牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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魔戒烈伝面白かったですね!

次回以降もすごく楽しみです。

さて、今回は統夜の鎧が登場します。

あと、統夜のパートナーのイルバですが、ザルバのそっくりさんという設定なので、影山さんの声をイメージCVにしてくれたらいいと思います。

それでは、第2話をどうぞ!


第2話 「騎士」

ここは桜ヶ丘某所にある公園。

 

ここで現在、一組のカップルが現在進行形で別れ話をしていた。

 

「なぁ…なんでだよ!お前、俺のことが好きだって言ってたじゃないか!」

 

男は公園に呼び出されるなりいきなり女に別れ話を切り出され、男は別れたくない一心でこう食いついていた。

 

「ごめんねぇ。あなたとは遊びだったのよ。私、本当はあなたのこと好きじゃないし、あなたがどうしてもって言うから付き合ってあげたのよ」

 

女は冷めた表情であまりにも残酷なことをさらっと言ってしまった。

 

「そんな……。お前が欲しいって言ってた指輪、プレゼントしたばかりだってのに……」

 

男は今言った指輪の他にも様々なものをプレゼントしており、女に相当な金額を貢いでいたことがわかる。

 

「あんたのそういうところ、重いのよ。それじゃあね」

 

女はそれだけ言うと踵を返し、歩き始めた。

 

それと同時に男はガクッとその場で項垂れていた。

 

「ちくしょう……!女なんてくそくらえだ!女なんて…!」

 

男は一方的な別れ話のせいで女性に対して憎しみに近い不信感を抱いでいた。

 

そして女なんていなくなってしまえばいいと強く願ってしまった。

 

その時……。

 

__貴様、それほど女が憎いか……

 

男の脳裏に突然謎の声が聞こえてきた。

 

男は別れ話のショックからかその声に不信感を抱くところか驚くことも怯えることもなく「あぁ……」と素直に返事をしてしまった。

 

__それほど憎いのなら壊してしまえばいい。我が貴様にその力を授けてやろう……

 

「……本当か?」

 

__あぁ。貴様が払う代償はたった一つ……!

 

この声が聞こえてきたのと同時に男の前にこの世のものとは思えない怪物が出現し、男は驚くが、それより先にその怪物……ホラーが口を大きく開けて襲いかかってきた。

 

そのホラーは黒い帯のような姿になると、そのまま男の体の中に入っていった。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

男はこの世のものとは思えないほどの断末魔をあげると、それを聞いてしまった女はすぐさま足を止めた。

 

「ひっ!?な、何!?何なのよ!?」

 

女は恐怖に支配されながらも振り返ると、先程別れを告げた男がゆっくりとこちらに近づいていった。

 

「な、何よあんた!まだ何か用なの?」

 

男は返答することなく、さらに女に近づいた。

 

「ちょ、ちょっと!返事くらい……しなさいよ!」

 

男の様子が先程とは打って変わっていたので、女は恐怖に怯えた表情で男のことを見ていた。

 

「この世の女は…全て消す……」

 

男はそう言うと女の肩をガッシリと掴んだ。

 

「ちょ!?は、離しなさいよ!」

 

女は急に肩を掴む男に反抗し、男の手を振り払おうとするが、男と女では力の差があるからか男の手を振り払うことは出来なかった。

 

男は口を大きく開けると、女の体はまるで吸い込まれるように男の体の中へと消えていった。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

女は大きな悲鳴をあげ、一切抵抗することが出来ず、男に文字通り「喰われ」、その生涯を終えることになった。

 

ホラーに憑依された男は自分を振った女を喰らい、女の手に持っていたバッグだけが無残にも残っていた。

 

「まだだ……まだ足りない……」

 

これだけ言うとホラーに憑依された男は夜の闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

〜統夜 side 〜

 

数体の素体ホラーを狩るという仕事をこなした翌週、俺は久しぶりに軽音部に顔を出していた。

 

学校には通っていたものの、放課後になるとエレメント浄化に出かけていたので、部活には顔を出していなかった。

 

まぁ、これは今に始まったことではなく、俺はけっこう部活を休んでエレメントの浄化や先輩騎士との鍛錬を行っていたからな……。

 

俺が1年生の時も一週間部活を休むとかけっこうあったんだよな……。

 

