牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました、第19話です!

そして皆さん大変お待たせしました。今回、暗黒騎士の鎧が登場します。

統夜とレオの前に立ちはだかる暗黒騎士とは一体……?

そして魔戒列伝6話今回も面白かったです!

まさか今回はあの人の回とは……。

それでは第19話をどうぞ!




第19話 「混沌」

強大な力を持つ魔獣、グォルブの牙を奪った闇に堕ちた魔戒騎士を探すため、統夜たちは行動を開始した。

 

統夜は途中ホラーと遭遇するが難なく撃退し、レオと合流。2人はグォルブの牙が封印されていた洞窟へ向かった。

 

そこで2人が見たものは何者かに襲撃され、重傷を負った大輝の姿だった。

 

大輝の治療のため番犬所に戻ろうとするが、そんな統夜とレオの目の前に現れたのは、フードを被った謎の男であった。

 

(……!こいつ、今まで戦ってきたやつらとは格が違う……!)

 

統夜はその佇まいから男が只者ではないとすぐに察しがついた。

 

「初めましてだな。月影統夜……いや、白銀騎士奏狼!」

 

男は統夜の名前だけではなく、統夜の称号までも知っていた。

 

「貴様!どうして俺の名前だけじゃなく、称号まで知ってるんだ!」

 

「ククク……。知っているさ……。貴様はこの街を守る魔戒騎士だからな!」

 

統夜は男の不遜な態度に戦慄さえ覚えていた。

 

「それにしても貴様のような子供が魔戒騎士とはな……。魔戒騎士というのも随分と人手不足なんだな」

 

「黙れ!俺はこの剣に認められて魔戒騎士になったんだ!お前も魔戒騎士ならわかるだろう?」

 

「フン、今の私は魔戒騎士ではない。貴様らも聞いているのだろう?私のことを」

 

「闇に堕ちた……魔戒騎士……」

 

「そう。そして私はそれだけではない。暗黒の力を手に入れたのだ」

 

「!あ、暗黒の……力だと!?」

 

「お、お前も……暗黒騎士だというのか!?」

 

統夜とレオは暗黒騎士の力を手に入れた者の存在を知っていた。

 

レオは鋼牙からその話を聞いていたのだが、統夜にとって暗黒騎士は実の父を殺めた憎むべき相手でもあった。

 

「ほう?知っているのか?私以外の暗黒騎士の存在を」

 

「忘れるかよ!暗黒騎士呀(キバ)……。俺の父さんを殺した男のことを!」

 

統夜は怒りに満ちた表情で男を睨みつけていた。

 

「お前の父……月影龍夜のことか。あいつは己の力量も計れず暗黒騎士に挑み犬死にした哀れな騎士だったな」

 

なぜこの男が統夜の父龍夜のことを知っているのか疑問だった。

 

しかし、今の統夜にはそのようなことを考える余裕はなかった。

 

龍夜のことをバカにするような言葉を聞いた瞬間、統夜の中で何かが切れてしまった。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「統夜君!駄目です!」

 

統夜はレオの制止も聞かずに魔戒剣を抜くと、男目掛けて突撃した。

 

「父親を悪く言われて頭に血がのぼるか……。まだまだ未熟だな」

 

男は統夜の攻撃を避ける素振りを見せなかった。

 

それどころか統夜が魔戒剣を一閃する前に統夜の顔面にパンチをお見舞いし、統夜を吹き飛ばした。

 

「ぐぅ……!」

 

「統夜君!」

 

「今の貴様など、剣を使う価値もない」

 

男は冷酷な目で統夜を睨みつけた。

 

「な…何だと!?」

 

統夜は再び魔戒剣を構え、男を睨みつけた。

 

「だったら……嫌でも剣を抜かせてやるよ!」

 

統夜は再び男に攻撃をしかけるが、男は無駄のない動きで統夜の攻撃をすべてかわし、反撃でパンチやキックなどを放っていた。

 

