まさかのあのキャラ回とは……。
予想をしていなかったのでびっくりかつ嬉しかったです。
あの2人の他に彼も出てきてびっくりしました。
さて、今回は統夜が久しぶりにあの力を使うのか?といった感じになります。
それでは第16話をお楽しみください!
……ここは桜ヶ丘某所にあるレース場。そこの控え室にある長椅子に1人の男がうなだれながら座っていた。
男の名前は風間隼人。桜ヶ丘を中心に活躍するバイクレーサーである。
しかし、最近は成績が振るわず、引退もささやかれていた。
「くそっ……!なんで最近は記録が伸びないんだよ……!」
隼人は記録が伸びないことに悩んでいた。
「成績が伸びないのはマシンのせいか……?だけど、今の俺にはマシンをチューンする余裕はないし……」
隼人は以前から自分のマシンのチューンアップを考えていたが、経済的問題でそれは叶わなかった。
「……俺はまたあの気持ちを味わいたい。最高のマシンに乗って最高の風を感じて最高の栄光を手に入れたい……!」
隼人はかつての栄光を取り戻したい!そう心に祈っていた。
その時だった。
__貴様、取り戻したいのか?かつての栄光を……。
「だ、誰だ!?」
隼人は謎の声に怯えていた。
__そんなに怯えることはない。我は貴様と同じだ。スピードで競うというのが大好きなのだ。それで、誰よりも速くなりたいとも思っている。
「ほ、本当に同じだ……」
__我の力を使わないか?そうすれば貴様は最高のマシンなどなくても最高のスピードを手に入れることが出来る……。
「ほ、本当か?」
__あぁ……。貴様の払う代償はたった一つだ……。
「このままじゃレーサーとしても死んだも同然なんだ。何だってしてやるよ」
__そうか……。ならば、貴様の命をもらうぞ!!
長椅子に置いてあったとある置物から黒い粒子が突然現れると、それが隼人の体の中に入っていった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
控え室一帯に隼人の断末魔が響き渡っていた。
「………」
黒い粒子が収まると、隼人の瞳は不気味な輝きを放っていた。
隼人は不敵な笑みを浮かべると、控え室を後にし、どこかへと姿を消した。
数日後、この桜ヶ丘レース場でとあるレースが行われていた。
それに隼人も出場していたのだが、何と隼人は2位以降を大きく突き放し、ぶっちぎりな成績でそのレースを制した。
(そう……。そうだ!これだ。この感触だ!俺はこの感触を味わいたかったんだ!)
表彰台に上がる隼人は優越感に浸っていた。
その後、控え室に戻った隼人は着替えを済ませてのんびりと休んでいた。
「あっ、隼人さん、お疲れ様です」
控え室に入ってきたのは隼人の後輩であり、ライバルでもある堀田龍だった。
「おう、龍。お疲れさん」
「隼人さん、今日のレース最高でしたよ。風間隼人復活っすね!マスコミも大騒ぎでしたよ!」
「ふっ、そうだろうな」
「隼人さん、その秘訣は何だったんすか?教えてくださいよ」
龍は隼人に成功の秘訣を教わろうとしていた。
「秘訣か……。いいだろう、お前には特別に教えてやろう」
「え!?マジっすか?やったぜ!……で、何なんすか?」
「………」
隼人は急に黙り込むと不敵な笑みを浮かべていた。
「……は、隼人……さん?」
隼人は急に龍の胸ぐらを掴み始めた。
「い、一体何をするんすか!?」
「俺の成功の秘訣を知りたいって言ってたよな……。……俺はな、悪魔に魂を売ったんだよ!!」
「!!」
「貴様の才能ももらうぞ。より高みを目指すために」
隼人はそう言うと龍の体を粒子に変えてしまうとそのまま龍を喰らった。
龍は抵抗も一切出来ず粒子にされてしまい、隼人に喰われてしまった。
「フフフ……。これでまた一流のレーサーに近付くぞ……」
隼人は不敵な笑みを浮かべると、控え室を後にした。
※※※
統夜がホラー、ジャーレデーアを討伐した翌日、校内はアイドルの姫野綺沙羅が行方不明になった事件の話で持ちきりになっていた。
統夜はアイドルが次々と行方不明になる事件を解決した本人なので何も言うことはなく話を聞いていた。
放課後、いつものようにティータイムを行っていた統夜だったが、やはり話は姫野綺沙羅の話になっていた。
