている刃でダンテの身体を貫いた。

 

「がぁっ!ぐぉぉ……!」

 

この一撃が致命傷になっているのか、ダンテは苦しんでいた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

統夜は獣のような咆哮を再びあげると、尻尾の刃を振り下ろすと、ダンテの貫かれた部分から下の方が切り裂かれた。

 

「グォァァァァァァァ!!」

 

その痛みは想像以上のもので、ダンテは断末魔をあげていた。

 

そのまま統夜はダンテの身体を真っ二つに引き千切り、ダンテは消滅した。

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

いくら統夜が正常ではないとはいえ、統夜の残虐な行動に息を呑んでいた。

 

ダンテを葬った統夜はその場で暴れまわっていた。

 

「……これは一度退いたほうが良さそうだな……」

 

ダンテが統夜に倒されたことに危機感を感じたディオスはこの場から立ち去った。

 

ディオスがいなくなったことで、統夜は鋼牙たちの方を向いた。

 

「……零!統夜を救うぞ!」

 

「あぁ!わかってるって!」

 

鋼牙と零は共に魔戒剣を抜くと、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれた光に包まれると、鋼牙は金色に輝く牙狼の鎧を身にまとい、零は白銀に輝く絶狼の鎧を身にまとった。

 

鋼牙と零は心滅と化した統夜に向かっていった。

 

『鋼牙……ゼロ……。奏狼の鎧を解除してくれ……。頼む、紋章を突いてくれ……。このままじゃ……鎧に喰われる……』

 

イルバも心滅と化した奏狼の鎧に取り込まれそうになっていた。

 

「あぁ、任せろ!」

 

鋼牙の眼は統夜を絶対に救うという使命感に満ちていた。

 

統夜は相手が鋼牙と零であるのにも関わらず、2人に攻撃をしかけ、2人は牙狼剣と銀狼剣で統夜を抑えていた。

 

しかし、最強と言われているこの2人であっても、心滅と化した統夜のパワーに押されていた。

 

「統夜!気をしっかり持て!」

 

「目を覚ますんだ!統夜!!」

 

「邪魔だ!そこをどけ!!」

 

統夜は相手が鋼牙と零でも御構い無しだったので、言葉が普段使っている敬語ではなかった。

 

統夜は両手を振るうと、鋼牙と零それぞれにダメージを与え、2人は痛みに顔を歪ませていた。

 

「俺はあの男を絶対に倒す!!」

 

「統夜!闇に心を売り払うな!」

 

「あいつを倒すにはこれしかないんだ!邪魔をするな!!」

 

「統夜!しっかりしろ!お前が闇に堕ちたら唯たちはどうなるんだ!」

 

「うるさい!!」

 

統夜はそれぞれの手で鋼牙と零を捕まえ、2人を握り潰そうとしていた。

 

「と……統夜君!」

 

「統夜!しっかりしろ!」

 

レオと大輝も統夜に呼びかけをするが、統夜の耳には届かなかった。

 

「統夜!思い出せ!自分が何者なのか!」

 

「ぐぅぅ……」

 

「統夜!お前は奏狼だ!暗黒騎士ではない!それに……お前が闇に堕ちるのを唯たちは望まない!!」

 

鋼牙は統夜の奥底に眠る良心に訴えかけていた。

 

しかし……。

 

「唯たちを守るために……俺にはこの力が必要なんだ!!」

 

鋼牙と零の必死の呼びかけも、統夜には届かなかった。

 

「統夜!頼むから、いつもの統夜に戻ってくれ!!」

 

律が統夜の近くまで駆け寄ると、こう統夜に訴えかけた。

 

「!律さん!危険です!!」

 

レオは律を止めようとするが……。

 

「レオ、ここは彼女たちに賭けるしかない」

 

大輝は軽音部の少女たちの声なら統夜に届くのではと思い、少女たちを信じることにしたのだ。

 

「そうだ!私たちは白銀騎士の統夜に守られたいんだよ!!」

 

澪も律の隣で統夜に訴えかけた。

 

「そうよ!私たちは闇の力のあなたに守られても何も嬉しくないわ!」

 

紬も悲痛な表情で統夜に訴えかけた。

 

「そうです!統夜さん、あなたは優しい騎士です!闇の力なんてあなたには似合わないです!」

 

続いて憂が統夜に訴えかけた。

 

「統夜先輩!あなたは暗黒騎士なんかじゃないです!あなたは奏狼!白銀騎士じゃないんですか!?」

 

そして梓が統夜に訴えかけた。

 

「お願い!私たちはもっともっといつものやーくんとお茶したい!だから!いつものやーくんに戻ってよ!!」

 

最後に思いを訴えかけた唯が1番強い気持ちで統夜に訴えかけた。

 

6人の言葉も統夜に届かないのでは?

 

そう諦めかけたその時だった。

 

「律……澪……ムギ……憂ちゃん……梓……唯……。……お、俺……俺は……」

 

6人の思いが統夜に届いたのか、統夜の両手から力が抜けると、鋼牙と零は解放された。

 

『ゼロ!今よ!』

 

『鋼牙!今だ!』

 

鋼牙と零の相棒は統夜の隙を見逃さなかった。

 

「わかってる!」

 

「承知!」

 

鋼牙と零は牙狼剣と銀狼剣を構えると、奏狼の腰部の紋章にそれぞれの剣を突いた。

 

紋章がソウルメタルの剣により突かれたその時だった。

 

「うっ……ぐっ……」

 

統夜から全身の力が抜けると、獣ような姿の鎧が分解されるように解除されていった。

 

心滅の鎖から解き放たれた統夜はいつもの統夜に戻るが、力を使い果たしたのかその場に倒れ込もうとしていた。

 