『統夜!冷静になれ!!今の状態では倒せる者も倒せないぞ』

 

「うるさい!!」

 

統夜はイルバの制止すら一切聞いていない状態だった。

 

「やれやれ……。本当にこんなガキが魔戒騎士とはな」

 

男は怒りに任せて攻撃をしかける統夜に心底呆れていた。

 

「統夜君!援護します!」

 

このままでは統夜が危ないと判断したレオは魔戒剣を抜き、統夜の援護に入った。

 

「貴様は閃光騎士狼怒か。あの布道シグマの弟のようだな。力もないくせに魔戒騎士を滅ぼすなど無謀をほざいた奴だったな」

 

男は統夜の時のように身内を馬鹿にした発言をしていたが……。

 

「僕はお前の挑発など受けない!」

 

レオは一切感情を乱すことなく男に斬りかかった。

 

「ほぉ、貴様の精神力はなかなかのようだ。そこのガキとは大違いだ」

 

「黙れぇ!!」

 

統夜の何度目かの一閃が男を捉えていた。

 

しかし……。

 

「ほぉ、まぐれ当りとはいえ、私に剣を使わせるとはな……」

 

男は魔戒剣を取り出すと、それで統夜の攻撃を受け止めた。

 

そして間髪入れずに衝撃波を放ち、統夜とレオを吹き飛ばした。

 

「ぐぁっ!」

 

「くっ……!」

 

『レオ、無事かい?』

 

「大丈夫だよ、エルヴァ。この程度、何てことはない」

 

レオは男の衝撃波を受けてもまだ戦闘には支障がない状態だった。

 

それは統夜も同様なのだが……。

 

『統夜!いい加減冷静になれ!このままじゃお前が死ぬぞ!』

 

イルバが統夜を叱責すると、統夜はようやく目が覚めたようだった。

 

「そうだな……。相手は強敵なんだ。冷静にならなきゃ勝てないよな」

 

『フン、感情に左右されおって。これは戦いが終わったら駄目出しどころか説教が必要だな』

 

「あぁ、こいつを倒したらそれはゆっくり聞かせてもらう」

 

統夜は先ほどとは違い、まっすぐな瞳で男を睨みつけていた。

 

「ほぉ、ようやくらしくなったようだな。……いいだろう。今回は挨拶なんだ。私の力を見せてやる」

 

男はフード付きのコートを脱ぎ捨てると、魔戒剣を抜き、構えた。

 

男は銀色の長い髪に紅の瞳の青年で、紺のコートを羽織っていた。

 

「自己紹介がまだだったな……。私の名はディオス……。そして……」

 

男は自らの事をディオスと名乗っていた。

 

ディオスは黒のコートの懐から取り出したのは黒く丸い形をした盾だった。

 

ディオスは剣を装着してした盾を共鳴させると剣を正面に突きつけた。

 

すると、ディオスの前方に大きな空間が出現すると、そこから光が放たれてディオスはその光に包まれた。

 

そしてディオスは漆黒の鎧を身に纏った。

 

「……!!?あの盾は……!!」

 

統夜はディオスが身につけている盾に見覚えがあった。

 

そしてそんな統夜の脳裏に浮かんできたのは、母である明日菜を襲撃し、その命を奪った漆黒の鎧の騎士だった。

 

統夜の目の前にその漆黒の騎士が姿を見せていた。

 

『あいつは混沌騎士ゼクスか。もうその系譜は途絶えたと聞いていたんだが』

 

イルバは目の前の鎧のことを知っていた。

 

「混沌騎士?それはもう過去の名だ……。今の私は……暗黒騎士ゼクスだ!」

 

ディオスは自らのことを暗黒騎士ゼクスと名乗っていた。

 

混沌騎士ゼクスとはディオスがまだ暗黒騎士になる前の彼の魔戒騎士としての名前だった。

 

しかし、ディオスは闇の力に魅入られてしまい、暗黒騎士の力を手に入れた。

 

