牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました、第18話です。

今回から物語が進んでいきます。

動き始めた謎の男の目的とは?そしてこれから統夜を待ち受ける運命とは?

そこをふまえ、第18話をどうぞ!






第18話 「邪悪」

……ここは桜ヶ丘郊外にある洞窟。

 

ここは紅の番犬所が管理している洞窟で、この洞窟の奥には強大な力を持つ魔獣の牙が封印されている。

 

その封印が何人にも解かれぬよう、洞窟護衛専属の魔戒法師4人がこの場所を守っている。

 

4人の魔戒法師は精神を集中させ、さらに何人も寄せ付けないよう結界も貼って厳重な守りで魔獣の牙の封印を守っている。

 

この日も特に異常はなく、1日が終わろうとしていた。

 

しかし……。

 

その洞窟に近づこうとする影があった。

 

「……!」

 

魔戒法師の1人がその足音に気付き、4人の魔戒法師たちは臨戦態勢に入っていた。

 

4人の前に立ちはだかったのはフードを被った謎の男だった。

 

「貴様!何者だ!」

 

「ここがどのような場所かわかってここに来ているのか!?」

 

「ここは強大な魔獣の牙が封印されている洞窟だ」

 

「この場から早々に立ち去れ。さもなくば危険人物として貴様を排除する」

 

「ククク……。貴様らのような雑魚に私を殺すことが出来るかな……?」

 

フードを被った男が取り出したのはなんと魔戒剣に酷似した件だった。

 

「!そ、それは……魔戒剣!?」

 

「貴様、魔戒騎士か!?」

 

「だとすれば魔戒騎士がなぜ魔獣の牙を狙う!」

 

「……!こ、こいつまさか……。闇に堕ちた……」

 

4人の魔戒法師がフードを被った謎の男の正体を見極めた時には全てが遅かった。

 

男は素早い動きで剣を操ると、4人の手練れの魔戒法師をあっという間に葬ってしまった。

 

「……フン、雑魚が。準備運動にもならん」

 

男は剣を鞘に納めると、魔戒法師たちの結界をあっという間に破壊し、洞窟の中へと入っていった。

 

洞窟に入ってすぐ、その魔獣の牙は眠っていた。

 

「……これが魔獣の牙か……」

 

男はすぐさま魔獣の牙を取ろうとするが、こちらにも結界が施されていることに気付いた。

 

「……やはりこちらにも結界が貼ってあるか……」

 

男はすぐさまその結界を破ると、魔獣の牙を手に取った。

 

「ククク……。ついに手に入れたぞ……!魔獣グォルブの牙を……!こいつを蘇らせて、私はこの世界の全てを闇に包んでくれるわ!」

 

男は強大な力を持つホラーを復活させ、この世界を滅ぼそうと企んでいた。

 

目的の魔獣の牙を手に入れた男はその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

ホラーの鱗の力で強力になったホラー、グールを討伐した統夜は、その翌日の放課後、いつものように部室である音楽準備室でティータイムを楽しんでいた。

 

「……♪」

 

統夜はこの日、朝からずっとご機嫌だった。

 

「……統夜先輩、今日はずいぶんとご機嫌ですね」

 

『あぁ。朝からずっとこの調子なんだ。気持ち悪いったらありゃしないぜ』

 

統夜のご機嫌ぶりにイルバも呆れていた。

 

「まぁ、昨日はSHUさんのbright hopeを自由に使ってくれって本人が言ってたからな」

 

「まさか、自分で作った曲をあたしたちに譲ってくれるなんてなぁ」

 

律も軽音部でバンドを組んでいるため、自分の作った曲を譲るということが相当なことであることはよく理解していた。

 

「それなら秋の学園祭で演奏したいわねぇ♪」

 

「うん!やろうやろう!面白そうだよ!」

 

「唯先輩はその前にギターの基礎を覚えてください。唯先輩はいつも一つのことを覚えたら一つのことを忘れるじゃないですか!」

 

「うぅ……あずにゃぁん……」

 

唯は痛いところを梓に突っ込まれてしまい、涙目になっていた。

 

『ま、確かに梓の言う通りだな。お前さんはもっと基礎をしっかりしないといけないって俺様も思うぜ』

 

「うぅ……イルイルはいいよねぇ……。演奏しないんだもん……」

 