「やーくん!」

 

唯は倒れそうになる統夜を支え、律たちも唯に続いた。

 

「はぁ……はぁ……。やったな……鋼牙……」

 

「あぁ……」

 

統夜が元に戻ったことを確認した鋼牙と零は、鎧を解除すると、それぞれの魔戒剣を鞘に納めた。

 

無事に統夜が元に戻り、レオと大輝も統夜に駆け寄った。

 

『……やれやれ……。間一発だったな……』

 

『本当に危なかったわ。鎧に喰われる寸前だったから』

 

統夜は救出がもう少し遅ければ、鎧にその心と魂を喰われていたところだった。

 

「……思い出すな。かつて俺が心滅の状態になってしまったことを」

 

『俺様にはその時の記憶はないが、どうやらそのようだな。不思議なことに懐かしさを感じるぜ!』

 

実は鋼牙も一度は統夜のように心滅したことがあったのだが、零に救われたという過去を持つ。

 

ザルバはかつてメシアや暗黒騎士呀との戦いで一度消滅し、番犬所に復元された。

 

この時、鋼牙と共に戦った記憶を失っているので、鋼牙が心滅してしまった時の記憶はなかった。

 

しかし、不思議なことにザルバは統夜が心滅してしまったのを見て懐かしさを感じていた。

 

「……統夜、大丈夫か?」

 

「すいません……。鋼牙さん……零さん……俺のために……」

 

「礼には及ばないぜ。それに、礼なら唯ちゃんたちに言うんだな。唯ちゃんたちがいなかったら正直危なかったからな」

 

零は統夜に笑みを向けると、統夜は唯たちを見ていた。

 

「「統夜……」」

 

「統夜君……」

 

「統夜さん……」

 

「統夜先輩……」

 

「やーくん……」

 

「……みんなも……本当にありがとう……。俺……母さんを殺したディオスを倒す力を得ることが出来るなら……。闇に肉体と魂を売ってもいいと思ったんだ……」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

統夜がどんな思いで心滅になったのかを知った唯たちは言葉を失っていた。

 

「……それは……俺の邪心だった!」

 

唯たちに支えられていた統夜はゆっくりと立ち上がった

 

「………」

 

無言で統夜の話を聞いていた鋼牙は地面に刺さったままの魔戒剣を引き抜くと、それを持って統夜に歩み寄った。

 

「鋼牙さん、零さん、レオさん、大輝さん。それにみんな……。みんなが暗黒の淵から俺を救ってくれた」

 

統夜は自分を救ってくれたみんなに感謝と共に申し訳ないという気持ちも抱いていた。

 

自分が闇の力を求めたせいで、鋼牙たちだけではなく、大切な仲間である唯たちまで危険な目にあわせてしまったからである。

 

「……統夜。お前がそこまで力を求める気持ち……俺にはよくわかる」

 

「え?」

 

「何故なら俺も……。闇に肉体と魂を捧げようとしたことがあるからな……」

 

「鋼牙さんが……ですか?」

 

統夜は鋼牙がかつて心滅となってしまったことを知らなかったので驚きを隠せなかった。

 

「かつての俺は精神が未熟だった。……今のお前のように」

 

「……はい」

 

自分の未熟さを痛感している統夜は鋼牙の言葉を真摯に受け止めていた。

 

鋼牙はそんな統夜に魔戒剣を渡した。

 

「統夜。これからは自分が何者なのかしかと胸に刻み込め」

 

「俺が……何者なのか……」

 

統夜は鋼牙から受け取った魔戒剣を真剣な眼差しで眺めていた。

 

「統夜。お前は守りし者なんだ。……それは、わかっているだろう?」

 

「……はい」

 

「統夜。お前には守るべき大切な人間がこれだけたくさんいるんだ。守りたい人間がいれば、魔戒騎士は闇の力を借りずとも強くなれる

 

「……」

 

「統夜……強くなれ!」

 

鋼牙はそう言って統夜の頭を優しく…そして力強く撫でていた。

 

「……はい!」

 

優しくも力強い鋼牙の言葉を聞いた統夜は力強く返事をすると、静かに涙を流していた。

 

「……やれやれ。黄金騎士がそこまで言うなら俺は何も言えないな」

 

大輝は統夜に説教するつもりだったのだが、鋼牙の力強い言葉を聞き、これ以上何も言うことが出来なかった。

 

「……そうですね」

 

それはレオも同じ気持ちで、レオは笑みを浮かべていた。

 

こうして統夜は自らの弱さを身を持って思い知ることになってしまった。

 

統夜は自らの弱さを受け入れ、大切な人たちを守るためにもっと強くなる。そう心に誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まずいな……。魔獣の復活が近いようだ。そしてそのゲートがまさかあの場所とはな…。次回、「野望」。奴の野望を止めるぞ、統夜!』

 

 




今回退場したダンテがまるでコダマのような退場の仕方になってしまった……。

ダンテは何気に槍を使う魔戒騎士なので翼と今度の劇場版に出てくる騎士に次いで3人目の槍を使う騎士になったな。

ここでの退場はもったいない気はするが、気にしないようにしよう(笑)

そして鋼牙と零も無事合流しました。

しかし、この2人でも苦戦するとか心滅した統夜が凶暴すぎる(笑)

鋼牙の時より状況が悪いような……。だけど唯たちの力もあって統夜は心滅から抜け出すことが出来ました!

次回から完結編に入っていきますが、この小説のストーリーはまだ考えているのでここで終わりではありません。

なのでそこらへんもぜひご期待下さい!

長くなってしまいましたが、それでは次回をお楽しみに!


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