「何か学校中が昨日の話で持ちきりだねぇ」
「まぁ、人気アイドルの失踪ともなるとマスコミも黙ってないよな」
「あいつはホラーなんだ。遅かれ早かれ消えるのは運命だったんだよ」
統夜は冷静にこう言うとゆっくりと紅茶をすすっていた。
「まぁ、そうだよねぇ……」
「……あれ?そういえばレオ先生は?」
「あぁ、レオさんなら先生の仕事で忙しいんじゃないのか?」
レオはとある指令でこの桜ヶ丘に来たのだが、教師と名乗っているため、普段は教師の仕事に追われている。
今日も仕事が行っているからか軽音部に顔を出してはいなかった。
「ふーん。レオ先生も大変だな」
「そうだよな、レオさんは魔戒法師としての仕事もあるし、教師の仕事もあるしな」
「なぁ、統夜。レオ先生は魔戒騎士でもあるんだよな?」
澪が確認のために統夜に聞いていた。
「そうだよ!レオ先生が魔戒騎士だなんて知らなかったもん!」
唯が抗議するように訴えかけると、澪たちはウンウンと頷いていた。
「黙ってたのは悪かったよ。でもこれはレオさんの意向でな。レオさんは魔戒騎士ではあるけど、魔戒法師の仕事の方が多いんだ。だから主に魔戒法師として魔戒騎士や他の魔戒法師のサポートをして、時には自分もその力でホラーを討滅する。そういう生き方を選んだみたいなんだ」
「……やっぱり魔戒騎士と魔戒法師にも色々あるんですね……」
「まぁ、そういうことだ」
統夜はこう話をまとめると、また紅茶をゆっくりと飲んでいた。
こうしてのんびりとティータイムを行っていたその時だった。
「統夜君、いますか?」
レオが音楽準備室の中に入ってきた。
「レオさん、どうしました?」
「番犬所から指令みたいですよ」
レオは手に持っていた赤の指令書を統夜に手渡した。
「あっ、その封筒何か見覚えがあるような……」
「そういえばみんなもチラッとは見たことはあったな。……これはな、魔戒騎士の指令が書かれた指令書なんだよ」
「指令書?……っと言うことはその指令を受けてホラーを倒すってことなのか?」
「ご名答♪」
澪が指令書について正解を答えたのでこう返すと、統夜は長椅子に置いてある魔法衣から魔導ライターを取り出した。
「……あっ、それって……」
「あぁ。これは魔導火と呼ばれる特殊な火を放つライターだな。俺たち魔戒騎士の必需品なんだよ」
「それって確かホラーをの正体を見破る時に使うんだよねぇ?」
「それだけじゃないぞ。魔導火の力を借りてホラーを攻撃したり、この指令書を読むのにも使うんだよ」
「え?封筒の手紙を読むのにライター……ですか?」
「まぁ、百聞は一見に如かずだな」
統夜はみんなが見えるところで指令書を魔導火で燃やした。
「「「「「!!!!」」」」」
統夜の思わぬ行動に唯たちは驚きを隠せなかった。
「や、やーくん!?何やってるの!?」
「そうですよ!手紙を燃やすなんて!……って何か出て来ました」
唯たちが戸惑う中、指令書から魔戒語で書かれた文章が浮かんできた。
「……こ、これって何て書いてあるんだ?」
「律、私に聞くなよ」
魔戒語で書かれた文章はさすがの澪もちんぷんかんぷんだった。
そんな中……。
「……己の速さのみを追求し、才能をありし者を喰らうホラーあり。ただちに殲滅せよ」
「「「「「!!!」」」」」
統夜がスラスラと魔戒語の文章を読むと、唯たちはまた驚いていた。
統夜が指令の確認を行うと、魔戒語で書かれた文章は消滅した。
「と、統夜先輩、い、今の……読めるんですか?」
「あぁ。魔戒語が読めなきゃ魔戒騎士失格だからな」
「魔戒語ってさっきの文章のことだよな?」
「あぁ。番犬所からの指令は必ず魔戒語なんだよ。万が一誰かに見られてもその人は謎の暗号ぐらいにしか思わないからな」
「「「「「確かに……」」」」」
統夜の説明に唯たちは納得したようだった。
『ホラー、ローウィン。こいつはホラーの中でもスピード狂でレースをこよなく愛する変わり者のホラーだ』
イルバが今回討伐するホラーの解説を行った。
「へぇ、イルイルってさっきの文章からホラーのことがわかったんだね」
『まぁな。指令の内容さえ聞けば大抵のホラーはわかるぜ。……それと唯。毎度毎度言っているが、俺様を変なあだ名で呼ぶな!』