とりあえず今日は朝のうちにある程度エレメント浄化を終わらせたし、昨日番犬所で魔戒剣の浄化はきちんとしたから、今日はちゃんと部活に参加出来そうだな。

 

まぁ、指令が来なければ……の話だけどな。

 

「悪い、遅くなった」

 

俺は挨拶をして音楽準備室の中に入った。

 

「あっ、やーくん!」

 

「おっ、統夜。やっと来たな」

 

「悪いな、しばらく部活に顔を出せなくて」

 

俺は部室に入るなりしばらく部活を休んでいたことを詫びた。

 

「最近部活に顔を出さないから心配したぞ。教室を覗いてももう帰った後だったし」

 

俺は軽音部のみんなとはクラスが違うからな…。

 

「ねぇ、統夜くん。アルバイトでもしてるの?けっこう休むこと多いわよねぇ」

 

「あぁ……えっと……」

 

俺はムギに言われたことの言い訳を必死に考えていた。

 

まぁ、バイトといえばバイト……なのかな?超危険な仕事ではあるが。

 

《おいおい……魔戒騎士の役目はアルバイトじゃないぞ》

 

(イルバ…!お前は少し黙ってろ!)

 

急にイルバがテレパシーを送ってくるもんだから思わずイルバを睨んじまったじゃねぇか…。

 

これじゃ目が泳いでて怪しいって思われるぞ……。

 

「?やーくん?」

 

「あ、あぁ……」

 

俺は唯の方に視線を向けると俺以外の空席に違和感を感じた。

 

「あれ?ところで梓は?まだ来てないのか?」

 

「うん……」

 

梓がいないから梓のことを聞いたんだけど、何故か澪は浮かない表情を浮かべていた。

 

「あずにゃん……最近来ないんだよね……」

 

おいおい……「あずにゃん」って何だよ……。

 

……っと、それを考えるのは後にするか。

 

「梓だけじゃなくお前も来ないからすごく心配だったんだぞ」

 

そうだったのか……。

 

魔戒騎士としての使命を果たすためとはいってもみんなにかなり心配をかけてたんだな……。

 

「ごめんな、心配かけて。今はまだ話せないけど、いつか必ず俺がしょっちゅう部活を休む理由をちゃんと話すから」

 

「わかった…。今は聞かないからさ、いつかちゃんと話してくれよ?」

 

「あぁ、わかってる」

 

こうしてしばらく部活を休んでいたことを謝罪し、梓が最近部活に来ていないという事を聞いた俺はそのまま鞄や魔法衣といった荷物を長椅子に置いて、ギターを壁に立てかけると、自分がいつも座っている席に座った。

 

このままティータイムが始まったので、俺はなぜ梓に「あずにゃん」なんていうあだ名がついたのか唯に聞いてみた。

 

どうやら俺がホラー狩りに出かけている間に顧問の山中さわ子先生が梓に無理やり猫耳をつけさせたらしく、その姿が猫っぽいところから「あずにゃん」というあだ名がついたみたいだ。

 

…もっとも、そう呼んでるのは唯だけみたいだけどな。

 

それにあの先生は…。相変わらずだよな…。

 

入学当時は優しくておしとやかな先生だと思ったのに実際のところはその真逆なんだもんな…。

 

それにみんなにやたらコスプレ衣装を強要してくるし…。

 

俺も色々着せられて参ってるんだよなぁ……。

 

俺は唯の話を苦笑いしながら聞いていた。

 

だけど、それって梓が来なくなった事とは関係ない話だよな。

 

あまりにも俺たちがだらけまくってるからそれに嫌気をさしたとか?