『そりゃあ俺様は魔導輪だからな。……あと、変なあだ名で呼ぶな!』

 

統夜たちはもうこのやり取りに飽き飽きしていたので、完全にスルーしていた。

 

「でも、イルバって声はいいから歌ったら凄そうだな」

 

「あぁ、それはわかる!何かすごく格好いい曲を歌ってそう!」

 

『おいおい、俺様は魔導輪だぜ?歌なんて歌わないぜ』

 

「ま、そりゃそうだろうな」

 

統夜たちはこのように話をし、この日も平和な日常が過ぎ去ろうとしていた。

 

しかし、そんな平和な時間は一瞬にして破られてしまった。

 

「……と、統夜君!大変です!!」

 

レオが血相を変えて音楽準備室に入ってきた。

 

「?レオさん、どうしたんです?そんなに慌てて」

 

「統夜君に指令が来たんですけど……」

 

レオは手に持っていた指令書を統夜に渡したのだが……。

 

「!!」

 

その指令書を見て統夜の表情が変わってしまった。

 

「?やーくん、その黒い指令書がどうしたの?」

 

事情を知らない唯は首を傾げながら統夜に聞いていた。

 

「黒の指令書……。この指令は拒否することが許されない指令書なんだ」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

黒の指令書が普段の指令書とは違い、とんでもないことだと知った唯たちは驚きを隠せなかった。

 

「……俺、魔戒騎士になって黒の指令書を受け取るなんて初めてだよ……」

 

黒の指令書を見つめる統夜の顔は真っ青になっており、冷や汗もかいていた。

 

『まぁ、こいつが来るということはとんでもないことが起きてるってことだからな』

 

「「「「「とんでもないこと?」」」」」

 

「悪いけど……。ここから先のことは話す訳にはいかない。下手したら俺も生きて帰ってこれるかわからないからな……」

 

「そんな……」

 

『統夜の言う通りだ。お前さんたちはこの件に首を突っ込まない方がいい。今回ばかりは統夜もお前さんたちを守る余裕はなさそうだからな』

 

イルバがこう警告をすると、統夜はゆっくりと立ち上がり、帰り支度を始めた。

 

「?統夜先輩?もしかして……」

 

「番犬所に行く。詳しい話を聞く必要があるからな」

 

(……なんか、いつもの統夜先輩と違う……。なんか、怖いな……)

 

黒の指令書を見てから統夜は終始険しい表情をしていたのでそれを見ていた梓は少し怯えていた。

 

「…それじゃあ、俺たちは行くな」

 

帰り支度を早々に済ませた統夜はまともな挨拶もせずに音楽準備室を後にし、番犬所を目指すことにした。

 

その途中……。

 

「……あっ、統夜先輩」

 

「統夜さん、帰るんですか?」

 

「………」

 

純と憂が統夜を見つけて声をかけるが、2人を無視して統夜はそのまま行ってしまった。

 

「?統夜先輩、どうしたんだろ?」

 

「……何か今日の統夜さんの顔、すごく怖かった……」

 

憂も統夜の異変を敏感に感じ取っていた。

 

「……確かにそうかも。統夜先輩、どうしたんだろ?」

 

「さぁ……」

 

憂は統夜が魔戒騎士であることを知っているため、ホラー絡みだということはわかったのだが、今日の統夜は普段見せない顔をしていた。

 

「私、音楽準備室に行ってくるね!」

 

憂は純にこう告げると音楽準備室に向かった。

 

 

 

 

そしてさらに……。

 

「……あら、統夜君。部活はどうしたの?」

 

「………」

 

今度は玄関で和が統夜を見つけて声をかけたのだが、統夜は和も無視して行ってしまった。

 

「?統夜君……。どうしたのかしら?ずいぶんと思いつめた顔をしてたけど……」

 

和は統夜が魔戒騎士であるということは知らなかったのだが、統夜の様子がおかしいということはすぐにわかった。

 

「……あら、真鍋さん。こんなところでどうしたの?」

 

偶然玄関を通りがかったさわ子が呆然と立ち尽くす和を発見して声をかけた。

 

「……あっ、山中先生。実は、さっき統夜君を見かけたんですけど、様子が変だったんです」

 

「様子が変?」

 

「えぇ。何かすごく思いつめているというか……」

 

「うーん……。あの統夜君がねぇ……」

 