イルバが懲りずにいつものやり取りをしていたので、統夜たちは苦笑いをしていた。
「さて……。指令が来たんなら今日はもう行かないと……」
統夜はスタンドにセットされたイルバを自分の左手にはめると、帰り支度を始めた。
「統夜先輩……。行っちゃうんですね」
梓は少し悲しそうな顔を統夜に向けていた。
「そんな顔をするなって。俺は必ず生きて帰る。信じてくれ」
統夜は梓の目をしっかり見ながらこう伝え、それを聞いた梓は少しだけホッとしていた。
「それじゃあ、俺は行くな」
「やーくん、気を付けてね」
「統夜、無茶だけはするなよ」
「そうだぜ、そこは忘れるなよ」
「うん。私たちは統夜君のことを信じているから♪」
「統夜君。僕も仕事が終わり次第応援に駆けつけますのでそれまでお願いします」
「……はい。わかりました」
統夜は音楽準備室を後にすると、ホラーを捜索するために行動を開始した。
※※※
統夜はイルバのナビゲーションを頼りに訪れたのは桜ヶ丘某所にあるレース場だった。
「……イルバ、ここでいいのか?」
『あぁ、ホラーの気配はここからしているぜ』
「にしても広すぎるな……。これは根気強く探さないといけないな」
レース場のとあるコースのスタート地点に立っている統夜はここからどうホラーを探そうか考えていた。
その時だった。
「……おい!お前は俺を探しているんだろう?魔戒騎士!」
突如統夜の目の前に現れたのはホラーに憑依された隼人であった。
「ホラー自らお出ましとは、どういう風の吹き回しだ?」
「俺は逃げも隠れもしない主義なんでね。それに、コソコソと探られるのも不愉快だ」
「へぇ、まぁおかげで探す手間は省けたがな!」
統夜は魔戒剣を抜くと、それを構えて隼人を睨みつけていた。
「まぁ待て。俺は今はお前と争うつもりはないんだよ」
「お前にはなくても俺にはある!」
統夜は魔戒剣を一閃するが、それは隼人にかわされてしまった。
「俺はまだ死ぬわけにはいかないんだよ。明日のレースに出るまではな」
「ホラーの戯言に付き合う道理はない!」
統夜は再び隼人に攻撃を仕掛けるが、隼人は鮮やかな動きで統夜のことをいなしていた。
「まぁ、そう慌てるな、魔戒騎士。今のお前じゃこの俺を斬ることは出来ないぞ」
「ふざけるな!俺はお前を斬る!」
『統夜。少しは落ち着け!お前がそんなんじゃ倒せる敵も倒せないぞ!』
「そこの魔導輪の言う通りだ。明日のレースが終わればちゃんと相手をしてやるよ」
「それを待っていられるか!」
統夜は二度三度と魔戒剣を振るうが、隼人の動きは機敏で動きを捉えることは出来なかった。
『統夜。やつはスピード狂なだけあってその動きは機敏だ。冷静に動きを見極めないと動きを見極めることは出来ないぞ?』
「わかってる!」
「ヘヘッ、魔戒騎士といってもすぐにムキになるところはやっぱりガキだな」
「黙れ!」
統夜の何度目かの攻撃をかわした隼人は蹴りを放って統夜を吹き飛ばした。
「ぐぁっ……!」
「遅い遅い。お前の動きはスロー過ぎて欠伸がでるぜ」
隼人はそう言うと本当に欠伸をしていた。
「……もう遊びは終わりだ!」
統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれた光に包まれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。
「なるほど……。お前さんも本気って訳か。だったら……!」
鎧の召還を見た隼人もまた自らの姿を変え、ホラーの姿に変わった。
『統夜。こいつがホラー、ローウィンだ。この姿になったらさらに機敏な動きをするぞ!油断するな!』
「あぁ!」
統夜は皇輝剣を構え、ローウィンを睨みつけた。
ローウィンは自らの足をローラーブレードのような姿に変化させると、先ほど以上に俊敏な動きで統夜を翻弄していた。
「ちっ……。本当に速いな、こいつ……」
ローウィンのあまりに速い動きは統夜に捉えることは出来なかった。
「統夜。目で相手の動きを見ようと思うな!心の目で見るんだ!』
「心の……」
統夜は瞳を閉じ、精神を集中させた。
精神を集中させてローウィンの気配を追っていた。
そして……。
「そこだ!!」