 

梓、ずっと戸惑ってたもんな…。

 

……明日にでも梓に話を聞いてみよう。

 

そういう負の感情は陰我を生み出しかねないからな。

 

そこをホラーにつけこまれてホラーに憑かれるなんてことも有り得る話だ。

 

もしそうなったら俺は梓を斬らなくちゃいけない。

 

大事な後輩を斬るなんて事はしたくないからな。最悪な事態だけは避けないと…。

 

俺は梓が部活に来ない問題をどうにか自分の力で解決させようと心に決め、ゆっくりと紅茶を飲んでいた。

 

少しだけティータイムをした後、すぐさま練習を行うことになった。

 

まぁ、こんな状況だし、いつも通りにはいかないもんな。

 

俺も久しぶりにギターの練習をしたかったし、ちょうど良かったよ。

 

この日は途中で指令書が来ることもなく、最後まで練習に参加することが出来た。

 

まぁ、指令がある可能性もあるし、番犬所には顔を出すつもりだけどな。

 

練習が終わり、俺たちは帰り支度を早々に済ませてみんなで学校を後にした。

 

最近は1人でいることが多いからみんなで帰るのはすごく久しぶりだよな…。

 

久々のみんなとの下校は楽しかったんだが、番犬所の近くに差し掛かると俺は足を止め、みんなも足を止めた。

 

「……?やーくん、どしたの?」

 

「悪いみんな。今日はここで」

 

「あれ?統夜の家ってこっち方向じゃないよな?」

 

「あぁ。この後ちょっとな……。悪い、またな!」

 

みんなの追求を避けるため、俺は逃げるようにみんなと別れた。

 

……ふぅ、危ない危ない。毎回毎回騎士の秘密を隠すための言い訳を考えるのに必死だわ…。

 

『……おい、統夜』

 

みんなが完全に見えなくなったところでイルバが口を開いたので俺は足を止めた。

 

「?どうした、イルバ?」

 

『お前、さっきあの嬢ちゃんたちに部活を休んでる理由をいずれ話すと言っていたが、騎士の秘密を話すわけじゃないだろうな?』

 

「あぁ、その話ね。それはあの場を乗り切るための苦し紛れの言い訳だよ。必要以上に騎士の秘密は話せないってのは俺もわかってるからさ。…まぁ、みんながもしホラーに襲われるなんてことがあれば話すかもしれないけどな」

 

ああでも言わないと絶対理由を追及されるからな…。

 

苦し紛れだってのはわかってるけど、ああ言うしかなかったんだよ。

 

『わかっているならいいのだが…。まぁ、嬢ちゃんたちがホラーに襲われないことを祈るしかないな』

 

「あぁ、そうだな」

 

イルバの心配が杞憂に終わったところで俺は再び歩き出した。

 

少し歩くと行き止まりに差し掛かるのだが、俺はイルバをそこにかざすと、壁に大きな空間が出現し、俺はその中に入っていった。

 

俺が入った空間は番犬所に繋がっており、俺はそのまま自分の管轄である紅の番犬所に直行した。

 

番犬所の中に入ると他の騎士や法師はおらず、いたのはこの番犬所を総括するイレスという神官と、その付き人の秘書たちであった。

 

イレス様は見た目は俺と同い年くらいだけど、実際は俺よりも遥かに長い時を生きている人である。

 

「来ましたね、統夜」

 

「はい、イレス様」

 

俺は深々と頭を下げてイレス様に挨拶をした。

 

近くに狼の像があり、普段はそこで魔戒剣の穢れを浄化するんだけど、昨日浄化は済ませたからな…。

 

「統夜、さっそくですが指令です」

 

イレス様がこう宣言すると、付き人の秘書が俺が赤い指令書を渡してきたので、俺は魔導ライターを取り出して指令書を燃やした。

 

すると、魔戒語で書かれた文字が飛び出してきた。

 

「えっと…『人の命を育むものを喰らうホラーあり。直ちにこれを討ち払われたし……』」

 

俺が指令を読み上げると魔戒語の文字が消滅した。

 

「命を育むものってまさか…!」

 

「えぇ。ホラーに狙われているのは女性です。すでにもう4人の女性が行方不明になっています」

 

もうそんなに犠牲者が出ているのか……!