統夜は怒りに満ちた表情で漆黒の鎧を睨みつけていた。

 

「……統夜君?」

 

「貴様か……!貴様が母さんを殺したのか!!」

 

「!!」

 

レオは統夜の言葉で事情を理解した。

 

統夜の母明日菜は漆黒の鎧の騎士に殺されたという話はレオも統夜から直接話を聞いていた。

 

その話が本当であれば明日菜を殺したのは目の前にいるこの漆黒の騎士ということになる。

 

「いかにも。あの女は私が殺した」

 

「何故だ!!何故母さんを殺したんだ!!」

 

「あの女は私のような人間を討伐する者だからな。私がこの力を手に入れたことを番犬所や元老院に知られては困るから始末したんだよ」

 

「それならどうしてあの時俺を見逃したんだ!?」

 

「それ以上の問答は意味をなさない。貴様も魔戒騎士なら剣で聞くんだな」

 

「……っ!!貴様だけは絶対に許さねぇ!!」

 

統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

統夜は全身に力を込めて皇輝剣を振るうが、それをいとも簡単に防がれてしまった。

 

「!馬鹿な……!」

 

「弱い。貴様のようなやつが魔戒騎士とはな……」

 

「こ、このぉ……!」

 

ディオスは盾で統夜の皇輝剣を防いでいたのだが、盾を前に押し出すだけで統夜を吹き飛ばした。

 

「くっ……」

 

「どうした?かかって来い。それとも貴様の実力はその程度か?」

 

「ぐっ……まだだ!」

 

統夜は再び皇輝剣を振るうが、今度は軽々と攻撃をかわされてしまった。

 

「フン、攻撃が素直すぎる。やはり子供だな」

 

「なめるなぁ!!」

 

統夜は皇輝剣の刃に赤い魔導火の炎を当てると、烈火炎装を発動した。

 

「ほぉ、烈火炎装か。それを使えるということはそれなりの実力はあるということか。だが、烈火炎装を使えるのは貴様だけではない!!」

 

ディオスはそう言うと変化した魔戒剣の切っ先に触れるとそこから紫色の魔導火が放たれ、剣の切っ先は紫の炎に包まれた。

 

「!?貴様も烈火炎装を!?」

 

統夜は暗黒騎士であるディオスが烈火炎装を使えるとは思っていなかった?

 

「だけど、負けるかぁ!!」

 

統夜とディオスは同時に剣を振るうが、そのパワーはディオスが圧倒していた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ディオスの力に競り負けた統夜はそのまま近くの柱に叩きつけられてしまい、その衝撃で奏狼の鎧は解除されてしまった。

 

「統夜君!!」

 

レオは魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれ、レオは狼怒の鎧を見に纏い、ディオスに向かっていった。

 

「………フン」

 

ディオスは邪気を圧縮した波動弾をレオ目掛けて放った。

 

「!?」

 

レオは魔戒剣で受け止めようとするが、そのパワーは圧倒的であり、レオは統夜の叩きつけられた柱とは別の柱に叩きつけられた。

 

その衝撃で、レオの狼怒の鎧が解除されてしまった。

 

「くっ……!」

 

レオはそれでも立ち上がり、ディオスを睨みつけた。

 

「ほぉ、鎧が解除される程の衝撃でも何ともないとは……。さすがに様々な修羅場をくぐっただけはあるな」

 

ディオスは素直にレオの頑丈さを認めていた。

 

「くっ……!俺だって……!」

 

ディオスの烈火炎装の一撃を受けてボロボロのはずの統夜がゆっくりと立ち上がった。

 

「ほぉ、あれだけのダメージで動けるとは、お前も思ったよりはやるじゃないか」

 

「このぉ!!」

 

統夜は魔戒剣を手に、再びディオスに向かっていった。

 

「統夜君!無茶です!」

 

レオは統夜を制止するが、統夜はそれを聞かなかった。

 

「ほぉ、ガッツもなかなか……」

 