統夜は皇輝剣を一閃した。
しかし、その一撃でローウィンを切り裂くことは出来ず、ローウィンの体にかすめるだけにとどまった。
「っとと!今のは危なかったぜ。さすがは魔戒騎士と言ったところだな」
「ちっ……!だが、まだだ!」
統夜は再びローウィンに攻撃を仕掛けようとするが……。
『まずいぞ、統夜!早く鎧を解除しろ!』
鎧の制限時間が刻一刻と迫っていた。
「くそっ!」
統夜は舌打ちをすると、鎧を解除した。
「危なかった……。あともう少し時間がありゃやられていたぜ」
ローウィンは鎧を解除した統夜を見て安堵していた。
「……今日はこの辺で失礼するぜ。明日のレースに支障を来たすんでな」
ローウィンは衝撃波を放って統夜を吹き飛ばすと、そのスピードを活かしてその場から逃走した。
「……くそ、逃げられたか……」
『統夜、お前もまだまだだな。ホラー相手に心を乱されやがって……』
「そうだな。早急に倒さなきゃと思って焦ってたよ」
統夜は魔戒剣を鞘に納めるとホラーを取り逃がしたことに責任を感じて唇を噛んでいた。
その時……。
「統夜君!!」
統夜の名前を呼び駆け寄ってきたのはレオだった。
「レオさん……。すいません、ホラーは逃してしまいました」
「え?そうなんですか?すいません、僕がもっと早く行けてたら……」
「レオさんが悪いんじゃないです。全ては俺が未熟だったから……」
『あぁ、そうだな。お前はまだまだ未熟だ』
イルバのダメ出しに統夜は黙ってしまった。
『……だが、あのホラーは明日のレースに出ると言っていた。だとすると、明日のレースの時に接触のチャンスがあるはずだ』
「そのホラーに関しては僕も調査しました。それで、明日のレースに参加して調査しようと考えていたところです」
レオはレオでホラーの調査を行っており、じっくりとホラーを捜索するつもりでいた。
「……ホラーの正体はわかりました。今度は必ず斬ります」
「統夜君。ホラーを狩るその使命感はとても大切ですが、焦りは禁物ですよ?確実にホラーを追い詰めて討伐すればいいんですから」
レオは統夜自身の焦りが原因でホラーを逃したと察してこう統夜にアドバイスを送っていた。
「……そうですよね、ありがとうございます、レオさん。今の言葉で俺、目が覚めましたよ」
統夜はアドバイスをくれたレオに素直に感謝し、次こそはローウィンを確実に仕留めると決意した。
「ところで、レオさん。明日のレースにはどうやって潜り込むんですか?」
「あぁ、実は明日のレースに急遽出られなくなったレーサーがいましてね。彼の名前を借りて出場する予定です。番犬所の協力も得てそのように手配しています」
レオはまるでこのことを予期していたかのようにホラーを追い詰めるための手筈を整えていた。
それを聞いていた統夜はさすがは長きに渡りホラーを狩り続けてきただけあるなと素直に感心していた。
「レオさん、そのレースですけど、俺にレーサーをやらせて下さい!」
「えぇ!?でも、統夜君。君はバイクには乗れないですよね?」
「実はバイクの免許は持ってるんです。魔戒騎士たるもの何でもこなすべきと思いまして。バイクの操縦は零さんに教わりましたから問題ないです」
統夜は16歳になるとバイクの免許が取れることを知っていたのですぐ免許を取りに行った。
しかし、桜ヶ丘高校は当然と言うべきかバイクでの登校は禁止されていたので運転する機会はほぼなかったが、零にバイクの操縦を教わったこともあった。
それ故に統夜はそれなりにバイク操縦の経験はあった。
「そういうことなら統夜君にお任せします。僕もバイクは乗れることは乗れますが、ちょっと苦手でして……」
「それならなおさら任せてください!……後、明日のレースですけど、俺に考えがあります。ホラーを追い詰める作戦を」
「それは一体?」
統夜は自分の作戦をレオに伝えると、レオは驚きながらも感心していた。
「なるほど……。統夜君、さすがですね。その作戦の進行、もちろん僕も協力します」
「ありがとうございます、レオさん。よろしくお願いします」
こうして統夜はレオと協力してローウィンを追い詰めるため、行動を開始した。
※※※
翌日、この日も学校であったが、統夜はこの日学校を休んでいた。