 

それも女食いのホラーか……。早急に片付けないと唯たちに被害が及ぶ可能性があるぞ…。

 

「わかりました。早急にそのホラーを討滅します」

 

俺は神官であるイレス様に敬意を払うようにしっかりと頭を下げた。

 

「頼みましたよ、統夜。……それはそうと学校の方はどうですか?」

 

イレス様は続いて学校のことを聞いてきた。

 

俺が桜高に入ったのも軽音部に入れたのもイレス様の力添えのおかげだといっても過言ではない。

 

俺が魔戒騎士になりたてだった中3の頃、俺は普通の中学生みたいに高校に進学したり就職したりなんて一切考えていなかった。

 

魔戒騎士として精進し、魔戒騎士最高位である牙狼の称号をもつ冴島鋼牙さんのような騎士になりたかったからである。

 

そんな中、進学を薦めてくれたのがイレス様だった。

 

イレス様は人界の学校生活……特に高校生活というものにとても興味を持っていて、俺に高校生になって欲しいと言ってくれたのである。

 

中には魔戒騎士や魔戒法師としての素性を隠すために仕事をしている人もいるとは聞いたことはあるけど、それもごく少数だという事は知っていた。

 

仕事や学校に行く暇があるなら昼間のエレメント浄化をしっかりやれと言われても何も言えないからな。

 

そんな中俺が高校に行くと全ての番犬所を総括する元老院にも話を通してくれたのがイレス様だった。

 

……あの人、元老院の神官であるグレス様の娘だからな…。だから多少の無茶なら話を通せるんだよな…。

 

さらにこの紅の番犬所から一番近いという理由で、近年共学化になったばかりである桜ヶ丘高校を薦めてくれたのもイレス様だった。

 

こうして俺は桜高に入学し、成り行きで軽音部に入った。

 

そのことをすぐイレス様に報告し、部活など入らない方がいいと言われればすぐにでも退部するつもりだった。

 

しかし、イレス様は意外にもあっさりと部活の話を了承してくれた。それで、エレメントの浄化も必要最低限で良いとさえ言ってくれた。

 

まぁ、指令がある場合は部活を休まなきゃいけないけどな……。

 

とにかく、イレス様のおかげで今の俺がある。だからイレス様にはすごく感謝してるんだよな…。

 

「はい。学校の方はやはり楽しいです。ですが……」

 

「ですが?」

 

「軽音部に後輩が1人入ったのですが、彼女は軽音部のだらけきった空気に馴染めておらず悩んでるみたいなんです。それで、最近は部活にも顔を出していなくて……」

 

俺は部活の近況をイレス様に報告した。

 

軽音部が練習よりもティータイムが多いことももちろん報告はしているので、イレス様も軽音部は楽しそうな部活だという認識をしていた。

 

「そうですか…。それは由々しき問題ですね……。統夜、ホラー討伐をしながら彼女の問題も解決してあげるのです。それだけ彼女が思い詰めてるっていうのが問題ですからね。その負の感情が陰我につながりかねません」

 

「ありがとうございます!そちらの方も全力を尽くします!」

 

俺はイレス様に一礼すると、番犬所を後にした。

 

……さて、もうすぐ夜になる。行動開始だな。

 

番犬所を出て先程の行き止まりまで戻ったところでイルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

〜梓 side 〜

 

 

……こんばんは、中野梓です…。

 

私は新歓ライブで軽音部の演奏に感動し、軽音部へ入部しました。

 

ですが、実際入ってみると、そこは真面目にやってる部ではなく、先輩たちに振り回されながら、ただただ戸惑うばかりでした。

 

……そして、わからなくなったんです……。

 

どうして軽音部に入ろうと思ったのか、そしてどうしてあれほど軽音部の演奏に感動したのか…。

 

その考えがまとまらず、私は気付けば部活を何日も休んでいました。

 

そして部活から遠ざかって数日後の夜、私は近くのライブハウスに来ていました。

 

軽音部がダメなら外バンに入るのもありかな?って思ってしまったからです。

 

私はライブハウスの中に入り、何組ものバンド演奏を聴いていたんだけど…。

 

…どのバンドもやっぱり上手い……。

 

だけど何でだろう…。先輩たちの演奏以上に感動出来ない……。

 

私……。さらにわからなくなっていた。

 

何で……あの時の演奏に感動したんだろう……。

 

わからない……。わからないよ……!

 

私は気付けばうっすらと涙を流していた。

 

 

 

 

今日のライブが終わり、私は重い足取りのまま家路についていた。

 

ライブハウスから数分歩いて人がいなくなったと思われたその時だった。

 

「君……大丈夫かい?」

 

20代前半くらいの男の人が私に声をかけてきました。

 

「えっ……?」

 

私は突然の出来事に困惑していました。

 

「僕もライブハウスにいたんだけど、君、ずっと浮かない顔をして演奏を聴いていたでしょ?それが気になってね」

 

私…。確かにずっと考え事をしながら演奏を聴いてたかも…。

 

それだけひどい顔だったのかな…?