ディオスはあえて攻撃をかわさず受け止めようとしていた。

 

統夜が魔戒剣を一閃したその時だった。

 

ディオスの目の前に魔戒騎士の鎧のような姿のホラーが現れ、統夜の攻撃を受け止めた。

 

「!?ホラーだと!?」

 

『バカな!ホラーの気配はしなかったぞ!?』

 

「……」

 

ホラーは何も語らず統夜を吹き飛ばした。

 

「ぐぁっ!」

 

吹き飛ばされた統夜は再び立ち上がろうとするが、すでに体力は限界であり、立ち上がることは出来なかった。

 

「……ディオス様。このような小物相手に戯れはおやめ下さい」

 

乱入してきたホラーはただのホラーではなく、ディオスに忠誠を誓っていた。

 

「フッ……そうだな。挨拶のつもりが思わずはしゃいでしまったよ」

 

こう言ったディオスは鎧を解除し、魔戒剣を鞘に納めた。

 

それを見たホラーは人間態に姿を変えた。

 

人間態を見た統夜は驚きを隠せなかった。

 

なぜならば……。

 

「!そ、そんな……ダンテ……さん!?あなたが……ホラーだなんて……」

 

そのホラーの正体は、統夜の父、月影龍夜の親友であり、統夜の母と共に統夜に修行をつけてくれていた魔戒騎士ダンテであった。

 

ダンテは統夜の母、明日菜が殺されてすぐに行方不明になっていた。

 

そのダンテがホラーとなって統夜の目の前に現れたことが統夜には信じられなかった。

 

「……俺は貴様の知るダンテではない。俺はディオス様に忠誠を誓う騎士。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「そ、そんな……!」

 

統夜はダンテの変わりように怒りではなく絶望が支配していた。

 

「とりあえず今回は挨拶程度だからこの辺にしておいてやる」

 

「な、何だと……?」

 

「月影統夜、また会おう。今度会う時はこの私を楽しませてくれよ」

 

こう言い残してディオスとダンテは何処かへと姿を消した。

 

「く、くそ……!待ちやがれ……!」

 

統夜は立ち上がろうとするが、力尽きてしまい、そのまま気を失ってしまった。

 

「統夜君!大丈夫ですか!?」

 

統夜の受けたダメージはかなりのものであったが、命に別条はなかった。

 

「統夜君も大輝さんも一度どこかへ運ばないと……」

 

レオは手負いの2人を連れて行こうとしたが、1人ではどうすることも出来なかった。

 

レオは迷った末に唯たちの手を借りることにした。

 

ポケットから携帯を取り出したレオは唯たち一人一人に事情を説明し、応援を要請した。

 

唯たちはレオから伝えられた言葉に驚きながらもレオの指定した場所へ向かうことを了承した。

 

5人全員に電話を済ませたレオは統夜と大輝を抱えながら5人と待ち合わせをしている場所まで急いだ。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

レオが5人に電話をしてから30分が経過し、唯たちが合流したのだが……。

 

「……!!やーくん!!」

 

「「統夜!!」」

 

「統夜君!」

 

「統夜先輩!!」

 

唯たちはボロボロの統夜の姿を目の当たりにして息を飲んでいた。

 

「レオ先生!やーくんは大丈夫なんですか!!?」

 

「えぇ。今は気を失ってるだけで命に別条はありません」

 

「そうですか……良かった……」

 

統夜が無事とわかり、唯たちは安堵していた。

 

「レオ先生、一体何があったんですか?統夜だけじゃなくてこの人もひどい怪我じゃないですか!」

 

「僕たちはとても強大なホラーを復活させようとしている魔戒騎士と接触したのですが、その力は凄まじく僕たちは敵いませんでした」

 

「え!?レオ先生もやーくんも敵わなかったんですか?」

 

「えぇ。悔しいですが……」

 

レオは険しい表情をしており、自分の力不足を悔やんでいた。

 