放課後になり、唯たちは統夜なしでティータイムを行っていた。
「……統夜先輩、今日学校お休みしてるんですよね……」
「うん、そうなんだよねぇ……」
「統夜君、昨日はホラーの討伐上手く行かなかったのかしら?」
「レオ先生も学校を休んでるらしいぞ」
「うーん。それは気になるなぁ」
唯たちは学校を休んでいる統夜やレオのことを心配していた。
「話は変わるけどさ、最近風間隼人ってバイクレーサーが最近人気らしいな」
そんな中、澪が唐突に話題を変えた。しかも、ホラーである風間隼人のことであるが、澪は隼人がホラーだとは知らなかった。
「どなた?」
「当時はかなり人気だったバイクレーサーだったんだけど最近は記録が伸び悩んでたみたいなんだよ。でも最近になってまた記録が伸び始めて風間隼人復活なんて言われてるんだよ」
「へぇ、みおちゃん、詳しいね!」
「澪ってスポーツだけじゃなくてこういうレースとかを見るの好きだもんな」
澪とは1番長い付き合いである律は澪がこのようなレースも好きだということを知っていた。
「そういえば今日もその風間隼人のレースがあるんだよ!そろそろ時間かな……」
澪は携帯を取り出すと、携帯のワンセグ機能を起動させてバイクレースのテレビ放送を見ていた。
唯たちも澪のもとに集まって携帯の画面を見ていた。
『さぁ、いよいよ始まりました、風雲杯。このレースを制するのはいったい誰になるのでしょうか?』
レースの実況が始まり、レーサーたちが続々とスタートの準備をしていた。
『さぁ、解説の涼元さん。このレース注目の選手はいったい誰になるでしょうか?』
『そうですね、やはり風間隼人でしょう。彼はここ最近破竹の快進撃を重ねていますからねぇ』
「うんうん、やっぱりそうだよな!」
澪は解説の言葉に同意していた。
「アハハ……。みおちゃん、ノリノリだね……」
あまりにも楽しそうにしている澪を見て唯は苦笑いをしていた。
『あと、注目なのは初出場のシルバーファングですね。赤いコートに黒い仮面を被った謎の多い選手ですが、果たしてどのようなレースを見せてくれるのでしょうか?』
「あーっ!!!」
謎の多い選手と言われたシルバーファングを見て唯は思わず声をあげた。
「ゆ、唯先輩!?どうしたんですか?」
「こ、この仮面の人……やーくんじゃない?」
唯の指摘を受けて4人は画面を凝視していた。
「た、確かに……」
「あの赤いコートにある四角の紋章……。間違いなく統夜だな」
「どうして統夜先輩が?確か今日って学校を休んでましたよね?」
「まさか、あのレーサーの中にホラーがいるからとか?」
「「「「………」」」」
紬の推察を聞いて納得したのか4人は無言になっていた。
「それにしても、統夜先輩ってバイクに乗れるんですね」
「まぁ、免許は取れるから乗れても不思議はないけど、知らなかったよ」
「全くだ。なんで統夜はバイクに乗れることを黙ってたんだよ!」
「私も乗ってみたいのに……」
「アハハ……」
唯たちは統夜がバイクには乗れることを知って口々に驚いたり文句を言ったりしていた。
「あっ、レースが始まるみたいですよ」
梓の指摘通りレースは間もなく開始されるようだった。
『さぁ、各車一斉にスタートしました!』
実況の人のアナウンスと共にレースは開始され、各車が一斉にスタートした。
スタートしてすぐ、レースに動きがあった。
『おっと、風間隼人速い!早くも2位以下を突き放しております!』
隼人がさっそくトップに躍り出て、リードを守っていた。
「おぉ!やっぱり最近の風間隼人はすごいな!」
レースを見る澪の目はとてもキラキラしていた。
『おっと!ちょっと待ってください!風間隼人を猛追している選手がいます!……これは、シルバーファングです!ものすごいスピードで風間隼人に迫っております!』
「おぉ!やーくんが追いついてきたよ!」
「すごい……。統夜先輩、プロのレーサー相手に負けてないです……」
「これは、風間隼人といい勝負ができるんじゃないのか?」
「統夜君、頑張れぇ♪」
「………」
唯たちは統夜が予想以上に奮闘していることに驚きながらも統夜の応援をしていた。
レースの序盤は風間隼人の独走だったが、統夜ことシルバーファングが徐々に隼人との距離を詰めていった。