 

「何かあったのかい?僕でよければ相談に乗るけど」

 

「えっ……?」

 

何か優しそうな人ではあるけどこれってナンパ……だよね?

 

これはついていかない方がいいよね……。

 

「とりあえず飯でも食いながら……」

 

「悪いけど、その話はちょっと待った!」

 

私が男の人に断りをいれようとしたその時、違う男の人が話に割って入って来たんだけど……。

 

「統夜……先輩?」

 

その人はあまり見慣れない独特な赤いコートを羽織った統夜先輩だった。

 

「な、何だよ君は!」

 

「俺?俺はこの子が入ってる軽音部の先輩だよ。悪いけど、後輩の相談に乗るのは先輩の仕事だから」

 

統夜先輩は私をナンパしようとしている男の人から守ってくれた。

 

「……っ!」

 

男の人は統夜先輩の堂々とした態度に息を飲んでいた。

 

「それよりも……」

 

こう前置きすると、統夜先輩はコートからライターを取り出すと、それに火をつけた。

 

えっ……?何をやっているの?統夜先輩……。

 

そのライターの火は男の人の瞳を照らすとその瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がってきた。

 

えっ……?それは……何なの?

 

「……ビンゴ♪」

 

び、ビンゴって何がビンゴなの……?

 

唐突な展開についていけないよ…!

 

すると先程まで優しい表情の男の人の表情が変わり、すごく怖い表情になっていた。

 

「貴様……魔戒騎士か」

 

「魔戒……騎士?」

 

私には男の人が言っている言葉が理解できなかった。

 

何?何なの?魔戒騎士って……。

 

やっぱりこの展開に頭がついていかないよ!

 

「……梓、何してる……」

 

「えっ?」

 

「逃げろ」

 

統夜先輩のその声はいつものような優しい声ではなく、低くてドスの効いた怖い声だった。

 

「えっ…?でも……」

 

「早く!!」

 

統夜先輩が怒鳴りだしたと思ったその時、男の人が衝撃波みたいな何かを放って、統夜先輩が吹き飛ばされてしまった。

 

「統夜先輩!」

 

私は慌てて統夜先輩のもとへと駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?統夜先輩!」

 

「梓、何やってるんだよお前。俺は逃げろって言ったよな」

 

「えっ?でも先輩が……」

 

「さっさとしろ!死にたいのか!」

 

先輩の剣幕にはビックリしたけど、私は先輩の言うことを聞くことしか出来ず、その場を離れようとしたけど、先輩が心配なので安全な場所まで離れて様子をうかがっていた。

 

統夜先輩……死なないで……!

 

 

 

 

 

〜三人称 side 〜

 

「ちっ、梓のやつ。逃げろって言ったのに……」

 

梓が遠くから様子をうかがっているのを見た統夜は思わず舌打ちをしていた。

 

(とりあえず仕方ないな……。なるべく奴を梓から遠ざけないとな。梓にホラーの返り血を浴びさせるわけにはいかないし)

 

統夜は魔法衣の懐から青い鞘に納められた魔戒剣を取り出すと、それを抜いて構えた。

 

すると梓に声をかけた男の瞳が白くなり、そのまま異形の怪物へと姿を変えていった。

 

『統夜!奴はアレグレウス、女食いのホラーだ!』

 

「アレグレウスって確か鋼牙さんが過去に倒したアングレイの派生種だったよな?」

 

『あぁ。だから油断するな!』

 

統夜が相対しているホラーはアレグレウス。

 

以前牙狼の称号を持つ冴島鋼牙が封印したホラーであるアングレイ同様女性ばかり捕食するホラーである。

 

アングレイはトラップを用いて冴島鋼牙を翻弄したりしていたが、アレグレウスはトラップを用いる戦術は行わない。

 

しかし、その戦闘力はアングレイ以上だと言われている。

 

イルバの警告を聞いた統夜はアレグレウスを少しでも梓から離すために体当たりを仕掛け、アレグレウスを少しだけ吹き飛ばして距離をとった。

 