「色々気になることはあるけどさ、まずは2人を休ませるのと治療が先だろ?」

 

「あぁ、律の言う通りだな」

 

「この先に車を止めているわ。とりあえず2人を車に運びましょう」

 

レオは唯たちの協力を得て、傷だらけの統夜と大輝をリムジンまで運んだ。

 

「お嬢様、この方々はどうなされたのですか!?」

 

紬が戻ってくるのを待っていた執事の斉藤は、紬たちが怪我人を連れてきたことに驚いていた。

 

「斉藤、この2人は怪我をしているの。早く車の中へ」

 

「か、かしこまりました」

 

こうして統夜と大輝をリムジンに乗せると、唯たちもリムジンに乗り込んだ。

 

「紬お嬢様、彼らは琴吹の病院へお連れ致しましょうか?」

 

「そうね。ウチの病院であれば、秘密は守られるわ。斉藤、琴吹総合病院へ向かってちょうだい」

 

「かしこまりました!」

 

斉藤はリムジンを走らせると、紬の親が経営している琴吹総合病院へ向かった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

その頃、桜ヶ丘某所の廃ビルにディオスとダンテは潜伏していた。

 

「……ディオス様。例の魔戒騎士共はとある病院に向かっているようです」

 

「そうか。奴らはずいぶんとしぶとい連中のようだな」

 

「全くです。ですが、最近の魔戒騎士はずいぶんと弱くなりましたな」

 

「ハハ、元魔戒騎士のお前もそう思うか?私もそれは思っていた」

 

「やはり、闇の力こそが至高。それを知らぬ魔戒騎士など我らの敵ではありません」

 

「そうだな…」

 

ディオスはダンテの言葉を肯定するが、なぜかディオスは浮かない表情をしていた。

 

「?ディオス様、いかが致しました?」

 

「あぁ。実はな、あの小僧のことを考えていたんだよ」

 

「月影統夜……ですか?」

 

「最近の魔戒騎士は大したことないと思っていたが、あいつは油断できん。あの歳で魔戒騎士になっただけのことはある」

 

「ディオス様が気にかけるような奴ではありませんよ、あの子供は」

 

「ハハ、そう言うな。あいつは親友の子供なのだろう?」

 

「今の私は月影龍夜の親友でも何でもありません。あの男も所詮は闇を拒絶した男。相容れられる訳がありません」

 

「お前、ホラーではあるが、考え方はまるで暗黒騎士だな」

 

「お褒めの言葉、光栄です」

 

ダンテはディオスに深々と頭を下げた。

 

「どちらにせよ、グォルブを復活にはまだ時間がかかる。復活の時まで力を蓄えねばならないからな。その間に、もう一度月影統夜と相見えるつもりだ」

 

「何故なのですか?あのような小物など、ディオス様が構うほどではないかと」

 

「面白い余興を思いついたのでね。ダンテ、お前にも協力してもらうぞ」

 

「はっ!ディオス様のためならば」

 

「月影統夜……。あの男には致命的な弱点がある……。その致命的な弱点をついた時あの男はどうなるのか見ものだな……」

 

ディオスは統夜の弱点を突こうと画策していた。

 

統夜の弱点とは一体どのようなものなのか……?

 

それを知るディオスは高笑いをしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

負傷した統夜と大輝を乗せたリムジンが琴吹総合病院に到着した。

 

病院に到着するなり入り口でスタンバイしていた医師と看護師が統夜と大輝を専用の治療室へ連れて行った。

 

唯たちは2人の付き添いをしていたのだが、レオは一度番犬所に戻るとのことで病院に到着するなり番犬所へ戻って行った。

 

治療はすぐ行われたのだが、魔戒騎士の回復力は相当なものだったからか、治療らしい治療は行わず、応急処置程度の治療で済んだ。

 

治療を終えた統夜と大輝はVIP専用の病室へと運ばれ、2人は未だに目を覚まさなかった。

 

医師の見立てではすぐに目を覚ますだろうとのことだった。

 