顧問として軽音部に関わっているさわ子にも思い当たる節はなかった。

 

「……あれ?真鍋さんと山中先生。どうしたんですか?」

 

今度は帰り支度を終えたレオが玄関にやって来て、2人を見つけたので声をかけた。

 

「あっ、布道先生……」

 

「実は統夜君の様子が変みたいなんです。布道先生は私の代わりに臨時顧問をしてますけど、何か変わったことはありませんか?」

 

「え?変わったことですか?僕が知る限りでは思いつかないですね……」

 

レオには思い当たる節はあるのだが、魔戒騎士の秘密を話す訳にはいかないのでこう答えて話を誤魔化そうとした。

 

「統夜君も今をときめく高校生ですからねぇ。彼なりに悩みがあるんですよ」

 

レオは笑いながらこう言葉を付け足した。

 

「布道先生、発言が年寄り臭いですよ……」

 

レオの言葉に和がジト目でツッコミを入れていた。

 

「あれ?ところで布道先生は今お帰りなんですか?」

 

「えぇ。今日はこの後どうしても外せない用事がありまして帰らせてもらうことになりました」

 

「あら、そうなんですか?」

 

「えぇ。ですので僕はこの辺で失礼します」

 

レオは和とさわ子に一礼をするとそのまま玄関を出て行った。

 

「……布道先生の用事って何かしら……」

 

「さぁ……私にはわかりません……」

 

レオが帰るのを見送った和とさわ子はしばらくの間その場に呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉ちゃん!」

 

統夜が出て行ってしばらくたった頃、レオも出て行ったのだが、その直後に憂が音楽準備室の中に入ってきた。

 

「う、憂!?どうしたの!?」

 

憂が血相を変えてこの部屋に入ってきたので姉である唯は驚きながらこう聞いていた。

 

「と、統夜さん、何かあったの?さっき統夜さんに会ったんだけど、すごく思いつめた顔をしてたから……」

 

「あぁ、憂ちゃんも統夜に会ったんだな」

 

「憂、実はね……」

 

「……やーくん。黒の指令書っていうのを受け取ってから様子がおかしくなったんだよね。相当危ない仕事が待ってるみたいなんだって」

 

唯が簡潔に事情を話した。

 

「なるほど……。それで統夜さんの様子が変だったのね……」

 

憂は唯の説明で事情をだいたい理解した。

 

「統夜先輩……。すごく怖い顔してた……。統夜先輩、大丈夫かなぁ……」

 

梓は様子がおかしい統夜のことをとても心配していた。

 

「あぁ、そうだな」

 

「さすがに今回はあたしらが手伝えることはなさそうだな」

 

「うん……。私たちが統夜君の足を引っ張る訳にはいかないもの……」

 

「そうだよね……。それはわかってるんだけど……」

 

「お姉ちゃん……みなさん……」

 

唯たちは統夜が心配なあまり暗い表情をしており、それを見ていた憂もいたたまれない気持ちになっていた。

 

彼女たちに出来ることは統夜の無事を祈ることだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を後にした統夜は番犬所に直行した。

 

統夜が番犬所の中に入ると、神妙な面持ちをしている大輝の姿が一番最初に視界に入った。

 

「……統夜、来たか」

 

「……大輝さんもひょっとして?」

 

「あぁ。俺のところにも来たぞ。黒の指令書がな」

 

「やっぱり……そうだったんですね……」

 

「まぁ、俺も過去に黒の指令書を受け取ったことは一度しかなかったから正直動揺はしているがな」

 

ベテラン騎士である大輝でさえも黒の指令書の仕事の経験は一度しかなかったため、2度目の指令に動揺していた。

 

「……統夜も来ましたね」

 

「はい。黒の指令書を受け取って飛んできました」

 

「指令は見ましたか?」

 

「いえ。ここで見るつもりで来ました」

 

統夜は魔法衣の懐から魔導ライターを取り出すと、黒の指令書を燃やし、指令の内容を確認した。

 

「……強大な力を持つホラーが復活する兆しあり。直ちに復活を阻止し、それを企みし闇に堕ちた騎士を殲滅せよ」

 

統夜が指令を読み上げると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。

 

「……強大な力を持つホラー……ですか?」

 

「はい。この桜ヶ丘にそのホラーを封印した魔獣の牙があるのですが、それが昨晩、何者かに奪われました」

 