アレグレウスはすぐさま自身の爪で統夜を切り裂こうとするが、統夜はかろうじて爪による一撃をかわした。

 

反撃と言わんばかりに統夜は魔戒剣を一閃するが、その一撃は受け止められてしまった。

 

「……ちっ、こいつ思った以上に体が硬いな……」

 

統夜の一撃を受け止めたアレグレウスは強烈なパンチで統夜を吹き飛ばすが、綺麗に受け身を取り、通れることなく着地した。

 

着地の瞬間を見逃さなかったアレグレウスはすぐさま連続で爪による攻撃を繰り出すが、ことごとく統夜にかわされるか魔戒剣によって弾かれ、統夜に傷をつけることは出来なかった。

 

続けてアレグレウスは尻尾による攻撃で統夜を吹き飛ばそうとするが、それより先に統夜は大きくジャンプをして尻尾による攻撃をかわした。

 

その直後に蹴りを放ち、アレグレウスを少しだけ遠ざけて距離をとった。

 

「……よし、こいつの動き……見切った!」

 

統夜は今までの戦いでアレグレウスの動きを完全に見切ったようだった。

 

「貴様の陰我……この俺が断ち切る!」

 

アレグレウスに対してこう力強い宣言をした統夜は魔戒剣を高く突き上げ、さらに空中で円を描いた。

 

すると、その部分だけ違う空間となり、統夜はその空間から放たれた光に包まれた。

 

そして……

 

ガチャンガチャン!と金属音が聞こえ、統夜の体は白銀の鎧に包まれた。

 

狼のような顔に頭部には一本の角。体は眩い光を放つ白銀の鎧で、腰の部分などには自分の魔法衣にもあった四角のエンブレムが存在する。

 

さらに統夜の左手にはめられたイルバはまるで鎧と一体化したかのように左手にくっついていた。

 

そして統夜の手に持っていた魔戒剣もその姿を変え、鍔のなかった剣が中心に四角の紋章のある鍔が出現し、刀身も姿を変えた。

 

この剣は皇輝剣(こうきけん)と呼ばれる専用の剣に変化していた。

 

こうして統夜はこの世のものとは思えない異形の鎧を身に纏った。

 

統夜が身につけているこの鎧は白銀騎士奏狼(ソロ)。

 

統夜が継承したこの奏狼は魔戒騎士の中でも上位に位置する称号で、その名前の通り白銀の輝きを放つ騎士である。

 

 

 

〜梓 side 〜

 

……な、何?何がどうなってるの?

 

統夜先輩が指輪に向かってぶつぶつ何か言ってると思ったらいきなり剣を抜いて……。

 

それだけでもびっくりなのに統夜先輩はあんな得体の知れない化け物相手に臆せず向かっていった。

 

私は先輩の戦いをじっと見守っていたけど、先輩の運動能力は常人のものとは思えないものだった。

 

あんな動きが出来るなんて凄すぎるよ……。

 

あっ……!先輩押されてる……!

 

統夜先輩は化け物相手に苦戦してるみたいだけど、私は黙って見てることしかできなかった……。

 

このままじゃ統夜先輩が危ないんじゃ……。

 

そんなことを考えていたその時だった。

 

「よし、こいつの動き……見きった!」

 

え…?見切ったって、今までの戦いであの化け物の動きを見きったってこと?

 

統夜先輩……。あなたは一体何者なんですか?いくらなんでも凄すぎますよ……。

 

「貴様の陰我……この俺が断ち切る!」

 

陰我?それって一体……。

 

私が聞き覚えのない単語に首を傾げたその時……。

 

先輩は手に持っている剣を高く突き上げるとそのまま円を描き、その部分だけ景色が変わっていた。

 

すると、そこから放たれた光に先輩は包まれ……。

 

ガチャンガチャン!という金属の音が聞こえたと思ったらそこに統夜先輩の姿はなく、その場にいたのは……。

 

「銀色の……狼?」

 

思わず見とれてしまうほどの輝きを放っている銀色の鎧に包まれた狼のような騎士だった。

 

「綺麗……」

 

鎧から放たれる光は異様ではあるけど、美しくもあった。

 

「さて……時間もないんでな、一気に決める!」

 

あの銀色の鎧から統夜先輩の声が聞こえてきたから、やっぱりあの鎧の人は統夜先輩だった。

 

これが……さっき言ってた魔戒騎士ってやつなの?