この展開に実況者も解説者も驚いているようだった。
『さぁ、レースは中盤ですが、まさかの展開ですね、涼元さん!』
『えぇ。私は風間隼人の活躍を鑑みて、今回も独走と考えていましたが、まさか初出場のシルバーファングが予想以上の奮闘を見せていますね。これはもしかすると風間隼人に追いつく勢いじゃないでしょうか?』
解説者の言う通り、統夜はこのまま隼人のことを抜かしそうな勢いであった。
唯たちは固唾を飲んでレースの行方を見守っていた。
そして……。
『おぉっと!ついにシルバーファングが風間隼人を抜かしたぁ!!』
「おぉ!やった!やったよ!!」
「はい!統夜先輩が1位になりましたよ!」
「だけど、勝負はここからだぞ」
「あぁ。風間隼人だって黙ってないだろうしな」
「統夜君頑張ってぇ♪」
レースの展開が変わり、唯たちの応援にも熱が入っていた。
そしてレースも終盤に差し掛かり、とある分かれ道に差し掛かった。
統夜と隼人は矢印の方に移動するが、その直後、矢印の向きが逆になっていた。
『おぉっと!?どういうことだ!?シルバーファングと風間隼人がコースから外れてしまったぞ!!』
何故か統夜と隼人はコースアウトしてしまい、その後、他のレーサーたちは続々と正規のルートを通っていた。
「えぇ!?やーくん、違う道走っちゃってるよ!!」
「な、何やってるんですか!?統夜先輩!!」
「だけど、風間隼人も一緒にコースアウトしてるぞ」
「ということはまさか風間隼人が……?」
「うん、その可能性は高いわね」
唯たちは突然統夜がコースアウトしたことに驚いているが、その一方でホラーの正体が風間隼人ではないかと疑いを持っていた。
唯たちはレースを見ることを中断し、再びティータイムを始めたのであった。
※※※
ホラー、ローウィンを取り逃がしてしまった統夜はその雪辱を晴らすためにレオと共にバイクレースに参加することになった。
統夜はシルバーファングという名前で出場し、レオはホラーをとある場所へ誘導するために準備を行っていた。
そしてレースはスタートし、最初こそ失速していたものの、バイク操作のコツを掴んだ統夜はレーサーたちをごぼう抜きして行き、隼人に迫っていた。
そんな統夜を見て隼人は笑みを浮かべながら統夜を迎え撃とうとしていた。
レース中盤、統夜は隼人をなかなか抜かせずにいたが、統夜はついに隼人を抜かすことが出来た。
隼人はそんな統夜を抜かし返そうとするが、統夜はトップの座を譲らなかった。
そして、とある分かれ道に差し掛かると、統夜と隼人は矢印の方角へと移動した。
それを見ていたレオが魔導筆で術を放つと、矢印の向きが逆になった。
(僕のお膳立ては終わりました。あとは君次第ですよ、統夜君)
レオは自らの仕事を全うすると、その場から姿を消した。
統夜と隼人はバイクでしばらく走り続けるが、4キロほど走ったところで行き止まりに差し掛かり、2人はバイクを止めた。
2人はそのままバイクを降りて、ヘルメットを外した。
統夜はさらに正体を隠すために被っていた仮面を外して投げ捨てた。
「貴様……。よくも神聖なレースを汚したな!」
レースを邪魔され、隼人は怒りに満ちた表情で統夜を睨みつけた。
「勘違いするなよ。俺はレースをしに来たんじゃない。お前を追い詰めるためにこのレースに参加したんだ」
統夜は魔戒剣を抜くと、それを構えて隼人を睨みつけていた。
「貴様ぁ!!」
怒りに支配された隼人は統夜に攻撃を仕掛けるが、そのどれもが精細さに欠けていたため、すべての攻撃が統夜にかわされてしまった。
「なっ!?俺の攻撃を?」
「バイクレースを通して色々学ばせてもらったからな。今の俺ならお前のスピードにもついてこれる!」
統夜は連続で隼人を斬りつけると、蹴りを放って隼人を吹き飛ばした。
「おのれ……。魔戒騎士!」
隼人は自らの体をホラーの姿に変えた。
「いくら昨日より動きが良くなっても、俺の本気のスピードには追いつけまい!」
ローウィンは足をローラーブレードのような形に変化させると、その俊敏な動きで統夜を翻弄していた。
「……なるほど、やっぱり速いな。だけど……そんなスピードじゃ、俺は満足できないぜ!」
統夜はローウィンに翻弄されながらもその攻撃を次々とかわしていった。