「!ま、まさかそんな……」

 

「残念ながら事実です。魔獣の牙を守っていた4人の魔戒法師は皆やられてしまいました」

 

「まさか、魔獣の牙を奪ったのは……」

 

「えぇ。闇に堕ちた魔戒騎士と見て間違いないでしょう」

 

「……」

 

統夜の両親は共に闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を討伐する仕事をしていた。

 

統夜にも同じ仕事が来たのは月影家の定めなのかと思ってしまった。

 

「どちらにせよその闇に堕ちた魔戒騎士とは接触せねばなるまい。奴が魔獣の牙を持っているのなら奪い返さなければいけないからな」

 

「大輝の言う通りです。あの牙はグォルブと呼ばれる強大なホラーを封じたものです。グォルブが復活すれば、恐ろしいことが起きるでしょう」

 

『何!?グォルブだと!?』

 

「イルバ、知っているのか?」

 

『グォルブというのは「メシアの腕」とも呼ばれているホラーで、並の魔戒騎士では束になっても敵わないほどの力を持つとんでもないホラーだ。もし奴が復活したならば今の戦力では勝ち目はない』

 

「!メシアの腕……だと!?」

 

メシアというホラーはホラーの始祖と呼ばれたホラーであり、とても強大な力を持つホラーであったが、牙狼の称号をもつ冴島鋼牙によって討伐された。

 

イルバの説明でグォルブと呼ばれるホラーがどれだけの力を持っているかを理解し、統夜は驚きを隠せなかった。

 

「最悪の状況に備え、黄金騎士と銀牙騎士に応援を要請しています。ですが、彼らの到着はまだわかりません」

 

(!鋼牙さんと零さんも来てくれるのか?……ということは今回はそれだけやばい敵だってことだよな……)

 

統夜は鋼牙と零が応援に来ることを知り、それだけグォルブや闇に堕ちた魔戒騎士の存在を元老院が重く受け止めているのではないかと推察していた。

 

「……統夜、大輝。大変ではありますが、布道レオもいます。3人で力を合わせてグォルブの牙を奪った魔戒騎士を見つけて殲滅し、グォルブの牙を取り戻してください」

 

「はい!お任せください、イレス様!」

 

「全力を尽くします!」

 

大輝と統夜はイレスに深々と頭を下げ、指令を受領した。

 

その時だった。

 

「……すいません、遅くなりました」

 

レオが番犬所の中に入ってきた。

 

「レオ、来ましたね。ところで例の準備はどうですか?」

 

「はい、もう間もなく終わります」

 

レオはレオでイレスから別命を受けており、そちらの方は順調に事を進めていた。

 

「そうですか。レオはそちらの作業を速やかに終わらせて、終了次第統夜と合流し、共に闇に堕ちた魔戒騎士の捜索をして下さい」

 

「わかりました。任せてください」

 

レオも自分の指令を受領した。

 

こうして統夜、大輝、レオの3人は番犬所を後にすると、それぞれ別行動で動き始めた。

 

 

 

 

 

 

統夜は桜ヶ丘の街の方を北上していた。

 

「……イルバ、どうだ?」

 

『今のところは怪しい気配はない。これは気を引き締めて探す必要がありそうだ』

 

統夜とイルバは未だ闇に堕ちた魔戒騎士を発見出来ずにいた。

 

しかし……。

 

『……!統夜!ホラーの気配だ!』

 

「くそっ!こんな時にホラーか!」

 

『闇に堕ちた魔戒騎士を探す必要はあるが、ホラーは捨て置けんからな。しかもここから近いぞ』

 

「あぁ、わかった!」

 

統夜はイルバのナビゲーションを頼りにホラーを探すことにした。

 

 

 

 

 

 

統夜がホラー捜索を始める少し前、長い金色の髪に青い瞳の少女が街を歩いていた。

 

彼女は外国人でもハーフでもなく、純粋な日本人であった。

 

その少女……斉藤菫(さいとうすみれ)は頼まれていた使いの仕事を終わらせて家に帰る途中だった。

 

菫は実は紬の家で使用人として働いており、父は琴吹家に仕える執事である。

 

「あぁ……遅くなっちゃった……。早く帰らないと……」

 

お使いが思った以上に時間がかかってしまい、帰りが遅くなってしまった。

 