 

私の中から少しだけ怖いという感情が無くなってると気付きながら、私は銀色の鎧を見に纏う統夜先輩を見つめていた。

 

……統夜先輩、頑張って……!

 

 

 

 

〜3人称 side 〜

 

統夜が召還した奏狼の鎧は魔界から召還されたものである。

 

統夜が奏狼の鎧を召還してまもなく、魔界では砂時計のようなものが動き始めた。

 

奏狼を含め魔戒騎士たちの鎧は99.9秒というタイムリミットがある。

 

このタイムリミットが過ぎてしまうと、鎧を装着した人間の身に危険が及ぶと言われている。

 

「さて……時間もないんでな……一気に決める!」

 

時間がないというのは鎧のタイムリミットのことを指しており

99.9秒以内に決着をつける必要がある。

 

統夜は皇輝剣を構え、ゆっくりとアレグレウスに近づいていった。

 

圧倒的なほどの存在感を放つ統夜に臆したアレグレウスは慌てながら衝撃波を放った。

 

しかし、衝撃波程度で奏狼の鎧はびくともせず、統夜は歩みを止めなかった。

 

統夜はアレグレウスに接近すると、強烈なパンチをお見舞いし、それを受けたアレグレウスは吹き飛ばされた。

 

「さて……これで決める!」

 

統夜は脱兎の如く猛ダッシュし、アレグレウスに接近すると皇輝剣を一閃した。

 

皇輝剣による一太刀によりアレグレウスの身体は真っ二つになり、その肉体は陰我とともに消滅した。

 

「……よし……」

 

アレグレウスを撃破したのを確認した統夜は鎧を解除し、元の統夜の姿に戻り、皇輝剣も魔戒剣へと戻った。

 

 

 

 

 

〜統夜 side 〜

 

よし、これで今日の仕事は終わりだな…。

 

アレグレウスを斬った俺はふぅっと一息ついていた。

 

あとは……。

 

俺はとりあえず梓のもとへ向かうが、それと同時に梓はこっちに駆け寄ってきた。

 

「統夜先輩!あ、あの……その……」

 

「梓。お前、何で逃げなかった?」

 

「え?えっと……」

 

「イルバ、梓にホラーの返り血はついてないよな?」

 

『あぁ、大丈夫だ。お前さんもずいぶんと気を遣って戦ってたしな』

 

「ゆ……指輪が喋った!?』

 

梓はイルバが口を開いたことに驚いていた。

 

まぁ、驚くのも当然か。

 

俺たち魔戒騎士は魔道具をつけてるから指輪だろうが腕輪だろうがそういうものが喋ることに違和感はないけど、一般人には奇怪でしかないからな……。

 

それよりも……。

 

「今回は何もなかったから良かったけど……。もし梓が奴の返り血を浴びてたら問答無用で切り捨てなきゃいけなかったんだぞ!?」

 

そう、ホラーの返り血を浴びた者は誰であろうと問答無用で切り捨てる。

 

それが掟だからな……。

 

ヴァランカスの実があれば、浄化も可能だけど、絶対それが手に入る保証もないからな……。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

ちょっと言い方がきつかったからか、梓が少しだけ涙目になっていた。

 

『まぁ待て統夜。お嬢ちゃんはそれだけお前さんのことが心配だったんだろう。そうだろ、お嬢ちゃん?』

 

イルバの問いに梓はコクンと無言で頷いていた。

 

「まぁ……そういうことなら何もなかったことに免じて許すよ。……怒鳴って悪かったな」

 

俺は怒鳴ったことを梓に詫びると踵を返し、その場を後にしようとした。

 

「あのっ……統夜先輩!待ってください!」

 

だけど梓に声をかけられたので俺は足を止めて、梓の方へ振り向いた。

 

「あのっ……助けてくれて……ありがとうございます……」

 

「気にするな、俺は当然のことをしただけだから……」

 

「それに…先輩は一体何者なんですか?」

 

「俺か?俺はお前も知っての通りただの高校生だよ。ちょっと特殊なところはあるけどな」

 