唯たちは病室で統夜と大輝の看病を行っていた。

 

「やーくん……」

 

治療を受けて未だに目を覚まさない統夜を見て唯は泣きそうになっていた。

 

「それにしても統夜がここまでやられるなんてな……」

 

「あぁ……。今回戦った相手がそれだけ強かったってことだよな……」

 

律と澪は統夜がやられたというのが未だに信じられなかった。

 

「私たち、統夜君がホラーを倒すところしか見ていなかったものね……」

 

紬の言う通り、唯たちは幾度とホラーとの戦いを見たのだが、どれも全て統夜や鋼牙のような魔戒騎士がホラーを討伐するところしか見ていなかった。

 

「……統夜先輩……!」

 

梓も唯と同様に未だに目を覚まさない統夜を見て泣きそうになっていた。

 

唯たちがそれぞれ統夜と大輝の看病を行っていたその時だった。

 

「統夜さん!大丈夫ですか!?」

 

唯から事情を聞いた憂が病室に飛び込んできた。

 

「憂、しー、だよ」

 

憂の声が大きかったからか唯が憂のことをなだめていた。

 

「あ、ごめんなさい。統夜さんの話を聞いたら居ても立っても居られなくて……」

 

憂は唯になだめられ、しゅんとしていた。

 

(おぉ、唯先輩がちゃんとお姉ちゃんしてる!)

 

普段は姉らしいことをしていない唯をよく知っている梓は驚きを隠せなかった。

 

それは、唯と1年以上の付き合いがある律、澪、紬も同様であった。

 

「あっ、お姉ちゃん。これ、お弁当を作ってきたの。統夜さんが目覚めたらみんなで食べようと思って」

 

憂はレオから電話が来た時点で統夜のことを聞いていたのだが、この弁当の準備をしていたら遅くなってしまい、合流が遅くなったのだ。

 

((((出来た子だ!!))))

 

相変わらず優秀な憂に唯を除く4人は感心していた。

 

その時だった。

 

「うっ……うん……」

 

統夜の体にわずかの反応があった。

 

「やーくん!?」

 

「統夜先輩!?」

 

「お……俺は……それにここは……」

 

統夜の意識が完全に回復し、ゆっくりと起き上がった。

 

『やれやれ。ようやくお目覚めか、統夜?』

 

統夜が目覚めるなりイルバが口を開いた。

 

「イルバ……。俺はひょっとして……」

 

『あぁ。コテンパンにやられたな。ボロボロだったお前と大輝を紬たちが病院まで運んだんだよ』

 

「え……?」

 

ここで統夜はようやく唯たちの存在を知り、唯たちのことを見た。

 

「みんな……どうして……」

 

『やれやれ。あの後は大変だったんだぜ。レオ1人じゃお前と大輝を運ぶのは無理だったから仕方なく唯たちに応援を頼んだんだからな』

 

「レオさんは?」

 

『レオなら一度番犬所に戻ったぜ。恐らく今回の件を報告しに行ったのだろう』

 

「そっか……。みんなも、ありがとな。おかげで助かったよ」

 

統夜が笑顔を見せると、安心したのか唯の瞳から涙が溢れていた。

 

「やーくん!!」

 

唯は泣きながら統夜に抱きついた。

 

「ちょ、ゆ、唯?」

 

「やーくんの馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!やーくんが怪我したって聞いてすごく心配したんだからね!」

 

唯はワンワン泣きながらも自分の思っていることを統夜に伝えた。

 

「……あぁ、ごめんな、唯」

 

すると、それに続いて残りの5人も一斉に統夜に抱きついてきた。

 

「ちょ……!病み上がりに6人はきついって……!」

 

「唯の言う通りだぞ!お前があんなに思い詰めてたから心配したんだからな!」

 

「私も怖かったんだぞ!このままお前が死んじゃうんじゃないかって!」

 

「あなたに無茶だけはして欲しくないのよ!」

 