菫は急ぎ足でいつもの帰り道を歩いていたのだが、この日は何故か人が全くおらず、外の雰囲気に不気味ささえ感じていた。

 

「何か不気味だなぁ……。いつもはこんなんじゃないのに……」

 

菫はいつもと違う帰り道の雰囲気に少しだけ怯えていた。

 

その怖さを振り切って帰ろうと思ったその時だった。

 

__キシアァァァァァァ!

 

突然奇妙な鳴き声が聞こえたと思ったらこの世のものとは思えない怪物が菫の前に現れた。

 

「ヒッ!?な、何!?」

 

菫は見たこともない怪物を目の当たりにして恐怖に怯えていた。

 

このままではいけないそう思って逃げようとしたが、恐怖で足がすくんで思うように逃げることが出来なかった。

 

「……え?ど、どうして……?」

 

そうしているうちにも怪物は菫に迫っていた。

 

(怖い……!怖いよ……!お姉ちゃん……お父さん……助けて……!)

 

菫は目を閉じ、助けが来る事を祈っていた。

 

その時だった。

 

菫の目の前に赤いコートの少年が現れると、その怪物を蹴りで吹き飛ばした。

 

「え……?」

 

菫は目の前の少年の存在に驚いていた。

 

まさか本当に助けが来てくれるとは思っていなかったからだ。

 

「君……大丈夫か?」

 

その少年……統夜は怪物……ホラーを蹴りで吹き飛ばすと、魔戒剣を抜いて、構えた。

 

「え!?け、剣!?」

 

統夜が手に持っている魔戒剣を見て菫は目を丸くしていた。

 

このご時世剣を持っている人間なんていないからである。

 

菫は驚きながら統夜のことを見るが、その佇まいと赤いコートに見覚えがあった。

 

(あれ?この人ってもしかしてお姉ちゃんの……)

 

「……君、早く逃げろ!」

 

統夜は菫に逃げるよう告げると、ホラーめがけて突撃していた。

 

菫は統夜の言葉を聞いてすぐさまその場から逃げ出したのであった。

 

『統夜、こいつはただの素体ホラーみたいだ』

 

「闇に堕ちた魔戒騎士を探さなきゃいけないんだ……。こんなところで時間を食うわけにはいかない!」

 

ホラーめがけて突撃した統夜はホラーを蹴りによる一撃で吹き飛ばすと

魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれた統夜は奏狼の鎧を身に纏った。

 

統夜は奏狼の鎧を召還してすぐに皇輝剣を一閃し、ホラーを一撃で斬り裂き、葬った。

 

断末魔をあげながら素体ホラーは消滅した。統夜は鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「……イルバ、他のホラーの気配はないな?」

 

『あぁ。今のところはホラーの気配はないぜ』

 

「早く例の魔戒騎士を見つけなきゃいけないんだ……急がないと」

 

統夜はすぐさまその場から離れると、再び闇に堕ちた魔戒騎士の捜索を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、桜ヶ丘郊外を中心に捜索を行っていた大輝であったが、こちらもめぼしい成果はなかった。

 

大輝はグォルブの牙が封印されていた洞窟にも行ってみたのだが、こちらも人の姿はなかった。

 

(やはりここにいるわけはないよな……。今度は町の方を探してみるか……)

 

大輝は桜ヶ丘郊外の捜索を諦め、町の方へ移動しようとしたその時だった。

 

「ククク……貴様が探しているのはこの私か?」

 

大輝の目の前に突然フードを被った謎の男が現れた。

 

「貴様か……!魔獣の牙を持ち去った魔戒騎士というのは!」

 

大輝は魔戒剣を抜くと、男を睨みつけた。

 

「いかにも……。だが、私をただの魔戒騎士と一緒にされては困る」

 

「闇に堕ちたから俺たちとは違うって言いたいのか?」

 

「フン、私はそこらの欲に溺れた連中とは違う……。私は、暗黒の力を得ているのだからな……」

 

「!?ま、まさか貴様……!」

 

大輝は暗黒という言葉を聞いて、男が何者なのかある程度検討がついたのであった。

 

「貴様のような称号も持たぬ雑魚など私の敵ではない」

 

「くっ!なめるなぁ!!」

 

大輝は怒りに震えながら魔戒剣を一閃するが、男はその攻撃を鞘に納まったままの剣で受け止めた。

 