まぁ、こうは言ったものの特殊なのは絶対にちょっとじゃないよな……。

 

「それに、あの化け物は一体何だったんですか?」

 

やっぱりこの質問が飛んできたか……。

 

だけど……。

 

「梓、その質問の答えは聞かない方がいい。普通の高校生として平凡な生活を送りたいならな……」

 

「………」

 

俺が警告のような言葉を梓にかけると、梓は何も言えなくなり、口をつぐんでいた。

 

「……あっ、そうだ」

 

大事な用事を思い出した俺は梓の顔をジッと見つめていた。

 

「梓……。お前、最近部活に顔を出してないけど、どうしたんだ?」

 

俺の問いかけに梓はビクンと肩をすくめていた。

 

「……あっ、あの……。私は……」

 

『あのお嬢ちゃんたちがあまりにだらけるもんだから嫌気がさしたのか?』

 

「違います!そういう訳じゃないんです……。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……私……わからなくなっちゃって……。どうして軽音部に入ろうと思ったのか。そして、先輩たちの演奏にあれほど感動したのか……」

 

……なるほど、それが今まで部活を休んでた理由って訳か……。

 

「……そんなに難しく考える必要はないと思うぞ」

 

「えっ?」

 

俺がこう言ってくるなんて思ってなかったんだろう……。

 

梓は驚きを隠せないって感じの表情をして顔をあげた。

 

「確かに唯たちは毎日お茶ばかり飲んでダラダラダラダラ……。俺だって今の梓みたいに面食らったさ。だけど、1年間一緒にいてわかったことがある」

 

「わかったこと?」

 

「それはな……みんな演奏してる時はすごく楽しそうに演奏するんだよ」

 

「楽しそう?」

 

「あぁ……。だからかな?一緒に演奏してるとこっちもすごく楽しい気持ちになるんだよ。みんなの気持ちがひとつになってる演奏だからな……自然と良い音楽になるんだと思う」

 

「音楽を……楽しむ?」

 

「まぁ、そんな感じかな。…梓、今度の部活はちゃんと顔を出すんだ。それで、今俺に言ってくれたことをみんなにも言うんだ。そうすれば俺が言ってることが理解出来るはずだぜ」

 

俺は伝えるべきことを梓に伝えると、踵を返し少しだけ歩いてすぐ足を止めた。

 

「……とりあえず、さっきの化け物のことは忘れるんだぞ。……それじゃあな」

 

俺は足をにホラーのことを忘れるよう念押しをすると、再び歩き出し、その場を立ち去った。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

『……統夜。あのお嬢ちゃんの記憶を消さなくても良かったのか?』

 

梓の姿が完全に見えなくなる場所まで歩くと、イルバが口を開いたため、俺は足を止めた。

 

「俺も迷ったんだけどな…。それは出来なかったんだよ……」

 

……本当だったらホラーに関する記憶は完全に消し去るべきだったからな……。

 

だけど、なぜか俺はそれをすることが出来なかった……。

 

『お前は相変わらず甘いな、統夜』

 

「わかってるよ」

 

イルバに言われるまでもなく、俺は魔戒騎士としてはまだまだ甘い。

 

非情になりきれないからな……。今のままじゃ自分か誰かを殺すことになるかもしれないからな……。

 

だから……俺はもっともっと強くならなきゃいけない……。

 

俺が憧れ、尊敬している黄金騎士牙狼である冴島鋼牙さんのような揺るぎなき強さを持った騎士になるために……。

 

今以上に強くなるという決意を固め、俺は家路についた…。

 

 

 

 

 

……続く

 

 

 

__次回予告__

 

『まぁ、あのお嬢ちゃんの問題が解決したのは良かったが、今度は軽音部のお嬢ちゃんたちが統夜の秘密を知るために行動を始めるとはな……。次回「秘密」。早くも統夜の秘密が明らかになる!』

 




統夜の鎧…奏狼が出てきましたね!

奏狼は牙狼の銀色バージョンというイメージで執筆しています。なので、専用の皇輝剣も牙狼剣そっくりとイメージしてくれたらいいと思います。

次回は唯たちが統夜の秘密を探るために動きますが、果たしてどうなるのか?

次回をお楽しみに!

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