「そうですよ!私たち、統夜先輩に死んで欲しくないんです!!」

 

「良かった!統夜さんが無事で本当に良かったです!」

 

5人も唯のように泣きながら自分の思ったことを統夜に伝えた。

 

(……みんなには悪いことをしたな。俺は母さんの仇を目の前に我を忘れてこのザマだからな……。俺の命は俺だけの物じゃない。俺が死ねばみんなが悲しむからな……)

 

統夜は魔戒騎士として無茶な戦いは出来ないと感じていた。

 

(だけど、ディオスとは決着をつけないといけない。あいつを倒さないと、魔戒騎士として未来はない。……俺は、魔戒騎士になれなかったみんなの思いも背負っているんだ)

 

それと共に統夜はディオスを倒さなくてはいけないと思っていた。

 

これからも魔戒騎士として人を守るために。

 

(だけど、今はみんなの気が済むまでこのままでいよう……)

 

統夜は目を閉じると、6人が泣き止むまで現状を維持することにした。

 

そんな中で……。

 

「何だ……騒々しい……」

 

統夜同様に意識を失っていた大輝が目を覚ました。

 

目を覚ました大輝が目にしたものは……。

 

「……!な、何じゃこりゃあ!!」

 

6人の少女に抱きつかれ、まんざらでもなさそうにしている統夜だった。

 

大輝が目を覚ましたことに全員が気付くと、6人は一斉に泣き止み、統夜から離れた。

 

「統夜……。これは一体どういうことなんだ?」

 

「あぁ……。これは……その…」

 

「レオさんに頼まれたんです!怪我をした2人を介抱するために協力してほしいと。それで、私の親が経営している病院で2人の治療をしたんです」

 

「俺が聞いてるのはそういうことじゃない!何で統夜は年頃の女の子に抱きつかれてまんざらでもなさそうにしているんだ!!」

 

「あー、そこですか?えっと……」

 

統夜は端から見たら異常な出来事についてどう言い訳をすべきか考えていた。

 

「抱きついたのは私たちからです!統夜君が無事だったのが嬉しくてつい……」

 

大輝の問いを紬が代わりに説明した。

 

「……まぁ、事情はわかった。かなり解せぬがな」

 

どうやら大輝は渋々ながらも事情を理解したようだった。

 

こうして統夜と大輝はディオスとの戦いで負傷したものの、その回復力と医師の応急処置で回復したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

その頃、琴吹総合病院の近くに2人の男が立っていた。

 

「……どうやら、月影統夜と桐島大輝が目を覚ましたようです」

 

「ほぉ、もう回復したのか。魔戒騎士の回復力はなかなかだな」

 

ディオスは素直に魔戒騎士の傷の治りの早さに感心していた。

 

「だが、これで楽しい余興を始められそうだ……」

 

ディオスは余興として統夜の弱点を突くことを画策しており、統夜が目を覚ましたことでその準備が整いつつあった。

 

ディオスは怪しげな笑みを浮かべて病院を眺めていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『あの男……。一体何を企んでやがるんだ。やめろ統夜!怒りに心を任せるな!次回、「心滅」。猛り狂う獣の咆哮』

 

 




暗黒騎士が無事出てきました!

今回の暗黒騎士は炎の刻印に出てきたゼクスですが、装着者がベルナルドではないので、鎧は同じものでも3人目の暗黒騎士という扱いで書きました。

ちなみにディオスが暗黒騎士になる前の混沌騎士ゼクスというのは完全に僕の考えたオリジナルの設定ですのでご了承ください。

統夜の父である龍夜の友だった男、ダンテがホラーとなって出てきました。

ホラーとは言っていますが、僕はコダマのような魔獣装甲のイメージでダンテのホラー態を考えていました。

そして次回は予告通り心滅獣身奏狼が登場します。

ディオスの語る統夜の弱点とは?

そして心滅となってしまった統夜の運命は?

それでは次回をお楽しみに!




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