「な!?」

 

「フン。貴様など剣を抜くまでもない」

 

男は蹴りを放って大輝を吹き飛ばした。

 

「鎧を召還したければするがいい。そうしても貴様など私の敵ではないのだからな」

 

「人をなめるのも……大概にしろ!!」

 

大輝は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれ、大輝は鋼の鎧を身に纏った。

 

「貴様を斬って魔獣の牙を取り戻す!」

 

「貴様にそれが出来るかな?」

 

男は終始大輝への挑発をやめなかった。

 

「貴様ぁ!!」

 

大輝は変化した魔戒剣を構え、男に攻撃をしかけた。

 

男は迫り来る大輝を見ながら笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、ホラーを討伐した統夜は町をくまなく捜索していた。

 

「くそっ、街中にはいないな…」

 

『だとしたら郊外の可能性がありそうだな』

 

統夜は街中の捜索を一時中断し、郊外の方を捜索しようとしていた。

 

その時……。

 

「統夜君!!」

 

番犬所からの仕事を終わらせたレオが統夜と合流した。

 

「レオさん、仕事の方は終わったんですか?」

 

「はい。だからこの後は統夜君と行動を共にします!」

 

「よろしくお願いします。……とりあえず街中には例の騎士はいなさそうだから郊外の方を探そうと考えていました」

 

統夜から近況報告を聞いたレオはうーんと考え事をしていた。

 

「統夜君、一度グォルブの牙が封印された洞窟に行ってみませんか?」

 

「え?それってその洞窟周辺に潜伏してる可能性があるってことですか?」

 

「はい。その男は大きなことを企んでいるんです。そうそう遠くには移動しないのではないかと僕は思うんです」

 

「それは一理ありますね。そしたらそこに行ってみましょう」

 

こうして2人はグォルブの牙が封印された洞窟へ一度行ってみることにした。

 

そして2人が洞窟に到着すると……。

 

「うっ……くっ……」

 

2人が目にしたのは血だらけの状態で倒れている大輝であった。

 

「!だ、大輝さん!」

 

統夜とレオは大輝に駆け寄った。

 

「大輝さん!大丈夫ですか?」

 

「統夜……レオ……。気を付けろ……あいつは……普通……じゃない……」

 

大輝はこう告げると意識を失ってしまった。

 

「大輝さん!」

 

「統夜君、傷はひどいですが、気を失ってるだけです。命に別状はありません」

 

「だとしたら一度治療しないといけないですね」

 

『……統夜。残念ながらその暇はないようだぜ』

 

「えっ?」

 

イルバは何者かの存在を察知していた。

 

「ほぉ、魔導輪はそれなりに優秀みたいだな」

 

統夜とレオの目の前に現れたのは、フードを被った謎の男であった。

 

(……!こいつ、今まで戦ってきたやつらとは格が違う……!)

 

統夜はその佇まいから男が只者ではないとすぐに察しがついた。

 

「初めましてだな。月影統夜……いや、白銀騎士奏狼!」

 

男は統夜の名前だけではなく、統夜の称号までも知っていた。

 

「貴様!どうして俺の名前だけじゃなく、称号まで知ってるんだ!」

 

「ククク……。知っているさ……。この街を守る魔戒騎士さんだからな!」

 

統夜は男の不遜な態度に戦慄さえ覚えていた。

 

こうして統夜はグォルブの牙を奪った男と対峙していた。

 

統夜と男の邂逅はこれから起こる戦いの序章に過ぎなかった……。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『おいおい、こいつは驚いたな。どうやら俺たちが倒すべきなのはこの男だけじゃなないようだ。次回、「混沌」。統夜、油断するなよ!』

 

 




漆黒の騎士が牙を剥く!(鎧が出るとは言っていない)

まさにそんな展開になってしまいました(笑)

どんな暗黒騎士が出てくるか楽しみにしている皆さんには大変申し訳ないのですが、鎧は次回に登場しますので、もう少しお待ち下さい。

イルバのイメージCVは影山さんなので、格好いい曲歌ってそうだよな!という地味な小ネタを挟んでみました(笑)

そして次回は統夜と男が直接対決をします。

男が身に纏う鎧はどのようなものなのか?そして統夜は男を倒して魔獣の牙を取り返すことが出来るのか?

次回をお楽しみに!

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