「……貴様の陰我、俺が断ち切る!」
統夜は魔戒剣を前方に突き上げると、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれ、統夜は奏狼の鎧を身に纏った。
「お前の力を使うぜ……。白皇!!」
統夜は鎧を召還してすぐに魔導馬である白皇を召還した。
「……面白い!その駄馬で俺のスピードに追いつけるかな?」
「白皇が駄馬がどうか……確かめてみろ!」
統夜と白皇はローウィンとスピードで競っていた。
そのスピードは両者互角で、お互い走りながら攻撃を仕掛けて小競り合いをしていた。
「くっ……。なかなかやるな……」
「当たり前だ。俺はホラーを狩る者。どんな事をしても俺はお前を斬る!」
統夜とローウィンはその後も互いの速さを競っていた。
『統夜!その辺にしておけ!このままじゃレースの分岐点に戻るぞ!』
イルバの指摘通り、先ほど曲がった分かれ道が見えてきた。
「あぁ、そうだな!」
統夜は白皇に蹴りをさせてローウィンを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたローウィンを見ながら統夜は狙いを定めていた。
「……これで決める!」
統夜は白皇をローウィン目掛けて走らせると、皇輝剣を一閃し、ローウィンの体を真っ二つに斬り裂いた。
皇輝剣の一閃により切り裂かれたローウィンは断末魔をあげながら消滅した。
ローウィンが消滅した事を確認した統夜は鎧を解除した。
「ふぅ……。どうにか倒したな……」
統夜はこう呟くと元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。
『統夜、やったな。課題は残る戦いではあったが、まぁ良かったんじゃないか?』
イルバは皮肉を言いながらも統夜のことを労っていた。
その時だった。
「統夜君!!」
どこかに姿を消していたレオがこちらに駆け寄ってきた。
「レオさん」
「やりましたね!」
「えぇ。レオさんが協力してくれたおかげでどうにかホラーを倒すことが出来ました」
「この調子でこれからも頑張りましょう」
「はい!」
こうしてホラー、ローウィンを討伐した統夜はレオと共に帰路についたのだった。
ちょうどその頃、そんな統夜たちを見ていた男がいた。
「……あれがこの町の魔戒騎士か……」
男は統夜の羽織っている赤いコートに目が行った。
「……あの赤いコート……。ククク……そういうことか……。これは面白いことになりそうだな……」
男は何故か統夜のことを知っていた。
「もうすぐだ……。もうすぐ私の悲願は達成される……。だが、魔戒騎士の小僧には邪魔はさせんぞ……!」
男はとある計画のために統夜や魔戒騎士の存在は邪魔であった。
「後はあそこにある魔獣の牙さえ手に入れることが出来れば……。私の悲願を達成させることが出来る……。この町を……グォルブ復活の生贄にしてやる……!フハハハハハ!!」
高笑いをあげながら男はその場から姿を消した。
男の語るグォルブとは一体どのような存在なのか?
統夜たちがその存在を知るのはもう少し先の話である。
そして、その存在を知った時、統夜にとって壮絶な戦いが繰り広げられる事をこの時の統夜はまだ知る由もなかった……。
……続く。
__次回予告__
『ロックンローラーというのはなかなか興味深いな。魂の叫びを歌に乗せるか……。俺様はこういう熱い歌っていうのは嫌いじゃないぜ!次回、「響音」。響かせろ!己の音楽を!』
統夜は実はバイクに乗れるという事実が判明しました!
ホラーがレーサーとのことで統夜はバイクに乗れるという設定にさせてもらいました。
そしてレースの途中でコースを変えるとか昭和ライダーっぽい展開になりました(笑)
今回のホラー、ローウィンは今作の中ではかなり強い部類のホラーになっています。
一度は負けた統夜ですが、白皇の力で無事倒すことが出来ました!
そして現れた謎の男。この男はこれからどう統夜と絡んでいくのか?
そしてグォルブとは一体……?それはこれから明らかになっていきます。
次回はロックということで普段よりけいおんの要素が出てくると思います。
それでは次回をお楽しみに!